- -pv
スレッドの閲覧状況:
現在、- がスレを見ています。
これまでに合計 - 表示されました。
※PC・スマホの表示回数をカウントしてます。
※24時間表示がないスレのPVはリセットされます。

【羽生蛇村】SIRENの世界で…【ロールスレ】

※ID非表示スレ
1名無しさん@おーぷん:2017/08/06(日)09:56:29 ID:???

 ――――絶望のサイレンが鳴り響く……



《2017年、オカルト系の掲示板にある書き込みが投稿された》

 皆さんは、2003年の土石流災害を覚えているだろうか?
 そこで多くの人命を奪い一つの村が消えたことも。
 これからここに書くのは、その消えた村に関することだ。

 三方を山に囲まれた関東の某所に存在した集落・羽生蛇村。
 数々の天変地異に見回れた歴史を持つ閉鎖的なこの村では、独自の文化・信仰が育まれていたという。
 そうした場所の話を外の人間が耳にすれば、各々に様々な想像を膨らませるに違いない。

 ……実は財宝が隠されている、未確認生物が生息している、さらに村人たちは怪しげな土着信仰を信奉し神に生贄を差し出す秘祭を行っていたと。
 実際羽生蛇村はそうした噂がされていたが、それも噂に過ぎない。あれから14年後の現在、真相は確かめるすべもないのだ。
 
 しかし私は羽生蛇村の生存者という人物に接触した。

 あの日の数少ない生存者の一人であったその人物は、あの村で起こったという悍ましい真実を私に語ってくれた。
 精神に異常をきたして妄想にとりつかれてしまった人物の語る言葉ではあった為、内容は俄には信じがたく実際にあったかどうなのか定かではない。


 それでも伝えられるというのなら伝えたい。特に理由はないが、伝えなければならない、そんな気がしたのだ。
11有沢 玲◆uTtdYomZuE :2017/08/14(月)19:56:35 ID:???
【上粗戸/民家】


 男は民家の中へと入っていったことが玲にもわかり、この間に正面門まで戻れば此処から脱出できるのではという一抹の希望(光)が彼にさした。
 此処は勇気を振り絞り外へと出よう、そう鞭打って縁の下から這い出た玲は、目的の場所へと駆けだしていく。
 もうすぐで、あの凶人から離れられる、解放されるという喜びが彼を走らせていたのだが――――。

「おい……」

 戻ってみればそこには、玄関から再び出て来た男の姿があった。これでは正面門から出ることなど不可能であり、強行突破したとしても大人には簡単に追い付かれることは目に見えている。
 何か別の策を講じなければ脱出できないのだ。

「どうすればいいんだ……嗚呼、落ち着け、絶対方法はある。とにかくアイツをそこから退かせればいいだけの話だ。ゲームでやってたみたいな……あっ」
 色々と思考を巡らせたとき、彼はふと自分が友達と遊んでいたステルスゲームのことを思い出す。そして浮かんだ閃き。
「陽動させよう。ゲームでは爆弾だったけど、目覚まし時計やタイマーだったら時間差で音が鳴らせるはず……!」
 そうして踵を返した玲は、先程男が破壊した雨戸の場所へと向かっていった。民家に侵入し、使えそうなものを拝借しようと考えたのだ。
12有沢 玲◆uTtdYomZuE :2017/08/16(水)10:19:19 ID:???
【上粗戸/民家】


 民家の中に入ると、そこは幾つかの部屋に面した廊下であった。突き当たりには居間があり、唯一灯りの灯ったその部屋からは微かに雑音が響く。テレビかラジオが付けっぱなしのようだ。
 玲はそちらに行く勇気がなかなかもてなかったが、何せそこを曲がって進んだ先には玄関があり、そこには惨殺された遺体と殺人鬼の男が付近にいるのだから当然といえよう。

 しかしキッチンタイマーがあるであろう台所は居間に隣接しており、少なくとも近くへいかなければならない。寝室のある二階へと続く階段は玄関付近であり論外だ。
「い……行くしかないんだよな…………」
 顔に不安の色を浮かべつつ、玲は音を立てないようにそっと台所へと進入していく。隣の居間からは相変わらず雑音が響いており、その音が味方してある程度目立った音をたてずに済んだようだ。

「良かった、あった……」
 台所の中を見回すと冷蔵庫に磁石でくっついたそれが目に入り、彼は無事にキッチンタイマーの入手に成功した。
 束の間の安堵。だがこれで終わったわけではない。入手したタイマーで男を誘導し、その隙に逃げなければならないという目的が残っている。

 玲は早速行動に移すべく、台所を後にした。
13有沢 玲◆uTtdYomZuE :2017/08/24(木)08:45:34 ID:???
【上粗戸/民家】
【小目標:村人を誘導する】

 キッチンタイマーを入手した玲は、早速行動を開始した。
 正面門に近い崖の付近に一分後に鳴るようセットしたそれを設置し、彼は庭においてあるドラム缶の影に身を潜める。

 彼が何故敢えてそのような場所に設置したのか――――それには理由があった。村人を崖付近に誘導し、背後からそれを突き落とそうと考えたのだ。
 まともとはいえない考えだと玲も心の何処かで思っていたが、男に対する無性な怒りや恐怖、やられる前にやらなければ自分が危ないという感情や認識がその様な倫理観を麻痺させていたのだ。

「……来る」

 間もなくしてタイマーが高らかに雨の降るだけの静寂の中で鳴り響いた。覚悟を決めた少年の手は嫌な汗で濡れ始める。
 そうして人影が件の場所までやってきたとき、玲は工事用スコップを握り締め飛び出し、殺人鬼の男の背中へと狂ったように大声をあげながら迫った。

「ぐぁぁああああああああ!!」

 スコップから伝わる確かな手応えと鈍い音。思い切り殴られた男が玲の目の前から不意に姿を消す。正確には崖下へと落下したようなのだ。

「……どうなったんだ……?」

 小さく呟き、彼は気掛かりに思って崖下を覗く。見ないほうが良かったかもしれない。玲はその光景に絶句し、悲鳴をあげながらこの場を走りった。


【終了条件達成】
14里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/09/09(土)23:59:27 ID:???
【1日目/0時23分37秒】
【眞魚川/岸辺】

 いきなりの迷惑な警報音に巨大地震、更に雨。里村は如何にも疲れ切った表情で、次はいったいどんな災厄が待っているのだろうかと流石に腹をくくり始めていた。

「もう、何も驚かないわよ……!」

 やや怒りを含んだ口調は、その鬱憤をはらせない故のものだろうか、この羽生蛇に流れる川の岸辺を里村は早足、尚且つ大股で進んでいく。
 だが前方を照らしていた懐中電灯の灯りが川面を照らしたとき、情け無い悲鳴が短く口から飛び出した。

「ぇ……嘘嘘? 今の……絶対血だよね? 凄い赤かったんだけど…………」
 先ほどまで何も驚かないと意気込んでいたのも虚しく、彼女は早速困惑していた。それでしばらく脳内整理をしていると、あれは地震の影響で赤い土か何かが川に流れ出しただけなのだと自分に納得させ、取り敢えず落ち着くことに成功する。

「嗚呼……早くどこかに泊めてもらってシャワーでも浴びたいよ」
 再びいつもの調子に戻った麗子。けれど、更なる非現実が待ち受けていることを、彼女は嫌でも受け止めなければならない状況に追い詰められることとなるだろう。
15里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/09/10(日)20:15:22 ID:???
【大字粗戸/眞魚川岸辺】

「民宿は上粗戸にもあったのね……?」

 羽生蛇の地図を眺めながら、里村は民宿があるという上粗戸という地名を口にする。
 そこは最初に儀式を目撃した眞魚岩のある場所も含み、尚且つ中央交差点を中心にコンビニエンスストアや店などが集まる比較的賑やかなところであり、村の中心部ともいえる場所だ。
 異変が起きる前は国道沿いの幾つかの民宿に空き室がないか確認するも、その全てから宿泊拒否され野宿まで試みた。だが、まだ民宿があるとなれば(流石に雨の中寝るのは避けたかったため)探さないわけにはいかない。

 石段をあがり、里村はしばらくもしないうちに商店などが集まるエリアまで到達した。そのとき、この場所が地図と違うことにおかしいなと首を傾げる。地形は此処で間違いないが、明らかに立地が合致しないのだ。
 合致どころではない。地図に示されている商店名と、実際にそこにある店が違うだけでなく、建物の大きさや敷地面積も異なるではないか。

「ぅうん……妙ね。ここにこんな店は無いはずだし、この地図本当に合ってるの? あれ、人が」

 思いも寄らない事態に困った表情で不安をこぼす里村であったが、向こうの方から懐中電灯の灯りと思しき白く円い光がぼんやりと映った。村人かもしれない。里村は、此処は地元の人間に訊くべきだとその光の方へと早速向かっていった。
 こんな夜中に徘徊している理由を普段ならば考えただろうが、今の里村にはその様なことなどどうでもよいこと。民宿の場所を知ることが最重要課題であった。

「すみませーん!」


【終了条件:「刈割方面」への脱出】 
16里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/09/11(月)20:54:40 ID:???
【大字粗戸】

 懐中電灯を持つ人物に駆け寄ろうとする里村。だが一瞬、大きく心臓が脈打つような感覚に襲われたかと思えば、同時に悪寒が身体を巡った。
 思わず駆け出した足も凍り付いたように動きをとめる。

「何なの……この感覚」

 自分の異変を妙だと思うも、本能が何故か警鐘を鳴らしている。紛れもなく、目の前にいる人影に対してであった。
 何故なのか分からなかったが、その理由を知るのにそう時間は掛からなかった。暗闇に浮かぶ黒い輪郭は、里村の握る懐中電灯の光によってその色彩を顕わにしその信じがたい正体を彼女に強く焼き付けたことだろう。

「な……な、なに……何なの……っ!?」
「ぇ……いっ……!」

 言葉はおろか声さえもまともに出てこない。身体中が緊張し震えて動くことが出来ない。
 だが里村はその人影が握る凶器を視界の隅に捉えたとき、これは逃げなければ何をされるか分からないという現実に気付かされ、ようやくそのかたまった身体が動き出す。
 その瞬間、里村は脱兎のごとく逃げ出し、懐中電灯を消して食堂裏へと駆け込んだ。
17里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/09/16(土)21:34:21 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

「もう何……何なのよあれ……!」

 あまりにも信じられない光景が目に焼き付いて、里村はパニックを起こしていた。それもそのはずだ。彼女が先程見た村人は明らかに――――

「悪戯にしても趣味が悪過ぎよ……。どれだけ余所者に対して排他的なの。冗談じゃないわ」

 灰色、或いは紫に変色した皮膚、そして口や目などから流れ出ているものは血のように赤かった。ギョロギョロ動く目も正気のものとは思えず、笑顔は貼り付いたような不自然さを醸し出す。
 そう、それはまるで……

「死人みたいじゃない……」

 たとえあの村人が人間であったとしても、まともな人間ではないことは明白だ。それに深夜に刃物を持ち歩き徘徊しているなど、正気の沙汰ではない。明らかに異常者なのだ。

 怒りと恐怖が混ざり合うも、里村はよくわからない事態に困惑し唇を震わせている。きっと本人も薄々は気付いていたのだろう。此処が異常だということを。謎の儀式、赤い水に頭を割るような警報音、そして得体の知れない村人。
 こうなることが分かっていたならば早く帰ってしまえば良かったのだと、一人後悔した。
18里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/03(火)18:47:44 ID:???
【大字粗戸/食堂】

 だが、彼女には後悔している暇さえなかった。先程の異常者かは定かではないが、足音がこちらに近付いてくるのが聞こえてきたのだ。

「マズい……」

 とにかくどこかに身を潜めなければ危険。そう判断し、すぐそこの食堂の勝手口を開くと、そっと閉じてうち鍵を締める。
 鍵が開いていたことは幸運としかいいようがないが、この状況で思い上がれるわけもなく、里村は足音の主が過ぎ去っていくのをただ待つことになった。

「…………」

 息を殺し扉に耳を当てながら、件の足音が遠ざかっていくのを確認するなり小さくため息をつく。
 だが油断は出来ず、しばらくはこの中でじっとしていようと壁を背もたれにしてその場に座り込んだ。それと同時に暗い室内を持っていた懐中電灯の灯りが照らし出す。
 ぼんやりと浮かび上がった台所。古くはあるものの自分ちのアパートのキッチンよりも各段に整理されているそれを見て、里村は苦笑いを浮かべた。

「嗚呼……早く帰って片付けなきゃな…………」

 ボソッと呟く彼女の瞳は、つい最近までの日常に対する羨望を宿しているように見えたことだろう。
19Ciel Virgile :2017/10/24(火)17:51:59 ID:???
【前日/21時45分44秒】
【蛇ノ首谷/折臥ノ森】

蒼穹を閉じ込めたガラス玉のように輝く青い瞳で、目の前の風景を見下ろす一人の異国の少女…否、少年。
彼はフランスではそこそこ有名なジェンダーレスファッションモデルである。その名は、シエル・ヴィルジール。
ファッション雑誌の見開きページに使われる写真撮影のため、彼の念願であった日本での撮影ということで、
この場所が選ばれたわけだが…彼はこの後、様々な怪奇に襲われることになるとは、誰も知らなかった…


――――――――――――――



ふと目を離した隙にいなくなってしまったマネージャー…撮影前に聞きたいことがあったのだが…
できれば、最高の一枚にしたくて。夢にまで見ていた日本の地で、自分の写真撮影ができるのだから。
今のうちに話しておかなきゃ。ここで最高の、自分が一番納得いく写りに、そして出来栄えにする打ち合わせだ。
そう思った彼は、自分が方向音痴だということに未だ無自覚のまま登山道を離れて、
獣道の続く森の中へと足を踏み入れる。

「……Où suis-je?(ここはどこ?)」

おかしい。なぜ俺は森の中にいるんだろう?それに、やけに日が暮れるのが早い気がする。
日本は確か夏…まだ日が照っている時間帯のはず…木が茂りすぎているだけなのだろうか?
そう思って携帯電話で時計を確認すると…もう、21時をとうに過ぎていた。
最悪だ。仲間とはぐれた上に俺は行方不明状態になってこのまま森の中に迷い込んで、そして日が暮れてしまったらしい。
怖い。はやく、みんなのところに帰りたい。俺に、野宿などできる勇気なんかない。

「Je veux rentrer à la maison ...(家に帰りたい...)」

不安をかき消すように、小さく呟く。自分の心が折れないように、何度も、何度も。
だけど、体力のないこの体で、自然そのものである森を歩き続けるのは限界があった。
息が切れてきた…足がだるくてたまらない。もうダメだ…一旦休もう。
そう思うと同時に、うっすらと視界が開ける。川が…見える。ようやく、森を抜けられそうだ。
だけど、とにかく今は休みたい。休んで、早く元の場所に戻らないと…
土や泥で服や肌が汚れるのは嫌だけど、背に腹は代えられない。
そう思った時に、視界に入り込んだ草むらの一部が枯れており、薄く積まれた干し草のようになっていた。
まるで罠でもあるのかと言う程の偶然だったが、泥に汚れたくなかった俺は、その枯草の上に腰を下ろした。
………眠い。寝たらいけないと分かっているのに…とても眠い。

そして、俺は気づかぬうちに枯れ草の上で体を横たえ、浅い眠りの中に落ちていった。
20Ciel Virgile :2017/10/24(火)18:10:41 ID:???
【眞魚川/岸辺】

夢を見ていた。幼い頃の…淡い思い出の夢。川辺で、家族全員でのバーベキュー…
そう、俺がたしか、8歳の時の…嗚呼、懐かしいなぁ…もう少しだけ、この余韻に浸りたい…
そう思った時、俺は夢から非情な現実に引き戻された。

 ――――――《ぅうぉおおおおおおおおおおおおん》

凄まじい地響き、けたたましい警報音。耳を劈き、体を揺さぶるそれに俺は目覚めた。

「Noisy! Mon oreille fait mal!(うるさい!耳が痛い!)」

両手で耳を塞ぎ、地震と周波数、両方の振動に耐えながら不安をかき消そうと、俺は叫んだ。
それが過ぎ去るまでの間、気が狂いそうで。最後はもう、言葉なんて出なかった。
一瞬だったのかもしれない。だけど、それはとても長く感じた。
くらくらする。頭も痛い。なんだったのだろう。あの地面の揺れと恐ろしいまでの警報音は…近くに、村でもあるのだろうか?
そして、ふと冷たい何かが…俺の体を濡らし始めた。

「Pluie ...?(雨…?)」

雨だ。雨が降り始めた。どこか、雨宿りできる場所はないのか。
ただでさえ体がの弱い俺が、こんな場所で雨に打たれたら風邪をひく。いや、風邪程度ならまだいい方だろう。
とにかく、雨風を凌げる場所を…そう思い、枯れ草の上から飛び起きて、川辺に向かう。
この川に沿って行けば、警報音が鳴るということは近くに村か何かがあるはずだ。
俺は川沿いから、村を目指して歩いた。もう、雨だの土だの気にしてられない。生き延びなきゃ…
21里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/24(火)18:19:42 ID:???
【大字粗戸/食堂】

 その時、隙間から一陣の風が吹いて一枚の紙が、床に座り込み朦朧とする里村の視界へと入るなりそのまま彼女の顔面に覆い被さった。
 突然視界を奪われ、埃とインクの臭いが鼻をさす。

「なっ……!?」

 なるべく声を出さぬように努めつつも、突然のことで慌ててその紙を取り払うが、それがただの新聞紙であると気付き、溜め息で安堵を示す。
 そしてその新聞紙を睨み付けて「もう何なのよ……」と文句を零して腹癒せのために部屋の隅へと放り投げようとした矢先、新聞紙を丸めようと握る手が思わず止まった。

「これ……」
 唖然とする里村の視線の先には、古い日付。それもかなり古いものであった。
「1976年8月1日……。にしては紙も古くないし傷みもない。湿気がある割に保存状態がよすぎよ。偽物にしては凝った作りだし」
 その日付に見覚えがあるも、ぼんやりとして思い出せないまま古い日付の新聞紙に目を通す。そうして何と無しにそれを鞄の中にしまえば、そっと勝手口のドアを開き外の様子を確認した。

「よし」

 誰もいないことを確認した里村は、意を決して再び表へと出た。雨は未だに降っていたが、あの“異常者”が徘徊する場所に長居をすることは堪えられなかったのだ。
22Ciel Virgile :2017/10/24(火)18:22:28 ID:???
【大字粗戸/眞魚川岸辺】

真っ暗な川辺を、俺は進む。ずっと歩き続けて、また息が切れてくる。
そして、眼前に建造物が見え始める。嗚呼…やっとたどり着いた…

「Village ... Il y avait un village ...!(村だ…村があった!)」

俺はもう痺れすら感じるほどの疲労の残る足を引きずり、村へと走り込んだ。
だけど……おかしい。何かがおかしい。人の気配を感じない。感じないのに…妙に生活感がある…
廃村なのか?わからない。とにかく、人を探そう…。自分で言うのもなんだが、日本語には自信がある。
分からない漢字や言葉はあるけど。日常会話くらいなら…そう思って、俺は村人を探した。

この後に、自分が恐ろしいものに巻き込まれて行くなど、考えもしなかった。…助かると思っていたのに…


【終了条件:羽生田村にたどり着く】
23Ciel Virgile :2017/10/24(火)18:55:56 ID:???
【1日目/0時36分21秒】
【大字粗戸】

彼はへとへとになりながら、やっと村にたどり着いた。しかし、その村は異様な雰囲気で、不気味だった。
暗い、暗い異質な村の郊外を歩き続け、ふと頭を上げると、もうそこは市街地だった。
なのに…なぜこんなにも静かで、不気味で、人の気配がしない…否、異質な気配が漂うのだろう。
怖くて怖くて仕方ない。だれか、この村にまともな人間はいないのだろうか?
普段は考えつかないような思考が頭の中をぐるぐる回る。この村にまともな人がいないと思う根拠などないのに…
そして、揺れる白い光が視界に入る。懐中電灯だ。街灯もある。人影が見える。村人が、村人がそこにいる!
だけど…駆け寄ることができない。なぜか怖くてたまらないのだ。彼は、物陰に隠れて人影の様子を窺った。
そして、街灯の光がその人影を照らしたとき、彼の精神は一気に極限状態直前までに持っていかれる。

「eek…」

思わず大声で悲鳴を発するところだった。彼は慌てて両手で口をふさぐ。
何なんだあれは…緑色の肌に…血の涙……口からも血を流していて…
貼り付いたような不気味な笑顔……悪魔…まるで…まるで悪魔のような…異質の存在。
今にも叫びそうな悲鳴を噛み殺して、彼は震える足でそっとそっと音を極力立てずにその場から離れる。
どこか、建物の中か物陰に隠れないと……街灯だけが頼りの恐ろしいこの村の中を、彼は限界を超えて走る。
この村にいるかもわからない、“人間”を探し求めて…

【終了条件達成】
24里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/24(火)20:44:56 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】
【小目標:「シエル・ヴィルジール」との合流】

 様々なことが立て続けに起こり、深く考える余裕さえ無かった彼女に少しのゆとりというものが生まれたとき“あること”に気づく。
 彼女が困難を乗り越え此処まで来た途中、何度か自分のものではない視界が流れ込んでくるという謎の現象を思い出したのだ。あれは突然出来たこともあったが、それは例外として、目を閉じて意識を集中させたときに成功している。

「あれ使えないかな……。確かこう――――――」

 異常者の位置を把握し遭遇しないため、考えてみれば大いに役立つ力では無かろうか。俄には信じられない現象とはいえ、この緊急事態においては藁にもすがる思いだ。
 使えるかもしれないというなら、使わない手立てはない。そうして里村は目をつぶり、感覚を周囲に広げ始めた。

「ぅ……」

 途端、雑音や映像にならない画面が幾つか入り込む。成功してもそれを喜ぶ暇などは無く、すぐさま視界を探り始めた。
 彼女はまるで電波を拾おうとするラジオのように視界を探していると、息遣いと上下左右に揺れる視界を捉えた。その様子から察するに視界の主は走っているようだが――――。

「逃げてる?」

 他者の視界を覗く能力―仮にも“視界ジャック”としておこう。その能力をある程度使いこなせるようになったことで、里村の表情には大分不安が抜けたようにも見え、落ち着きが垣間見られる。
 そして件の視界が、逃げている様子から所謂“まともな人間” ではないかという期待が生まれてきた。
25Ciel Virgile :2017/10/24(火)23:04:28 ID:???
【大字粗戸/食堂前】
【小目標:「里村 麗子」との合流】

走る。ひたすら走る。もう、足の感覚などない。それでも彼は走った。
底無しに湧き出てくる恐怖と、不安の渦と、あの異様な姿の村人から―少しでも遠ざかろうと。
既に息は切れ、肺の中にしっかり空気が入っているのかすらわからない。
ただ、一刻も早くこの恐ろしい場所から抜け出したい。その思いだけが彼を突き動かしていた。
そして、一瞬何かが自分の視覚野に入り込んでくるような…
視神経が別の何かの視神経と重なったような…形容しがたい妙な感覚が、彼を襲う。

――「Que diable est-ce?(これはいったい何?)」

一瞬だった。何が起こったのか、あれが何だったのかは全く理解できない。
そして、走り続ける常闇の村の異様な気配が、一番遠ざかった気がする。
二つの事柄が筋したのだろう。極限状態で限界を迎えた彼の体を突き動かしていた衝動から気が逸らされ、
彼は既にあちこちが限界を迎えた虚弱な身体の悲鳴を一気に受けることになった。

「―――っ!?――ヵッ……ァ…!」

呼吸ができない。気管が締め付けられるように、苦しい。己の周囲に喘鳴が響く。間違いない、発作だ。
同時に感覚を失った足がもつれ、白い柔肌に包まれたしなやかで、
それでいて触れれば壊れてしまいそうな華奢な体が雨が冷たく濡らす地面に叩きつけられた。
苦しい。息ができない。足もちぎれそうだ。だけど、一刻も早くどこかに隠れなければ…

「ゼェ――…ゼェ――…」

体中に酸素が行き届かない状態のまま、彼は鉛のように重く感じる身体を必死に起こし、
出生間もない小鹿の様に震える足で立ち上がり、何とか肩で息をしながら
視界に移りこんだ食堂の建物へとその体を引きずった。扉を開けて中に飛び込みたかった。
しかし、気弱な彼は最悪の事態の予想をした。扉を開ければ、そこにはあの異形の悪魔たちが…
晩餐でもしているのではないかと。そして、こちらに襲い掛かってくるのではないかと。
恐怖に支配され、自分が背負うカバンの中に薬があることも忘れた彼は、
珊瑚色の唇を薄っすらと紫色に染めてふらつきながら、壁に取り付けられた室外機の影に向かい―
室外機と壁の作る僅かな死角にか細い体を潜めると、少しでも肺の中に酸素を取り入れようと
上半身を起こし、胸郭を広げるように反らせて酷い喘鳴の鳴り響く呼吸を繰り返す。
26里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/24(火)23:49:06 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

 ジャックした視界からは、その人物の感覚こそ連動しないものの、その聴覚と視覚でどんな状態でどんな人間かある程度察しはつくものである。
 里村はその人物が、あるものから逃げており、しかもかなり衰弱していることが把握できた。何やら言葉も発しているようだが、聞き慣れない異国の言葉で彼女には理解することどころか言葉であるという認識さえ出来ていない。
 それでも、まともな人間、ということ自体に価値がある以上、その様なことはさほど問題とならなかった。彼女からしてみれば心の支えとしか言いようがないのだから。

「あれ? 此処ってもしや!」

 その視界の主の見る景色はよく知っている。横開きの扉に看板、自分がいるまさに反対側、食堂前だ。つまりその人はすぐ傍まで来ているということである。

「あそこにいさせるのはリスキー極まりないわ」

 向こうは辛そうな様子ではあるが、食堂前は一帯を徘徊する異常者がいる以上危険地帯。此処は食堂裏へと引っ張っていく必要があるだろう。
 里村は食堂裏から正面へと向かい、その人物を視界にとめた。その人物の姿を懐中電灯で照らすと刹那驚いたが、それも無理はない。その中性的で美しい容姿を見れば誰でも同じ反応を示しただろう。
 とはいえ、その美しさに見とれている場合でもなく、彼女は早くこっちへ来るように促した。
27Ciel Virgile :2017/10/25(水)17:21:26 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

「ヒュ――――…ヒュ――――…」

殆ど空気を取り込めない呼吸をするたびに己の器官から大きな喘鳴が響く。このままじゃ見つかる…
しかし、もう酸欠で意識が朦朧としてなんとかして少しでも酸素を吸うことが精一杯だ。
動けない…早く、薬を使わないと…でも、手が震えて背負ったカバンを降ろすこともできない。
自分は、ここで死ぬのだろうか?そう思った時、不意に目の前が眩しくなった。

――悪魔に見つかった…殺される…!!

そう思って恐怖に目を見開けば…光の先にいたのはあの化け物ではなかった。人間…まぎれもない人間…
見た目からして間違いなく日本人だ。だけど、そんなことはどうでもよかった。安心で、涙が溢れた。
何やら彼の姿を見て一瞬驚いた様子だったが、こっちに来るよう促している。

「ゼェ――…ゼェ――…ヒュ――――…」

呼吸困難で意識が途切れそうになる中、力の入らない手足を気合で動かし、室外機の影から立ち上がり、
壁を支えに伝い歩き、何とか食堂裏までたどり着き、女性の目の前に来たところでその場に崩れ落ちる。

「ah...inhalateur...(吸入器…)...unn...medicine...」

体を支えることで手一杯だ。この人に、背負っているリュックサックから薬…吸入器を出してもらわないと…
彼はそう思い、薬をリュックの中から取り出してもらおうと口を開き…そしてやっと少しだけ落ち着いたことで
言葉の壁に気付く。フランス語は恐らく、いや、絶対通じないだろう…なら、少ししかできない英語なら…
混乱の治まらぬ頭を回転させながら英語で薬と呟きかけて、彼はやっと思い出す。独学で学んだ日本語をしゃべれるではないかと。

「……俺の…リュックから……薬を…吸入器を…探して…俺に……!…お願い……!……息苦しい……動けない……」

ゼィゼィと大きな喘鳴を伴った振るえ、掠れた声変わりのしていない中性的な声で、
どこからどう見ても日本人ではない彼が、目の前の日本人女性に対して流暢な日本語で
自分の背負うカバン…リュックサックから喘息の治療薬である吸入器を探して渡してくれと彼は頼む。
このままでは動くことはおろか、意識がなくなってしまうそうだ。
28里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/25(水)20:39:13 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】
【小目標:バス停へと向かう】

 明らか苦しげな相手を目の前にしつつ、それでも携帯で救急車を呼んでも電波の問題で繋がらないもどかしさでうなり声をあげる。

「うう……圏外じゃない。電話を探さなきゃ無理ね」

 そうこうしているうちに、その人物が食堂裏まで必死にたどり着くやいなや、里村は携帯から目をあげその場に崩れ落ちる彼の姿を見やった。
 美しいが、その美しさはまるで太陽の光の如き輝きではなく、夜空に浮かぶ月の柔らかな白光のように、或いは今にも風に吹かれて散っていく寸前の桜の花弁の如き儚さを匂わせる。
 その非現実的で幻想的とも言える青年を、本当に人間なのだろうかという不思議な感覚を抱きつつ、確かに温もりを帯びた肉体の感触を彼の肩に置かれた手のひらは覚えた。

「え? ……なに?」

 何かを言っていることは聞こえるのだが、その意味がわからない里村には困惑を与えるだけであったのか、表情は険しいものに変わっていく。辛うじて意味の分かる“medicine”という単語で流石に状況を察するまでは――――――。

「薬? ど、どこにあるわけっ!?」

 彼は持病か何かを持っており、そのための薬が欲しいといったところだろう。すると日本語など喋れないのではないかと思われる相手の口から、意外にも流暢な日本語が出て来たかと思えば、里村の問いに応えるかのように薬の場所を示した。
 驚きよりも相手が日本語を喋れるという安心感で、里村は頷き言われたとおりに薬をリュックから探り出せば、苦しみで動けない相手の代わりに“吸入器”を手渡す。使い方がよくわからない彼女には、そうすることが精一杯であったのだ。

「これで良かった?」
29Ciel Virgile :2017/10/25(水)22:13:04 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

『薬? ど、どこにあるわけっ!?』

伝わった。咄嗟に出た英単語で自分の状態を察してもらえた。途切れ途切れの日本語も無事伝わり、
背中越しに、リュックの中を漁る感覚がする。その間、視界が霞まないように必死に意識を保つ。

『これで良かった?』

手渡されるのは間違いなく必需品の吸入器。よかった…これで発作が治まる。
彼は女性の言葉に頷き、やっと引きつった口角を薄っすらと上げて感謝の意を伝えると
吸入器の蓋を外し、噴霧ノズルを銜えて薬剤を一気に吸い込む。
今までの経験から、あのくらいの喘鳴だったら1~3分もすればこの呼吸困難は治まる。

「はぁ…はぁ………ありがとう……3分も経てば…動けるから……呼吸の音…治まるまで待って……まだ…苦しい……」

絶対になくせない吸入器を握りしめ、彼は少しずつ肺に通る空気が多くなるのを感じつつ、
数分間、ゼェゼェと雑音交じりの呼吸を繰り返していたが、次第に音は小さくなり、
聞こえなくなると同時に脂汗の浮いていた血の気をなくした肌に再び血色が戻っていく。
そして、彼はようやくいつも通り(日本人からのインタビュー等)の流暢な日本語を話す。

「おかげで助かりました…ほんとに、ありがとうございます。よかった…まともな人間がいた……。
村の人、みんな、あのカイブツかと思って…とても…J'avais peur ...!(私は怖かった…!)…恐ろしかった…」

まだ安心はしきれない危険な状況であることに変わりはない。村人がアレならば、いつどこから襲ってくるかわからない。
しかし、まともな“人間”が傍にいると言うだけで体の弱い、気弱な彼にとっては大きな安堵感を得るのだろう。
あの恐ろしい姿の村人を見て恐ろしかったことを大粒の涙を流してフランス語交じりに語り、流暢な日本語で改めて感謝の意を伝える。

「ah...自己…ショウカイ……でしたっけ?俺、“シエル・ヴィルジール”です。
フランス人です。モデル、やってます。日本の盆地でサツエイ…だったのですが、森に迷い込んで…日、暮れて、この村に…」

なんでこんなところにフランス人がいるのだろう…と問う時間を減らすためにも、相手との意思疎通がしやすいよう、
彼は名前を名乗って自分がここにたどり着いた経歴を軽く話し、深呼吸するとようやく立ち上がる。
疲労はかなり残っているが、まだ倒れるほどじゃない。うまく身を隠して休憩を挟めば十分動ける。
30里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/25(水)22:53:53 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

 吸入器を手渡された青年は、命からがらとも言うべきか、急いで肺の中へと霧状になった薬剤を噴射した。発作が収まり落ち着きを取り戻せたのはそれから数分経ってからのことである。
 だが病人が目の前にいるというのに里村は涙を流す彼にそれほどの同情を見せていない素振りであった。それもそのはずで、彼の言う“カイブツ”が今でも付近を徘徊している可能性があったからに他ならない。里村の方もゆとりが無かったのだ。
 とはいえ、そういう里村もまともな人間の登場で幾らか救われている部分もあるにはあった。彼のおかげである程度理性的で居られる。そう感じて里村も彼からの感謝に「お互い様だわ」と短く伝えた。

「――――シエルくんね……道理でかなりの別嬪さんだと思ったわ。モデルをしているのね? 私は里村麗子。漫画家よ」

 なるほど、喋っていた言葉はフランス語であったかと一人納得しながら、里村は自己紹介をする彼に対して自分も簡単な自己紹介で返す。

「それにしても難儀だったわね。私も君も。怪物って……ハロウィンでもないのに、リアルなゾンビのコスプレに刃物持ってる異常者のことでしょう? 私もさっきソイツから逃げてきたところなの。まだ近くにいるかも……」

 自分もシエルも巻き込まれてしまった事実を知り、お互い災難であったと同情を向け始める。
 けれどそれで絶望し嘆くような女では彼女は無かったため、「とにかく此処から離れるのが先決。行きましょう」と穏やかだが力強い声で促した。
31Ciel Virgile :2017/10/25(水)23:46:06 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

安堵感はあっても、やはりこの大きな不安と恐怖は拭えなかった。涙こそ流れはしなくなったものの、
その青いガラス玉のような瞳は恐怖による涙で依然と潤んだままである。また、華奢な体も少し震えている。

「はい、ファッションモデル、です。サトムラ…レイコ…さん…ですね?ん、覚えました。」

流石にペラペラと喋れるわけでもなく、ところどころつっかえてたどたどしいが
しっかりとした日本語で返事をし、相手の名前を復唱してすぐに覚える。
漫画家についてはいつもなら目を輝かせて年相応にはしゃぐのだが、
この状態ではそんな余裕はどこにもなく、ただ頷くだけであった。
話を聞けば、麗子もまた、あの恐ろしいゾンビのような悪魔のような怪物から逃げてきたところだと言う。
だが、相違点が一つ。麗子の見た化け物は刃物を持っていたと。
彼が見たあの異常な姿の村人は…刃物ではなく、金槌を握りしめていたのをはっきりと覚えている。

「俺が見たカイブツ…刃物じゃなかった……カナヅチ…持ってた…」

白い肌に包まれた顔が青ざめる。そう、このことから彼はあの恐ろしい化け物が
一体ではないということを知ったのだ。麗子の言っていた刃物の奴だけじゃない。
自分の見た金槌を持った奴だけじゃない…まだ、この村に沢山いるんだ…
そう思った瞬間、かすかだった体の震えが少し強まった。早く、家に帰りたい。
恐怖でつぶれそうな彼を、次の麗子の言葉が支えて奮い立たせる。

『とにかく此処から離れるのが先決。行きましょう』

その言葉が耳に届いた時、彼の体の震えは止まり、恐怖に染まった瞳は
一刻も早くここから脱出するんだ。と言う決意が現れる。

「d'accord(OK).早く、ここから離れましょう…」

そう言い、その細く折れてしまいそうな体軸を生かし、物陰に潜んだままで
この場所から見れるだけの個所を見渡す。しかし、出ていいタイミングが分からない。

「そういえば…あの誰かが俺の目を乗っ取ったようなあの感覚…なんなんだろう…」

彼は所謂“視界ジャック”なるものを知らない。自分が使えるようになっているかもわからない。
32里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/26(木)19:26:14 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

 異常者から逃走してきた青年の証言に耳を傾ける里村であったが、相手が青ざめると同時に自身の血の気も退いていくのが分かった。

「もう勘弁してよ。この村どれだけ余所者への嫌がらせが半端ないわけ!? あんなのが複数いるなんて、しかも森の奥で変な儀式してたし」

 恐怖と同時に苛立ちを覚え、排他的なこの村の有り様にぶつぶつ毒を吐きながら、全員刑務所送りにしてやるんだからと圏外の携帯を睨み付ける。
 もしも通じていたら今すぐにでも連絡してやったんだからなという勢いであり、彼女に武器があれば寧ろ彼らの方が打ちのめされるのではと思えるほどであっただろう。
 尤も向こうは武器を持っていようと老人であり、筋トレで体力的にも上を行く里村には敵わないと言えよう。

「ん? 君もあの力使えるの?」

 まだ怒りが鎮火していない状態のまま足を運び始める里村に、視界ジャックの話をシエルから振られて一旦足を止め振り返った。
 この村に来てから使えるようになった、相手の視界を覗く特殊能力は自分だけでなく同行する彼も使えるようになっていたことには驚きを隠せない。彼の様子をみる限り、自分と同様気付かぬ間に獲得していたことが窺える。

「実は私もその能力が此処に来てから使えるようになっていて、君を発見できたのもこの力のおかげなんだよね」

 取り敢えずこっちを向いて目を閉じてみてと告げて、やり方を覚えたばかりのその能力を、青年にも教えようと試みた。「自分の姿が見えたら成功ね」と最後に付け足して。
33Ciel Virgile :2017/10/26(木)21:16:11 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

圏外の携帯を睨みつけながら毒を吐く麗子をその青い瞳に捉えつつ、彼は一つの言葉に反応した。

「ギシキ…rituel?(儀式?)変って…この村…土着信仰でも、あるのかな…?
日本の宗教、あまり知らないけど、たとえば、天理教…とか、俺の、知ってる土着信仰だとクロ教…とか?そんなのかな?」

日本が好きで独学で日本を学んだ彼は、少しだが日本の宗教についても調べていた。
まだ内容はほぼわからず、名前ばかり覚えていてそちらの知識は皆無であるが…
それに、相手が武器を持っている以上、こちらも丸腰ではかなり危険だ。なにか、武器になるものがあれば…
そう思っていると、あの誰かが自分の視覚を奪ったような感覚についての言葉に麗子が足を止めて振り返り、思わぬ返答が返ってきた。

『ん? 君もあの力使えるの?』

そう、麗子も同じ体験をしていることがこの返答から窺えた。
自分が見たのは…白く長い髪を振り乱して走る人影を視界の横に捉えた妙な映像…
あの長い髪の人物は…恐らく、いや、間違いなく自分だ。こんな純白に近いプラチナブロンドの髪の毛の
日本人なんて、コスプレ以外にはいないだろうし、なにせ服装が自分と同じだった…。

「……誰かの…俺が走り去る様子を、視界の横に入れた誰かの視界が一瞬…映画のノイズ、みたいに…見えた。」

そして、体験した一部始終を呟きながら、同じ力を使って自分を発見したという麗子の言葉に、
一体どういうことなのだろうとその青いガラス玉のような目を見開いて首を傾げる。
『取り敢えずこっちを向いて目を閉じてみて』その言葉の通りに彼は行動する。
集中してみる。なんとなくだが、目の前の麗子の目を借りるイメージで。

――――――

「――っ!?」

真っ暗だった瞼の裏にホワイトノイズが走った。驚きのあまり、目を開けそうになるもグッと堪え、集中する。
ノイズから不鮮明な映像に…目の前に人影が見える。ノイズが取れ、鮮明になったその映像は…
ギュッと目を閉じ、まだ少し息を切らして雨に濡れ、必死に教えられたことを実行する自分が見えた。

「...pas vraiment !(信じられない!)今の…俺……だった…俺が…見えた…」

『自分の姿が見えたら成功ね』と言う麗子の言葉通り、彼は自分の姿を眼瞼の裏に刻み込んでいた。
成功したということだ。あまりに非現実的な事象に、彼は両手で口元を覆って驚きを隠せずにいたが、すぐ現実に引き戻される。
数回瞬きして先程の光景を脳裏から振り払うと、先程の取り乱したような様子から一変して真剣な表情になる。

「移動の、途中…なにか武器、にできそうなもの…探しましょう。相手、武器持ってます。
En cas d'attaque...(攻撃された場合)…襲われたら、こっち、何もないと…危険…不利です。」

麗子は見たところ体力がありそうだが、彼に至っては一歩間違えば折れてしまいそうな体軸…
一応護身程度のサバットは使えるものの、威力は全く期待できない。せめて、杖(ステッキ)があれば…
麗子も何か射程距離のあるパイプか何かがあれば違うだろう。
そう思い、武器を探しつつ脱出に向けて行動した方が良いのではと提案する。
34里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/27(金)17:08:05 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

 視界ジャックに成功したらしき相手を見届けて、どうやら徘徊する異常者たちの視界も覗いたのだろう、武器を探した方がいいと真剣に訴えるシエル青年に同意の頷きを見せる。
 勿論、武器を探すことが主目的ではなく、此処から離れることが重要であるため、発見できたらラッキーという程度ではあったが、万が一のことも考えあるに越したことはない。

「ところで君、日本のことよく知ってるじゃない。そういえば、私が此処に来た理由、話していなかったわよね……」

 流石日本語が話せるだけあり日本の知識も少なからずあるのかと今更ながらシエルの土着信仰の知識に感心しつつ、元々里村が羽生蛇村の噂をモチーフにした漫画を描くため現地取材へ向かったことを前置きに、
その信仰についてネットで前もって調べた信憑性の疑われる知識から彼女は語り始めた。

「この村には飛鳥時代から続く独自の信仰があるの。眞魚教っていうらしいわ。オカルト板にお世話になっていたら、知る人ぞ知るってところね。
私は新作漫画のネタの為に此処に訪れたってわけ。なんでもその信仰、生贄を伴う秘祭をやってるとかなんとか……」

サクッ サクッ サクッ
 サクッ サクッ サクッ……

「……ん?」

 あまり声が響かぬように小声で喋りつつ、里村の意識は周囲へと向けられていた。その時感知した音に彼女は気付き口を止める。すぐ傍から草を刈っているような音が響いてきたからである。

「誰かがいるわ。……しゃがんでいけば足音を抑えられるかも。念の為懐中電灯も消しておきましょう」

 そう言うなり消灯しその場にしゃがみこむと、里村はその先をしゃがんだ状態で進み始めた。
 まだ夜が明けていない深夜。こんな時間に草刈りをしている時点で妙な話である。相手の姿をはっきり確認できずとも、まともでないことぐらいは察しがつくだろう。
35Ciel Virgile :2017/10/28(土)17:10:58 ID:???
【大字粗戸/食堂裏】

麗子に日本のことをよく知っていると言われ、彼は少しだけ嬉しそうな声で

「俺、日本、好きなんです。J'aime le Japon!(日本大好き!)日本、ダイスキ!
でも、日本のキレイじゃないところも…知ってます。でも、そんなとこ、
含めて俺、日本、やっぱり好きです。だけど、Horreur japonaise…Japanese horrorは嫌いです…怖い。」

と、顔は真剣なまま、小さめの声で日本への情熱を少し語る。この情熱が、彼の日本語を可能にしたのだ。
そして、麗子がネタ集めに来てこの階位に巻き込まれたことに彼はなれないカタカナ言葉で「ナンギ…」と一言呟く。

どこからか草を刈るような音が聞こえた。麗子が気づくのと、彼が気づいたのはほぼ同時だった。

『誰かがいるわ。……しゃがんでいけば足音を抑えられるかも。念の為懐中電灯も消しておきましょう』

その言葉に彼は黙ってうなずき、翻りやすい上着の裾を持ち上げて固定すると、
しゃがみ込んで麗子の後に続く。形は悪いが、頭から黒い上着をかぶることでその白い肌は
闇の中にカモフラージュされる。きっと、あの化け物の仲間が鎌で草を刈ってる。
彼はそう思い、音の根源を見ないよう、息を殺して進む。
36鷹影 飛鳥 :2017/10/28(土)17:33:35 ID:???
【前日/20時30分21秒】
【蛇ノ首谷/折臥ノ森】

森の中を一人の女軍人…否、アウトドアが趣味のプロ格闘家の女性が歩き回る。
その力強い足で落ち葉の積もる地面を踏みしめ、何かないかと猛禽類のごとく鋭い目を光らせる。
そして、足元に無地で真っ赤なを見つけた途端…その厳つい風貌から想像できないようなはしゃぎ声で

「いやっほぉぉ!!タマゴタケはっけーん!見た目もきれいで味も美味い此奴、中々市場でお目に掛かれないんだよなぁ…」

そう言いながら彼女は毒キノコのような見た目の食用キノコ、タマゴタケを摘み取って腰の籠に入れる。
そう、彼女は日帰りキャンプの帰り道、この森が恐ろしい場所だと露知らず、この夏の天然の味覚を求めて入り込んでしまったのだ。

「ハタケシメジ群生してるじゃん!最高だな此処!穴場間違いなし!イワタバコも生えてる!ラッキー!」

こうしてどんどん山菜を見つけ、のめり込むうちに彼女は悍ましい事態へ巻き込まれることになる。
気が付けば、周囲が暗い。しまった、入り込みすぎた。彼女は苛立った顔で「チッ」と舌打ちすると、
まるで獣のようなフットワークで来た道を引き返し始めた。

「っべぇな…調子乗りすぎた。この時間帯、夜行性の獣が出だす頃だ…まだ間に合う!登山道に…!!」

彼女はバックパックにいれていたヘッドライトを装備して走る。飛び上がり、急斜面を駆け上がる。
まるで映画の撮影のような動きだ。だが、彼女は気づく。自分の方向感覚が…
そして方角を示すコンパスが既に機能を果たしていないことに…。

「あ゛ぁ゛!?おいふざけんなよ…コンパス機能してねぇぞ!なんなんだグルグルグルグル狂った時計みたいに回りやがって…」

グルグルと壊れた秒針の様に針を回すコンパスを見つめ、そう悪態を吐きながら
彼女は低い崖を勢いよく飛び降り、川辺へと飛び出した。
37鷹影 飛鳥 :2017/10/28(土)18:17:52 ID:???
【前日/23時10分51秒】
【眞魚川/岸辺】

「あーあ…川辺にでちまった…。まあ良い。下流に向かえば山は降れる…」

その行動力と旺盛な好奇心、そして何よりも勝気なその態度で彼女は何度も懲りずに遭難しかけた経験がある。
そして持ち前の体力と強靭な肉体で自力で下山したり、山を降りたりして生還しているのだ。
彼女の経験は確かに本物で、確実に下流へ向かっていた。村のある、異界の道へ…
未だに疲れを見せぬその足取りで、彼女は石が敷き詰められる川辺を走り抜ける。だが―――

 ――――――《ぅうぉおおおおおおおおおおおおん》

地震。そして、けたたましい耳障りな警報音。
これにはさすがの彼女も耳を両手で塞ぎ、厳格な顔つきを顰めて苛立ちを露にした。

「ぐぁぁ!?なんだこの不快極まりねぇ警報音は!音がするってことは…近くに村があんのか…?だが、まずは動くな…」

彼女は川から離れ、開けた場所に彼女は頭を守り、蹲って地震が収まるのを待った。
過ぎ去るのを待ち続けた。その刹那―彼女の瞼の裏に何かの光景が一瞬焼き付いた。

「……幻覚なんからしくねぇ…行くか…」

彼女は頭を横に振って立ち上がり、服の埃を掃って歩き出す。
雨が手に落ちる感覚を覚え、バンダナで頭を保護しつつ彼女は歩き出す。
そして、ヘッドライトが照らした川の水面に流石の彼女も目を見開いた。赤い、血のような水に驚きを隠せなかった。

「タンニンどっからきてるよこの川…不気味なもんだなおい」

彼女は自然現象でなる植物の担任による赤い川だと思い込み、下流を、村を目指して歩いた。
38鷹影 飛鳥 :2017/10/28(土)19:07:16 ID:???
【1日目/0時12分11秒】
【上粗戸/民家付近】
【小目標:「有沢 玲」との合流】

「………」

赤い川の下流を目指し、たどり着いた常闇の村。異質な気配…異常な雰囲気…
戦闘経験の豊富な彼女の警戒は既に最大限だ。雨を建造物等で防ぎながら、
腰の籠に巻き付けていた何かと応用に使う長い革ひもを、利き手にグルグルと巻き付ける。
古代ローマの拳闘士が使用していた、堅い革紐をボクシングのバンデージのように手に巻き付けた物、
簡易「セスタス」の完成だ。自分の拳の皮膚を保護することが主目的であるため、
鍛錬が不足したまま硬い物体を殴ると怪我を負うが、相手の人間の皮膚にはダメージがある。
誰かが襲ってきてもすぐ応戦、急所にこの拳を叩き込めるよう、念には念をだ。
そして、ヘッドライトの光量を抑える。電池の消耗と、警戒に念を入れるためだ。

『ぐぁぁああああああああ!!』

誰かの悲鳴が聞こえた。その場所に、彼女は無意識に走り出す。誰かが何かに襲われたのか!?
その途中、彼女は悍ましいものを視界に捉える。その音に寄ってきた人の姿…
死人のような色の肌…そして口や目から流れる血…焦点の定まらぬ目…張り付いたような、不気味極まりない笑顔。
血まみれで不潔な衣服を纏い、それはこちらの足音に振り向いた。その手に、刃物を持って。

『う゛ぁぁああああ…!』

まるでゾンビのようなそれは、こちらに刃物を振りかざして襲い掛かってくる。
これで周囲から異常に見えたのは、この怪物めいた人物よりも…彼女―“鷹影 飛鳥”―だろう。
彼女は一瞬で恐ろしい姿の村人の懐に潜り込み、利き手で重い一撃を鳩尾に叩き込み、体を屈ませる。
続けざまに狩り足、よろける村人のこめかみにもう一撃叩きこむ。バランスを崩したその隙に…

「だらぁぁああああああああああ!!!!!」

彼女の渾身の旋風脚が村人の頭部に炸裂する。倒れ込んだのを確認…
だが、彼女は村人の動きに猛禽類のようなその鋭い眼光を、更に鋭くさせて睨み、
その足元にあった大きな石を拾いあげる。完全な敵の殲滅モードに入ったのだ。
村人はあれだけの攻撃を受けてなお、平然と立ちあがってその手に持った出刃包丁を振りかざしてくるのだから。

「…!!」

初めての殺しか…一瞬過る罪悪感。だが、その手に加減は一切なかった。殺られる前に、殺る。
ゴッ!と鈍い音が響き、異常な姿の村人の頭から流血が見え、
村人は気味の悪い断末魔を発してまるで土下座をするように蹲る。
そして、まだ幼い悲鳴が聞こえることに彼女は気づき、そちらの方へ走って行く。

「おい!坊主、大丈夫か!?」

凛とした力強い、ハスキーボイスが怯える少年へとかけられる。
少年の目の前には、まるで軍人のような赤いバンダナにヘッドライトをした“女性”が立っていることだろう…
39里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/29(日)21:58:54 ID:???
【大字粗戸/バス停】

 日本が大好きだと純粋に語る外国人の言葉に、里村は悪い気はせず微かに微笑むが「出る杭は打たれる社会、空気読め社会は息が詰まるけどね」と真面目なトーンで愚痴を語る。
 里村はプロの漫画家で今でこそ社会的に認められているが、変わり者だからという理由でからかわれていた子供時代を持っていた。当然初対面の相手にその様な過去は語りはしなかったが。

「あっち行き止まりね……。映画のセット?」

 草を刈る人物の背後を無事通過し、バス停付近までたどり着いたとき、巨大な壁が造られそれ以上先には進めない状態となっていた。
 不自然なところに、即席で造られたような壁を前に、まるで映画のセットか何かなのかと感じた里村は、あの村人も映画のエキストラか何かなのではと現実を受け止めたくない感情も加担し脳裏を過る。
 だがやはり気味が悪いのは事実であるし、突然使えるようになった幻視能力の説明が出来ない以上、関わり合いたくないのは紛れもない事実だ。
40有沢 玲◆uTtdYomZuE :2017/10/30(月)17:28:22 ID:???
【上粗戸/民家付近】

 殺人鬼とは言え人を一人殺してしまったかもしれない恐怖、そして殺されそうになったトラウマが、その場を逃げ出そうと全速力で走る少年の心を蝕んでいく。
 あまりのショックで涙さえ出ず、だが呼吸は既に大きく乱れ、その細い脚も重力に引きずられて、気持ちとは裏腹に速度を落としていった。

 逃げ出した民家の周辺は、その敷地を囲うようにして下り坂となっており、辺りには鬱蒼とした木々や崖があり、闇、闇、そして闇。薄暗い外灯で辛うじて砂利の道が確認できる程度である。
 玲少年はその灯りを頼りに進んでいくが、目と鼻の先に人影が佇んでいるのを見つけた。人を見つけたことで彼はどこか安心を覚え、その人物の元へと駆け寄らんとしたが違和感を覚えて足が止まる。

「嘘……だろ…………」

 外灯の無機質な白い光で浮かび上がる姿は玲の目に焼き付き、戦慄を与えた。あまりに信じがたい光景であった。それ以上、少年の口からはまともに声も出てこない。
 何故ならそこにいたのは、夥しい血液で汚れた衣服を纏う、明らかにあの時崖下へと突き落とした殺人鬼の男であったのだ。
 そして玲は、崖下に突き落とされた彼がどのような死に様であったのかを覚えているし、決して生きていられるような状態では無かったことも知っている。身体が串刺しになった人間が、そこに平然と立っていられるわけがないのだ。

 だがこの現実を、少年は現実として受け止めきれず、半分気を失った状態に陥る。それから何があったのかよく覚えてはいない。そして自分が悲鳴をあげた事実も記憶から飛んでいたのだ。
 引き戻されたのは、ハスキーボイスの女の声が掛けられたその時である。

『おい! 坊主、大丈夫か!?』
「ぉ……俺……ぁ…………」

「…………ぅぁあああああああああ!」

 軍人と見紛うばかりの女の姿を確認し、一気に緊張が解けたのか、少年は凄まじい悲鳴をあげてその場にしゃがみこみ、堰を切ったかのようにそのまま泣き喚いた。
 そして何度も「ごめんなさい」と誰に対してのものか繰り返し叫び始める。
41Ciel Virgile :2017/10/30(月)18:38:17 ID:???
【大字粗戸/バス停】

愚痴を語る麗子の言葉に、「日本、そこ、カチカチです。もっと、フランクでいい。俺、そう思います。」
と、真面目に返答しつつ、無事暗闇で草刈りをする人物の背後を通過し、バス停付近に無事着いたが、何故かそこには壁が。

「Un mur?(壁?)」

これには思わず、彼も素でフランス語が出た。なんでこんなところに壁が?麗子は映画のセットかと言うが…
彼はその白い柔肌の包む手で壁に触れた。ちょくちょく映画のエキストラに出てるので、セットの造りとかはなんとなくわかる。

「.....unn......これ、映画のセットの壁…の材質、違います。こんな、雑、違います。」

これが映画のセットの中に紛れ込んで、あの異常者がそういうホラー映画かなんかのエキストラ役の役者さんなら、
どこかに普通の恰好のスタッフがいて、どこかに機材がつまれていたり、カメラがあるはず。そんなもの、どこにもない。
映画のセットじゃないなら、彼も流石にこの壁の意図が分からなかった。別の脱出ルートを行かなければならないのだろうか?
首を傾げ、長いサラサラした髪を揺らしながら彼はどうしたものかと考えている。しかし、彼は次第に落ち着きがなくなる。
壁の前で立ち尽くしてから何かとそわそわしている。雨に濡れ、体が冷えたのか二の腕や太ももをしきりにさすっている。

「別のルート…探します?」

恐怖とはまた別の緊張の混じった表情で、麗子を見つめ、問いかける。
42鷹影 飛鳥 :2017/10/30(月)19:06:44 ID:???
【上粗戸/石川家裏】

『ぉ……俺……ぁ…………』

『…………ぅぁあああああああああ!』

こちらが声をかけた途端、一気に緊張が解けたのか、
少年は凄まじい悲鳴をあげてその場にしゃがみこみ、堰を切ったかのようにそのまま泣き喚いた。
そして、誰に対してかはわからないが、『ごめんなさい』叫びだした。
まずい。また別の狂人?が付近にいる。少年が落ち着かないと…いや、もう気づかれる!

「落ち着け、坊主…俺にしっかり掴まってろ。あと、目を瞑れ…俺が良いと言うまでだ。」

彼女は屈んで少年に背丈を合わせ、そっとその小さな肩に手を置き、冷静な口調で少年に語り掛け、
そのまま有無を言わさず抱えあげると立ち上がり、自慢の脚力で砂利の下り坂を駆け抜ける。
そして、夥しい血液で汚れたい服を身に纏うあの狂人とすれ違う。そいつの狂ったような叫び声がこだまするも、
その声はどんどん離れていき、また違う民家の一角にたどり着く。険しい山道を走り回り、
川辺を歩き続け、地震と耳障り極まりない警報音に初めての殺し(明確には殺人にはなっていない)…
流石の体力自慢の彼女も息が切れてきた。たどり着いた民家裏に、何故かドラム缶が四つほど置いてあり、
その影はいくら大柄な彼女でも、相手が子供ならば二人で身を隠すには十分だった。
彼女はそのままドラム缶の影に回り、少年をそっと地面に降ろし、息が切れたままで優しく声をかけた。

「もういいぞ~。さ、目を開けな…一応、今は大丈夫だ。
この周辺の人の気配はとても少ない。落ち着いたら、そこの家にお邪魔させてもらって少し休もう、な?」

いつもは獲物を見定める猛禽類のように鋭い眼光を放つ彼女の三白眼の目が、
少年を映したときに母性にも似た優しい感情を籠らせる。そして、早くこの少年が落ち着くように、
その逞しい腕で少年を抱きしめ、皮ひもを巻き付けていない左手でそっと頭を撫でてやった。

「大丈夫だ…子供を危険に晒すものか…!坊主、お前のことは俺が守る。そして、早くお父さんとお母さんのとこに帰ろうな?
それまで一緒にいるぞ。化け物だろうが殺人鬼だろうが、かかってくるやつぁ俺が全部やっつけてやるからよ。」

女性らしくない、まるで歴戦の戦士のような堂々としたベテラン格闘家独特の力強い雰囲気と、
自然を愛するアウトドア派な明るい女性の相手を包み込むような優しげな雰囲気が不思議に同調したまま、
一刻も早く少年を安心させて落ち着かせようと彼女は少年を抱きしめて、
頭を撫でては「大丈夫だ。」「お前のことは俺が守る。」そう言葉をかけ続けた。
43里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/10/31(火)21:34:48 ID:???
【大字粗戸/バス停】

 モデルというのならば映画に出演した経験もあることだろう、巨大な謎の壁を前にシエル青年は、材質からそれが映画のセットでさえ無いことを語る。

「じゃあ、本当に何なのかしらね……」

 あまり認めたくなかったが、シエルの発言で寧ろ得体の知れないものを覚えた里村は、暗闇の中、大きな漆黒の影を作って聳えるそれを気味の悪いものでも見るかのような目で見据えた。
 その後、同行者からの別ルートを探すかという言葉でそこから視線を相手の方に向けたが、何処か落ち着きのない独特の動きをする彼の様子で、彼の状況を察する。まさかとは思うが――――

「もしかして、お手洗い? 困ったわね……。すぐ近くに民家があるけれど、異常者が現れたら洒落にならないし……」

 仕方がないけれど、外でした方が安全だと思うという意味を込めて、眉を下げた表情でシエルを見やった。

「大丈夫。見張ってあげるし、それに……鉄パイプ見つけたの! 護衛は任せなさい」

 いつの間に見つけ出したのやら、里村は得意気に長さ50センチはあるであろう先の尖った鉄パイプを握り締め、彼に見せた。
44有沢 玲◆uTtdYomZuE :2017/10/31(火)22:14:58 ID:???
【上粗戸/石川家裏】

 精神が錯乱し訳の分からないまま、だがはっきりと聞こえる、包容観のある低音の女の声だけに全てを委ね、彼女に促されるまま玲少年は自らを抱え上げる筋肉質のかたい身体を強く抱き締めた。
 小学生の腕力で、しかも力のある彼女はさほど感じなかっただろうが、しがみつく玲の腕にはかなりの力が入っており、その強さは彼が恐怖で縋りつきたい一心であることを暗に物語っている。

 遠くから、あの血濡れの男の不気味な咆哮が響いてきたときには、冷や汗と共に指にも力が入り、じめじめした感触を女に与えたことだろう。
 しがみつく力は彼女が玲を降ろすまで弱まることは無く、目を開けろという言葉を合図に、恰も金縛りが解けたかのように腕を解き、抱き締め、頭を撫でる彼女にもたれ掛かった。
 その温もりと、心強い言葉で次第に落ち着きを取り戻し始めた玲は「ありがとう……」と悪ガキの威勢はどこへやら、まるで素直な子どものように恩人とは言え、余所者の見知らぬ大人に礼を述べていた。

 そうして涙で濡れた目をこすり、視界がはっきりとしたとき、玲はこの場所がクラスメートの実家であることに気付く。

「此処って……石川んち。……あいつもどうしてるんだろう。本当に……肝試しなんか……するんじゃなかった…………」

 子どもとは思えないような遠い目で、肝試しに同伴するも例の男の出現で散り散りになったクラスメートに思いを馳せる。そして溢れ出す後悔の念で、自分の浅はかな行動を悔いた。
45Ciel Virgile :2017/10/31(火)23:12:13 ID:???
【大字粗戸/バス停】

この壁は一体何なのか…そうつぶやいて気味の悪いものでも見るかのような目で見据える麗子の横で、
こればかりは彼も首を傾げることしかできず、その形の整ったほっそりした眉が眉間に深い皺を作る。
しかし、彼はその時も終始もじもじと落ち着かない。麗子に話しかけた時も平静を装っていたつもりだったが…

『もしかして、お手洗い? 困ったわね……。すぐ近くに民家があるけれど、異常者が現れたら洒落にならないし……』

意外にもあっさり見破られ、恥ずかしげにその白い頬を赤く染めるも彼の表情に全く余裕などなかった。
昼の撮影前に済ませておくつもりが自分の方向音痴で森に迷い込み、極限状態で村を逃げ回り、
発作を起こしたりしてすっかり忘れていたが麗子と共に行動して幾らか精神的な余裕ができたことと、
薄着の状態で雨によって体が冷えたことで急激に催してしまい、限界が近かった。
この時に彼は自分が内股になって無意識に両手で股間を強く押さえていることにすら気づいていなかった。

「Oui...(はい…)忘れて、ました…。昼から、我慢…してます……。…もう、無理…漏れます…」

彼はモデルらしからぬ姿勢で羞恥に染まった表情で苦しそうに麗子に我慢の限界を訴える。
民家にお邪魔して借りようにも住民があの恐ろしい怪物だったらと思うと鳥肌が立つ。
どうすれば良いかわからずキョロキョロと周囲を見渡していると…

『大丈夫。見張ってあげるし、それに……鉄パイプ見つけたの! 護衛は任せなさい』

そんな麗子の声に頭を上げれば得意気に長さ50センチはあるであろう先の尖った鉄パイプを握り締めいる麗子の姿が…
一体どこから鉄パイプを…それも先端の尖ったものを…と一瞬思うもそれどころではない。
麗子が武器を入手して、見張っていてくれるならさっさと済ませてしまおう。

「Merci.(ありがとう。)お願いします…」

本当は隠れてしたいが、下手にここから動いてももっと危険だろう。背に腹は代えられない。
彼は恥ずかしそうな表情のまま麗子に背を向けると、その場で用を足し始めた。
少しだけ彼はホッとした表情を見せるも、すぐに周囲を警戒する。そして、ふと思う。
いつも外国では女性モデルに間違われていたけれど…麗子はそんな風に接していた感じがしない。
それどころか、自己紹介の時に『シエル“くん”』と呼ばれたことを思い出し、
日本語を独学していた彼は少女は“ちゃん”と呼ばれるのが普通では…と思い、
無防備な状態の自分の不安をかき消したいのもあって、なんとなく聞いてみる。

「レイコさん……もしかして、俺のこと、最初から…“男性”ってわかってました?」
46鷹影 飛鳥 :2017/10/31(火)23:32:16 ID:???
【上粗戸/石川家裏】

辛かったろう。こんな子供一人であんな恐ろしいものに出会って…それもこんな深夜に。
そう思い、早く安心してもらおうと何度も落ち着くような言葉を少年にかけ続けていると、
少年から『ありがとう……』と言う言葉が聞こえ、その様子を見て彼女も少し表情をほころばせた。

「礼は良い。怖かったろ?あんな映画に出てくる殺人鬼みたいな、ゾンビみたいな気色悪いのに出会って…」

しかし、なぜこのような少年…見たところ小学生だろう。どうしてこんな夜中に起きて歩き回ってるのだろう?
もしかしてこっそり家を抜け出して悪戯でもしようとしてたいわゆる悪ガキってやつなのか?
そう思った時、少年の口からここの民家のことと、深夜に出歩いていた理由が語られた。

『此処って……石川んち。……あいつもどうしてるんだろう。本当に……肝試しなんか……するんじゃなかった…………』

肝試し…なるほど、夏休みにクラスメイトと怖い言い伝えのあるどこかに探検しに行こうとかしたんだな。

「んだよ…悪ガキーズの肝試しか?で、友達ともはぐれちまってこの状態…そりゃ不安にもなるわな。」

やれやれと呆れたようでこれは放っておけない奴だと言った顔で彼女は目の前の少年を見つめる。

「坊主、一応名前教えてくれや。俺は鷹影 飛鳥。ま、その道長い…つっても10年ちょっとだが、格闘家やってる。
はぁぁ~…俺もアウトドア大好きで日帰りキャンプの帰りに、天然食材集めに夢中になりすぎた…それで俺もこのザマ…泣けるぜ全く」

と、やや自嘲気味に笑いながら周囲の妙な気配がとても薄まっているのを感じて周囲の警戒の為にも立ち上がる。
民家の横に建てられた街灯の照らすその姿は見事な腹筋と力瘤のある腕に軽装の軍人のような服装と女性らしからぬ印象を与えることだろう。
そして、日帰りキャンプの帰りに天然食材集めに没頭と言う言葉も、彼女の腰に下げられたキノコ狩り用の籠に詰まったキノコや山菜を見れば真実と分かるだろう。
その中にひときわ目立つ赤いキノコ“タマゴタケ”が街灯の光の中で異彩を放っていた。

「坊主の友達のことも心配だな…みんな無事にお家に帰れてりゃいいんだがなぁ…。とりあえず、家に上がらせてもらえるか聞いてみよう。」

そうつぶやき、彼女は色々と思考を巡らし、ふと嫌な予想が過る。ここはこの少年のクラスメイトの実家…
もしも、もしもこの少年の友達があの異常者と同じ状態になってしまっていたら…この子は正気でいられないだろう。
なぜ、そんな考えが浮かんだのかはわからないが…絶対に弱っているであろう少年にそんなことは言えない。
万が一この最悪の予想が当たってしまったら…彼の目に触れる前に変わり果てた彼の友達をこっちが何とかして葬り去らないとならないだろう。
もっとも、この最悪の事態がただの杞憂であることを願うが…
47里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/11/03(金)19:04:27 ID:???
【大字粗戸/バス停】

 シエルの用足し護衛を買って出て、静かだが、確かに複数の気配を感じる空間の冷えた空気を吸い込み、そっと息を吐いていく。
 里村の目は周囲一帯を、肉眼だけでなく、短期間で使いこなした幻視も駆使し、監視していた。

「今のところ大丈夫そうね……」

 誰に対してでもなく小さく呟くと、背後から青年から「最初から男性だと分かっていたのか」と不意に尋ねられる。
 意識を監視の方に向けていたため、突然のことで「え? ああ、うん」と思わず生返事で返してしまったが、里村は意地悪そうな笑みで答えた。

「うーん。女にしてはしっかりしてないし、弱々しい感じがしたからかしら?」

 いきなり棘のある発言を投下したかと思えば、冗談よと笑って、
「一人称が俺だったし、ほら、私漫画家で、キャラクターデザインの資料あさりをしているんだけど、それで中性的なモデルさんがいることも知ってるから」と答えた。

「もう準備はいい? どうも、あのバス停の上、道があるみたいなのよね……。あれぐらいだったら自力でよじ登れそう」
48有沢 玲◆uTtdYomZuE :2017/11/03(金)21:27:07 ID:???
【上粗戸/石川家】

 肝試し――親から眞魚岩付近、森林地帯に行くなと言われたことをきっかけに玲は友人を募って決行した。幽霊がいるかどうか確かめてやると、あの当時は本当の恐怖というものを知らずに何と浅はかであっただろうか。

「俺は有沢 玲。小四」

 だが後悔しつつも飛鳥の優しさで余裕を取り戻したと同時にプライドも復活。悪ガキと言われバカにされたと認識したのか、玲はやや無愛想に短く自己紹介をした。
 とはいえ、見るからに筋骨隆々で格闘家、さらにサバイバルの知識も豊富であろう飛鳥が側にいてくれることは実に心強いことに変わりはない。

「……多分大丈夫だと思う。あの化け物は俺しか追いかけてこなかったし、友達はみんな逃げられたんじゃないかな……」

 家にあがらせてもらおうという相手に頷きつつ、記憶を頼りに友人の無事の根拠を語る。そう考えて自分で安心したかったのだ。
49Ciel Virgile :2017/11/03(金)21:56:46 ID:???
【大字粗戸/バス停】

あの他人の視界を奪う不思議な能力…あれはこういう時にも使えるかもしれない。
そう思い、彼は周囲に意識を集中して目を閉じると、再びノイズ…そして見知らぬ村の映像が流れ込む。
この周囲の景色が流れ込んでこないことに、ほんの少し安堵する。そして、用が終わるとほぼ同時に
不安を紛らわすためのあの質問に『うーん。女にしてはしっかりしてないし、弱々しい感じがしたからかしら?』と言う麗子の返答が。
弱弱しいのは認めるけれど…!と言った少し残念と言うか悲しそうな顔つきで麗子の方に振り返るも麗子は冗談よ。と笑い

『一人称が俺だったし、ほら、私漫画家で、キャラクターデザインの資料あさりをしているんだけど、それで中性的なモデルさんがいることも知ってるから』

とのこと。それに彼は納得したようだ。そういえば、日本の女性が俺と言う一人称、あまり使っていない気がするし…
なるほど、漫画の資料で中性的なモデルも見てるとなれば納得だ。もしかしら、イーグレットの愛称のモデルを知ってるかも?

「あー…納得です。最近、イーグレットって愛称のジェンダーレスファッションモデルの写真とか、日本にも出るようになったとか…」

そして、そのイーグレットは紛れもなく彼、シエル・ヴィルジールである。そんなことを仄めかしつつ、
衣服を整えて準備を整える。ああ、撮影用のローファーに履き替えていなくて本当に助かった。

『もう準備はいい? どうも、あのバス停の上、道があるみたいなのよね……。あれぐらいだったら自力でよじ登れそう』

そう言われてバス停の上を見上げれば確かに道が見える。だが、筋力の低い彼は手助けなしでは登れそうにない。

「はい。もう大丈夫です…確かに道、バス停の上に、見えます。
……レイコさん、俺多分自力、登れないです…。登ったら、引き上げて…もらえます?それなら、登れます。」

引っ張り上げてもらえればその反動の利用でバス停の上をその長い足を生かして登れるだろう。そう思った時…



アオォーン…ウォォーン…



不意にどこからか狼のようなと覚えが木霊した。おかしい。日本の狼は明治時代にはすでに絶滅してるはず。

「loup!?(狼!?)…今の……遠吠え…っ…まず、進まないと…」

不意の遠吠えに驚くも、まずは目の前のバス停上の道だ。そう思ってずっと青く丸いガラス玉のようだったその目に、
彼は本当の狼の様に鋭く、そして強かな決意を込めた。その直後、『オォォーン…!!』と言う一際強い
狼のような遠吠えが、その彼の決意を表すように轟いた。
50鷹影 飛鳥 :2017/11/03(金)22:20:59 ID:???
【上粗戸/石川家裏】

『俺は有沢 玲。小四』

少し不愛想な短い自己紹介を聞き、思わず彼女は口角を上げてクスリと笑う。
ははぁん?悪ガキで馬鹿にされたと思ったか…可愛い奴。彼女はそう言いたげな目をして

「玲…だな。んだよ、愛想わりぃな…かくいう俺も悪ガキだったぜぇ?男どもとしょっちゅう崖登り木登り探検してさ…
両親が『女の子なんだから!』『女の子らしくしなさい!』ってウザいのなんの…だから俺は言ってたのさ。好きで女に生まれてない!ってな」

と、自分自身も悪ガキだったんだから気にするな。馬鹿にしていない。とさらりと流すように言いつつ、
目の前の民家を見やる。中に住民がいて、正常な人なら何ともない。誰もいなければ無断だが上がらせてもらおう。
中に化け物がいたら…叩きのめして家から放り出して…敷地外に投げる。と言うかそんな芸当ができるのはこの女だけである。

「玲。しばらくここに隠れていてくれ。石川君の家に化け物が上がりこんでたら大変だ…。化け物が家に侵入していないかか見てくる。」

彼女は玲少年に暫くこのドラム缶の陰で隠れているように言い付け、一人、石川家の正面玄関へ向かって行く。
そして、彼女の姿が玲少年の視界から完全に消えた時、その声は突然村に轟いた。


アオォーン…ウォォーン…


まるで、日本では絶滅してしまった狼を彷彿とさせる凛々しい、どこか物憂げで愁いの籠った遠吠え。
その遠吠えに真っ先に反応したのは…石川家の正面玄関に立った飛鳥だった。

「ジブリル!?この遠吠えは…間違いない!ジブリルだ…!!どこにいる!?」

そう遠くはない方向から聞こえる遠吠え。それは彼女の愛犬、ジブリルのものだった。
ジブリルは2日前、大嫌いな雷の音に怯えてパニックを起こし、
新調予定だった古いリードを引き千切ってそのまま行方不明になってしまったのだ。
その翌日に捜索願申請をし、本日…彼女は押しつぶされそうな気持を振り払おうと日帰りキャンプに出たのだった。

「ジブリル…待ってろ。絶対助けに行くからな…だから、もう少し“マテ”だ。生きろ…ジブリル!」

ありったけの可愛い弟分への願いを込めて、彼女は呟き、「ごめんください。お邪魔します。」とやや控えめの声量と共に
正面玄関の引き戸を開け、石川家へと侵入していった。その直後…

オォォーン…!!

まるで彼女の声に答えるような一際力強い遠吠えが、そう遠くはない場所から響いてきた。
51里村 麗子◆uTtdYomZuE :2017/11/03(金)22:27:39 ID:???
【大字粗戸/バス停】

 イーグレットというモデルの名前が出て来たとき、確かネットで話題になっていたことを思い出し「ああそういえば」と呟いた。
 そして見た目がシエルにそっくりなのに気付くと「あら遠回しな宣伝? 仕事熱心ね」と意地悪な笑顔で、“遠回し”にからかう。

「ええ良いわよ。けれど引き上げるより下から押し上げた方がいいともきくわよね。楳図か○おの漫画にそんなことが書いてあったの。『漂○教室』っていう漫画、知ってる?」

 そういう雑談をしつつ、既にバス停の上に登った里村は下にいるシエルに手を差し伸べながら、あるSFホラー漫画について訊ねた。
 大まかなストーリーは、主人公たちが学校の校舎と共に砂漠だけの謎の世界に飛ばされ、そこで生き残りを掛けた様々な苦難、恐怖に遭遇していくというもの。次第にこの世界の残酷な真相を知ったときの絶望感はトラウマものでもある。

「狼? ……なわけないわよね。日本に狼はいないもの……」

 そういう里村であったが、何処か不安げな色は抜けていなかった。そうであって欲しくない可能性の一つが現実味を帯び始めていたからだ。
 シエルを引き上げるときの彼女の表情は、何かを危惧している、そんな感じのものであった……。


【終了条件達成】
52ジブリル :2017/11/03(金)22:33:37 ID:???
【前日/20時11分11秒】
【上粗戸/眞魚川岸辺】

「ヒ~ン…ヒ~ン…クゥゥン…」

眞魚川の岸辺に一匹の獣の影。犬…いや、狼…日本で絶滅したはずの狼がそこにいる。
しかし、この狼は純血の狼ではなく、犬とのハイブリッド…いわゆる狼犬である。
千切れてズタボロになった古いリードを引きずり、美しく澄んだ川の水を飲み干し、乾きを潤す。
その首には赤い首輪があり、『J』のイニシャルが入ったタグが下がっている。
この狼犬の名は『ジブリル』。格闘家、鷹影 飛鳥の飼い犬である。
先日、自宅付近に発生した落雷でパニックを起こし、古いリードを引き千切って逃げ回り、この近辺に迷い込んでしまったのだ。

「アオーン…」

寂しさのあまり、彼は遠吠えをする。主、主、僕はここにいるよ。早く迎えに来て。そう言いたげに。
しかし、誰も来てくれはしなかった。お腹が空いたなぁ…そう思いながら彼はトボトボと川沿いを歩く。
途中、アウトドアで騒いでいた誰かが落としたであろう…まき散らされて鎮火した炭の周辺に落ちていた
焼き肉の破片などを食べて飢えをしのぐと彼はそのままあてもなく、主を探して歩き続けた。
53有沢 玲◆uTtdYomZuE :2017/11/03(金)22:48:55 ID:???
【上粗戸/石川家】

 飛鳥の言葉をきいたとき、彼女も自分と同じなのかとホッとした。親が煩いというのを理解して共感してくれる大人は滅多にいない。

「そうなのか……。親はウザいもんな……勝手に決めつけて押し付けてくるんだ」

 自分の知る人たちはみんな親は自分のことを思ってくれているのだから、などと説教するだけで、彼の抱えるものに寄り添うことをしなかったのだ。
 自分でも何処か分かってはいた、悪いことをしているという自覚が無いわけではない。ただそうすることで自分は一人でも平気なんだと親に、そして周囲に認めてもらいたかったのだ。

「分かった」

 家の様子を見てくるから隠れていろという飛鳥の言葉を承諾し、彼は飛鳥が離れた後もドラム缶の影に隠れる形でしゃがんだ。
 その時、向こうの方から狼のような鳴き声が響いて驚いたが、まるでそれがきっかけと言わんばかりに玲の視界に、茂みの中に落ちる犬の首輪が目に入る。

「これ……。“ジブリル”……?」

 この首輪の持ち主たる犬の名前だろうか。玲は首輪を拾い上げて観察した。
54ジブリル :2017/11/03(金)23:06:46 ID:???
【前日/23時59分23秒】
【上粗戸/石川家付近】

暗い。夜だ。寂しいよ。会いたいよ。主、主、どこにいるの?寂しいよ。
そんな言葉が聞こえてきそうな程に寂しげな琥珀色の彼の目が、暗闇でギラギラと光った。
すると、近くから懐かしい匂いが漂ってきた。ああ、ああ。主の匂いだ!多少土臭いけど、間違いなく主だ!
彼は数㎞先から感じ取った主人『飛鳥』の匂いで一気に活気づいた。早く行こう!主が迎えに来てくれた!
喜びに満ちた目で、嬉しそうに僅かに口角を上げて舌を出しながら走る彼を、突然の地震のけたたましい警報音が襲う。

――――――《ぅうぉおおおおおおおおおおおおん》

「キャンキャン!キャン!キャンキャン!!」

恐怖と頭を揺さぶるような耳障りな警報音に悲鳴を上げ、彼は思わず近くの茂みに頭を突っ込み、
ふさふさした尾を足の間に挟めて震えた。怖いよ…主、助けて!そうして縮こまっていると、
いつしか地面は動かなくなり、頭を揺さぶるようなあの音もしなくなった。

「……クゥン…」

彼は寂しそうに、不安そうに主の匂いがより濃い方向へ…どこかの村にたどり着いた。
相変わらずクンクン鼻を鳴らして彼は異様な気配の漂う村を徘徊した。

「!!」

その時、不意に首が絞まった。何事だ!?首輪が一緒に動いてくれないぞ!?
彼は咄嗟に頭から首輪を引き抜き、その場を後にした。そして、目の前の大きな家の前から去る。
なんだろう。向こうに人がいる…血の匂いがするおかしな人がいる。彼は警戒した目でその人間を見つめる。
だが、この人たちに近づけばなにか食べ物でももらえるかな?おかしな雰囲気してるけど、何かで遊んでるだけだよね?そう淡く期待して彼は静かに人影に歩み寄った。

「ヒン!?」

そして、その明らかに普通ではない人間の顔を見て、支離滅裂な変な言葉を聞いた時、思わず逃げ腰になって小さな悲鳴を発した。
一人じゃない。まだ一人か二人…この近くに同じ気配の変な人間がいる…!彼は決死の行動に出た。

「アオォーン…」

なんと、その場で大きな遠吠えをしたのだ。その遠吠えに、視界に入っていた人間は反応した。もう一発…!

「ウォォーン…」

近づく足音。逃げ出したい気持ちを抑えて二度目の遠吠え。足音が増える。今だ!彼はその逞しい体を翻して逃げ出した。走れ。走れ。主の匂いも近い。主、今行くよ!
だが、急に一際視界が開けた。何事かと思えば…危ない。断崖絶壁だ。しかも近くから不規則な足音。あのへんな人間だ!だけど、この下に主の匂いがすごくする!行かなきゃ!
そう決断したのだろう。彼は今までにない大きな大きな遠吠えをした。

「オォォーン…!!」

そして遠吠えの直後に彼は近くの茂みの中に突っ込んでいき、ピョンピョンといくつも連なる小さな崖を足場に急斜面を下る。
その姿はさながら、崖を駆け下り獲物に飛び掛からんとする一匹狼。その姿とは裏腹に、大好きな主に飛びつきたくて
必死で主の匂いを辿る従順で絆の深い、忠実な犬の性質が彼を突き動かす。主!いま行くよ!と言う感情がしっかりと籠った大きな目で目の前を見つめながら。
55鷹影 飛鳥 :2017/11/03(金)23:51:19 ID:???
【上粗戸/石川家】

シンと静まり返った、さっきまで人がいたような生活感漂う屋内に、彼女は足を踏み入れた。

「誰かいませんか?」

そう強かに、静かに問うも返答はなく、虚しく己の声だけが木霊する。
一通り家の探索を終えたが……おかしい。誰もいない。ここの家族はどこに消えたんだ?
あの子供部屋…玲少年の言ったとおりに、石川君がこっそり肝試ししようと用意周到で出かけた後のままだった。
だって、人が入ってるように見えるほど膨らんだ子供部屋の布団を「大丈夫か!?」と言って剥ぎ取ったら
その中には座布団が丸められてひもで縛られた身代わりが置いてあったのだから。この行動、まるで昔の自分じゃないか。
とりあえず、安心だ。化け物は全くいない。裏口も鍵がかかってるし、内側から開ければいい。
逆に正面玄関は閉めて閂しておこう。多分、家のどこかの補修に使われるはずだったであろう角材が玄関の中にあったし、使える。
彼女は正面玄関を閉めて鍵をかけ、角材で閂をする。そして裏口の鍵を開け、裏口から出て玲少年の元に急ぐ。

「よし。ちゃんと隠れてたな。……玲、その首輪…どこで見つけた?」

ホッとしたのも束の間、玲が手にしている首輪に彼女は目を見開く。ジブリルの首輪だ。
赤い首輪。ジブリルの名が入った迷子札に、彼女お手製の改造南京錠で作った『J』のイニシャルが彫られた飾り…

「この首輪はな……俺の弟分の犬の首輪だ。ここで見つけたのか?ならば、そう遠くに行ってないはず…!
ああ…ジブリル……2日間ずっと心配したんだぞ!可哀想に…こんな異常な状態の村に入っちまうなんて…
異常事態じゃなければ玲に村案内でもしてもらってジブリルと久々の散歩と洒落込めたのに…!?」

玲少年に首輪の説明をしていると、小石が崖を転がる音と、獣の息遣いが聞こえた。聞き覚えのある、規則正しくも早い犬の呼吸音。
崖を見上げて彼女は涙を一筋流した。可愛い可愛い弟分が、ジブリルが必死に、颯爽と低い崖を足場に駆け下りてくるのだ。
玲少年にはもう日本にはいないはずの狼が崖を駆け下りてこちらに突進してくるように見えるだろう。
そんな光景に飛鳥は目を潤ませ、少し屈んでその逞しい両腕を広げて突進してくる狼を受け止める。

『クーンクーンクーン!!ヒィィン…』

飛鳥に抱き留められて鼻を鳴らしまくり、ぶんぶんと尻尾を千切れそうなくらいに振るその姿を見れば、
この狼が、本当の狼ではなく狼に限りなく近い見た目の“犬”であり、飛鳥の飼い犬だと分かるだろう。

「ジブリル…!!お前…この馬鹿!雷に怯えてどこほっつき歩いてたよ!……無事でよかった。」

思いきり主人に甘えた後、主人の視線の先の玲少年に気付いたのか、ジブリルは飛鳥から離れてその場に座る。
見た目こそ野性味あふれる狼だが、その顔つきは人に慣れきって心を許した犬であり、どこか人間臭さもある家犬独特の顔だ。
56有沢 玲◆uTtdYomZuE :2017/11/06(月)15:50:13 ID:???
【上粗戸/石川家】

 首輪を発見ししばらくして、飛鳥が戻ってきた。だが彼女の視線が玲の持つそれに気付くやいなや、目を見開きどこで見つけたのか早速問うて来た。
 その様子を見れば、この首輪が飛鳥にとって特別な意味を孕むことは一目瞭然だ。

「この茂みに落ちていたんだ……」

 ありのままの事実を話し、落ちていた場所に指を指す玲であったが、それが飛鳥の愛犬のものであることを知る。どうやらジブリルという名の彼は、二日前に迷子になり、偶然この村に迷い込んでしまったらしい。

 ――――しかし噂をすれば影、息遣いと小石の転がる音が聞こえてきたかと思えば、斜面を颯爽と駆け降りてくる影を二人は発見し、飛鳥は涙を一筋、その勢い良く突進する影を両腕で抱き留めた。
 まさしく、感動の再会を、皮肉にも不死身の殺人鬼が彷徨く夜に果たしたわけである。

 玲の目には一瞬それが狼に見えたものの、彼こそ飛鳥の愛犬ジブリルであり、その仕草からは狼でなく人慣れした犬のそれであると分かるだろう。玲もすぐ安堵し、飛鳥から離れて座ったジブリルに「これお前のだろ?」と首輪を差し出した。
57鷹影 飛鳥&ジブリル :2018/01/20(土)17:26:06 ID:???
【上粗戸/石川家】

『ォン!』

玲に首輪を差し出されたジブリルは、控えめな声で一声吠える。
小さく尻尾を振っていることから、警戒心は薄い様子だ。
彼からすれば今まで恐ろしい人間が沢山いたのに、ちゃんと話しかけてくれる
人間の子供が目の前にいるのだ。飼い犬である彼の警戒は一匹の時よりは薄れていた。
それに、何よりも御主人がいるんだと言う気持ちが、彼を安心させているのだろう。

「僕のだよ。って言ってるな…どれ、もう首輪無くすなよ?ジブリル」

ジブリルの主人、飛鳥は目を細めて笑いつつ「じゃあ、貰うよ。」と優しげな声で
玲の手からジブリルの首輪を貰い、目の前に入るジブリルの首に装着させる。
彼女の横に座るジブリルは大人しく座っているが、時折遠くから聞こえる不気味な声に
ピンと耳を立てて小さく唸っては警戒していた。

「そうだ…玲、石川君の家だが…信じられないかもしれない…しかし、空き家のように誰もいなかった。
石川君の部屋と思しき場所の布団の中には、丸めてひもで縛ってある座布団が入っていただけで、
親御さんも、石川君もいない。俺は嘘は吐かない主義でね…どこか無事な場所に避難でもしているのかもしれないが…」

状況を説明しているうちに、隣に座るジブリルがスッと立ち上がり

『グルルルルル……』

若干体の毛を逆立てて、明後日の方向に向かって少し強く唸りだした。その様子を見た彼女は

「玲、一旦石川君の家で休憩しよう。こんな非常事態だ…疲れたまま走り回っても逆に大変になるだけだし、
なにかあっても俺とジブリルがいる。見張りなら任せな!それと、いきなり正面からあの殺人鬼が来ないよう、
玄関に閂をして裏口の鍵を開けておいた。本来不法侵入になってしまうが、背に腹は代えられないからね…」

そう言い、物陰から上半身を覗かせ、ジブリルの視線の先を睨むように見つめて警戒しつつ
周囲に人影等がないことを確認すると

「玲、ジブリル。さ、行こう。」

と優しい声で語り掛けてまるでゲリラ兵のごとく気配を殺し、茂みや障害物の影を利用して
その筋肉質な体を影に隠しつつ、玲と距離が離れすぎないようにゆっくりと石川家の裏口へ向かって行く。
ジブリルはそこで「待て」の状態で座り込んでいる。二人が裏口についた時に「来い」と命令すれば、
ジブリルはその俊足を使って一気に裏口まで走ってくるだろう。
58志村晴竜&雨竜 :2018/01/20(土)18:15:40 ID:???
【前日/23時35分24秒】
【志村家】

数日前から夏休みだと言うのに、弟が部屋にこもりがちで出てこない。
前々からインドア派だったけど、こんなことなどなかった。一日中、部屋から出てこないなんてことは…一度も。

「おい、雨(あめ)…一体どうした?最近お前、なんかおかしいぞ…」

少し苛立ちを募らせた声で、一人の男子中学生『志村 晴竜』は双子の弟『雨竜』の愛称を呼び、反応を待つ。
時刻は23時30分を超えていて、普通ならお互い自室で寝ている時間だ。
だけど、今日は何故か兄の晴竜は全く眠れず、それどころか妙な胸騒ぎを覚えてふと弟の部屋の前でこうして呼びかけたのだ。

『兄さん…起きてるの…?』

ようやくドア越しに聞こえた雨竜の声は、以上に怯え、震えた声だった。
雨竜が何もない時にここまで怯えた声を出した記憶はなく、晴竜は自分の胸騒ぎも相まって―

「雨、部屋入るぞ」

と、自分も少し不安の混じる声で返答し、ノックもせずに雨竜の部屋へと入り込む。
部屋の中にいた雨竜は、布団の上に座り込んだままとても不安そうな顔で時を刻む音を鳴らす時計をジッと見つめていた。
眠れないのか…そう思った晴竜は雨竜の隣に座り、もう光を映さないとずっと閉じていた眼を見開いている弟の顔を見やった。

『僕の顔…怖いって顔してるね…。なんでかな?今日一日中、時計の音が気になって仕方ないんだ。
そして、夜が近づいてくると、何かわからない…凄く不安で、怖くて、どうしようもないんだ。
まるで、この世の終わりみたいな…例えようのないなにか……』

幻視で自身の表情のことを語り、一日中部屋から出られないほどの原因である不安を語る雨竜に

「おい、雨!縁起でもないこと言うな…なんて怒鳴れないか。奇遇だな…俺も何故か眠れないんだ。
胸騒ぎがしてそれどころじゃねぇ…なんだ、この感覚…今日ばかりは俺もなんかおかしい。生まれて初めてだ、こんな感覚。」


晴竜は「俺達は双子だ。嫌でもお互いの危険とか変に分かっちまうだろ?」と普段は言わない言葉遣いで
雨竜を気遣うように語り掛けると、何も見えない目を閉じて蹲る雨竜の背中をさすって少しでも落ち着かせようとした。
59志村晴竜&雨竜 :2018/01/20(土)18:23:13 ID:???
【1日目/0時15分41秒】
【小目標:身を隠せる場所に到達する】


双子の感じる止まぬ不安は治まるどころかお互いに膨れ上がるばかりで、気が付けば、日付が変わろうとしていた。その時…

『うわああああああああああ!!!!なにこれ…なにこれぇ!?兄さんの顔が見えない!どこに行ったの?外の景色が見えるよ!?上粗戸も下粗戸もぐちゃぐちゃに見えるよ!!目が回りそうだよ!ねえ!ねえ!なんなのこれ!?怖いよ!!』

突然パニックを起こして怯え、騒ぎ出す雨竜に兄の晴竜は驚くも、弟の怯えと同時に全身に鳥肌が立つような感覚に襲われ、彼もまたとてつもない不安につぶされそうになった。

「雨!雨!俺はここにいる!大丈夫だ、雨!俺に集中しろ!俺だけに意識向けろ!大丈夫だから…」

お互いの不安をかき消そうと、晴竜は弟雨竜を抱きしめる。反射的に雨竜も兄にしがみつき、震えながら必死に目まぐるしくノイズで三半規管がやられそうな幻視を、ずっと兄の晴竜の目に向かって集中した。未だお互いの震えが収まらぬ中、
時計の音すら聞こえなくなって来たところで雨竜はようやく自身の部屋の壁の一角と自分の体を映す兄の視界を無事ジャックし、取り乱していた心は落ち着いてきた。

『兄さん………感じる?村がおかしいよ…なんか、ぐにゃって歪んでるような空気になってるんだ。それに、時計の音が聞こえない。止まっちゃったの?買ったばかりなのに…』

治まらない胸騒ぎ。未だに不安を訴える雨竜の言葉に

「なんか…雨の言う通りだ。空気がおかしい。しかも、なんて静かなんだ…」

異様に変わった村の空気に、晴竜は戸惑った。弟もこんなに腰が引けて怯えている…親も今日は遅くなるからと言って外出し、夜中に帰ってくる予定だった。これからどうしたらいいんだろう…どうしたらいい。そう途方に暮れかけたその時…

『兄さん、これが…もしかしたらお爺ちゃんの言ってた村の異変なのかな?』

唐突にそんなことを言いだした、目を閉じていつの間にか怯えの感情が消えた雨竜の顔を晴竜は驚いて見つめた。

『兄さん…僕、このままじゃいけない。そんな気がするんだ…でも、どうしたらいい?僕は目が見えないから、兄さんの目を借りないとうまく歩けない。でも、このままここにいてもダメだ。』

雨竜の言葉で晴竜も思い出す。祖父が幼い頃自分達に行っていた言葉を。
“晴竜、雨竜や。わしら志村家はな…村の異変をどういうわけか知ってしまう家系なんだ。お前達孫が、そんな力を感じることもなく平和に生きてくれればいいんだがなぁ…”
祖父の言葉を思い出したとき、晴竜は何かを決心して立ち上がる。

『兄さん?』

首だけを自分に向けて、兄の見つめる視界を見る弟に、晴竜はこう言った。

「雨、少し待ってろ。兄ちゃん、バット取ってくる。何かあった時に使えるし…雨はここで待ってろ」

異様な空気に包まれる村を歩くためには、危険に対処する何かがないといけない。晴竜はスポーツ好きな自分の愛用する練習用の木製バット一本でも持っていこうと立ち上がったのだが…

『兄さん、僕も行く。僕が兄さんの周りを守る。どうせ見えない目なんだ…兄さんの視界以外を見れば…』

晴竜はもうわかっていた。雨竜の言葉の先を。晴竜は雨竜の言葉を遮って

「よし、行くぞ。村がおかしいってわかってるの、ここにいるのは俺達だけだと思う。雨、俺がお前のことを守るから、雨は俺の周りのことを探ってくれ。きっと、いや…絶対いける。謎を突き止めるんだ。」

晴竜の声に黙ってうなずく雨竜の顔を確認し、雨竜も兄の視界を借りてやっと部屋から出た。寝間着から動きやすい服に着替え、兄の部屋に置かれている木製バットを取りに行き、
二人は深呼吸した後、異様な空気に包まれた家の外へと、玄関の戸を開けて夜の闇に包まれた不気味に静まり返った村へと同時に足を踏み出した。
60有沢 玲◆uTtdYomZuE :2018/01/20(土)23:18:45 ID:???
【上粗戸/石川家】

 首輪が持ち主たるジブリルのもとに戻されたのち、飛鳥は石川家の様子を語ってくれた。彼女によれば、そこには誰もいなかったらしい。

「まだ戻ってない……」

 そう玲は小さく呟く。布団の中のダミー、更に両親の姿もないことから推測し彼は低い声で語る。

「……あいつはこっそり肝試しに集まって、それで戻ってこなかったんだ。それで親が心配して探しに出掛けたんだと思う」

 表情からは友人の安否を気にして不安の色が窺えるが、ジブリルが敏感に“何か”の気配を察して唸る様子を見ていると、人の心配をしている場合ではないという状況はイヤでも分かる。

「うん」

 石川家の中で休憩をしようという飛鳥の提案に賛同し、彼女の合図と共にその影を追い掛けた。周囲にいるであろう者に気付かれないようにしつつ、閂をした玄関とは反対の裏口へと向かうのだ。
 そうして二人で裏口までたどり着いたとき、玲は向こうで待っているジブリルを飛鳥が呼ぶのを待っていた。

新着レスの表示 | ここまで読んだ

名前: mail:





【羽生蛇村】SIRENの世界で…【ロールスレ】
CRITEO