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【ほのぼのとした夏と】ファンタジーライフPart.5【平穏な日常】

1レクス◆L1x45m6BVM:17/08/09(水)22:50:54 ID:Nn8
ファンタジーな世界のとある町
様々な種族が暮らす町では、毎日色んな出来事が起きています
喧嘩をしたり、一緒に遊んだり、意見の交換をしあったり
もちろんみんな仲良くなどとはいかないでしょうが、穏やかな日々が流れる休憩所です
あなたも、もし良ければ休んでいきませんか?

《スレッドの説明》
ここはファンタジー日常なりきりです
この世界では科学技術は殆ど発展していません。文明の基準としては十四世紀程度と考えてください。ですが、服装や食べ物などの娯楽面の規制は緩いのであまり気にしなくていいと思います
キャラクターの種族は何でもありですが、ファンタジーの世界観を損なうものであると判断された場合は使用を控えていただく事になるでしょう
キャラクターの設定は雑談スレッドに投下し、参加者が内容を見て問題が無ければ使用が可能となります
また、キャラクターには世界観などとの兼ね合いもあり、あまりに世界観からかけ離れている者、町や周りのキャラに著しい被害を及ぼす者、不自然な者、強過ぎると判断された者は禁止しています
ロールは相手がいて成り立つ遊びです。ルールを守って楽しいロールをしましょう!
次スレは>>950が立ててください!

《参加方法》
①キャラクターを作る
②みんなに見てもらう
③そのキャラクターでロールが出来ます!

《キャラクターテンプレート》
【名前】
【性別】
【年齢】
【容姿】
【性格】
【能力】
【持ち物】
【職業】
【背景】

wiki《http://www65.atwiki.jp/fantasylifel/

※前スレ
http://kohada.open2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1485088568/
 
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-0
2【24】 ウィーディー◆w95EvFlUF1.9:17/08/15(火)21:08:11 ID:5Oi
アタス川。
アタスの山頂付近に滾々と湧く水源が沼地に注ぐまでの、山麓に流れる爽やかな渓流。
この川に訪れるロアール民は、ある自然災害に悩まされていた……

「今年もツルヤシがよく流れてくるだな」
「んだんだ、今年は豊作だ、んめなぁ」
「んめんめ……あっ!?アレがきたど!逃げろぉぉー!」

上流から流れてきたのはおいしいツルヤシ……ではなく、転がり落ちてくる巨大スイカ!
そう、この時期アタス川はウォーターフォールメロン警報が発令されているのだ。
この巨大スイカにぶっ飛ばされてもいいという覚悟を持った恐れ知らずだけが、ツルヤシに有り付くことを許される。
そしてこのスイカを見事打ち破った猛者だけが―――――

「うりゃーーー!!!」

ゴロゴロゴロゴロ プチッ ゴロゴロゴロゴロ……

――――そう簡単に打ち破らせてはくれない。現実はスイカのように甘くはないのだ。
ぺしゃんこにされたウィーディーが、ペラペラと羊皮紙のような音を立て風に吹かれて飛んでいった。
3【24】レクス◆L1x45m6BVM:17/08/15(火)21:21:39 ID:SuC
>>2
早速スイカの餌食になった知り合いが飛ばされている光景を目撃する竜人。

「うおぅ……早速食いに来たらとんでもねえ場面に遭遇してんな」
「つかあいつらもどこ行った? ……まあ大丈夫か」

ツルヤシを食べに来たのは言動からよくわかる。ただし飛ばされる知り合いを見て尻尾が垂れて地面を擦っているのだが。
一応呼び掛けてみるが。

「今日は旦那は一緒じゃねーのかー? 先に頂いと――」

バシャア!

そんな水気たっぷりの爆発音と供に飛来してきたスイカ汁と種まみれになる竜人。べたべたする体を今すぐ洗い流したいが……無論人が下流に居るかもしれないのだからできない。

「スイカって爆発するもんだったか……?」

甘い汁が口に入って来たので、それだけは飲んで気を取り直してツルヤシをとる配置につく。既に転がったり破裂した後なのだ、きっと大丈夫――。
4【22】 海竜夫妻◆w95EvFlUF1.9:17/08/15(火)21:38:09 ID:5Oi
>>3

「うう……頼んだレクス……アタシのスイカの仇を取っ……ガクッ」
「よしよし痛いの痛いの飛んでけ〜……あっ甘い、よく熟れてますね」

飛び散ったスイカまみれになって倒れるウィーディーを介抱しつつ、スイカをぺろっと味見するリーフィー。
ただ、収穫の度に爆発するのでは商売もあったものではない。むしろ兵器としての活用が期待できないこともないような気がする。
と、振り向く間も無くウィーディーもすぐ立ち直っていた。

「よしよし来たァ!!!力がみなぎる!よっしゃ来いやスイカァ!」

また随分と短絡的な性格だが、立ち直りが早いのは良いことである。
何せこれから怒涛のスイカ千本ノックという地獄の火蓋が切って落とされるのだから……

直後、ウィーディーは再びスイカまみれになって宙を舞っていたのだった。
5【29】レクス◆L1x45m6BVM:17/08/15(火)21:58:56 ID:SuC
>>4

そして当のレクスすら爆発の餌食になっている有り様である、いや直撃の分さらに酷いかもしれない。
油断していたところに近づかれてドカーンだったのでレクスもよろめいていた。

「おう……爆発でお出迎えしてきてるぞ、なんだここのスイカ……」

まさかの三連続爆発にレクスは目が痛くなっていた。主にスイカの汁が原因で。
目を川で洗い流し、何故かリーフィーの側で祈るような仕種をしてもう一度川に向かっていった。

「ス、スイカって爆発するんだ……」

しれっと川を流れる貝殻に鎮座していたシェルフィが流れながらそう呟いた。登場が唐突すぎる。

「まずはスイカ仕留めろってか! もう爆発が来ても驚かねえぞ!!」

シャオラ! とお盆を構えるレクスとはとても対照的である。
6【64】 海竜夫妻◆w95EvFlUF1.9:17/08/15(火)22:16:33 ID:5Oi
>>5

爆発四散したスイカの汁で辺りは血の池地獄さながらのスプラッタな光景に染まっていた。
リーフィーはそんな紅の雨にもマケズ、日傘を振るって淑やかにスイカ汁を撥ね退ける。
結局破片が顔に直撃したりしていて全ては避けきれていないが。

「うぶっ、ぺっぺっ、この地方のスイカは中々に凶暴です……」

一方ウィーディーは相変わらず薄い服装でスイカ汁まみれになっている事は意にも介さず。

「むしゃむしゃ、そうよ爆発する分だけ割る手間が省けるってもんだわ!」

おボンを構え、三叉槍で転がってくるスイカに全力で突貫している。
確かに海竜人の体はこの程度ダメージにもならない程頑丈だが、こうもスイカにぶちのめされていると流石に可哀想になってくる。
シェルフィの前にドザエモンじみた一般海竜人女性が流れ去ることだろう。

レクスの目の前には、先程とは打って変わって普通サイズのスイカが転がってくるだろう。
その中身を味見するか、顔面に直撃でもすれば、そのスイカの中身が普通でない事はすぐ解かるであろうが……
7【25】レクス◆L1x45m6BVM:17/08/15(火)22:25:55 ID:SuC
>>6

「わー、べたべたしてる……」

こっちにも破片が飛んできたらしく、岸に上がってきてシェルフィはスイカの汁をごしごし拭いて、破片をつまみ食いしている。
ある意味誰かが被害に遭った後がチャンスなのかもしれない。

「あわわ……な、流されちゃう……」

どこからか取り出したわりと強靭なタイプの海藻(食用)をウィーディーに投げつけて引っかけようとしている。哀れみに近い対処よ。

「…………せいっ!!」

お盆を振るって破壊せんとした時だった――。
スイカの通り道に小石があったせいで、スイカは見事に跳ね上がり、競技があれば満点を獲得できそうなほどきれいな放物線を描いて――グシャッ。

「…………ぐはっ」

レクスの顔面で砕けたスイカはアルコールの含んだ身を一部レクスの口に届けていた。

「スイカって酒の味するもんだっけか……?」

若干赤らんでるのは、羞恥なのか酒のせいなのかそれとも打撃ダメージのせいなのか。
どちらに向かったともわからない巨大スイカの存在をスルーするほどレクスは己のスイカ知識を疑い始めていた。


「!!?」

そしてそのツケを海竜夫妻のどちらか、または両方と共に受けるのがこの貝殻娘であることは想像に難くない。
8【0】 海竜夫妻◆w95EvFlUF1.9:17/08/15(火)22:46:28 ID:5Oi
>>7

「うう、バトンタッチ……」
長い海藻に雁字搦めの菱縄縛りにされて水揚げされる一般肉壁海竜人女性。
スイカの破片をもしゃつきながらもへとへとになり一旦夫へタスキを渡す。情けない限りだ。

「もー、しょうがないですね……」
「向こうが爆発するのならこっちも飛び道具ですよ!えいっ!えいっ!」

河原の石をえっさほいさと投げると、案の定ヒットした巨大スイカはシェルフィの目の前で大爆発を起こす。
スイカ汁が飛沫を上げ、皮が勢いよく四方八方に飛び散り、リーフィーの顔はスイカの破片と汁にまみれる。

「あう、甘くておいしいのですが、もう少し何とかならないのでしょうか……」

「おお……こ、これが東洋に伝わるBUKKAKE……」

ウィーディーも何か勘違いし始めている。
9【19】竜と貝◆L1x45m6BVM:17/08/15(火)22:54:32 ID:SuC
>>8

「ひゃぅあっっ!!?」

文字に起こすのも難しい悲鳴をシェルフィは出していた。目の前でスイカが爆発を起こせば仕方ないとしか言いようがないのだが。

「な、なにそれぇ……うぅ、甘い……おいしい……」

心臓が一瞬止まりかけるほど驚いたシェルフィは逆に冷静にスイカの処理を胃袋で行っていた。ウィーディーの発言に尋ねられるほどだ。
水分が多いおかげで消化には困っていなさそうだ。

その頃、レクスもバク転のような起き方をして頭をぶるぶる振って酔いを醒ましていた。

「どんだけ転がってくるんだよ! ツルヤシっての食えねえじゃねえか!!」

獲物横取りの如く転がってくるスイカにお盆をフルスイング!
ただのスイカなら怖いことはない、ぶっ飛ばした先に何があるかはわからないし、中身が何かもわからないが!
10海竜夫妻◆w95EvFlUF1.9:17/08/15(火)23:22:44 ID:5Oi
>>9

「ひっ、あんなの割れないですー!」

早くも音を上げはじめた奥方(旦那)の後ろに迫るは特大のウォーターフォールメロン!
ここで夫の危機を察知したウィーディー、流石に海藻の菱縄縛りを引きちぎり、おボンを持って特攻する!

「うおおおおリーフィは私が守るっ!スイカ伝説此処に再び!」

ちなみにスイカ伝説とはその昔ロアールの勇者がアタス川で精神統一の修行をしていた際、
持っていたおボンで迫りくる巨大スイカをロアールへ跳ね返したという逸話である。
そのため、この巨大スイカをロアールまで転がした者はまさしく英雄となれるのだ―――

―――というのが楽してたらふくスイカを食べたい他力本願なロアール民の作り話である事はあまり知られていない。

「ふんぬりゃあーーー!」

ボンッ、と鈍い音が響き渡り、巨大スイカは見事にウィーディーのおボンでボンされた。
その間にレクスの爆発スイカが無ければ、の話だったのだが。

「あっ」
「えっ」

おボンでボンしたと同時にスイカもボンしてボンッと爆発音が響き、海竜夫妻はお空の向こうへボンッとふっ飛ばされてしまった……

ツルヤシは、そんな彼らの不運をあざ笑うかのように、静かにシェルフィの前をサラサラと流れていくだろう―――

fin.
11竜と貝◆L1x45m6BVM:17/08/15(火)23:33:25 ID:SuC
>>10

「…………」

それにやはり巻き込まれるレクスも海竜夫妻とはまた異なる方角へ吹っ飛んでいくことになる。
叫び声は遥か先から聞こえてくる――。

「……あっ、ツルヤシだ」

「おー、嬢ちゃんよかったなあ、ほらこれつけて食いねえ」

「あっ、はーい」

流れてきたツルヤシを慌てて掬い上げて、同じくツルヤシを狙っていた気のいいお方から魚醤を頂いて、さっとつけてツルルと食す。


――おいしい――。

遠くの空に海竜夫妻と竜人の姿が見えた気が、シェルフィにはしていた。
12【65】 プシュテ◆w95EvFlUF1.9:17/08/16(水)16:12:45 ID:Hxj
この時期のロアールは、ちょうどコスタ・ノエから魚醤が輸入品として送られてくる。
故にこの魚醤をほどよく水で薄め、旬の山菜を入れていただくツルヤシはロアール民にとっておいしい夏の贅沢。

しかし、このツルヤシの取れる川には、ある魔物が潜んでいた……
アタス川。ロアールに程近いこの清流は夏の青空と日差しでキラキラとアタスニウムのように輝きを放つ。
……そして、今日も上流から巨大スイカが猛スピードで襲いかかってくる!
えっツルヤシ?ごめんなさいねそれレアキャラなんですよ、どうにも人気なもんで

「外角高めストレート……狙いは付けづらいけど、当てれば一番飛ぶ……!」

ロアール伝書櫓より羽根の魔女プシュテブルメ選手、アウトハイ高めを狙ってお盆を振りかぶるッ!
13セレネ 【58】55Rq1Tu8Bo:17/08/16(水)16:27:55 ID:xuh
>>12
「…………あー、あんた。大丈夫?」

この日セレネは、夏季休暇のためにコスタ・ノエを離れていた。
この一帯にアルコールスイカなるものがあるらしいと聞き、おボン片手にアタス山まで赴いたのだが……
まさか目の前で、人がスイカに轢かれるという珍事を目撃するハメになるとは。

「や……話には聞いてたけど――うん、これは」
「アルコールスイカとやらを持って帰るのは……だいぶ苦労しそう、だよ、ねっ……!」

周囲を見ればゴロゴロゴロゴロと上流から転がってくるスイカ、スイカ、スイカ。
視線を前に戻すと、真正面からもゴロゴロとスイカが迫ってくる!
このままボサッとしていては、プシュテブルメの二の舞になるのは明らか。
よし、と気合を込め――ダンジョンで鍛えた腕力でまずは一発目のおボンを振るう!
14リリン・カマル【5】hHo5Paj/Yc:17/08/16(水)16:31:41 ID:vTx
>>12>>13
夏。人々が暑さに悶えながら酷暑を凌ぐために知恵を絞る季節。
ここロアールでもそんな酷暑を少しでも和らげるための夏特有のイベントが繰り広げられようとしていたのである。
知ってる人は知っている。知らない人は覚えてね。真っ赤な果肉と果汁が乱れ飛ぶ狂気の祭り、これがスイカ転がしである。ついでにおボンもね。

さてこのアタス川沿いにそんな過酷で奇天烈極まりないイベントの事など一切知らずに歩く少女が一人。
そう、リリンである。

「川はまだ涼しいから快適でいいね……。こんな日に家になんていてられないよ……」

リリンもこの猛暑に耐え切れず、避暑地を求めてこの川沿いにまでやって来た様子。
だが不幸なことにこの時期のアタス川で繰り広げられる行いごとを知らなかったのである。

「……んん? 何の音?」

背後から迫りくる謎の風切り音と地鳴り。振り向いた先にあったものは……バカデカいスイカであった。
少なくとも自身の背丈はあるだろうという巨大スイカがリリンめがけて転がり込んでいたのである。
あまりの光景に地面に足を打ち付けたようにその場に硬直するリリン。まあ無理はない。気分はさながら某遺跡荒らしの考古学者のようで。

「……あ、あわわわわわ……。ど、どどどーしよう……」

対抗手段もほとんどなく、本人にスイカを打ち破るほどのパワーも存在しないこのままいけば間違いなく跳ね飛ばされるコース。
果たして奇跡が起きるか喜劇が起きるか。結末はおそらく二つに一つ。
15【59】w95EvFlUF1.9:17/08/16(水)16:44:30 ID:Hxj
>>13
>>14

ぺらぺらとなめし革のような音を立ててプシュテが風に飛ばされていく。
セカンド上方抜けていく高い高い、これはホームラン(帰宅的な意味で)かー?

「よっと!プシュテもいたのね、ほらスイカ狩りするよっ!」

いやピチカータ選手が空中でキャッチ!まだ試合は始まったばかりです!
もふもふした黄色い羽根をはためかせ、同じくペラペラに潰されたセレネの上に舞い降りる。

「今年のスイカは中々に凶悪ね……すでに犠牲者が二人も出てるわ……おっ?キミなかなかやるじゃん!」

幸運にもうまくスイカをボンできたリリンであるが、実質このスイカ千本ノックという戦場に放り込まれてしまったという点を見ると……

「あっ羽根がモフい……これはピチカ……」

おっとプシュテ選手、力を取り戻したようです!
プシュテ選手は羽根の為なら命を賭す魔女ですからね、羽根をモフってエネルギーを貰ったのでしょう。
16セレネ 【65】55Rq1Tu8Bo:17/08/16(水)16:53:23 ID:xuh
>>15>>16
「…………。…………。」

へんじが ない。
ペラペラの ようだ。▼

「う、うぅ……そ、その声はリリン……」
「す、スイカを……アルコー……スイ……を……」

いや、蚊の鳴くような声だがかろうじて返事はあった!
遺言のような言葉だが、アルコールスイカへの執念は本物!
ペラペラ状態のままであっても、頑張っておボンをぺこぺこと振ろうとしているのだが……
このままではスイカがきても碌に打ち返せることなくまた轢かれてしまう!
17リリン・カマル【50】hHo5Paj/Yc:17/08/16(水)16:59:47 ID:vTx
>>15>>16
さあさあそこのけそこのけ俺様が通ると言わんばかりに一直線に転がり落ちる巨大スイカ。
もはや逃れる術はないと悟ったリリンは頭を抱えてその場にふさぎ込む。これでは激突確定。ここには神もへったくれも存在しないのか。

その時不思議な事が起こった。スイカがリリンを突き飛ばそうとするほんの一瞬にして、スイカが謎の爆発に見舞われたのである。
当然真っ赤な果汁と果肉によって全身ずぶ濡れの濡れ鼠となるリリン。本人は状況を理解できずに茫然とするばかり。

「…………な、何があったの……? 私……轢かれちゃったんじゃ……?」

周囲に入る方々は確認できたであろうか。先ほどのスイカの爆発が外部の要因によって引き起こされていたことを。
ちょうど川沿いに生える木の陰からガタイのいい半袖シャツを着た男が果汁の滴る鞭を手に持ったまま、リリンの事を心配そうに眺めていることを。
そう、この男こそが先ほどのスイカを叩き割った犯人。リリンの実の父親、ノームである。今日も地元の仕事をすっぽかしての参戦。娘のためならえんやこら。

「……どうなってるの、ココって……」
「ってセレネさん!? どうしたんですかその姿! ココにいたらまたさっきのスイカに襲われちゃいますよ!」

ようやく落ち着きを取り戻したリリンが周囲を確認すれば、そこには紙のようにペラペラに平べったくなっていた顔見知り。
安全域まで引っ張ろうとするが、リリンの力ではとても敵わない。非力な女の子には脱力したヒトの身体は重すぎた。
とりあえずおボンを回収し、再び迫りくるであろう脅威に向けて身構える。
18【56】w95EvFlUF1.9:17/08/16(水)17:13:51 ID:Hxj
>>16
>>17

「おねーさん大丈夫ー?あれっ、もしかして船で会った人?」

持参した空気入れでシュコシュコとセレネに空気を送る。
……が、膨らました直後に再び轢かれたせいで空気はむなしくもブブブブベベバと吹き出していってしまった……

「あーだめだこりゃ、スイカ、スイカ食べよ、この子が割ってくれたの!」

リリンの父親の割ったスイカは適度に川で冷やされている。
シャクシャクとスイカが喉を通るだろう。
暑い日にはこのくらい無いとやってられない。できればこれにアルコールが入っていれば尚良いのだが。

「インコース低め……ボンを下構えで……」

プチッ

ああっとプシュテ選手、おボンが振るいません。何やらペラペラした物体が増え続けていますねー
今日のアタス川、苦戦が続いております。果たしてツルヤシには有りつけるのか……?
19セレネ 【3】55Rq1Tu8Bo:17/08/16(水)17:25:32 ID:xuh
>>17
「さ、さっきの……うぅ……」
「そ……そうだ……あ、あたしはまだ諦めるわけ、には……」

「アルコールスイカを食べながら……ロアールの温泉に入るん、だから――!」

だめだこの大人。
おまけにぶん、とおボンを振ったところでまたべちこんとスイカの急襲。
ロアールのスイカに轢かれちゃあ自慢のミノタウルスボディだってひとたまりもないのだ!

だが、ピチカータがスイカを分けてくれたことで多少は気力が復活してきたのだろう。
ふるふるとおボンを構え、2人を守るようにして立ち上がるセレネ。
その姿はさながら死地に赴く戦士のようで――

「うぅ……こ、ここは……危な……い……」
「リリン……それにハーピーの子だけでも……安全な……場所、に……」

――ぷちっ。
しかし……しかし……っ!忠告をしようにも、すでにスイカは襲ってきていた……!
目の前で轢かれていく数名。飛び散る赤い果肉。
もはやアタス川周辺は轢死体とスイカで死屍累々だ!

その光景に思わず膝をつきかけるセレネ。だがやはり、構えたおボンを下すのはプライドが許さない!
なんど轢かれようと立ち上がる……それがトレジャーハンターセレネなのだ!
20リリン・カマル【45】hHo5Paj/Yc:17/08/16(水)17:33:43 ID:vTx
>>18>>19
おボンなんて身構えてるから本当に次のスイカがやってくる。
背中のセレネを守るためにおボンを自身の持つ渾身の力を込めて振り下ろす。

「せ、せりゃーーーッ!!」ベチョ

無理でした。おボンは転がるスイカの外皮に傷一つ付けることも出来ずに弾かれ、哀れリリンもスイカの下敷きに。
見事に背後のセレネと一緒にペラペラになり爽やかな川から吹く風に吹かれて浮き上がる。三者、いや四者アウト。チェンジは認められておりません。

しかしこのタイミングで援護射撃が来なかったとなると、先ほどの人物は何をしていたのだろうか。
そこには声にならない驚嘆の叫びを上げるパパンが。だが姿は木の後ろから表そうとはしない。これも愛娘への試練か。握っている木の幹がミシミシ鳴っておりますが。

口に運ばれたスイカにより何とか復活。冷たい感触が喉を潤す。匂いは先ほどから嫌と言うほど堪能しているけど。
とりあえず自力で動けるほどには回復したので這いずってでも移動を……という矢先に再びスイカが転がり込む。そして増える犠牲者。

「も、もう帰る……」
「こんな事になるくらいなら……お家にいる方がマシ……」

逃げ出そうとしていたリリンの前に立ちはだかるセレネ。
その姿は今まで見た彼女の姿の中で一番輝いているように見えたとか。状況が状況だけど。

「わかりました……、このヒトたちは……私が責任を持って連れていきますから……」
「セレネさんも……どうかお気を付けて……!」

普段なら亜人を見ただけでも気絶してしまう彼女だが、責任感だけは無駄にあったのだ。それにこの非常事態にそんなことは言ってられない。
ペラペラの亜人二人組を片手ずつ引きずりながら引っ張って移動させようと奮闘する。
さあ無事に運ぶことができるのか。スイカの脅威はすぐそこまで来ている。
21【69】w95EvFlUF1.9:17/08/16(水)17:51:09 ID:Hxj
>>19
>>20

セレネ選手渾身の一振り!スイカはボンされ、川原の岩に直撃して見事なスイカ割りとなる。
全部これだったらどんなにありがたい事か!

「お、おねーさん……どうか無事でっ………」

ピチカは紙になったままセレネにあふれんばかりの尊敬のまなざしを向けていた。
が、幾ら何でも今日のスイカは殺意が高すぎる。既に全員がスイカに轢かれ済みという惨状。
プシュテは今日通算3回のスイカプレスで脅威の薄さとなっていた。もはや巻いてバットに出来るレベル。
さすがに撤退を余儀なくされる一行だったが、リリンの足元に情けとばかりにツルヤシの入った実が転がってくる。
これは川の水で伸ばされる前のツルヤシだ。お家で茹でて食べよう。
幸か不幸かリリンはなんとか景品を持ち帰ることに成功した。

木陰でプシュテを膨らませると、プシュテは普通の人間の魔女であることが判明する。伝書櫓と言っても飛べる人間は普通に居るのだ。
ピチカもペラペラから回復すると、リリンの腕の中でモフを取り戻すが……さて……?
22セレネ 【5】55Rq1Tu8Bo:17/08/16(水)17:59:08 ID:xuh
>>20>>21
バコ――ンッッ!

砕け散る緑の悪魔!飛び散る赤の煌めき!
セレネは見事に使命を果たすことが出来たのだ……!

「よっ……しゃあ!はっはー!このあたしにかかっちゃあスイカなんてこーんなもん!」
「あーっはっはっはっはっはっは!どーだスイカめ!もーっとかかってこーい!」
「リリーン!ハーピーの子ー!スイカはあたしが全部打ち返しちゃうからねー!」

おボン片手に高笑いするセレネ。
2度もスイカに轢かれたことはすでに記憶から消されているらしい。
こうもいきなり調子に乗っては後が怖い……のだが。彼女自身はそう思っていない模様。
ぶんぶんとおボンを素振りし、次なるスイカの攻撃に備えるが――!?
23リリン・カマル【85】hHo5Paj/Yc:17/08/16(水)18:16:14 ID:vTx
>>21>>22
後始末をセレネに任せたままスイカの及ばない場所への退却の道を進む一行。
道中、リリンの足元に見知らぬ実が転がり込む。当初は身構えたが、何事も起きないので警戒を解く。

ここまで酷い目に合って来たのに何も土産の一つもない事が気になったのか、先ほどの身を頭の上に乗せて進んでいく。
家にてこの果実とおっかなびっくりの格闘を繰り広げることになるのだが、それはまた別のお話。

「ハア……ハア……ふう。ここまで来れば……大丈夫かな……」

とある木陰まで避難することに成功した一行。先ほどの二人を安静にさせ膨らませる。
面白いように平べったくなっているヒトが膨らんでいく様は、滑稽なようで、不気味でもあって。
しかし問題はまだあった。膨らませたことでこの二人組がどのような人物であるのかを知ってしまったのだ。

「こんなに空気入れちゃって大丈夫だったのかな……。破裂しちゃったりしないよね?」
「あれ……このヒトもふもふ……モフモフ!? ヒトじゃない!?」

「あばばばばばばべべべばべべばべべばば……」

落ち着いた状態でピチカの全容を目の当たりにしてしまったリリンは見事に泡を吹いて失神。まあそうなるよね。
先ほどまでとは立場も状態も反転。こればかりはどうしようもないのである。

だが、背後の木からとある人物が姿を現す。先ほどからずっと付いてきていた愛娘ストーカーのパパンだ。

『私の娘が世話になった。どうか私のことは他言無言でお願いしたい。いいね?』

二人にお願いすると、スイカまみれのリリンとお土産のツルヤシの実を抱えて去っていくのであった。
その後、リリンは無事にロアールまで送り届けられ、朝までぐっすり眠っていたという。本人はどうやって帰ったか覚えてないけどね。
24ピチカプシュテ◆w95EvFlUF1.9:17/08/16(水)18:32:14 ID:Hxj
>>22
>>23

「うっ、うーん……今日はあまりにも不作……あいてっ」
空から降ってきたそれは……ドラグーンフルーツ。竜に寄生する珍しい果物だ。
戦果としてはあまりにもしょっぱいが、幸いこのフルーツも甘いのでこれを持ち帰るしかないだろう。

「あっ、はい……何か娘さんにご迷惑お掛けしました……」

ワサガニのように泡を吹きツルヤシのように伸びたリリンが担がれていく姿を、ピチカはフルーツを抱えて眺めるしかなかった。

そして転がってきたのは特大のウォーターフォールメロン!
いくらセレネとは言えこの化け物サイズをボンするのは―――
―――が、ここで運が味方したのか、スイカは川原の石で跳ねながら絶妙な力加減で見事にボンされてしまった。
そのままスイカは木陰で休むピチカとプシュテへ。

「ひ、ひーっ!こっちくんにゃあー!!!」
「しょうがないな……それ持って帰るよ……箒よ」

プシュテはピチカを抱えて箒に乗り、ロアールへすっ飛んでいく。かくして、3者凡退で今日のおボンはペラペラな結果に終わった……
あれだけ上から転がってきていたスイカは、ピークが過ぎたのかピタリと止み、元の清流がサラサラと流れる。
セレネの立つ川原には、到底食べきれない量の真っ赤なスイカの残骸だけが広がっていた。
今ツルヤシを取ればいいのでは?とかそんな野暮な事は聞いてはいけないのである。
25セレネ 【7】55Rq1Tu8Bo:17/08/16(水)18:43:59 ID:xuh
>>23>>24

「げ」

いくらダンジョンでテラーホーンと刃を交えたことがあるとはいえ、この重量のスイカを抑えきれるだろうか!
しかも装備はおボン×1。いつもの大斧なら割るなり裂くなりの手段が取れるが、おボンじゃどうしようもない!
だが転がってきた以上、打たねばならぬのがおボンを持つものの運命。

「え、ちょ。あ……あーーーーー!もう!!!」
「どぉおおおにでも!!!なぁああああれぇえええええいっっ!」

南無三!とばかりにおボンを振ったァ――!
そのまま砕けるスイカ!血飛沫のごとき果汁を真正面から浴びるセレネ!

ミーンミンミンミンミンミンミン…………

……そしてそのひと玉を最後に、アタス川には平穏が戻ってきた。
さらさらとしたすまし顔の清流には、ツルヤシが涼しげに流れている。
だが、今のセレネにとって重要なのは……

「こ…………」

「…………こんなの、食べきれないよーーーー!!!!!」

目の前にある大量のスイカをどうするか、ということだった。
26セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/08/21(月)21:26:00 ID:6SR
ロアール近郊――唐間温泉。
この温泉は普段からロアールの住人たちに親しまれているが、なにも彼らだけが使うわけでもない。
町を訪れる旅人や、温泉目当ての湯治客……中には大人しい魔物が湯に浸かりに来ることだってある。
それにしても、今日の客人はどうやら酒好きらしい。
湯けむりに混じっているのは、隠しようもなく酒の香りだった。

「ぶーーーっはぁあああああ!!!」
「やー、そうそうこれこれ!やーっぱ休みってのはこーでなくっちゃねえ!」

……温泉のど真ん中に酒呑みセット入りの桶を浮かべて酔っ払っているのは、どこぞのミノタウルス族な自警団員。
添えてあるつまみは木の実だのスイカだのと雑多なものだ。
既に顔は赤い。この場に誰が来ようとも、彼女は歓迎しそうな雰囲気だった。
27アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/08/21(月)21:50:26 ID:lwP
>>26
アルコールの香り漂う湯煙温泉に新たな客人の来訪を告げる水音が鳴る。
ちゃぷり、ちゃぷりと水の音の籠った足音を鳴らして浴槽へと赴く人物の背中には大きな蝙蝠羽。ついでに頭にもおまけで一対。
少々青白い肌を出しながらやって来るのは近頃近辺に再び顔を出し始めた件の吸血鬼であった。

「ここの温泉なら昔入って無事だったから大丈夫なはずーっと……」
「ふう……、たまにはゆっくり浸かるのもオツなものねー」

「あら、アナタはいつぞやの自警団の。こんな所で堂々とご休憩かしら?」

背中の羽を身体全身に巻きつけながらゆっくりと湯船へ浸かっていく。
温泉が呼びこむ引力は吸血鬼といった種族にも通用するらしい。流水への恐怖すら忘れてしまいそうになる程度には。

湯船にいる先客が抱える晩酌セットに気づけば、持ち主の了承もなしに桶に乗せられているツマミへと手を伸ばす。
オマエのモノはオレのモノと言わんばかりのジャイアニズム精神に溢れる行動である。
28セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/08/21(月)21:59:38 ID:6SR
>>27
「ん~~~、んん?」
「あー、あんたあのサザエ小屋の吸血鬼じゃん!」
「あたしは休暇だよきゅ、う、か。自警団だってずーっと働き詰めってワケにもいかないしねえ」

「ってえちょっとちょっと!食べるならまずはこっちね、こっち食べてこっち」

こんなとこであんたこそ何やってんの、と言いつつスイカがもっさり盛られた皿をずいっと相手の方に押し出す。
諸事情でスイカには困っていないのだ。むしろ早く消費したいくらい。
種入れと思われる小皿の中には既に種がたくさん。
スイカを押し付けるにはちょうどいい相手が来た、だなんて思っていたりするセレネだ。
29アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/08/21(月)22:16:35 ID:lwP
>>28
「ま、適当に頑張りなさいな。ワタシみたいなのが暴れても対処できるようにはしときなさいよ」

「……何よ、この大量のスイカは。パーティーでもやったわけ?」
「待って。スイカスイカ……。ああ、アナタ、アタス川の上流まで行ってたのね」
「毎年毎年よくもまあ飽きずに割ってくるものねえ。お仕事の方はちゃんとやってるのかしら?」

木の実へ向けて伸びていたはずの手の行先はいつの間にか山盛りのスイカへとすり替えられていて。
このスイカの供給先の心当たりはあるらしい。昼間でなければ彼女も向かっていたのはここだけの話。
とはいえ出されたモノは頂くのが礼儀と言うもの。スイカの山の上から赤い果肉を口の中へと放り込む。
ちなみに種も皮も出さずに生でボリボリ頂いている。廃棄物の出ない環境に優しい食べっぷり。
30セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/08/21(月)22:31:57 ID:6SR
>>29
「暴れる前に止めれるのが一番なんだけどねえ?」

だから暴れないでよね、と言いたげな目でアマンディーヌを見るセレネ。
やはり吸血鬼というだけで、多少の偏見はあるらしい。

「あ、そうそう。アルコールスイカってのがあるって聞いてさあ、行ってみたんだけど」
「でも割っても割ってもフツーのスイカじゃん?」
「おまけに何度もスイカに轢かれるし……もーひっどい目にあったんだから!」

数日前のスイカ祭りのことを思い出したのだろう。ばっしゃーん、と軽く水面を叩くセレネ。
そのせいでゆらゆらと桶が揺れるが、酒だのつまみはなんとかひっくり返らずにすんでいた。
そしてスイカを文字どおり跡形も残さず食べていくその姿には……呆れた表情を隠しきれなかった。

「……っていうか。あんたよく種も皮も食べれるね」
「なんかこう、特に皮って青臭くない?それとも吸血鬼ってこーいうのイケちゃう感じなの?」
31アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/08/21(月)22:50:17 ID:lwP
>>30
「アナタたち自警団がしっかりしてれば大丈夫よ。ワタシも昔みたいに幼稚じゃないわ」
「……たぶんね」

若干冷酷な視線を向けられようがアマンディーヌの態度も行いも変わることはない。
このような偏見を受けても仕方ない程の行いをしてきているので仕方のない話なのではあるが。

「アルコールが入ってるスイカなんてごく一部のレア物よ。そう簡単に転がってくる訳ないわよ」
「でもこの量のスイカがあるってことはちゃんと割れたってことでしょ。しばらくツマミには困らなくていいんじゃないの?」
「辛いのならワタシが貰ってあげてもいいわよ。アナタの好きな果実酒と交換してもいいわ」

この言い分からすると以前参加したことはあるらしい。参加の動機はおそらくセレネと相違ないのだろう。だからこその言葉だ。
ついでに交換の交渉まで持ちだす始末。彼女の言う果実酒の入手先は不明。そもそもセレネの口に合うかもよくわからない代物である。
信用するかどうかは酒飲みの心次第。

「いーや、これはワタシの趣味よ。食感が気に入ってるだけ」
「なんとなーく昔吸った血の味を思い出すのよね。植物系だったのかしら」

固めの音を交えながらスイカを平らげていく。蝙蝠羽の吸血鬼がスイカを頬張る姿は何とも奇妙な光景。
32セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/08/22(火)20:30:33 ID:b1t
>>31
たぶんね、じゃなくてさ……。
そう言いかけ、やめた。
町の治安を守るために日々活動はしているが、アブないことをするヤツはするし、しないヤツはしない。
セレネに出来ることは、少しの忠告と後は日々の努力だけだ。

「レアもんだからこそ酒呑みとトレジャーハンターとしての血が騒ぐっていうかさあ……」
「それに、割れたっていうか割られに来たっていうか?」

「やー、それにしてもこれ引き取ってくれるしおまけにお酒も付くならめっちゃいい話じゃん!」
「ついでに2切れくらいチーズつけちゃおっかなー?」
「いやいや、実はそろそろスイカにも飽きてきたとこなんだよねー!」

「それにしても……スイカの皮味の血って……」

うえ、と思わず舌を出すセレネ。
青臭い血を微妙に想像してしまったのだろう。

だが、取引のことは忘れない。
スイカが盛られた皿にチーズを2切れおく。
どんな酒がもらえたところで酒は酒だ。
美味しければ幸せだし、マズかったらそのマズさを肴に笑いながら呑めばいい。
楽観的というか、めちゃめちゃポジティブな人種なのだ、彼女は。
33アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/08/22(火)21:08:40 ID:o5x
>>32
「トレジャーハンターならもっと価値のあるモノを探しに行くべきなんじゃないの?」
「前アルコールスイカは食べたけど普通にスイカだったわ。もっとアルコール強いと思ってたんだけど、残念ね」

フフ、とスイカ割りで起きた出来事を話すセレネを横目に微笑むアマンディーヌ。
以前のやんちゃで好奇心の塊であった頃の自身を何となく思い出したのだろうか。悪い気はしなかった。
どうやって日中は出られない彼女がスイカを手に入れたのかは謎である。

「なら交渉成立ね。今持ってきてる分と交換することにしましょ」
「ちょっと待ってて頂戴。今のうちに渡しておかないと忘れそうで仕方ないわ」

立ち上がり、湯船から出ていくアマンディーヌ。
少しして、湯煙の向こうから再び彼女の姿が現れる。手には見慣れない形をした容器と二つのグラス。
湯船に浮かぶ桶にそれらを乗せて、容器の中に溜められた果実酒をグラスに注ぐ。少し黄緑色をした透明なお酒。

「コレはスイカみたいな味はしないから安心なさい。アナタの口に合うかどうかは知らないけど」

片方のグラスを手に取り、セレネがもう片方も持ったならばグラスとグラスをカツンと当てる。透明感のある爽やかな音。
口を付けたグラスの中身はあっという間になくなる。アマンディーヌの顔色が若干良くなっているように見えるのは、酔いと言うよりは温泉の効果か。
34セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/08/22(火)21:37:11 ID:b1t
>>33
「いやいや、それがさー!聞いてよ!」
「こないだ海岸のそばで幽霊船騒ぎあったの覚えてる?」
「そりゃもう幽霊船ですって!絶対お宝あるじゃん?行くじゃん?」
「…………出たんですよ~~~」

だらん、と腕を垂らしお化けのポーズ。
嫌そうな表情をしているのは、彼女が大のお化け嫌いだからだ。
ちなみに吸血鬼はお化けのうちに入らないらしい。多分だが。

「あれはびっくりしたねー!だって急に触られるんだもん!」
「でもでもでもでも!幽霊に出くわしながら船を進みー!」
「呪いの唄にもめげず!ひっくり返りつつある船から奇跡の大脱出を果たした勇敢なあたーし!」
「その大冒険の末に手に入れたのが……ほら、こないだあんたも飲んだあの葡萄酒ってワケ!」
「惜しいな~、もー全部なくなっちゃったんだよねえ」
「もうちょっと取っとけばよかった……あれすっっごい美味しかったし」

――嘘とひどすぎる誇張が語られていた。

幽霊に出くわしたのは事実だし船がひっくり返ったのも事実。
だがセレネはあの時、乗船早々葡萄酒の滝に溺れていた!
本人は大仰な身振り手振りでその大冒険っぷりを誇らしげに語っているが……事実は結構しょうもなかったりするのだ。
まあ彼女自身が楽しそうだし、今のところ実害は無いに等しいのだからこれはこれでいいのかもしれない。

「やったあ!おっさけ~おっさけー!」
「んじゃあ新しいお酒とあたしの冒険譚に!カンパーイ!」

そしてグラスに酒が注がれると、これまで以上に上機嫌になるセレネ。
くい、と口をつけ……とりあえずひとくち。その後四分の1ほどを一気に飲む。
全部飲み干すような真似はしない。慣れた酒ならともかく、初めての酒だ。
どのような形になるにせよ、味も少しくらいは楽しんでおきたかったのだ。

「そーいや、あたしまだあんたの名前知らないや」
「あたしねえ、セレネっていうの!自警団でえ……って、もう知ってるかあはははは!」
35アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/08/22(火)22:01:07 ID:o5x
>>34
「へえ……そういえばよく行く酒場で誰かが言ってたような記憶があるわね」
「ワタシも赴くべきだったかしらね。新しいシモベでも見つけられたかもしれないし?」

海と言えばアマンディーヌにとっては非常に相性が悪い立地。そう好奇心に任せて訪れることの出来るような場所ではないのである。
幽霊船に住まう元凶の幽霊にも会えば何か出来るかもとか考えていたが、まあそれは後の話。

「ずいぶんと愉快な大冒険だったみたいね。とりあえずお疲れ様」
「そんなにいいモノを頂いたのなら、ワタシからも何かお返しした方が良かったかしら?」
「でも今はこれくらいしかないのよ。今度はアナタの好きそうなお酒でも大目に用意しておくことにするわね」
「ところでその船はまだいるのかしら? 是非ともワタシもお邪魔したいわ」

実際に現地に赴けない者が出来ることは経験者から話を聞くことぐらい。それが真実かウソかどうかを確かめるすべは存在しないので。
アマンディーヌも愉快な話を聞くことは好きであったので、彼女も満足げにしていることもあり、これで構わないのだろう。
スイカやチーズに手を付けながら、セレネの愉快な冒険談は続いていく。幸せで優雅な時間の使い方である。

「ふふ、アナタの健康と冒険に乾杯」

「そう。そういえばまだ名乗ったこと無かったかしらね」
「ワタシはアマンディーヌ。どこかで聞いたことはなくって?」

一応昔はやんちゃな事でそれなりに名の通っていた存在。
もしかすると自警団繋がりで昔の話を語る際にその名が挙がっている事があったかもしれないが、さて。
36セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/08/22(火)22:30:22 ID:b1t
>>35
「えー、でもあの船の幽霊、タチ悪そうだったよー?やめときなって!」
「ま、今はもう海の底っぽいけどね!残念でしたー」

「なんかさあ、船から大脱出したら後ろからすごい音するじゃん?」
「音が止んで後ろ見たらびーっくり!船なんかどこにもないんだもん!」
「周りを見たら霧も綺麗サッパリ晴れちゃってさあ……一瞬夢でも見てたのかと疑っちゃったよ!」

まだ船が残ってればお酒とかお宝探しに行ったのになあ、とため息混じりに溢す。
割とあの幽霊船……というかあの葡萄酒に未練たっぷりらしい。
随分と美味な酒だったのだ。決して、今飲んでいる酒が不味いというワケではないが。

ぐいとまたグラスを傾け、喋り疲れた喉を潤す。
そして続いて聞こえてきた名前に、首も傾けてしまった。
厳つい自警団センパイや、引退した元自警団の酒呑みジイさんがそんな名前をたまに口にしていた気がする。

「アマンディーヌ……?そーいや自警団の年末のパーティで」
「酔ったジイさん達が毎年のように話す苦労話の中に出てきた名前……のよーな……?」
「いやいやいやいや、でもねえ……?まさかねえ……?」

「…………。うん、そうだね!まさかだよね!」
「そーだ!紛らわしいし名前も長いから、あんたの事はあだ名で呼ぼー!」
「ディーンとかでいーい?やだったらやめとくけどさっ」

そりゃあ目の前の人間……というか吸血鬼が、先輩から伝え聞く話に出てくる存在とは思い難いもの。
だが反応からすると、彼女が冒険譚に出てくる吸血鬼その人だということは察しているらしい。
名前を言い換えたのは、吸血鬼関連で発生しうる些細なトラブルを避けるため、でもあるのだろう。
もちろんセレネ自身は細かい事は考えていないが……
なんとなくお互いのために「そうした方がいい」と思っていたのだけは事実だった。
37アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/08/22(火)22:56:21 ID:o5x
>>36
「あらそう……残念。いいチャンスだと思ったのだけど、流石に海の底にあるんじゃお顔を拝見することもできなさそうね」

「霧……轟音……。アナタ運が良かったわね。それ以上船に長居してたら取り返しのつかないことになってたわ」
「次また同じような船を見つけても早めに帰ったほうが身のためよ」
「葡萄酒とか貰いたかったらそれだけに絞って、ね」

霧や幽霊船の話で思い当たる節があったらしい。アマンディーヌの表情が少しだけ真剣になっている。
彼女とて全容を知っている訳ではないが、そこは年の功、このような噂を耳にしたことはあるようで。
それでも貰うモノは貰うべきだと語るところは相変わらずか。

「…………さあ、どうかしら。吸血鬼ならそのくらい生きててもおかしくはないんじゃなくって?」
「ま、信じるかどうかはアナタに任せるわ。ワタシには今更関係ない話だし」

「案外、まだワタシも人気者なのねえ……」

小声で呟くように言葉を足す。
噂、というか99%決まっているようなモノなのだが、直接打ち明けるのも何だか性に合わなかったのだろう。
わざわざ過去の自分自慢をするような年寄り染みた事をしたくなかった訳だ。年だけならそのジイさんよりも年上だと言うのに。
ただ純粋に面白がっているだけ、という話もあるが、真意は闇の中。

「ディーン…………フフッ、アナタ随分名前を付けるのがお上手ね」
「気に入ったわ。ワタシのことはディーンでいいわよ。セレネちゃん?」

あだ名で呼ばれるなんていつ以来だろうか。もちろん悪い意味で言われるのは幾度となくあったが、友人同士ではそうそうない事。
グラスに残っていた酒を一息で飲み干し、グラスを置くと共にセレネに向けてウインク。久々に昔に戻ったような気がした。
38セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/08/22(火)23:23:37 ID:b1t
>>37
「…………え、マジで?そんなヤバかったの、あの船」
「あんたが一緒でもダメ?……え、怖いんだけど」

呪いとか持って帰ってきてないよね、とアマンディーヌに確認しつつ、一旦頭まで湯の中に浸かるセレネ。
あの船の空気が肌に染み込んでいる気がしたのだ。
ぶくぶくと泡を吐き出し、しばらくして湯から顔を出す。
そのタイミングを狙い、スコンと温泉の神様がタワシを投げてきた。
お湯に潜るのはマナー違反なのだ。

「……いてて、この温泉マナーに厳しくない?」
「にしてもやーっぱあの話の吸血鬼なんじゃん……いやでも」
「こう……話してみるとちょっとイメージ変わったっていうか?」
「もっとこう……ヤバいイメージあったけど……意外と話せるねあんたさ!」

「よし!じゃあこれからはあんたのことディーンって呼ぶからよろしくう!」
「っと……あはは、んでさあ。情けないことにあたしそろそろのぼせてきちゃって」
「そろそろお先させてもらうねディーン……あ!」
「んっふっふー、もちろん!宿で飲み直そーってお誘いはばっちこい!だから!」

グラスに残った酒を全部飲み干す。
ついでに残った木の実をぽりぽりと数粒口に入れ、けらけらとセレネは笑った。
笑った……のだがすぐにそれは苦笑いに。
すでにだいぶクラクラきているのだ。このまま温泉で眠ってしまうのは流石に風邪をひいてしまう。

じゃあねー、とセレネはアマンディーヌに手を振り、そのまま立ち上がって……ばっしゃん。
一度こけた。そして照れ隠しに大笑いしつつもう一歩踏み出し、ばっしゃん。
二回もこけた。だがそこからはなんとか転ぶことなく温泉から出て……りいんという秋の虫の声が、湯けむりに混じってくる。
――もうそろそろ、夏も終わる。
39アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/08/22(火)23:51:31 ID:o5x
>>38
「アレはワタシにもどうすることも出来ない部類のヤツよ。一応、関わり過ぎなきゃ害はないタイプだからダイジョーブ」
「言っとくけど、吸血鬼だからって何でも出来る訳じゃないからね」

へーきへーきと親指上げてサムズアップ。世の中知り過ぎない方がいい事だってある。その例がアレであって。
セレネにヒットしたタワシがアマンディーヌの頭にも跳ね返って命中。ずるりとタワシが顔を伝って湯船に着水。
桶とタワシが湯船に出来た波に揺られて衝突。桶の中に果実酒が解き放たれる。

「昔からよ。ちゃんと従っておかないと後が怖いわ」

「あーら、もっと物々しいほうがお好みだった? 生憎そういう形式ぶったのは苦手なの。期待を裏切っちゃってごめんなさいね」
「ワタシのお仲間にならアナタの想像通りのが居るけど……、でもワタシダメなのよねー、彼」

おっとっと、とツマミの乗った皿を持ち上げて酒の海から避難させ、ついでに一口。
アルコールの染みた自作スイカや木の実、チーズが乗る豪勢な皿を手に、桶の底に溜まった果実酒にも手を付ける。

「素敵なお誘いね。もう少しだけ浸かったら飲み直しと行きましょ?」
「足元には気を付けなさいよー……って遅かったみたいね……」

流石の吸血鬼も温泉に浸かりながらの飲酒は効くらしい。普段の青白い肌もすっかりほんのりピンクへと変貌を遂げていて。
それでも彼女は湯船に居留まることを選んだ。このくらいないと効いた感触を感じないのだ。鈍いのも困りモノ。
背後で聞こえるドタバタ音をツマミに、夜空の星を眺めながら飲む酒は格別であったという。

流れ星がふっと流れ落ちる。楽しい夜はまだ始まったばかり。
40カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/28(月)21:50:11 ID:aww
陽も沈み切りそうな夏の日。ロアールの道には靴のものとも素足のものとも異なる足音が小さく鳴る。

頭頂部に薄汚れた布を巻き付け、身体にも似たような布を巻き付けたような装いは非常に適当なものとよくわかる。
目の部分には紫色の光を宿し、その光はとある看板をみつけるのであった。

「見ない看板だねえ、寝ている間に新しく出来た店ってところか? ケケケ、ちょっと邪魔しようかねえ」

扉にかけられた手は軽い音を鳴らして、キイィとわざと勿体振らせて開きながら、店の中を、居るはずの店主を見渡す。

「邪魔するよー? ここは何の店なんだい?」

手は甲から指まで骨、剥き出しの足首から下も骨、見える顔も、まさしく骨。
人骨が独りでに動き出したような姿の人物(?)がテンパランスの中に入ってきた。普通なら驚いてもおかしくないが……?
41マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/08/28(月)22:08:58 ID:PI7
>>40
虫の声もあちこちの森林から聞こえてくる夏の夕暮れ。
この時間にもなるとそうそう客が来ることもなく、適当に店の奥で夕食の準備を始めようと支度していた時の事だ。
珍しくドアの開く音が鳴る。来客となれば出ていかない訳にはいかない。いくら閑古鳥が鳴く状況とはいえ、ここは店なのだから。

「いらっしゃい、ここは雑貨店だよ……」
「――見間違いかもしれないけど、キミのそれは骨……かい?」

正直似合ってないエプロンを付けて奥から現れたマクシスが目にしたのは、動いて喋るガイコツ。
この光景に流石の店主も目を丸くさせたが、飛び上がる程の驚きようではない。
どちらかと言うと、珍しいモノを見た感動で硬直しているというか。そんな反応。

「この骨は全部本物かい? いやあ、動く人骨なんて初めて見たよ。凄いなあ……」
「僕の骨もこう勝手に動くようになったりするのかな。そうなると面白いんだけどね……」

かと思いきや早速マクシスは博物館の展示物を見るようにガイコツをまじまじと眺め出す。
驚かせに来たのならば、これ以上めんどくさい反応はない事だろう。厄介な相手である。
42カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/28(月)22:23:18 ID:aww
>>41

「いやいや間違いなく骨だよぉ? これ以上無いくらい――」

若干反応が薄い気がしたが、これで残念がってはスケルトンとして負けた気がするのがこのガイコツ。
言葉と共にぺりぺりと剥がすように腕に巻き付けていた部分の布を剥がしていき、堅牢で一切の脆さの欠片も見当たらない腕の骨を見せていく。

「……お前さん、ちょっと驚くところ違くないかい?」

さあ肩まで、と行ったところで眺められていることに気付く。心なしか目の部分の光がしょげた形になっているような、いないような。

「さあねえ? 自分でもなんで動いてるかわからないし、魔術の作用かもしれないし」
「それこそ死ぬ直前で何か魔道具でも使ったかからかもしれないしねえ」

剥いだ布はどうやらそのまま肩にかけておくらしい。新しい来客でも居るならビックリすることだろう、何せ片腕の骨露出してるし。
店主の反応から変人と断定したのか、骨と骨がぶつかる無駄に小気味良い音を鳴らしながら店内を見渡してそう言う。……なんとなくにやついてる雰囲気はあるがいかんせん表情筋なんてないのでわかりにくい。

「まあ骨は本物だろうさ、これでも……こうなるし」

べきっ、と左手の中指の骨……先のところを取り外した。なんでもありかこいつ。

「ところでここは何の店なんだい? 前は見かけなかった気がするんだけどねえ」

入口から入って、見て左手の方に移動しようとしながらガイコツは聞いた。
43マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/08/28(月)22:40:10 ID:PI7
>>42
徐々に全貌を露わにしていくガイコツ。マクシスの視線も食らいついて離さない。
こちらは全くの人間なので彼の表情の変化も分かりやすいだろう。その瞳が期待に満ちた目になっていることが。

「え? 動く人骨なんてめったに見られるモノじゃないだろう?」
「実物があるうちに思う存分目に焼き付けておくべきだろうよ。普通の反応じゃないのかい?」

常人とは思考回路がすこーし異なったマクシスに一般的な反応を期待するほうが無駄だという事だ。
遭遇した際の第一声がアレな時点で察するべきか。

「おおう、本当に骨だ……。これが僕の身体にも入ってるんだろう? 凄いよなあ……」
「……ちょっとばかり触っても?」

この男、見るだけでは飽き足らず触診まで要求してきた。
このまま特に取り上げたり妨害でもしない限りは、今取り外された左手の中指の骨を手に入れようとすることだろう。対策するなら今のうち。

「ああ、そうだったそうだった」
「ここはテンパランス。いわゆる雑貨店だよ。僕が港で集めた品を置いてるんだ」
「その言い方からすると、キミは元々この町に? 僕が始めたのはかなり最近の話だからねえ」

ちょうどガイコツが動こうとしている左手の足元には大きなツボが口を大きく開けて転がっている。
サイズと容量を推測するとヒト一人分の人骨がすっぽりと収まりそうなぐらいのビックサイズ。なぜそんなものがあるのかは不明。
44カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/28(月)22:52:37 ID:aww
>>43

「普通なら驚いて尻尾巻いて逃げてる頃さ、尻餅ついて動けない子のが居るけどね」

まさか期待の目で見られるなんて思ってなかった。同族でも居たら「その骨の太さ良いね」とか「この骨の形は素晴らしい」とか品評してたかもしれないがまさか人間に先にされるなんて誰が思うだろうか。

「……お前さんの中身が人間ならね、ほれ好きにしな」
「……間違っても砕いたりしないでくれよ? そして返してくれよ?」

触診になぜか気前よく(?)指を差し出してきた。
さてここでガイコツの手から指が離れ、マクシスが受け取ってからすぐのこと。
きっと指はカタカタ動いている。飛び回ったりはしないが、震えて小さく跳ねる感じに。

「テンパランス、雑貨屋ねえ。確かに決まった品物がある訳じゃ無さそうだね」
「この町かどうかはさておき、近くの――」

カタカタ骨の音を鳴らしながら動いた時であった。
ツボを蹴飛ばす音と共に、やけに軋んだ音もなった。
そしてガイコツは文字通りに足から崩れ落ちた。

「おんや?」

がちゃーん。

カラカラカラ……。

ガイコツさんはバラバラになりました。比喩などではなく、本当に。

そして肝心の頭蓋骨と核は……転がってツボの中である。マクシス視点からするといきなり頭部が視界から消えたようなものになるので戸惑うかもしれないが。

(……やっちまったねえ……)

真っ暗なツボの中で外の骨を見ながら一考。
そして結論。

(まあどんな反応するか待ってみようかね)
45マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/08/28(月)23:14:43 ID:PI7
>>44
「僕は自分が人間だと信じてるよ。確信はないけどね」

取引も無事成功し、ガイコツの指はマクシスの手の中へ。
手のひらの上で絶えず揺れ動くソレは、一般的な視点からすれば気味の悪い物体となることだろう。
だが彼には違った。先ほどから非常に興味深いソレを指でつついたり持ち上げたりしていることから、彼の独特の捉え方が垣間見れるだろうか。

「うん、間違いない。この感触、この見た目……間違いなく人骨だ」
「キミに何があったのかは知らないが、出来ることならウチに居てほしいくらいだよ」

指の骨を眺めていたその時、突如視野外から聞こえる崩壊音。ついでに不自然に途切れるガイコツの言葉。
顔を上げれば、そこに転がっていたのは、先ほどまで小粋に話していたはずのガイコツ……を形成していたはずの骨たち。
先ほどとは打って変わって生気も見えなくなってしまったそれらを複数個持ち上げる。がやっぱりタダの骨。

「おーい……おーい……全くどうしたんだ? さっきまでの威勢はどこに行ったんだー?」
「ここに来て魔力か何かが切れたのだろうか? なんにせよここで死んでもらっては困るね……」

とりあえず見様見真似で先ほどと同じようにガイコツを組み上げてみる。が、大事なモノが足りない。頭蓋骨だ。
周囲の床を探し回ってみるが一向に見つかる気配もない。元々散らかっていた店内がさらに散らかっていく。
しかし床のツボには一切目もくれず、やがてツボに背を向けた状態で、近くの棚の中を探す姿勢に。
46カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/28(月)23:31:39 ID:aww
>>45

(ダメだこの子普通の頭してない子だねえ)

超失礼で無礼千万なことをその時思ったという。
オカルトの類いが怖がるのは案外オカルト仲間なのかもしれない。色々な意味で。

もしこの店主がガイコツになったとしたらきっと嬉々として自分の身体をまさぐり始めることだろうと決めつけまでしていたのだった。

(そこかい気になるところは)
(あーらら貴重そうなものまで散らかしたりしてるねえ、まあ聞いてないから価値もわからないけどさっさと戻った方が良さそうだねえ)

組み上げられた頭なしガイコツがひっそりと動き出す。散らかしている音に混じって時々骨の音を鳴らして、マクシスが確認しようとしたらきっと不動の体勢で。

そして店主が完全スルーしているツボに手を突っ込んで頭と核を取り出すのであった。
そして核を肋の中に収めて、布をそこだけ巻き付けると頭を右腕に抱え持ったまま敢えて戻さずに。

「ちょっとちょっと店主さん、もう大丈夫だから安心するといいさ、あんたでも多少は驚いてくれるんだねえ、ケーケケケ」

頭蓋骨、物凄く楽しそうにカタカタ歯を打ち鳴らしながら微動している。
そして身体の方は空いた左手の親指を立てていた。
47マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/08/28(月)23:53:51 ID:PI7
>>46
これでマクシスがいわゆる変人枠に分類される人物であることはガイコツにも理解できただろう。
ただ本人は魔力的なモノすら持たないごく一般人であるが故、強大な魔力を持つ魔道具でも得られない限りは死後にガイコツとして動き出すことは難しい。
まあ、なったらなったで喜んで自身の身体を観察することだろう。

「どこにも見当たらないなあ……、店の外には転がってないはずなんだが、いったいどこまで転がったのやら……」

捜索中の彼の背後で骨がカチカチ鳴る音がする。
動き出したのかと中腰のまま背後を向けば、顔の目前にまで迫った、先ほど組み上げて床に転がしていたはずの骨の身体。そして無くしたはずの頭蓋骨。
ついでに正体不明の半透明の物体までもがすぐそばにまで近寄っていた。

「うおぅッ!!?」
『ギャーーー!!!???』

ここまで近くにいるとは思わなかったのか、流石のマクシスもその迫力に思わず飛び上がる。
その勢いで捜索中の棚をひっくり返し、並べられていた大小さまざまな品物が店内を舞い、いたるところに墜落。
その破片は店の端でスリープモードに入っていたらしい不気味な陶器製の人形にも直撃。店主よりも大きな悲鳴を上げる。

「なんだ、復活してたのかい……、もう戻らないのかと思って焦ったよ……」
『オイ!! ナンダよアイツ!! マたヘンなモン呼ビやがっタのカ!!』

商品だったはずのネックレスが頭から吊り下がりながら、よっこいせと両ひざに手を付きながら立ち上がる。
店の奥から罵声も追加でやってくる。いつも通りのちょっとにぎやかな店内。
48カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/29(火)00:05:19 ID:EoQ
>>47

「ケーヒヒヒ! あんたでもそんな驚くんだねえ! いいもん見れたよこれは!」

表情筋なんて存在しないはずなのにその頭蓋骨は誰が見ても笑顔にしか見えない雰囲気と声を放っていた。
時々腕から小さく飛び上がってカチカチ鳴らしているせいで尚更である。

「ケーケケケ、あんな程度で戻らないならとっくの昔に死んでるさ、砕かれでもしない限り平気なんだよあたっ!?」
「……まあこっちのことは兎も角、随分荒らしたもんだね。物取りでもここまでやらないよ?」

元を辿れば誰が悪いかはわりとわからないが、ガイコツは自分のせいだとは思ってないようだ。
破片が首の骨に直撃して痛がるように跳ね回った後の発言のため、心なしかしょげた声だが。

「そしてさっきの声はなんだい? あの不気味な人形っぽいのから出たみたいだけどさ」

お前にだけは言われたくない、と思うことだろう。不気味さに関しては人形といい勝負をしている。

「悪いけどこっちは手伝えないからね? 重いものなんて持ったら骨が折れちまうよ」

本当は持てるが、面倒と思ってるのかこの態度。ガイコツのジョークも交えているが果たして通用するのかどうか。
転んだだけでバラバラになるので、ある意味ハッタリとしては有効かもしれないが。

マクシスが片付けを始めた場合、それを静観していることだろう。ツボの口に手をかけてごろごろさせながら。
49マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/08/29(火)00:27:07 ID:KfR
>>48
「そりゃ僕だって人間だよ、驚くことぐらいあるさ」
『アイツのアンな姿初メテ見たゾ……』

割と長期間この店主と共に同じ時間を過ごしてきたであろう人形も思わず声を小さくする程の状況。
かなり珍しい瞬間なのかもしれない。いいモノを見たぞ。

「ああ、あの人形かい。彼はちょっと前からここで僕のいない間に留守番をしてもらってるのさ」

「ところで人骨の彼とは前に会った事ないのかい?」
『アンなヤツ会った事アル訳ネエだロ! 生前に会ッテたトしてモワカラねえヨ!』

当然と言えば当然の反応。今までとあるお屋敷に引きこもりっぱなしの人形が知る由もない訳で。
人形も所詮陶器製の身体なので、ガイコツと同じように腕や足を動かすことは出来ないのである。口はいくらでも動くが。

「構わないよ、全部僕が散らしたのだからね、キミは客として構えてればいい」
「またさっきみたいにバラバラになられても困るし、ね」

店の片付けをするのには慣れている。せっせと棚を補修し、店中に散らばってしまった品物を片付けていく。
片付けの速度だけは速いのだ。この行動によって本当に整理が行われているのかは置いといて。
50カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/29(火)00:39:27 ID:EoQ
>>49

「なるほどねえ、留守番にはちょうどいいね、物取りもビックリするだろうさ、ケケケ」

「まあ顔の皮もないからねえ、こっちもあんたに会った記憶なんてないから御互い様だね」

どっちも生前の面影が少ない気がするのは何故だろう、ガイコツは仕方ないにしても人形の方も。
人形もないのは当たり前、ガイコツなのだから顔も髪も目とか傷とか判断できそうなものが皆無なのである。

「それは有り難いねえ、まあ今日は見物しに来たところなんだけどね、見物客と言えば居ても平気かね?」

先程のツボの中身を覗き込んだり、全パーツがあるのを確認したり、さっき片付けたばかりの棚の品を指差し確認したりわりと自由に過ごしていた。

「ところでお前さん、死体を弄くったりした経験はあるのかい?」

唐突に不気味な質問である。不思議なものが多いので、何かしてないかと気になったのが本音だが見た目が見た目なので変な意図に取られてもおかしくない。
51マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/08/29(火)01:00:11 ID:KfR
>>50
「おかげさまでね。まあ、この町に強盗なんて働こうと考えるヒトなんていないと思うけどね」
『オマエはキャクを増やスコトを考えるベキだト思うゾ』

それ以前にマトモな人物がこんな得体の知れない怪しい店に入るとは思えないのだが。
どちらにせよそう簡単には泥棒が入り込めるような余地はなさそうだ。

「大歓迎だよ。こんな店で良ければ好きなだけ見ていけばいい」

次第に店内はガイコツが来店する前の多少は整理された様相へと戻っていく。
ツボの中身を漁っても、出てくるのは細かいゴミや先ほど転がった際に落ちたと見られる細かい骨片程度。ヘンなモノは置いてなさそうだ。

「流石に死体を弄んだ事はないかな。遺跡とかでガイコツを見たことはあるけど、その程度かな」
「言っとくけど死体漁りをしてまでココの品物を集めたわけじゃないからね。それだけは分かってほしい」

マクシスも好奇心に任せて遺跡等に足を踏み入れた経験はあるが、幸いモンスターと呼ばれるものには遭遇してはいない。
遺跡から宝物を持ち出すのは立派な死体漁りになるのではないか、という点はツッコんだら負けなのだろう。
52カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/29(火)01:13:51 ID:EoQ
>>51

「物取りが強盗ばかりと考えちゃダメだねぇ、かわいい妖精がこっそり物を持ってくのも立派な物取りなんだからさ」

絶対見た目ガイコツが言うファンシーなセリフではない。
そういうのはもっと純粋な子供とかが言うものだときっと誰もが思うだろう。

「………………」

自分の骨片を見た時だけ黙り込んだのはきっと気のせいではない。どこの骨だ? と確認するが首を360度回してもわからないので目立たないところと思うことにした。

「それなら良いのさ。ガイコツに限らず遺物は何が残ってるかわからないからねえ」
「別に死体漁りを咎めてる訳じゃないんだけどね、まあわかったさ。お前さんの足と手で集めたものにケチつける気はないってことはわかってくれよ」

こりゃ失礼、と言わんばかりの手振り。その紫色の光は濃淡を分けて点滅するように揺らいでいた。

「雰囲気はひ弱な店主ってとこなのにねえ、やはり見た目に惑わされちゃいけないね、ケーケケケ」

見た目以前の問題の自分を棚に上げておき、ガイコツはふと外を見る。
既に陽は沈み、夜の色が空の向こうより広がってきているのが確認できた。それを見てガイコツはどこからか古びたランタンを取り出した。……多分布の中にでもあったのだろう。

「そろそろ帰るとするよ。ここからは外に居た方が来客の目にも心臓にも良さそうだからねえ。こっちにはそんなものありゃしないが」

扉をキィ、と開けて、ガイコツの頭だけマクシスと人形に向けてカタカタ薄く笑いかける(本人主観)。それと同時にランタンには明かりが灯っていた。

「それじゃあねえ、変人な店主と不思議な人形や、また会えると良いねえ」

そう告げて帰ろうとしたタイミングで――ゴト。
ちょいと接合が甘かったのか、頭蓋骨が落ちて背後の地面に転がる。

「…………」

そして無言で拾い上げると、そそくさと店から離れ出すの――かっこつかないガイコツであった。
53マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/08/29(火)01:39:52 ID:KfR
>>52
「妖精くらいにならいくらでも持って行ってもらって構わないさ」

妖精問わず、この店内ならばいくつか小物をこっそり回収してもマクシスが気づくこともないだろう。
面と向き合って堂々と持って行ったとしても店主がそれを咎めることもしないだろうし。彼はそういう男だ。

「そう言ってもらえると嬉しいよ。僕が自分の目で見て気に入ったモノを自らの足で集めるのは当然の事だろう?」
『前ニ妖精が持っテタのを勝手に回収シタのハ何だっタンダろウナ』
「アレは分け前を貰っただけだよ」

そんな彼にもよくわからないプライドは持ち合わせているらしい。
変人に限って妙な所にこだわる癖があるモノだ。これもきっと彼が立派な変人である証拠なのかもしれない。

「見た目に惑わされるのはキミもなんじゃないかな。ガイコツが動くだなんて、普通は思いもしないだろうしね」
『オレは?』「それはそれ、これはこれ」

付き合いも長くなってきたからか、会話のテンポも合って来たように思える一人と一個。
人形の合いの手に手をひらひら振って答えていく。

「また会おう。僕はいつでもここで待ってるよ」『プッ!』

帰る際に一悶着あったようだが、特にガイコツを引き留めたりする様子もなく、棚の横からお見送り。人形は笑ってたけど。

「さ、僕も夕食にするとしようか。今日はコスタ・ノエでいいモノを見つけてきたからね……」

片付けの際に少し汚れてしまったエプロンを軽く叩き、店の奥の暖簾をくぐって居住区へ戻っていく。
今日も各家庭から夕食の匂いが立ち込めてくる時間帯。これを食べて、明日への英気を養おう。
54エルミナ◆FlUF1ZoVFw:17/08/29(火)22:26:40 ID:tOY
連日酷暑が続いたコスタ・ノエもようやく湿度が下がり始め、夜はそれなりの涼しさを得られるようになる。
フクロウの声が遠くの森から響き、夜虫の鳴く音とさざ波が、酔客もまばらになったコスタ・ノエの埠頭を静かに包んでいる。

焚き火の近くで、コツコツコツ……と石を打ち付ける音が響いている。
音の主は少女。血色のいい赤褐色の肌は、この地域の人々とは目に見えて違う民族であることが伺える。
粗末な麻の服で最低限に身を包んでおり、ウェーブの掛かったその髪は伸ばし放題。
太い鎖を両足に付けられており、奴隷である事が伺える。

「〜〜○×△□」

焚き火の前で何やら異国の言葉を呟きながら、何か白いもの……骨だ。骨付き肉を食ったあとの骨が山積みにされている。
その骨を丁寧にコツコツと石で割っていっている。何かの儀式だろうか?
55レクス◆L1x45m6BVM:17/08/29(火)22:39:12 ID:EoQ
>>54

「何の音かと思って来てみれば……何やってるんだアレは?」

夜の街中で金色の目を光らせて、焚き火と音を見つける竜人。
角も脚も尻尾も隠すことなく、腕だけは人の物にした姿は見ようによってはリザードマンなどに見られてもおかしくない。
最近伸びた前髪を鬱陶しそうに分けて、儀式らしき行為をする少女に向けて足を進めた。
焚き火の明かりで隠れた、紫色の光には気付かず。

「…………何やってんだ? それ」

骨割りの行程(?)を一つ終えた頃にレクスは声をかける。儀式(?)についての問いで。
骨に関して言及しないのは、目の前の少女の食事の後だとなんとなく察していたからであった。
56エルミナ◆FlUF1ZoVFw:17/08/29(火)23:01:28 ID:tOY
>>55

「○×□×△◇※※~~・・・・・・」

詠唱に夢中で、何か不穏な影が蠢いたのには気づいていない。

「あー、れくすだ」キャッキャッ
「これ、○○△×、だから、××◇△。これ、れくすにもしてやる」

異国の言葉はよく分からないが、少女は石の一つでガッガッと骨を割ってみせる。
そうして割った骨をよく見ると・・・・・・少女が骨を割っている理由が分かるだろう。
黄色いそれは、いわゆる「髄」だ。栄養価が高く、旨味成分に溢れる珍味。
最も、文明人ならそれは大抵スープの形で見るものである。
骨を石で割って中の髄を直接食べるというのはかなり部族感のある食べ方だ。

「あーんしろ、あーん」

・・・・・・指で掬ったそれをレクスに食べさす。当然ながら味は悪くない。
髄はスープのベースには欠かせない食材だ。旨味溢れる濃厚な味である。

「○×△◇△~~~」

そうしてまた異国の言葉を唱え始める。どうも髄を食べるというのは彼女にとっては少々儀式的な行為らしい
57エルミナ◆FlUF1ZoVFw:17/08/29(火)23:02:01 ID:tOY
「○×□×△◇※※~~・・・・・・」

詠唱に夢中で、何か不穏な影が蠢いたのには気づいていない。

「あー、れくすだ」キャッキャッ
「これ、○○△×、だから、××◇△。これ、れくすにもしてやる」

異国の言葉はよく分からないが、少女は石の一つでガッガッと骨を割ってみせる。
そうして割った骨をよく見ると・・・・・・少女が骨を割っている理由が分かるだろう。
黄色いそれは、いわゆる「髄」だ。栄養価が高く、旨味成分に溢れる珍味。
最も、文明人ならそれは大抵スープの形で見るものである。
骨を石で割って中の髄を直接食べるというのはかなり部族感のある食べ方だ。

「あーんしろ、あーん」

・・・・・・指で掬ったそれをレクスに食べさす。当然ながら味は悪くない。
髄はスープのベースには欠かせない食材だ。旨味溢れる濃厚な味である。

「○×△◇△~~~」

そうしてまた異国の言葉を唱え始める。どうも髄を食べるというのは彼女にとっては少々儀式的な行為らしい。
58レクス◆L1x45m6BVM:17/08/29(火)23:13:55 ID:EoQ
>>56
「おー、レクスだ」と様子には悪く感じてなさそうに。

「ふんふんなるほど、肝心なとこだけわかんねえけどありがとう」

異国の言葉についての書物や教えてくれる人物は居ないだろうか、という考えをレクスは浮かべていた。
してやる、ということは参加、もしくは見学しても平気ということだろうし。

「………………なるほど」

聞いたことはある。骨の中にある髄は栄養源としても、珍味としても食されることはあると。
まさか、この街中で生で食う体験になるとは思わなかったが。
差し出されるそれを拒否するのも悪い気がしたし、この姿から成長したら案外これらで栄養を摂る必要も出てくるかもしれない、と前向きに考えてレクスは口を開けて、それを食べた。
歯が鋭いため慎重に。

「……出どころはともかく、美味いな。骨で出汁取ってるのもこれがあるためなのかね?」

「……なあ、それなんて言ってるんだ? これのことか?」

既に割ってある骨を指差しながらレクスは尋ねた。郷に入ってはなんとやら、というし今夜は従った方が良いとも思ったためだ。
その裏で。


(随分ワイルドな子も居たもんだねえ、まあこんだけあるしちょっとくらい頂いても良いだろうさ)

スー、とレクスの背後。気を取られているレクスの完全な死角から、骨の山へと――骨の手が伸ばされていた。
59エルミナ◆FlUF1ZoVFw:17/08/29(火)23:25:41 ID:tOY
>>58

「ンフフフ」ニヨニヨ
レクスの口の中で鋭い歯の感触をちょっと楽しみながらも、満足そうではある。
手ですくって食べ合わすのが親愛の証、らしい。

「おいしい?メドゥラ、メドゥラ・オセア。わーぼあの、メドゥラ」
「みんなフォン(出汁の意)にするけど、割るのが、ただしい。OK?」

ニャマの部族の言葉では発音が難しい。
が、貿易商の連中の国の言葉では骨髄をそう呼ぶらしかった。
ニャマ的にはせっかくの濃厚なペーストをスープで薄めるのは理解できないのだとか。

「メドゥラ、勝った奴、食べる。メドゥラたべる、つまり、つよい」
「森の神、狩った奴に、食べることゆるす。だから○×△、だいじ」

いわゆる戦士の証という奴なのだろうか。彼女の部族では神に感謝しながら食うものらしい。
あとこの骨はたぶん、前に狩ったあの大きなメスのワーボアの残りだろう。
彼女の部族では骨髄を食えるのは狩った者の特権で、これを食えるのは大人の証なのだという。

「・・・・・・!」ザッ

ニャマは狩猟民族だ。何かの動きには敏感に反応する。
その影と大きさから判断して大型獣か何かであれば、すかさずムチを抜くだろう。
60レクス/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/29(火)23:47:30 ID:EoQ
>>59
「痛くなかったか?」

当たってることに気付くとこの心配。

「おう、美味しい美味しい。メデュ……メドゥラ・オセアか」
「文化の違いってやつか、割り方は石のみか?」

ワーボアがまた近くで狩られたか、という考えは後の言葉で覆ることになるが。
レクス的にはスープで薄めて楽しむのも、このまま直に食すのも良いことだと思うが、ここら辺はデリケートな話になりそうなため黙っておくことにした。

「部族の集落とかだとよく目にした風習だな。……ん? すまんこれいつのワーボア……」

勝ったやつ。狩ったやつ。かなり失礼ではあるが、罠を仕掛けてもトドメを刺す力が不足してそうと考えてしまった結果、これである。
もし以前のなら、骨とはいえよく保存できたな……と。
聞こうとしたタイミングでニャマの行動に目を見張る。

「!? なんだ、どうし――」

『おんや、バレたかい。見掛けによらず勘が良いねえ』

骨だった。人の骨だった。紫色の光を眼窩の部分に蓄えたガイコツさんだった。
今日は胴体と脚にしか布が巻かれていない。つまり、そこ以外は剥き出しだった。大型獣のがまだマシだったかもしれない相手がそこには居た。

「――ハァッ!?」

レクスは珍しく声を上げていたが、ニャマから見るとガイコツはどのような存在に映るだろうか?
61エルミナ◆FlUF1ZoVFw:17/08/30(水)00:09:57 ID:E6E
>>60

「ノコギリみたい、ンフフ」
レクスの口から指を抜くと、ニャマも髄と唾液の残った指を舐めて微笑む。

「んー、ワタシ、石でやる、石、いっぱいあるし、らくちん」

文明人からしてみると石器の扱いというのは大変そうに思えるが・・・・・・
慣れればこちらの方が楽なのだとか。

「これ?これ、あそこで乾かすのやつ。作るの、教える?」
彼女にとって骨は干し肉同様保存食らしく、よく見ると埠頭の軒下に骨がいっぱい吊るしてある。
・・・・・・まぁ製法は謎だが一応腐ってはいなさそうなので、これも文化の違いか。

不安になるレクスに、ニャマはニコニコと無邪気な笑顔を見せていた。
その背後の存在に気づくまでは。

「びゃ゛ーーーーーーーーーー!?!?!?○×△××○△◇◇△!!!!○×◇△!!!!」

鞭を抜くとかそういう思考が吹っ飛んだらしい。あまりの衝撃に地元語で叫んでいる。
レクスにがっしとしがみ付いてガタガタ震えるくらいにはビビってくれているようだ。
62レクス/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/30(水)00:22:55 ID:jKw
>>61

ノコギリという感想に、それ危なくね? とレクスは思った。

「なるほど石か……調整できねえと素手や尻尾だと惨劇になりそうだしな……」

飛散したり、髄ごと砕いてしまったり、手に怪我したりというのを考えると石が適任というのは納得したようだ。

「あー、干物にしてんのか? 骨の干物は見たことねえな」
「どっかで役立つかもしれねえし、時間あったらな」

埠頭の軒下を見て理解する。製法次第によるが、骨も食べられるようになるなら覚えて損はないだろうと。
それこそ獣を狩った時には使えるはずだと。

「お前はなんて叫んでんだっ!? そんでお前誰だよ!? いやなんだよ!?」

レクスはしがみつくニャマを片腕でカバーしながら、もう片腕をガイコツに向けて威嚇中。
いくらガイコツを見る機会があったとしても、動くやつ、それも街中で出現するようなやつには出会ったことなどないのだから。

『ケーケケケ! いい反応だねえ! なーに、こっちはただのガイコツで、ここには大量の骨があるから一本二本頂戴できないかと思っただけさ、どうだい娘さんよ? ケヒヒヒ』

ボゥ、と灯りの点いたランタンを取り出しながらガイコツは実に楽しそうに語っている。
果たしてニャマの返事は……いやできるのだろうかそもそも?

「共食いじゃねえか!!」

『そこなのかい?』

お互いどこかで会った気がしているのである、この二人は。
63エルミナ◆FlUF1ZoVFw:17/08/30(水)22:17:41 ID:E6E
>>62

「×△×ーーーー!!!×△×ーーーー!!!」

もはや言語疎通不可能。
割った骨の破片をスリングショットでビュンビュンと骸骨に投げつけている。
やけくそと侮るなかれ、投石紐は訓練した人間なら初速100km/hを超える強力な武器だ。
皮鎧程度の装甲なら容易に骨を砕いてしまう。

・・・が、肝心の投げている物が骨の破片なのでこの骸骨にとっては焼け石に水、火に油と言った代物だった。やっぱりやけくそじゃないか。

「ひーっ!ひぎいいいーっ!れくす!悪魔!悪魔がくぁwせdrftgふじこ」

部族というのは高度な魔術には疎い事が多く、何かと迷信深い。
彼らにとって悪魔は払うもの。いろいろな魔除けを作るのもこういうアンデッドや亡霊というものを極端に恐れるため。彼らは明確な対抗手段を持たないからだ。
64レクス/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/30(水)22:32:42 ID:jKw
>>63

バリ、ボリ、バキ。頭蓋骨に当たりそうなものは気持ちいいくらいの咀嚼音でお亡くなりにされ、そうでないものは無駄に腹立つ動きで避けている。
しかも逃げ場を無くす軌道で放たれたものも骨の隙間を通ってく始末だ。天敵じゃないか。

『もっと大きいのが欲しいんだけどねえ』

ゴクン、とどこから鳴っているかまったく不可解な飲み込みを終えながら感想。
時々当たった破片が指を吹っ飛ばしたり肋にヒビを入れたりするが……どういうわけかすぐに再生している。
骨食っているせいだけども。

『悪魔なんて心外だねえ、えーとそんでレクスくん? そっちはどうする気――おんや?』

バキ、ガチャーン。ガイコツの頭身が急に下がり、あろうことか肋で立っている状態になっている。
ガイコツが頭蓋骨を360度回転させながら周りを見ると後方に散らばった自分の下半身の骨。

「っシャア! ニャマ物理効くぞこいつ!」

まさかの蹴り飛ばした骨で足払い。勿体ないとか今は気にしていられないようだ。

『ちょっと待って待ってって! こっちはそこの骨ちょっと寄越してくれればいいんだよ!』

「今くれてやってるだろうが!」

『意味が違うよ!! ガイコツは労ってくれないと困るね!』

一応、ガイコツ(上半身)の要求は積まれた骨の一部らしい。カタカタ骨の音を鳴らしながら抗議する姿、微妙に間抜けである。
それでも紫色の光がやや増しているので、どこか怒ってるように見えるかもしれないが。ガイコツもバラバラにされて海洋投棄とかは避けたいらしい。
65ニャマ/セルカーク◆FlUF1ZoVFw:17/08/30(水)23:03:29 ID:E6E
>>64

「アクリョウタイサン!アクリョウタイサン!」

骸骨の要求は理解できていないようだが、手近にあるのが骨ばかりなので手当たり次第に割れた骨を投げつけるニャマ。
幸か不幸か積んでいた骨はあらかた投げつけられ骸骨の周りで山を形成していた。
ワーボアの骨なので割っていても一片はそこそこ大きい。
髄の入った方を投げるつもりはないようだが、一応要求は達成した形になる。

「フシャーッ グルルル」

レクスの背中に隠れてひたすら威嚇している。涙目でぷるぷる震えているあたり怖いものは怖いらしい。
さすがに近づいて近接攻撃とかはしたくないのか、レクスに引っ付いて様子を伺っていた。

ザバン、と埠頭の岸辺から黒い巨影が這い上がってくるまでは。
ズシン、ズシンと、その巨体が鮫の尾を引きずりながら海水を滴らせて3人を見下ろしていた。

「うるせェな・・・・・・奴隷の管理がなってねぇぞ・・・・・・バージェラットォ・・・・・・」

だいぶ寝ぼけているのか認識がおかしいが、鮫の牙がギラリと夜闇に光る。
まぁ一応彼はただの海の怪物でなく貿易商の用心棒なので、面倒事はさっさと解決したいらしい。
66レクス/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/08/30(水)23:19:40 ID:jKw
>>65

『悪霊扱いは傷付くよお。まあこれで手打ちにしようかねえ』

ガイコツ的には髄の有無は気にならないようで、形成された山を――剥いで広げた布にくるみ始めた。勿論全身丸見えである。
カタカタカチャカチャと静かに鳴っている音は、下半身の骨が戻ってきている音。なんて生命力だ。

『猫みたいな娘さんだねえ、威嚇する相手は選びなよお』

「いや十分威嚇される立場だろお前! ニャマは大丈夫か? 今近付いてきたら――」

震えるニャマの身を案じてか、尻尾で牽制して両腕で抱える形にした頃に。
もう一人のある意味恐怖対象追加であった。

『…………』

骨を布にくるんで、背負ったところのガイコツ(下半身復活)はその風貌を見て固まり。

「…………、あ、おいニャマ!? やべえ気絶した!?」

知っているはずの竜人すら言葉が詰まって、気絶したニャマでハッとして身体を揺さぶって反応を見ようとしている。

『……そ、それじゃこっちはこれで失礼させてもらうよぉ!』

ちゃっかり骨を回収したガイコツは骨とは思えない速さでカチャカチャと逃げていった――。牙で噛み砕かれるとでも思ったのだろうか? 何にせよ元凶が逃げたわけだが。

「って旦那かよ! 一瞬怪物かと思ったわ!!」

ガイコツ、絶叫、動転のところにセルカークが雰囲気たっぷりに現れたことを物凄い無礼な本音でツッコミが入った。
髄の残った骨と焚き火の近く、竜人が抱えるニャマの姿はよく見えるはずだ――どう見えるかはセルカークの旦那の認識次第。
67ニャマ/セルカーク◆FlUF1ZoVFw:17/08/30(水)23:53:51 ID:E6E
>>66

「あン?なんだアイツぁ、骨なんか布に包んで持って行きやがって・・・・・・」

骸骨はよく見えなかったようだが、とりあえずアレは不審者もといコソ泥として認識したらしい。
眠い目を擦りながら、それがいつぞやの竜人であることに気づく。

「・・・・・・なんだ、ワーボア狩りン時の竜人か」
「シャハハハ、お望みなら幾らでも怪物してやるンだがなァ」

わりと笑えない冗談を飛ばして何が面白いのか牙だらけの口で不気味な笑みを浮かべている。

「」ビクンビクン
「オウ、ウチの奴隷に”お手つき”でもするつもりだったか?竜人」

泡を吹いているニャマをお姫様抱っこしている状況からそんな判断をしたのだろうが、断じてNOTだ。てかあんたのせいで気絶したんだろうが。

「触手小僧の悪趣味に付き合わせるよりマシかもなァ、買う気になったら何時でも言えや、ちょっと高くつくがなァ」

そういうのは当分先の話になるだろう。とりあえず元凶が逃げてしまったので、骨を片付けてニャマを貿易商舎に雑に投げ込むと、セルカークはまた海へ帰っていってしまった。

後には、消し炭になった焚き火が月明かりに照らされ、静かに波の音が響くばかりだった。
68レクス◆L1x45m6BVM:17/08/31(木)00:07:55 ID:Ikr
>>67

果たしてその認識、後に吉となるか凶となるか。お互いに。

「いや怪物は前の船で十分だわ、あんたにまでなられたら手に負えねえ」

謎の触手生物達がいまだに根付いてるようだ。認識はあまりハッキリしていないのだが。

「しねえよ!? 少なくとも気絶した相手にするほど鬼畜じゃねえよ!? てか気絶はさっきのやつとあんたが原因だよ!」
「悪趣味って普段なにさせてんだよ……、……環境的にどうなんだろうな」

ここぞとばかりのツッコミの嵐。そこまで野蛮とは思われたくなかったようだ。見た目だけなら部族に居そうだけど。

「……じゃーなー旦那。とりあえずニャマにはよろしく言っといてくれー。仕事の意味では船長にもなー」

帰っていく二人の姿を見届けた後、波の音が響く最中で。

「……あんたは船に帰らねえんかい」

静かに、最後のツッコミが呟かれたという。

~~~~

『こりゃ美味いねえ、また今度邪魔しようかねえ、ケーケケケ』

逃げた先でバキバキ音を鳴らしながら骨を食っている、ある意味一番の勝ち組が居たという。
69エルミナ貿易商◆FlUF1ZoVFw:17/08/31(木)00:33:35 ID:TXm
~翌日の晩~

「ホアアアーーーー!○×△○××△!くぁwせdrfgtgふじこ※○△×◇△!」

体中に妙なアクセサリーをジャラジャラ下げ、赤い顔料でフェイスペイントをしたニャマ。
焚き火で変な草を焚いて一心不乱に踊り、精霊と交信する奇声を発している。

通行人は奇異の目で眺め、何かの見世物かとチャリンと小銭が投げられたりしている。
商舎の2階からリーフィーも心配そうに眺めていたが、専業主婦・・・・・・じゃなくて主夫にはどうすることもできない。
「先生、最近ニャマちゃんずっとあんな調子なんですけど・・・・・・何か変なもの食べさせました?」
「魔除けの儀式だってさ、未開人の考える事なんて知ったことかよ、薬の調合で忙しいから後にしてくれ」

「はぁ・・・・・・何もなければいいんですけど・・・・・・」
70リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/01(金)21:42:48 ID:6nL
これまで人々を苦しめてきた酷い熱気もウソのように消え去り、再び人々の行動しやすい快適な環境に戻って来た残暑のロアール。
町に住む人達も買い物をしたり、山へ出かけたり、川へ洗濯に行ったりと思い思いの仕事をしている。

日も傾き始めており、並んだ店先の店頭に小さなランプの炎が揺らぐ姿が見られてきた頃。
町を行きかうまばらな人々の中に少し小さめの人物がいることが見て取れるだろうか。
恐らく夕食であろうと見られる野菜や果物等を両手で抱える袋に入れ、脛まで届くブーツが地面をトテトテと蹴る。
長袖の服と少し丈の長いスカートを翻して小走りで進む少女は、自宅への小さな旅路を歩んでいた。

「えっと、おいもに根っこ、ツルヤシの実……これだけあれば十分かな」
「暗くなる前に帰らないと。ご飯の時間が無くなっちゃうよ、っと」

少しばかり抱える荷物によって視界を塞がれながらも、リリンは町中の通りを歩いていた。
辺りもだんだん暗くなり始めている頃合い。夜に出来るだけ出歩きたくない彼女にとってはそれなりに緊迫した状況に陥っていた。
しかしこういう時に限って、荷物の袋からイモがころりと転がり地面へと落ちる。しかも彼女はその事実に気づいていないと見た。
何かしら起きそうな匂いが漂い始める。
71ゴースト◆L1x45m6BVM:17/09/01(金)21:55:41 ID:gcY
>>70

ころりと転がるイモの行方、その先にあるのは人の影。
コン、という音がすれば「ん?」という声と共にイモに影差す手がひとつ。
拾い上げるそれを見るや、周りを確認する人の影。先に見えるのは大荷物抱える少女の姿。

これは大変と近付く人物、少女の近くまで寄ればその影はハッキリと映るだろう。


「貴女、これ落としてるわ」

いつぞやの、脚のない幽霊の姿。今宵ばかりは背景は透けないほどハッキリとしているため、もしかしたら気付かない……もしくは忘れているかもしれないが。
しかし覚えてるなら、少女にとってこれほどのトラウマはあるまい。
72リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/01(金)22:19:39 ID:6nL
>>71
背後からの呼びとめられる声に気づき小走りを止める。ついでに止まったおかげでさらに積み重なったイモが転げ落ちる。

「あっ! あーーーッ!!」

慌てて抱えていた荷物を置き、地面に転がったイモを拾い集めるリリン。
だがその途中で思い出す。自身が誰かからの声で呼びとめられていたことを。
拾い集める手を止め、先ほど声をかけられた方向を今一度向きなおす。

「あ、ありがとうございます…………?」

声の主を見た途端、リリンの脳内に謎の既視感が漂い始める。
何処かで見たことがあった気がする。だがそれがいつ、どこであったことなのかさっぱり思い出せない。
が、その謎は困惑していた際に、いつものクセでその声の主の足元を見てしまった事で一気に解決への道のりが開いていく。

「あ、ああ、ああああああああああなたって、あああああああの時のののの」

脳裏に次々にあの世にも恐ろしい一夜の出来事が蘇ってくる。
突如として背後に鳴り響いた金属音。夜道に浮かぶ謎の火の弾。そして何よりも非現実染みたあの姿。
サッと走馬灯のように駆け抜けていく物語が彼女の毛穴と言う毛穴を逆立てていく。

「でっででででででで出たーーーーーーーーーッ!!!!!!」

後ろに飛び退き、地面に置かれた多くの荷物をなぎ倒しながら大きな尻もちを着く。
目には大粒の涙が溜まり、不規則な呼吸音が口から漏れ出していく。第一印象はバッチリ。
73ゴースト◆L1x45m6BVM:17/09/01(金)22:32:23 ID:gcY
>>72
転げ落ちる荷物を見ても「あらあら」とただただ見ている。
優しくないようなそうでもないような微妙な人格になってきている。今はそんなの関係ないが。

「……あっ、貴女あの時のー!」

ゴーストもリリンの顔を見て、そして反応で思い出したようだ。散々遊んで最終的に自警団を呼ばれそうになった時の少女だと。
リリンの絶叫を聞いてか聞かずか、ゴーストは物凄い明るい雰囲気と声になっている。どんよりゴースト試験があったら間違いなく失格だ。

「うふふふふ……! あれから中々会えなかったけどやっと会えたわねー♪」
「そんな反応されちゃったら――」

周囲を嬉しそうにクルクル浮いて回った末にフッと姿を消して。

「嬉しくなるじゃない♪」

パッ、と目の前若干距離開けてまた出現した。あまり近くに居て気絶させたり、悲鳴を上げさせたりすると自警団が来ると学んだらしい。なんてことだ。

「それにしても前より反応が良くないかしら? 何故かしら?」

転がり落ちているであろう荷物の品々を御得意のポルターガイストで浮かせて、周囲で回しながら不思議そうに問い掛ける。
その間にもたまーに背景が透けたり、姿を消したりしてるのがたちが悪い。
74リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/01(金)22:50:57 ID:6nL
>>73
「あああわわわわわわわあわわわわ」

あの時の恐ろしい相手が再び帰って来た衝撃は計り知れない。
お化けや亜人といったとにかく"ニンゲンでないもの"をめっぽう怖がるリリンが本物の幽霊と邂逅すればどうなってしまうか。
幽霊といったモノには相性の良い家系の人物であるにも関わらず、ただただ地面で幽霊を見上げて子猫のように震えるだけであった。

「や、やめて…………食べないで…………」

自身の目の前で亡霊が舞い、先ほどまで抱え込んでいたはずの野菜たちが周りで踊る。
今すぐにでも逃げ出したいほどだったが、それすらも身体が言う事を聞かない。腰が抜けてしまって立てないのだ。
残された両手で離脱を試みるが、恐怖で力が入らない手では地面を掴むことすらままならず、滑り抜けていくのみ。

以前はすぐそばにいた人物が助け船を出してくれたが、人通りの少ない場所に入り込んでしまった時に会ったのが運の尽き。
少なくとも今の彼女ではこの幽霊に抵抗することすら出来ないだろう。

「何が目的なんですか……? やっぱり私を食べるために……?」

亜人と見ればすぐ食べられるのではないかと考える発想もなかなか謎だが、彼女にとってはそれほどまでに追いつめられているのだろう。
75ゴースト◆L1x45m6BVM:17/09/01(金)23:03:50 ID:gcY
>>74

リリンを驚かせることには成功している。
が、どうにも声に張り合いがないと感じてきたのか、うーんと指を顎に当てて唸っている。
好みとしてはびっくりして声をあげてもらうのがいいのだが、震えて怖がられると自分の領分ではないような、と無意味な考えが浮かんだりするのだ。

「え?」

食べないで、という声でやっと合点がいったような。
ゴーストとしては人を食べるバケモノと思われるのはどうにも不満らしい。人を食べるような歯並びや風貌ではないはずなのに、と。

「いやいや……私別に人食べるような霊じゃないからね……? 目的と言えば――」

野菜を集めて、それぞれのグループに分けるように玩ぶと、ゴーストは元の袋にゴロゴロと戻していった。それを終えると。

「驚かせたいだけよ? 私ってそういう生き物……あれ死んでるのかしら? うーん……?」

目的は非常に単純明快。しかしリリンからすればとても傍迷惑なものであるだろう。
そして自分が言おうとした言葉で矛盾を起こしかけてるのだから手に負えない。輪郭もなんだか揺らいできてるし。
76リリン/アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/01(金)23:31:12 ID:6nL
>>75
「れ、れれれ霊!? ひいいいいいぃぃぃ……」

幽霊の自供、というか説得が逆効果になったらしく、霊と言う言葉を聞いた途端怯え方がさらに激しくなった。
どうもリリンの中では亜人と幽霊が同じようなモノと捉えられているらしい。だからこそ食べるなんて発想が出てきたわけだ。毎度言ってる気もしなくはないが。

リリンが勝手に怯えている内に荷物が次々に整理整頓され、乱雑に倒されていた袋に収まっていく。
持ち主のリリンとしては手間も省けて大満足、のはずだが生憎状況が状況のため、そんなことを確認している余裕すらなかったのであった。

さて、コント染みたやり取りが行われている間にすっかり日も沈み、夜空には青白い月が輝いていた。
二人の間を一匹の蝙蝠が通り過ぎていく。やがてその数は二匹、三匹と増えていく。
そしてその後を追いかけるかのように、幽霊には見覚えのあるであろう人物が現れるのである。

『あーら、いつの日のゴーストちゃんじゃない。元気にしてたかしら?』
『っと、そこの子は? アナタのお友達?』

漆黒のコートにまで伸びる緋色のロングヘアー、そして月夜に光に輝く頭の小さな蝙蝠羽。
本物の吸血鬼、アマンディーヌである。
同族の好か、現れるなり幽霊へと向けて気さくに声をかけるアマンディーヌ。
意識は完全に幽霊へと向けられており、背後にいるであろうリリンには全く目も向けないほどである。それだけ幽霊を気に入っているという表れでもあるのだろうが。

突然の訪問者にリリンはどうしたかと言えば……

「」

固まっていた。あまりの情報量の多さに頭がパンク寸前なのか、はたまた現れた恐怖の対象に緊張の糸が途切れたか、両方か。
とにかく、二人を視野に捉えた状態で地面に座り込み、茫然としていた。
77ゴースト/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/09/01(金)23:50:13 ID:gcY
>>76

これはこれでいい反応、と思ってるゴースト。
驚きと怯えの違いがさほどわかってないような気がしなくもない。

ふん、と袋を整えるとやりきった感漂わせる鼻息を出した(フリ?)のところで蝙蝠の通行に気付く。

「あっ、親玉さんじゃない。元気よ元気ー、今もほらこの子を……驚かせ過ぎたところよ」

ぱん、という音もならない手拍子をしながらアマンディーヌに気付いたゴーストはリリンを示してため息。
固まった相手は驚きの声や動きがなくなるので非常にゴーストとしては困るところらしい。なんたる自己中か。
リリンの様子を見て揺らいでいると、何を思ったのかアマンディーヌの耳元に現れて。

「(ねえねえ、こういう時ってどうしたら良いのかしら? 驚かすにも張り合いがないのよ……)」

わりと自分優先なことを言いながら今の状況を打破すべくアマンディーヌに頼ろうとした時である。

『そんなら一度姿を消して安心させたらどうかね? ケケケ』

突然現れたガイコツさん。ランタンの灯りをぼんやり点けてカタカタ鳴りながら話に乱入。
アマンディーヌが存在に気づく頃、ゴーストは。

「きゃーーーーーーーー!!?」

ある意味同族なはずのガイコツを間近で見たせいか絶叫しながら――リリンの背後まで飛んでった。アマンディーヌとリリンだとリリンの方が遠いのでそのためだろうか。
色々集まりすぎである。
78リリン/アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/02(土)00:17:56 ID:QnJ
>>77
『手を出し過ぎて想定外の反撃を喰らわないように気を付けることね』
『……アナタ何やったの? ちょっとやり過ぎなんじゃない?』

アマンディーヌの視線の先には完全に思考停止しフリーズを起こしているリリン。
流石のアマンディーヌもこのような反応をされるとは思っていなかったらしく、ちょっと心配そうにリリンを眺めている。
こうなってしまったリリンはテコでも使わなければ動かせそうもない。呼び戻すにはかなり苦労しそうだ。

『そうねえ、こうなったらもうどうしようもないわ。ココロの許容量オーバーってところね』
『もうこの子は置いといて他の子を探したほうがいいんじゃなくって?』

まさかフリーズを起こした要因が自身にあるとは知らず、ゴーストの質問に答えていく。
恐らくこのままちょっかいを出しても満足のいくような対応は帰ってこないことだろう。負荷を掛けすぎたのだ。

ここでさらに現れる突然の訪問者。
顔をガイコツへと向けるが、比較的冷静な表情をキープ。これが大人の余裕と言うヤツか。
そう言いながらも、彼女の蝙蝠羽は正直にぴくぴくと震えていたわけだが。やっぱり怖いモノは怖い。

『動くガイコツねえ……。この町ってそんなに集まってくるモノだったかしらね』

ガイコツの全身を舐め回すように確認するアマンディーヌ。
それほど大きなリアクションを取らなかったのはこれまでに似たような種族を見てきたからであろう。

さて、突然のガイコツに突如自身のすぐそばまで脅かしてきていたはずの幽霊が寄って来たリリン。
ゴーストが近寄ればリリンの違和感に気づけるだろうか。彼女が先ほどから異様なほどに微動だにしていないことに。ゴーストが寄って来ても尚である。

『あっ』

ゴーストが寄っていったすぐの事、突如としてリリンが地面に座ったままの姿勢で倒れ込んだのである。
突如として現れた人外三人組は、彼女には少々刺激が強すぎたのだ。緊張の糸はすぐにはじけ飛び、自律神経は空の彼方へと吹っ飛んで行った。
ご丁寧に白目剥いて寝込んでいるのが何よりの証拠。
79ゴースト/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/09/02(土)00:46:46 ID:kim
>>78

「ちょ、ちょっと目の前で出たり消えたり? わ、私魂取ったりはたいたりなんてしてないわよ!?」

間違ってはいないはずだ。ゴーストにとってはポルターガイストはちょっとした善意なのだし。
後半の台詞はどう考えてもやってる奴の台詞だが、本当にやってない。やってないたらやってない。

「えー……せっかく久しぶりに会えたのに……」

再会の喜び方にはちょっと刺激が強すぎた。
存在自体がリリンのデンジャーゾーンを刺激していく以上、ゴーストがまともに会話するのは当分先になりそうだった。

『ケケケ、そういうお前さんは血飲み娘だろう? 吸血鬼って言ってあげた方が良いかね?』
『しかしここの子らは反応が極端だねえ、メチャクチャ驚いてくれるか平静かのどっちかしか見てないよ』

カカカ、と歯や骨の鳴り方がまるで笑い声のように聞こえてくる。
ぐるんぐるんと胴体の背骨を回転させて上半身ごと回したりして遊んでいる。二回転くらいするといつの間にか手に謎の骨を持っていて。

バキャッ。

食った。

「あれっ!!? ちょ、ちょっと!? ここで気絶なんてしたら食べられるわよ!? ねえちょっと!?」

ガクガクとリリンの身体を揺らしてみるも当然意味はないだろう。そんな光景を吸血鬼の近くで見ているガイコツはといえば。

『ひょっとしてタイミング良いときに来たかね? ケケケ』

バリボリと骨を食べながらスゴく軽い調子で聞いていた。
80リリン/アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/02(土)01:09:56 ID:QnJ
>>79
『……本当でしょうね、それ』

疑惑の目が向けられる。
無理はない。生まれたての幽霊は加減を知らずにちょっかいの対象を死に至らしめるケースだって存在する。
ただ、その対象が極端なまでの怖がりで、ヒトならざる者を見ただけで倒れ伏してしまうような人物だとは夢にも思っていなかった。

『ともかく、やり過ぎには気を付けること。後でギルドに知らされて討伐依頼出されても知らないわよ』

ついでに長生きできるようにアドバイスを付け加えて。ゴーストの頭をポンポンと軽く叩くのであった。
その手もリリンの元へ飛んで行くことで宙に浮くことになるのだが。

『よく知ってるわね。アナタはあのゴーストちゃんと違ってちゃんと記憶あるみたいじゃない。気に入ったわぁ』
『良かったらワタシの所に来ない? 悪いようにはさせないわよ?』
『ところで、アナタみたいな骨からも血が吸えるか試してみたかったのよねぇ……』

サラッとガイコツを勧誘。昔から気に行った同族をスカウトする癖は抜けていないようで。
ガイコツを呼び寄せるように手招きをする。割と冗談ではなく飛びつく気なのかもしれない。

「」ガクンガクン
『あの子本当に魂無くなってるんじゃないの? 大丈夫かしら』

ゴーストがいくらリリンを揺さぶっても意識が戻りそうな気配はない。力なく頭が揺さぶられるばかりである。
もしここでリリンの意識が戻ったとしても、それはそれでマズイ方向に行きそうな感じもするが。
81ゴースト/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/09/02(土)01:20:22 ID:kim
>>80

「本当! 信じて! 私無実!」

なんか片言みたいになった。疑惑の目が獲物を狩る獣の目に見えたらしい。
正確には無実ではないのだが。

討伐依頼に関してはわりと洒落にならなかったりする。リリンを最初に驚かせた時にたまたま居合わせた人物にそうされかけているのだから。
……もしかしたらされてるかもしれないが。

『その雰囲気や余裕からしたらすぐにわかるだろうさ、これ見よがしの羽まであるしねえ』
『ケケケ、美人さんからの魅力的なお誘いだけどねえ、慣れ親しんだ寝床もあるし考えてみたいところだねえ……』
『……確かにそこは気になるね、昨日もちっこい娘が骨割って中から何か摂ってたし……てか牙刺さるのかい?』

吸血鬼の誘いにこっちもなんか乗り気である。疑問が浮かんでるのが骨らしいけど。
ちなみに今食ってる骨はその娘からの貰い物(本当は投げられたやつ)なので髄はない。

『魂抜いてたら今頃あの幽霊の隣にでも居るんじゃないかい?』

「こここ、こういう時はどどどうすれば?! い、家に送ればいいのかしら?」

『家知ってるのかい?』

「知らないわ!!」

とてもいい返事だった。
82リリン/アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/02(土)01:47:10 ID:QnJ
>>81
『ま、アナタの弁解に免じて今日のところは信じてあげる』

ゴーストの必死の弁解が通じたのか、それ以上の追及は無かった。
ただ一応アマンディーヌの中では、未だにちょっと不安要素のある子として認識されたのは言うまでもない。

『だったら無理やりにでも……と言いたいところだけど、もうそういうのは卒業したのよね。いつまでもわがままばかり言ってられる訳でもないし』
『気が向いたらいらっしゃい。それともワタシがアナタの寝床までお邪魔してあげてもいいけどぉ』

『やってみなきゃわからないわよ。今は小さい子もいるし、今度二人だけの時にゆっくり……ね』

アマンディーヌの言う小さい子がリリンの事か、ゴーストの事かはわからない。両方かもしれないけど。
とりあえず今は手を出さない事になったらしい。ガイコツへの熱視線はそのままだが。

たぶんこのままではリリンを連れて行こうにも埒が明かないことだろう。第一この中で誰も彼女の家を知らないのだから。
とはいえこのまま放置していくのもそれはそれで気が引ける。そのくらいの良心はあるようで。

『まったく……、いいわ、この子はワタシが宿屋まで送って行くから。アナタたちは早く帰りなさい』
『この中じゃ宿屋まで送り届けられるのはワタシしかいないでしょ。ほら、早く貸しなさいな』

倒れ込むリリンを拾い上げお姫様抱っこで回収すると、残った二人組に帰宅を促す。
ここで魑魅魍魎のパレードを繰り広げているままでは、それこそ魔物と思われ全員まとめて討伐依頼を出されかねない。

『続きはまた今度にしましょう。楽しみに待ってるわ、愛しのゴーストちゃんにガイコツさん』

じゃね、とピコピコ耳を鳴らし、アマンディーヌは少女を抱いたまま去って行くのであった。

宿屋に連れて行った際に、主人に「またかよ」と言いたげな視線を向けられたのはまた別の話。
83ゴースト/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/09/02(土)01:59:01 ID:kim
>>82

ホッ、とゴーストは弁解が信じてもらえたことに安堵していたという。


『ケケケ、無理やりだとこっちもバラバラになるしかないからねえ、ありがたいありがたい』
『それなら墓地でも探してくれると良いかねえ、土の被りかたでわかるだろう?』

吸血鬼の何の能力を使えばその違いがわかるのだろうか、専門家とかならまだしも。

『ケケケ、その時は是非ね――』

ごくん、とどこから鳴ったかもわからない音をしまいに歯をカチカチ鳴らす。……舌がないせいでこうなってるらしい。

「……あ、うん、ごめんなさい……」

『まあこっちでも運べそうだけど見た目でえらいことになるかねえ』

下手に騒ぎを起こして討伐されるのは避けたいのが本音である。……の割には結構やらかしてることがおおいのだが。

そしてアマンディーヌと別れた後。

「うん、また会いましょうねー……」

『じゃあねえ。……さてお前さんどうするんだい?』

「え、どうって――――ぎゃーーーー!!?」

隣にいつの間にか来ていたガイコツにビビって全力で建物を通過して逃げていったゴーストであった。

『…………見慣れたんじゃなかったのかい』

ケーケケケ、とやけに軽い調子の笑い声で帰っていくガイコツであった。
84 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/09/04(月)21:15:40 ID:Nhk
夜。パン屋からいかにも魔女という格好をした少女が出てきた。片手に袋を持ってご機嫌なのかその足取りは軽い。
袋の中を覗き込んでは締まりのない笑みを浮かべてを繰り返している。

「このパンずっと食べてみたかったんだよね……高かったけど買えてよかった」

人前ではあまり笑ったりできない少女だが今は一人。感情がいつもより表に出ている。
今すぐ食べたい気持ちはあるが、少女はそれは駄目だと首を振った。

「おじいちゃんに立ち食いは駄目だって言われたから我慢我慢……急ごっと」

この前幽霊と出会って散々な目にあった事をなぜか思い出して寒気を感じ、少女は早足で家へと急いだ。
85アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/04(月)21:33:15 ID:Gef
>>84
帰り道を急ぐ少女の前を数匹の蝙蝠が横切る。まるで少女の通り道を遮るように。

「あーらお嬢さん、こんな夜更けに急いでどこに行く気かしら?」
「アナタのご両親に教わらなかった? 夜に一人で出歩くとイケナイ魔物に襲われるって話」

蝙蝠の向かった先を見たならば、そこに背の高い女性がすぐそばに立っているのが見えるだろう。
身体を覆い隠す黒いコート、腰辺りまで伸びる赤い髪、こめかみから生える蝙蝠羽。
わかる人物なら一目見ただけでわかることだろう。この女性があの夜に紛れて悪事を働く種族の代表格、吸血鬼であることが。

「安心なさい。ワタシはアナタを取って食おうとかそういう気はないわ。今のところは、ね」

月を背に、パンの袋を抱えた少女に向けてニコリとほほ笑む。
口から異様に伸びた鋭い犬歯が、月明りに照らされ輝く。
86 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/09/04(月)21:54:02 ID:Nhk
>>85

蝙蝠を目で追うとその先に女がいた。その見た目から女の正体にすぐに思い至って、少女は尻餅を着くと頭を抱えて目を閉じた。

「きゅ、吸血鬼……!逃げないと血を全部吸われて殺されちゃう…!」

先程までとは変わって目に涙を浮かべ、歯がガチガチと勝手に音を立てる。
少女は逃げ出したいのに怖くて体に思うように力が入らない。

「こ、来ないでください!私の血なんてあなた様のお口には合いませんからっ!」
「あ、これをあげるから見逃して……」

パンが入った袋を差し出して少女は藁にもすがるような思いで祈る。ここから無事で帰れるのならこの高かったパンもいらない。
87アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/04(月)22:13:40 ID:Gef
>>86
「ふふふ……、よく知ってるわね。そうよ、ワタシは吸血鬼」
「そうそう、気を付けないとワタシのような子がアナタの血を啜りに……ってちょっと?」

そりゃ夜道で突然吸血鬼に出くわせばビビる。それが年頃の少女であれば尚更だろう。
本人としてちょっとした親切心のはずだったのだが、いかんせん見た目と登場がよろしくなかった。

「ちょっと落ち着きなさい? 確かに吸血鬼だけども取って食うつもりはないって言ってるでしょ?」
「第一、今は血を吸う気じゃないのよ。もう数日前に頂いたばかりだから、もう要らないわよ」

「どうしてこの辺りの子はみんなここまで怖がるのかしらねえ……」

などと言いつつも差し出されたパンの袋から一つ拝借して一口。貰えるものは貰うのが彼女のスタイル。
パンも頂いたので小腹も満たせて大満足。思わず表情もニッコリ笑顔に。それはそれで怖いかもしれないが。

「ほら、よい子は家でゆっくり読書の時間よ。家まで一緒に帰りましょ」

固まる少女へ優しい口調で語りかけながらゆっくりと足を進める。
ついでに少女の持つパンの袋を持とうと手を伸ばすことだろう。少女の目にはどう映るだろうか。
88 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/09/05(火)17:34:05 ID:1th
>>87

「ほ、本当ですか……?あ、パンをお気に召したのでしたら全て差し上げます……」

恐る恐る目を開けて女を見上げる。まだ恐怖は拭えないが、血を吸われないというだけで少女は少し平静を取り戻した。
パンを食べて笑みを浮かべる女、背筋に冷たいものが走ったが機嫌を損ねたら何をされるか分からない。
少女は今、女の機嫌を損ねないように必死だった。

「は、はいっ。ありがとうございます…お優しいんですね…」

パンの袋は少女の手から女の手へと渡り、少女は立ち上がるために足に力を込める。
声は裏返っているし足の震えは止まらないが、なんとか立って歩く事ができた。
89アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/05(火)20:24:57 ID:HJ2
>>88
「ええ本当よ。ワタシがウソを言った事ある? ってアナタとは今会ったばかりだったわねぇ」

お言葉に甘えてもう一つパンを頂戴してパクリと一口。出来たて、とは言えないがほんのりと温もりが残るパンが美味しくない訳がない。
現在はパンを片手に機嫌も良さげ。この牙が少女に向けられるかは、彼女の機嫌次第かもしれない。
一応襲わないとは言っているが、吸血鬼の言葉なんぞ素直に信じられるはずもないだろう。それが一般的な反応である。

「そうかしら? 昔の自分を改めただけよ。ほら、ワタシってニンゲンと共存しないと生きていけないし」

袋を片手に先ほどの道を歩き出す。辺りを照らすのは月明りとちらほら見える店先に灯るランプのみ。正直何が出てきてもおかしくはない。
少女のことを気にせず歩いているため、二人の距離は少しずつ広がっていく。
流石に気づいたのか、割と距離の出来た辺りでようやく振り向き、少女の状態を確認。

「もう、そんなにワタシが恐ろしく見える?」
「このままじゃ夜が明けても帰り着かないじゃないの。ちょっと待ってなさい」

少女の様態に嫌気が差したのか、突如少女の前で着ていたコートを脱ぎだす。
下から現れたのはヒト一人ぐらい余裕で包み込める程の大きさの蝙蝠羽。
広げれば女性の身長を上回るほどのソレをバタつかせれば、周囲の空気が巻き込まれ、少女の元へ突風として吹き込むことだろう。

「今日は特別よ。パンを頂いたお礼に空中散歩に招待してあげる」
「だってアナタと一緒に歩いてたら、朝日に焼かれそうなんですもの。さ、遠慮はいらないわ」

手招きをして少女を迎え入れようとする。耳元の小さな羽が小刻みにピコピコ動く。
女性としては少女と共に飛ぶ気マンマンなのだが、あまりにも急な出来事を信用してくれるだろうか。
90 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/09/05(火)20:59:22 ID:1th
>>89

「なるほど……でも吸血鬼さんって人間以外の血はお口に合わないんですか?」

これは前々から少女が疑問に思っていた事だ。吸血鬼と話す機会なんてこれまでなかったから知ることもなかった。
自分みたいに吸血を怖く思う人も居るのだから、人よりは動物とかの血を吸った方が良いと少女は思っていたりする。

「ご、ごめんなさいっ!えっ……なな、何を……」

突風に吹かれると帽子が飛ばないように抑えて女を見る。
本人は恐怖を表に出さないようにしてるつもりだが、誰から見ても丸分かりだと思うぐらい少女の態度はあからさまだった。

「空中散歩!?え、えと……あ高いところは苦手なのでお手柔らかにお願いします…」

女はあまり人に気を使うタイプではないと少女は感じていた。実際は高所はそんなに苦手ではないが、スズや自分の召喚獣のようにこちらを気遣ってくれそうではない。
早く飛ばれるのは怖いため、少女はやんわりと自分の意図を伝えようと。
ともかく少女は女に近づいて、飛行を受け入れるだろう。
91アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/05(火)21:24:28 ID:HJ2
>>90
「そんなことはないわ。飲もうと思えばどんな血だって頂けるわよ。最近だって海の子の血をすこーしだけ頂いたもの」
「でも純粋なニンゲンの血が一番味がいいのよ。特に若い子の血はね」

もちろん個人差もあれば好みもある。だが、一般的な吸血鬼たちの言葉を信じるならば、若いニンゲンの血が一番美味であるとのこと。
この女性も味覚は一般的であるため、味の好みはそう変わりはないはずである。
実質血であれば何でもいいのだが、見た目の問題上動物に手を出すことはほとんどないのであった。

「しっかり掴まってなさい。落ちても拾いにはいけないからね」
「他人を乗せるなんて久々ね。そぉれッ!」

少女を自身の腰にしがみ付かせ、軽いジャンプと共に背中の羽を大きく羽ばたかせ、一気に夜空へと飛び出していく。
数秒も経たないうちに地上との距離は一気に広がり、少女が買い付けたパン屋も指をかざせば隠れてしまうほどの距離へ。
上を見上げれば満天の星空が広がっている。地上よりも少し近くで見る星々は、視界を遮る障害物が存在しない事もあり、一段と鮮明に見える。

「どうかしら、いつも暮らしてる町も上から見るだけで結構印象変わるでしょ」
「せっかくだからアナタの家まで送ってあげるわ。場所を教えて頂戴な」

二人の前にはロアールの町の全容が広がる。この時間でも、酒場の周りでは人々がまばらに動いているのが見える。
いくつものランプの灯りが小さく揺らめき、そこに人々が生活している、という事を改めて感じさせてくれる。
星々が瞬く中、腰に掴まっているであろう少女の顔を覗き込む。その顔はなんだか楽しそうに口元が緩んでいるのであった。
92 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/09/05(火)21:44:24 ID:1th
>>91

「勉強になります。あ、でも私の血は本当に美味しくないと思うので他の人から吸った方が良いかと……」

自分の血を吸血鬼がどう思うなどもちろん分からない。ただ血を吸われたくないからこう言っているだけである。
今の話だと自分の血も美味に含まれる。やはり血を吸う目的で近づいてきたとしか少女には思えなかった。
それが今でなくてもそう遠くないうちに吸血を求めてくるかもしれないと。

「は、はい。頑張ります……!」

落ちないように腰にしっかりとしがみついて、もう次の瞬間にはそこは空だった。
これほどの高さまで来た経験は少女にはなく、少女はその光景に意図せずつぶやいていた。

「星、きれい。ロアールってやっぱり素敵な町ですね……」
「あ、ありがとうございます。私の家はあそこです」

そういって少女が指差したのは辺鄙な路地裏の一角にある魔道具店だった。
住民でも知っている者は少ないそこが少女の家である。
93アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/05(火)22:08:14 ID:HJ2
>>92
「ワタシもアナタのような子どもから貰うことはないから安心して頂戴」
「それに、同じ若い子でも男の子の血が好きなのよね。いい子知ってたら教えてもらえないかしら」

若すぎてもあまり口に合わない、という問題点も存在するらしい。同じニンゲンの血であるはずなのに、随分と面倒なモノである。
これで今のところはこの吸血鬼には襲われる心配はなさそうである。将来成長したらどうなるかはわからないが。

「でしょ? ここからの眺めはかなり前から見てきたけど、いつ見てもいいモノよ。一人占めしてるって感じするのよ」

「あの家ね。いいトコに住んでるじゃないの」
「オッケー、一気に降りるわよッ!」

少女の家が分かるなり、その指差した家目掛けて一気に急降下。瞬く間に地面が近づいて来ることだろう。
あっという間に少女の伝えた家の前にたどり着く。降下の際に身体に急速に重力がかかるが女性は何ともなさそうにしている。もちろんコレは少女にもかかるはず。
何はともあれ無事に到着。数回地面近くで羽ばたいた後に両足で着地。周囲の木々や看板が大きく揺らされる。

「どうだったかしら、楽しい空の旅は。あまり長い期間じゃなかったけど楽しんでもらえた?」

小脇に抱えたパンの袋を少女に渡す。渡す前と比べて中身が減っているのはご愛敬。
94 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/09/06(水)17:49:00 ID:kx6
>>93

「私、知り合い多くないので期待には添えられません。ごめんなさい……」

心の底からの安堵。今血を吸われないというだけで少女から恐怖はだいぶ消えていた。
自分の知り合いなど本当に数えるほどしかおらず、その中に女のお眼鏡に叶う人は多分いない。

「空を自由に飛べるって羨ましいです。私にも翼があったらなぁ……へっ?きゃああああああっ!」

毎日こんな景色を見られたらそれはきっととても楽しいだろう。自分の力で空を自由に飛び、行きたいところへ行く。
そんな生活を出来る女が少し羨ましくもあった。吸血鬼にはなりたくないが。
そして地面に着地するまでの間、少女の悲鳴が途絶えることはなかった。
女が降り立った頃には腰を片手で必死に掴んで、顔面を真っ先した少女の姿があった。

「うぅ……気持ち悪いよぉ。視界がぐわんぐわんす、る……」

パンの袋を受け取ると、少女はそのまま倒れてしまった。
少女の家の前にいるマオ鳥が今の騒ぎで目を覚まし、女に対して唾を飛ばしているが鎖で繋がれているのでご自慢の足は届かない。
95アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/09/06(水)19:05:38 ID:GGG
>>94
「翼が欲しいのなら、同族に頼んでアナタを吸血鬼にしてあげるわよ?」
「でも一つだけ警告しておくわ。調子に乗って飛びすぎると血が足りなくなって、墜落しかねないから注意すること」
「それさえ守れば、この広い夜空はぜーんぶワタシとアナタのモノ。とっても素敵でしょ?」

ご希望とならば知り合いに頼めば、一噛みで吸血鬼に仕立て上げることも可能。この女性には出来ない事が幸か不幸かは置いといて。
話ぶりからすると、この忠告も実体験によるモノなのだろう。どんな人物も失敗する時はするのだ。

「あらら、ちょっとお子様には刺激が強すぎたかしら? 身体が弱いのも大変なのねえ」

パンを持ったままぐったりする少女をお姫様抱っこで抱え上げると、彼女の自宅らしき家のドアへと手を伸ばす。
が、ここで足に生暖かい感触。目を向けると何かの液体がべっとりと付いて、強烈な匂いを出す。
鎖の音のする方向を向けば、何処かで見たような記憶のあるマオ鳥が、女性目掛けて威嚇と唾の応酬。

「……随分とよく躾けてある子ね。関心だわ」

服の裾で唾を軽くふき取り、そのまま家の中へ。
少女をベットに寝かせ、パンの袋を適当なテーブルに乗せる。手数料としてパンを一つ口に咥えて。
特に家の中を物色することも無く、再び外に出れば、先ほど手に入れたパンをマオ鳥に向けて放り投げる。

「ふふっ、おやすみなさい。いい夢を」

翼を大きく広げ、青く輝く月に向け、吸血鬼は夜空へと優雅に羽ばたいていく。
満月も近い、とある夜のお話であった。
96???◆FlUF1ZoVFw:17/09/06(水)22:28:25 ID:OkR
【ロアールギルドの裏手】

つい昨日までの灼熱地獄が嘘のように夏は過ぎ去り、涼しさ訪れと共に落葉が一つ二つと増えるこの頃。
未だ森の木々は青いものの、葉は風に乗って渦を巻き……渦?
何やらつむじ風のようにも思えた、人為的で不自然な風の流れ。

「いざ迎えむ精霊主よ……大月満ちし妖艶の『魔素(マナ)』を我の下に……!」

「キィィエー!」

月祭も耽る頃、人通りの無いギルドの裏手で人知れず魔方陣の紋章が怪しく光っている。
――――――魔女だ。今時ここまで魔女らしいことをしている魔女もかえって珍しいというものである。
浅緑のローブに対比する長くうねった赤毛の髪。そばかすの目立つ青白い肌。
漂わせているマナのそれはどうやら風属性を帯びているようで、満月の魔力を受けて緑のオーラを光らせている。

「こういう日でもなきゃ精霊召喚なんて出来たもんじゃないわ……上質な魔物なんて露天なんかじゃ買えないし、あーもう頼むから出てきなさいよ……」
97レクス◆L1x45m6BVM:17/09/06(水)22:41:04 ID:3Sp
>>96

何やら掛け声のような、奇声のようなものを聞き付けて現場に訪れた人物がここに一人。
風の力を感じるその現場に遭遇しての第一声は。

「ここまでイメージ通りのやつってのも珍しいよな……」

魔方陣の紋章に頭の中で心当たりはないかと探すが、魔法の知識がそんなにない毛皮を纏っただけの竜人には何もわからなかった。
とはいえ何をしているかわからない以上、一応安心を得るためにそこに出ようと足を踏み出した。

「上質な魔物って何する気だよ、魔女さん?」

角、鱗、竜の脚と尻尾。ここまで竜人です、と主張してるのも珍しいのがここに現れていた。
98プシュテブルメ◆FlUF1ZoVFw:17/09/06(水)23:16:53 ID:OkR
>>97

「……うわっ、人来たし……しかもガサツそうな亜人……!あっコラ陣を踏むな!ルーンが乱れるのよ!」

彼女の身長からしても結構大きい魔箒をぶんぶん振り回すと、風属性を帯びた羽根が鋭い矢となって足元の地面に刺さりレクスを牽制する。

「まったく……気難しいお方だったらどうしてくれるのさ……」

旋風は葉を巻き込みながら徐々に魔法陣に集まり光を強めていく。
上天に昇った満月は光る魔法陣とシンクロして神秘的な閃緑の空間を作り出している。

「……なんか妙にオーラが強いわね……あっ大物なのかしら?確定演出なんて初めてね……ふへへへ」

具体的に何を出すとかいう召喚ではないのだろうか?そんなアバウトな召喚もあるのだろうか……
よく見ると、その魔方陣の中央には何種類かの動物の干物が縛られてある。

「何するも何も……召喚には生贄がいるのよ……魔晶石とか霊長類のミイラとか目玉飛び出るくらい高いのは知ってるでしょ……」

魔法使い的には知ってて当然の常識みたいな口ぶりだが、竜人は魔法使いでもなんでもないのでそんな常識はたぶん通じない。
99レクス◆L1x45m6BVM:17/09/06(水)23:39:57 ID:3Sp
>>98

「ガサツ……うおっ!? 踏む気はねえよ!?」

ガサツのイメージはどこから引っ張り出されたのか聞きたくなったが、その言葉をすべて口にする前に足元に羽根の矢が突き刺さっていた。
あともう少し足を沈めていたら間違いなく足の裏が血まみれ(?)になっていたことだろう。

「どんだけ気難しいやつだと許されねえんだよ……俺を目にしただけで帰られたらそら申し訳ねえけど」

魔方陣から人三人ほどの距離を空けて、神秘的な光景をその金眼に映す。

「何召喚するのかわかってねえのかよ、危険なの呼んでえらいことにはすんなよ?」

アバウト過ぎる上に謎の笑いが聞こえた気がして、少し呆れた様子であった。神秘的な光景はいったい。

「ああ、そっちか。魔物でも操って悪戯でもするのかと思ったわ、見た目魔女だし」
「で、見たところそんな上等な生け贄が使われてるとは思えないんだけどよ、その辺り大丈夫か?」

希少だから、歴史的な価値があるから、研究資料になるから、等という理由で価値が非常に高いものがあるとは知っている。
まさかそれを一回こっきりであろう召喚に捧げる者が実際に居るのを見たのは初めてではあるが。

ひとまずレクスは召喚の光景をゆっくり見守ることにした。
100プシュテブルメ◆FlUF1ZoVFw:17/09/07(木)22:55:33 ID:gsZ
>>99

「あーもう1歩半、そうねそこらへんがいいわ・・・・・・」

ルーンの乱れは術式の乱れだと主張する。召還は結構繊細なものらしい。
割と簡易的な召還術とはいえ、やはり魔術に関することは分からないことが多い。

「別にバルログとか召還するわけじゃ……ふふ、でも召還できたらあんたに真っ先に仕掛けてやるわ」

青白いそばかす顔に不適な笑みを浮かべる。
見た目こそロアールには何処にでもいそうな少女だが、見習いというわけではないようで随分魔女らしい態度をしている。

「う・・・・・・うるさいね、経費で落とせる呪物がこれしかなかったのよ・・・・・・その角とか捧げて召還してやってもいいわね」

精一杯からかって威厳を保とうとする少女だが、お寒い懐事情ではこの程度が限界らしい。
目の前にちょうどいい生贄がいるのはともかくとして。
魔方陣からは徐々に白い粉が舞い始め、月明かりに照らされて煌く。

「お、おお・・・・・・って、何よこれ?・・・・・・粉?」

それはいわゆる鱗粉であった。あの蝶とか蛾の羽についてるアレである。
――――直後、魔方陣のある一帯は、竜巻のように飛び回る白い蛾の大群に包まれた。

「うぎゃーーーーーーーーー!!!」
101レクス◆L1x45m6BVM:17/09/07(木)23:17:11 ID:Ebi
>>100

そこまで細かいか、と律儀に指示には従いながら竜人は思った。後の結果を考えると幸いであったが。

「こっちに危害加えてきたらそいつを空から落としてやるよ」
「…………青白いな」

召喚した奴ごと自滅する気にも取れる宣言だった。危害の度合い次第なのは声色から判断できるが。
月明かりの影響か、夜に目が慣れたのか顔色を見て声が漏れていた。

「…………………………」

生け贄宣言には、無言の笑顔で返した。無駄に威圧感があるくらいの雰囲気と共に。
角が生え変わったりするなら折っても不便はないだろうが何分それはわからないし、狙われることがないわけではなかったのがこの返しの真意である。

煌めく白粉を少し幻想的に見つめていると、次にはあっさりぶち壊されたが。

「おー……まさかの蛾の召喚か、いやこれただの蛾なのか? モスの親玉でも召喚したのか? あと助けはいるかー?」

これ幸いか、魔女の指示で離れていた竜人はその光景を冷静に見ていた。蛾の竜巻の中心に何か居るだろうか? と考える端で叫びを聞いて一応助け船を出すのは危険性を考えてか。
返事が肯定なら腰辺りを抱えて現在位置に戻ってくるだろうが、否定したら本気でそのままにする気である。

「おーい、中に誰か居るのかー?」

その後に蛾の竜巻の中に向かって声をかけた。下手したら蛾に標的にされてもおかしくないが。
102プシュテブルメ◆FlUF1ZoVFw:17/09/08(金)00:02:41 ID:nnK
>>101

「」

赤毛の魔女は白目を剥いていた。へんじがない ただのしかばねのようだ ▼
結局竜人に腰を抱えられて蛾の竜巻から救出されていた。年頃の少女にはキツい光景だったかもしれない。
まぁ別に少女でなくても人並みの虫嫌いなら卒倒しているだろう。慣れていそうな亜人はともかくとして―――

「おぼろろろろ・・・・・・はっ、召還は・・・・・・!?」

光る液体(精一杯の緩和表現)を吐きながらも、なんとか目を覚まし召喚に向き直る。

魔方陣が消え去ると共に、白く光る蛾の大群は夜空へ森へと霧散し、跡形もなく消えてしまった。
すぐそばでやっている月祭からも少なからぬ悲鳴が上がったことだろう。月明かりと蛾の粉だけが残ったかに思われたギルドの裏手だったが・・・・・・
どうやら召還は成功したらしかった。

「ふむ・・・・・・呼ばれたからには仕方ありませんね」

もっふもふの毛に包まれた手足。髪ももふもふ、首周りももふもふ。
下半身は巨大な蛾の腹部ではあるが、やはりもふもふ。まるでシルクのように艶やかに光っていて、神秘的という言葉がぴったり。
そして翼開帳3、4mはあるだろうか。その巨大な4翅をゆったりと羽ばたかせて、彼は降りてきた。
コスタ・ノエの蜘蛛女といい虫系の亜人は巨大化する傾向にあるのだろうか?

「人の子よ、若しくはそこな竜の子よ。汝何を求めるか?」
「私はモルス・サクスモロム・アルバファラエナ。ご覧の通り白蛾の精霊主です。」
「シルクの織物をお望みですか?それとも幼虫の佃煮?私に出来ることならなんなりと。」
103レクス◆L1x45m6BVM:17/09/08(金)00:18:17 ID:Qn5
>>102

光る液体に尻尾で抉り出した土をかけて隠蔽したのはせめての優しさだろうか。
脚にかからないようにしていた辺りは若干気遣いがなってないが。

付近で大量の蛾を見て悲鳴をあげる少女の声らしきものが聞こえたのは、きっと気のせいではなかった。

「……成功ってところじゃね? 見たこともねえやつが目の前に居るしな」

ゆっくり足から魔女を地面に下ろして、目の前の白い亜人をじっくり観察。
少し形や様相が違うだけでこうも感想が変わるだろうか、と思ったのが正直なところである。ただの白い蛾よりも忌避感は感じなかった。

「随分とまあ神秘的なやつが出てきたけどよ、で、何を頼むんだ?」

「って、俺も含まれてんのか?」

魔女の背中を弱く叩いてほれ行ってこいとばかりな態度だが、何故かたまたま居合わせただけの自分も含まれてることに気付いてつい問い返してしまった。

さてはて、魔女はどのような反応をするのか。横目でチラリと確認した彼の視界に入るのは――?
104プシュテブルメ◆FlUF1ZoVFw:17/09/08(金)00:44:23 ID:nnK
>>103

身長もわりと高い・・・・・・というか全身のパーツが一回りでかい感じだ。毛羽立ちで余計に大きく見えるのもあるのかもしれない。
顔立ちは彫刻のように整った美少年であり、巨大なモフモフ生物という感じであまり虫という感じはしないのが幸いである。
とはいえ蛾の精霊なのであの白蛾の大群を呼び寄せるのは簡便してほしいところだ。

「モルス・・・・・・って白蛾主のモルス!?やっぱり大物だったじゃない!これはSSR級でしょ!」

「エスエスレア・・・・・・とはなんでしょう? 世相には疎いもので・・・・・・」

柄にも無くはしゃぐ魔女。ガチャ感覚で精霊を召喚するのもどうかとは思うが。

「ああ、違うの違うの・・・・・・そう伝書櫓が老朽化してて召喚を頼ったのよ、それなら白蛾様が出てきたのも納得だわ」

伝書櫓。ちょうど後ろのギルドに増築されるように聳えている、ロアールでも数少ない高層建築だ。
空を飛べるレクスなら止まり木程度に使ったことはあるかもしれない。付近の飛行種族にとっては空の休憩所になっている。

「その強靭なシルクで櫓の修繕人をして欲しいのよね、ええと・・・・・・モルスさんでいいかしらね?」
「貴方たちの大好きな蜜や木の葉は伝書鳥にたんまりもってこさせるから、雇われてちょうだい」

「伝書櫓ですね。承知しました。白蛾たちも喜ぶでしょう」

レクスにも向き直り、一応含まれている旨の事は伝える。

「・・・・・・ええ、私に出来ることであれば手伝いますよ。いつでもいらしてください」
105レクス◆L1x45m6BVM:17/09/08(金)01:04:27 ID:Qn5
>>104

「エスエスレアに関しては俺もわからねえな」

世相とかそういうところなのだろうか? もしかしたら魔女特有の言語かもしれないと今の竜人は結論付けた。
それにしても、大量の蛾さえ無ければ本当に幻想の中に居る精霊と見れるほどの相手である。真面目に蛾は勘弁願いたいが。

「モルスって言うんだな……、ってあそこ老朽化してたのか、あそこに停まるの少し控えるか……」

止まり木に使っていることはあるが、大体の場合は止まる手段がかなりの強行なので大体スルーしてその下の地面に墜落していることが多い。
もし伝書櫓の近くに不自然な陥没跡などがあればそれは大体竜人のせいである。
……いい加減コントロールできないといけないのだが。

「はー、精霊があそこに住むのか、あまり騒がしくできねえな」

酒場辺りで騒いでるやつが何を言うか。


「じゃあ折角の機会だし、ちょっと身体触らせてくれ。毛に興味がある」

あれ? ナチュラルに危ない発言になってない? とかは言ってはいけない。
本人は毛皮を暖取りに使うことが多いのだが。
106プシュテ/モルス◆FlUF1ZoVFw:17/09/08(金)01:36:14 ID:nnK
>>105

「あ、エスエスレアっていうのはね・・・・・・ガチャっていう露天のくじ引きの最高位で・・・・・・」

お望みとあらばという勢いでオタク語りをだした魔女。
結構遊び好きなのだろうか。いつの時代も射幸心を煽る出し物は尽きぬものだ。

伝書櫓は幾重にも組み合わされた頑丈な製材で出来ている。
嵐や突風程度では倒れないような建物のはずではあるのだが・・・・・・鳥人達がはしゃぎ回ると劣化が激しいらしい。

「大丈夫ですよ、防音は得意ですから――――え?毛ですか?ええまあ、その程度であれば幾らでもかまいませんが」

快諾してくれたようなので、容赦なくその蛾の腹部やら翅やらをモフれることだろう。
なにぶんモルスが大柄なので一人ではモフりきれないが、高級シルク一本一本で毛布を織り上げたような、極上としか言いようの無い手触り。
モフ毛は仄かに暖かく、虫特有の柔らかさもこの大きさと毛量ではクッションに近い。人を駄目にする感じの心地よさだ。
この肌寒い時期には是非ともこれに包まれたい感じである。

「あら、亜人同士惹かれあうって所かしら?・・・・・・デュフフ、悪くないわね・・・・・・」
この魔女何を想像しているのだろうか。あまり悟りたくはない妄想をしているようだ。

「とにかく、宜しく頼んだわモルスさん。2階の角の部屋が空いてるから・・・・・・あの蛾竜巻は勘弁してよ?」

「ははは、急に呼ばれて驚いたのでしょう。普段は大人しい子達ですよ」
「竜の子・・・・・・もう大丈夫ですか?これから寒くなりますからね」
「暖を取りたいようでしたらいらしなさいな、私はあまり動くことがないものですから・・・・・・」

月祭も終わりを告げた夜、伝書櫓に新たな住人が増えた―――これからの時期に頼れそうな住人が。
107レクス◆L1x45m6BVM:17/09/08(金)01:52:37 ID:Qn5
>>106

「そんなものがあったのか……今度露店で探してみるか」

竜人の興味を刺激することはできたようだ。案外またそういう現場で出会う可能性も出てきたのかもしれない。

「よっしゃ。これからの時期は俺にはちょっとキツくてな……」

初めは羽根に慎重に触れてその手触りを体験し、力加減が掴めたところで腹部を少し撫でる。
手触りや暖かみは合格という他なく、もしこの毛で作った防寒具があったなら是非とも欲しいと思うところだ。

と、少し顔が緩みそうになったところで身体を震わせてゆっくり離れた。

「…………おう、ありがとな、あとあの魔女気を付けろ」

寒暖とは別の類いの寒さを感じたらしい竜人は礼と共に恐らく意味がわからないだろう忠告。
亜人同士というより竜人側は完全に興味で動いていたのだが。

「おう、どうしようもなくなったら邪魔するぜ。じゃーなー」

月祭は不思議な出来事が多く起きる。それを体験した竜人は機嫌良さそうに踵を返してその場を離れたのであった。
108エルミナ貿易商◆FlUF1ZoVFw:17/09/17(日)16:01:29 ID:wAI
「フンフンフフーンフーン」
毎度の如く海外からの輸入物が山のように積み上がっている埠頭。海の向こうからしか手に入らない品々が次々市場へと運ばれていく。
荷下ろしを一通り済ませたのか、ニャマは荷箱の上で鎖をぶら下げながら何やら小鉢に液体を混ぜたり木の実を潰したりしている。
彼女もだいぶ町暮らしに慣れてきたのか、服装は相変わらず粗末なものの、少し部族チックな髪飾りや腕輪を付けたりしている余裕が見れる。

「フンフンフフーンフーン」
109リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/17(日)16:47:57 ID:HiN
>>108
今日も今日とて人の往来の多い港町、コスタ・ノエ。埠頭には海を越えてやって来たのであろう貨物が所狭しと並べられる。
貨物を運んでいく屈強な人々の中に、少々この場に似つかわしくない少女の姿が一つ。

「いつ来てもヒトが多いなあ、ココって……」
「ちょっと怖いし、辛いけど、仕方ない、のかな」

人々の間を縫って進むのはロアールからわざわざやって来た少女、リリンである。
彼女にとって、この埠頭はあまり居心地のいい場所ではない。元々多くのヒトに囲まれて生きて来たわけではなかった彼女にとって、ここは多くのプレッシャーがかかる状況であった。
何よりヒトの往来が多ければその分亜人と遭遇してしまう確率もグンと上がる。幸いにしてまだこの場所では見かけていなかったが、どこにいてもおかしくはない。
まあとにかく、コンディションは最悪とは言わずとも、かなり良くないモノであるのは事実であろう。

さて、埠頭を歩くうちに見覚えのある顔が目に入る。あの月祭の日に衝撃の残る出会いを果たした少女だ。

「あっ、あれ……ントゥミーシちゃん……だよね。何か雰囲気が前と違うような……?」

「ントゥミーシちゃん。覚えてるかな? リリンだよ。ほら、前にロアールの月祭で会った」
「えっと、この前のヒトは一緒じゃない……よね? ここには来ないよね……?」

ントゥミーシへと声をかけた途端、あの日の夜の出来事が唐突に脳裏によみがえって来た。
現時点ではありもない触手の恐怖に勝手に怯えつつ、周囲を不安そうに確かめる。あくまで現時点ではの話だが。
110エルミナ貿易商◆FlUF1ZoVFw:17/09/17(日)17:17:18 ID:wAI
>>109

「リリン……?リリン!うん、おぼえてる!」

その緑の瞳がリリンを見つめたかと思うと、まるで近所の子供が遊び相手を見つけたように笑顔になるニャマ。
ドシャッ、と重厚な足の鎖と共に荷箱の山から降りてくる健康的な褐色肌の少女。それが奴隷の鎖である事は微塵も感じさせない快活さ。

「へぶちっ」
……しかし只でさえ碌な服を着れてない上、暖かい国の出身であろう彼女には少々これからの季節は厳しそうだ。

「だいじょぶ、バージェスいそがしい、あたしひま!」

彼女の指差す方を見ると、例の触手小僧が若いながらいっちょまえに触手で人夫をしばき回している。
「こんな弱ってちゃ売り物になんねーよ!紫薬草と黄薬根今すぐ買ってこい!大損になるぞ!」
……確かに忙しそうだ。あれに構われなくていいのは幸いである。

「リリン、どこいく?いちば?おみせ?船見てく?あ、商舎来てもいいよ!」

労働者とはいえまだまだ遊びたい盛りの年だ。目を輝かせるニャマ。
既に品物を捌く段階なのか、商材の知識などないニャマは荷下ろしが終わってしまうとだいぶ暇らしい。
111リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/17(日)17:43:45 ID:HiN
>>110
「よかったぁ、覚えていてくれて。覚えてもらえてなかったらどうしようかと思ってたよ」

にこやかに微笑んでニャマが荷箱の上から降りてくるのを待つ。受け止めようかとも考えたが、どう頑張ってもリリンの力では不可能と悟ったのでそのまま。
彼女の足に依然として絡みついたままの足枷には複雑な思いを抱えたまま。いつか折り合いが付く日が来るのかな、と寂し気な目を向けて。

「あっ、今度会った時は私の上着をあげる。いつまでもそんな恰好じ風邪引いちゃうよ?」

彼女の姿を見ていると、こちらもなんだか心配になってくる。
今着ている上着を貸してもいいが、そうなるとリリンが風邪をひいてしまいかねない。そうなるとどこからともなく父が飛んでくることになるのだが、それはさておき。

ニャマの指さす先を見れば、いつぞやの少年の姿が。だがリリンは知っている、あの少年の真の姿を。
あの衝撃的な日から数日間は自宅の部屋から出るのもまともにできなかったほどだ。苦手意識を持ってしまっても仕方ないだろう。

「あのヒトは……本当だ。忙しそうだね。今日はそっとしておこう。ね?」

小声で「危なかった」と呟きつつ、彼の働く様を少し離れた埠頭から見守る二人組。
ここで気づかれてはいろいろとマズイことになるだろう。移動できることなら今すぐにでも離れたい。いやホントに。

「うーん、そうかなぁ……」
「邪魔にならない程度でいいから、船とかちょっと見てみたいかなー……」

リリンも今まで船とはほとんど縁のなかった身。大勢のヒトや荷物を抱えて海を越える船には興味が少なからず存在していた。
だがここは知らないヒトがひしめく場所。リリン一人では足を踏み入れることすら憚れる。行くならばニャマの背中をゆっくりと追いかけていく形となるだろう。
112ニャマリンディ◆FlUF1ZoVFw:17/09/17(日)18:16:48 ID:wAI
>>111

「うわぎ……?うん……」ズビビ
身分もそうだが、恐らくニャマの部族に防寒の概念があまり無いのかもしれない。気候の感覚が違いすぎるのだろう。
風邪を引く前に何か着せてあげたいところではあるが。

「うん!じゃ、ふねいこ!こっちこっち!」

下手に近寄ってバージェスの宣教を受けるのは御免被る。
彼も種族こそ人間ではあるのだが、その辺の亜人よかよっぽど気味の悪いモツを持っているので実質人外だ。

聳え立つマストは真下から見ると目がクラクラしそうだ。錬金製木材の黒光りする船体は下手な屋敷より大きく、近くで見るほどに圧倒される。
彼女に手を引かれ埠頭のタラップを上がると、船内は潮の匂いと、運んできた香辛料や香料の匂いがつき異国情緒豊かな雰囲気が充満していた。

「えっとね、あっちとーりょーの部屋!こっちがバージェスの物置きで、この下はみんなが寝る部屋で、あとキッチンと食堂と―――

―――微かにだが、上からドシンドシン、ザリザリという明らかに人間のサイズではない足音と何かざらざらしたものが甲板を引きずる男が聞こえた。
多分錨でも下ろしているのだろう。そう考えでもしないとやってられない。きっと亜人ではない。
113リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/17(日)18:38:10 ID:HiN
>>112
「ちょ、ちょっと待ってー! 置いてかないでよー!」

張り切って先導するニャマの背中を追いかけていくリリン。感覚的にはよくあるRPGで後ろについてくる仲間のようなモノだろうか。
明らかにみすぼらしい服装の少女の後ろを、いかにも田舎から来たような恰好の少女が追いかけていく、という光景は滑稽であり、ちょっと場違いでもあり。

「うわあ……すっごく大きいね……」

商船のマストの下付近にまでたどり着いた頃。リリンは甲板の中央にそびえ立つマストを見上げていた。
これだけ大きな船を支えているのだから、これほどまでの大きさになるのは当然だろう。それにしてもそのマストの大きさは異様であった。
少なくとも今まで見たことも無い程の建造物の存在に、リリンは圧倒されていた。何より故郷にそびえ立つ塔よりもずっと大きかったからだ。

ニャマに連れられいつの間にか比較的内部にまでたどり着いていたらしい。
周囲を見渡せば嗅ぎ慣れない潮の匂いや積み荷であろう香辛料、よく知らない獣の匂いが辺りを包んでいた。

「えっと、ントゥミーシちゃん。私達だけでこんなところまで入って大丈夫なのかな……? 勝手に入って怒られたりしない?」

船へと入っていろいろ見せてもらったが、誰かに許可を貰っている訳でもない。いくら関係者と一緒と言えども、ニャマもそこまで重要なポジションに就いている訳ではないことはリリンにもわかる。
しかも上部からは何かの物音まで聞こえてくる。誰かが作業か何かをしているのだろうか。
ほぼ不法侵入と言ってもおかしくない現状に、リリンは不安を感じていた。気づけばニャマとの距離も知らず知らずの間に迫っている。
114ニャマリンディ◆FlUF1ZoVFw:17/09/17(日)19:13:30 ID:wAI
>>113

「へーきへーき、ふね、いろんな人乗るから……おっとっと」

RPGよろしくずかずかと船内に入ってきてしまったはいいが、船乗りは何かと物騒。リリンが怖がるのも無理はない。
しかも明らかに人間サイズの図体ではない足音が降りてきている。逆光の中にその大木のような腕が見えかけた瞬間―――――

「セルカークさん!隣のコルベット流されてません!?」
「あっ、クソ、ロープ繋いだだろうがよ……」

――――恐ろしくドスの効いた声を響かせてまた甲板に上がっていった。
間一髪リリンの心臓は助かったようだ。
「あ、リーフィー!」

代わりに、あの日の物腰の柔らかそうな竜人の少年が出迎えてくれた。ニャマもよく懐いていてリーフィーの胸元にハグしている。

「あれ、どこかでお会いしましたよね?たしか雨の日の……」
「うん!リリンていうの」

「あ、えっと……ヒレと尻尾は隠してっと……貴女がリリンさんですね。……てことは先生に呼ばれて……あの、大丈夫でした?バージェス先生に何かされませんでしたか?」

うまい具合に知り合いが繋がり、何とか執り成してくれそうな人物と当たることが出来た。
心配そうにリリンの容態を確認してくれている。
115リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/17(日)19:42:13 ID:HiN
>>114
「本当に大丈夫なの……? で、でも、ントゥミーシちゃんと一緒だから大丈夫……だよね」

一般的なヒトの物とは思えない足音が聞こえ、物騒な腕らしきモノが見えた気もしたが、何者かが現れたわけでもなく。
本人の知らぬ間に危機を乗り越えたのであった。それでも状況は特に変わっていないし、知らない環境に放り込まれている事実は変わらないのだが。

だが、先ほどとは違う足音が再びリリンの耳元に入ってくる。しかもまっすぐにこちらに向かっているようで。十中八九船の乗組員だろう。
今度ばかりは逃れられそうもない。今にも張り裂けそうな心臓を必死に抑え、ニャマの背中にしがみ付き、その人物の搭乗を待つ。

「か、勝手に入ってしまってごめんなさいッ! 今すぐ出ていきますからーッ!」

「って、キャーー!?」

現れたと同時に船内に響くリリンの声。そして勢いよく床板を駆けだす音。耐え切れずに逃走を目論んだのだ。
しかしちょうど床板の間に足を引っかけ躓いてしまい見事に顔面ダイブ。こうして逃走計画は脆くも崩れ去ってしまったのだ。

「うう……鼻が潰れたかも……」
「――あれ、アナタは……前に小屋で会った……?」

思いっきり打ち付けた鼻を抑えつつ顔だけ上げると、また新たに見覚えのある顔が。
こけた衝撃で視界が多少ボヤついていたこともあり、亜人の特徴であるヒレや尻尾等は目に入らなかったらしい。安定してきた頃にはすでに彼はヒト型だった。

「は、はい。今はまだ大丈夫……です。勝手に入っちゃってスイマセンでした……」
「何かされる……って、あのヒト私に何かする気だったんですか……?」

確かにバージェスに呼ばれていたのは事実だが、今回の訪問はそれとは一切関係ない個人的な偶然によるもの。
それよりも先ほどのリーフィーの発言に心底驚愕しているリリン。恐怖のあまりに目に涙が徐々に溜まっていく。
116ニャマリンディ◆FlUF1ZoVFw:17/09/17(日)20:50:17 ID:wAI
>>115

「ああー・・・・・・だいじょぶ?このふねすべるから、よしよし」
ぶっ倒れたリリンをやさしく起こすニャマ。背中をさすって落ち着かせようとしてくれている。

「ああいえ・・・・・・てっきり呼ばれてホイホイ付いてきちゃったのかと。偶然でよかったぁ・・・・・・」
「あのその僕も被害者というか・・・・・・だっ、大丈夫です!貴女の純潔は絶対に守ります!と、取りあえず先生が来なさそうな所へ!ね!」

なぜかリーフィーも涙目になりながらリリンを励ます。ある意味被害者の会だ。
リリンを隠すように、キッチンと食堂に逃げ込む。船なので広さは心許ないが、船の船員が十分座れるスペースはある。
バージェスは船底や研究室に引き篭もる事が多く、ましてやキッチンには入りもしないのだとか。

「いたくない、いたくない・・・・・・」

暫くニャマがリリンを慰めていると、なにやら香辛料のいい匂いと共に、焼きたてのスコーンが出てきた。
あの雨の日の紅茶もそうだが、何とも少年らしくない女子力の高い芸当だ。エプロン姿も様になっている。

「あはは・・・・・・お粗末ですけど、どうぞ。これも何かの縁ですし」
「リーフィーねー、おかしつくるのすごくおいしい、ほらあーん」

サクサクのスコーンを一口大に割って、涙目のリリンの口にスコーンを押し込むニャマ。

「・・・・・・危なくなったらいつでも匿いますから……気軽に言ってください、人混みに紛れれば気づかれませんし」

こういった大型船は、他大陸に向かう船客を乗せることも多い。
船員とのコネによっては容易に出入り出来るようである。
117リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/17(日)21:43:30 ID:HiN
>>116
「あはは……大丈夫だよントゥミーシちゃん。ちょっと鼻が痛いけど」

ニャマに身体を引き起こされるリリン。彼女からすればリリンの身体なんて貨物に比べれば軽いモノだろう。
とりわけ強く打ち付けた鼻はすっかり赤くなってしまっている。潰れてはいないのでご安心を。

「アナタもあのヒトに……その場所に行ったら私は何をされるんでしょうか……」

二人からそれぞれ方向性の微妙に異なる慰めを受ける。特にリーフィーの言葉は強くリリンの心を揺さぶった。このままバージェスに遭遇すれば何をされるか溜まったもんじゃない。
そのまま両脇を固められながら連行、もとい護送されるリリン。たどり着いた先は食堂。スペースは十分に確保されており、少なくとも現状の三人では困ることはなさそう。
誘われるがままに椅子に着席。鼻を手で押さえながらニャマと共にリーフィーを待つ。

ニャマに慰められたおかげでかなり心境として落ち着いてきた中で届けられるスコーン。
焼きたて特有の香ばしい小麦と散りばめられた香辛料の匂いが鼻腔をくすぐる。鼻の調子がよろしくないことが残念だが。

「わあ……凄いですね。美味しそうです。これって全部リーフィーさんが……?」
「では早速ですけど、いただき……もがっ!? もごっ!?」

差し出されたスコーンに手をかけようとした瞬間、突如横からリリンの口に押し込まれるスコーンの塊。
幸い大きさもそれほどではなかった事もあり、大事には至らなかったが、それでも呼吸には少し苦労する程度には被害を被っている。
何より小食の身には割とこの歓迎は辛いモノがあった。ハムスターの如く口いっぱいに焼きたてスコーンが収まる。

「ごほっ……ごほっ……いろいろとありがとうございます……」

口に収まった小麦の塊を何とか消化して、リーフィーとニャマに頭を下げる。
いつの間にか不安な気持ちも目に溜まった涙を消え失せていた。先ほどまでは別の涙が溜まっていたが。

「えっと、あの……ちょっと外の空気吸ってきていいですか……?」

申し訳なさそうに二人に向けて静かに話すリリン。
先ほどまでいろいろとドタバタしていたこともあり、少しばかり落ち着く時間が欲しいのだろうか。
118エルミナ◆FlUF1ZoVFw:17/09/24(日)18:24:05 ID:Bng
>>117

ザザーン……ザザーン……
ガヤガヤガヤワイワイドヤドヤ

廊下の突き当たり、ちょうど船尾の部分にデッキがあり、コスタ・ノエを見渡せる位置にあった。
埠頭や市場を人々が忙しなく行き交い、西日が街をオレンジ色に染めている。

普段こういったアングルで港を見れるのは海から戻ってくる者だけだ。涼しい潮風を浴びて、少しだけ船乗りの気分になれるかもしれない。

「ア……リリン、おちついた?」

しばらくしてデッキの隣にちょこんと座るニャマ。
相変わらずその鎖は重そうだが、その純真無垢な緑の瞳は心配そうにリリンを見つめている。

「リリン、ばーじぇすが好きなの、へんないきものだけ。リリンとぎゃく」

そう、バージェスが好むのはあくまで希少素材や錬金関連。故にリーフィーは拉致されても、"普通"の人間であるリリンの体には興味を持たないだろう、との事だ。
基本バージェスに仕えているニャマは、バージェスの趣味に付き合わされているので半ば呆れ気味にそう話してくれた。

「たぶん、リリンには、長いうんちく、話すだけ思うよ」

<リーフィーくん、ちょっとバージェス先生呼んできてくれないか、商人が来てるんだけど素材の目利きが解らなくてさ
<あ、はあい、只今

そして業務連絡になると別にリーフィーもバージェスを極度に恐れている様子は無いようだった。

廊下を時折船員が通りかかるが、リリンとニャマを見ても素通りしていく。持ち場に異常がなければ人の出入り自体は割とどうでもいいようだ。

ニャマのうねるような伸ばしっぱなしの髪は、潮風に吹かれて大きくなびいていた。

「……ここ、アタシのお気に入りなの」
「リリンも、何か、お気に入りのとこ、ない?」

ジャラ、とその鎖を動かす。光る鎖の切れ端は、常に契約主の方向を向くようになっている。
今の契約者はリーフィーだろうか、甲板に向いている。

「ここ、ドレイにあんまりきびしくない。このクサリも、リリンにも、けいやくできる、かも?」

「こんど、どなどなにたのんでみるね」

随分と価値観の違う考え方ではあるが、ニャマはそんな野蛮な文化を少しも感じさせない純真さで、ニコッと微笑んだ。
119リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/25(月)21:15:46 ID:A4y
>>118
船の船尾の先、海から吹き抜ける潮の匂い漂うデッキに、リリンは一人いた。
この場所からは、つい数刻前まで居たはずのコスタ・ノエの港町が一望できる。改めてこの街の広さを自らの目で実感することになる。
今日はいろいろあり過ぎた。お出かけのついでに船に寄ってみただけで、まさか乗船し、中を見学させてもらった上に軽食までご馳走になるとは。
新しい体験は自身の世界が広がっていく感覚が身体を突き抜けていく。楽しいことではあるが、楽しむことは非常に体力を使う。知識も体力も少ない少女にはとんでもない重労働であろう。

「はあ……いい景色……。船って凄いな……」

カタ、と甲板が軋む音がする。振り向けばそこにはニャマが。右手を小さく振って応答。
ニャマがデッキ近くに座るのを確認し、リリンもその隣に座る。少女二人がコスタ・ノエの街を目前に座り込む。この美しい光景を堪能できるのは今はこの二人のみ。

「うん、とりあえずはね。ちょっと疲れちゃってて……。心配かけちゃってゴメンね」

ニャマに笑顔を向けるリリン。だが疲労が蓄積しているのが表情からもわかる。
今日の初めに会った時に比べると、少々無理をして作ってる様子が感じ取れるかもしれない。

「そうだと……いいんだけどなあ……。うん、きっとそうだよね。私には何もしない……よね」
「でも……そう普通って言われるのも、なんかこう、イマイチ納得しないというか……」

まだ完全には信用しきれていないが、現状では信頼の出来る話を聞いてとりあえずは一安心。ホッと胸をなで下ろす。
だが、それはそれで不満がある。確かに一般的な人間ではあるが、これでも一応特殊な血筋の持ち筋。ここまではっきりと否定されるのは悔しく感じるものがあった。
この何とも言えない不満は表情にもうっすらと現れていることだろう。声に出すことはないのだが。

いくら人通りの少ないデッキの端とはいえ、ここは作業中の輸送船。未だに多くの作業員が荷物を抱えて往復を繰り返している。
当然リリンたちの周辺にも人々の往来はある。そこまで注目はされていないようだが、時折感じる誰かの目線がリリンの背中を刺す。
先ほど聞いていた人物の声も聞こえる。自分の生きてきた世界とは全く異なる異世界に放り込まれたような気がした。

「私のお気に入り、かあ……」

しばし考える。どのくらい経ったかはわからないが、随分と長く考え込んでいたような気がして。

「私ね、本当はロアールから離れた、もっと遠くから来たんだ。一人でこの町にね。」
「時々帰りたいなーって思っちゃうこともあるけど、修行のために来たし、頑張らなくちゃ、ってしてるの」
「でも辛くなっちゃう時もあってね。そんな時はロアールの端っこにある小さな川に行くの。本当にちっちゃい川でね」
「ココの風景を見てると故郷を思い出して、気分が楽になるんだ。今度ントゥミーシちゃんも一緒に来る?」

リリンもニャマと経緯は異なるが、この若さで故郷を離れ、毎日を過ごす身。どこか同じようなモノを感じていたのかもしれない。

「私はいいよ。そんなモノ貰っても困っちゃうし……。奴隷っていうのもあんまり……ね」

未だに奴隷という制度には適応しきれていないリリン。契約の鎖を受け取ったところでどうしてよいかわからず持て余してしまうことだろう。
そして何より、対等な"お友達"として過ごしたくって。そんな複雑な気持ちが苦笑いから見えるだろうか。
120ニャマリンディ◆FlUF1ZoVFw:17/09/26(火)18:32:42 ID:oan
>>119
「フフ、アタシも、ずっと遠くからひとり。リリンとおなじ!」

自身と似たような境遇である事は理解できたらしく、心強さを感じるニャマ。
旅立ちと拉致、帰らないと帰れないではかなりの相違はあるが、それでもリリンと共感できそうな事が出来たのは嬉しそうだ。

「うん、一緒にいこ。ロアールにきたら、絶対いくから……いけたら」

そう、ニャマは基本的に一人では遠くへ出歩けない。それがこの鎖で課された契約だ。
この重厚な鋳鉄の足鎖を壊せるなら、一緒に自由に森野を走り回れたら。契約の魔法を解けるのならどれほど良いことか。
しかし、ニャマは基本的にあの触手小僧の所有物。鎖の契約自体は融通が効くようだが、結局は気長に貿易商がロアールを訪れるのを待つしかない。

「こきょう……?アタシは、みんなで棍棒もって、となりむらと、戦ってたの、しか、おぼえてない」

「じゃあアタシは、フネがこきょう?なのかな。リリンのこきょう、きになる。」

ニャマの故郷は割と問題が多そうである。どっちがマシだったのか分からないだけある意味結果オーライなのかもしれない。
……たとえその結果奴隷として売り飛ばされてきたのだとしても、だ。

「……ね、ントゥミーシじゃなくて「ニャマ」でいいよ、リリン、ともだち。」

「ンフフ」

と、リリンの指を握って本当に無邪気な笑顔を見せてくれた。
彼女に「対等」の概念を教えるのはかなり時間が掛かりそうだが、それでも"お友達"にはすぐになれたのだから。
もちろん、彼女を本当の意味で対等にするなら、この鎖から彼女を開放できれば理想だ。当然それは触手の主人と対峙する事を意味するが。

船を降り、町へ帰る頃になっても、ニャマの境遇には葛藤を起こさずにはいられないだろう。
だが今は、無邪気に手を振る褐色の少女を、眺めるしかなかった。
せめて来る秋までには、まともな服でも着せてやりたい所だが。
港町は、喧騒とともに夕日が赤らむばかりだった。

「またねー」
121リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/09/26(火)21:41:16 ID:wSu
>>120
「そうそう。私もントゥミーシちゃんもおんなじ。似たモノ同士だね、私たち」

境遇は大きく異なるが、どちらもこの町に生きる少女である。違うところなんてどこにもないではないか。同じ人間じゃないか。
それだけで十分。今もこうして二人、共に同じ時間を過ごしている。その事実はどんな呪縛に包まれようとも、それだけは変わらない。

「私の故郷はね、山に囲まれたところにあるんだ。ここからどのくらい離れてるかはわからないけど、多分きっと遠いんだと思う」
「ココやロアールみたいに大きくはないけど、それでもいろんなヒトがいて、みんなで一緒に暮らしてるの」
「私はパパと一緒に住んでたの。ママは……うん、ちょっと遠いところに行っちゃってるんだけどね、それでも頑張って暮らしてきたんだ」
「パパと一緒に山に入ったり、川で泳いだり……いっぱいしたよ。とっても、楽しいところでね……」

言葉に詰まる。故郷への思いか、今は遠くにいる両親への思いか。様々な思いがリリンの胸の中を駆け巡り、気が付けば涙が数滴、頬を伝って。
コスタ・ノエへと向けられていた顔が下がる。すすり泣くような声が小さく鳴り、しばしの沈黙がデッキを包む。

「……でも、この町が好き。だいすき。色んなヒトに会って、いっぱい教えてもらって、いっぱい親切にしてもらって……」
「私、ココに来て本当に良かった、って思うんだ。私には、ココがもう一つのふるさと」

少し間が空いて、リリンの顔が上がり、ニャマの目をまっすぐに、しっかりと見つめる。
顔は涙で濡れ、鼻水や何やらですっかりぐちゃぐちゃになってしまっていたが、その表情は明るかった。この日で一番の笑み。

「私ね、ントゥミーシちゃんの故郷のことはわからないけど、きっといいところなんだろうな。私にはわかるよ。何となくだけど」
「いつか、私がもっと立派になって、ントゥミーシちゃんを連れて行けるようになったら、一緒に行こう。私の故郷にも、ントゥミーシちゃんの故郷にも」

リリンは一つだけ、約束をした。その時が来るのかも、本当に叶うのかもわからないけど、いつか立派に成長すると誓約するための約束。
この約束を信じてくれるかはわからない。でも、リリンは信じたかった。例え叶わぬ夢になろうとしても、これだけは。

不意にリリンの指が握られる。ニャマの言葉にも驚き、思わず声が上がるが、彼女の思いはリリンにもしっかりと伝わった。
そして何よりも、"ともだち"と言ってくれたことが嬉しくて。もう片方の手でニャマの手をそっと包み込む。

「……うん。私たちはともだちだもんね。ありがとう」

騒がしくも楽しかった時はあっという間に過ぎ、街は夕焼けに染まる。もう帰還の準備を始めねば、ロアールに戻れなくなってしまう。
でも、そうであったとしても、この場を離れたくは無かったし、帰る気にはなれなかった。
今はずっと、この場所で、二人で、このままで居たかった。願わくば、今日と言う日が、永遠に続きますように。

「待ってるから。いつになるかわかんないけど、一緒に行ける時まで待ってるから」
「だからさ、またね。"ニャマちゃん"」
122レクス◆L1x45m6BVM:17/09/30(土)23:19:32 ID:7sS
赤く染まった葉っぱが増えてくる季節、秋が本格的にやってきていたのは言わずもがななこの時期。
湯煙と湯に浮かぶ紅葉を風流として温泉はこの時期も良いものとなっていた。

「寒い……なんでこう風が冷たくなるのかねえ……温泉にずっと浸かっていてえ……」

そんな風流を一切味わえてなさそうな竜人が肩どころか顎の先まで湯に浸かっていた。普段は出している尻尾すら湯の中に沈んでおり、翼腕は縮こめられるように畳まれていた。なんとも情けなく見えそうな様子であった。
123フィエリ◆55Rq1Tu8Bo:17/09/30(土)23:32:50 ID:PLo
>>122
「あ、レクスだ」

そんな声と共に温泉に入ってくる客が1人。
誰なのかはすぐに分かる。長い竜の尾っぽを持つ者は、ロアールにそう多くない。
タオルで身体を隠し、そのまま湯に入ってくるフィエリ。
そして、レクスの側まで寄ろうとパシャパシャ移動。

「最近寒くなったよねえ。風邪ひかないよう、あったまらないと!」
「今日は朝、材料取りに森に入ったけど……キノコとか木の実がいっぱいあったよ!」
「えへへ……今年も収穫祭が楽しみだねっ」

普段は頭巾でツノを隠すフィエリだが、さすがに温泉に入る時は頭巾を取っていた。
赤い髪の上に紅葉がぱさりと落ちるが……どうも気付いていなさそう。
124レクス◆L1x45m6BVM:17/09/30(土)23:48:20 ID:7sS
>>123
「ん? お、フィエリか、ご無沙汰」

パシャパシャ移動で姿までを確認して片手を小さめに上げての返事、そこまで湯から出たくないか。
彼の尻尾が湯の中で自分の身体を周回するような動きを見せて身体付近を囲んでいた。

「風邪で済めば俺はマシな方だけどな……お前は秋どころか冬とか平気なのかよ?」
「キノコと木の実か……温かいスープとかにして食いてえな、森の中で怪我とかなかったか?」
「お前が楽しみなの食べ物じゃねえか? ってのは意地悪か」

最初の方はかなりネガティブ気味のものが多かったが、最後の方ではカカ、と笑いを一人で溢していた。一人よりは気が楽なのだろう、なんとなく。

「さすがにここでは頭巾取ってるんだな、……あと葉っぱが髪に混ざりそうだぞ」

自然と無意識に視線が頭に行くためか、いつも着けてる頭巾がないことに対する違和感や紅葉に気付き、紅葉はゆっくり片手で取ろうとしていた。
……翼のままなのでもしかしたら少し鬱陶しいかもしれないが。
125フィエリ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/01(日)00:06:25 ID:N5h
>>124
久しぶりだね、とフィエリもレクスに応えて肩まで湯に浸かる。
レクスほど寒くはなさそうだが、それでも湯に浸かった瞬間に「ほああ」と変な声が出る。

「冬?うーん、平気とまではいかないけど、すぐあったまれるから……」
「あ!でもでも……雪かきしてて屋根から落ちてきた雪に埋もれた時はさすがに寒かった!!」

その時は運よく知り合いが通りかかってくれたために事なきを得た。
落ちてきた雪が多すぎなかったのも幸いだったのだろうが……事故を「寒かった」で済ますあたりがフィエリらしい。

「あ、怪我とかは大丈夫!ワーボアにも会わなかったし!」
「けどスープはいいなあ……うん、美味しそう。ソーセージもね、入れたら絶対美味しい!」

レクスの意地悪には答えない……というか、「え、食べ物がメインじゃないの」みたいな顔すらしている!
更にはレクスがふと口にしたスープを妄想する始末。
年がら年中食欲祭りなフィエリだが、食べ物がおいしくなる今は特に幸せな季節なのだろう。
そして、翼で葉っぱを取られてるとちょっとだけくすぐったそうに笑うのだ。

「葉っぱ……?わ、ふふっ、ありがとっ」
「さすがにここじゃ頭巾は取るよう。だって、頭巾濡れちゃうし、濡れた頭巾つけたままだと風邪ひいちゃうもん」
126レクス◆L1x45m6BVM:17/10/01(日)00:21:07 ID:WVL
>>125

「マジか、どうやって暖まってるんだ、教えてくれ。そしてそれは寒いで済ませていいもんじゃねえだろ、俺なら死ねる」

湯から出てきそうな勢いだったが、寒さに負けるのかバシャ、と音を立てる程度に収まっていた。
自分だったらそのまま冬眠にでも陥りそうだと。そういえば冬の妖精の贈り物にもそんなものがあったような……。

「あいつら冬にも活動してるのが凄いな……普通寝るだろ、冬は」
「ああ、美味いだろうなあ……あと足りないのは野菜か、無くても良いんだけどよ」

食べ物メインかどうかについては言った本人が言い淀んでる、思い返せば自分も基本的には食べ物メインだったせいだ。
取れた紅葉は翼腕の爪と翼骨に挟んで、くるくると見せる。

「そういうもんか? 直接浸けなきゃ平気だろ?」
「まあ寒くなるなら仕方ないけどな、なんか新鮮だな、普段隠してるし」

翼をゆーっくり沈めつつ、ぺしぺしと自分の頭を叩きながら。
127フィエリ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/01(日)00:36:25 ID:N5h
>>126
「だ、だってすぐお風呂入ったから平気だったのっ」
「それと、えっと……あったまるの、こうやって、ほら」

ぼわ、と息の中に小さな火が混じる。
確かにこれなら、どこでもお手軽にあったまる事が出来そうだ。何せ燃料も火種も不要!
問題は、レクスには真似できそうにない、ということだろうか。

「え、でも……冬にワーボアいなくなったら困る、かも……」
「お野菜がなくなるより……困る……」

本当に 深刻な表情を浮かべている!▼
なにせお肉大好きなフィエリにとって、安くて美味しいワーボアが冬にいなくなるのは大問題!
干し肉だけではフィエリのお肉欲求は満たされないのだ!

「…………おにく」

もはや続くレクスの言葉なんて届いちゃいない!
フィエリの頭の中はお肉でいっぱいだ!
128レクス◆L1x45m6BVM:17/10/01(日)00:46:54 ID:WVL
>>127
「ああ……知り合いに火を吐ける奴が居たよ……竜じゃねえのに……なんで俺は吐けねえんだよ……」

ある意味当然にしてレクスには現状到達不可能になっているものだった。突然変異でも起こらないかと考えるほどに落ち込みが見えている。
レクスの場合、威嚇どころか攻撃にもなる声量があるのだが、いかんせん活用しがたい。特にパーティ組んでたりすると。

「いや寝てたら寝てたで多少狩りやすくはなるだろ? ……狩っていいかはともかく」

「おーい、帰ってこーい、多分ワーボアは元気に活動してるからなくならねえぞー」

肉の地雷を忘れていたレクスはしまった、といった様子だった▼
ひとまず冬場も元気に駆け回り被害を受けた者から依頼が来るのは知っているので呼び掛けているが果たして戻ってくるだろうか!

もし戻って来なかった場合は湯面が震えるほどの声量で「ワッ」と叫んで引き戻そうとするが。
129フィエリ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/01(日)01:13:34 ID:N5h
>>128
「おにく……うぅ……お肉……なくなっちゃ……」
「ほわーーーーーーー!!!!!?」

レクスの呼びかけもむなしく、おにくおにくとうわ言のように呟き続けるフィエリ。
もう彼女は薬屋ではなくお肉屋でもやっている方が平和なんじゃないだろうか。
むしろ肉ひとつでこうも情緒不安定になるのが薬屋なんてやってて大丈夫なんだろうか。

しかし、さすがにレクスの大音声は『効いた』らしい。
それも、びょいんと湯から飛び出すほどの驚きっぷり!
ばっしゃんと湯に戻った時には、フィエリの目はもうまん丸。
何が起きたかまるで分かっていないといった様子で……そしてまた、はらはらとフィエリの頭に紅葉が落ちるのだ。
130レクス◆L1x45m6BVM:17/10/01(日)01:21:18 ID:WVL
>>129
「よーし、戻ってきたな」

きっとフィエリはお肉屋にさせてはならない。だって並べてあるお肉に我慢できずに手を出しそうな危うさを感じるから……。
大音声も役に立ったと内心満足しつつ、耳は大丈夫かと心配になるのであった。

「聞こえるか? ある意味意識戻すのに使えるな、俺の声」
「とりあえず、ワーボアは居なくならない、だから肉はなくならない、良いな?」

再発してまた大声……を繰り返しているといつか番頭辺りから追い出されそうな気がしたのか念押し。
紅葉については、少しばかり鑑賞してみようという気分になったようだ。……少ししてレクスの頭にも紅葉が落ちてくるのだけど。
131フィエリ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/01(日)16:43:56 ID:N5h
>>130
「…………お肉」
「お肉、うん、なくならない。うん」

微妙に肉ロスショックから抜け出せていないらしい。
一応頷いてはいるものの首の動きはかっくんかっくんとしたもの。
その動きに合わせて、頭に乗った紅葉もかっくんかっくん。落ちそうで落ちないあたりがもどかしい。

そして、レクスの頭にも紅葉が乗ると自然とフィエリの視線も紅葉の方へ。
じっとレクスの紅葉を見て……しばしの沈黙。

「おにく…………」
「………………。…………はっ。も、紅葉」

はい、それは紅葉です。
レクスに乗った赤を見て、どういう理屈か肉と言い間違えるフィエリ。
直後に気付いて訂正を入れるあたり、ぎりぎり正気を取り戻していると言えるのだろうか。多分言える。
132レクス◆L1x45m6BVM:17/10/01(日)17:38:55 ID:WVL
>>131

「よし」と一応言葉だけでも戻ってきたことに湯の中で翼の指を締めてのガッツポーズ。
その握り指がすぐにもどかしさによる握り担ったことは必然だったが。

「………………それ絶対獣人の前とかでやらかすなよ……?」

もはや呆れ気味に出てきた言葉だった。視線の先に手をやってみて、紅葉を見つけると意図は理解できたから誤解にはならなかったけど。

「そこまで深刻ならまた祭で買うくらいはしてやるからそれで我慢してくれ……ワーボア狩りは気候によるけどな」

最後の方は湯に口まで沈んで遠い目をしながらやや自嘲気味だった。
と、自分で漏らした台詞からふと何か浮かんで、頭が浮上してくる。

「そういえばよ、前の秋にやってた収穫祭? だったよな? あれもこの秋にやるのか?」

時期的にそろそろだろうというものだった。外から来たレクスにとってはまだまだ定番なのかそうでないのかの区別が曖昧だったようだ。
133フィエリ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/01(日)20:44:45 ID:N5h
>>132
「う、うんっ……い、言わないようにするっ」

レクスが紅葉に手をやると、直前の自分の言動を思い出し照れ笑い。
今のところ被害者らしい被害者は、気心の知れたレクスだけなのが幸いだ。

「えへへ……レクスにはいっつもお肉もらってる気がする」
「今度うちに買い物来た時は何かまたサービスするからねっ?」

「あ、収穫祭はねえ、毎年やるんだよっ」
「だからこれからしばらくは森に入る人が増えたり、畑が忙しくなったりでみんな大変かも!」
「この忙しさがあるから、収穫祭のご飯がすっごくおいしく感じるの!」

もはや奢ってもらうつもり満々である。
自分の気持ちにも他人の言葉にも正直になりすぎるのはフィエリのいいところでもあるが、素直すぎるのも考えものだ。

収穫祭に関しては、「レクスは知らなかったんだっけ?」と付け加えながら簡単な説明をする。
薬屋もこのシーズンは忙しい。森に入る人が増えると、どうしても怪我人が増えるため薬は必要なのだ。
それに、そうでなくてもこの時期にしか取れない植物を採取しておかなければ冬に困ることになる。
今日温泉に来たのは、忙しい最中のちょっとした息抜きでもあるのだろう。
134レクス◆L1x45m6BVM:17/10/01(日)21:05:25 ID:WVL
>>133

うんうん、と頷く。デリケートなところがある互いにとって、ふとしたことで傷つくことは避けておきたい心境なのだ。
そしてまだ気付いてないようなら紅葉をちょいちょいと指していた。

「肉であんだけ喜ぶのはお前と後商船の奴くらいだからなー、おう、気にしなくてもいいけどよ、楽ししてるぜー」

「あー、だから最近忙しないのが多いのか、てっきり冬に備えて貯えてるものかと思ってたぜ」
「大変な仕事のあとの飯の美味さは格別だからなー、……手伝えることあったら手伝ってかねえとな」

日頃、細かな依頼も多いレクスからすれば多少の出資は気にしないもの。
……以前遠慮してなお相当な量を買っていたフィエリには驚いたものだが。量は違えど同じくらい肉好きそうな少女を知ったのでどこかで会わせられるか、会っていたら面白そうとも考えていた。

収穫祭そのものについては「前に参加はしてた」とは言いつつ、その詳細までは知らなかったことを伝えた。
気候に慣れてなかった時でもあるため当時はあまり外に顔を出さなかったのが見掛けにくかった理由にもなっている。

「ひとまず、森や畑に人手が必要なら依頼に貼り出されたりするのかね? フィエリのとことかもよ」

「薬屋も大変だな」と労うように呟くと、ふと何もしていない自分が少し悪く思えてくるのであった。
落ちた紅葉に合わせて、ちゃぷ、と湯に顔を出す尾先が波紋を作りながら揺れていた。
135ネロ◆auhGCOVu..:17/10/01(日)21:21:02 ID:azT
早朝。
まだやや薄暗く朝霧さえ立ち込める通りを、ネロは歩いていた。

「ミルじいもわがままなんだからなぁ」

彼女は市場の帰りである。
"産みたて"の売り文句を携えた卵を2つ袋に下げて、
ロアール郊外のミルジョージ邸を目指す。

(疲れちゃったなぁ。少しくらい休んでも大丈夫だよね)

通りかかった公園は、ちょうど道のり半ばといったところ。
人は誰もおらず、隅のベンチに腰掛けた彼女は独占という言葉が頭に浮かび
無意識にもその顔がにやついていた。
136バトラ◆FlUF1ZoVFw:17/10/01(日)21:50:15 ID:o0M
>>135

「あ゛っ」

早朝の薄霧の中に、ハケと樽を携えた、やけにささくれた黒ローブの少年が通る。
髪は白く、先端は赤く逆立つ。
その赤地に黒い瞳を見開いて、きゅっと瞳孔を窄めていて申し訳なさそうな表情をしている。

「うそだろおい、人が来ない早朝にやってくれって話だったのに」

ハケと樽。となると展開は限られてくる。ペンキ塗りたてというベタな展開が有り得る状況だが―――

「えっと・・・あんちゃん?その……言いづらいんだけど」

「その、今そこ殺虫剤撒いたばかりで……あーあー素手で触っちゃだめだってば」

そのベンチには更に性質の悪いものを塗ってしまっていたようだ。
なにせ巨大G用の毒ともなると人間にも少なからず影響のある毒で構成されている。
もし塗りたての神経毒に勢い良く平手を突こうものなら十中八九ビリビリに痺れるだろう。
137ネロ◆auhGCOVu..:17/10/01(日)22:16:27 ID:azT
>>136

「えっ?」

突然声を掛けられ驚くネロだが、
彼女には息つく間さえ与えられなかった。

「うわっ、あわわわわわっ!」

電撃を浴びたかのような痛烈な痺れがネロの手先から全身を駆ける。
あまりの感覚に勢いよくベンチから身を投げ出すのだが、
毒の回りが早いのか足元がふらつきその場に倒れこんでしまった。

「~~~!」

声にならない叫びとともに、
公園の小さな覇者は言葉通り地に落ちた。

……ついでに買ってきたばかりの卵も。
138バトラ◆FlUF1ZoVFw:17/10/01(日)22:36:26 ID:o0M
>>137

その毒々しい色彩の翼は隠していたが、勘が良ければこの少年のそれが人の匂いではないことに気づくかもしれない。
何処か夜の気配のする、闇の眷属の匂い。
……最も、中毒状態ではそれに気づけるかどうか怪しいが。

「言わんこっちゃねー……どうしよ、オレは解毒剤使えねーんだよなぁ……」

早速崩れ落ちた少年……少女?を見て途方に暮れるバトラ。
彼も普段こういう不可抗力には中々巡り合わないので、解毒薬も当然持っていない。
最も、とある事情でそもそもその薬を持てないのであるが。

「お、おい大丈夫かよー、あーどうしよ、たしか伝書櫓に……プシュテなら解毒できたっけな……」

神経毒に痙攣する少女……いや、少年?の身体を抱き起こそうと、その脇腹に手を回そうとする。
触り方がいやらしいとかそういう事は決してない。

「えっと……男?だよな?おい大丈夫かよあんちゃん、いま解毒に……」
139フィエリ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/01(日)22:51:41 ID:N5h
>>134
「…………?……あ」

レクスに指差され、何かと思って頭に手をやる。かさ、と乾いた手触り。
紅葉がくっついていたことにやっと気付いたらしい。
「お肉なら良かったのに」なんて言って、笑いながら紅葉を湯に浮かべるのだ。

「商船?ああ、そういえば港におっきいのいるらしいね!」
「海の竜人の人には会ったよ、ひんやりしてたなあ……ふふっ」

「そうそう!それでね、いつもみたいに依頼はギルドに貼られてると思うわ。面倒な依頼なら特にねっ」
「この時期は畑も狩りもお店も忙しいから、ギルドのボードを見なくったって誰かに声をかければお手伝いしてって言われるかも」

「私もね、こないだ採ってきた根っこの皮むきを明日やるんだ。今日採ってきた分は、来週やるんだけど」
「レクスもやってみるっ?その時は、翼じゃない方がいいけどっ」

レクスの心情をはかってか、そう告げるフィエリ。
別に本気で手伝いを求めているわけではないだろう。
作業中に話し相手がいてくれればいいな、そんな気持ちで発せられた言葉だ。

そしてざぱりと湯から上がると、ぐぐーっと大きく伸びをする。
火龍の血を引いているのだ。体が温まるのもきっと早い。
「そろそろ行こうかな。明日の準備もあるし」……そう言って笑うフィエリの頭に、また紅葉が乗っかった。
140ネロ◆auhGCOVu..:17/10/01(日)23:11:35 ID:azT
>>138

少年が思案を巡らせている間も、ネロはその身でビートを刻む。

(とっ、とにかくなんとかしないと……
そうだ、手を伸ばしてまずは立たせて貰)

ここで不意に身体が軽くなるような感覚。
ネロは、少年に抱きかかえられんとしていた。

その事態にも戸惑ったが、それ以上に

(ど……毒っ!?)

彼の言葉からこの痺れが毒によるものだと理解し、
底知れぬ恐怖に駆られ始める。

死すらも想起する彼女には、少年に身を委ねる他に選択はなかった。
141レクス◆L1x45m6BVM:17/10/01(日)23:11:55 ID:WVL
>>139

気が抜けてるな、と言った後、お肉がフィエリの頭に落ちるシーンを思い浮かべてみたが、なんだかとんでもない場面になってしまったので、そーだなー、と棒読み気味な言葉が出てきていたのだった。

「そうそう、そこの奴なんだけどな、鎖付いてるから多分すぐわかるぞ」
「あー、リーフィーってやつか? あいつら冬場大丈夫なのかね」

「ん、そっか。それなら街もよく見てかねえといけねえな! ありがとよ」

「……そうだなー、よし、どんだけ役に立つかはわかんねえけど手伝わせてもらうぜ。翼のまま物の皮向くほど器用じゃないぞ……こうすると温かいんだよ」

ずっと広げてる翼は布団とかそういうものとして活用しているようだ。
期間が空いたことに関する疑問は、日を開けてする必要がある薬草……薬根? なのだろうと考えた。まあ空ぶらないことを祈るだけだ。
本人はやる気いっぱいながら少し嬉しそうだが皮剥きがもっぱらナイフなどでしかやったことないのはどうだろうか。

「お、もう行くのか。準備で根詰めたりしないようにな」
「またな、フィエリー。あと頭また乗ってるぞー。もう記念に持って帰ったらどうだ?」

ざぱ、と上半身だけ出して笑いながら片翼を小さめに振りつつ、もう片翼で示す。そしてゆるりと湯に沈んでいく……。
レクスは温まってからも長く居ないと冷めるのが早いのか、まだまだ浸かっている様子である。

翌日、恐らく青い目がかかれた看板が目印の薬屋に顔を出す竜人が見えることだろう。
142バトラ/プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/01(日)23:47:21 ID:o0M
>>140

「よっと、……な、なんかお前、女みたいに柔らかいな……
むに、という柔肌に戸惑いを感じつつも、とりあえずお姫様抱っこ。

「暴れんじゃねーぞ、……暴れらんねーと思うけど」

夜明け前の白ばんだ空に、禍々しい模様の翼が広がる。
そう、彼は亜人、それは魔族の翼。魔族の腕。
毒々しい色の羽根を撒き散らしながら、彼女を抱え、明けの日差しから逃げるようにとある建物へ向かっていった。

〜ロアールギルド上層、伝書櫓〜
ロアールギルドに増築されるように聳える搭状の構造物、伝書櫓。
早朝にも関わらず大勢の伝書鳥が行き交っては伝書を持ち帰ったりまた送ったりしている。
その塔の上部にはいくつか部屋があった。その一つを開けると……部屋中箒、箒、箒。そして大量の羽根や翼の剥製、そして魔導書が足の踏み場もないほど並ぶ。

「う……プシュテぇ、その、殺虫してたらよ、一般人がかぶれて、解毒をだな……」

「はい仕置ッ!!!」

「ふっ!不可抗力だああ!あああぁぁあ……」フニャヘナ

赤髪の魔女がハーブの束で少年を殴りつけると、少年はネロを抱きかかえたまま力なくしなだれ倒れてしまう。
と、同時に少しネロの身体の痺れが和らいだ気がした。

「バトラの馬鹿がすまんねえ、この束はね、コカトリスを腑抜けにしちゃうシデやヒイラギの魔除け草を集めたもんなのさ」

「その神経毒はこいつを飲めば治るよ、くへへ、朝から災難だねえアンタ」

魔女の差し出した湯呑。匂いは……葉っぱの匂いとしか形容しようがない。味は普通にエグい。だが飲めばスーッと痺れは消えるはずだ。
143フィエリ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/02(月)00:32:48 ID:hAy
>>141
「そうそう、リーフィ!鎖の子も、確かいたような……って」
「言われてみれば……リーフィ、冬すっごく寒そうよね……大丈夫かな」

凍ったりしないかな、なんて変な心配をするフィエリ。
もしもそうなったら、炎で溶かせるかな、なんてことすら考えてしまう始末だ!

やる気を見せるレクスに対し「じゃあ、明日待ってるね」と同じく手を振り返し……
かさ。「あ、ほんとだ」「ふふ、このままでいいかもね」……小さく笑う。
そしてそのまま、本当に紅葉と一緒に温泉から出て行くのだ。

次の日。青い目の薬屋に来たレクスが目にするのは、天日干しにされた山ほどの根っこと。
それと、カウンターに小さく飾られた紅葉だった。
144マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/02(月)21:58:07 ID:0sZ
いつも通りゆっくりと時間が流れていくとある日のロアール。
だが今日はいつもとはすこーしだけ異なる不穏な雰囲気がとある一軒家からにじみ出ていた。

はてさてとある昼下がり。突如として謎の爆発音がロアールに響き渡った。
爆発にしては少し音は控えめであるし、どことなくファンシーっぽい爆発音であったが、何かが破裂したようであるのは事実。

音源であろう家の扉には『テンパランス』とだけ書かれた看板。そして横には誰かが描いたらしい、この家の主と思われる顔。
ここはロアールの町にひっそりと佇む雑貨屋。あまり良い噂の聞かない、一風変わった変人が営んでいるという怪しいお店。

隙間が空いていたのであろう窓からは、蛍光色の煙が立ち上る。よくわからないがただ事ではないのは見て取れるあろうか。
果たして扉の向こうでは何が起こっているのか。この店の店主は無事なのか。
全ては明らかになるであろう、この店の扉を開けた者の手によって。
145アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/02(月)22:11:58 ID:atp
>>144
爆発音が響き渡ってから間も無く、ロアールを駆ける足音が軽快に発生する。
紅い尾羽を靡かせて駆け抜ける姿を街中に披露していく人物は恐らく目的であろう蛍光色の煙立ち上る雑貨屋にたどり着き――。

バァン! と扉が勢い余って戻ってくるんじゃないかという位のスピードで開かれた。

「突然の訪問をすまぬ!! 先程の爆発音の発生源と思われるが住民よ! 大丈夫か!!?」

台詞通り、突然やって来たのは何故か笑みに近い顔付きで真剣な眼差しを店内に向ける青年だった。なんというか、火を思い起こすような髪と眼をしている。
反応が返ってこようが来なかろうがきっとこの青年はズンズンと尾羽のような部分を揺らしながら店内に入ってくることだろう、状況が状況故に致し方なしと考えているようだ。
もし煙が向かってきたなら咳き込む音がそれから響くことだろう。
146ネロ◆auhGCOVu..:17/10/02(月)22:24:40 ID:nKE
>>142

「女みたい」というワードにハっとするネロだったが、何せ身体の自由が利かない。
思考は既に渋滞を起こしているものの、今は少年に身を任せる他にないのである。

(暴れてるかもね、それができたら)

まともに動けないというのは彼女にとって一種の救いだったかもしれない。
気付けば少年は人ならざるものと化し、自分もまた共に風を切っている。

(……もうなんでもいいや)

~~~

上層の部屋に扉があるとはこれ如何に、答えは有翼の者が出入りするためだった。
散らかった室内を見ると掃除をしたくなってしまうのは家事が生業たる性だろうか。
二人の力の抜けるやり取りを見ていると妙に心に落ち着きが戻ってきた。

(薬……かな。う~ん……いただいてみようか)

見知らぬ場所で見知らぬ者に手渡された液体。
普段なら警戒して飲むはずもないものだが、状況が状況である。
震える手を助けてもらいつつ、ネロは中身を口へ運んだ。

(マ……マズい!)

しかしその一口が体内に染み渡る感触とともに痺れが抜けていく気がする。
それなら……と今度は一息に飲み干す。
一時は悶絶状態だったが、10分後には身体の自由を取り戻したネロの姿があった。

「ありがとうございます。助かりました。ボクはネロといいます。
 あなた方は……?そしてここは何処なのでしょう」
147マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/02(月)22:28:25 ID:0sZ
>>145
店の中は妙な色の煙が充満していた。入ってすぐは赤色の煙だが、少し右を向けば緑、そのまた向こうを見れば水色といった具合。
それにもう一つ不思議なことがある。甘い。店の中が異様に甘ったるいのだ。正確には甘い匂いが店中を覆っていると言えばよいか。
恐らく発生源はこの目にあまり宜しくない蛍光色の煙だろう。

アカハネが戸を開けたおかげで店の中に籠っていた煙は徐々に外へと出ていき、新鮮な空気と入れ替わっていく。
視界も少しずつではあるが良くなっていくことだろう。安心安心。

さて、店の中の様子と言えば……相変わらずの惨状。元々散らかってはいたが、爆発の影響だろうか、さらに酷い乱雑っぷり。
小物は天井や壁にも散らばり、壺には先ほどの煙が依然としてしっかりと残る。

店の扉の奥、店内と居住区を仕切る暖簾の向こう側からは、以前としてあの煙は漏れ出している。
視覚的にも味覚的にも厳しい煙の向こう側にまで進む意志があるのなら、早めに突っ切って行ったほうがいいだろう。
何しろ、暖簾の向こうからは、店主であろう人物が倒れている姿があるのだから。
148アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/02(月)22:40:38 ID:atp
>>147

「むむっ、この煙は何やら甘いな! もしや魔物の放つ香りか!?」

嗅覚にダイレクトに来た甘い香りにそんな予測を立てるアカハネという青年。
煙、甘い匂いと来れば案外こういう予測をしてしまうのが普通なのかもしれないが。

「酷い有り様だな! 魔物だとしたら大変だ!! 住民どこに甘いな!!!」

予測が確信に刷り変わるのは突然のこと。荒れっぷりを見てしまって声はハッキリ、表情にやや翳りが見えたかと思ったら壺の中を覗いて感想。忙しい青年だ。

「む、これではなくあちらか! ……!! 住民とお見受けする!! 今行くぞ!」

ぶるぶると頭を振って甘い匂いを払うと別の場所から出てくる煙を発見する。空気が入れ替わったことにより見つけやすくなったのが有り難かった。
そしてアカハネは人影を見つければ迷うことなく一直線。文字通り煙の中に突っ込み、甘いな! と逐一感想を述べながらどうにか店主の元へ。
この時もぶるぶると頭を振るのは煙や香りがまとわりつきそうだと思っているからだろう。

「住民よ! 無事か!! 意識はあるか!!? 何が起こったのだ!?」

片膝を付き、側で声をかけつつ仰向けに起こしてやろうとしている。片手で。
空いてる片手で何をするかと思えば頬への平手打ち二回。防いだりしなければきっとそこそこ痛い思いをするだろう……。善意なのがタチ悪い。
149マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/02(月)22:52:31 ID:0sZ
>>148
店主が横たわる前のテーブルには、星やハートを模った色とりどりな手のひらサイズの固体。そして煙の湧き出る鍋。
間違いなくこれがこの惨事を巻き起こした元凶であろう。今すぐ何らかの処理をしてもいいが、それは彼次第。

「…………うーん、キミは……、ッ!!」

ばしーん、ばしーんと大きな音が二発。避ける暇も感知する余裕もない無慈悲な平手が炸裂。
店主の顔には真っ赤な紅葉が二つ。おかげさまで気は取り戻したらしいが。

「キミは……あの時のか……。こんなところで何を……?」

アカハネの手によってとりあえず救出された店主、マクシスであったが、その姿は以前とある難破船で遭遇した時とは異なっていて。
まず服の袖がブカブカ。もちろん足の丈も余りまくっている始末。それに声もあの日より高いような。

「随分天井が遠くなったような気がするんだが……、気のせいだろうけど」
「とりあえずここからいったん出よう。続きは後で話すよ。ここにずっといればキミにも何か影響が出るかもしれない」

テーブルに手を付き、ズボンのすそを引きずりながら店の方へと進んでいくマクシス。
扉が開けっ放しになっているおかげで、店の煙はほとんどなくなっている。あの甘ったるい匂いに苦しめられることもなさそうだ。
依然として謎の煙は出っ放し。対処した方がいいのかもしれないが、現在のマクシスにその気は無いようで。
150アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/02(月)23:05:53 ID:atp
>>149

「そういう貴殿はよく見ればあの時の――誰だ! 爆発音がここから聞こえたゆえに何があったか知るために駆けつけたのだ!!」

なんとなく面影を感じた人影……かと思ったら回想の中の人物と、そう、サイズが何かおかしい。だからこそのこの発言。
説明が実に簡潔であるのは緊急時には良いことだろう。
「承知した! あの鍋は気になるが今はこちらが重要だな!! では出よう!!!」

ぶっちゃけた話煙という煙をガッツリ浴びたり嗅いだりしてるのだが、本人には危機感が全く無い。無いったら無い。
あくまで散らしてるだけで吸い込んでない訳でもないのだ。悪影響がなければいいが……。

「失礼!!!」

そしてアカハネが次に取る行動と言えば、マクシスを小脇に抱え上げてのダッシュ退店である。実に迅速、そしてマクシスの気分まで気が回っていない。
特に異常がなく脱出できた場合は、マクシスをスッ、と下ろしてから扉をバァン! と勢いよく閉めることだう。
151マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/02(月)23:23:25 ID:0sZ
>>150
軽々と抱えられるマクシス。随分ちっこくなっているので担ぎ上げるのも非常に容易。
そのまま人形の如く連れ去られて店外へゴール。再び店内はあの煙で埋め尽くされていく。窓ガラスからその様子は確認できる。

「まあなんだ、とりあえず助かったよ。アカハネ……だったかな」

救出されて礼の一つも言えないような無礼者ではない。服を叩きながら軽々しく礼。
爆発と煙の異変を嗅ぎ付けて、流石に他の住民たちも集結しつつある。大半の者は呆れ顔だが。

「いや何、この間コスタ・ノエまで買い付けに行ったんだけどね、そこで珍しいモノを見つけたのさ。ほらコレ」

ポケットから出てきたのは、先ほどテーブルの上に転がっていたファンシーな色と形の固体。
顔を近づければ家の奥から未だに立ち上っている煙から漂う、あの甘ったるい匂いとほとんど変わらないソレがわかることだろう。

「このマカロニンたるモノがまた珍しくってね。初めて入荷したって言うんだよ。初めてだなんて言われたら買いたくなるだろう? そうでもない? そうか……」

「まあいいや、とにかくコレを使えばいろいろと面白いことが出来るらしいんだよ」
「とりあえず聞いた通りに鍋で適当な材料と余り物も混ぜ合わせてみたんだが……どこかで何か間違えたらしい」
「流石にこうなるとは思わなかったが、これはこれで面白いかもしれないね。こんな経験は初めてだよ」

ハッハッハ、などと笑いながら話すマクシス。間違いなくこの状況を楽しんでいる。

「ところでキミの方は大丈夫かな。僕は爆心地にいたから仕方ないが、かなり煙を吸ったのならば何か起きるかもしれないが」

心配事はこれだけでは終わらない。あれだけ発生源の近くまで寄ったのだから、影響が及んでいてもおかしくはない状況。
多少なら吸っても問題ないだろうが、量によっては身体に深刻な変化が及んでいる……かもしれない。割と個人差はあるのだが。
152バトラ/プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/02(月)23:35:10 ID:2M6
>>146

「ん、一応ロアールギルドだよ?まぁ、伝書櫓は最近出来たから馴染みもないか」
「上層は空を飛べる奴しか入り浸らないからねぇ、アタシも含めて」

スイーッ、と腰掛けていた箒で宙に浮き、自身は一切足を動かさずに移動してくる。
バトラをハーブで屈服させつつ、その黒い服をまさぐり腋や腹の毒腺らしい場所を執拗に絞っている赤毛の魔女。

「やっ、やめろおおぉぉ~」
「魔除けが効いてるうちはいいんだけど、こいつの毒液は羽根にまで染み込んでてねぇ・・・・・・
この原液に指の一本でも触れればバタンキューさ。キミ心臓止まんなくてよかったねぇ、ククク」

ガラスの小瓶に溜まった紫色のそれはまさしく毒!といった色合いの液体。
魔道具っぽい研究器具に通して、その毒を何やら他の液体に色々通したりしている。
勿論、常に移動は箒に乗って。どんだけ歩きたくないんだろうか。

「はううぅ・・・・・は、ハーブをどけてくれぇ・・・・・・」

「そいつ用心棒として雇ったんだけどこの猛毒はちょっと手に余っててね。とりあえずゴキブリでも追っ払えないかと・・・・・・ところできみほんとに怪我とかないよね?」
153アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/02(月)23:45:44 ID:atp
>>151
「礼は不要! 当然のことをしたまで!! アカハネで大丈夫だ!! そちらはマクシス殿でよろしいな!!」

テンションが基本高めなのかこちらもどこか暖かい目で見られている。巻き込まれたと思われているのかもしれない。

「ふむ、先程の煙と匂いが同じだな! もしやこれが原因か!?」
「物珍しさに惹かれることはあるかもしれんな! 俺には扱える気がしないので買いはしても利用は難しそうだ!!」


「なんと!! 何を混ぜたらそのような効果になるのだ!? 縮んで元の姿に戻る保証はあるのか!? 聞かせろマクシス殿!」

かなり珍しい現象に無意識に昂っているのかマクシスを持ち上げたり、抵抗がなければ側転のごとく一回転させようとしたりやりたい放題である。

「む! そういえば甘い匂いは何度か味わったな!! しかし心配御無用! 俺がその程度で――」

マクシスをまた下ろしてから笑みの表情のまま心配事を払い飛ばすように笑いとともに言っていたその時だった。
ボフン、と彼の身体から不思議な音が発生し、煙に包まれたのは――。

「変わるわけがない!!!」

煙の中からちっこくなったアカハネが出てきました▼
尾羽の長さが少し短くなったのと、顔つきが子供らしくなったのが印象的だろう。そして声も一際ハッキリしている。何故か髪だけ伸びているのは幼少期は伸ばしていたということだろうか。
しかも目立たなかった火の木の棒(アカハネ命名)のサイズが変わらないため地面に突き刺さってる。とてもシュールだ。
154マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/03(火)00:04:34 ID:e9F
>>153
「僕が思うには残り物のスイカを混ぜたのがマズかったと思ってるんだよね。甘いモノに甘いモノが混ざるとあまり良くないって話を聞いたことあるし」
「たぶん、甘味を過剰に混ぜ込んだ影響による甘味爆発が起こったんだと思う。推測に過ぎないけどね」
「やはり魔術アイテムを取り扱うのは難しかったようだ。魔力のない僕の手に負える代物ではなさそうだ」

マカロニン。またの名を甘味爆弾。いろいろな要素をファンシーな代物と過剰なほどの甘味で固め合わせたモノ。
これでも魔力の塊であるため、魔術にはさっぱり縁のないマクシスの利用は難しかったそうだ。現にこの大事故が起こっている。

「でも大丈夫、一日寝てれば元に戻るそうだよ。今日のところはこの姿を楽しもうじゃないか」

説明をしながらもアカハネの手によってぐるんぐるんと振り回されるマクシス。
特に本人も抵抗していないのでやりたい放題である。支えのおかげで側転もバック転も思いのまま。

そろそろ行こうかとアカハネに声を掛けようとした瞬間。突如漂うあの忌々しき煙。そして爆発音。
どうも手元にあったマカロニンが暴発したらしい。甘味爆弾の異名は伊達じゃない。
煙が晴れた先に合ったものは……先ほどの青年。しかもマクシス同様にちっこくなった。

「……やはりキミも相当量吸い込んでしまったみたいだね。害はないらしいから安心してほしい」
「で、久々にこの姿に戻った気分はどうかな? 新鮮な気分にならないかい?」

さて、こうしている間にも依然として蛍光色の煙は店から漏れ出している。なかなか煙が収まる気配もない。
この煙も少しずつ周囲の家へと広がっていくことだろう。そうすれば周囲一帯で大規模な幼児化テロが引き起こされることになる。
これ以上の被害を食い止めるためにも、誰かが再び店内へと突入し、諸悪の根源を封印しなければならない。
一つだけ問題点があるとすれば、この騒動を引き起こした張本人に危機感が全く存在していないということだ。
155アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/03(火)00:20:16 ID:6fa
>>154
一晩寝れば。それを聞いておいて良かったことだろう。慌てふためくよりはずっと余裕が持てるはずだ。

「む? 何のはな――周囲が広くなってないか!? む!? 何故つっかえるのだ!? ……もしや!?」

流石にすぐには気付いてなかったようで、マクシスの質問にも答える余裕が無さそうにキョロキョロしたり移動しようとして転けそうになったり散々だった。
しかし、やはり実物を目にしたのが大きいのだろう。そんな慌てっぷりはすぐに落ち着いて、胸に手をドン、と当てて。

「うむ!! 新鮮なのと共に懐かしくも思えるな! これがマカロニンとやらの力か!! 恐ろしくも不思議なものだ!!」
「確か一日寝れば良かったのだな!! ならば気にすることもないな!! 今日はこれを楽しむとしよう!!」

すごいポジティブだった。目の輝きや不思議と背景が輝いてる気がするのは気質のせいだろうか?
視点が下がったのが原因なのか、煙に気付くのは結構遅く、気付くまで軽くなった身体(火の木の棒は地面に突き刺した)でバック転したり側転したり小さな火を空に吹いたり実に楽しそうであった。
火を吹いた後にやっと気付くのだが。

「ところであの煙はどうする! 鍋の蓋でも閉じておくか! 漏れ出すのはもったいなかろう!」

三段活用みたいな言い方だった。一言言う度に一歩ずつ近付いてくるものだから尚更だ。
しかし見た目が見た目のため威圧感は全くなかったのであった。
156ネロ◆auhGCOVu..:17/10/03(火)19:03:06 ID:lsG
>>152

「ギルド……ここがそうだったんですね」

箒に乗って往来する、見るからに魔女と呼ぶに相応しい女性と
彼女に弄り倒されている有翼の少年。
今まで縁もなかった界隈の者らを前に呆気に取られるネロだが、

(もしや実験体にされたり……)

毒々しい液体の流れを見ていると不安を感じ始める。

「怪我は……はい、大したことはないです」

そう答えつつも無意識に右ひざの近くをさすっていた。
ベンチから転げ落ちた拍子に擦りむいてしまったようで、
痺れが取れ感覚を取り戻した今になって痛み出したのだ。
157マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/03(火)22:34:54 ID:e9F
>>155
「今更子どもに戻れる機会なんてそうそう無いだろうよ。子どもの気分に……という訳でもないけど、こういうのもたまにはアリじゃないかな?」
「さて、僕は散策に行こうとするかな。目線の低い今なら普段見つけられないモノでも見れそうだし」

相変わらず危機感も責任感もまるで無さそうに話すマクシス。背景でヘンな煙が昇っていなければそれなりの絵面にはなっていたのかもしれないのだが。
それにこの青年はこの状況を誰よりも楽しんでいた。アカハネが新鮮そうに小さくなった自身の身体を楽しんでいるのを眺めているぐらいだし。
さて、と早速この状況を放置して自分一人で散策に出ようとするくらいには無頓着。

店内より湧き出ているカラフルな煙は着実に増え、屋外へと漏れ出している。
ついに悲劇が起こる。突如として風向きが変化し、漏れていた煙が野次馬たちを包み込んでしまったのだ。
そして巻き起こるファンシーな爆発。思い切り吸い込んでしまった住民たちの身体は見る見るうちに彼らと同じように子どものソレとなっていく。これでは立派なテロ行為。

「ああ、そうだね。正直この量になると僕の使った鍋の蓋程度では抑え込めないと思うんだよね」
「とはいえ捨てようにもそんな都合のいい場所もない。正直手に余るんだよねえ」

アカハネに呼びとめられ、ようやく事の深刻さを受け止め始める。あまりにも遅すぎる。
ただ、困ったことがいくつかあった。その映えたるものが処理方法であった。
材料は有限。このまま放置していればいずれこの目に優しくない煙も収まるだろう。だがしかし、収まるまでロアールに幼児化パンデミックを放置するわけにもいかない。
だからといってどこかに捨てるのも難しいモノがある。川や山に投棄すれば生態系に大きな被害が及ぶことも考えられる。魚などの動物にもどのくらい影響があるかは不明だが。
もうこの姿になっている以上、これ以上幼くなることはない。回収に行くことは難しいことではないが、その後が非常に厄介なのだ。

「どうにかしてこの煙の発生を抑えることが出来れば、後処理もしやすいんだけどなあ……」

店の扉を前に頭を捻る。都合のいい代物が店内に転がっているかも知れないが、この状況下で探すのは苦労することになるだろう。
手を打つならば早いことに越したことはないだろう。この煙がロアール全体を覆い尽くしてしまうこともあり得なくはないのだから。
158アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/03(火)22:59:34 ID:6fa
>>157

「既に被害は出てしまっている様子だしな!! 蓋でもダメか! 捨てる場所も無いとは散々だな! 今度からは用意してから作ると良い!」

覗き込むような視線の先には子供と化したロアール住民、一部はアカハネの快活な声で通じていた戻る原因を聞いていただろうからそこまで慌てはしないだろう。
あくまで、聞こえていた一部に限られるし、聞こえていたとしても忘れてパニックになる可能性は普通にあるが。
半分諦めたような台詞と共にマクシスに浴びせられる忠告は果たして彼の心に届くだろうか。アカハネは届くと信じている。

「ふむ! 発生を抑えるだけなら色々あるだろう!! 中に土や砂を入れたり水をかけたりするのはどうだ!? なんなら火で大元を焼くか!!」

最後のは絶対悪化するだろう、どうやって混ぜ混ぜしていたのかにも依るだろうけど。
火種を取り除く手段もあるだろうが、恐らくその手は通用するまい。なのでわりと古典的? なやり方をアカハネは提示していた。

「ひとまずここで談義しても仕方あるまい! 俺達だけでも中に向かうとしよう!! 何か店にあるかもしれないだろうしな!! 思い出してくれ!!!」

唐突にそう提案するとマクシスの返事を聞くより先に、ガッ、とマクシスの襟首辺りを掴んで引き摺ってでも店の中に連れていこうとするだろう。力は意外と強かった、子供にしては。
どうやらマクシスの散策は煙を止めるまでは始められそうにない。来てしまったのがアカハネだったのが運の尽き……だろうか?
さて、折角脱出したのに戻っていく中でマクシスやアカハネの目に止まるような何かはあるだろうか? アカハネはスルーしてしまう可能性も高いのだが。
159マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/03(火)23:47:21 ID:e9F
>>158
幸いなことに幼児化してしまった住民の混乱も少なそうだ。元々そこまで心配性な住民はいなさそうだったし、何より二人の話し声が聞こえていたというのもあるし。
とはいえさっさとこの事態を収めたほうがいいのは事実。一日だけとはいえ、子どものままで過ごすのは少々不便。

「わかったわかった。次こそは失敗しないように作るよ」

十中八九コイツはそう遠くない将来に同じような惨事を引き起こす。この男に忠告なんぞ初めから無駄だったのだ。

「さーて、どうしたものか……って、おおぅ!?」

悩んでいる内に首根っこ掴まれて再び店内へと引きずり込まれるマクシス。どっちが年上なんだかわかりやしない。
はてさて店内。相変わらず甘ったるい煙が充満しているが、既に幼児化している二人にはこれ以上の効果は見られないはず。視界が多少悪くなる程度だ。
ただしここで行わなければならないのは物探し。そうなるとこの状況はとても面倒。とはいえこれ以上煙を外に出す訳にもいかないわけで。

「あー、待てよ。燃やす……燃やす……。そうだ、燃やして固めればいけるんじゃないかな?」

ここで出てきた案は、加熱して固めてしまうというモノ。早い話が炭化させてしまおうという話だ。
体積の都合上、結構な量の熱量が必要になるが、生憎この家にそんなものはない。あるのは多少の薪程度。これでは到底足りないであろう。
だが、ここに一人いるではないか。火種を持ち、炎を自在に発生させることの出来る人物が。

「確かキミは火売りだっただろう? ならば少し協力してほしい。なに、難しいことじゃない。ちょっと炎をぶつけてやるだけだよ」
「とりあえず行くとしよう。たぶん何とかなるはずだよ。うん」

いつの間にかアカハネの手を離れ一人でに進んでいく。煙の立ち込める中を奥地に向かって進んでいく姿は探検家のようで。ロケーションがあまりにも残念だが。
奥のテーブルの上には元凶である鍋。中からは依然として濛々と煙が上がる。
濃い煙の影響で中身までは確認できないが、何かしらの液体らしきモノから気泡が浮かび上がるかのような音が定期的に鳴る。
後はコイツを思いっきり加熱するだけだ。ただ加減はしたほうがいいかもしれない。何しろここは室内なのだから。
160アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/04(水)00:01:04 ID:RHe
>>159

「はっはっは!」
161アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/04(水)00:21:19 ID:RHe
>>159


「ハッハッハ! 相変わらず甘いな!! 胸焼けしそうだ!!」

忠告は届かぬ無情な世とは露知らず、駆けながら放つ感想はやはり変わらず。
表情や声色からは全然想像がつかないのはご愛嬌。
恐らく扉は空気を読んだ(?)住民達により閉められることだろう。決して深い意味はない。

「ほう!! 燃やすと言うことはつまり!!」

棚の上などを覗こうとしても届かず見えずな状況で振り返る顔は実に明るく、それでいてまさしく出番だ! という喜びに似た何かを感じさせる笑みだった。
先程も披露したところだ。若干小規模だったのは子供だからなのと、場所と状況がアレだったからだろう。

「そういう事であるなら任せてくれ! 後で何か貰えると助かる!! 主に食事を!」

しれっと図々しいことを要求しながら物理的に立場が変わったアカハネはマクシスの後ろを追い掛ける。とはいえ炎を吐くにはエネルギーが必要なので仕方ないことなのだが理解が得られるかは別問題。

「うむ! 見れば見るほど甘く怪しいな! 君は魔女に弟子入りでもしたか!? そして鍋と中身、どちらに吹くか!?」

鍋を覗き込んで即座に顔を上げた子供の感想。煙が甘いのはもう当然だった。気泡の音で魔女の弟子疑惑が立つのは果たしてどうなのだろう。
最後の問いの返答には素直に従い、本番ではそこに狙いを定めるだろう。

「考えなしに行い、ここごと燃やしては煙以前の問題だ! 調整はしよう!! ――ケホッ」

そしてスゥ、と息を吸い込み――非常に細かな火花を吐きながら噎せていた。煙ごと吸い込めばそりゃそうなるだろう。
火花は空気中ですぐに消えたため火事などにはならないのが救いか。

「すまぬ! 仕切り直そう!!」

今度は煙を手で払いつつ、スゥ、と息を吸い込み直して。

「\ゴォッ!/」

吐かれた火は、子供の拳よりはやや大きいサイズだった。
162マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/04(水)00:38:46 ID:mjW
>>161
「僕が魔女に成れるのなら、このロアールは魔女の町になるだろうね」
「まあいいさ。後は頼んだよ。今はキミだけが頼りなんだから」

一気に加熱される鍋。炎は瞬く間に鍋を包み込み、満遍なく中身の液体らしきモノは外からも中からも焼かれていく。
加熱時間に反比例して沈黙化していく煙。先ほどまで周囲を包んでいた甘ったるい匂いも少しずつ収まっていき、香ばしい香りが代わりに登場。
煙も収まった頃、鍋の底に残されたモノは……。

「やっと収まったみたいだね……。しかしこれは……新手の甘味か……?」

底にあったのは程よく茶色になった塊。匂いも煙に比べるとかなり大人しいが、それでも甘さが伝わる程度には出ており。
そして何より、食べられそうな気がする。元々マカロニンも服用できるので、加工品であるコレを食べることも出来るはず。理論上は。

吐息で冷ましながら包丁で切り分け、一人分の塊を取り出す。そして恐る恐る口の中へ……。

「――イケる。アリだよコレ。そのまま食べるより甘さがマイルドになってるね」

意外な事に高評価。この口ぶりからするとマカロニンをそのまま口にしたこともあるのだろう。かなりのチャレンジャーである。
ともかく、これにて煙は収まり、この大騒動も沈黙化していくことだろう。小さくなってしまった複数人の住民と、しばらくは記憶に残るであろう甘い匂いを残して。



「あー……、ついでに店の片付けを手伝ってもらえないかな。生憎今はコレしか出せないけど」

鍋に残った新感覚のスイーツを指さして。今回の後始末はそう簡単に終わりそうもないようだ。
 
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163アカハネ◆L1x45m6BVM:17/10/04(水)00:52:23 ID:RHe
>>162
第二射が必要か、と思っていたアカハネだがそんな心配はいらなかったようだ。

塊を覗いて程好くなってる甘い匂いに「おお!」と感嘆の声を漏らす。手を伸ばそうとしたところでマクシスのチャレンジを見つけてそれを見届ける。
そしてその感想に親指を立てた。

「ほう! 思わぬ副産物だな!! 調理の際には注意が必要だが!! 生はダメだったか!」

ごもっともなものである。調理中に煙と爆発を引き起こして子供になっていては大変なんて話ではない。少なくとも火力が命……か?

「うむ! それが貰えるならば俺は喜んで手伝おう! では早速始めるとしよう!!」

アカハネにとっては煙が収まったことよりももしかしたら良かったのかもしれない。手伝うことに対する不満などまったく見えない様子のアカハネである。
少なくともこのときのアカハネには良い報酬なのだ。甘くて美味しい菓子というのは。
働いてから食べればそれはもう良きものとなるだろう。炎を吐いて消費したエネルギーもこれで戻ったに違いなかった。
164バトラ/プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/06(金)21:37:02 ID:4AR
>>156

「えーと蒸留物が出てきたらこいつを熱油に突っ込んで・・・・・・しばらく放置っと」
「さって、朝ごはん朝ごはん~」

装置がごぽごぽと音を立てる中、鼻歌を歌いながらフライパンをくるくると回す魔女。
ただでさえ汚い部屋の恐ろしく汚い調理台をガラガラと雑に片付け、キノコと芋と、恐らくはここの鳥舎のものであろう卵を2、3個落とす。オムレツを作るようだ。

「バトラ火頼むよー」
「くそー・・・・・・俺は家政婦じゃねーんだよ・・・・・・」

ぶつぶつ文句を言いつつも従順に従っている黒ローブの少年。
小さいストーブなので火付きがあまりよくないが、赤い羽根の着火剤で何とか火種を確保している。

「あちゃー、膝擦りむいちゃってるねぇ、ええとこっちの棚にナトロン水が・・・・・・と」

燃えるような赤毛に青い瞳とそばかす。若い魔女で、仄かに羽毛の香ばしい匂いがする。
消毒液は多少しみるかもしれないが優しく諭す。子供には温和なようだ。

「よしよし痛くないぞ・・・・・・キミこの辺の子?あんまり見ない髪型してるねー」
165アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/06(金)22:51:52 ID:hbr
今宵は月祭。夜空にはひと際大きな満月が輝き、祭りと賑わうロアールをほんのりと照らす。
ヒトや出店で賑わう町の中心から少し離れた木々の中、何者かが蠢く気配。

さて、月と言えば昔から魔物や魔力といったモノと深く関係があると言われている。
多くの魔法使いは、月からの魔力が最も高まる満月の夜に儀式を行うだとか、月が満ちるにつれて魔物たちの活動が活発になるだとか。
実際のところは本人たちに聞いてみるより他は無いのだが、この時期を狙って行動を起こす者たちは結構いるそうで。
木々の声に耳を傾ければ、動物や植物、魔物といった者たちの歓喜の声が普段より多く聞こえてくることだろう。月の恩恵にあやかれるのはニンゲンだけではないのである。

このちょっとした林の中でも、満月の影響を受けて少々テンションが上がっている者がいる。
緋色の髪、血の通りを感じさせない青白い肌、身体を覆う黒いロングコート、こめかみから生える一対の蝙蝠羽。
そう、彼女こそ吸血鬼。夜を謳歌する闇夜の住民。

しかし、今宵の彼女は普段と比べると少しおかしい。元々アレだという話もあるがそれはさておき。
普段外に出すことも無い腕や足といった肌を外気に晒し、コートをマントのように翻し、一本の樹木の上に座っているのである。
まるで、日の光を身体全身で浴びるかのように、年に一度の月夜の晩を楽しんでいたのである。
166名無しさん@おーぷん:17/10/06(金)22:55:11 ID:pWs
>>165
167ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/06(金)23:10:57 ID:pWs
>>165
街中から遠吠えらしき声や威嚇に似た声、人を小馬鹿にしたような鳴き声が響くのも束の間。

満月の光を浴びに来る夜の存在は何も吸血鬼だけとは限らない。
魔物となるか、無害な存在となるかまだあやふやながら素質だけなら他に見劣りはしないだろう狭間の存在が何に惹かれてかその吸血鬼の近くに出現する。

いつも深く被られた白い頭巾は今宵は後ろに下ろされており、くすんだ金髪と赤い瞳、生気もおぼろ気な顔が外にはっきりと見せられている。
月の光を浴びても尚、儚い存在に見えるのは幽霊という存在だからか。

「今日はなんだか元気がいつもより出てくるの……吸血鬼さんもそうなの?」

衣服(?)の構造上か、吸血鬼とは異なり袖が捲られたわけでも裾が上げられたわけでもない白い衣はいつも通り。
それでも両手を開いて手首まで見えて、煙のような脚を震わせているゴーストはゴーストなりに月光を身体一杯に浴びようとしているのが見てわかるだろう。

さて、今宵何故ゴーストがここに来たのかというと理由はもうひとつ。
活性化してる動物達に追い回されかけたのがそれである。
168アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/06(金)23:33:54 ID:hbr
>>167
久しぶりに聞こえる聞き覚えのある声。
出現を予知していたかのように、幽霊の登場に合わせてその方向へと首を向ける。

「あら、アナタも来ちゃったのね。こんなにチカラを蓄えられる日なんてめったにないもの」
「心配しなくてもいいわ。これは当然のこと。ワタシたちがワタシたちであり続ける限り、ね」

ふわり、と高い木より身を投げ出し、重力に抵抗するかの如く緩やかに宙を舞い、ゆっくりと着地。
口調は以前遭遇した時と変わりないモノだが、一言一句から垣間見える覇気は、明らかに普段の彼女とは異なる。
満月のもたらす魔力は、彼女に間違いなく影響を与えていた。

「アナタの顔、初めて見たわね。いいじゃないの。気に入ったわ。もっと前から覗かせて欲しかったわ」

ゴーストの顔にゆっくりと手を伸ばし、鋭い爪で優しく頬を沿わせる。
壊れ物を扱うように、人形に触れるかのように、そっと静かに。実際に触れられるかはわからないのだけれども。
169ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/06(金)23:48:02 ID:pWs
>>168

「そうなの、ならもう不安には思わないわ♪ だって大先輩からのお言葉だものね?」

もし何かあったら取り憑いてあげる、と最後に呟く姿は正しく幽体のゴースト。
ふわふわと着地に合わせて周りを一周したゴーストは実に楽しげ、まるで主と遊びに出かけた犬のようだ。
高揚感は満月によるものと見て間違いないだろう。

「仕方ないのよ……だって顔をハッキリ見られたら怖くなくなっちゃうもの」

その感触、幻のように空虚に透ける。頬に這う爪も塵を切り裂くように実感はないだろう。

「貴女もいつもと違うのは、やっぱり月のせいなの?」

しかし、ゴーストの手はアマンディーヌの顔を顎から頬へと撫であげようとするだろう。その手は非常に冷たいのだが。

「ねえどう? 自分は触れないのに相手は触ってくるって初めてだと思わない?」

触れようとしたタイミングでこれを言うため、場合によってはスカってから言うことになる。そうなったらきっと赤くなってぷるぷるしだすだろう。輪郭が。
170アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/07(土)00:16:45 ID:wdg
>>169
「大先ぱっ……、言葉には気を付けたほうがいいわよ」

少しばかりこめかみがピクリと動いたような気もしたが、にこやかな笑顔は消えてない。一応今の所は。
今回は状況が味方したので問題ないが、今後この言葉を使う際は気を付けたほうがいいかもしれない。少なくとも彼女の前では。

アマンディーヌの指先はゴーストの頬を通り抜ける。相手は幽霊なのだ、当然と言えば当然の結果。
薄々わかってはいてもやりたくなってしまうのは本能によるモノなのか。はたまたただの気まぐれか。

「ふふ。悪い気はしないわ。ワタシは触れる方が性に合うのだけれども、こういうのもいいのかも、ね」

お返しと言わんばかりにゴーストの指が彼女の頬をなぞり上げていく。ひんやりとした感触が肌を包む。
とは言っても彼女自身の肌も、ゴーストに負けない程度に冷たいのだが。温度的には血が通っている分アマンディーヌの方が高いか。

「そう。ワタシだってカタチは人間だけど中身は魔物みたいなモノ。魔を持つ存在である以上、月のチカラには逆らえないのよ」
「アナタの場合はワタシよりも儚くて脆いから、影響は大きいかもしれないわね。生まれたばかりじゃ、まだそこまでないでしょうけど」

月がもたらす魔力は大きい。多くの魔法を扱う者や魔力を携える者は、自身の持つ魔を基準に、月の加護を受けて、より多くの力を得るのだとか。
アマンディーヌは吸血鬼。日の光を浴びることの出来ない彼女には、月から得られるチカラは重要で、強大なモノ。
植物や人間が日を浴びて恵みを得るように、彼女は月の光から恵みを得る。

夜空に浮かぶ、普段の月とは比べ物にならない程大きく、華麗な月を見上げながら。時々手を伸ばしてみたりして。
171ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/07(土)00:33:14 ID:7MC
>>170
「? ……んー、わかったわ、先輩?」

わかってないのか、おちょくってるのか、どちらかと聞かれれば前者である。
本人は敬称のように使っているつもりなのだ、アマンディーヌの地雷に一歩踏み込んだ自覚はまるでない。大が外れただけ良いのだろうか……?

「あなたもやっぱり温かい……人って不思議よね」

正確には相手は人ではない。しかし、それでも生きてる相手に触れるといつも思う。何故ここまで温かいのかと。
月祭のせいかと聞かれれば、そうなのかもしれない。いつにも増して感傷的になりそうで、伝わるすべてがいつもよりハッキリとしている。

これもアマンディーヌが言う月の魔力の影響だろうか……。

「そうだね、最初は火を大きくできないか試してみたわ。結果はこの通りだけどね」

スッ、と離れた手は次の瞬間には青と赤の火の玉に変わる。決して手のひらのサイズより変わらず、かといって消える気配もない、おぼろ気な火。

そしてこれがなおのことある境界線を強める。ゴーストと生物の差を。

「……貴女は祭り、行ったことある? 彼処にある蝋燭って不思議なの。私の火に似てるのに……あっついの」

儚く、脆く、虚ろな存在。だからこそ影響が強まり、いつもは考えないことも何故か沸き上がる。
今宵の月がまるで今、月を眺めて近付こうとしては地に降りるを繰り返すゴーストに教えているかのように。

「……そーうだ。あなたは魔の一人なのよね? なら何かないの? 前の同族を消したみたいな……そうそう、体験談? ってやつ」

感情の振り幅も左右されるように転じるお話。月を眺めていた顔はどこか大人びた雰囲気を作り出してアマンディーヌに振り向いた。
172アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/07(土)01:10:53 ID:wdg
>>171
二度目の発言に再びこめかみがピクリ。だが不問になったらしい。今のゴーストに何を言っても無駄だろうとでも思ったのだろう。
とりあえずは救われた。後は機嫌の悪いタイミングで再び口にしない事を祈るのみである。

「生きてる証拠よ。アナタの場合は生きてた、って言ったほうが正しいんでしょうけど」

一般的なヒトに比べると氷のように冷たい身体でも、ヒトとしての名残はまだ残っている。
新人である幽霊にも理解してもらえたのならば、これ以上に幸いは事は無い。何だかんだ言って同族には割と甘いのだ。

「それは……ふうん、まだチカラの制御が出来てないだけみたいね。今宵は普段よりもチカラが増してるから尚更ね」
「そのうち慣れるわ。日々の鍛錬を怠らないようにしなさい。素質は十二分にあるはずよ」

目の前に現れる火の玉。どこかで見たことがあるような気もするが、イマイチ漠然としており思い出せず。
火の玉にそっと手を伸ばす。実際に炎の温度を持っていたとしても、彼女は吸血鬼。そう簡単に傷が付くようなヤワな身体ではない。

「祭りねえ……。昔は行ってたけど、最近はさっぱりね。あまりいい感情持たれてないからねえ、ワタシって」
「あの炎はアナタのそれとは違うのよ。人々が生きてる穢れのない炎。ワタシたちとは最も遠い神聖なモノなの」
「アナタが触れるのは……ちょっと難しいかもしれないわね」

ゴーストが月に近づくことを止めはしない。この身体になった以上、月に魅かれるのは当然なのだから。
幼い頃の自分の姿をゴーストに投影させながら、彼女は月に手を伸ばしていた。掴めそうだけれども決して届くことのない、そんなもどかしい距離の月。

「体験談? あんまり面白い話なんてないわよ。ていうかあんまり昔の事は思い出したくないのよね。恥ずかしくなっちゃってね」
「……ま、今なら昔みたいに戻ることも出来そうね。ちょっと待ってなさい」

首回りで止めていたコートの留め具を外し、夜空へ高く脱ぎ捨てる。
コートが宙に浮き、ゴーストとアマンディーヌの間を覆い隠すかのように落下。
目隠しが消え、地面に落ちた時には、ゴーストの目の前にいたはずの彼女の姿はない。
そこにいたのは黒く固い皮膚に纏った魔人。猛禽類のような三本爪の足、熊を彷彿とさせる筋肉質の腕。
これが彼女の本来の姿。ヒトの姿を模さない、魔のチカラを解放したモノ。少々刺激が強すぎるかもしれないが。
173ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/07(土)01:36:22 ID:7MC
>>172

「生きてた……かー。私ってどんな人間だったのかな? そもそも人間だったのかしら?」

自分が冷たい、という感覚はわからない。人の熱が自覚しにくいのとものは似ている。言ってしまえば平熱がこれなのだから。
それは目の前の吸血鬼には少し困る疑問となってしまうのだろう。名前も何もわからないまま誕生していたゴーストの正体をノーヒントで解読できる者など居ないのが普通だ。

「もうちょっと大きくならないかな、と思ってたのに残念だったわ」
「そうなの? ……もっと大きくできたらもっと驚かせられるかなー……!」

思い出せなくても無理はない。そのときは確か、ランタンの火として偽装していた。ランタンが全部持っていってても仕方ないのだ。
火はあろうことか温度がない。温かくもなければ、冷たくもない非常に言い表し難いもの。楽しみな感情に合わせてぼわぼわと盛り始めてもそれが変わらないせいでちょっと不自然なのが玉に瑕。

「私以上に何かしちゃってたの? 大変なのね」
「……そう、やっぱりそういうものなのね。私が灯そうとしても点いてくれないもの」

悪戯心で蝋燭に火を点けようとして、自分の火ではつけられなかったことを思い出す。本当の火ではないからと言ってしまえば簡単なことだが、それがどこか線引きされたようにも思えるのだ。


 
「へー、なになに? ちょっと期待――」

一度隠されると自然と期待は強まるもの。況してや普段はコートに隠されてる吸血鬼の身体だ。どんなものか想像するものも居て当然だろう。
まあ、そういう期待の遥か先を行った姿にゴーストの声は止まって、輪郭も石のように固まっているのだけれど。

「……やっぱり、人じゃないのね……た、食べないでね……?」

人の足があれば、一歩は下がっているだろう。人でないことはわかっていたが、普段の姿とかけ離れている正体に思わず口走っている。

なのだけれど。

「……黒い……脚は鳥みたいね……腕も太いし、私もこんなのだったりするのかな……」

振り子のように感情が揺らされているのか、今度はまじまじと見始めている。月の魔力か、それともゴーストの生前が由来か。
無意識に腕に触れようとして実体化している今は、冷たい身体を空気に晒していた。
174アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/07(土)02:15:35 ID:wdg
>>173
「さあ? それはワタシじゃわからないわよ。それを見つけるのがアナタの仕事で目標になるのよ」
「未練が無くなっちゃったら消えちゃう子もいるみたいだし、どうするかはアナタ次第なんだけどね」

いくら同じような幽霊を何人も見てきた経験のあるアマンディーヌでも、見ず知らずの幽霊の正体を当てることは不可能。
物探しや人探しの得意な人物ならば力に慣れるかもしれないが、生憎彼女は得意分野ではなかったのであった。残念無念。
形式上頭を捻って考えてみるが、ヒトの顔なんぞ一人一人覚えている訳でもない。

「コツは教えられないけど、後はアナタ次第。上手くやればワタシも騙せるようになるかもね」

多少の熱は覚悟していたが、実際に触れてみればそんなことはなく、触れているのかもわからないような炎。まるで投影しているかのように。
そっと手を引き下げ、何とも言えない感触を振り払うように手を振る。

「昔の話。たぶんアナタが生まれる前の話よ。もしかしたらまだ生まれても無かったかもしれないけど」
「ワタシに出来ないのだから、アナタじゃ到底難しいでしょうね。ま、頑張りなさい。消えない程度にね」

過去の話をする際の彼女は、少し恥ずかしそうでもあり、誇らしそうでもあり。


「幽霊食べてもお腹は満たせないわ。食べるならもっと栄養のありそうな子を頂くわよ」

姿だけならば屈強な魔物のソレであろう。この身体を持って、一時期は暴れ回っていたのだ。
だがそれは昔の話。全てのモノに衰えは、衰退は確実にやって来る。生きとし生けるモノすべてに。

「はいおしまい。久々に戻ったけど、あの頃みたいにはいかないのね。この膨大な月のチカラをもってしても……ね」
「それに、あんまりこの姿好きじゃないのよね。なんていうか、スマートじゃないのよ」
「今はこのワタシの方が好き。だってこっちのほうが自然じゃない? 街に行く機会も増えたことだしね」

息を大きく吐けば、腕も足も見る見るうちに縮んでいき再びいつも通りの人間体に。不健康な青白い肌に汗が流れる。
地面に落ちたコートを拾い上げ、首元だけで留めてマントのように装着。涼しい夜風が彼女の身体を吹き抜けていく。
175ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/07(土)02:32:13 ID:7MC
>>174

「未練って言われると……なんだかビミョー……」

今のところ正体を知っても特に得るものがないことはわかっている。
気になると言えば気になるのだけれど、それはあくまで興味の範疇であって、執念深くなるほどの事でもないのだ。
今、成仏するとすれば、驚かし飽きて驚き飽きた頃だろうか。

「むむー、絶対騙してやる、そして驚かしてやる」

急に子供のように膨れるのは存在がおぼろ気なせいだろう。精神が安定しているのかもわからない。
パッ、と火の粉も散らさず消えた火の玉が在った場所にはまだまだ労働にも触れてなさそうな人の手が代わりに在った。

「やっぱり長生きなのねー、いつか聞かせてくれる?」

無自覚に地雷を踏んだ気がするが、あくまで敬意もあってのこと。自分の生前より興味惹かれる話に事欠かなさそうである。

「栄養無さそうで悪かったねー、どーせ栄養不足……あ、私死んでた」

幽霊を食べる存在の話がデマカセかどうかはまだわからない。少なくとも吸血鬼はそうでなかったようで密かにホッとしていたゴーストだった。

「うーん……確かに今のあなたの方が私は安心できるわ。あの姿もカッコいいのかもしれないけど、私はこっちのが好き」

見慣れた身体、見慣れた装い、聞き慣れた声は幽霊ながらに安心できる。夜風もすり抜けてしまうゴーストだが、雰囲気に合わせるかのようにその白い衣の裾や袖が靡いて翻る。
煙の足もどこか嬉しそうにモクモクしていた。なんとも言葉にしにくいが。

「……なんだか無理させてごめんね? せっかくのお月様だったのに」

汗を見たのだろう。そして月の力という話を思い出しての言葉だろう。自分はまだまだそれに頼りっきりになるほど月に依存していない存在だが、隣の吸血鬼はそうもいかなさそうで。

そして。
透けていて、その目に入るはずの光も透過させてしまいそうな儚さを持った幽霊は月の光を全身に浴びたまま、じっと月を眺め始めた。
176ネロ◆auhGCOVu..:17/10/07(土)02:37:11 ID:gIC
>>164

「そうですか?一応ロアールの片隅に……っつつ」

消毒液特有のジュっとしみる感覚に思わず目を瞑りながらも答える。
正確なことを言えば出身は違うしここに来たのも最近なのだが、
奉仕の身だということを悟られたくないのでやや濁し気味に。

ふと少年のほうを見ると卵料理の火番をやらされている。
ネロはここでようやく大事なことを思い出した。

(そうだ、ボクも早く帰って朝ごはん作らなきゃ……!
でも確か買ってきた卵、落としちゃったっけ……)

明らかにそわそわし始め、恐る恐る申し出。

「えっと……お世話になりましたがそろそろボク帰らないと」
177アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/07(土)03:17:24 ID:wdg
>>175
「幽霊なんてそんなモノよ。消える時はワタシに一声かけてからにしなさいよ」

この幽霊がどんな未練を持って存在しているかも知らないし、知ったとして何かアマンディーヌの生活が一変する訳でもない。
そうであっても気にかけてしまう気持ちがあるのは、同じ夜を生きる者としても仲間意識があるからだろうか。
お互い夜でなくても活動は出来るのだが。

「その手がもっと頑張って生きてきた手に成れば、出来るようになるかもね」

手を振る彼女の指は、有名な彫刻家が手掛けた作品のように繊細、かつきめ細やかな細いモノ。
吸血鬼という種族である以上、人々を魅了し続けるために必要な血族のチカラの現れであろう。

「気が向いたら教えてあげるわ。楽しみに待ってなさいな」

気まぐれな彼女が過去の話を語るのはいつの事になるだろうか。
随分先のことになるかもしれないが、いつか必ずその日は訪れることだろう。ウキウキとした彼女の表情を見れば、わかることだろう。

「でしょ? 野蛮なのって嫌いじゃないけど好きって訳でもないのよ。淑女たるもの優雅でなければ、ね」
「たまにはこの身体にならないと感覚忘れちゃうのよ。今じゃこの時期ぐらいしかできないし、偶然このタイミングでアナタがいただけ」

汗が身体の起伏をなぞり、地面へと落ちる。夜風が心地よいこの時期だからこそ、全身で感じることの出来る貴重な瞬間。
吸血鬼も幽霊と並び、大きく近づいて来る月に思いを馳せる。普段一人で見る月も、誰かと見ると感覚も大きく異なるモノだ。
隣に並ぶソレを、ヒトと語って良いのかは置いといて。

「さて、そろそろワタシは戻ることにするわ。この時じゃないとやれない事もまだ多いものね」
「じゃあね、愛しきゴーストちゃん。また月夜の晩に会いましょう」

マントを翻し、身体を覆い隠せるほどの大きさを誇る羽を大きく広げると、月に向かって飛び立つ。
この日の月には、何匹ものコウモリの影が見えたとかどうとか。
178ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/07(土)03:33:51 ID:7MC
>>177

「はーい」とまるで言いつけを守る子供のように返事をした。消える時になったら今まで遭遇した相手には一通り報告しておこうか、という気分にはなったようだ。
特に自分をすごく怖がる存在には。

「それって逆に不気味じゃない? 生き返るなんてできるかなー……」

手だけ生きてる。想像してみるとなかなかアレなものである。アマンディーヌはそんなつもりで言った訳ではないだろうが、正直な幽霊だ。

ウキウキのアマンディーヌを見て、わかったわ、と楽しそうな顔を見せて、お互いいつ消えるかもわからない存在同士、気長に待つことにした。

「淑女……? 優雅って人と同じなのかしら。私もなってたのかなー」
「あ、そうなの? ならよかったー、良いタイミングだったのね」

安心感。そしてちっちゃな幸福感。ゴーストが感じていいものなのかわからないが、今はそんな悩みは放っておくことにした。
眺めている月にそんなのは食べていただこう。


「うん、またねー吸血鬼ちゃん。また『いい』タイミングで会いましょう……♪」

月に向かう吸血鬼の姿を見届けていたゴーストの姿は、一際強い夜風が紅葉を散らした時と時同じくして消え去っていた。

その後、やけに鳴く動物達が何を見ていたのかは――動物達にしかわからない。
179バトラ/プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/07(土)23:04:10 ID:gzh
>>176

「あぁそうだね、朝っぱらからとんだ邪魔をした」
「そうだね、こいつでも持っていきなよ」

お詫びといってはなんだが、と卵を二つほど渡す。
また、彼を腑抜けにした例の魔除けのハーブも小瓶に入れて持たせてくれた。

「まぁ魔除けとしちゃ弱い部類なんだが、そいつの毒にやられるよりはマシだろ?」
「バトラ、下まで送ってやんな。帰ったら食わしてやるよ」

「へいへい・・・・・・」

朝焼けの空に、毒彩色の翼が翻る。
伝書櫓は朝を迎えていよいよ慌しくなり、鳥達の声がけたたましく鳴りはじめていた。
180プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/08(日)16:51:48 ID:NEa
蒸し暑かった季節が終わり、急激に冷え込んでくる今日この頃。
実りの秋とはよく言ったもので、色づき始めた森には人も動物も溢れていた。
そう、秋の味覚のキノコとか山菜を求めて。

「おっほー、これがうわさのイキリタケ・・・・・・イキった形してるねー」

妙に血走っていてドクドクと脈打つキノコ。
興奮作用があり、食べるとイキるらしい。何ともはた迷惑なキノコだ。

「・・・・・・あとでバトラ縛って食わしてやろうっと」

箒に籠をぶら下げて森を低空飛行する魔女、プシュテブルメ。
書記の仕事もサボって優雅にキノコ狩りである。
まあ取材とか現地調査とか幾らでも言い訳は出来るが。秋の味覚も情報戦が重要なのだ。

「ううっ寒っ、今年は冷え込みが早いわ、早くモルスのお腹にうずまりたい・・・・・・」
181リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/08(日)17:12:51 ID:34X
>>180
今年も実りの秋がロアールに訪れる。
森の木々は色づき、畑には食物が待ってましたと言わんばかりに花開く。世はまさに大飽食時代にあった。もちろん限度はあるけど。

一方こちらはロアール山中。一部では魔境だとか呼ばれるいわく付きの土地にも、秋の気配は着実に侵攻しつつあった。
地面には名前も知らないキノコや山菜、木々には色鮮やかな果実が頭を下げる。
これを目当てに山へ入る生き物は多い。野生の動物にも、魔物にも、もちろんヒトにも。

「これは……食べられるんだっけ? えーっと、えーっと……ここに載ってたはず……」
「……うん、大丈夫そう。早速貰っていこうっと」

少々厚めの本と格闘しながら地面のキノコを選りすぐる少女、リリン。
彼女もこのロアール山中へ秋の味覚を求めてホイホイ入り込んだ人物の一人である。
いつもより少し厚めの上着を着ているのは寒さ対策だろうか。山は気温の変化が激しい。対策を怠る程不慣れという訳ではなさそうで。

「まだ魔物とかと遭遇してないし、今日は結構ツイてるかな。今のうちにいっぱい集めておかないと」

本と地面を交互に見返しながら山中を歩くリリン。
この状況は割とマズイ。何しろ前方をほとんど見ていないのだ。もし何かと鉢合わせしてしまった場合、対処が遅れてしまう恐れがある。
まあ、言葉の通じる相手である限り、向こうが先に危険を知らせてくれるだろう。きっと。
182プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/08(日)17:32:07 ID:NEa
>>181

「饅頭モミジの木がもうこんなに・・・・・・今年は早めに駆り出したほうがよさそうね」

紅葉はまだ始まったばかりだが、木によっては既に色付き始めたものも。

「はぁー、今年は仕事が多くなりそう、やんなっちゃうわね」
この魔女、自分の足で歩くということをせず常に箒に乗って移動している。
常に浮いていられるのも中々の魔力だが、箒も中々凝ったデザインをしている。様々な鳥の羽が使われておりいかにもよく飛びそうな箒だ。

「えーと饅頭モミジは例年よりピーク早め・・・・・・っと、イキリタケは旬を迎え・・・・・・」
ところがどっこい、この魔女も前を見ていなかった。リリン危うし。
器用に箒の棒に寝っ転がって掲示板に出す情報出さない情報を書き記していたが―――

ドスッ

・・・・・・と、箒の先端がリリンの腹部にヒットする鈍い音が響く。その拍子にプシュテも箒から転げ落ちた。
183リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/08(日)17:51:50 ID:34X
>>182
「大分集まってきたかな。でも山に入ることなんてあんまりないし、せっかくだからもう少しだけ……」

腕に抱える籠の中には先ほどまで集めてきたのであろう、山の味覚が詰まっている。本当に全てが食用かどうかは置いといて。
リリンが比較的前からせっせと山中を歩いてきたことが窺える。

「えっと、まだ行ってないのは……向こうの方、かな……?」

ある日いつの間に枕元に置いてあった大まかな地図を手に、自身の位置を確認しているリリン。
だが脅威は確実にその身に迫りつつあった。地図に気を取られている内に、前方より迫りくる箒に気づけなかったのだ。

ドスッ
「モギュッ!!?」

不幸なことに箒の柄はリリンの無防備な腹部にクリーンヒット。割と鈍い音と蛙を潰したような悲鳴が周囲に響く。
口や鼻から少女として漏れ出してはいけないであろう様々なモノが漏れ出し、その場に崩れ落ちる。
取り落とした籠から中身がばら撒かれ、リリンの周囲一帯に広がる。
当の本人は腹部を抑えてその場にうずくまっているまま。不意の一撃ということもあり、結構なダメージになったのであろう。
184プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/08(日)18:08:16 ID:NEa
>>183

「あいてっ!・・・・・・ててて」

不意に箒から落っこちて頭を打ったプシュテ。打った頭を抑えながらぶつかった張本人のくせに不満たらたらの表情で起き上がる。
「ちょっとぉ!山道なんだから気ぃつけ・・・・・・」

しかし目の前の少女は、涙とよだれと鼻水を垂らし、白目を向いて腹を抑え地に伏している。
プシュテの体重と籠の重さが載った箒の先端で腹パンならぬ腹凸を食らった少女。
とても真っ白に、燃え尽きていた。

「じっ・・・・・・人身事故ぉーッ!!!」

――――――――同刻 ロアールギルド伝書櫓

「死なないで!おねがい!こんな事で人を殺したくないわ!」

今度はプシュテが涙と鼻水を垂れ流している。2人揃って乙女の欠片もない。
恐ろしく汚い、というか物がとっ散らかりすぎて足の踏み場の無いプシュテの自室。
リリンはプシュテのやけにインコ臭のするベッドに寝かされていた。
185リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/08(日)18:27:35 ID:34X
>>184
「……おっ……おお…………」

声にならない呻き声を時折洩らしながら地面に付すリリン。
顔の周りには涙やら脂汗やら唾やら……とにかくいろいろなモノが混ざり合ったモノでじんわりと湿っていた。
しかも白目まで向いているとなればなかなかの重症だろう。恐らく急所であるみぞおちにでも刺さったのであろう。呼吸をしたくても出来ないのだ。

リリンの視界はどんどん薄暗くなっていき、やがて意識は暗闇の彼方へと消え失せていった。


「…………う、ううーん……ここは……?」

目を覚ますとそこにあったのは見知らぬ天井。そしてベットの上。妙なナマモノの匂いがするが、今は気にしない。
腹痛と共に身体を起こすと、そこは酷く散らかった部屋……と思わしき場所。しかもそばには酷い有様の人物。全体的に汚い。そう印象が付く程度には頭に残ったらしい。

「あの……ここはどこでしょう……? 私、さっきまで山にいたはずなんですけど……」

とりあえず目の前のいかにも魔女っぽい人物に尋ねる。お腹は未だに痛むので両手で押さえたままで。
どうやら衝突した際の衝撃と痛みで前後の記憶が混濁している模様。なぜここにいるのかも一時的にわからなくなっているらしい。
186プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/08(日)18:47:44 ID:NEa
>>185

「おっ、ほおおお・・・・・・!よかった、生きてた・・・・・・」ズビビーッズビズビ

腹ドスくらいで大げさといえば大げさかもしれないが、リリンがあんまりな惨状だったのでつい情が入ってしまったらしい。
べちょべちょの鼻水を拭いてなんとか見れる顔に戻る。

部屋は翼の剥製、蝶や羽根の標本など飛行物に関する物が所狭しと並んでいる。
どうやら風属性が専門の魔女らしい。見慣れない魔導器具もしばしば見られる。
先ほど山で取ってきたのだろうイキリタケや饅頭モミジなども乱雑に机に並べられている。

「ここは伝書櫓だ、ロアールギルドの伝書塔だよ、お腹大丈夫?痛くないかい?ごめんよごめんよ・・・・・・」

ふとリリンの足元でもぞもぞと何かが動き回り布団から飛び出してきた。・・・・・・小鳥だ。恐らくは伝書に使う鳥。
この時期寒いのでどうにも鳥達が暖を取りにベッドにもぐりこんでいるらしい。

この小鳥っぽい香ばしい匂いのする赤髪の魔女はプシュテブルメと言うらしい。
魔女帽もローブも緑色で、風属性の使い手なのは部屋からしても一目瞭然だ。山から箒でひとっ飛びしてきたのだろう。
187リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/08(日)19:10:29 ID:34X
>>186
「……あの、私はちゃんと生きてますよ? ちょっとお腹が痛いですけど、このくらいなら……いてて」

ベットから立とうとするが、衝突の際に負った傷の痛みが走り、思わず腹を抑える。まだ動くのは難しそうだ。
上体を起こす程度なら大丈夫そうなので、枕を腰の後ろに据えて。
顔を拭いてあげようともしたのだが、思うように身体が動かない。ちょっともどかしいような申し訳ないような。

「伝書塔……そんな場所があったんですね。初めて知りました」

恐らく今まで塔のある場所まで行きついたことがなかったのだろう。リリンにはこの塔の存在は初耳だった。
中をベットの上から見渡す。魔術に関してはあまり知識がないので、何に使うかはわからないが、とにかく魔術に関係のある場所であるのだろうとはわかった。
それに、目の前の人物が魔術を扱うのであろうことは、その見た目からして一目瞭然。そこまで鈍いリリンではない。

と、ここで布団の中で何かが蠢く感触。恐る恐る毛布をめくり上げると……

「これって、鳥……さん? よかった、魔物かと思ってビックリしちゃった、っていたたた……」

鳥が元気よく飛び出していく。思わず驚き、身を跳ね上げるが、ヘンに身体を動かしてしまった影響で腹痛が再発。
小鳥程度なら問題ないようで。この鳥が猛禽類並のサイズだったならば……。想像も容易い。

「あ、あのっ、私の籠はどこなんですか? 今日は山菜取りに行ってたんですけど、籠も持って行ってて……」
「えっと、アナタの事、何と言えばいいんでしょう……」

そう、リリンは衝突の際に自身が収集したものを集めた籠を持っていた。
悲しいことにその籠の中身は飛び散ってしまったのだが、果たして、あの時に拾い集める余裕があったかどうか。
188プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/08(日)19:21:52 ID:NEa
>>187

「あっ、私はプシュテブルメ。綿毛の花って意味なんだ、プシュテと呼んでくれ、キミは・・・・・・?」
名前からしてふわふわしてそうなゆるふわ赤毛のそばかす魔女。帽子を上げてちゃんと見ると割と若い魔女である事が伺える。

「ああ、大丈夫だよ、籠ならほら・・・・・・えっと、机の上に中身が・・・・・・うん」

慌てて伝書櫓に戻ってきたので、よく見るとプシュテの荷物とごっちゃになっている。仕事が雑い。
一応拾い集めてはくれたようだが、とりあえずこの部屋、片付けたほうがよさそうだ。


―――――うーさむさむっ、早く暖房付けてよね・・・・・・お?」

・・・・・・と、今度は掛け布団そのものが蠢き、先ほどの小鳥より二周りも大きい、黄色いハーピーがシーツをかき分けて出てくる。
顔は愛くるしいが肩から下は普通に大きめの鳥だ。鋭い爪でリリンの服を掴んでいる。

「おっ?お客さんかな?お邪魔しちゃったねっ、みんなー、そろそろ仕事いくよー」

バサバサバサーッ!!!と布団がめくりあがり、夥しい数の伝書鳥達がベッドからぶわぁーっと舞い上がる。
上質な重めの掛け布団に思われたそれは鳥達がシーツに寄り集まった生きた羽毛布団であった。
いくら暖を取るためとはいえ集まりすぎである。まるで手品の鳩のように次から次へと飛び出し、後には羽毛が降り注いでいた。

リリンの蚤の心臓はいくらあっても足りなそうであった。
189ネロ◆auhGCOVu..:17/10/08(日)19:26:11 ID:aq3
>>179
「これは……すみません、ありがとうございます」

彼女は手提げにそれらを入れ、
よろしくお願いします、と少年に身体を預ける。

~~~

「ただいま戻りました」
「おぉネロ、遅かったじゃないか。心配したぞ」

ネロが恐る恐る家の扉を開けると、
彼女の雇い主、ミルジョージが不安そうな顔をして出迎えた。

「少し道に迷ってしまって……ごめんなさい。
 今から急いで朝食をご用意いたします!」

そう言ってネロはバタバタと駆け出した。

余談だがこの小さな嘘はバレてしまったらしい。
膝の傷もそうだが、何より卵の味がいつもと違ったからだとか……。
190シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/09(月)00:32:12 ID:Q7f
「……最近なんだか居心地よくなってきたなー」

でーん、とロアールの路地裏の入り口に居座っている人一人は余裕で入りそうなほどの大きさの貝殻。
口を開けたそれの中から周りを伺うのはまだ小さな少女だ。人が少ないのを見るといそいそと出てきて背筋を伸ばす。

「……何か変わってるかな?」

キョロキョロと見回してちらほらと冬に向けて準備している街並みを見ると貝殻に座って紙袋を中から取り出していた。
周りにはまったく気付く様子が無くなったが……誰か通りかかったら邪魔かもしれない、特に貝殻が。
191リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/09(月)00:35:17 ID:HKV
>>188
「プシュテさん、ですね。ここまでありがとうございます」
「あっ……私の籠……。で、でも、拾って頂いただけでも助かります! ホントですよ!」

ベットの上から深々とお辞儀。そのまま誘われるようにその方向を見るが、そこには悲惨な姿になった籠が。
中身は一応入っているが、所どころ採集した記憶のない代物の姿が目に入る。
あんなの拾ったっけな、などと考えながらも、拾い集めてくれた事に対し再度礼として頭を下げる。

と、ここで謎の感触がリリンの身体に圧し掛かる。圧し掛かる? 毛布とは明らかに異なる謎の感触。
気になって布団を見ていると……動いた。足を動かしたわけでもないのに。先ほどの小鳥がまだ潜んでいるのだろうか。

「まだいるのかな? 怖くないよー、大丈夫だy……」

目が合った。あの小鳥より明らかに大きい鳥、いや、鳥っぽいヒトだ。頭は明らかに人間。その下はどう見ても鳥のソレだけど。
直後、リリン硬直。目を合わせたままピクリとも動かなくなる。その姿は蛇に睨まれた蛙のようで。
見つめ合うと素直におしゃべりできない、などと誰かが言っていたが、まさしく今のリリンはその状況。おしゃべりどころが一言も発せないのだが。

「…………」

沈黙の時間が続く。そうしている間にも心拍数は加速的に増加していく。今にも胸がはち切れんかと言う勢いだ。
この硬直を破ったのはリリンに掛けられていたはずの掛け布団だった。しかも凄く飛び上がってきて。
リリンはあっという間に掛け布団より現れた鳥の大群に飲み込まれてしまった。目も開けてられない程にもみくちゃにされて、視界も何もない。

「――――っ!!!?」

鳥たちが飛び去って行った後、残されたのはすっかりぺたんこになった掛け布団と、大量の生みたてホヤホヤ羽毛。
ほんのりとリリン自身が発していた温もりと、鳥たちの温められた体温が未だに残る。当の本人はそんな余裕なんてまっさら無かったのだが。

そこから先は覚えていない。何せ次に目覚めた時はリリンがよくお世話になっている宿屋のベットの上にいたのだから。
正直あの塔での出来事は夢の話だったのではないかと思っている。そう感じられるくらいには現実感のない事であったから。
腹痛が治ったら改めて行って確認しよう。そう決意するリリンの服の首元には、一枚の羽が付いていた。
192ネロ◆auhGCOVu..:17/10/09(月)00:59:49 ID:GMb
>>190

「ああもうっ、ミル爺のうっかり屋め~!」

ネロはロアールの通りを小走りで駆けていた。
右手には小包、中は彼女の作った弁当である。

雇い主であるミルジョージが老人会のため
朝から出掛けるというので作っておいたのだが、
どうやら忘れていったらしい。

「集会所……こっちを通れば近道だったかな?」

なんとか昼前に間に合わせたい思いで大通りを外れ路地裏へ。
……するとどうだろう。
その入り口にはかつて見たこともないような大きさの貝殻と、
中で何かをゴソゴソしている少女が立ち……いや、座り塞がっていた。

(え……ええぇぇぇ……?)

困惑するネロだが、ここを通りたいので少女に声を掛ける。

「あの、すみません……ちょっと失礼していいですか?」
193シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/09(月)01:07:48 ID:Q7f
>>192

「うひゃうっ!?」

走る音が聞こえてきたが、多分別方向かと思って安心してた矢先、突然の声にびっくりして紙袋を地面に落としてしまっていた。
まだまだ突然の遭遇には慣れてないようだ、その怯えがあって何故往来に堂々居るのかはわからないが。

「……へ? ……あ、うん、……な、何かな……?」

貝殻の中に飛び込んだところで、ようやく敵意はないとわかって貝殻の隙間から顔を出した。
邪魔だとはわかってないのは、彼女は海の出で、今までなんと言うか……スルーされて別ルートに行く人がたまたま多かっただけなのである。

「……(あれ? か、買ったのどこいったんだろ?)」

話を始めたところで紙袋を探しているのか瞳が右往左往。その紙袋は……貝殻の下にある。灯台もと暗しとはこのことよ。
194ネロ◆auhGCOVu..:17/10/09(月)01:27:22 ID:GMb
>>193

(こっちがビックリだよ!)

少女のまさかの反応に思わず脳内でツッコミが決まる。

「えーと、ボクここを通りたいので、よけていただきたいなー、なんて……」

当の相手は巨大な遮蔽物の内部から視線を泳がせている。
これ面倒臭いやつだ、そう思いながらネロからは視認できる紙袋を拾い上げ、

「さっき落としましたけどこれ、お探しですか?」

視線が合うようしゃがんで、それを見せながら言った。
195シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/09(月)01:34:41 ID:Q7f
>>194

「へ? あ、そ、そうなんだ、ご、ごめんね?」

パカッ、と貝殻が軽快にご開帳。当人は四つん這いのまま少し申し訳なさそうに眉が垂れている。
……そしてはっきりわかる姿というと、腰や耳にヒレがある姿である。明らかに亜人の類いだ。

「あ、それ! さ、探してた! ……ありがとー?」

しゃがんだお陰が少し警戒が解けたように声が明るくなり、貝殻からよじよじと出てくる。そして貝殻の口を閉じると……背負った。
文字通りに巨大な貝殻を背負った。アレ? もしかして作り物? ってくらいに軽々と。

そして紙袋を返してもらえるのか不安そうにしながら、路地裏から少し出て人が一人は普通に通れそうなスペースを作った。
ちなみに紙袋の中身は、まさかの魚の干物である。

「……もしかしてお届け物?」

ここでやっと、小包に気付く。びびり過ぎて視界が固定、狭まっていたのが原因だろうか……。
196ネロ◆auhGCOVu..:17/10/09(月)01:55:21 ID:GMb
>>195

(……やっぱりこっちには色々な種族が住んでるんだなぁ)

少女の外見、そして大きな貝殻に関する一連の動作。
少し前のネロなら開いた口がふさがらないような光景なのだが、
ここ数ヶ月で田舎とのギャップを散々思い知らされてからは
わりと何が起こっても納得するようになっていた。

「ああはい、こっちに持ってるのは届けるためので……」
「で、こっちですね、どうぞ。また落とさないように気を付けてくださいよ?」

左手の紙袋を少女に手渡し、
貝殻が背負われたことによってできた空間を通り抜けんとする。
197シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/09(月)02:03:49 ID:Q7f
>>196

見た目だけなら大人にはまだ遠い少女。しかし大きな貝殻を背負う姿は一般の大人より威圧感があるのは間違いない。
地上に居るのは貝としてどうなんだという話であるが。

何にせよ、驚かれて逃げられるよりはシェルフィの精神衛生上は良かったことである。意外と心にチクッと来るのだ。

「そ、そうなんだ……ほんとにごめんね……」

届け物を持ってる人の邪魔になってるとなるとより罪悪感が出てくるのは仕方ないことである。

「あっ、うん、気を付けるね! ……もしよかったらだけどお、お名前……」

ガサガサと紙袋をぎゅっと抱えて言葉通りバッチリ落とさないようにしながら、首を傾げて聞いていた。
相手は急ぎの身とわかってはいるのだが、何故聞いてしまったかと言えば――。

「……ねえ、男の子……? それとも……」

やけに気になったところである。相手によっては失礼と取られてもおかしくない質問があった。
198ネロ◆auhGCOVu..:17/10/09(月)02:25:44 ID:GMb
>>197

「あっいえ、どうかお気になさらず」

そんな顔をして謝られるとこっちが申し訳なくなってくる……。
ネロもフォローせずにはいられなかった。

そして少女を越して路地裏に入り込もうかというところで
今一度振り向く。

「ボクはネロ、男ですよ。」

ネロの回答に迷いはない。
そして聞かれて答えたからには、と歩みを止め向き直る。

「……あなたは?」
199シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/09(月)02:33:38 ID:Q7f
>>198

そのフォローがちゃんと通じたのだろう、シェルフィはホッとした様子で息をついた。

そして迷いのない回答に一瞬見えないなにかに気圧されたのかヒレが張りつめた。

「そ、そっか! だよね!」

ぶんぶんと首を縦に振ってる。理解しました! 的な勢いである。

「あ、シ、……、シェルフィだよ、ま、またね、ネロくん!」

慌てすぎて噛みそうになって、一度深呼吸を挟んだ。男だとわかって女の子相手とは違う勝手を感じたようだ。
それでもちゃんと名乗ってから、小さく笑って見送ろうとするのであった。
200ネロ◆auhGCOVu..:17/10/09(月)02:51:09 ID:GMb
>>199

巨大な貝殻を背負った少女が勢い良く首を振る……。
そんな様子がなんともシュールでネロはふふっ、と笑いを漏らす。

「はい、シェルフィさん。今度は広い場所で会いましょう」

にやけも微笑みに変えて、別れを意味する手を振るネロ。
シェルフィにも浮かんでいる笑顔を確認すると、再び背中を向け歩き出した。

「間に合わなくてもいいかな、メル爺の自己責任だ!……なんてね」
201シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/09(月)02:57:04 ID:Q7f
>>200

広い場所、と聞いてシェルフィの頭の中に浮かんでいたのが海の中だったのは内緒である。本人も違うかな、と思うくらいだし。
手を振り返して、相手が距離的にも離れたのを見ると、路地裏の入り口の横に寄って、貝殻の上に座って紙袋を開けていた。

「……またお友だちできた……! ……ふふー♪」

開いた魚の干物をくわえるシェルフィの笑みはどこか味とは関係なさそうな喜びを持っていたという。
なお、その後一匹カラスに盗られたのはまた別のお話。
202シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/12(木)21:36:51 ID:BDl
コスタ・ノエの港から少し離れたところにある浜辺、かつて幽霊船が目撃されたところでもある場所にシェルフィはやって来ていた。
いつも背負っている貝殻は波打ち際に置かれ、波を被る度にシェルフィはそれを磨き布で磨いている。
地上で汚れると場所は違えど水場でこうするのがシェルフィの慣習だ、お陰でいつも貝殻は汚れも傷もなく人に見せることができている。

「……ふー、最近人少ないからやりやすいけど……」

なんだか寂しい気がする。そう感じていたシェルフィだった。
203バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/12(木)21:58:31 ID:VZk
>>202

冷え込みも深まるこの頃の秋の夜。
ましてや町外れの寒々しい海岸に来るものなどよほど思いつめた人間か、物好きか、でなければ海棲種族くらいだが。
しかしこの男は、物好きであるうえに、腹から下は半分海凄種族みたいな存在であった。

「どうにも上手くいかん……薬の配合は完璧なはず……ぐぬぬ」

そして妙に思いつめている。腹部に生えた触手は服にこそ仕舞っているが、中でうねうねと小僧の思考同様に複雑に巡り蠢いている。

「……と、お?随分遠くまで来てしまったな……」

「おや、あんな所に人影。」
女が入水自殺でもしようとしているのか?、と不穏な思考を巡らせながらシェルフィにそっと近づく。
普段の彼にはとても似合わぬ、爽やかな笑みで。

「お嬢さん、何か心配事でも?あまり思いつめすぎるのはよくない」
204シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/12(木)22:13:54 ID:BDl
>>203

普段のシェルフィなら砂を踏む音くらいなら拾えたことだろう。
しかし今回は波打ち際。そして相手はそっと歩いていたと来たものだ。これは少し気付くのが遅れても仕方ない。

「へあっ!? だ、誰――」

気を抜いていたところに唐突に話し掛けられたため、これまた高いジャンプ力を発揮して跳んだ。跳んだ先は大きな貝殻だ。
ゴッ、という音がしたのは気のせいではなかった。

ずしゃ。

「……いたい……」

貝殻に足をぶつけて波打ち際に倒れ込むシェルフィは涙目だった。貝殻に恨みを持ちかけたのはとても久々である。
少なくとも入水自殺はできないだろう。今踞って貝殻殴ってるし。

「うぅ……だ、誰……? し、心配事はあんまり……」

そこでやっと話し掛けられたことを思い出したのか、質問が繰り返されていた。多分今脛の痛みのが強いのだろう。
205バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/12(木)22:32:35 ID:VZk
>>204

「おや、おやおや」

予想以上のオーバーリアクションに少々目を丸くするが、貝殻に思いっきり足を引っ掛ける少女に少し笑いを誘われる。

「クスクス、私は船で生命錬金術をしている者だ、名をバージェスと言う」

張り付いた笑顔のままヌッと距離を縮めるバージェス。
元凶のくせして厚かましい近づき方である。

「(ほとんど裸だな……ヒレからして亜人のようだが)」
「どれ、見せてみなさい……傷が膿んではいけない」

触手の一本がぬめっと袖から這い出し、シェルフィの足を優しくぬめり回す。
恐ろしく柔らかい触手は、シェルフィにとってはイソギンチャク的な感触と言える。妙に生暖かく、少々触り方もいやらしいが。
206シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/12(木)22:46:21 ID:BDl
>>205

「バ、バージェッ……!?」

縮められた距離にまたしてもビックリして名前の復唱が止まった。笑顔は安心するもののはずなのになぜ少し怖いのかシェルフィにはわからない。

「えっ? ひぇ!? な、何!?」

白い布もかかってない素足の脛にぶつければそりゃ痛いというもの。する、と足を見せたのは条件反射みたいなものだろう。
ただ、まさか見た目普通の人間のバージェスから触手が出てくるなんて思わなかったが。

「んん……っ!? な、何して……るの? ひっ……!」

最初はそれを受け入れかねない様子だったが、触り方に気付いたのか、それとも本能が刺激されたのかぴゃっ、と脚を引っ込めようとした。
捕まったらそれまでなのだが、果たしてバージェスの触手は……?
207バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/12(木)23:04:01 ID:VZk
>>206

「おやおや、怖がることはない。見たところ君は海凄の亜人だろう?」

「僕も似たようなものだよ、ほら」

ローブのボタンを外すと、もちゃっ……と赤黒い触手の束が堰を切ったように溢れ出る。
どっかの亜人苦手少女なら卒倒モノのビジュアルだろう。
見た目的にイソギンチャクの亜人とでも言い張るつもりだろうか。

「足は大丈夫かい?ずいぶん派手に転んだようだが……僕は獣医もやっているんだ」

ぬろろろ、と触手が伸びてきてシェルフィの足から下腹部までを一気に絡め取る。
やはり生暖かく、表面の突起が妙に生々しい。

「ふむ……貝殻族というのは聞いたことはあるが……(;´Д`)ハァハァ……案外人に近い体付きじゃないか……(;゚∀゚)=3ハァハァ」

触手が段々とシェルフィを這い回り、ついに関係ないところまでぬめり回していく。
おまわりさんこいつおさわりまんです!!!
208シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/12(木)23:17:30 ID:BDl
>>207

「…………ピャーーーーーー!!!?」

怯えていたところにぶちこまれたある意味捕食者(?)に見えなくもないビジュアルに大絶叫。
卒倒こそしないものの、むしろその分余計に恐怖だった。しかも足絡め取られてるし。

「ヤーーー!! 今捕まってるからだいじょぶじゃ、ヤーーー!!」

色気とかそういうものはまるでないマジの叫びである。色々絡むとこうなるのだ、捕食者でありながら食べられもするかもしれない本能が刺激されまくってるのだ。
今どの辺りかと言われればしっとりした半身食われてるようなもの、ぬめぬめで変な気分になる暇なんてなく――。

ぎゅるん。

貝殻がそんな擬音をさせるかのようにシェルフィとバージェスに向かって振り向いた。自律しているのだろうか?
仮にバージェスが気付いたとしてもその寸前だろう――大放水のスタートである。

ぬめぬめごと洗い流していくかのごとく激流のような噴射がバージェスに狙いを定めて放たれる! しかも波打ち際にあるせいで事実上残弾がほぼ無限だ、多分本体の危険を感じて噴射されているのだろう。
さて、それにバージェスは耐えられるか……?
209バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/12(木)23:32:14 ID:VZk
>>208

「(;´Д`)ハァハァすべすべ貝肉ハァハァ」

一方こちらは完全におさわりモードの目つきになっていた。
ある意味捕食と言えなくもない。
フーッフーッと鼻息を荒げシェルフィの白い身体をフンスカフンスカハムハフしていたが……

「アバーーーーッ!!!」

突如噴射されたハイドロポンプにふっ飛ばされ、バージェスは容赦なく水砲に打ちのめされる。

「ゴバガバゴボゴボ南無三ゴバガバゴバ」

小一時間ほど貝殻にお仕置きされ、寒空の下ボコボコのびしょ濡れにされた変質者が砂にまみれて倒れる。

何故か彼の亡骸は顔を赤らめてサムズアップしていたが、なんとか撃退には成功したようだ。
やったね!……たぶん。
210シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/12(木)23:46:37 ID:BDl
>>209
恐怖に痙攣とも言えるようなほど震えていたシェルフィだが、さすがにそれだけの時間が経っていればガクガクしていた足腰もなんとか立ち直っていた。

それ幸いとして絶賛噴射中だった貝殻に隠れて、倒れるまで見つめるその目……多分今まで誰も見たことないほどの恐怖と警戒に染まった目だ。
それでも一応、このまま命が危なくなっても凄まじい重圧に潰されると思ったのか、かなり離れた位置に貝殻を引きずって「このさきたおれてるひと→」なる文字を書いたという。

「…………ヌメヌメいやっ!!」

最後にそう宣言して貝殻に潜り込んでそのまま海にハイドロポンプダイブで帰っていったという。
211イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/14(土)20:41:40 ID:Is8
場所はロアール。太陽が昇り始めた時刻。
コスタ・ノエからの行商馬車が到着していた。

「ありがとうございますね。また機会があればよろしくお願いします」

馬車の持ち主に別れを告げてひょこりと出てきたのは一人の女性。
以前、歩いて戻ってきたことがあったが、その際に大雪に合い、死にかけたことがあった。
それに加えて、今回は荷物が多い。とてもじゃないが歩く気にもなれない。
その為、コスタ・ノエの馬小屋でロアールに向かう予定の人間を探し、頼みこんで乗せてもらっていた。

「買い込んだのはいいのですが……」

重い。重すぎる。
荷物を背負い、ふらふらと酔っ払いのような足取りで自宅へ向かっていたのだが……。


最終的には町中で前のめりで倒れていた。
212ネロ◆auhGCOVu..:17/10/14(土)21:04:35 ID:DU3
>>212

「ん~、今日は何を作るかなぁ」

ネロは朝市での買い物を終えた帰路にあった。
今日は買う食材が多く、背負った篭の中には新鮮なそれがいっぱいだ。

「まあとりあえず卵は使うとして……んん?」

朝食のメニューを思案しながら歩いていると、
その先の道に大きな荷物が転がっているように見える。

「えっ……と、落し物?……じゃ、ないよね……」

疑問に思うネロだが近付いてみるとあることがわかる。
……その大きな荷物の、下敷きになって女性が倒れていたのだ。

「わっ!た、大変だ!助けを呼……といってもここまで来ちゃ人通りも少ないし……」
「(と、とりあえず)大丈夫ですか!?」

ネロは倒れている女性の前に回って、しゃがみこんで声を掛けた。
213イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/14(土)21:18:46 ID:Is8
>>212
「大丈夫……、だいじょう……ぶ?」

顔だけを目の前の少女に向け、肩で息をしながら途切れ途切れに話す。
返答は出来るようで、命に別状は無いようだ。
一応、肉体的には問題が無い。ただそれだけ。一体何をもって大丈夫なのかは不明であるが。

「ですが……、これをどけて貰えれば助かります」

細い腕で地面を押し返そうとしても荷物の荷重に負けているらしく、びくともしない。
それどころかその腕はぷるぷると震え、いよいよ限界である。
214ネロ◆auhGCOVu..:17/10/14(土)21:35:25 ID:DU3
>>214

「う……うん、意識はあって安心ですがわりと大丈夫ではありませんね」

その息絶え絶えの女性の頼みを心配そうに聞く。

「ボクの力じゃちょっと不安だけど……」

改めて彼女にのしかかる荷物は巨大だ。
どかせるとすればまず"通し"の部分を両腕から外し、
ごろんと転がすくらいしかないだろう。

「まずサックを外してくだい、肩の辺りはボクが支えておくので」

ネロは自分の背負う篭を外し、初めに女性の左手へ。

「うんしょっ……うぅ重い。さあ腕を引き抜いてください」
215イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/14(土)21:58:49 ID:Is8
>>214
「ありがとうございます、親切な方。」

目の前の人物の提案通り事を進める。
元々はイルフィレールがこの場所まで運んできたものだ。
ネロが支えて出来たスペースを利用して足を折りたたみ全身をバネにして荷物を転がした。

「なんとかなる事とならないことがありますね。体を鍛えてなければ即死でした」

粗い息を整えながら呟く
常人ほどの力を持ち合わせていれば、彼女程度の年齢であれば持ち運び可能、少なくとも押しつぶされることは無い量の荷物であるが……。
大きな息を一度した後に今度は荷物の上に仰向きで寝っ転がる。

「こんな格好でごめんなさいね。これを自宅まで運ぶ体力を回復させなければ」
「そうそうお礼もしなければいけませんね」
216ネロ◆auhGCOVu..:17/10/14(土)22:18:38 ID:DU3
>>215

なんとか荷物は転がり出し、ネロはほっと胸を撫で下ろす。

(鍛え……?)

女性の言葉に疑念を抱いたが、口には出さないことにした。

そしてだらんと荷物に身体を預けるイルフィレールを見ていると
前途多難という言葉が浮かぶ。二の舞になったりはしないだろうか。

「いえいえお礼だなんてそんな」
「それよりもご自宅はここから近いのでしょうか?お一人で大丈夫ですか?」

倒れていた進行方向から考えて同じ方角に進んでいたようなので
分かれ道になるまで荷物を支えながら付いていっても……などと考えている。
217イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/14(土)22:42:47 ID:Is8
>>216
「結構遠いですね。郊外の川辺です。水車が欲しかったので僻地に住んでいるんですよ」
「そこでひっそりと紡績業と服飾屋を営んでいるんですよ」

立地が立地なだけに知名度は低い。
加工品を商人に買い取ってもらい生計をたてている為、不都合は無いが時折寂しくもある。
また今度来てくださいね、サービスしますから、と付け加えると体を起こし、荷物を椅子にして座った。

「今度は倒れそうになったらこの荷物をぶん投げるので大丈夫です。たぶん」
「為そうと思えば為せば成る。人生挑戦ですよ」

ぐっとサムズアップして笑みと共に自信満々に言い切った。
218ネロ◆auhGCOVu..:17/10/14(土)23:19:38 ID:DU3
>>217

「なるほど……では機会があればお邪魔させてもらいますね」

彼女の示す場所はここからまだまだ遠い。
そしてネロの住むミルジョージ邸もこの先川辺とは方角が対にわかれてしまう。

更にサムズアップしながら語るイルフィレールを見ていると、

(まあ、これ以上はおせっかいかな)

そう感じて、自分の篭を背負いなおし

「じゃあ、ボクはこれで。道中お気をつけて」

笑顔で手を振り歩き出した。
そうだ、早く帰って朝食の支度もしなければならない。
219イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/14(土)23:30:21 ID:Is8
>>218
「はい。是非また今度」

顔の横で手をひらひらと振り、愛想良く別れを告げる。
ネロの姿が見えなくなった頃、足腰に力を入れ鞄を背負い直して再びふらふらと歩き直す。

時折、どさりと重々しい音が町中で鳴り響いたが、それもどんどんと森の方へ移動していく。
今日この日、人が医者へ運ばれたという話は流れなかった。
220シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/22(日)21:05:30 ID:ga5
冬を目前として街で連日開かれる収穫祭。カボチャやカブでできたランタンはまだ灯りを灯されていないが、存在感だけはばっちりだ。
収穫祭で振る舞われてるおかげもあるが、真っ昼間にも関わらずごちそう食べて、お酒を飲む人が時々目に入る。いつもなら怒られる人も出ることだろう。

そんな人の集まりをやや離れたところから見ている者が居た。大きな貝殻のお陰で知る人には誰か丸分かりしてしまう。
しかし貝殻はそのままでも、言うなれば本体、中身の方はしっかり仮装していた。

「はむ、んむ、んぐ……」

祭の由来の元になったであろう、塩漬けされた小さなお肉を噛み噛みしているシェルフィ、塩辛さを求めて選んだようだ。
腕にお菓子の入った篭を下げるその姿はいつもの白布を巻いた姿ではない。
本来の耳があるところには魚の胸ビレを模した飾りを付けて、身体は全身タイツらしき衣服にぴっちりと包まれている。その上に――鱗らしきものを貼り付けただけと思わしきパーツが四肢にあり、胴体部分には特になにもなかった。

……多分マーマンの仮装だろうが、果たしてシェルフィにそれの意味があるのかは現在不明である。
221リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/22(日)21:29:09 ID:Wa5
>>220
収穫祭。それは人々が魔物やお化けといった仮装をすることで邪気を払おうというお祭り。
ついでに秋に収穫された農作物等を美味しく頂いてどんちゃん騒ぎをしようという企画でもある。つまるところいつも通り。

はてさて相変わらずロアールの広場ではよく見る光景ではあるがお祭り騒ぎが繰り広げられ、酒や食べ物を振る舞う出店が広場を埋める。
広場にいる人々は思い思いの仮装を自らに施しながら、いつも通りのお祭りが始まるのである。

しかし、広場から少し離れた路地の近くに悩める少女、リリンが出店群を遠く眺めていたのである。

「どうしよう……凄く行き辛い……」

リリンは黒いとんがり帽子を被り、同じく黒い長袖ワンピースに身を包んでいた。
さらに右手には少し短めの竹箒。いわゆる魔女っ子スタイルという訳だ。仮装の中では比較的目立たない地味なモノであろうか。

なぜ彼女がこの場所から眺めるだけで、祭りの中央に入ろうとしないのか。
彼女の性格的に行けない、という点もあるのかもしれないが、一番の問題点は一つ、この祭りが仮装をして楽しむお祭りだからである。
魔物の仮装となると、その姿は一般的な人間とは大きく異なる異形の姿。亜人が苦手である彼女にとってこれ以上ない過酷なイベントなのであった。

このまま引っ込み思案なリリンが一人でこの祭りを楽しむのは難しいであろう。
気心の知れた友人の手助けでもあれば、この状況を打破できるのかもしれないが。
222シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/22(日)21:46:07 ID:ga5
>>221

その頃噛んでいた部分から塩気が消えるとその部分を小さく噛みちぎってそのまま飲み込んでいたシェルフィ。
とその際視界にちらほらと新しい仮装の姿が見えたお陰で片手に持ったままゆっくりと駆け出した。というのも離れても意外にも人が多いことに気付いて、臆病になったのと邪魔にならないようにするためだが。
そうなると必然、人混みから抜けるには人が少ないところに移動する必要があり、その先には。

「あむ……、? ひょっとして……」

仮装の衣装を初めて見た際に、あれはなに? と尋ねて魔女の衣装と教えてもらったものに似た格好をしている少女に覚えがある。
忘れている訳ではなく、普段と見る姿が違うために起きる不安というものだ。間違ってたら……と思うが合っていたら是非とも一緒に居たい。
一人は心細いのだ。未だに人に慣れない彼女でも。

「……あっ、リリンちゃん! やっぱり! リリンちゃんも参加してたんだ!」

近付いて帽子の影になっていた顔を確認すると一転、明るい顔を見せてその場で小さく跳ねそうなほど喜びを見せた。

「ねえねえ、それって確か魔女さん? だよね? かわいいなー」

あれ? この子こんな子だっけ? と思うかもしれないが一人ポツンと居た時に知ってる子に、自分で仲が良いと思っている子に会えばこうなるのも仕方ないだろう。
一方のこちらは可愛さ全捨てしたような仮装だったのがとてもシュールだ。
223リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/22(日)22:04:27 ID:Wa5
>>222
一応お祭りであるので仮装して来てみたはいいが、だからと言って何か出来る訳でもなく、どうしようかと思っていたころ。
不意に聞こえる自身の名を呼ぶ声。同じ名前の人物なんぞそうそういないだろう。だとすれば知り合いか、などと思いながら声の呼ぶ方向を向く。
が、そこにいたのは……明らかに人間ではない異形の姿。というより……魚人?

「ひぃやぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

派手にすっ転んだ。尻もちを付いた拍子に地面の砂が巻き上がる。
当の本人は目をつぶったまま右手に持った箒を先を向けて必死に抵抗、というより追い払おうとしているのか。

「ふぇっ……この声……もしかしてシェルフィ……ちゃん……?」

だがこの声には聞き覚えがある。過去に何度も聞いた事のある声で、しかも比較的同類だったような。
恐る恐る薄目を開けてみれば、やはりこの顔は見知った友人のモノであった。あくまでも顔だけだが。

「えっと、そうだよ。仮装って聞いたからこの格好で来たんだけど……おかしかったかな?」
「でも、シェルフィちゃん、すごい恰好してるね……。ホントにシェルフィちゃんだよね……?」

未だに信じられない友人の姿。それなりの期間を掛けてようやく彼女の姿にも慣れてきたというのに、この仕打ちはあんまりだ、とでも言いたかったが、とても言えるわけがなく。
シェルフィの姿を直視できないので、中途半端に顔だけ背け、横目で恐る恐る彼女の顔だけを見て。
ちなみにこの格好は前日の枕元に知らぬ間に置かれていたとのこと。まるで何者かが事前に用意していたかのように。
224シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/22(日)22:23:51 ID:ga5
>>223

「ひやぁぁぁぁぁ!?!?」

予想外の反応にシェルフィもスッ転びそうになっていた。普段から驚き慣れた(?)せいか足をもたつかせる程度だったが。

「う、うん……あれ?」

わからなかったかな? とシェルフィは考えていた。というのもシェルフィは亜人がどうではなく、人自体に認識が向くためリリンの考えと若干ずれてる。
箒を向けられていることにも困惑した様子だが、まさか追い払われてるとは思うまい。海で箒を掃く機会など滅多にない。

「うーうん、私もそんな仮装にしよっかなって思ってたし、リリンちゃんは似合ってる!」

親指立ててびしっ、と宣言。真っ直ぐ向いた目と笑顔がなんとも明るいものである。

「そうだよ? あ、あれ、おかしいな、魚人? ならわかると思ったんだけど……」

ぬぎっ、とあろうことか外でタイツの上の方を脱いで自分を証明するシェルフィ。とはいえ下にはいつもの白布だ。下半身がそのままなのでちぐはぐになるのは否めない。
魚人と貝殻族、住んでるところは似るのだしイメージから比較的離れてなさそうなものと思っていたようだ。これなら魔女っ子とかのが良かったかな? と考えるのは仕方なく、リリンを助け起こそうとしながらうーんと悩む。
不思議なこともあるねー、と謎の用意に対して言葉通り不思議そうな顔。

「驚かせちゃってごめんね? はいこれ!」

助け起こせたところで篭の中から中身は飴と思わしきお菓子の包み紙を取り出して手渡す。なんでもこうすると怖いものを追い払えるとかなんとか。どっちから追い払われるのかわかってないけど。

「ねえねえ、良かったら一緒に回ら……これ着替えた方がいいかな?」

出番か? とばかりに口が少し開いた貝殻。……まさかこんなとこに?
とはいえ着替えるかどうはリリンの返答次第に依るのだが、そのままでも良いと言った場合タイツの上を脱いでることも忘れて連れ出そうとするのだろう。
225リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/22(日)22:46:41 ID:Wa5
>>224
「そ、そうかな……似合ってる、かぁ……そっかぁ……」

思わず口元が緩む。おめかしして来たのを褒められて嬉しくない子はいない。もちろんリリンもその一人であり。
ただ一つ問題点を挙げるならば相変わらず尻もちを付いたままシェルフィの姿を見れていないことか。
傍から見れば魚人が魔女を襲っている光景に見えなくもない、かもしれない。

「い、いやね、その恰好がおかしいって訳じゃないよ?」
「ちょっとね、少し私には刺激というか、インパクトが強すぎたかなーってだけで。ね?」

シェルフィに引き起こされようやく地面に両足を付ける。
おもむろに目の前でシェルフィが脱ぎ始めたので思わず顔を背ける。横目で少しだけ見てたけど。
ともかく、あのおどろおどろしい魚人服の下はいつも通りのシェルフィだったので、安堵の息を漏らす。

「あっ……これ、いいの? あ、ありがとう、シェルフィちゃん」
「…………おいしい」

一連のやり取りが終わったところで渡される小袋。開いてみれば、中には色とりどりのお菓子が所狭しと集まっていて。
その中の一つを口の中に入れる。ほのかな甘みが口の中いっぱいに広がる。不安だった気持ちを包み込んでしまうかのように感じて。

「だ、大丈夫だよ。私が頑張って慣れるから。せっかく仮装するお祭りなんだから。ね……?」
「でも、その前にちゃんと着ようよ。このままじゃ風邪引いちゃうよ」

もちろんリリンからすれば着替えていつも通りになってもらったほうがありがたい。
でもそれではお祭りの意味がない。何よりそんな手間を取らせたくない。別に目を見れて言えている訳ではないが、声の覇気はいつもより少しだけ強かった。
とりあえず今にもこのまま行ってしまいそうなシェルフィを引き留めるために脱いだタイツの上部分を持って止めようとかかる。
226シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/22(日)23:01:28 ID:ga5
>>225
そこまで大騒ぎされない理由はやはり、存在感が凄い貝殻のせいだろうか。恐らく大半の人はデカイ貝殻=シェルフィと思っていてもおかしくない、はず。

「そっかー、ちょっと気合い入れすぎたかなー」

普段貝殻を磨いたりする種族柄だろうか、シェルフィには何か拘りが出るのかもしれない。無論何に対してどう拘るかは気分次第になるが、今回に関しては……まあ拘りが過ぎたと言える。素体のモンスタースーツもびっくりだ。

「でしょー」と自慢げに。と言うのも子供に混じって買ったり貰ったりしたお菓子なのでシェルフィ自作ではない。なんなら作ったら塩味になる可能性がある。

貝殻を置いたことも忘れかけて、あらわになったタイツ上を引っ張られて足が止まる。伸縮性ばっちりだ。

「きゃうっ……あ、そうだね。……でも怖くなってきたら言ってね!」

ぴっちり着直した姿、やっぱりマーマン。マーメイドって言うには下半身の尾ひれとか足りない、サハギンとかのが似合う。
貝殻の口もゆっくり閉じて、背中に担ぎ直せばリリンの手を引くようにして祭の真っ只中に飛び込もうとする。その間際に。

「でも、リリンちゃん居てくれてよかったー……一人でだとあの中に入るのがなんだか怖かったんだー」

知り合いが居ないわけではない、しかし知り合いにいつでも会えるわけではない。今日は運悪くその日で、そして運良くリリンに会えた。
シェルフィの格好で残念っぽさは出てしまうがシェルフィはとても嬉しそうな顔でそう語りかけるのだ。
227リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/22(日)23:27:25 ID:Wa5
>>226
「うん……凄い完成度だよ……ホントにビックリしたんだからね」

シェルフィのタイツを掴んだ際に材質や模様等が否応なしに目前に見せつけられる。
仮装にしてはかなりの完成度と言えるだろう、このスーツ。一体どうやって作ったんだろう、とか考えつつ。
そういう本人もちゃんと魚人の姿を見たことはないのだが。シェルフィが初めて知り合った水棲系亜人であるし。

「だいじょうぶだいじょうぶ、こわくないこわくない……」
「へっ? あっ、うん。頑張るから、頑張るから……」

お手製の自己暗示のおかげか、始めに比べればシェルフィの姿も見れるようになった。まだ正面からしっかりとは見れないけど。
そのうち、シェルフィに手を取られ、引っ張られるように祭りの中へと引き込まれていくことだろう。

「でも、私だってそうだよ。さっきシェルフィちゃんが来てくれなかったら、私そのまま帰ってたと思うし……」
「ほら、前の春のお祭りみたいに、一緒に行こう?」

あの春の時もそうだ。シェルフィに引っ張られ、屋台の中を進んでいくあの小さいけど大きな背中にいつの間にか頼もしさを感じていて。
それと同時に、申し訳なさと悔しさが少しだけ込み上げてきて。
それでも彼女の嬉しそうな笑顔を見ると、そんな気持ちも吹き飛んでしまうように。リリンも微笑み返す。

祭りの中は様々な仮装をした人々が並ぶ。この中では比較的目立つであろうこの二人も埋没してしまう程にはどこも派手で。
一人では萎縮してしまいそうでも、シェルフィとなら一緒に祭りを楽しむことが出来る。そんな気がした。

「あのさ、前のお祭りの時もいろいろしてもらったからね、何か私もシェルフィちゃんにプレゼントしたいの」
「決められないからさ、どのお店のでもいいからさ、奢らせてもらえないかな? ……ダメ?」

ふと思い立ったリリンの提案。手を引かれたまま、シェルフィの後ろから呼びかける。
228シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/23(月)00:02:44 ID:Nd1
>>227
 
ビックリさせられた……というのは仮装としては正しいか。
作製した際、まさかタイツもこうなるとは思ってはないだろう。何せ元の効果は着てると少しだけ魔物に好かれるものだ。まあつまり一から作製よりは素早く作れるからそうした結果とも言う。
とはいえ魔物に襲われなくなるのはいいものだ。仮装が終わったら本物を見て製作されたヒレや鱗は外されるが丁寧に保管されることである。

本格派とちょっと違うのは顔にだけは何も細工してないところである。
正面から見るなら顔だけを見るのをオススメ……する人が居ないのがもどかしい。

「えへへ、そうなんだー……よかったー、ちゃんと見つけられて」
「うん! 一緒!」

その拘り(?)ある仮装も祭の最中においては比較的目立たなくなってくる。それでも至近距離のリリンには目立ってしまうかもしれないが。
ただ肝心のシェルフィが若干大人しくなり始めたのはどうなのだろうか。というのもこんな中で騒いでたら貝殻で事故ったりするからだろう。そこら辺は弁えるようになったようだ。

「え? ……うん! じゃあお願い!」

提案に立ち止まる。その時、一瞬口に出そうになったのは、別に良いよー、という言葉だがかなーり前にある人に言われた言葉が脳内に反芻する。
厚意は受け取らなければ、相手にも悪いと。正直嬉しい気分もあったし何よりリリンが以前のことを覚えていてくれていたことが嬉しかった。
それは笑顔がよーく表していた。

「じゃあえーと、ど、どこにしよ……」

キョロキョロと見回して、たまに仮装の問題などから見えないところがあるのでピョン、と飛んだりして見て。

「……あーいうのでも良い?」

まだ灯りの灯ってないカボチャのランタンが店頭に置かれた、切り分けられたパンプキンパイと店頭に飾られるランタンと同じものが提供されている店だった。
前のお祭りでは取られてしまったものもあるが、今回は大丈夫な確信がある。……リリンの予想していたものとちょーと違うかもしれないが。
マーマン(?)の仮装である。
229リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/23(月)00:39:57 ID:fFT
>>228
改めて頭まですっぽりと覆われたマーマンスーツを見ると、恐らく本物とかなり似ているのであろうその姿に背筋が震える。
名目にも仮装であるはずの姿を見てこの反応なのだから、本物を見てしまえばどうなってしまうか。何となく想像付くけど。

手を引かれているとはいえ、前を行くシェルフィの背中には大きな貝殻が背負われている。
以前ならばシェルフィが揺れ動くたびに貝殻がリリンの身体にぶつかってきていたものだが、今日この日はそんなことはなかった。
ある程度理解してくれるようになったのだろう。もしくは後ろを行くリリンが慣れたのか。どっちだろうね。

「よかったぁ。何でもいいからね。遠慮しなくてもいいからね」

手を握ったまま、欲しいモノを探すシェルフィの姿を横から眺める。
始めはあんなにビクビクしていたはずなのに、今となってはこんな近くにいれるようになるなんて。あの時の自分では考えられないことだろう。
そう思うと、こうして居れることが嬉しくて。リリンも思わず笑顔になる。

「えっ、ええーっと……これでいいの……?」

シェルフィが選んだのはパンプキンパイとカボチャをくりぬいたランタン。
確かにハロウィンらしいのだが、初めに渡されたお菓子の束と比較すると、何というか、予想を外されたというか、何と言うか。
とはいえ選ばれたモノを断る訳にはいかないしその気もない。今度はシェルフィの手を引っ張って店へと向かう。

「あのー、このランタンとパイを二つずつ下さい……。はい。お金はちゃんとあります……はい、ありがとうございます……」

「はい、これはさっきのお返しだよ」

ランタンとパイをセットでシェルフィに渡す。
ランタンの中には炎の灯っていないロウソクが一本。中身までサービスしてくれたらしい。さらにこっそり中にお菓子を少し忍ばせて。
230シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/23(月)01:04:26 ID:Nd1
>>229

両方であったらいいことだ。

「うん、美味しそうだし、こっちは珍しいんだー」

お菓子の束も魅力的だが、シェルフィにとってはこちらも魅力的に映っていたようだ。
予想を外していたことにはまったく気付いていない。甘いお菓子は先程共有できたし、どうせならば新しいものも食べてみたいという心境だ。
子供である。食べてないものに興味を惹かれてしまうのは。つまりシェルフィもまだ子供なのだ。
リリンが買ってくれてる間にすらワクワクを隠せてない。

「うわぁーい……! ありがとうリリンちゃん!」

渡されたセットをもはやどこまで増していくかもわからないほど明るくなっていく笑顔で大事そうに受け取る。パイを見て、匂いを嗅いでお腹を鳴らしたり、ランタンの中を覗いてロウソクに気付いて灯すのが楽しみと言わんばかりの顔をしている。

お菓子に気付くのは、二度目に見た時だ。付けヒレを揺らすほど耳のヒレがぴこぴこ動いてしまっている。なんとも幼い反応であった。

「リリンちゃん、リリンちゃん。中にほら!」

リリンにしか見えないようにランタンの中を覗かせるシェルフィ、ちょっと小声。内緒を共有したそうにしているのが明白だ。

お店の近くではしゃぐ姿、……仮装してなければ実に微笑ましかったことだろう。

「早く一緒に食べよ!」

落とさないように大事に篭の中にランタンを収めるとあまり動かさないようにしながら慎重になってそう言っていた。
231リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/23(月)21:15:36 ID:fFT
>>230
「うん。喜んでもらえて私も嬉しいよ」

シェルフィの笑顔を見る度に、自分の取った行動が正しかったことを改めて実感させてくれる。
見習いハンターが出せるお金としてはそう安いモノでは無かったが、この嬉しそうな笑顔に比べれば安いものだ。

「ちょ、ちょっと落ち着こうよ。そんなに急かさなくてもパイもランタンも逃げたりはしないから……」
「えっ? 何? どうしたの……あっ、おまけでくれたのかな。お店のヒトに感謝しなきゃね」

パイとランタンのセットを渡した途端に、興味を持って忙しなく動き回るシェルフィをなだめようと手を伸ばし。
その時に呼びとめる声。声に準じて中を覗き込むと、そこには頼んだ覚えのないお菓子が数個。
女の子同士の結束は共有するナイショ話によって深まる。リリンも口の前に指を立て、黙っておくようにコッソリとシェルフィに受け答える。

「じゃ行こうか。向こうでゆっくり食べようよ」

シェルフィの手を取って、広場内を横断する。片手には彼女の手、もう片方にはパイとランタンを吊るした箒。ずいぶんと大荷物になったものだ。
少し歩けば、広場の端にある小さなベンチにたどり着く。ちょうど二人で横に並べるほどの大きさ。広さで困ることはないはず。
ベンチに座り、箒を足元に、先ほど貰ったセットを膝の上に置いて。

「ここならゆっくり出来そう。 座って食べなきゃお行儀悪いよ?」
「いただきます…………んっ、美味しいよこのパイ」

カボチャのパイを手に取り、口に入れて歯を入れる。
こんがり火の通った表面を抜けると、しっとりと食感の残る濃厚なカボチャの味が口に広がる。外枠もサクサクとしたクッキー生地が優しく包み込む。
一口頬った後のリリンの口元にはパイの破片はいくつも付いていた。せっかくお行儀の事について言ったばかりだというのに。
232シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/23(月)21:54:29 ID:Nd1
>>231

「ん」とリリンと同じ様に口の前に指を立てて満足そうに。

「うん! ……あ、ありがとうございましたー……!」

早速と言うべきか、横断前にお店の人に振り向いて感謝の言葉を伝えた。
そして連れられる道中では、リリンの背中をじっと見たり、箒に目を移したりと行きとは逆になった景色を楽しんでいた。
パイを落とさないように篭を持つ手に抱えてなんだか姉に連れられる妹のような状況を満喫した。

「うっ、は、はーい。いただきまーす!」

少しギクッとしたのは出会う前に肉をカジカジしていたことと、今ほんとに座る前から食べそうな心を見抜かれたような気分になったからだろう。
遅れて座って、篭を膝の上に置いてからパイを両手に持ってキラキラした目でパイの見た目と匂いを少し楽しんでからサクッ、と歯を入れる。
サクサクしたクッキー生地の食感を歯で、あまり体験したことのないカボチャの濃厚な味を舌でじっくり堪能し、その美味しさにまたしてもぴこぴこと耳が動く。
その感想を率直に伝えようとして、飲み込んでないことに気付いて慌てて飲み込む。

「ほっ、……んぐ。……ほんとに美味しいね! ……あれ? リリンちゃん、口元にいっぱいついてるよー」

リリンがそうなら、シェルフィにも当たり前のようにパイの破片が口元に付いているがそれには気付かないまま彼女の口元に仮装に侵食されてはいない指を近付けて……掬おうとする。
それが出来たなら、お行儀の話はどこへやら、指に掬えたそれをリリンに「ほら」と見せてからあむっ、と口の中に運んでまた無邪気に笑うのだ。
233リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/23(月)22:42:17 ID:fFT
>>232
「ねー、美味しいよねコレ。シェルフィちゃんって、美味しいモノ見つけるの上手だね」

シェルフィが居なければこのパイとの出会いも無かっただろう。感謝してもしきれない。
パイのカケラが付いたまま、シェルフィに微笑む。膝の上でカボチャのランプが共にほくそ笑む。

「えっ!? あっ、ホント……。ご、ゴメン……なさい……」

シェルフィに指摘され、思わず口元を覆い隠そうとする。が、手に持ったパイと膝に乗せたランプが思うように動かせてくれない。
どうこうする前に、シェルフィの指がリリンの口元をなぞり、破片が移る。おもむろに目前に見せつけられるそれはそのまま彼女の口の中へ。
先ほどまでお行儀がどうたら言っていたはずなのに、出来ていないのは自分の方であった訳だ。
思わず顔を赤らめて俯いてしまう。同じようについているはずのシェルフィの顔を見れない程度には、余裕が無くなってしまう。

「ううぅ……」
「えっ? あっ! 待っ! キャー!!??」

リリンは顔を抑えて俯いたまま動かない。ちょっと震えたり恥ずかしそうに声が漏れたりしているけど。
その時、膝の上にあったランタンが転がる。リリンの体勢が変わったことでバランスが悪くなったのだろう。
気づいた時にはもう空の上、必死に身を乗り出し手を伸ばすが、掠りもせず。
そのままランタンは地面へと落下。破片が散ったのが見えるので、落ちた際に欠けてしまったのだろうか。
直後に小さな地鳴りがもう一つ。リリンまでもがコケてしまったのだ。残っていたパイも地面でぐちゃりと潰れる。
後に残るのは一部が欠けたランタンと潰れた食べかけのパイ、そして地面にうつ伏せで寝そべるリリンの姿だけ。
234シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/23(月)23:03:16 ID:Nd1
>>233

「リリンちゃん? どうした……の?!」

俯く理由がわからなくて首を傾げていると突然リリンが慌て出した。
それにびっくりするとよくわかる。ランタンは空から地へ、それを追いかけるリリンの身体とパイも同じく地へ。それをすべて受け止めるにはシェルフィには手の数も力も色々足りてなかった。
しかしそれを理解して止まる身体かと言えばそうはいかない。篭を咄嗟に退けて、手から取り落としたパイはお空へ。

それでも間に合わなかったためにガクッと手をついて項垂れるようになってしまった。

「……だ、大丈夫? リリンちゃん?」

潰れてしまったパイやちょっと欠けたランタンを自分のところに寄せてこれ以上壊れないように気を付けながらリリンの背中を手で擦る。

「け、ケガしてない? お顔とか大丈夫?」

ランタンはベンチの自分の位置に置いて、欠けてしまったところを擦り、それからリリンのお腹に手を入れて起こそうとする。
色々手順がおかしい気がするのは混乱があるからだ。うーん、と力を入れてゆっくり助け起こそうとしてる間にも「大丈夫?」とか「ケガしてない?」とかける言葉はループしている。
そして赤くなったりしている部分があればそこを優しく擦ろうとするのだろう。
そしてふと思ってしまうのだ。リリンはもしかして不運なのかと。もしくは自分がそれを呼んでるのかと。

「ご、ごめんね……?」
235リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/23(月)23:27:00 ID:fFT
>>234
「だ、だいじょうぶ……だよ……うん……」

両手をついて起き上がるリリンの前に広がるのは惨状。せっかく買った物モノも見るも無残な状態に。
顔からコケたからか、額や頬には砂が付いており、顔全体もうっすら赤くなっている。

「な……なんでこんな事ばっかり……」

この状況には思わずリリンもがっくりと項垂れるしかない。
思えば前からこんなことになることが多かった。他の人よりちょっと鈍くさいからか、転びやすかったり、モノを落としやすかったり。
もしかすると何かしらの呪いが本人の知らぬ間にかかっているのかもしれない。真相は闇の中。

「そんなこと言わないで……私がおっちょこちょいなのがいけないんだから……」

シェルフィに背中やら腰やらを擦ってもらいながらようやく立ち上がるリリン。
雪崩れのようにとびかかるシェルフィからの心配そうな声も一つ一つ大丈夫だよ、と反応するのは彼女らしいというか。
しかしこのダメージはかなり大きいようで。オーラや雰囲気が可視化できるものならば、暗いモヤが周囲に立ち上っていることだろう。

「せっかく一緒に楽しめそうだったのに……ゴメンね、シェルフィちゃん」

項垂れた謝る始末。結構響いてるらしい。
236シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/23(月)23:58:59 ID:Nd1
>>235

大丈夫そうなら良かった、というのが本音で無事なリリンを見るとホッと息をつく。……のもつかの間で可視はできなくとも雰囲気を察することは出来たようだ。
項垂れて謝られるとおろおろしてしまうのは気質のせいか。
そこでピーン、と思い出してしまうのはやっぱり以前のお祭りのこと。あのときはにっくき鳥に奪われたのを確か――。

「だ、大丈夫! リリンちゃんがケガしてないならまだ楽しめるよ! ランタンは……あとで直そ? で、パイは……ほら、前みたいに半分こしよ……おー」

完全に壊れた訳ではないため、上手く何とかすれば完全修復とはいかなくてもなんとかなるかもしれないと。
篭の中、ランタンの隣に寄せられたお菓子の上に乗っかってるパイの不安定さに思わず声が。
潰れてはないだけマシか。破片は恐らく隙間から底にあるだろうが。
とりあえず気を取り直してパイを慎重に取って、中央から……うまく割れる気がしてしまった。下手をしたら崩れかねない。
うーん、と少し悩んでから何か思い付いたようにあっ、と口に出して。

「はい、リリンちゃん、あーんしてあーん」

食べてないところを向けて、そう促す。せめてベンチに座らせてからではダメだったのか。
先にリリンに半分食べさせて、残りを自分が食べればいいという結論に至ったようだ。
表面が少しポロポロ剥がれてはいるが、原型は保っているパイ。まだまだ味わうには十分なはず。
237リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/10/24(火)00:34:04 ID:yHG
>>236
ついつい先に謝罪が出てしまうのはリリンの性格故か。

「……うん、ゴメンね。この前もこんな感じだったよね……いつもこんな感じでゴメンね……」

ランタンも完全に損壊している訳ではなく、三割程度がポロリしている程度。頑張れば修復できるはず。
破片は底に転がっているのがいくつか、地面にも転がっているのがいくつか。割と細かい破片になっているモノもある。
でもパイは完全に地面でぐっちゃりと潰れている始末。流石にこちらの修復は不可能だろう。食物はダメな訳だ。

「いつもゴメンね……ふがいなくてゴメンね……」

今にも泣きだしそうな表情で口を開ける。善意には素直に従うのだ。それだけ弱っているという訳だが。
ベンチにも座らず立ったまま口の中に押し込まれる少し不格好なパイは、先ほど食べたモノより随分と美味しく感じられた。
いつも誰かに優しくされてるばかりで自分一人では何もできていない。そんな自分がふがいなく感じて。

「……おいしい……おいしいよ…………」

思わず感極まってしまい、涙が零れ落ちる。いろいろと込み上げてくる思いが決壊してしまったのだ。
ベンチに座り込んで周りの目も気にせずすすり泣く声を上げる。泣く時は周りの目線も気にせずに泣けるのに。
この嘆きはしばらく収まることはないだろう。終わるころには目の周りを真っ赤に腫れさせて帰ることだろう。
ちょっとブルーな気持ちになったお祭りになってしまった。
238シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/10/24(火)01:39:47 ID:UZl
>>237

「リリンちゃんは悪くないよー、この前はほら、鳥のせいだし」

今回の件は誰が悪いか、と言うと結論がループしそうなことになってしまう。
地面に転がった破片はパイを取る前、もしくは完食した後に集められたことだろう。

「……そんなことないよー。私はリリンちゃんと居れて楽しいもん。今度また回るときは気を付けよ?」

今度はそう、一緒に篭に入れておくとか、テーブルのあるところに行って真ん中に置いておくとかそういう対策はあるに違いない。……これを上回ったらいよいよ本格的だが。
不謹慎ながら、分け合うことがちょっとだけ楽しいと思っていたりもする。海だと待ってた獲物を目の前で横取りなんてよくあることだ。
そして優しさはリリンが最初にシェルフィに渡したものだ。仮装も受け入れてお礼としてちょっとずれてても買ってくれた。そうくればシェルフィがリリンをふがいないと思うことはありえない。

「リリンちゃんが居てくれなかったら私あのまま帰っちゃってたし、こうしてパイも食べれなかったし、ランタンも買えなかったと思うんだ。だからリリンちゃんは謝らなくていーの!」

ランタンを大事に持ってベンチに座って、そう言い終える。リリンのランタンを膝に抱え込んだまま、背中をさするシェルフィの行動がほんのちょっとでもブルーな気分を和らげていることを祈るしかない。
239プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/25(水)21:09:23 ID:2Qx
夜風も一層冷たく、肌寒さを仮装で紛らわすこの頃の収穫祭。
道行くランタンにも明かりが燈され、カボチャが不気味に光るハロウィン特有の夜景が広がる。

「今年もこの季節ね~、あっアタシはセルフ仮装してるから当然お菓子貰う側よね~」

大きめな深緑色の帽子を被り、同じく深緑のローブを身に纏った、燃えるような赤毛をたなびかせる魔女。
収穫祭に本職が出張ってくるのもどうかと思うが、お陰で跨る箒にぶら下げた籠には細々としたお菓子類が山盛りにされている。
収穫祭と言っても冬への蓄えになる保存食とは違い、日持ちのしなさそうな果実類なども多い。だからこそご馳走が多いのだが。

「ま、お菓子くれなきゃ容赦の無いいたずらが待ってるからね~、仕方ないわよね~」

どこかの家から叫び声やら何やらが時折聞こえる。たまに本気の仮装で住人を震え上がらせる物もいるという。
細い箒に器用に寝転がり、悠々とアップルパイを頬張る。魔女のいたずら・・・・・・あまり想像はしたくない。
240アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/25(水)21:32:29 ID:1DI
>>239
今宵は収穫祭。この町にも夜になればカボチャを模ったランプが道の端にて怪しげに光る。
夜でも色とりどりのランプによって比較的明るく、人通りもそれなりに多い。このお祭り特有の光景と言えよう。

「あーら、こんなところに可愛らしい魔女さんがいる。どんな事されちゃうのかしらねぇ」

どこからか、魔女の元へ何者かの声が聞こえてくることだろう。声からして女性のモノであることはわかるか。
謎の声と共に数匹の蝙蝠が夜空を舞う姿が目に入るはず。そして奴は彼らと共にやって来るのだ。ほんのり明るい夜空のムコウから。

全身を覆う黒のコート、背中から生える大きな羽を羽ばたかせ、緋色のロングヘアーが映える顔の口元からは鋭く伸びた犬歯が月明かりを浴びて光る。
誰が見ても一目で判断できるであろう。彼女が件の吸血鬼であると。
彼女は正真正銘の吸血鬼、それ故無粋な仮装もすることはない。何しろ彼女こそがハロウィンの主役の一人であるのだから。

「でもワタシはいたずらされるよりもするほうが好きなのよねぇ」
「アナタはどうなのかしら? どちらをお望み?」

ふわりと魔女の前へと到達し、右手を彼女に差し出して告げる。表情がイキイキとしているのはたぶん気のせいではない。
241プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/25(水)21:51:04 ID:2Qx
>>240

「あら~?アタシ本職の魔女ですけどぉ~?いいのかな~魔女のいたずら味わっちゃっ・・・・・・て」

魔術はいたずらから始まるとすら言われる。
基本的なタイプとして口からナメクジ吐かせたりもさもさの猫人間にしてしまったりする魔術がある。
プシュテはその辺風属性なので相手を鳥目にしてしまったり、不自然な風でスカートをめくり上げたりも。
いたずら魔術には自信のある彼女であったが、周りを舞う蝙蝠と、その大きな羽に威圧され、調子に乗った前口上は止められてしまった。

「げっ、上級魔族・・・・・・っ!」

正直言ってプシュテはあまり強い魔女ではない。至って平均的な魔女のそれだ。
自身の数倍もの魔力を持つ、闇の眷属の大先輩を目の前にたじろぐプシュテ。
当たり前だが通行人達は関わりたくないといった様子で眷属たる彼女らを避けて通っていて助けてくれそうにない。

「く、くぅっ、お、お菓子を献上しなければ・・・・・・!しかし、しかしこんな事で折れては魔女の名が・・・・・・!」

プライドと命の危険がせめぎ合い、箒とお菓子の入った籠に同時に手が伸びている。
肌寒さにも関わらず噴出する汗。思わず荒くなる呼吸。

「お、お菓子あげるからいたずらさせなさい!!!(ぐるぐる目)」
242アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/25(水)22:10:11 ID:1DI
>>241
「あらあら、仮装だと思ってたのにホンモノに当たっちゃったのね。こんな子でも成れるようになったなんて、技術の進歩を感じるわぁ」

そりゃこれでも吸血鬼、そこんじょそこらの魔法使いに比べれば魔力の持ち合わせはそれなりに多い自信はある。
ただ彼女の場合は魔法に関してはそこまで出来るほうではないのである。バリエーションならこの魔女の方が間違いなく多いことだろう。

「その呼び方……やっぱり本職ね。やっぱりこの町は面白いわね」

大きな羽を折りたたみ、コートの中へ収納されていく。これでパッと見は普通の人間っぽくなっているはず。
それでも流石に頭の羽と肌の白さが際立って、人外であることを強調する。周囲の人々が避けていくのが何よりの証拠。

「あらそう、じゃ遠慮なく……」

ことり、ことりとブーツの音を鳴らしながら一歩一歩プシュテへと歩み寄るアマンディーヌ。ガタイはいいので威圧感が割と出ているだろうか。
ゆっくりとした足取りで進んでいき、彼女の目前まで進んだ時、手を彼女の方へとそっと差し伸べて……。

「はい、約束通り。アナタの方は何をしてくれるのかしら、可愛い魔女さん?」

籠の中のお菓子を一つだけ手に取って、口に入れるのであった。手にしたのは一枚のクッキー。小さな歯型が残る。
こちらは受け入れ態勢が整っている模様。彼女の魔法を楽しみにしているようで。
243プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/25(水)22:33:21 ID:2Qx
>>242

「どうか命だけは・・・・・・はっ!私は何を!」

思考のせめぎ合いに破れいつの間にかお菓子をあげてしまっていたプシュテ。
気がついたときには魔女の面目丸つぶれである。
通行人からも気の毒そうにクスクスという声が聞こえ、青白いそばかす顔が思わず真っ赤になる。

「ええい・・・・・・あまり魔女を舐めたマネしてると酷い目見るわよ!フモッフ・モファカ!」

魔箒を振るい、何やら呪文を唱えた様子のプシュテ。魔箒が緑色に光りだす。
ごおおお、と大量の羽毛が何処からともなく舞い上がり頭上で大きな群れを成し、おもわず通行人も慌てふためく。
そして、それらは全てアマンディーヌに纏わり付き、半分以上は服の中へ入り込み暴れ出した。
胸やら脇腹やら羽根の付け根やらをこれでもかと執拗に攻め立てる。

「ははは!小一時間はくすぐり地獄を味わうがいいわ!」

身動きが取れないとタカをくくっているのかプシュテは余裕ぶっこいている様子だが、果たして・・・・・・?
244アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/25(水)22:59:11 ID:1DI
>>243
「ふふっ、魔女にしてはちょっと怖がり過ぎなんじゃないの? ワタシみたいなのがそんなに珍しかったかしら?」

クッキーの残りを口に押し込み、両手を広げて準備万端余裕綽々、と言わん表情で待ち構えるアマンディーヌ。
魔女といった、比較的己と近い存在を見つけるとついついちょっかいの一つや二つを加えたくなるのは、彼女本来の性格から来るものか。

「……? キャン! なかなか面白いことしてくれるじゃないの」
「でも、ちょーっとインパクトが足りないんじゃなくて?」

突如頭上より現れる大量の羽毛。ヒト一人埋め尽くすには十分なそれらはあっという間にアマンディーヌを取り囲んでいく。
敏感な場所を刺激されたのであろう嬌声が漏れるがそれもつかの間。
大量の羽毛の中から黒く、大きな蝙蝠の羽が突き破るように現れ、大きな風を巻き起こす。
ひとたび吹けば、彼女を覆っていた羽毛は翼の風圧によって吹き飛ばされ、彼女の周囲に広く、細かく舞い落ちる。

「面白いモノを見させてもらったわ。随分と変わった魔法を使うのね」
「さて、ワタシが誰かはもちろん知ってるわよね。だったら、何を糧にして生きているか、っていうのもちゃーんと知ってるのよねえ……?」

大きな翼を翻らせ、先ほどと同じく、ゆっくりと一歩ずつプシュテへと向かっていく。
近づいたならば、両手を大きく広げて彼女の身体を拘束しようと掴みかかることであろう。
もしその手に抱かれたのならば……何を行おうとするかはわかるはず。彼女が賢明な魔女であるならば。
だが心配することはない。周囲からの目はアマンディーヌの翼によって遮られているはずだから。
245プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/25(水)23:26:59 ID:2Qx
>>244

「その陰気臭い服を脱がしてやるわ!かくごー!」

高密度の羽毛が縄のように固まってアマンディーヌの服を脱がしに掛かる。
が、それもつかの間の話だった。ボフン!と魔力は上書きされ、後には力なく羽毛が舞い落ちて消える。

「―――で、ですよね・・・・・・」

いともあっさりと羽毛の塊を弾き飛ばされる。
魔力の差はそう簡単に埋められるものではない。小手先で上回っても絶対的な魔力量はどうしようもない。
そのままずずいと距離を詰められ、ガシッと身体を掴まれる。

「ひーっ!ゴメンナサイ!調子に乗りましたぁ・・・・・・」

彼女の体はローブの上から掴んで始めて分かる病的に華奢な身体。魔女らしいといえば魔女らしい体系。
くい、と顎を上げさせ、ローブの首元を空けさせればまだ少女らしさを残した青白い肌が露になる。
震える脇腹や耳を下から撫でてやると、さっきの威勢が何処へ行ったのか子猫のような声が抜け、青い目にうっすら涙を浮かべている。

「や、やめて・・・・・・やっ、魔女の血なんておいしくないわ・・・・・・」

それは実際に食して見なければ分からないというものである。
少なくとも人間の血ではあるのだから。
246アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/25(水)23:50:56 ID:1DI
>>245
「大人しくしてれば可愛いものね。ワタシを掌握しようだなんて100年、いや500年早いのよ」

この吸血鬼が言うと比喩に聞こえなくなるのが恐ろしいところ。でも本人に指摘すると命の保証はできない。
これで勝負ありだろうか。勝ちを確信した彼女は悠々自適にプシュテへと歩み寄る。

「つーかまえた。魔女の血っていうのはいい味するの。ワタシもお気に入りの一つでね」

少々強引に掴み上げたプシュテの身体を品定め。
いざ実際に触診して見れば一般的な少女と相違ないそれ。露わになった若々しい肌からもよくわかる。
若い少女から頂く、ということに若干の抵抗を感じるものをあったが、それ以上に魔女の血という希少な代物を頂ける、という期待が上回った。

「痛くないようにするから安心なさい。でも最初ぐらいは我慢なさいな」

流石にアマンディーヌも公衆の面前で行為に勤しむ気はない。そのための自前の翼。プシュテの姿は翼の中へと入り込んでいる。
舞台は整った。その時は刻一刻と近づいていく。

「いたずらしていいのはいたずらされる覚悟のある者だけ。ワタシは除くけど」
「では、いただきます……」

二人の呼吸音が簡易に作られたドームの中に響く。
隙間から漏れる薄明りの中、キラリと輝く鋭い牙が、プシュテの首元へと突き立てられんと迫る。
247プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/26(木)00:15:17 ID:Ej7
>>246

「やっ、うそっ、やめてぇっ、やぁぁあーー・・・・・・」

つぷ、と容易に柔肌を貫いた牙。そのままちうちうと吸われる珍品、魔女の血液。
やはり魔女だけあり、ふんだんに魔力の乗った濃厚な魔族好みの味だ。
どちらかというと晩酌につまみたい味だろうか。チーズなどに合いそうな赤ワイン系の芳醇さである。
どこかの吸血鬼は好みの血を持つ人間を館に監禁して養殖するというが・・・・・・

「あっ、あっあうっあっ」

痛みに反応してぴくぴくと身悶え、苦しげな吐息を上げながら下半身が身じろぐ。
しかしやはり美味なのか首元から結構な量の血を吸われ、脱力し切ってされるがままになってきた。
ただ呼吸だけが規則的に魔女の胸を上下させている。

「・・・・・・っ・・・・・・ひっ・・・・・・・」ビクビク

吸血が終わると、涎を垂らしてランタン通りの影に力なくへたりこむ。通行人からはもはや見えないだろう。
光の消え失せた怯えた瞳が涙交じりにアマンディーヌを見つめている。
秋の夜の寒さなのか、吸血鬼への畏怖なのか、恐らくはその両方が彼女の体を震わせていた。
248アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/10/26(木)00:44:55 ID:LZB
>>247
「んっ、んんっ……思った通り濃厚ね。魔力がたんまり入ってるのを感じるわ……」

魔女の血が美味であると言われる所以の一つは、何といっても普通の種族と比較して豊富に含まれる魔力の濃さであろう。
吸血鬼が身体を構成するには魔力は欠かせない。それが豊富に含まれているとなれば、これを好まない者は存在しない。
もちろんこの魔女の血は予想通りのお味であった。いつもより食いつきがいいのが何よりの証拠。
このままワインを片手に月見とでも赴きたかったが、そんな事をしては彼女の身体が持たないであろう。

「ふう……。ご馳走様。久しぶりにいい血に巡り合えたものだから、ちょっと頂きすぎてしまったわね」

しばらくして。決して少なくない量の血液がアマンディーヌの元へと渡り、ようやく吸血鬼は牙を彼女の肌から収める。
プシュテの首筋から流れ出る血を丁寧に舐め取り、己の指で軽く擦れば血はピタリと止まり、二つの丸い穴だけが残る。
これだけ質のいい血があれば、当分主食に困ることはないだろう。彼女の尊い献身により起こり得たであろう他の被害を押さえられたのだ。

「そんな顔しないで頂戴。ワタシはアナタみたいな子の怯える顔を見るのは好きだけど、それ以上の事をする気はないのよ」

羽によるドームの覆いを外し、倒れ込んだプシュテの身体を抱きかかえるように持ち上げる。
彼女の身体の震えが直に伝わる。無理もない、先ほどまで吸血されていた相手がすぐそこにいるのだから。
アマンディーヌはコートの前を外し、プシュテをコートの中に入れようとするだろう。中は人肌の熱で外よりはまだ温かいはず。

「お礼にアナタの家まで送ってあげる。遠慮はいらないわ」
249プシュテ◆FlUF1ZoVFw:17/10/26(木)01:11:34 ID:Ej7
>>248

「はぁっ、はぁっ」

少し血が戻り始めたとはいえ、まだふらふらする。魔法使いは体を維持する体力を魔力に依存している者も多い。
プシュテなど特に魔力に甘えて体を鍛えていない魔女の典型であった。

「あ、うぅ・・・・・・こんなに魔力を吸われたら飛べないわ、お願い・・・・・・」

暫く怯えた表情でアマンディーヌを見つめていたプシュテだったが、
血を吸われて最早箒に乗って飛ぶ魔力が残っていない事に気づく。
生殺与奪の権利は既に彼女の手中。どのみち断ることもできないだろう。

血とて無尽蔵ではないが、魔力が戻るまで家で養生させれば、また濃い血を頂けるはずだ。
彼女の身体があれば暫くは吸血鬼も満足のいく"食事"ができるのだろうが、できればこんな役回りは他の魔法使いに押し付けたい所。
翼・・・・・・もとい箒を奪われた魔女がディーヌに抱えられて月明かりの中を飛んでいく。

眷属達の爛れた夜が静かにふけていった。
250バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/26(木)21:01:10 ID:Ywh
「んお?」

突き抜けるような秋晴れの昼下がり。日差しは暖かいが、風はそれ以上に肌寒い。
薬品で染めたような青い髪。お坊ちゃまっぽい質のいいローブを纏った少年が収穫祭のパンプキンパイ片手に道すがら立ち止まる。

どうやら窓越しに見えた魔道具に目が付いたらしい。

「魔道具店・・・・・・こんな田舎にもあるもんだな、いささかボロっちいのが気になるが」
「まぁ看板を出してる以上は営業しているのだろうが・・・・・・ントゥミーシ」

「・・・・・・」

ギィィ、とお付きの使用人が軋みを立てるドアを開く。
今にも崩れそうな木造小屋といった魔道具店、『エルドリア』に久々の客が訪れた。
251 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/10/26(木)21:23:34 ID:NEQ
>>250
今は収穫祭の真っ只中。だがロッシェは店から出ずにいつも通り過ごしていた。
今日も客は来ないだろうなと思いつつ、カウンターで本を読みながら少し期待してドアが開かれるのを待つ日々。

「あ、い、いらっしゃいませぇ……っ!」

本に栞を挟んでから立ち上がり、勢いよく頭を下げる。
外見からは想像つかないほど店の内装は整頓されていた。掃除が丁寧に成され、商品が綺麗に陳列されている。
そして並べられている商品はその全てが、魔術の力を付与された代物である。

「え、えっと……」

頭の中でどう話をしようか、どう話を聞こうか、そんなことばかり少女は考えていた。
考えているうちに、練習はしていたのに頭が真っ白になって目がぐるぐる回って気分が悪くなる。
少女は接客が正直言って苦手だった。会話で主導権を握ったことがあまりないからだ。
252バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/26(木)21:36:42 ID:Ywh
>>251

「(ふん、小娘が店番か、田舎らしいといえば田舎らしいな)」
的なトカイっ子の嫌味ったらしい微笑みを投げかけつつ店内を物色する少年。
歳はロッシェと然程離れてはいないはずだが。
どうにもこの小僧は若くして貿易船の役職持ち(しかも使用人付き)とあり態度がでかいのである。
ロアールではあまり見ない褐色肌の使用人も鎖を引きずる音を立てながら店の片隅で大人しく待っている。

「水属性が多いな・・・・・・店主は水属性か?」
「ポーション濾過機をこの前壊してしまったんだよな・・・・・・ああ雷検針の代え針も欲しいな・・・・・・」

ぶつぶつと独り言を並べながら店内を物色する。
時折腹部に隠した触手が蠢くのが見えるかもしれないが、普段はそうウネウネと見せびらすものでもない。
少しお腹が膨らんでいるな、くらいにしか見えないだろう。
ローブは所々に魔石の装飾が施されており見た目だけは品のよさそうな佇まいの少年だが。

「ふむふむ、綺麗にしてあるじゃないか、店主は外出中かなお嬢さん?」
253ネロ◆auhGCOVu..:17/10/26(木)21:47:15 ID:Mqn
賑やかな通りから少し外れ。
狼の被り物をしたネロがちょこんと座っていた。

(話には聞いてたけどすごい騒ぎだなぁ)

歩いているだけで持っていた篭に食べ物が次々に放り込まれ、一杯になったので
とりあえず小休止がてら消化している。

(ミル爺は「楽しんでこい」なんて言ってたけど、
正直どう楽しめばいいのやら……)

そしてこの仮装も内心、かなり恥ずかしかった。
254 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/10/26(木)21:50:33 ID:NEQ
>>252

(うぅぅ……奴隷なんて連れて、この人絶対怖い人だ……)

使用人の見た目から奴隷であるということは簡単に察せられる。少年を怖い人だと思い込んで、おどおどしながら少年を見つめる。

「ひっっ!?」

少年の体から触手のようなものが見えた……ような気がした。悲鳴をあげそうになった自分の口を慌てて抑えてその場に屈み込む。

(今のはまぼろしまぼろしまぼろし……)

機嫌を損ねるのはとてもまずい気がする。なんとか落ち着いてすぐに立ち上がり、何も悪いことはしていないのにまた頭を下げてなぜか謝る。

「店主は私です。ご、ごめんなさい……お客様のお眼鏡に適うものがあるかは分かりませんが、全てお安くしますので……」
255マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/26(木)22:00:11 ID:LZB
>>253
露店が表を連ねる町の通り。不断な個人の家で商売に精を出す人々も今日のこの日は出張版。
皆思い思いの品物と少しばかりをお菓子を持ちより、この収穫祭を盛り上げる。

さて、露店が立ち並ぶ中、少しばかり奇妙な店が一つ。
広げられたシートの上に並ぶのは、ネックレスや指輪と言った小物から少し小振りな箪笥から何が入っているかわからないような大きな壺まで。
とにかく様々な雑貨がとても乱雑に置かれていた。

このよくわからない店を構える主人はそのシートの奥。
ハンチング帽を被り、呑気に腕を頭の後ろに組んで座る、品物と同じくらい怪しい青年。

ふと退屈そうに店番していると、一人の子どもの姿が目に入った。
狼の可愛らしい仮装をした子。今の収穫祭が行われている中では割と見かけるポピュラーなモノである。

「やあやあそこの狼の子。ちょっとばかり見ていってはくれないかな?」
「キミの気に入る品がここにあるかもしれないよ。損はさせないよ、きっとね」

何が気に入ったのかはわからないが、通りの外れにて休憩している子を手招きして呼び寄せる。
256ネロ◆auhGCOVu..:17/10/26(木)22:12:31 ID:Mqn
>>255
不意に、自分に向けた呼び声が耳に入る。

(狼の……ボクのことだよな)

通りにも様々な出店があり目が回ったものだったが、
直接お呼びが掛かるとなるとある種の興味が湧かないでもない。

「お土産になるようなものがないかな」

ネロは食べかけの棒キャンディを携えて、、
誘われるがままに露店へと近付いていった。

「う~ん……」

キャンディをしゃぶりながら考え込む。
バラバラに散布された品々を見てもいまひとつピンとこないようだ。
物の価値がよくわかっていないせいもあるだろう。
257バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/26(木)22:14:10 ID:Ywh
>>254

「ああかまわんぞ、属性の検討くらいはつくから・・・・・・えっ店主?」

この使用人の少女とさほど変わらない見た目の少女が店主だという。
バージェスにはにわかには信じられなかったが、少女の顔を見たときはっとした。

「・・・・・・ああ!そういえば梅雨の何時だかにセルカークにビビってぶっ倒れた娘か!」
「ははは、気絶したキミをあの鮫男に担がせて宿屋に運んだんだ、そんなに怖かったのか?まあアイツでビビらない奴などそういないけどな」

思い出したように笑い、雨の日の事を思い出して話すバージェス。
ああ宿屋の代金は要らない、と前もって断っておいた。バージェスにとってはあの程度端金に過ぎない。

「お眼鏡と言ってもなあ・・・・・・まあ規格は同じようだが」
「それにしても珍妙な道具が多いな?これは何の魔具なのだ?」

「・・・・・・。」ニコッ

使用人は怯えている様子のロッシェを眺めていたが、目が合うと優しく微笑み返した。
258マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/26(木)22:30:35 ID:LZB
>>256
「そうそうキミキミ。この祭りを楽しんでるかい? そうだと嬉しいんだけどね」

ホイホイとやって来た子に品物を見せつけるようにアピール。
とりあえずよくわからないモノが適当に並んでいる奇妙な店であることは伝わるだろうか。

「イマイチ最近の子の趣味は分からないのだけれどね、ちょっと待っておくれよ……」
「――――うん、こういうのはどうかな?」

店主の座る椅子の近くにある大きいバックを漁り出す。
少し経って、中から取り出したのは手のひらに収まる大きさの箱。周りには明らかに何かあるだろう格子模様の細工が施されている。
触ればわかるだろうが、スライドさせれば木目が動く仕組みだ。明らかに何か裏があると考えていい。

「どうだい、ちょっと持ってみてみないかい?」

狼模様の子に向けて、その箱を放り投げる。うっかり落としても壊れないだろうが、木目が外れる危険性はある。
259 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/10/26(木)22:39:29 ID:NEQ
>>257

「あ、はい。まだまだ駆け出しですけど……」

驚かれるのも無理はない。自分はまだまだ未熟で、とネガティヴに思考していると少年はなにかを思い出したようで。

「……?あ、あの大きな人の知り合いなんですか?怖かったといいますか、えと、初めて見た種族だから驚いただけで……彼に私が謝っていたと伝えてくれたら……なんて……」

あの人を傷つけてしまったかもしれない。そう思えば罪悪感を感じて、彼に謝りたくなった。いつか直接謝りたいが、あの人とはまだうまく話せる自信がない。

「そ、それはミストボトルです。濃霧を発生させる魔道具で……ええと、臭いや気配も遮るので魔物相手に逃走や奇襲をしたい時に役に立つかと……」

瓶の中に満杯の水と、その中に特殊な文字が彫られた金属片が入っている。

「その瓶を霧を発生させたい場所に投げて金属片が空気に触れると魔術が発動し、水を満たした瓶があれば金属片は何度でも再利用が可能です……」
260ネロ◆auhGCOVu..:17/10/26(木)22:51:00 ID:Mqn
>>258
「ええ、まあ……」

祭りに関する質問には卒なく答えながら
ネロなりの品定めを続ける。

ここにきて小綺麗な鉱石の宛がわれた指輪を見つけ、
少しばかりそれにに目を奪われていると、

―――次に顔を上げたときには面前に木箱が迫っていたのだった。

「うわわっ!?」

気付かぬうちに自らに向かってくる物があるというのは怖いものだ。
とっさに身を構えた結果顔面にヒットすることは免れたが
木箱はネロの手首あたりに当たって地面に落ちてしまった。

ついでに声を上げた拍子にくわえていたキャンディも一緒に……勿体無い。
261バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/26(木)23:01:49 ID:Ywh
>>254
「心配は要らんよ、あれは魚人族でもとりわけの大男でね」
「ま、兵長は人を震え上がらせるのが仕事みたいなものだ」

海の荒くれは船員だけ顔見知りなら十分だ。洋上には敵が多く、用心棒はゴツければゴツい程良い。
まぁ、お陰で陸での付き合いが不便なのも含めて海の男と言うべきか。

「ふむ、再利用可能な煙幕弾ね、狩りには使えそうだな・・・・・・ふむ、キミ中々分かる口だね」

連金術士と魔具師、通じ合うところは色々あるのだろう。同類を見つけてニヤリと笑う。

「さて、お幾らで?久々の魔道具店だ、色々買っていこう」

数個のミストボトルに、錬金術に使う水属性の魔石や水晶なども纏め買い。
やけに羽振りがいいが、海を跨いで商売をする者は多利多売が基本。殆どは業務用だろう。

「私はコスタ・ノエの貿易船・・・といえば分かるかな?船で錬金術師をやっているのだ」
「船で運ぶ獣を診たり、貿易素材の目利きもしている。全て生命連金の秘術による叡智よ」

そう力説し広げた腕の袖から、ぬろっとした触手が見えた気がしたが、たぶん気のせい。
262マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/26(木)23:15:10 ID:LZB
>>260
「ああー……ちょっとキミ困るよ、モノは大事に扱ってくれなきゃなあ……」

その大事な商品をぶん投げた本人が言う事ではないが、それはいったん置いといて。
地面に落ちてしまった木箱は少し鈍い音を上げて転がる。周囲には木目を形成していたのであろう破片がいくつも転がっていた。
つまるところ壊れてしまったわけだ。これでは細工もへったくれもない。

「これは僕の知る内で最も素晴らしく高尚な芸術品の一つだったんだが……、困ったなあ」

椅子から立ち上がり、散らばった木目や部品を拾い上げる店主。その顔には悲しみの表情がまじまじと挙がっていた。
この時点で仮にも客を堂々と放棄して自身の私用に当たっている時点でどうなのかと言う話だが。

「ま、壊れてしまったモノは仕方ない。また良いモノを探すことにしよう」
「そうだ、せっかくだからこれをキミにあげようじゃないか。なに、遠慮はいらないよ」

先ほどまで拾い上げていた木箱の木片を狼の子に差し出す……というよりは押し付けようとしている。
パッと見、ゴミを押し付けているようではあるが、実はそういう訳でもない。
破片の中にキラリと光るモノがある。先ほど見ていた鉱石で装飾された指輪と似たようなモノだ。恐らくこの木箱の中に入っていたのだろう。
この店主がこの事をわかって差し出したかどうかは定かではないが、気づいたのであれば損はないかもしれない。
263 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/10/26(木)23:26:48 ID:NEQ
>>261

「……やっぱり見た目に違わず実力も凄いんでしょうか」
「あ、ありがとうございます!ではこの金額でどうでしょうか?」

あの見た目通りの腕っ節なら負けなしだろうと思う。そして少女が提示した金額はやはり安く、少年はかなり徳をしただろう。
少女は久しぶりに纏まった収入が入ってどこか嬉しそうな様子である。

「え?あの船の人なんですか?私はコスタ・ノエにはあまり行かないんですが、その船のことは気になってたんです。
その秘術のことも少しお聞きしたいな、なんて…」

少年の話には興味があるようで、少女にしては珍しく積極的である。
だが見えてしまった触手に一気に顔を青ざめさせて、震えた手でそれを指差した。

「そ、そそそのぅ…!ぬめっとしてるものは……?」
264バージェス◆FlUF1ZoVFw:17/10/26(木)23:54:52 ID:Ywh
>>263

「そりゃあ勿論。力自慢の水夫が何人束になっても敵いっこないね。見た目に違わずバケモンだよ」
「・・・・・・ほう?生命連金に興味がおありで・・・・・・!同志を歓迎するよ・・・・・・」

にぃぃー・・・と普段の彼を100倍陰険にしたような気色悪い笑みを浮かべる。
服の隙間という隙間からから触手が這い出し、起用にローブのホックを外していく。

「生命連金は名の通り、生命を意のままに操る錬金術・・・・・・」
「どこぞの国じゃ異端と迫害されるが、それは誤りだ。ハーツショーカー様の叡智はやがて人類をもお救いになる」

そうして露になった彼のシャツの上からも生々しい縫い跡が露になる。
そう、触手は全て彼から「生えている」のだ。少年の腕から、腹から、無数の触手が生えてうねっていた。

「こいつは私の作った「連金生命(ホムンクルス)」でね・・・・・・一匹一匹が魔力を持つかわいい使い魔さ、全身に50匹は「縫いつけた」かな」
「君もどうだい、自分だけの、新しい生命を、独り占めできるんだ・・・・・・」

ぬろぉっ、と細かい突起がロッシェの肌を掠める。極太の赤黒い触手が何本もうねる。
という所までけしかけて、さっとローブを羽織りなおす。あくまで同じ魔を扱うものとして勧誘したまでのようだ。

「ふふふ、このロマンが分かるのはとても喜ばしい。
私はバージェスと言う。港に船が留まっているときは私の名で入れて差し上げよう、魔道具の材料も色々あるぞ」

「(ヘンタイだ・・・・・・)」

使用人にこれでもかと軽蔑の目線を投げかけられながら、バージェスは大雑把に銀貨8枚ほどの会計を済ませる。
それと、バージェスの記した連金文書の一ページも手土産に、と置いていった。ネズミに耳を生やす錬金術が記されている。
カランカラン、と、再び閑散としたエルドリアに、寂しく鐘だけが響いていた。
265 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/10/27(金)06:21:54 ID:zfG
>>264

「……うぅ、その、お手柔らかに……」

少年の恐ろしい笑顔、壁を背に少女は表示を引きつらせたまま腰を抜かしてズルズルとへたり込んだ。

「非常に魅力的ですが、ちょっと遠慮しておこうかなって……っ」

少年の体の縫い跡を直視できずに目を背けて、近づいてくる触手に意識が遠のいていく。
いつの間にか少女は床に横たわっていて、目を覚ますと少年とあの奴隷らしき子は居なくなっていた。
立ち上がって銀貨を集め、少年が置いていったであろう文書を手に取った。
自分があの少年のようになるのは嫌だがその内容にはやはり興味がある。

「やっぱり私に接客なんて向いてないよ。お客様を前に気絶するなんて、店主失格だもん……」

今日は疲れたので店を閉じることにする。
店じまいを済ませてカウンターにうつ伏せになると、少女は失敗ばかりする駄目な自分をうじうじと責め始めた。そうしていると悲しくなって涙が出てくる。
ただしくしくと涙を流す音が聞こえる独りぼっちの店内。泣き疲れて眠るまで泣いて、少女は翌日をベッドの上ではなくカウンターで迎えてしまうのだった……。
266ネロ◆auhGCOVu..:17/10/27(金)17:59:45 ID:kNB
>>262
「あ……えっと……ごめんなさい」

とりあえず謝ってしまったが、ネロとしては正直困ると言われても困る。
そんなに価値を認めている品物をよそ見している人に投げるかね普通。

かと思えば店主は拾い集めた木片をこちらに差し出してきている。

「え、ボクに?」

ネロの困惑が表情にまであらわれる。
気に召していたものも形を失えば途端にゴミ同然……ということだろうか。
対面の男とその価値観に、薄気味悪さを感じていた。

それでも木々の合間に光る物体を見逃すことはなかった。
どうやらこれまた綺麗なものに違いない。

(何か買うことになるよりはここで貰っておくほうがいいかな)

「それじゃあ」

残骸+αを受け取るとすぐにその手をスボンのポケットへ。

「代わりと言ってはなんですがお好きなのをひとつどうぞ。こんなに食べきれないので」

そう言いながらネロは所狭しとお菓子の詰まった篭を差し出した。
飴玉から珍味にドライフルーツまで、この露店に負けないほどバラエティに富んだ中身だ。
267レクス◆L1x45m6BVM:17/10/27(金)19:05:11 ID:dJS
収穫祭まっただ中、仮装する人々が集まる通りの端。
頭の上に角のついたヤギに似た骨のような被り物を被り、身体の各所に巻かれた長い布と毛皮、身を包む紺色のマントで仮装をレクスはしていた。コンセプトがごちゃごちゃしてるが。
そのレクスは家屋の窓に映る自分を見て、うーむと唸っていた。

「……やっぱ本家ってすげえな、まったく敵う気がしねえわ……」

獣の槍も本日は穂先に布を巻かれた上で先が丸められた三叉の穂先を被せられていた。いよいよメインが分かりにくい。
以前ある相手を目にしたレクスはその相手がここに紛れてやしないかと思いながら手に下がる篭に蓄えられたお菓子と色々なごちそうに手をつけ始めた。

「あ、これうめえな。さすが収穫祭ってだけあるな」

鋭利な歯で焼き菓子を口にして、ほんのりとした甘みを堪能する。
268ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/27(金)21:14:02 ID:PYh
>>267
ひゅるるる。竜人の姿が映った窓が、まるで水面のように揺れた。
そこから現れるのは……死人の肌。ぬう、と青白く冷たい手が、レクスの頬に触れようとしていた。

「トリック……?オア…………?」

くすくすと窓の奥から聞こえるのは、少女の嘲笑。
霞のように薄ぼんやりとした声だが……彼はこの笑い声を知っている。
ずる。手に続いて窓から這い出てくるのは
、やはり屍の色をした少女の顔。
年の頃は15かそこら。長い黒髪に紅い眼をした彼女は、あの薔薇邸にいたかつての亡霊だった。
269レクス◆L1x45m6BVM:17/10/27(金)21:24:26 ID:dJS
>>268
固まっていた。窓が揺れることに驚いたのだろう。
頬の感触、鱗によってやや固いものとわかる。質問らしき台詞にお菓子に手を突っ込み――。

「…………と、トリート? ……おぅわ!?」
「お、おう、ロザリエか……ってどっから出てきてんだ!?」

聞き覚えのある声とはいえ、いきなりだと流石にびっくりするらしく、答えたあとに少し後退りした。
声と顔を結びつけて正体に気付くと、名前を呼んで渾身のツッコミをかました。
それから「んん?」とロザリエが出てきている窓の表面に触れていた。
270ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/27(金)21:39:51 ID:PYh
>>269
レクスが問いかけに答えると満足げに笑うロザリエだが……「よく出来ました」と言わんばかりの表情なのは、気のせいではない。
そしてそのままずるると窓の中から身体が現れ、ふわりと一度宙に浮き上がる。
……直後。家の中から絶叫。ここの家人はどうやら、幽鬼の類は苦手だったらしい。

「……ふん、お菓子をくれないからね。いい気味だわ」
「それにしてもトナカイさん、あなたったら随分どんくさいこと聞くのね?」
「亡霊がこんな芸当を出来ることくらい、子供でも知っていることよ?」

だって御伽噺に出てくるんだもの、と澄まし顔のロザリエ。
その後レクスの顔をまじまじと眺め……一言。

「……今日はヤギだったかしら?」

どうも会うタイミングがことごとく悪い。
いつになったらちゃんとレクスを竜人と認識するのだろうか、彼女は。
いや、確か1度はしっかり認識したのだが……忘れている。あるいは単に意地悪を言っているだけか。
更には何かを要求するかのように、レクスに向けて手をひらひら。トリックオア、だ。

ちなみに、窓にレクスが触れてもただの窓。
晩秋の空気でひんやりと冷えた硝子の感触が伝わってくるだけだ。
亡霊ならではの芸当、というのは本当らしかった。
271レクス◆L1x45m6BVM:17/10/27(金)21:49:19 ID:dJS
その後の絶叫を聞いて少しだけジトッとした目を向けるのであった。

「トナカイじゃねーよ。ああ、そういやお前亡霊なんだっけな……」

否定の言葉も多分届かないとは思いつつ一応。そしてかつてのロールブックでの出来事などから亡霊ではあるもののどこか生き生きしている様子のためその実感が薄れてることを再確認した。

ひんやりとした硝子を確認すると、感心したような息を吐いてから勘違いについて否定に入る。

「ちげーよ、仮装だ仮装。そもそもヤギだとしたらやベーだろ。お前はそのままなのか?」
「……亡霊のやるイタズラってのは興味あるけどなあ」

迷った様子が少し見えたが、突っ込んでいた手を手ぶらで出すのも憚られると思ったのか先程食べていたのと同じ種類の焼き菓子や甘い飴玉などが纏められた袋を掴んで取り出していた。

「ほい」

微妙に届かなさそうな高さにそれを上げてみるレクスだったが、浮遊が自由自在ならすぐに取れてしまうだろう。
272ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/27(金)22:06:34 ID:PYh
>>271
ジトっとした視線を向けられても、ロザリエ本人は涼しげな表情。
何度もロールブックで海賊に立ち向かっていたあたり、割と性格はお転婆なのかもしれない。

「……もしあなたがヤギなら荷物持ちとして雇ってあげようかしら」
「ふふ、ギルドマスターが重宝してくれそうね」

「それにしても……私のイタズラが見たいの、あなた?」
「んふ……じゃあ何をしようかしら。イヌとネコの頭を取り替えるっていうのはどう?」

※それはイタズラではなく猟奇事件です。
港のギルドの面々により少しずつ一般的な価値観を身につけつつあるロザリエではあるが、それでも時折子供らしい惨虐性が顔を覗かせる。
薄ら笑いを浮かべて話しているあたり冗談なのだろうが……一時期は本当に冗談ですまなかった時期もあったのだ。

「……ちょっと。荷物持ちのくせに生意気じゃあなくって?」

そして微妙に高いところに菓子を持ち上げられると、むっとした表情をするロザリエ。
背伸びをしてみるも当然手は菓子にとどかない。けれど、浮いて無理に取ろうということも今はしない。
あくまで相手が差し出すのを待つ姿勢だ。お嬢様育ち、というのがなんだか見て取れる。
273レクス◆L1x45m6BVM:17/10/27(金)22:17:30 ID:dJS
>>272
「紙の束とかは行方不明になるぞ? それでもいいか?」

ヤギは紙を食べるという噂をそのまま冗談に持っていく。

「見たいのは確かだがそういうイタズラはやめい。普通は差し出さなかった相手にやるもんらしいぞ?」

尻尾が布と毛皮の隙間から伸びてうねってる。軽く弾くぞ、と言わんばかりだ。
ジョークと取れはしても人によってはそう取らないかもしれないので、「見知った相手にしかやるな」とも言いたくなるが。

「荷物持ちが生意気じゃいけないってお決まりは聞いてないぜ? ロザリエお嬢? まあこれが俺の今のイタズラっつーことで」

歯がうっすら見える笑みを浮かべてから悪い悪いとしつつ、丁寧に手の上に置くように差し出すのだ。

「そういやお菓子はもう貰えたのか?」

今のところお菓子を渡すまで手ぶらにしか見えなかった彼女に気になって尋ねる。……回ったところを先程までと同じように回っていたとしたら成果0も納得するが。

そんな二人からやや離れた位置、頭を含めた全身を包帯にも似た長い布で肌がまったく見えないほどぐるぐる巻きにして、肩辺りにフード付きの短いマントを羽織った人影が目の隙間から紫色の目を光らせて見ていた。
274ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/27(金)22:41:17 ID:PYh
>>273
「……ギルドでやると面白いことになりそうね」

あの狼の少年は悲鳴をあげるだろうか。それとも、氷の塊でも飛んでくるのだろうか。
どちらにせよ楽しいことになりそうだ、と小さく笑うロザリエ。
このままでは本当に荷物係としてレクスを雇いかねない。ちなみに金を出すのはギルドマスターであるバーン氏だ!

「じゃああなたの尻尾とトカゲの尻尾でも入れ替えようかしら。それとも、ヤギの尻尾がお好み?」
「生意気な荷物持ちは頭もヤギの方がお似合いかしらね……ふん」
「ま、ちゃんとお菓子をくれたから許してあげないこともないけれど」

……といいつつ、既に物と物とを繋げるグローブをロザリエは所持していない。
口だけのでまかせなのだが、まあそれはそれ。
レクスからお菓子を貰えると、ツンとした態度を取りはするものの頬はしっかりと緩んで
いたりする。

「…………ふん、田舎町には貧乏人が多くて困っちゃうわ」
「みいんな、お菓子を出し渋るんですもの。葡萄パンのひとつだってくれやしないの!」

そして、菓子をもらえなかったことに対してはこんな言い訳。
緩んだばかりの頬は少し膨らみ、色の薄い唇はツンと尖る。
彼女は彼女なりに、この催しを楽しみにしてはいたのだろう。
ぷい、と機嫌の悪さを見せつけるかのように、レクスから顔を背け……ふと見た視線の先に、怪しげな紫の目を彼女は見た。
今はまだ、それがなんなのかは気付いていない様子、だが。
275レクス◆L1x45m6BVM:17/10/27(金)23:00:11 ID:dJS
>>274
「……確かに面白そうだが……怒られね?」

実行したら主にレクスが。一応歳上だから仕方ない。
しかし面白そうと言ってしまうあたり考えには幼い部分がちょっとだけあるようだ。楽観的で居られるのは幸運だろう。

「やーめーろ、レクスじゃなくて最早別人になっちまうだろ」
「寛容なロザリエお嬢に感謝感謝」

仮にもし、実行したらしたできっと横でメーメーとやたら大きく鳴き続けるのが誕生するだろう。ホラーには良いかもしれないが間違いなく表に出したくはない。
緩んだ頬を見せるロザリエを見るとレクスの頬も自然と緩んでいた。鋭利な歯がチラリと見える。

「まーそのあたりは運の良し悪しだな。家の中より外で回った方が集まるかもな。……さっきみたいに出てたならなんとなく相手の気分もわかるけどな」

背けてしまったロザリエの頭に手を置こうとするレクスはたまたまと言い聞かせようと。
とはいえ、確かに亡霊そのままに出てしまうと驚いてそれどころではない人も居るかもしれないのだ。お菓子を貰えないロザリエも不憫なのが少し残念と思いたくなる。
篭の中にはよーく見ると葡萄パンも入っているが、今のロザリエにこれに興味を持つか否か。

「ん? どうした?」

レクスがそう聞いたその時、既に紫の目を光らせる人陰はその歩みを始めていた。素足とも履き物とも言えぬ足音を立てて、頭の布の口部分を開けていやに揃った歯を微笑みで見せつける。
カラン、とその人陰が背中に手を回して取り出したのは古びたランタン。それに灯りを点す余裕を見せつける。もし、ロザリエに同種を感じるなにかがあったなら、同じとは言えずとも近しい雰囲気を感じるだろう。


『(ケケケ、前のトカゲに新しい子だねえ……これは楽しみ楽しみ……ケケケ♪)』

スケルトン、カボ・ビアンコは非常に厄介な考えを浮かべていた。
276ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/28(土)22:12:06 ID:Vw6
>>275
あなたがね、と愉快そうに返すロザリエ。
人が困るのを見て楽しむのは、生まれ持った気質なのか。それとも単なる年相応の悪戯心故か。
だが笑って答えているあたり、今のところはまだ単なる冗談で終わりそうだった。

「あら、永遠に許してあげると言った覚えはないわ?」
「何か無礼なことを少しでもしようものなら、そのご立派な角から山羊のものに変えてあげるんだから」
「それにしたって……あら、葡萄パン」

頭に手を置けはする。拒絶はしない。
我儘なところがあるロザリエだ。拒絶をしない、ということは、受け入れられていると考えてもいいのだろう。
言葉では生意気なことを言っているが、それが本心だと思うかどうかはレクスの捉え方次第だった。

そんなやりとりをしながら、菓子の入った籠やら、もらった菓子やら、或いは怪しげな男を交互に見ているロザリエ。
菓子も気になるが、男の方も気になる。それが自らと同じ幽鬼の気配を漂わせているとなれば、尚更だ。

「…………ふふ」

そして――笑い声だけ残して、ロザリエが消えた。
袋に入った菓子と飴が、静かに地面に落ちる。
笑い声を置き去りにして、影が地面を走って行く。
収穫祭の喧騒に紛れた影はそのまま真っ直ぐ男の方へと伸びていき……

「トリック…………?」

スケルトンがロザリエに気付いているのなら、そこまで驚くことではない。
だが、そうでないのなら。いきなり、地面から屍体の肌色をした少女が出てくるのだ。
わざわざかくんと首を傾け、四肢の力はだらりと抜く。
……驚かせ方に問題がある、というのは未だ学んでいないらしかった。
277レクス◆L1x45m6BVM:17/10/28(土)23:26:11 ID:oTc
>>276

ダメじゃねえか、と愉快な調子にこれまた愉快そうな調子で返していた。

「さらっと怖いこと重ねんな!? 意外とこれ生える時痛かったんだかんな!?」
「ん? これもか? ……あり?」

行動に拒絶のものがないためその行為は続くものの、角の取りかえっこには真偽がどちらにしてもびっくりした様子だ。
驚かしの腕前評価があれば好評価になってくれると思えるほどだ。

葡萄パンという呟きに手を離して、まだ欲しいか? と暗に聞きながら篭に目を向けた時、ロザリエはその間に消えてしまっていた。

がさ、という菓子の袋の音が発生する頃、幽鬼の存在はあからさまに反応を見せていた。立ち止まっているその姿、一見すれば狼狽えているように見えるだろう。
レクスも、ロザリエの名を呼んで捜そうとしているところでこの幽鬼の存在に気付いて警戒をし出す。

『おぉう? ……オア――』

まるで生気を持つものを妬む幽霊のような出で立ちで地面より現れるロザリエにスケルトンは一歩後ろに下がった。レクスもまた驚いている。
――が、その後にスケルトンは片膝をついて、その顔をロザリエにしか見えないように俯かせると――布を粗く掴んで下げた。

『トリィートォ……?』

当然、現れるのはどこか笑顔を思わせる完全なる骸骨の顔。紫色の光が眼窩にあること以外はまんま人間の頭骨であるそれがロザリエの間近で晒された。
 
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278ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/29(日)13:25:11 ID:yT3
>>277
骸骨と亡霊。互いの時が一瞬止まる。
まさか襤褸布の下から骸骨が現れるとは思っていなかったらしい。
赤みを灯したロザリエの目が、驚いたように僅かに大きくなるが……

「…………なにこれ、動く骸骨?」
「あなたそこらの凡夫が使う魔術で動いているとか、そういうことはないわよね?」
「トリックもトリートもしなくていいから、私あなたが欲しいのだけれど――」

驚きはするが、なんと好奇心の方が優ってしまった!
なにせ薔薇屋敷で日々ネクロマンサーよろしく死体を弄り倒していたロザリエ。
自立した意思を持つ死体、というものが素晴らしく面白いものに感じるらしい。

奴隷だのメイドだのにまったく抵抗を感じないらしいお嬢様。
抵抗がないのはいいかもしれないが、人の意見はまるきり無視でとんでもないことを言い出すのはいただけない!
おまけに彼女は、とりあえず気になることは試してみる性格。
挨拶代りと言わんばかりに、スケルトンの眼窩に手を突っ込もうとする!
279レクス/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/10/29(日)14:04:38 ID:kvy
>>278 

『何言ってんだいこの子は?』

流石の骸骨もその反応には目を丸くした。目玉ないけど。驚くところはそこなの? と言いたげだ。

『普通人の目の中に手突っ込めるかい? まあ無いんだけどね? そういうことじゃないんだよね、お嬢ちゃん?』

手が眼窩の中に突っ込まれても平然としてるぞ! 紫色の光に手が包み込まれてるような絵面になり、しかし中身は何もない空洞の感覚がよくわかるだろう。
と、その頃にやっとレクスも菓子を回収してから二人の近くに近付いてスケルトンの顔をロザリエ越しに覗き込む。

「おいおいロザリエ、何して…………あん時の骸骨!?」

『おんや、そういう君はあの時のトカゲ君じゃないかい、奇遇だねえ、ケケケケ』

「俺はトカゲじゃねえよ! いくら抵抗ないっつってもチャレンジ精神が過ぎるぞ!?」

恐らくロザリエが第二の試行を行おうとしたところでレクスは驚きながらもロザリエを抱えて離そうとするだろう。イマイチ敵意がスケルトンに感じられないため対応に迷ってはいる様子だが。
一方スケルトンはどこ吹く風、レクスをトカゲ呼ばわりしながら好奇心旺盛なロザリエに襤褸布を剥いで骨の手を見せつけて、歯を鳴らして笑っていた。

『ああ、そうそう、悪いけどお嬢ちゃんの物にはなれないねえ、あたしにゃ既に依代があるからねえ? ……しかし、お前さんももう少し勇ましくなったらどうだい?』

「骸骨に言われたくねえよ!? つかロザリエもこいつ連れ帰ったとしてどうする気だ?!」

ボリボリ、と身体の中から取り出した一見脚の骨を思わせる骨を食べ始めるスケルトンと、好奇心の塊過ぎるロザリエにツッコミを入れるレクス。
これらに行うロザリエの対応にスケルトンはどこか試すような目を向けていた。
280マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/10/29(日)14:56:36 ID:bay
>>266
「構わないさ。形あるものはいつかは壊れる定め、こうなるもの運命だったんだよ」

この男を一般的な常識で推し量ってはいけない。元からヒトとはモノの考え方が若干ズレているのだから。
元木箱を渡したのも価値がなくなったからなのかもしれないし、自身の知る最高の芸術のお裾分けを図ろうとしたからかもしれない。
実際のところ、店主の考えは本人にしかわからないからどうしようもないのだが。

「僕にかい? そう言うのならばありがたく頂くが……」

お菓子入りの籠を差し出され、少し困惑したように固まったが、意図を受け取ったのか中へと手を伸ばす。
しかし、彼がこの籠から受け取ったお菓子はほんの1、2個。それも数の多そうな飴玉程度で。

「僕は提供する側だからね、これは僕よりも他の子に上げるべきだと思うよ」
「ほら、これも一緒に持って行って楽しんでくるといい。でもこれは使い方を誤ると面倒なことになるから気を付けるといい」

受け取った飴玉を店先に置いてあるお菓子の詰まった籠に入れると、お返しと言わんばかりにその籠から別のお菓子を持って来る。
持ってきたのは蛍光色が目に痛い甘味の塊。手に取らずとも発せられる甘ったるい匂いが鼻につくことだろう。
店主の言葉通り、これはごく普通のお菓子ではなく、魔力の詰まった少々厄介なお菓子なのだが、果たして気づけるかどうか。

「しかし、キミのような男の子も小物を持っていくものなんだね。前に来たのも小物やアクセサリーを多く持って行ったし」
「まあ、ボクも好きだからやってるんだけどね」

ふと以前やって来た客の事を思い出す。彼もキミみたいに指輪を見てたんだよ、と言葉を挟みながら。
281ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/29(日)21:50:50 ID:yT3
>>279
「わあ、なにもないのね、空っぽの骸骨だわ」
「確かに何かに触れているはずなのに……魂のようなものなのかし……きゃっ」

べりりと骸骨から引き剥がされると、小さな悲鳴を上げたあと不満げにレクスを見るロザリエ。
更には非難の視線を向けつつ、不敬だわ、荷物持ちのくせに、魚の尾にしてやろうかしら……等々罵倒のオンパレード。
それでもスケルトンに対する興味は全くもって失せていないらしい。空洞に触れた感触を思い出すかのように、ぐーぱーぐーぱーと手を閉じたり開いたりしていた。
そしてレクスたちの問いには。夕食後のデザートでも語るかのように、楽しそうに答えるのだ。

「あら、依り代があるなら都合がいいわ。その依り代を見つけちゃえば、あなたは私のものになるのよね?」
「はあ……それにしても荷物係はオツムが山羊で困っちゃう。なにするって、遊ぶに決まっているでしょう?」
「感触がどこまで残っているのか、とか。どこまでバラバラにしたら大丈夫なのか、とか」
「あとはそうね、うん。頭の中の紫色も気になるところだわ。流石に荷物係も、そのくらいは気になるでしょう?」

……もしかして、見たことのない生き物全てに対してこんな反応をするのだろうか、彼女は。
だとするならば、大人しくあの屋敷で永眠してくれていた方が幾分か世の中は平和だったかもしれない。
282レクス/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/10/29(日)22:13:07 ID:kvy
>>281

罵倒のオンパレードに対してもはや悟りの境地とも見える表情で乗り切らんとするレクス。それを見たスケルトンもどこか気の毒そうな視線を向けてる。

『ケッケケケ、確かに依り代が手に渡るものならお嬢ちゃんのモノになってもなるかもしれないねぇ、渡るものなら、ね?』

「…………こんなことを言うのもアレなんだがお前ちょっとは自重しろよ……? 遊ぶ名目でバラバラにされてるとこ想像したらなんか不憫だわ」

よっ、とロザリエを下ろすと荷物持ちに関しては否定もすることもなく改めて警戒は隠さない上で骸骨の顔を見て問いに返す。

「……ま、確かに気になるぜ? それに加えて目もなけりゃ鼻もない、舌もないのにどうやって周りを見てるのかわかりゃしねえからなー」

『今のうちに言っとくけど粉々に砕かれでもしなきゃあたしゃ全部離れても死にゃしないよ、とっくに死んでるからねぇ』
『それにお嬢ちゃん? 好奇心は大事だけどあんまり無茶はいけないよぉ? あたしが幽霊を食べちまう悪魔ならお嬢ちゃんはとっくにあたしの腹の中さ』

お腹もないけどね、とケケケケと自分で自分の冗談に笑いながらもスケルトンはどこか諭すように言っていた。遠回しに自身の無害さも主張したのは退治されるのは御免だからだろう。
楽しそうに語るロザリエを見て呆れるレクスとはまた別方向からの指摘にどう思うだろうか。まるごと無視もありえるが。

『ま、お嬢ちゃんからあんまり目を離さないことだね、他の知ってる子らにも言っとくといいさ。あたしゃ他の知らぬ子を脅かしに行くからねぇ』

「お前絶対仮装要らねえだろ……」

あきれて言及するレクスはロザリエに先程の菓子の中に葡萄パンを加えた上で渡していた。

そしてカラン、カランと足音を鳴らしながらゆっくり背を向けるスケルトン、その背中は少し巻きが甘くなったのか、襤褸布が緩んで……肋の中の核が少しだけ覗いていた。これが依り代だと見たなら、先の発言にも納得できるだろうか?
何にせよ、まだまだ収穫祭を別方向から楽しむ気のスケルトンはそのまま近くの路地に入り込むことだろう。ロザリエからすれば実験動物の逃亡に見えることだ。
283ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/29(日)22:40:11 ID:yT3
>>282
子供扱いされていることも、諭されているかのような相手の口調もどこか気に入らなさそうにしているロザリエ。
甘やかされて育てられてきた、というのが彼女の表情からも見て取れるだろう。

「ふん、当然だわ。荷物持ちにしてはよく出来た答えだから、魚の尾は勘弁してあげる」
「それにしたって、どこまでも生意気な骸骨!幽霊を食べる悪魔なんて、そんなの」

いるわけないじゃない、とまでは言えなかった。
悪鬼を吸収する悪魔。そのような魍魎が出てくる物語を、生前に読んだことがあったからだ。

ぎゅ、と死の色をした唇を噛む。自分という存在が消えることへの恐怖は、今も昔も変わらない。
けれどそれを表に出すのは、15歳のプライドが許さなかった。
レクスがくれた飴の袋を開ける。紫の飴を口に放り込み、がりりと歯を立てる。
せっかくもらった葡萄パンだって、苛立ちから少し握りこんでしまっていた。

「……なによ。荷物係のせいで、骸骨に逃げられちゃったじゃない」
「ふん。あの骸骨。きっと依り代はあれね。寝ている時に見つけたらとってやるんだから」

「…………。ほら、私たちも行くわよ荷物番」
「あなたそれだけたくさんお菓子を貰えているのだもの。コツがどうせあるのでしょう?」
「教えてくれないのなら、悪夢を見せてやるんだから」

そして、スケルトンが2人の前から去り。拗ねたようにロザリエが口を開いた。
翻訳するのであれば……一緒に祭りを回ろう、とか。そういった意味になろうか。
彼女が素直という言葉を覚えるには、まだまだ時間が必要そうだった。
284レクス/カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/10/29(日)23:07:16 ID:kvy
>>283

「そうだな、逃げられちまったな、悪い悪い。……あいつ寝てる時どんな寝顔なんだろうな?」

拗ねる様子からここは自分のミスにした方が気持ちは楽だろうと踏んだ。
まだレクスも、ましてやロザリエも知ることはない寝顔と、彼の寝床。果たして棺桶に眠っている事実を他人が知るのはいつの話になるだろうか――。

「おう、ヤギ頭の荷物番で良けりゃあな。コツってもんかはわかんねえがさっきの骸骨が参考になるな」

ロザリエの様子から見てもここから出会った時の恐怖の幽鬼としてまた回ると不満が溜まっていきそうなことには想像するに難くなかった。
いつの日か、例え幽霊だとしても普通の少女のように振る舞えることが来るのを気長に待つことにしながら。

「まず普通に扉叩いたりするところからな? もしくは他にもいっぱい持ってる人から――」

普通なのかどこかちょっぴりこずるいような方法を教えながら先程ロザリエが出てきた窓の家とは違う家の前に行くところからレクスは始めて、挨拶からと。
ロザリエが扉を叩けばきっと中からは住人が出てきて、この祭の最中ではある程度来る理由が決まってるために用意した菓子を隠し持って出てくることだろう。
それからロザリエの聞き方次第で結果は成功にも残念にも変わるが、果たして――。
285ロザリエ◆55Rq1Tu8Bo:17/10/29(日)23:28:56 ID:yT3
>>284
寝顔も確かに気になるわね、とやはりまだ拗ねたようにロザリエは答える。
骸骨なんだから、目は閉じようがないでしょう?でも、それじゃあ周りが眩しくって寝れやしないわ…………

そんな他愛のない話をしながら、教わった通りに扉を叩く。
トリック・オア・トリート。お菓子をくれなければ、悪戯を。
お嬢様らしく丁寧なお辞儀をして……また、愉快そうに笑うロザリエ。
すうっと身体を透けさせる。菓子を持つ住人の手を掴もうとして、敢えて自分の手をすり抜けさせる。
「トリートはなにがいただけるのかしら」と満足げに笑うロザリエ。
薔薇邸の亡霊の、初めての収穫祭。彼女が知るべきことは、まだまだ多い。
286レクス◆L1x45m6BVM:17/10/29(日)23:40:00 ID:kvy
>>285

――住人はまずそのお行儀の良さに微笑んだ。笑ってそんなことを言う少女と来ればお菓子を渡さない住人など余程のひねくれものでもない限り居ないだろう。
そして、イタズラは怖いわ、なんて言いつつ渡そうとしたところで――すり抜けにびっくりしてしまうのだ。それはもうお菓子を取り落としてしまうほどに。
「こ、これで許してください」と言わんばかりに、想定とは非常に異なるだろう様子で渡されるクッキーや小さなケーキの入った袋はとても複雑なものに違いない……。

「……すり抜けは相手が意地悪してきた時にしとけ?」

後ろに居たレクスも、仮装のお陰で恐怖を煽る一要素になってることを知るのは少し後のお話であった。
287ネロ◆auhGCOVu..:17/10/30(月)22:43:15 ID:oPu
>>280

「わ……なんかすごいですねこれ」

ギヴアンドテイクの上からさらにギヴ。
色も香りも、その際立ちがネロから語彙を奪い去っていた。

とりあえず受け取り自分のぎゅうぎゅうの篭へ。
しかし店主に指輪に見とれていたことを指摘されると、

「あっ、えっと、ボクはその、プレゼントとかにいいかなって……」

自分の女々しさを勘付かれたのかと一瞬身を震わせ、
目を泳がせながら思い付きで弁明じみた文句をたれ始めた。

そして一通り言い訳を済ますと、

「ど……どうもありがとうございました」

ネロの足は一歩、また一歩と店主の男から遠ざかっていった。
気味が悪いだけでなく、虚を衝くような言葉も受けては限界だったようだ。

―――

(ところで使い方を誤ると……ってこれ、一体なんなんだろう……いや)

どうせロクなことにはならない。
そう思ってネロは不気味な男の影を断ち切ることにしたのであった。
288ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/31(火)20:18:44 ID:wnA
収穫祭も終わってすぐの夜、直後とあってか人の量はどこか少なく思える。
街中の光景にも多少の不精者がランタンが置きっぱなしにしてる程度だ。

その置きっぱなしにされてるランタンを目の前でジーっと見ているのが実体化したゴーストだった。

「火、点かなくなったわねー……誰も居ないよね?」

キョロキョロと左右だけ見て、こっそりランタンに自分の手を変化させた赤い火を突っ込もうとする姿、誰かに見つかるとかは考えてはいなかった。
289イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/31(火)20:37:38 ID:B2c
>>288
後片付けをしていた人々も帰路につき、往来の人の足が遠く時間。
途切れた生活音の合間に、重々しく水が滴る音が鳴る。
ゴーストの背後にいたのは一度見たことがある顔だろう。
先端を固く絞った布に、装飾が為された瓶をひっくり返して水を染みこませていた。
全て出し尽くされた空っぽの瓶を無造作に投げ捨てると、その直後に不気味な風切り音が鳴り響く。布を振り回しているのだ。
簡単鈍器の完成だ!

「大丈夫です。教会から貰ってきた由緒正しき聖水です。死ねッ!」

祭りの後に(勝手に)後片づけを始めようとする人物がそこにいた。
290ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/31(火)20:47:06 ID:wnA
>>289
火の音に負けず劣らずの風切り音、聴覚の謎はさておきゴーストにもばっちり聞こえていた。
不思議な音だなー、と思う暇もなく、何か殺気のようなものを感じてゆっくり振り向くと――鈍器を振り回すデストロイヤーみたいな人が居た(ゴースト主観)。

「私を滅する気満々じゃない!!?」

これにはさすがのゴーストもびっくりだ。頭巾の下にも驚きの表情がばっちりだ。
あわあわとしながらももし「破ァッ!」されようものなら幽霊特有の足のつかなさでギリッギリで回避することだろう。ランタンの生死はさておき。

「ちょっと待って!? 私そこまでされるようなこと何かしたかしら!?」

驚かしただけで滅されるとは思ってないので、ある意味仕方ないのかもしれない。ここ最近だとゴーストを超えるホラーな人が出てきたし。
291イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/31(火)21:05:13 ID:B2c
>>290
振りかぶり、全力で振るわれた布は景気がいい音と共にランタンを破壊する。

「外しましたか。やはりこういったことは慣れてないですね」

勢いで灯が消し飛び、カランコロンと転がるランタンをイルフィレールは足で受け止めた。
これが次のお前の姿だ!と言わんばかりの敵意を向けてゴーストの疑問に答える。

「むしろ悪意を振りかざす悪霊をのさばらせる道理はあるんでしょうか?」

そう言い切る表情には敵意が満ちていた。
292ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/31(火)21:12:36 ID:wnA
>>291

普段こそ人を驚かせて反応を楽しむお世辞にも趣味がいいとは思えないゴーストだが、この時ばかりは戦慄の一言に尽きる。
足の下のランタンと自分の姿を重ねて幽霊なのにゾクッとしたのは最早生前の恐怖が戻ってきたとしか思えない。

「い、いや確かに人の命を食べたとか病気にさせたとかならわかるわよ!? でも私そういうことはしてないからね!? ってか出来ないわよ!?」

驚かしてるだけの自分が退治されるとは考えていないようだ。とりあえず浄化される一例を挙げてみてそれと比較してください、と思っているようだが。

「そ、そもそも悪霊扱いは……えい」

イルフィレールが足で受け止めていたランタンをこっそり引っこ抜こうとした。ご自慢のポルターガイストで。
このままだと二撃目が飛んでくると思ったのだろう。生存本能はいっちょまえだ。
293イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/31(火)21:33:29 ID:B2c
>>292
急に足元のランタンを引き抜かれてバランスを崩し、悪霊だけを殺す布を手放してるフィレールは地面に倒れた。
息絶え絶え、震える腕で体を押し上げ、立とうとするも体に力が入らない。
ハロウィンのシーズンだ。仕事に仕事が重なり疲労も溜まっていたのだろう。
それに加えて慣れない激しい運動だ。体が悲鳴をあげていたのだ。

「私の素の状態は、立てば眩暈座れば鬱血歩く姿は死の行進」
「生者である私を超える能力を持ち合わせておいて、何も出来ないなどとよくも言い切れますねぇ!」

ゴーストの策は予想以上の効果を挙げたであろう。
おのれ悪霊め。
294ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/31(火)21:45:28 ID:wnA
>>293

思いの外効果覿面だった足元がお留守だぜ攻撃にゴーストは袖の中でガッツポーズをしてしまった。
奪い取ったランタンは証拠隠滅のために定位置に戻しておき、不精者が自分でやるのを願う。

「いやそれ生者がどうこうじゃなくて貴女が虚弱過ぎるだけじゃ? そこらの子供にも能力超えられてるじゃない」

疲労困憊、急な運動よりもまず本体に至らぬとこがありはしないかとゴーストは冷静に引き戻されてこれまたひんやりとしたツッコミに走ってしまった。

「じゃなくてさすがに大丈夫……? 転んだだけでこうなるなんて予想してなかったわ……」

ふわー、とイルフィレールの周りを回って様子を見ている。ぴと、と温度そのものがない手をイルフィレールの頬に当ててみようとしたりするなど、心配なのかそうじゃないのかはまだわからない。
295イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/31(火)22:04:36 ID:B2c
>>294
「せめて完全な状態であれば一般人程度には動けるはずなのにッ!」

嫌悪感は無駄に相手を過剰評価する。
ゴーストの伸ばした手を露骨に嫌がり顔を引いて避けた。
このままでは何をされるか分かったものでが無いと無駄な危機感を覚えたイルフィレールは筋肉の悲鳴を無視して、立ち上がるという偉業を成し遂げたのであった。

「運が、良かった、ですね! ええ、そうであれば、今頃貴方は、バラバラですよ」

ぜーはーぜーはー、と息を整えつつ、次がお前の命日だ、次こそは三度目の正直だ。
と決意を表明したのであった。
 
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296ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/31(火)22:14:57 ID:wnA
>>295
「それを完全体にしちゃダメな気がするのよ」

なんという自己評価の低さかとゴーストは不憫な子に向ける眼差しを頭巾の下から向けていた。
というか今やっと彼女が以前出会ったことのある少女だったと思い出すが、ここまで貧弱だっただろうか? と困惑すらしてしまう。

手を避けられるとつまんなさそうに頬を膨らませたのは気のせいではない。

「むしろ貴女の骨がバラバラにならないことを祈るわ……私幽霊だし祈ったらチクチクするけど」
「とりあえずこれで休みなさい? 私の運が良いならきっともらったこれも良いもののはずよ」

立ち上がり決意表明をする姿にぱちぱちと拍手を二回鳴らした。なんとなく不憫な扱いをしてる気がするのは気のせいではない。
そしてどういう構造なのか衣の下から棒の刺さった飴を飛び出させた。
それはポルターガイストの能力でふよふよと浮きながらイルフィレールの目の前に滞空するだろう。
受け取るも突っぱねるも無視するのもイルフィレール次第だ。
 
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297イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/31(火)22:28:53 ID:B2c
>>296
「どういう意味ですか……?」

と呼びかけた相手から送られた塩は砂糖菓子。
棒付きのキャンディーは二三度お手玉した後にイルフィレールの手の中に納まる。
怪しさから月に透かして眺めてみても普通のキャンディーのように見える。

悪霊などと言い放ったが言葉の節々から自分を心配している気がしないでもない。
一つ疑問が残るのではあるが……。

「入手先は?お金はどうしたの?」
298ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/31(火)22:36:12 ID:wnA
>>297

「意味もなにも……深刻そうだったし」

自虐にもほどがある宣言内容や評価ハードルの低さに不憫に思ったのが本音のほとんどである。
どこかで甘いものは元気が出ると聞いたし、だったら飴だ、という結論に至ったのだろう。棒付きのになったのはたまたまだ。
普通も普通の、甘い甘いキャンディーだ。

「昨日の夜中にトリックオアトリート? って言ったらもらえたわ」

人の真似をして菓子を受け取るお化けとは一体。そしてつまり一日は経っていることにはなる。いくら透明な包装があるとはいえ、どう思うだろうか?
 
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299イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/31(火)22:52:30 ID:B2c
>>296
「ふーん」

指先で棒を器用に回転させながら考える。
確かに有り得ない話では無い。
怪しいかの問題も技能を利用すれば解決できる。
毒物が入っていても砂糖だけを糸として取り出して再構築すればいい。
しか、問題はそこでは無い。

「貴方は子供と称しましたが私は子供では無いのです。これは返します」

指で弾き手元に収まったキャンディを手首を返してゴーストの元へと投げ返した。
悪態をついた相手から施しを受けること自体がプライドに関わる。
300ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/31(火)23:00:59 ID:wnA
>>299
投げ返されたキャンディーの棒を器用に袖越しの手で掴むと残念そうに包装を剥がしていた。

「体力とか子供より無いのに? 難儀だねー」

どこか話し方が子供になった気がする。
キャンディーをぺろっと舐めながら言う台詞はなんとなく矢印となってイルフィレールの身体に突き刺さりそうな気がしなくもなかった。
おいし、と呟くのもなにかを刺激するかもしれない。

「まあいいわ、私も貴女にそこまでする道理もないものねー」
「……そういえば貴女なんで私と見てすぐに攻撃してきたの? 誰かの使い魔だったらどうするのよ」

空いている片手で落ちてる聖水布をこっそり遠ざけさせようとしながら。もしその前に拾われてたりすればスカるだけだが。
301イルフィレール ◆pTPITQpM1Q:17/10/31(火)23:15:41 ID:B2c
>>300
「使い魔であることが免罪符になりませんよ。首輪をつけない主人の責任です」

踵を返して背後にいる筈のゴーストに言葉を投げかける。
お掃除は失敗。逆に汚す結果となったがここは戦略的撤退。

「そんな布でよければあげますよ。売り物になりませんからね」

と、恰好をつけてもそれはおためごかし。
兎にも角にも眩暈が酷い。ついでに寒い。
暖かい布団が恋しくなった。
302ゴースト◆L1x45m6BVM:17/10/31(火)23:23:45 ID:wnA
>>301

「まあそれもそうね、無断で滅して主人に怒鳴られても私には関係なくなっちゃうし」

ここは納得している。その後どうなるかはイルフィレール次第ということで結論付いたようだ。
ゴーストは別に誰かに命令されてやってるわけでもないし、誰かを主人にしてるわけでもないが、だからこそタチ悪いというのはお約束。

「あらそう? お水で洗い流せば何かに使えるかしら……? チクチクするのよね……聖水」

聖水を完全に抜き取らなければ色々出来なさそうだが、今のところは持ち帰る方針になったようだ。範囲ギリギリのところに浮かんでるが。

「じゃあね、えーと………………虚弱ちゃん。風邪引いちゃダメよ? 今度は平穏に会いたいわー」

ゴーストは不名誉極まりないだろうアダ名を勝手に付けながらふわー、とそのまま路地裏に消えていくことだろう。
布が遅れて路地裏に消えていくその姿はどこか間抜けだが。
303リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/11/03(金)21:46:04 ID:N4Z
収穫祭も無事に終わり、そろそろ本格的に冬支度に取り掛かる頃合いとなったロアール。
この時期になれば町を歩く人々の様相も厚着の人物が増え、厳しい冬の訪れを感じるこの頃。

「寒くなってきたなあ……この時期に山に入るのは大変だよ」

少し厚めの服を着た少女が一人、店の立ち並ぶ路地を歩いていた。
彼女の手にはいくつもの食料らしきモノが籠の中にギッシリと詰まっている。
どうやら買い出しに来ているらしい。このタイミングは収穫祭後ということもあり、どの店も品揃えはかなり豊富なのだ。

「ふう……ちょっと疲れちゃった。どこかで軽く休んでいこうかな……」
「座れそうな所は……あ、あったあった」

あまり体力のない少女にとって多めの荷物を持って歩くのはかなりの重労働。
町の広場にあるベンチを見つけると、荷物をベンチ上に置き、隣に腰掛けて一休み。
不意に吹き下ろしてきた冷たい風が身に染みる。両手を擦り、息を吹きかけて暖を取ろうと試みる。
304エイナ・スポッド◆.uq.8gH7ug:17/11/03(金)22:15:44 ID:Nc0
>>303

ベンチで寒さをしのぐ彼女は、ロアールの町を行く人々の中、ひときわ大きな体格の少女に気づくだろうか。
よくみずとも、少女の下半身、臍辺りから下がウマの体に置き換わっているのに気づくだろう。。所謂ケンタウロスという種族だ。

「はぁ……」

少女は困ったような表情でクリーム色の巻き毛を指先でいじると、ため息をひとつ。
そして周囲をきょろきょろと見渡すと、人々の流れを大きな体をよじりながらすり抜けて。明確にリリンのいるベンチのほうめがけて近づいてくるのだった。

「ねえ、ちょっと。聞きたいことがあるんだけど、いい?」

表情は困った様子を見せながら、その声音はどこか冷たさを伴うようなもので。
それが座っているリリンからしたらはるか頭上から放たれるものだから、意図せずとも威圧感を与えてしまうかもしれない。
305リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/11/03(金)22:33:01 ID:N4Z
>>304
フーフー息を吹きかけて手の悴みを治そうとしていると、ふと視界が暗くなる。
そして頭上から呼びかけられる声。誰かいるのだろうかと何気なく頭を上げる。

「は、はい。私で良ければですけd……」

声の主は予想以上に大きかった。そりゃもちろんこちらは座っているというのもあるが、それを踏まえてもその大きさは際立っていた。
予想外に勝手に感じている威圧感に呑まれて固まるリリン。
しかもその最中に見てしまったのだ。目の前の人物が一般的な人間ではないという決定的な理由、その身体を。
その姿は以前本で読んだ記憶のある亜人、ケンタウロスであることを、幸か不幸か思い出してしまっていたのだ。

「う、ウヒャーーーーッ!!!?」

驚きのあまり、座っていたベンチから見事にひっくり返り、うつ伏せに地面へとダイレクトアタック。
立ち上がるや否や、ベンチの傍にあった木の後ろに入り、彼女の視界から逃れるように縮こまる。
ドタバタのついでにベンチ上の荷物は落ち、中身のパンやチーズといった食材が地面に転がる。エイナの足元にもいくつも転がりこむことだろう。

「た、た、たたた食べないでくださいぃぃぃ……私なんて美味しくないですから、お願いですから見逃してぇぇぇ……」

一目見ただけでもわかるだろう半端ではない怯えっぷり。リリンは少々、いやかなり亜人が苦手であった。このような状態に陥る程度には。
306エイナ・スポッド◆.uq.8gH7ug:17/11/03(金)22:50:27 ID:Nc0
>>305

リリンの答えに安堵の表情を浮かべるが、それも一瞬。
叫び声とともにアクロバティックな動きで身を翻して逃げ去っていくリリンに再び困惑の表情を浮かべる。

「いや、食べないから……」

出身の集落では自分と同じ種族ばかりだったが、この町ではケンタウロスは相当珍しいようだ。
怖がられるのは本意ではない。それにこのままでは話もできないし。

「……仕方がないなあ」

呟きながら、両手を腹部、ちょうど人としての部分と馬としての部分の境界辺りに添える。
すると、少しの魔力的反応が起こると同時に彼女の体全体が緑色の光、そして風に包まれて。

それが収まるころには、ケンタウロスの姿はなく。代わりにリリンと同い年くらいの少女が立っていた。

「はい、これでいいでしょ?食べたりしないから戻ってきなよ。
 そうじゃないと、アンタのことは食べないけど、代わりにこれ食べちゃうよ?」

ぶっきらぼうな調子でそういいながら、先ほど地面に墜ちた食材を拾い上げて示してみせた。
307リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/11/03(金)23:10:10 ID:N4Z
>>306
「ううぅ……」

リリンは完全に怯えきっており、身を置く木の背後から離れようともしなかった。
先ほど転げ落ちた際に地面と接触したからか、顔や服には土が付いている。が、それにも関わらず怯えているのだから相当だろう。

そうしている内に木の向こうから聞こえてくる声、そして身体に感じる魔力の放出と優しい光。
恐る恐る木の後ろから顔を出すとそこにはもうあのケンタウロスの姿は無く、そこにいたのは自身と相違ない少女の姿。

「えっ……さっきのヒトは……? もしかして、アナタ……なの……?」
「あ、あの、食べられるくらいなら、持って行っても構わないんですけど……」

未だに少女に対する不審感も怯えも残っていたが、せっかく調達してきた食料に危機が迫っていたのならば仕方ない。
涙が溜まったままの眼をエイナに向け、半身だけ木の陰より出す。それ以上は、今のリリンには出来そうにもなかった。

「さっきの用件は何でしょうか……。食べるとか、言いませんよね……?」

今にもはち切れそうな心臓の鼓動を両手で抑えつつ、精いっぱいの声で話しかける。今日のあまりか声はあんまり出ていないが。
この二人を分け隔てる距離が、今のリリンのエイナに対する信用の表れか。
308エイナ・スポッド◆.uq.8gH7ug:17/11/03(金)23:28:07 ID:Nc0
>>307
「そう、私。さっきの姿が本当だけど、人の姿もとれるの」

その発言の通り、今のエイナはどこからどう見ても人間そのもの。
種族の違いなど外見からは見分けられないだろう。
リリンからしてみればなぜ最初からその姿でいないのか、という気分であろうが。

「え、いいの?じゃあパン頂戴」

リリンが木陰から出てこないのをいいことに本当に拾ったパンに口をつけるエイナ。自由すぎる。
どうやらお腹が減っていたようで、一口に頬張って咀嚼する。

「んぐんぐ……。そうそう。私、この町に来たばかりでいまいち土地勘がないから案内をお願いしようと思ったの」

言いながらリリンの隠れる木陰へ向けて一歩踏み出す。
どうやらエイナはリリンは単純に半人半馬の外見に驚いただけと考えているようで、今の外見なら怖がられることはないだろうと考えている節がある。
なので、リリンの警戒心には無頓着に近づこうとするだろう。
309リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/11/03(金)23:51:18 ID:N4Z
>>308
「そうだったんですか……」

だったら私に声をかける時もこの状態で来てほしかったな、とでも言いたかったが、リリンの性格上そんなことを言えるわけがなく。
とりあえずヒトの姿になったエイナの身体を遠目でゆっくり確認する。
なるほど、確かにこの姿は紛うことなく人間のソレ。リリンの警戒心も少しは和らいだことだろうか。身体の震えも先ほどに比べればマシになったようにも見える。

「あ、はい……。食べていってください……」

制止しようかとも考えたが、どうしても先ほどのケンタウロスとしての彼女の姿が脳裏を過る。
動こうにも動けない状態となっているリリンは、ただ黙って自身が手に入れたパンを食されていく姿を見ているしかなかった。
ただ悪いヒトであるとは思ってはいない。ただちょっと押しが強くて、馬になったりするヒトであると。

エイナの足が動くと同時にリリンの身体がビクリと大きく揺れ動く。方向を見るにこちらに向かってくるのは明らかだろう。
確かに怖いのは事実だ。今の見た目は普通の人間でも、その正体は半人半馬の亜人。苦手意識を持ってしまうのは仕方のない事実。
だがこのままではいけない。このまま話すのも嫌だし、何より怖がったままでは相手に申し訳ない。そう思った。

「わ、私で良ければ、いいですよ……?」
「でも、私もあんまり知ってる訳じゃないですし……、私も遠くからこの町に来た身です、から」

今にも逃げ出してしまうそうになる足を何とか踏み留めさせ、リリンなりに覚悟の決まった目がエイナへと向かう。

「何が望みでしょうか……? 食事処もそろそろ開く時間だと思いますし、宿屋も空いてると思います。たぶんですけど……」
310エイナ・スポッド◆.uq.8gH7ug:17/11/04(土)00:14:24 ID:t1C
>>309

「まあ変化にも魔力使うから普段は普通にさっきみたいな姿してるけど。
 アンタみたいに怖がる人がいるなら普段から人間の姿でいるべきかもね」


「んぐんぐ……ん、おいしいねこれ。アンタも食べる?」

自分がリリンの精神の平穏を今も脅かしているともしらず、リリンに食べかけのパンを差し出す。
もともとの持ち主に対して発する言葉ではない。

「そうなんだ。でもこの町に住んでるんでしょ?だったらきっと私よりは詳しいよ。
 私は最近来たばっかりだもの。何がどこにあるのかとか全然わからないし。
 だからありがとう、助かるよ」

リリンの覚悟が伝わっているか否かはともかく、真剣なまなざしを受けて礼を言う。
空気を読む力は欠けているものの、感謝しているのは本当だ。

「いや、宿はギルドのほうで紹介してもらったんだよね。
 私が教えてほしいのは買い物できる場所。ご飯とか日用品とかさ。
 パンおいしかったし、どこで売ってたか教えてほしいな」
311リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/11/04(土)00:40:29 ID:YH0
>>310
「出来れば私と一緒にいる時は、そうしてもらえると助かります……」

図星。ここまでわかりやすくビビっていれば当たり前なのだが。

「私の分は家に戻ればちゃんとありますから、大丈夫ですよ」
「ま、まあ確かにそうですけど、私まだそんなにこの町のこと知らないし、行ったことないところも多いし……」
「こんな私でもお役に立てるなら、嬉しいです」

正直今の状態でパンを与えられてもマトモに喉を通すことすら敵わないだろう。それほどまでに緊迫した状況だったのだ。リリンにとっては。
それにいつもは誰かに頼ってばかりの自身が誰かに頼られるのは、リリンにしてもかなり緊張することであった。嬉しい事も反面だが。

「ギルドの方だったんですか? えっと……ほら、私も実は……」

そう言いながら取り出したのは一枚の木札。そこにはこのロアールにあるギルドのモノであろう印が描かれている。
このリリンもギルドに所属する一員の一人であった。いろいろと向いてないような気もするが、それでも一応。

「えっと、パンはこの通りの向こうにある店です。ほら、露店に見たいになってるところ」
「日用品も食堂も、基本的にはこの通りに集まってますよ。ここに来れば大抵のモノは揃うと思います、たぶんですけど」
「ちょっとヘンなお店もありますけど、悪いモノは置いてないはずですから……」

通りに見える店を一軒一軒指さしながら紹介していく。
ここから見える通りはロアールでもかなり大きめの道。それ故構えている店も多く、種類も豊富。ウインドウショッピングついでに買いそろえることも出来るはずだ。

「……もし、もし良かったら一緒に行きましょうか……?」

一大決心だった。少なくともリリンにとっては。
相手は亜人。それでも見た目は普通の人間。このまま少しでもこのエイナという人物に慣れておきたいと思っていた。それに仲良くもなりたかったし。
312エイナ・スポッド◆.uq.8gH7ug:17/11/04(土)01:03:42 ID:t1C
>>311

「じゃあ今度からはそうするよ。
 偶然会ったときは事故だと思って諦めて」

さっき言った通り、人間でいるには僅かとはいえ魔力消費があるのだ。
本人的にはケンタウロスの状態でいるのが一番楽、ということ。気を抜いているところで偶然会っても、許してほしい。

「そう?じゃあ貰うね」

差し出したパンも断られれば結局自分で口にする。どうやら気に入ったらしい。

「ああ、アンタもそうだったんだ。じゃあギルドでも会うかもね。
 じゃあ名乗っておいた方がいいかな。私はエイナ・スポッド。エイナでいいよ。
 アンタは?また会うかもしれないし。名前、教えてよ」

仲良くなれるかどうか……は、リリンの性分もあってわからないが。
それでもそうしたいという気持ちはあった。なので、無愛想なりにアプローチをかけるのだった。

「ああ、あそこの辺り。へえ、やっぱり人通りの多いだけのことはあるね」

さきほどは人の流れに流されるままだったが、意識してみてみれば確かにそういった店も見えてくる。

「案内してくれる?じゃあ、お願いしてもいいかな」
313リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/11/04(土)01:29:24 ID:YH0
>>312
「が、頑張ります……」

次またあの亜人としての姿を見てしまった時に怯えずにいられるだろうか。
正直自信は全くと言っていいほど無かったが、それでも頑張りたいとは思った。どうなるかはその時が訪れればわかるだろう。

「あんまり私はお仕事してる訳じゃないんですけどね、一応これでもハンターなんです」
「あっ、私はリリンです。リリン・カマルっていいます。一緒になった時はよろしくお願いしますね、エイナさん」

恐る恐る右手を差し出す。未だに恐怖は完全に抜けきってはいないが、握手を交わそうという意思を持つまでには克服したのだ。
少々表情の方は固いが、この思いはエイナにも伝わるだろうか。

「じゃあ行きましょうか。私がよくお世話になってるお店の事も伝えておきますね」
「この町で過ごすつもりなら、知ってることは共有しておいて損はないはずですから」

ちょっと大きな緊張感とほんの少しだけれども確実に湧き出てくる安心感を胸に、二人の少女がロアールの町を練り歩く。
自身の知る店を指さしながら紹介したり、立ち寄った店で少しだけ買い食いしたり。
少しぎこちないけど、それでもこの二人で過ごす時間がこの二人の距離を少しずつではあるが近づけていくことだろう。
始めは木の後ろに隠れるほどだったのに、今は並んでお互いに教え合うことが出来るほどになっている。これだけでも大きな成長のはず。

「……手、繋いでみてもいいですか?」

少しだけでも成長できた気がした。そんな一日。
314エイナ・スポッド◆.uq.8gH7ug:17/11/04(土)01:49:42 ID:t1C
>>313

「ふふ、よろしくね。期待してるから」

先ほどの様子を見るに、次会った時急に慣れている、なんてことはないだろうなあ、と思う。
だが、これから仲良くなれたなら。いずれ自然と接してくれる日も来るだろう。そう期待して言葉にした。

「うん。よろしく、リリン。私は狩りで生計立ててるから、結構ギルドに入り浸る感じになると思う」

差し出された手を握り返す。
リリンの緊張した様子が伝わってくる。はて、いったい何に恐れることがあろうか?
今の自分は人の姿をしているのだから、恐れられることなどないだろうに。
―――などと、リリンの胸中が完全に伝わっているとは言えない状態。それでも、この新たな友人を大事にしようという気持ちは確かにあった。

ふたりでショッピングをしたり、買い食いをしたりなどというのは、初めての経験だった。
おかげで自分の暮らしていく街がこんなに楽しい場所だと知ることができたのだ。
そして、これからはもっと楽しくなっていくのだと、期待と予感が確かにあって。だから、

「……うん。」

普段なら人前で恥ずかしいと断っていたかもしれないが、今ならそれをも素直に楽しめる気がしていた。
315 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/11/04(土)20:25:19 ID:CD3
魔道具店エルドリア。
ロアールの中でも目立たない細路地にある店前に、店主であるロッシェはマオ鳥のスズと大きなシーホースと共に立っていた。

「スズ。今日は前みたいなことしたらもっと怖いお仕置きするからね?」
「でもスズには私が乗って、レクスさんにはシーちゃんに乗ってもらおう」

ロッシェが街から出るのはいつもこの二匹一緒だった。
今日は人の協力がないと魔道具を試せないから、ギルドに人付き合いが苦手なロッシェが依頼したのだ。

「レクスさんが来たらまずは落ち着いて挨挨を……うん、私ならできる。笑顔と一緒に明るく挨拶、接客の基本でもあるんだから」

まだ約束の時間には少し早い。ロッシェは
笑顔で挨拶の練習を始めた。
この辺りに人が来ることは滅多にないため、誰かに聞かれることは無いと油断している。

「おはようございますレクスさん!今日は頑張りましょうね!」
316レクス◆L1x45m6BVM:17/11/04(土)20:35:54 ID:tGr
>>315
約束の時間というのは良くも悪くもキッチリ守られることのほうが珍しい。
依頼の件で出遅れるのは失礼な行為と教わっているため、当のレクスが早めに店に赴くのは何ら珍しいことではなかった。
そしてちょうど。その笑顔の挨拶をするロッシェに鉢合わせるになったのだった。
珍しい姿に一瞬驚きこそすれ、依頼主がそう来ればレクスが怯えたりする必要なく。

「おうおはようロッシェ! お互い怪我しねえようにな! 今日は頼ってくれ!」

背中に長布に巻いた槍を背負い、一際厚い毛皮を纏ったレクスは笑顔で挨拶を返してその胸を元気に叩いた。
最近隠しもしなくなった尻尾は勢い強めに地面を叩いて気合の入れようを示していた。
そう、ロッシェが人付き合いが苦手という情報を克服したと勘違いして。目撃してしまったこともわざとでなく、その返しに悪気はないとわかるほど明るかった。
317 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/11/04(土)20:48:55 ID:CD3
>>316

「ぁ………」

レクスに挨拶の練習を見られたロッシェの顔は一気に血の気のない青ざめたものへと変わり、ふらふらと下がって無言で店の中に姿を消した。
そこに残されたスズとシーホースは首を傾げた。店の中からはどたばたと激しい音がしばらく聞こえて来て。

「で、では早速向かいましょうか。レクスさんは自分で飛んでも構いませんがシーちゃんに乗ってもいいですよ……」

扉を開けたロッシェはスズの背に乗ってそこに顔を埋めたまま、いつも以上に小さな声で言った。スズは羽ばたくと森に向かって一直線に飛んでいく。
シーホースはレクスが乗らなくともそのあとを追いかけていくだろう。
318レクス◆L1x45m6BVM:17/11/04(土)21:08:56 ID:tGr
>>317

「えっ」

青ざめた顔に無言の逃避(レクス視点)を目撃したレクスはそんな声を出していた。
そんな恐ろしい顔でもしていたか? と思うのは周りのスズやシーホースが特に反応しない、つまり恐れる相手が他に居ないことを暗に示しているからだ。
激しい音にレクスも首を傾げたものの、いきなりぎこちなくなりそうな雰囲気をどうしようかと悩んだ。

「お、おう、とりあえず今回はシー? に乗っけさせてもらうぜ……?」

危うく聞き逃しそうになったが、店の立地もあって他に届く音がなかったため耳を澄ますことで何とか聞き取れた。
そしてシーホースに乗っかるのは、飛ぶと結構失敗しやすいからである。いっそ身体を張って空気をぶっ壊す手もあったはずだが、そんな考えは今は浮かばず。
尾をしまって、シーホースに乗っかるという新鮮な気分を味わいつつも、ロッシェに対してどう接するべきか考えているうちに目的の森に着くのであった。

「……確か今回は魔道具の実験……だったよな? 前から思ってたんだが協力ってのは人が適任だったのか?」

シーホースから降りるように促されれば素直に従うが、特に指示がない場合はシーホースの頭など物珍しそうに撫でながらロッシェに聞くのであった。
319 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/11/04(土)21:27:34 ID:CD3
>>318

(うぅ……もう消えてしまいたい)

スズの背に顔を埋めたロッシェは涙を流していた。それに気づけるのはスズだけだろう。
森についてスズが地面に降りてもロッシェはその背から降りない。
スズはそんなロッシェの心情を察してゆっくりと歩き出した。

「はい……スズやシーちゃんじゃできないことです。今からこの辺りに少し雨が降りますが、私の魔法なので気にしないでください」

ロッシェが指を宙に向けて円を描き詠唱を口ずさむと雨が降り始める。それが止むとロッシェはある方向を指差してみせた。

「こっちを少し行った所にワーボアがいます。……レクスさん、勝てるでしょうか?」
320レクス◆L1x45m6BVM:17/11/04(土)21:39:15 ID:tGr
>>319

ゆっくり歩くスズの姿を主思いだと思いながら、降りないロッシェを見てどうしたものかと考えを巡らせる。
レクスは何が原因かわかってないために、そして熱い友人ほど迫れる性格でもない故に迷うのであった。

「りょ、了解だぜ、まあそういうことだから依頼になったんだろうしな」
(雨か……)

あまり冷え込むと動きが鈍るが、これもまた適応のためと言い聞かせて頬を両手でパシンと叩いて気を引き締める。
雨音に耳を慣れさせて、ロッシェの問いを聞き取ると一度ふー、と息を吐いてからその顔を固めの笑みにして親指を立てる。

「少し時間はかかるが大丈夫だ、それに今回はロッシェも居るしな(!)」

ワーボアに気付かれると不意を付かれる可能性があるために少し声を小さめにして快い返事を返しながら槍に巻いていた布を剥いで、腰元に荒く巻きつけた。

「……それじゃ、準備が完了したら頼むぜ?」

行け、と言われればすぐにレクスはワーボアの元へと駆け出すだろう。もし、ワーボアが先に気付いたとしてもそれを捌く程度の技量は持ち合わせている。
そのためレクスはロッシェの前に出ながらそうニヤリと言うのであった。
321 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/11/04(土)21:59:28 ID:CD3
>>320

「た、頼もしいです。私達もしっかりと援護するので……」

こんな姿で言われても説得力の欠片もないがロッシェはこのまま戦うつもりらしい。
前に出たレクスの言葉に頷くとまた詠唱をはじめ、シーホースがワーボアに口を向ける。

「シーちゃんがワーボアに水塊を飛ばすと同時にレクスさんは攻めてください。私が魔法で動きを止めますから」

ワーボアに腕を向けるロッシェ。詠唱は既に完了していつでも魔法を使える状態にある。
シーホースが深く息を吸い込んで水塊を吐き出そうとした瞬間、魔法を発動した。

「……シーちゃん。合わせてね」

ロッシェが降らしていた雨で水属性の魔法の効果は高まっている。ワーボアの足下が泥へと変わり、抜け出そうともがくがそこにシーホースが的確に目へと水を当てた。
足下の拘束は長くは持たないが、今視界を失って動けないワーボアは攻撃を非常に当てやすいだろう。
322レクス◆L1x45m6BVM:17/11/04(土)22:10:55 ID:tGr
>>321

頼もしい、と言われて嬉しくないハンターが居るだろうか、きっと居ない。
前線に来る、などだったら思わず止めていたところだが後方支援というならすんなり受け入れた。以前ロールブックで共にした一人を信用しない理由はない。

ロッシェの指示に頷きで応じて構え、シーホースが息を吸い込んだところで足にかける力を強める。
そしてシーホースが水を放ったその時、それを追い掛けていくように一気に駆け出す。

(自信無さそうな割りには拘束に目潰し……普通にやれるじゃねえか!)

これはこちらが情けないところを見せるわけにいかないとロッシェとシーホースの支援に奮起。
そのままレクスは駆けた勢いをすべて槍に乗せるが如くワーボアの眉間に穂先を突き出した! まともに喰らえば槍が貫くことは見てわかるだろう。
勿論、仕留められればそれでいいが――ワーボアが痛みで不自然な行動を起こさないとは限らない。槍がつっかえればすぐに抜いて払い抜くことだろう。


仕留めたらダメだ、というパターンがある可能性は忘れてしまっている。これはもうそういう依頼ではないことを祈るしかなかった。
323 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/11/04(土)22:30:01 ID:CD3
>>322

「や、やりましたね。私にとってはこれからが本番なんですけど、レクスさんこれをワーボアに刺してくれますか?」

ワーボアが倒れて間違いなく仕留めたと判断したロッシェは、鞄から片側が鋭利に尖ったパイプを取り出した。
その表面にびっしりと走る模様は何らかの魔術が付与されていることを示している。

「そうしたら水が流れる様子をイメージしてから、私に続いて唱えてください」
「……生の流れを弄走し、水の流れを司るもの」

レクスがそれに続いて唱えれば模様が淡く光り輝いて、パイプの穴から血が流れ出した。
レクスは驚くかもしれないがロッシェはその結果に満足した様子。

「これは血抜きに使う魔道具なんです。私のおじいちゃんが考案したもので……役に立つでしょうか?」
「あ、それは報酬にする約束だったので受け取ってもらえたら……」

この魔道具の効果は対象が生きていては発動しない。自分が作り上げた魔道具で人が誰かが傷つくことがあってはならないのだ。
324レクス◆L1x45m6BVM:17/11/04(土)22:45:35 ID:tGr
>>323

槍を引き抜いたレクスは続くロッシェの指示に頷いた。パイプの形状を見て一瞬ビクッとしたのは隠したつもりだ。

「おう……水が流れるイメージ……イメージ……」

ワーボアの首筋にパイプを刺し込み、ロッシェの指示に従っていく。レクスの脳内にはパイプの中を水が流れる映像が浮かんでいる――。

「……生の流れを奔走し、水の流れを司るもの――……!」

模様が光るまでは魔道具として想定内だったが、その用途までは不確定だったためにレクスはその顔を驚きの色に染めた。
その血が地面に落ちてもその不思議さに面食らうばかりだったが、その用途と性能をロッシェから聞けばレクスの顔は明るいものになった。

「そういうことか! ロッシェもロッシェのじいさんもすげえな! これは役に立つぞ、血抜きって結構手間かかるんだよ!」
「……え、マジで? いや確かにそういう約束だったが……量産の目処か複製はできてるのか?」

血抜きとは生物を狩ることもあるハンターにとっては切っても切れぬ行為。血が固まって肉の味が落ちることが代表的で、仕留めてすぐに行わないといけないことが多いためにこの魔道具は実に助かるものだった。
そういう事情があるためにレクスは裏表なく作ったロッシェと考案したロッシェの祖父を称賛する。
そして少し躊躇ったのだ。本当は欲しいというのは魔道具を見る目の色からよくわかるが。
325 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/11/05(日)18:23:34 ID:ku4
>>324

「あ、ありがとうございます…。私の力なんておじいちゃんにはまだまだ敵いませんけど嬉しいです」
「もちろんですよ。レクスさんのおかげで他の人が使用しても問題ないとわかったので安心してお店に並べられます」

相変わらずスズに顔を埋めたままで話すロッシェ。嬉しくはあるがさっきレクスに見られたことが大きすぎて心の底からは喜べなかった。
依頼が終了した以上森にいる理由はない。スズが羽ばたくとシーホースもレクスを乗せる気なのか浮遊して近付いて。

「では帰りますか……。私はこれからその魔道具をたくさん作らなきゃなので、お店に戻りますがレクスさんは?」

お礼としてレクスが言った場所までシーホースに連れて行かせるつもりである。もちろん断っても構わないが。
遮るものがない高さまで二匹は飛び上がって、ロアールの街へと向かう。
326レクス◆L1x45m6BVM:17/11/05(日)19:45:24 ID:cWk
>>325

「そうか! なら遠慮せずもらうぜ、ありがとな!」

元々依頼の報酬のはずなので当然の結果ではあるが、そのことが抜けているかのように喜んでいた。
顔を埋めているロッシェの様子を見ると、どうしたものかと思いながらその魔道具を提げて血を落とした槍を長布で巻いた。
シーホースを気に入ったのか、おー、と言いながら素直に乗っかって。

「一応帰りも着いてくぞ? 帰りになにがあるかわからねえし安全のためにな。……ロッシェには少ししんどいかもしれねえけどな」

自分が怖がらせてると思っているため、どこか申し訳なさそうに。
その後、ロアールの街に構えられるエルドリアの前まで辿り着けばシーホースに礼を言いつつロッシェの方を見て。

「今日は怖がらせて悪かったな、でもなんかあったら俺かギルドには頼ってくれよ?」
327 ロッシェ◆v6.1Zd/Vy.:17/11/05(日)20:01:43 ID:ku4
>>326

「あ、わざわざすみません。……しんどいなんてことはありませんよ」

ロッシェが顔を埋めているのは自分の不甲斐なさが嫌になっているからでレクスに落ち度はない。
さっきも堂々としていれば良かったのに、何故あんな逃げるような真似をしてしまったのかと。

「い、いえ。レクスさんは何も悪くありませんよ……悪いのは私なんです。はい、これからも色々とお世話になります……」

エルドリアの前。レクスがシーホースから降りてもロッシェはスズから降りずにそのまま会話を続ける。
レクスがその場から去るまでそうしていて、いなくなったあとにようやく降りて店の中に入っていくだろう。
328レクス◆L1x45m6BVM:17/11/05(日)20:14:04 ID:cWk
>>327

ぱっ、と自分が悪いわけではないと言われたのが嬉しかったのかその表情はまた明るく。
続いたロッシェの自分を責めたように聞こえる発言にはこう返す。やりとりが繰り返されると踏んでだ。

「んじゃ、今回はお互いさまだな? また魔道具の実験とかあったら任せてくれよ!」

あくまで今回は、ということだ。そもそも始まりがレクス側にあるので少し軽くした感じはあるが。
パイプ型の魔道具を見せて、じゃあな、とその場を去っていくのだった。

そして店も見えなくなった位置、ロッシェが店内に戻ったこともわからないところで。

「……今度アカハネにどうやって話せたのか聞いとくか……」

押しの強めの友人のもとに頼りに向かったという。
329ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/09(木)01:13:33 ID:5gk
コスタ・ノエ自警団の仕事は主に見回りとされている。この港町では人物の往来も多く、それに伴う形でいざこざも起こる。
それらを未然に防ぎ、場合によっては最小限の被害で沈静化させるのが任務である。
……などと物々しい言葉を使うが、そんな衝突が起こることなんて滅多にない。何だかんだ言ってこの街は平和なのだ。メンバーが暇を持て余す程度には。

夜になり、路上にほろ酔い加減の人々が歩き始める頃、とある人物が歓楽街を歩いていた。
定期的に周囲の人や店頭、路地といった場所に目を光らせ、身の丈ほどの大きさの棒を持つ、メイド服を着た女性。
間違いない。彼女こそがコスタ・ノエ自警団に近頃配属された謎のニューフェイスである。

「……よし、……よし、……ここもよし」
「ッ! お待ちください。泥酔行為は危険行為と認定されます。このままでは処罰の対象になりますが」

一人の酔っ払いの元へ近づいたかと思えば、先ほどの棒を突き出すなり、どこに載っていたのかもわからない法を挙げ、詰め寄って行く。
こんなことをされた酔っ払いも、彼女の圧力に押されたのか、すごすごとどこかへと歩き去って行く。

「この時間になるとこの一帯は風紀が乱れていますね……。自警団が居なければどうなっているのでしょう」
「しかし、この事態になっているというのに、誰一人としてこのルシア以外に自警団の方がいらっしゃらないなんて……いったいどうしてらっしゃるのでしょうか……」

独り言気味に呟く。確かに周囲を見ても自警団らしき人物は見当たらない。
文句の一つや二つがありながらも、彼女は街を哨戒する。街道を、酒場を、裏路地を。ただひたすらに。
そう、彼女は生真面目に自警団としての仕事に打ち込む性質だったのだ。少々度が過ぎるほどに。
330アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/09(木)02:01:46 ID:1nx
同時刻、賑わう夜の町、一人の年端もいかないような少年が佇んでいた。
その銀髪は腰の辺りまで伸び、その赫き双眸は遥か闇を見据えていた。
331セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/11/09(木)13:25:17 ID:55Q
>>329
そしてルシアが路地裏を通りがかった時。
場所は酒瓶やらゴミが置かれた酒場の裏手――そこに、見慣れた人物の姿があることに気付くはずだ。

「ん~~~、おにいしゃん褒めすぎだあってえ~~」
「…………Zzz」

寝ていた。彼女はしっかりと、寝入っていた。
ミノタウルス族の証である立派な角。ミノタウルス族らしい身体付き。だらしなく緩みきった頬。
酒瓶からではなく、はっきりとその身体から酒臭さを漂わせ。
――自警団員であるのセレネが、酔い潰れて路地裏で寝ていたのだ。

なんたる堕落。なんたる風紀の乱れ!
確かにセレネは非番の日。だが自警団員自らが治安を乱そうなどと……嗚呼!
332アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/09(木)18:37:42 ID:535
>>330
少年が見つめていた闇の中から、毛先が黄色い赤髪の青年がオレンジ色の瞳を少年に向けて現れた。
少年を見つけたと思わしき彼は笑みをそのままにずんずんと迫ってきて、叶うならば少年の肩に両手を置いて。

「どうした君! 迷子か!!?」

迷子と勘違いしていた。夜の街に少年とくれば仕方ないのかもしれないが。
333ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/09(木)19:25:51 ID:5gk
>>331
周囲一帯の見回りを終え、残るは飲食店の並ぶ通りのみとなった。
一軒一軒店内まで目を通し、規則に違反する人物も今のところなし。そのまま次の通りに行きつかんとする時であった。
街にて飛び交う雑音に混じって、謎の声がルシアの耳に入る。聞いた事のあるような気もする、割と身近な人物らしき声。
大事を取り、棒を両手でギュッと握りしめて、声のあった路地裏に足を踏み入れる。

「今の声は……もしかすると」

酒場の裏で酒瓶やゴミと共に倒れていたのは、ルシアもよく知っている人物であった。
自警団に所属してから今に至るまで面倒をよく見てもらっていた人物。割と年も近い貴重な先輩。セレネの姿であった。
記憶が正しければ今日は非番であったとはいえ、こんな場所で倒れていては見過ごす訳にもいかない。路頭に迷いし人物を介抱するのも自警団の役目だから。

「先輩……どうしてこのような場所で寝ていらっしゃるのでしょう。ベットで寝たほうが快適でしょうに」

寝ているところを晒されては自警団の面目にも関わる。元々そんなものがあるのかどうかはいったん置いといて。
脱力しきったニンゲンは重い。いくら私服で鎧は無いとはいえ、ヒト一人持ち上げるというのは多大な力を要求される。
とりあえず両腕を持って引き上げ、酒場の壁に身体を置かせる。地面で寝るよりは座らせるほうがマシだろう。
しかしそれでも恐らく起きることはないだろう。酔っ払いはこれだから恐ろしい。

「……失礼」

右手を出し、必殺の往復ビンタをお見舞いしようと振りぬかんとする。
対酔っ払い用であるが故、意識を覚醒させるために威力の程はなかなかのもの。呼びとめでもしなければ非情なる仕置きが執行されることになる。
334アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/09(木)19:59:25 ID:1nx
>>332
いきなり現れた青年に僅かに驚くも、少年は花のような微笑みを浮かべ、
「こんばんは、僕はアリス。貴方は、ここで何をしているの?」
と言った。
335アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/09(木)20:06:58 ID:535
>>334

「こんばんは! 俺はアカハネだ! 腹ごしらえを済ませて歩くところに君が居たから声をかけたのだ!」

これで固定されてるような笑顔のまま少年の質問に返事。肩から手を退けることもなく続けていく。

「そういうアリス! 君は迷子か!? それともここがわかっていて居るのかどちらだ!? 後者なら問題はないが!」

夜中に出歩くのは問題ではないと言っているようだ。
336アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/09(木)20:16:08 ID:1nx
>>335
すごい勢いで捲し立てるアカハネという青年に戸惑うも、アリスは、
「僕のこと心配してくれてるの?ありがとう。だけど気にしないで。僕は、夜の住人だから。」
とその微笑みを崩さず言った。
337アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/09(木)20:20:12 ID:535
>>336
「一人で居るならば気にはかけて当然だろう!」
「む? 夜の住人とはどういう意味だ? ひとまずわかっているならば構わぬが!」

どうやら意味が良くわかってない様子だ、年上にも関わらずなんと言う様か。

「しかしならば少年はここで何を!?」
338アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/09(木)20:26:06 ID:1nx
>>337
どうやら戸惑っている様子のアカハネにクスリと本心からの笑みを浮かべ、
「お客さんを探しているの。今日は一人もいなかったから。」
とアリスは言った。
339アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/09(木)20:28:17 ID:535
>>338
笑みの意味もよくわかっていないが、アリスが客を探していると聞けば。

「ほう! 君も商売人なのか!? 実は俺も火種を売っていてな! 君は何を売り物にしているのだ!?」

無知ゆえの地雷である。
340セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/11/09(木)20:42:30 ID:55Q
>>333
ぐご。むにゃ、げふ。

揺すられても、持ち上げられても移動させられても、セレネからの反応はそんなもの。
普段愛用している大斧や銀色の籠手がないあたり、本当にオフで飲み歩き酔っ払った挙句ここにいるらしい。
……流石に、盗まれただなんてそんなことはないだろう。そう思いたいところだ。

ひんやりとした夜風が心地よいのか、なおもイビキを立てて惰眠を貪るセレネ。
ルシアが近くにいるなどと、よもや自分に刑を科そうなどと思ってすらいない。
そして――非常なる鉄槌が、下される時が来た。

「ンごっっっぐぎゃぁあああああああ!!!!!」
「なに、なに、なに!おのれゴブリーン!不意打ちなんてひっきょーせんばあん!」
「どーせそこで守ってるお宝はミミックなんでえ…………、…………」

「…………あえ、ルシア?」

女ならざる悲鳴が路地裏に響き渡る!
もちろん効果は抜群!ふり抜かれたビンタで1HIT、反動で背後の壁に頭をぶつけて2HIT!
突然の襲撃で混乱しているのか。直前まで酒を飲んでいた記憶が吹っ飛び、世迷いごとまで抜かす始末。
どうも夢の中ではダンジョンで一稼ぎしようとしていたらしいが……目の前にあるのはゴブリンと宝箱ではなく、ルシアとゴミ捨て場。
それに気付いた時。セレネはバツが悪そうに笑い、思いっきりルシアから目を逸らすのだ。
341ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/09(木)21:07:40 ID:5gk
>>340
ぱぁんと高らかに頬を張り倒す音が夜空に響く。ついでに背後の壁で頭をぶつける鈍い音も。
無表情な瞳がセレネを見下ろすことだろう。文句の一つも言わないのはたぶん優しさ。

「お目覚めですか先輩。こんなところで寝ていては風邪をひきますよ」

少々のドタバタで散らかってしまったゴミや酒瓶を片付けているが、ちゃんとセレネのことも気にかけており。
片付けが終わるや否や、セレネのわきの下に両手を入れ、持ち上げるようにして立たせようとするだろう。持ちあがるかどうかはわからないが。

「今日は非番でしたよね。だからと言えこの態度は同じ自警団として感心できませんよ」
「今からルシアと共に詰め所に同行して頂きましょうか。先輩でも規則を破る行為を見過ごすつもりはありません」

淡々とした口調のまま、一向に変わる気配のない瞳がセレネを多少強引にでも引っ張ろうとすることだろう。
ルシアの言う規則が果たして本当に存在するのかは不明だが、彼女としてこの行為を見過ごすつもりはないようで。
セレネの腕を引っ張るルシアの両腕を振り払わない限り、本当に詰め所まで連れていかれることになりかねない。
非番なのに職場に行かなければならないのは、周囲の目もありかなり厳しいモノがあるだろう。たぶん。
342セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/11/09(木)21:26:14 ID:55Q
>>341
「はい先輩お目覚め…………あれ、ルシア?あの」
「待ってまってマッテ、あたし今日非番だからさ、ほら」
「詰所とかね、別に明日!明日仕事で行くからいいじゃん!」
「ね、そーんなお堅くならずに……ちょっとー!話聴いてるー!?」

セレネはセレネで、詰所に連れていかれることは絶対に避けなくてはいけない!
なんといっても今日は非番。お酒を好きなだけ楽しんでだらしなく寝て頭痛とともに朝を迎えることができる楽しい非番の日なのだ!
オタカラ探しの次に楽しみな1日を邪魔されては例え後輩と言えども放っておくわけにはおけない。

ずるずると引っ張られるセレネであったが……その重さがじわじわと重くなっていくことにルシアは気付くはずだ。
脱力した人間は重いというが、これはわざとセレネが力を抜いているとかそういったことではない。
文字通り――“重く”なっているのだ!
鎧もない。斧も余計な荷物もないが……セレネの体そのものが重くなっている!
体重をある程度自在に操作できる通称『デブになる能力』だが、それをここぞと言わんばかりに使っているのだ……!
手を離さなければどんどん重くなる肉体。60kgだった質量は80kg、100kg、150kgとマシに増していく!

……なお、「どうだ」とでも言いたげにドヤ顔をする先輩。
どうも非番の日は、自警団であるというプライドは酒瓶と共に捨てられてしまうらしかった。
343ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/09(木)21:53:50 ID:5gk
>>342
「そうはいきません。現行犯ですので今日中、いや今すぐにでも来ていただきます」
「前にも先輩はこうしてルシアをはぐらかせた事がありますからね。今回こそは逃がしませんよ」

セレネの叫びになんぞ聞く耳も持たず、ズリズリと引きずって詰め所までの道を進んでいくルシア。
しかしその足取りは徐々に遅くなっていく。がに股になってまで引っ張ろうとしたが敵わず、ルシアの力ではうんともすんとも言わなくなる。
彼女もそれなりに力のある方であると自負していたが、セレネの能力はそれ以上であったのだ。

「ハア……ハア……なんて重さ……そこまでして行きたくないのですか、先輩」
「でしたらこのルシアにも考えがありまして」

このままでは埒が明かないと判断したルシア。すぐさま次の手に出ることを決意した。
次に彼女の長いスカートの中から出てきたのは一本の酒瓶。しかも瓶の装飾を見れば、それなりに値の張る高級品であることがわかるだろうか。
手に取るなりセレネの目前に突き出し、わざとこの酒を見せつけるように掲げる。
そしてセレネが何らかの手段を取る前に、その酒瓶を――投げた。

ぽーんと放り投げられた酒瓶は放物線を描いて空を舞う。
このままならば地面と激突し、瓶は割れて中身は飛び散るといった非常にもったいない結末を迎えることであろう。
だが見逃してはいけない。瓶を投げたと同時に、彼女の頭部が瓶の落下地点へ向かっていることを……。
344セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/11/10(金)00:00:51 ID:FQh
>>343
ルシアの足が止まればセレネのドヤ顔も最高潮!
なんというか、断じて先輩がとっていい態度ではない。
酒への溢れ出る煩悩さえなければ、街のルールもマナーも、あるいは漁師や冒険者たちとの付き合い方なんてのも教えてくれるそれなりな先輩なのだろう。
ところが、これである。酒が人をダメにする、なんていうが……セレネはまさにその典型例だった。
オトコにだらしなくないだけマシ、という見方もあるが、それはそれ。

「んっふっふ~、先輩の休日を邪魔しよーだなんてそうは問屋が……、…………」
「…………んな、あ、な、な」

「んあぁああああああああぁあああ!!?」
「なっ、なっ、んなああああんで!!あんたがっ!!そ、」
「そ、そげ、そな、すぅおおおおんんあおさ、さ、酒っ!!」
「あっ、あんたっ、たっ……!!い、いくらする、とっ!」

「あ、ちょっと、ま、まって、落ち着いてルシア、まって」
「ここはっ……!き、き、極めて友好的かつ和平的な話し合いの機会を、」
「とにかく!そのお酒をね、ほおらおろそ?ね?」

「おろ……んんんんんんんんんんんなぁああああげッッッッつあああああああ!!!」

ルシアの動向よりも酒の運命の方がセレネには重要だった!
よくわからない言葉を叫びながら酒瓶に向けてダッシュダッシュダッシュ!!
しかし悲しいかな。早いのはおそらくルシアだ!
酒瓶が地面への落下運動を始めれば、セレネは精一杯手を伸ばし、自分の身の安全すら顧みず着弾地点へダイブをキメようとするが――!?
345ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/10(金)00:38:10 ID:kWx
>>344
「はい。このお酒は以前警備に当たっていた際に突き出した方から徴収したものです」
「ルシアはあまりお酒を嗜みませんもので詳しくはないのですが、徴収した際の自警団の方々の反応から、こちらが高級品であることは存じ上げています」
「さらにお酒の方を非常に好まれる先輩なら間違いなく飛びつく、と自警団の方からも聞いております」

淡々と酒瓶を突き出して述べるルシア。知識があまりないのは事実らしく、首を傾げながら酒瓶を回している。
他の自警団員のお墨付きで手に入れた酒も彼女にとってはタダの瓶に過ぎないのである。

さて、酒瓶を放り投げ、セレネが飛びついた直後、ルシアは自らの頭部を両手で抱えていた。
勢いよく振りかぶり、酒瓶の落下地点目掛けて思い切り投げる。
剛速球で投げ出された頭部はセレネの横をすり抜け、手が届く寸でのタイミングで交錯。
舞い上がる土煙の中、そこにあったのは……先ほどの酒瓶を口に加えたまま宙に浮くルシアの頭部であった。

「申し訳ありませんが、そう簡単に先輩に渡すわけにはいきません」
「それでは失礼します。このお酒はルシアが頂きましたので、どうかご了承を」

口に酒瓶を加えたまま器用に喋り、頭部のみをフワフワと浮かせてこの場を去ろうとする。
一応本体である身体も背後から小走りでついてくるが、夜道を歩くには少々刺激が強すぎる光景。

幸い頭部の移動速度はそこまで速くはない。走ればそのうち追い付くことは十分に可能だろう。
追いかけるのであれば周囲をよく見たほうがいいかもしれない。彼女が向かっている場所は自警団の詰め所なのだから。
346アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/10(金)04:29:30 ID:cId
>>339
(……暖かい……無垢で優しくてまるで太陽みたい……だけど、僕は……)

口元が、綻ぶ。

笑う、

笑う、

狂ったように、笑う。

(……嗚呼、なんて滑稽……)

耳を劈かんばかりの声を上げて、アリスは笑っていた。
そして一頻り笑い終えたあと、これまでのものとは明らかに違う艶やかな笑みを浮かべ、

「あなたが知らない方が良いものですよ。」
「何故なら僕は夜の住人、深く妖しいオトナの世界の住人なのですから。」
「貴方は無垢なままでいてくださいね。」

その瞳は、微かに憂いを帯びていた。
347アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/10(金)14:05:11 ID:q1R
>>346

その笑い声にはさすがのアカハネも驚いていた。顔は確かに笑みのまま、しかし眉が困惑を示すように歪んでいる。
おかしなことを言った覚えは最初から無いし、アリスがまさか悪霊だとも思ってない、『ただの』少年と思ってたからこその困惑だった。

「……うむ!! 君がそういうのであればそうしておこう!」

恐らくアカハネは目撃でもしない限り知る機会は乏しい。憂いを感じてもそれをはね除けたくあるように笑みを戻すのだ。

「だがしかし! もし俺が教えるに価すると君が思えばいつか教えてくれ!」
「もしかしたら君の助けになれるかもしれないからな!! 火気厳禁なら悩むところだが!!」

ハッハッハ! と年齢と釣り合わないような大きく明るい笑い声とその無垢さをアカハネは見せていた。
348アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/10(金)17:40:12 ID:cId
>>347
(……何故貴方は僕なんかに優しくしてくれるの?)

「貴方のおかげで僕の心は幾分か救われましたよ、アカハネさん。」

うつむき、そう言ったアリスの声は弱々しく、震えていた。

ポタリ、
雫が落ちる。

ポロポロと零れ落ちる涙に一番驚いたのは、外でもない、アリス自身であった。

「……えっ……どうして……こんな……」

潤んだ瞳から溢れた雫は白磁の頬を伝い、銀色に光り零れ落ちる。
349アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/10(金)19:02:00 ID:q1R
>>348

「助けになれたか!! それは良かった!」

アカハネの行動原理はいつも真っ直ぐ。反転することはあれどそう簡単には曲がりもしない。
だから言葉をそのまま受け止めていく、そのままては騙されやしないかとなるほど。

「! どうしたアリス! 何か怖いものでもあったか!? それともどこか痛めでもしたか!?」

アリスに劣らず驚きながらも、その目から流れる雫を拭うために手を伸ばし、頬に手のひらをつければ親指で拭おうと。
アカハネの体温は常人よりは高く、冷え込む夜には温まるには適任であろう。笑みは絶やさないながらもそのオレンジの瞳には心配の色が浮かんでいた。
350アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/10(金)21:16:36 ID:cId
>>349
アカハネのおかげで少し落ち着いたアリスは
ポツリ、
と語り始める。

……少し昔話をしようか。
僕が幼い頃、ムチゴ狩りに森へ出かけた時のこと。
たくさんの笑い声が聞こえてきて、近付いて見ると、

たくさんの亜人達がムチゴを貪り、
躍り狂うという光景がそこにあった。

ーー後にその亜人達が夢魔だと知ったーー

そして僕に気付いた夢魔達の中心にいた赤紫色の眼と髪を持つ浅黒い男が
「久々の客人だ。この俺が丁重にもてなしてやろう。」と言った。
351アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/10(金)21:25:32 ID:cId
そして僕は、その男と夢魔達に乱暴された。
事が済み、意識を取り戻した僕に、男がニヤニヤとチェシャ猫のように笑い、声を掛ける。

「俺「僕にこんなことしたんだから責任とって
その分のお金払ってよね。」

僕は腰の痛みに顔を顰めつつ、そう言い放った。
352セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/11/10(金)21:31:57 ID:FQh
>>345
その解説は果たしてセレネに届いているかどうか。
なにせ今の彼女には地面に落下しつつある酒瓶しか見えていないのだ。
だが確かにこの反応を見る限り――他の自警団員の話は正しかったということは分かるはずだ!

「ぬぃいいいいいがぁああぁあぁああすぅううう…………」
「くわあぁあぁああああぁぁああぁあ――――!!」

最初は土煙の中から現れたルシアの頸にぽかんとするセレネであったが……今はなんといっても酒が絡む非常事態!
気持ちの切り替えなど一瞬だった。セレネの表情はまさにラビュリントスの魔物!
酒という贄を取り上げられるなど、神が許してもセレネが許さない!

疾駆、疾駆、疾駆――――!
周りの風景に目を遣ることもなく、全力でルシアの頸を追いかけるセレネ。
途中で「あ、ミノ牛」だなんて言いながら道に出てきた子供を弾き飛ばし、邪魔な障害物は突進で破壊!

しかし当然のことながら……向かう先が詰所であることなど、気付いているわけがない!
追いつけたのであれば、タックルしつつ酒瓶をルシアごと抱え込もうとするのだが。
タイミング次第では、そのまま詰所の壁を破壊してダイナミック入所する可能性すらあった。
353アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/10(金)21:37:18 ID:cId
男は一瞬ポカンとするも、ハハハッと高笑いをして、

「気に入った。お前に神からの祝福を授けよう。
今日からお前は『夢魔の愛し子』だ。」

男がそう言い、何か唱えると、男の眼の色と全く同じ赤黒い紫色の蝶が現れ、
僕の左腰、丁度太ももの付け根辺りにとまり、
スゥッ、と沈み込んでいった。
そして僕の左腰には、紫の蝶の紋様。
354アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/10(金)21:48:51 ID:cId
……それからだ、僕がおかしくなったのは。
時折疼きを、渇きを覚えて町に出て、金をもらって渇きを癒す、そんな日々。
……気付けば、僕にはもう……それしか……なくなってた。
……ねぇ、

……僕は、どうすればいいのかなぁ?……アカハネぇ……

語り進めていくうちにアリスの眼には涙が溢れ、
語り終わる頃にはアカハネに縋り、子供のように泣きじゃくっていた。
355アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/10(金)22:12:41 ID:q1R
>>350
>>351
>>353
>>354

唐突にも感じられたアリスの過去のお話。
それはアカハネには考えることもなかった例であり、そして同時に困惑と憤りを感じるものでもあった。

しかし、アカハネに何ができるか。呪いや魔術に対する知識はそれらをかじる子供に劣る。ましてや男娼を買うという行為も己の矜持に反している。

だから今行うのは泣きじゃくるアリスを抱き締めて、もう一度肩に手を置き直して真っ直ぐに見つめて。

「男ならば泣くな! アリス! 君はどうしたいのだ!? その夢魔に会うべきか、否か!」
「俺としては君の助けになりたいと思う! しかしそれには俺では力不足とも承知しているのだ! 火を点けることしか取り柄がなくてな!」

「それでももし、その状態を改善したいのならば俺が付き合おう! もしかしたらその夢魔に何か申せるかもしれぬし、呪いならば解けるものが要るかもしれん! 金は心許ないが!」
「誰か協力者が付くかもしれん! アリス! 打破したいのであるならば頼ってくれ!」

聞いている限り、アカハネに悪意はない。それでもアリス等からすれば実に身勝手、理想論とも言える台詞だ。
生活として慣れてしまったものを取り除いてしまってどうなるのか、及んでないようにも見えてしまうのはその真っ直ぐな瞳が良くも悪くも思わせる。
熱き意思は時に太陽と同じく――毒にも救いにもなる。
356ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/10(金)22:21:26 ID:kWx
>>352
フワフワと酒瓶を咥えて夜道を進むルシア、の頭、とついでに胴体。
まんまとセレネを半ば強制的に連れ出すことには成功したのだが、本当の恐怖はこれからであった。

「さて、先輩はルシアについてきていらっしゃるでしょうか……ッ!?」

ルシアの頭部が背後を向いた時、そこには信じがたい光景があった。
少し遠くから迫りくる、遮る物すべてをなぎ倒しながらやって来る暴れ牛。
突如として現れた人間の頭と猪突猛進の暴れ牛の二人に、道を開けて逃げ出す者もいれば、運悪く突き飛ばされる者も生じる始末。
これではどちらが治安を守る組織なのかわかりやしない。

予想外の展開に、頭部本体共々足を速めるルシア。
しかし奴の速度は予想以上。暴れ狂う闘牛との距離は刻一刻と縮まって行く。
何より頭部が動くとは言え、胴体と離れすぎる訳にはいかないのである。圏外になれば頭部との接続は切れてしまうのだ。

自警団の詰め所が遠くに見えてきたその時、頭部を後ろを追いかけていた胴体が、セレネの突進に巻き込まれ宙を舞う。
本体と距離を取られてしまった頭部は急減速。そしてすぐ背後にはセレネの腕が……。

爆発したかのような大きな音が鳴り、詰め所の壁にはヒト一人分の穴がぽっかりと開いていた。
突然の事に中で控えていた自警団員も通りを歩いていた街の人も駆け寄る中、そこには酒瓶とヒトの頭部を抱えたセレネがいることだろう。

「まさか先輩の執念がここまでとは……、このルシアの目を持ってしても読み切れませんでした」
357セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/11/10(金)22:42:11 ID:FQh
>>356
ズ――――ドンッッッ!!

コスタ・ノエの夜に爆音が鳴り響く。
詰所にいた自警団員たちが色めき立ち罵声をあげるが……彼らが見たのは、同じ仲間であるセレネとルシアの変わり果てた(?)姿だ。

「ぃぃいいいいいいよっしゃぁあああああ!!!!」
「さぁ~かびんゲットオーう!! …………あ、あれ」

そして見事ルシアを捕獲しがっちり酒瓶を掴んだセレネだったが……ようやく、今いる場所が見慣れた所であることに気付いたのだろう。
ヤバ、と頬をヒクつかせてそろりそろりとルシアの頭を床に置こうとするセレネ。ただし酒瓶は何があっても離そうとしない。

「えぇ~っとお……あ、あは、あはははは。こ、これにはふ、ふかぁああい事情があり、」
「あり……まじ、…………うぷ、ちょ、…………!!」

周りにいる自警団の面々を見て苦笑い。更には言い訳を始めようとしたのだが。
ば、と突然口元を抑えるセレネ。顔はなんだか真っ青、というか真っ白。
異変に気付いた何人かがセレネを外に放り出そうと駆け寄るが……間に合わなかった。

考えてみれば当然の結果だろう。
寝るほどまでに泥酔し、起きた直後に猛ダッシュという激しすぎる運動。
そんなことをすればいくら体が丈夫な酒豪でも――GEROを出すに決まっている。

おぼ、うぶ、rrrrr……。セレネのくぐもった声が詰所に響き、異臭がほんのりと声を追いかけてくる。
コトが終わってしまえば、流石のセレネも抵抗する気力は残っていない。
直前まで見せていた魔獣のような姿はもはや嘘だったかのように、ぐったりと脱力しているのだ。
358ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/10(金)23:20:31 ID:kWx
>>357
本体との距離を離されてしまった以上、ルシアの頭部は身動きを取ることが出来ない。
何といっても本体はセレネに突き飛ばされ、詰め所の外で巻き添えに遭った通行人と共に転がっているのだから。
セレネの腕の中で振り回される頭部。しかしそれでも表情は変わっていない。

「皆さま、先輩が通りの酒場の裏で泥酔していらっしゃいましたので、ルシアが連行して参りました」
「これは規則に反する行為とお見受けします。よって処罰の執行を提言いたしま……」

生首から次々に言葉が出てくるという光景は、見慣れた者でもない限りかなりの恐怖映像であろう。
しかし悲劇が訪れる。先ほどまで行ってきた激しい運動によりセレネの三半規管は悲鳴を上げ、粗相を模様したのだ。
当然周囲の人々は離れるなり元凶を突き出そうとしたのだがそれも間に合わない。その中には頭部だけ残されたルシアも……。

「…………」

黄色い波が押し寄せる。床に置かれた頭部はその波と正面から向き合うことになり。
びしゃり。波が過ぎ去れば、彼女の顔は大量に飲んだのだろう未消化の酒やら、間に食べたであろうツマミの臭いがこびり付いていた。
その後本体が合流。彼女の頭部は布巾による清掃、洗濯籠による洗浄を受ける。臭いは完全には落ちなかったが仕方ない。

「それではルシアは巡回の続きに参ります。先輩の処断は皆さまの判断にお任せします」
「それとですが、このお酒は皆さまで処分して頂けると助かります。ルシアには手に余る代物ですので。それでは失礼いたします」

顔色も一切変えることなく、ルシアは再び巡回の続きを行うため、夜の街へと足を踏み出した。
いろいろと荒れ果てた詰め所を出る前に、セレネに毛布を掛けて行ったのは、後輩としての労わりなのだろう。たぶん。
359アリス◆XKI2z5mfl2:17/11/12(日)19:31:41 ID:XmA
>>355
「……っ!」

不意に抱きしめられ、アリスは戸惑いと同時に安らぎを、
そして恐怖を覚える。
自分なんかにそんな価値はない。
そう、思ってしまう。
そして、掛けられたその言葉すら憐憫からくるものだと思う。
否、思い込もうとする。

(……嗚呼、そうだ、僕は夜の蝶だ。
ひらりひらりと飛び回り、客の思う姿を演じる……そんな存在だ。)

そしてスルリ、とアカハネの腕をすり抜け、精一杯微笑んで見せる。

「年甲斐もない姿を晒してしまい、すみません。
僕のことはお気になさらずに。では。」

しかし、その微笑みはお世辞にも自然とは言えないほどにぎこちないものだった。
そしてそれに気付かないまま、アリスはその場を立ち去ろうとする。
360アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/12(日)19:41:35 ID:buO
>>359
すり抜けたことにより一度体勢を崩しかける。
それを踏みとどまって、聞き入れた言葉はアカハネには真っ直ぐに伝わる。

「君ほどの年頃ならば泣くも笑うも自然なことだ! 気にすることではない!」

それで終わり、とすることはなく続けていく。アカハネの言葉に侮蔑も憐れみも入ることはない。彼の言葉の中にそれらは入る余地はない。

「しかしアリスよ! 笑うならばもう少し固さを無くしてくれると俺は嬉しいぞ!」
「もし叶うならば! 次は良き笑顔を見せてくれ! アリスよ!」

すっ、と立ち上がって、堂々とした出で立ちで腕を組んだアカハネはどこまでも真っ直ぐに、熱を持って言い放つ。
去る姿に何も出来ぬ自分に無力感を抱く暇を自戒に変えて。
361名無しさん@おーぷん:17/11/13(月)18:20:20 ID:hlE
初めてです。キャラ作ったんでおかしいとことかあったら言ってください。
【名前】ソラ【性別】男【年齢】15~20?【容姿】黒髪ショート 目の色は紫 身長150~160位       
【性格】まだ決めてません、、、。 【能力】って何ですか?
【持ち物】決めてません 【職業】薬屋かな? 【背景】決めてません
362アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/13(月)22:48:23 ID:WKE
/キャラシはこちらにですのよー、【能力】は魔法とか特殊能力とかそういうやつですのだ

http://kohada.open2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1509598259/l50
363セレネ◆55Rq1Tu8Bo:17/11/14(火)23:29:20 ID:llr
>>358
あー、ごめん。ほんとごめん。
いや、マジ、マジだって。はー……あぁあ。

そんなことを思いはするセレネだったが、言葉にはならない。
吐き気やら頭痛やら、胃液が喉を灼く痛みやらのせいで、口から出るのはため息にも似たうめき声のみ。
毛布をかけられても、ルシアに向けて力なく手を振るので精一杯だった。

夜の町に再度赴くルシアを目で置い、その後詰所内にゆるゆると視線を戻す。
……視線の先で、他の自警団員たちが例の酒瓶を空けようとしているのが、見えた。
木のゴブレットに注がれて行く酒。減っていく瓶の中身。
もちろん、セレネの分はない。こんな状態では当然のことであったが……

「…………ひ、ひと……くち……」

ごん、と空のゴブレットがセレネに投げつけられた。
この夜。セレネが詰所内の“反省室”で一晩を過ごす羽目になったのは、言うまでもない。
364アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/11/17(金)22:05:11 ID:YAL
今日もこの街に夜が訪れる。
夜になればそこはヤツらが動き出す時。
今となっては以前と比べてすっかり様変わりしていたが、ヤツの本質はいつだって変わらない。

ここは街の酒場。夜になれば様々な人々で賑わい、多種多様な人種が行き交う交差点。
そこにいるのは人間だけではない。角のある者、尻尾を覗かせる者、はたまた全身を覆い隠す者……とにかくいろいろ。
かといって問題が合ったり起きたりしている訳ではない。何せここは比較的平和な街なのだから。

道に面した扉が開き、壁にかかっていた呼び鈴が音を鳴らす。
鈴の音と共に入って来たのは、全身黒いコートで身を包んだ比較的大柄な人物。
風体はどこか妖しさを感じさせるが、そんなぐらいで引き下がるような場所ではない。なんたってここは酒場なのだから。

「最近すっかり寒くなったわね。ワタシ冬って苦手なのよ。夜が長くなるのはありがたいけど、こうも寒くちゃ出歩く気も起きないわ」

独り言めいた言葉を口にして、その人物はカウンター席に一人腰掛ける。
店員と一言言葉を交わし、カウンターに肘を置き、リラックスしたムードでお呼びのモノを待つ。
ここは夜の酒場。人それぞれの時間が緩やかに動き、不意に交わる場所。
365レクス◆L1x45m6BVM:17/11/17(金)22:18:12 ID:rsi
>>364
酒場に現れた人物に客はそれぞれ反応を示したことだろう。どんな客かと探るもの、あまり気にせず再び酒を飲み出すもの、そして。

「おー、その意見には心の底から同意するぜ……冬の寒さは俺みたいな竜人にはキツいったらありゃしねえ」

その独り言らしきものに同調しようとするもの。
酒場の酒で熱を籠らせようと考えたものの酒気のみで越すにはなんともし難い外の寒さ。
少し堪えるにはやはり談笑の相手くらいは必要だろうと毛皮らしき衣装に胴体を包んだ竜人名乗る者が隣に座った。

「冬の寒さには強い酒か熱いミルクがいいと思うんだけどよ、あんたは何を頼んだんだ?」

カウンターに乗せたその片手には酒の入ったグラスが握られていた。金色の瞳を向けた竜人は角と尻尾を隠すことなく酒場全体に公開していた。
366アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/11/17(金)22:38:05 ID:YAL
>>365
「あら、アナタは竜人さん? 最近割とよく見るようになった気もするわね」
「ワタシも同意見よ。ってその話ぶりだともう聞いてたみたいね。その耳の良さも竜人譲りなのかしら」

何気ない独り言を目敏く聞きつけてきた相手にも、サラリと対応。
この時期の酒場にはよくあることだ。過去にだって何度も何も知らない誰かに声を掛けられたことは幾度となくある。
寒さと言うのは心にも寂しさを引き起こすモノなのだろうか。

「ワタシは寒さには強くないのよ。だから温かいモノで中から温めるのが一番」

カウンターの向こう側からその人物の前に置かれたのは、程よく熱せられたワイン。ホットワインというヤツだ。
熱するという行為はそう簡単に行えるものではない。特に個人の過程では特に。
だがこの店はそれを可能としていた。酒場は各種様々な客のニーズに対応できるようになければならない。特に酔った客は面倒だから尚更。

「家でやってもいいけど、面倒なのよね。それにあんまり炎の前には居られないし、ね」

誰かに向けたわけでもない言葉を隣の竜人の姿を目に入れることも無く呟き、一口流し込む。
367レクス◆L1x45m6BVM:17/11/17(金)22:49:45 ID:rsi
>>366
「やっぱり竜人ってのは珍しいもんなのかね、耳の良さはその通り、とも言えるけどな」

「それで酒を選ぶ辺りはあんたも好きだな、こういう店に来るってことは初めてって訳でもねえんだろ?」

ぐい、と酒を飲み干してカウンターに空のグラスを置くと次に頼むのは温めたミルク。飲み合わせは悪いとも見れるがそのあたりは気にしない性質のようだ。
まず性質や事情を知るものでなければお店を選ぶことは少ないという認識のためにそう質問を投げた。

「まあ酒を熱くするのは色々手順が必要だしな、だからこの店に集まる客が居るわけだが」
「炎の前には居られないってことはなんだ? 乾燥がダメなのかそれとも……『そういう』種族ってことか? その身体の隠し具合を見る限りよ」

待つ間、酒から口を離して余韻が去る頃にふと呟く。直後に少し滑らせたかのようにあっ、と言えば。

「別に無差別に狩ってるとかそういう生業じゃねえからな? 気を悪くしたなら悪いな」

あまりいい気分をさせなかったかもしれない発言だったことを謝りつつ店員が置いたミルクを手に取り、器の熱で暖を取った。
368アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/11/17(金)23:12:58 ID:YAL
>>367
「最近他の竜人の子を会う機会があったから気になっただけよ。アナタとは随分異なるタイプみたいだけれどね」

ふと以前遭遇した人物の姿が頭を過ぎる。あの子はこの場には合いそうもないわね、なんてことを考えつつ。
思わず口元が緩む。以前までならこんなことになるなんて思いもしなかったのに、いつからこんなに丸くなっただろうか。

「もちろん。お酒はワタシの血みたいなもの。止めろってったってそうはいかないわ」

一度はカウンターに置いたグラスを再び持ち上げ、一口、二口と次々に流し込んでいく。
気づけば中身はあっという間に空になる。それでも気にすることなく二杯目を申し付ける。

「ふふっ、随分と切り込んで来るのね。デリカシーのないヒトは女性に嫌われるわよ?」

嗜める、というよりかはからかっているようなニュアンスを含むような口ぶり。
言葉のわりに嫌な顔もせず、緩やかな笑みを含む顔が何よりの証拠だ。

「昔だったらこんなことする必要もなかったけどね、まだ周囲の目は難しいわ。ワタシは気にしてないんだけど、ニンゲンはそれじゃダメなのよ」
「ワタシが何なのかは竜人さん想像に任せるわ。だってそのほうが面白いでしょう? 謎はオンナを美しくするのよ」

横目で隣の竜人を時折見つつ、カウンターの奥に並ぶ多くの酒瓶に目をやりながら話を進める。
369レクス◆L1x45m6BVM:17/11/17(金)23:32:05 ID:rsi
>>368
「それはどんなタイプなんだ? 俺みたいなやつはそりゃ珍しいだろうけどよ」

脚は素で竜の脚に、翼が生えるのは背面ではなく腕が直接。当の本人ですら滅多に会わないタイプなのだ。
だからだろうか、どんなタイプで、どんな人物像なのか。気になるのは。

「ハハハ、そりゃ止められるもんじゃねえな、染み付いたもんは変わんねえ」

生え揃った牙を見せるように笑う様を見るに実に納得したようだ。若干酒の中毒を疑いかけたのは竜人だけの秘密である。

「……えっ、マジで? それは困るな、酒の酔いのせいだと思って許してくれねえ?」

思わぬところからの言葉に一瞬呆けた顔を見せる竜人、その後の笑みでからかいと取るとカウンターにつかない手を上げて謝意を示す仕草を見せる。
なんなら奢るぜ、とも言うかのように。

「ま、そのあたりはしかたねえわな、俺だって角とか鱗目当てに狙われたこともあるし、そこはニンゲンの尺度に任せるしかねえ」
「……クク、確かにな。まあその口ぶりだとお互い永ーく生きるだろうし知れそうな時に知るとするぜ」

意外と竜人にもニンゲンとのいさかいのようなものはあると語って見せた。

「そうだ、あんたから見てオススメの酒ってどれだ? 俺はこう見えても酒に馴染んだのがまだまだ最近でよー」

酒瓶に向いていた目線を品定めと取ったのか、ミルクを飲み干して二つ目のグラスをカウンターに置いてそう尋ねた。
370アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/11/18(土)00:00:57 ID:iG9
>>369
「アナタほど竜人らしくはなかったけどねえ、せいぜい尻尾があったくらいかしら」
「でも鱗はギッシリあったわね。おかげでちょっと苦労しちゃったけど、なかなかいい味してたわ」

遭遇して少々一悶着あった日の事を一つ一つ思い出す様に口にしながら語りだす。
……少々聞き捨てならない言葉が混ざったが、それはそれ。

当たり前よ、と口にしているとすぐさまお代わりが目の前のカウンターに差し出される。
すぐさま手に取り、上品に、しかしそれでいてすさまじいスピードでグラスの中身を空にして行く。だんだんエンジンがかかってきたようで。

「ふうん。だったらその言葉を信じてあげる。酔っていようとも自制心は忘れないことよ。もしくはもっと酒に強くなるか、ね」

ふふ、と横目で微笑み返して軽く隣の竜人の肩を腕で小突くのであった。コイツ飲ませてもらう気マンマンだ。

「ワタシの場合は過去の行いが原因って話もあるんだけどね。意外と後世まで逸話とか偏見は語り継がれてるモノよ。悪い気はしないけど」
「アナタがどこまで生きるか見ものね。楽しみに待っていることにするわ、竜人さん」

永く生きる者通しであったとしても、お互いの事を知る機会というのはそう多くない。
歯車の回転はお互いにかみ合うことで初めて同じように時を刻むことが出来るのだ。こうして互いにすり寄らない限りは永久に。

「そうねえ……あそこにあるのはどうかしら」
「年代も悪くなさそう。せいぜい100年程度ってところね。こんな場所に置かれてるものなら及第点ね」

カウンターに並ぶ酒瓶の中から古びたラベルのワインを指さす。
年代からするとそれなりの値段がするものであろう。この店では1、2を争う高級品だ。
しかしこの人物はお構いなしにそのワインを注文するのだ。二人の前にも程なくして並べられることだろう。人の金で飲むからと言ってなかなかの所業。
371レクス◆L1x45m6BVM:17/11/18(土)00:19:34 ID:fLz
>>370
「……腹柔らかそうだな……酒の酔いだと思っとくぜ。あんま油断すんなよ……」

その情報に当てはまる人物に心当たりがあるのだが、聞き捨てするにはやや過激な言葉を耳にしたためにこちらは嗜める意味で呼び掛けた。
少なくとも騒ぎになってはいないため、生命に関わる事情ではないのだろうと踏んだ。

「今日のはその教訓にしておくぜ、まったく酒に強いやつはそれ以外も強かで敵わねえなぁ」

小突きを受け入れと見て、ちょくちょく行う依頼のうち今日済ませた報酬は残らないと見通した。酒に強い相手に酒を奢るというのはそれだけ覚悟が必要なことである。

「そういうもんなのか? やっぱ長生きしてみねえとわかんねえことだらけだな」

「まだまだ若輩の身だからな、すぐには死なねえから期待しとけ」

齢20というのはニンゲンからすれば大人の仲間入り、されど人ならざる者からすればそれはもう子供も子供。
正体を知ることはいつか起きることだろうと見て、酒の場と力を借りてお互いに近付ければそれでいいだろうと若輩の竜人は若いなりに考えを巡らせた。
酒のせいでやや都合よくなってる気がしなくもない。

「……はー、なるほど、決め手は年代か値打ちかは聞かないでおくぜ。そして遠慮のなさはさすがだな」

年代を耳にしていくら馴染みが薄いとしてもすぐに察することができる高級品だということに竜人は呆れるよりもその強さを賞賛した。
人の金となれば遠慮がちなのがほとんどだ、とタカを括ってはいけないと経験するのである。

「一杯で済ませる、ってわけじゃねえよなあ?」

それまでの様子からわかりきってる気がする答えを聞こうとしながら注がれたグラスを目の前に持ってきて金色の瞳に映す。
そしてそのグラスを何の気なしに相手の方に掲げてみた。
372アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/11/18(土)00:46:17 ID:iG9
>>371
「伊達に年月は重ねてないわ。まだまだ若いし現役だけどね」

ばちこーん、と言った音が出そうな勢いでウインク。
見た目は十分若々しいのでそうは見えないだろうが、これでもかなりの年上である。先ほどのワインが霞んで見える程度には。

「こんな場にいれる内に勉強なさい。酒場なら酒のおかげで互いに話しやすくなってるモノよ。素面よりはマシでしょう」
「若いなりに当たってみるものいいけど、ワタシを手玉に取るにはまだ経験値が足りないみたいねえ」

元々酒場とは酒の力を借りて他人同士の交流を深める場でもある。今回の出会いも何かの縁であったのだろう。
これまで多くのニンゲンたちを見てきたその目には、この竜人はどう映ってるのか。それは本人にしか知り得ない。

「さあ、どうでしょう。アナタももっと年を重ねれば次第に分かってくるわ。その前にうっかり狩られないことね」

そりゃあこの人物を普通の人間を思ってはいけない。相手は一癖も二癖もある女だ。
一般的な常識で推し量れないからこそ、様々な逸話や噂話が集団の中で巻き上がる物だ。例えそれがよろしくないものであったとしても。

「もちろん。ワタシがこの程度で満足すると思って?」
「今日の日の出会いに。乾杯」

掲げられたグラスに応対するように掲げ、グラス同士を擦り合わせ、小粋な音が鳴る。
そのまま口元へと向かったワインは少し目を離した隙に空に。恐ろしいペース。
相手の金であることをいい事に、聞くような素振りも見せず、次のグラスにワインが注がれていく。
373レクス◆L1x45m6BVM:17/11/18(土)01:08:24 ID:fLz
>>372
なんとなくそのウインクに歳の歴を感じたことを、この竜人は酒に口をつけることで忘れたという。

「なるほどねえ、普段張りつめてる奴にも丁度良さそうだな。参考にさせてもらうぜ、姉さん」
「そりゃ女を手玉に取れるほど経験もねえし、上手くもねえがよ……」

酒場で声かけという行為がナンパなるものになると体感する一方、そういった経験の無さには本人も呆れ気味。
謎多き女を姉さんと呼ぶのはその経験値の差……だけではないだろう。

「どこまで重ねりゃいいのやら。狩ろうもんならそいつには二度と楽しい声も騒がしい賑わいも聞こえねえことだろうな……と物騒な話はここまでだな」

この相手を容易に扱えるとは思わないことにした。それこそ酔わせる手もあっても、それこそ度数の高い酒の原液や値の高い酒を浴びせないと酔う様子も……見えてきてなくもないだろうか。
危ない雰囲気は本格的になる前に鎮めて誤魔化す。ロアールの街並みに物騒な話や暗い話は似合わない。この酒場の賑わいも含めれば尚更だ。

「思ってねえから言ったんだよ」
「乾杯。次もできるといいな?」

祝杯の大きな音とは異なる心地よい響きを楽しみ、さあ一口と煽った直後、思わず噴き出しそうになったペースに目が丸くなった。

「……もうちょっと味わおうって思わねえ? ワインも喉越し! ってなるのかよ長く生きると」

こうなれば、とそうそう手は出さないはずの酒で大事に飲もうと思っていたことなど捨て去って女に負けぬようなペースで飲み干す。
そう、どうせ払うなら自分も楽しもうという最初の奢りはどこへ? という思いである。とはいえ流石に竜人は経験が浅い。
ペースには追い付きそうで追い付けず、大半は突き放されることになっていることだろう。それこそ店員が止めもしない限りは瓶が空になるまで。
374アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/11/18(土)01:32:53 ID:iG9
>>373
「そうねえ、ワタシが見てもアナタがこんなこと出来るとは思えないわ」
「そんなアナタがどうしてワタシの所まで来たのかは気になるわねえ。もう出来上がってたりしたかしら?」

明らかに年下かつ女性の扱いに不慣れそうな相手を見るとついちょっかいの一つでもしたくなるのが性と言うものか。
前より弄ぶような言葉が増えてきたような中で、竜人の頬を人差し指でツンと突いてみようとしたりするのだ。

「はい、そこまで。ここは酒場よ。そんな辛気臭い話をしに来た訳じゃないってことくらい分かるでしょ」
「そういう話なら翌日にでもいくらでもなさい。でもお酒があるこの場では、考えない方がもっと楽しむことが出来るでしょうね」

話が本格的に深みに陥りそうな所で止めようとする。が、これがこの場に似合わないという事は向こうも十分に理解していたようで。
安心したように酒の手を進める。ここに来て酒をマズくさせる訳にはいかなかったのだ。

止める間もなく、彼女の速度は次々に加速していく。いつなくなるんだとか、肺活量どうなってるんだとか言いたくなるペースで。
この速度でも顔色がほとんど変わらず、元の青白い肌のままであることを見る限り、彼女の酒に対する強さは相当のモノだろう。
どこまで行けば酔いつぶれるのか、といったことは考えない方がよさそうだ。その前に財布が吹き飛ぶことになる。

「あら、これでも十分味わってるわよ。あんまり強くないからジュースみたいなモノだけどねえ」
「これならまだ家の地下に眠ってる樽のほうが強いわねえ。温めるの面倒だからこれでもいいけど」

竜人のペースよりもはるかに上回っているだろうというペースで飲み進めている女性。
指摘を受けペースは多少落ちたが、気づけば先ほどは十分に存在したワインの中身も、気づけばあっという間に空に。
それでは飽き足らず、まだ他の酒にも手を出そうとしている始末。本当に財布を失いかねない勢いである。
375レクス◆L1x45m6BVM:17/11/18(土)01:51:20 ID:fLz
>>374
「気まぐれって言葉で済ませるのもなんだけどな、寒さが苦手だって同志を酒場で見つけりゃ話し掛けるのは変な話かね? こういう訳でコートは着れねえけどな」

バサッ、と誰も居ない女とは反対側の席に腕の翼を広げて、閉じると元の人の腕に戻す。
その実態はとても単純。毛皮を纏うくせに腕だけは晒してるちぐはぐに見えなくもない姿にあきれを覚えても仕方ないだろう。それを翼を見せて、すぐにしまって袖のない事実を知らせるのは慣れからか。
その頬には鱗が見える。ここに触れるならば硬い手触りを感じることだろう。その時の竜人は少し擽ったそうな面になっている。

「カカ、悪い悪い。寒さに勝つために熱い酒を楽しみに来たってのにな、これじゃいけねえいけねえ」

これでは女を誘うことも難しいと見るしかないだろう。そのくらいまだまだ浅い、浅すぎるのだ、竜人の経験値というものは。
戦いの場でなら長命な先駆者にも引けはとらぬはずなのだが。

空になった瓶をどことなくもったいなさそうな目で見つめる。果たしてこの酒をすべて費やしたとして相手は酔ったか? と考えるならこれにはノーと言わざるを得ない。
それほどまでに酒は足りず、女の顔色は変わってない。大して竜人には赤みが見えてきている。酒豪になるにもまだまだ未熟者だ。

「おう普通ワインってのはジュースみてえに飲むもんじゃねえと思ってたがさすが姉さんはそこから違うと来てくれたか」

そんなことを言っている間に品定めを始めてる女を見て、竜人はふと今回持ち合わせた報酬と酒の値段を確認してにらめっこ。そして。

「悪いが頼むならあと一本程度にしてくれ? 奢る矢先に支払いで金がねえって喚くのも情けねえからな」
「いやこの時点で情けねえのは百も承知だけどな?」

酒の酔いを財布の消失で醒めさせてもらっては色々困ると、譲歩案(?)を提案する竜人であったという。
376アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/11/18(土)02:20:19 ID:iG9
>>375
「ま、そういうアプローチの仕方も悪くないわ。及第点ってとこね」

寒い寒いと言いながらも自ら望んでしているとも見える薄着を見れば、声をかけるための手段として捉えるのも無理はない話だろうか。
しかしこれでは文句としては甘い。こちらの評価もなかなか手厳しい。

「いい鱗に翼ねえ……。剥製にして飾りたいくらいよ」
「……冗談よ。本気にしないで頂戴」

鱗特有の鋭くも強固な感触を確かめながらポツリと口にた言葉は、割と冗談には聞こえなかった。

と、次に手を付ける酒を選出している最中にかけられる言葉。詰まる所敗北宣言、ギブアップということか。
観念したかのように軽くため息をついて、品定めをしていた手を止め、竜人の方を向いて。

「仕方ないわね、今回はこれぐらいで勘弁してあげるわ。これでわかったでしょう? 奢る気でいるならもっと用意してから望む事ね」
「それに、あんまり男性に恥をかかせる訳にはいかないし、ねえ」

いくら得体の知れない存在であっても、マナーや礼儀は弁えている。これが真の大人の流儀というものである。そんなものがあるかどうかは置いといて。
それに彼女はすでに満足していたのだ。酒の席で時間を共にし、他愛のない話に花を咲かせる相手がいたという事実に。
それだけで十分だったのだ。少し手が出てしまったのは諦めて。

「今夜は楽しかったわ。あなたもいい夜にして頂戴。まだまだ夜は長いんだから」
「またどこかでお会いしましょう、お若い竜人さん」

コートを翻し、酒場内に急に吹き込んだ風と共に、扉の鈴を鳴らして彼女は去って行く。
彼女がいたカウンターの前には、数枚の金貨が置かれていた。
 
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377レクス◆L1x45m6BVM:17/11/18(土)02:36:26 ID:fLz
>>376

「手厳しいことで。…………酒って怖いよなー」

死後に剥製にされるとはどのような気分だろうか。
と考えてはループに入りそうなのでここは酒の酔いのせいだと思い込むことにした。酒とは便利な言葉である。
実は褒められたことは嬉しいので、それもあっての冗談飛ばしだが。

「そうだな、姉さんみたいなやつが高い酒の大酒飲みともわかんねえし、今度からは気を付けるわ」
「そいつは助かるぜ……。まったく慣れねえとこに手を出してくもんじゃねえな」

安心した、という風に頬杖をついて竜人はすまねえ、と言いたげな態度で呟いていた。
奢ると言われて遠慮しないものも、またしたとしても基準が吹っ飛んでるものも居る。竜人はそれに当てはまる二人に遭遇している。
ひとまず今回の出費は授業料として快く払おうと。

「おう、こっちも寒さ忘れるくらいには楽しかったぜ。今の時点でいい夜になってるけどな」

「じゃあな、黒コートの姉さん」

ひらひらと見送って、さて酒を追加する前に払うか、と思った矢先に金貨を見つけて、店員と見合ってからふっ、と笑って。

「こりゃ敵わねえっこった。……しっかし、不思議な姉さんだったなー」

この後、酔いが回るまで酒場で熱を帯びていた竜人であった。
378ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/18(土)21:31:46 ID:iG9
ここはコスタ・ノエの街。昼間になれば多くの人々が通りを歩き、店頭で取引をする商人たちの声が響き渡る。
その通りの中に、そう大きくはないが割と存在感のある建物がある。
この何故か修理途中の壁がある建物の上には「コスタ・ノエ自警団 詰め所」と書かれた文字。

「この品を届ければよろしいのですね? しかし、今ルシアがここを離れてしまいますと巡回に回る人数が減ってしまいますが」
「……はあ、かしこまりました。それでは行ってまいります」

数人が壁の補修に回っている建物の扉から一人の人物が出てくる。
頭には白いヘッドドレス、袖の長いメイド服に身を包み、その手には彼女が自警団であることを示すような長い棒。そして手紙。
口元は異様に長い襟で隠されており、表情は読み取り辛い。変わっていないという説もあるが、それは追々。

普段の彼女ならば間違いなく通るであろう街の巡回ルートとは少し外れたルートを、彼女は歩いていく。
さすれば次第に彼女の目的地が見えてくる。街の比較的中心部にそびえ立つ、人の出入りの多い建物。
ここは人々から「ギルド」と呼ばれている場所である。

「そういえばギルドはあまり通りませんでしたね。ここはルシアの巡回ルートからは少し離れている所ですから」
「さて、目的の方がいらっしゃればいいのですが」

扉を開け、彼女はゆっくりと首を回しながら入って行く。彼女の言う目的の相手を見つけるために。
379ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/18(土)21:53:20 ID:H4B
>>378
ギルドの扉が開かれるとガヤガヤ話声と共に大勢の人間が中で行き来している。
活気に溢れる、と言えば聞こえがいいがその実は単に職探しを行う人間が特に昼下がりに多く集まるというだけの事。
不真面目な冒険者は夜遅くまで仲間と共に談笑を続け、昼間に起きてのそのそと仕事を探す。
秩序がある自警団とは異なりある意味愉快なダメ人間が集まる場所。その片隅に本を片手にどこから持ってきた椅子に座る女性がいた。
一見すると悪目立ちしているようにも感じられるが、誰も特に気にする様子もない。
まあこんな人間もいるか、と受け入れられているようだ。
気真面目な人間であれば耐えがたき無秩序の中で時折入り口を眺め誰かを待っているようであった。
380ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/18(土)22:12:39 ID:iG9
>>379
ギルドの中は普段ルシアが所属している自警団とは割と異なる空間であった。
いかにも腕に自信のありそうな冒険者たちで中は賑わっており、あちらこちらで自身が体験したのであろう冒険談を語り合っており。
雰囲気だけなら自警団のほうが秩序が保たれている……と言いたいところだが、そういうモノでもないのがこの街であるが所以である。
自警団でも酒盛りは定期的に開かれるし、少々酒癖の悪いメンバーが存在していたりと、実際の所どちらも大差はないようにも思える。
その影響か、彼女の中には名状し難い安心感が芽生えつつあるのであった。

「さて、この人の量では探すのも一苦労ですね」
「中に大抵いるから見ればわかる、と言われたのはいいのですが……」

なかなかの密集度を誇る人の中では人探しも一苦労。
おまけに相手の人物像も詳しく聞かされてないのだから溜まったものではない。大体適当すぎるのだ。

しかし、その人ごみの中で一人の人物を発見する。時折気にするようにギルドの入り口を気にするような目線。そして聞かされていた前情報。
疑惑から確信へともう一歩情報が欲しかったが仕方ない。非常に適当な用件で使いを出した向こうが悪いのだ。
遠めから見ていた彼女の姿を捉え、彼女の背からゆっくりと近寄って行く。

「……ラナ=リンドヴァル様でしょうか。自警団からやって参りました、ルシアと申します」
「自警団の者より預かり物を頂戴しておりますので、どうかご拝見を」

彼女の前のテーブルに預かり物である手紙を置く。本人である確証は持てないが、行くしかない時は存在するのだ。
381ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/18(土)22:41:21 ID:H4B
>>380

「あら、どうも。ありがとう。お疲れさまです」
「受け取りに行ってもよかったのかもしれないけど、その事実に後から気が付いてしまってね」
「無駄に歩かせてしまってごめんなさいね」

ルシアへ向けて一礼すると手紙を手に取り、差出人を確認する。
と丁度その時、ギルドの一角が騒がしくなる。何やら揉め事が起こったようだ。
中心人物であろう二人の争いが耳に入ってくる。

「サニーサイドアップにはソースだろうが!」
「ああ? 味覚障害かよ! 目玉焼きには塩に決まってんだろ、常識的に考えて!」

くだらない争い。溜息をつきながらラナは興味なさげに手紙の封を切った。
マヨネーズに決まってるでしょう、と小さく呟きながら。

その言葉を誰かが聞いていたのかはたまた運が悪かったのか。
醤油が詰まった瓶がこちらへ向けて飛来する。丁度興味が逸れたことが災いしたのだろう。
手元の紙はみるみる内に染め上げられていく。お手紙の醤油漬けの完成である

「…………。えーっと、ルシアさん? 中身を盗み見とかしてないかしら?」
382ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/18(土)23:00:34 ID:iG9
>>381
「いえ、ルシアは自警団として当然の仕事をしたまでです」

長い襟足に囲まれたルシアの表情はピクリとも動かず、感情の欠片も感じられない瞳がラナを見つめる。
言葉も非常に平坦で起伏すら感じられない物。人間と呼ぶには少々冷たすぎる感触を受けるかもしれない。

と、ここで背後より飛び交う言葉の暴力。そして物的被害。
失礼、と一言ラナへと言い残し、先ほどの騒ぎの中心人物であろう二人の元へと歩み寄る。

「お話し中失礼いたします。施設内での暴力行為は特別な例を除き禁じられています」
「このまま態度を改めないのでしたら、規則に則りルシアは貴方がたを自警団へと連行する義務が発生いたしますが」

「それと。サニーサイドアップにはトマトソースが最適である、と提案します」

用事の邪魔をされたからだろうか。はたまたこの二人の行為を見過ごせなかったのか。
堂々とした態度でまっすぐに言い放つそれは、非常に手慣れたものであった。
もしかすれば、コスタ・ノエの街を歩いている最中に目にした事があるかもしれない。道行く人へ突如としてメイドさんが詰め寄っていき、何かを言っていく姿を。
そして被害に遭った人物が、彼女の事をあまり快く思っていないという事を。

席を立って申し訳ありません、とラナの元へと戻っていくルシア。

「中身を見るような行為は行っておりません。この品を届ける事がルシアに課せられた使命ですので」

当然と言えば当然の反応。手紙の内容は深い闇の中へと葬り去られることになるのか。
383ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/18(土)23:24:06 ID:H4B
>>382
「ええ、まあそうよね。そもそも一介の冒険者宛ての手紙なんて興味ないわよね」

自警団経由で自分宛ということで中身はおおよそ想像付く。
険しい表情で紙切れの端を掴み、ヒラヒラと紙を振り乾かしてみても滲んだ文字は浮かび上がってこない。
ただただ食欲をそそる匂いを漂わせるだけである。一部を読み解ければ内容も把握できる筈ではあるがこのまま続けても望み薄である。

さてどうしたものか。
本来、自警団へ足を向けてもよかった訳であり、今から向かって涙ながら事情を語ってもいいが自分で染め上げたと思われるのも癪である。
それに……。

(あの人を放置しておくのも問題かしら?)

脳筋相手に道理を説いても無意味であり、流れに棹させば巻き込まれる。
ある意味ルシアは自分が呼び出したようなものであり、放置するのも忍びない。

「ごめんなさい。お仕事増やしちゃうけど自警団まで案内してくれないかしら?」
384ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/18(土)23:46:24 ID:iG9
>>383
頭の上に疑問詞を複数個浮かべながら失礼、と言葉の後に手紙を覗き込む。
中身は当然真っ黒に染められており、中の文章を確認することなんて不可能にも近い。

「申し訳ありません。もっと早く投擲物に気づいていれば……」

少し顔を俯かせ、しょんぼりと落ち込んでいる……ようにも見えなくもない状態。しかし表情は据え置きである。
それに先ほど詰め寄ったはずの人々にもイマイチこちらの文句は伝わっていないようであり。
ルシアは居場所を無くしていたのである。目的を無くした生真面目人間は、このような状況になると途端に硬直してしまうのである。

しかし助け船は思いもよらぬ場所からやって来る。

「了解しました。それではルシアとご同行願いします。先ほどのお二方への対処は後程行いますので」

ラナが動くよりも一足先にギルドの扉を開け、彼女が出たことを確認次第、ルシアも向かうことだろう。

詰め所への道中でも、ルシアは巡回の目を解こうとはしない。
彼女はいつでも、この街の事を思って日々の活動を執り行っているのである。ただ少々度が過ぎるだけであって。
しかしラナを送り届けるという仕事を忘れていない訳ではない。
彼女の歩く数歩先を常に保ち、彼女に詰め寄る不届き者が現れないか、迫りくる脅威は存在しないか、と目を光らせている。

しばらく歩けば無事目的である自警団の詰め所が見えてくることだろう。現在は壁の補修中であるが。
中に入れば、手紙を寄こした張本人が待っている。その人物と言葉を交わせば、今回の手紙の内容も無事に伝わることだろう。
385ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/19(日)00:18:28 ID:jTg
>>384
「いいのいいの。対処なんてしなくていいのよ。だって犬のじゃれあいみたいなものよ?」
「仲裁にかける労力も無駄だし、ましてや首を突っ込んで火種に薪をくべるのもよろしくないわ」

さあ、向かいましょう。と声をかけるより早くギルドの扉に手を掛けるルシアを追いかける形で外へ出る。

――――――
――――
――

(気まずい……)

世間話の一つや二つさえも行うことなく巡回の任に就いたような出で立ちのルシアの後ろについて歩く。
縄は付けられていないが連行されるような気分である。
引き延ばしたような時間の中で、気力を失った囚人のように素直に案内を受け入れていると自警団の詰所が目に入る。
禄でもない謎の穴に不思議な親近感が湧き、ようやく生きた心地が戻ってくる。


「――――という訳で、私の不手際で文書を喪失したので、改めて内容を尋ねたいのですがよろしいでしょうか?」

自警団も厄介な人間の相手は手慣れているだろう。所詮日常のことと済ませられる失態に過ぎない。
任務完了!
386ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/19(日)00:40:05 ID:oZT
>>385
ルシアのこの行動はラナを守ろうとする気持ちの上での行動なのである。
しかし、それが返って彼女にとって居心地の悪さを増す原因となっているとは思いもしていなかったのであるが。
当の本人は、当然の仕事と思っているので、気まずさの欠片も感じていないのである。

「ではルシアはここでお待ちしております。依頼主はこの先でお待ちしておりますので」

詰め所にたどり着くなり、ルシアは扉を開け、ラナを誘導して扉付近で待つ。
プライベートな用件を聞くつもりはないのだろう。あくまでも彼女はメイドなのだ。侍女としての役目は客を守ることである。

『いやあ、数日前に連行してきた奴がいたんだけど、目を離した隙に逃げ出したみたいなんだよねえ。しかも近場のダンジョンに逃げ込んだみたいで』
『ダンジョンだと奴の安否も心配だから連れて帰ってきてはもらえないかね。アレだったらそこのルシアでも連れて行ってくれて構わないからさ』

自警団の用件であっても、ダンジョンにまで行かれてしまうと流石に手に負えない。得意としている環境が全くことなるのだから。
ここで頼ることになったのがダンジョンキーパーとして所属しているラナである。
ダンジョンに精通している彼女であるならば、手早く迅速に仕事を遂行してくれると見込んでの直接談。一番重要なのはうっかり逃げ込んでしまった奴の安全確保なのだから。

さあ、本当の仕事はこれからである。
387ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/19(日)01:05:28 ID:jTg
>>386

「それもう放置して殺していいんじゃないかしら?」

苦笑するラナに対して首を振る依頼主。

犯罪者が容易に逃げ込めるということは素材の質が悪かったり探索し尽されたりとキーパーが存在しないような場末の迷宮であるということだ。
在中のキーパーが存在しなければ当然身代わりの碧玉も無い。
本来であれば潜る価値さえ無い場所であるが、迷宮である以上は危険性は十分に存在する。

今回の依頼内容は迷宮へ身代わりの碧玉無しに素早く突入して、しかも相手の身を安全を確保しろという内容。

死ねと!?

覚悟はしていた。臨時でやってる人間に回ってくる仕事なんて血反吐を吐くようなものばかりだ。

「はいわかりました。わかりましたけど! 危なそうなら帰ってきますからね! あとルシアさんは人身御供として連れていかせてもらいますから!」

慌しく扉から出ると支度に向かう。ダッシュで街中へ向かおうとするも視界隅に移ったルシアに任務を伝えねばと慣性に振り回されながら足を止める。

「自警団の仕事です。ダンジョン内の犯罪者の確保。次の教会の鐘が鳴る頃までに準備を整えて牧場まで来てください。マオ鳥を使いますよ」

一方的にまくし立てて嵐のように去っていった。
388ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/19(日)01:21:36 ID:oZT
>>387
『こっちだって安全を守るのが仕事だからねえ、例え悪人でも命を粗末にするわけにはいかないんだよ』
『ダンジョン慣れしてる人員がいない訳じゃないんだが、ソイツもちょうど今休み取ってるんでねえ。こういうのは早めに済ませたいわけよ』

『ま、そういう感じで。よろしく頼むよー』

あまりにも無責任な話である。本当に。
元はと言えば自警団側のミスなのであるが、危険な状況の中で向かわなければならないのはギルド側。
一応自警団側からも人員提供があるのはせめてもの謝罪の気持ちだろうか。

さて、仰々しく扉を開けた先にはルシアが待っていた。ずっと待っていたのだろう。律儀である。
ラナの態度に特に驚いた様子もなく、そのままの表情で彼女を迎える。

「ダンジョンですか。ルシアも同行するのですね、かしこまりました。準備を済ませておきます」
「それではお待ちしております」

去って行くラナを見送り、ルシアも準備のために詰め所内へと戻っていく。
そして数刻後。教会の鐘が鳴り始める前に、ルシアは牧場にて立っていた。先ほどと全く変わらない姿で。
389ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/19(日)01:37:12 ID:jTg
>>388
時間ぎりぎりに走ってやってきた為、待っていたルシアに合流する形となったが、規律正しく待っていたルシアの姿に呆気にとられる。
いや正しくは彼女の装備に対してだ。

電撃作戦を決行するのだ。ラナも重装備をしてきた訳ではない。
それでもウエストポーチが膨らむ程度の準備をしてきた。

真面目な彼女の事だ。心配があるとしたら過剰な重装備をしていないかといったもの。
彼女の姿は予想外だ。真面目さを投げ捨てたのか? キマジメでは無くキジルシだったのか?
ラナは眉を顰めて口を開く。

「えーっと、それで……大丈夫なのかしら?」
390ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/19(日)01:51:23 ID:oZT
>>389
鐘が鳴り、ラナの姿が目に入ると、ルシアは彼女に向けて一礼をして待ち受ける。
短期間とはいえ、ウエストポーチ一杯に装備を整えた彼女とは異なり、ルシアの姿は先ほどまでとほとんど変化がなかった。
一つ変化を言うならば、長いスカートの膨らみが若干先ほどよりも大きく見える程度だろうか。
しかしそれも指摘されて初めて確認できる程の変化。そう簡単に気づけるモノではないだろう。

「お待ちしておりましたラナ様。ルシアは準備万端でございます」
「自警団の方からも用件は伺っております。今後の街の治安のためにも、迅速かつ的確に行動いたしましょう」

愛用の棒を片手に淡々と口にするルシア。
正直この装備でダンジョンに潜れるとは思えないが、直々の推薦があるくらいだ。とりあえず今は信じるより他はない。

すでにマオ鳥の手配は整っている。二人の元にマオ鳥は迅速に届けられることだろう。
これに跨り、少々の時間が過ぎれば、二人は目的の洞窟の前へとたどり着くことだろう。
街からの距離はそう遠くない。奴が逃げ場として選んだ理由も頷ける。
391ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/19(日)02:06:17 ID:jTg
>>390
「うん。大丈夫ならいいのよ」

調子が狂わされっぱなしではあるが今まで受けてきた印象を信じる他無い。
むしろ信じたい。

「さて向かいましょう」

マオ鳥に騎乗すると慣れた様子で手綱を引き、飛翔命令を下す。
巨長らしいけたたましい鳴き声と共に寒空の中、旅が始まった。

幸いにも天候は良く、更に空の旅である以上は野党などの邪魔も入らない。
大した時間も掛からずに洞窟前へとたどり着いた。
手綱を木に括り付けマオ鳥の頭を撫でて宥めると迷宮攻略の準備に取り掛かる。
392ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/19(日)02:24:18 ID:oZT
>>391
こうして文字通りひとっとびしてたどり着いたダンジョン前。
入り口付近を見れば、そう遠くない時間にダンジョン内に何者かが侵入したであろう足跡といった痕跡を確認できるだろう。
出ていったような痕跡は見当たらない。中で未だに燻っているか、あるいは何らかの事故が発生したか。
どちらにせよ、調べるには実際に中に入るほかはない。覚悟を決める時が来た。

本来のダンジョンであるならある程度の身の保証はされている。それは先述の通り。
だが今回は急な話であったため準備もまともに出来ていない状況。果たしてどれほど影響するか。

「では行ってまいります。何かありましたらお声かけ下さいませ。ルシアはこのような場に赴いたことがありませんゆえ」

準備をするラナを他所に、早速ルシアはその身一つでダンジョンへと足を踏み入れる。
内部は薄暗い通路が続く。魔物の気配もなく、不気味な雰囲気と、ルシアの息遣いが聞こえるのみ。
中で仕掛けられていたのであろうトラップも、全て起動後の状態で転がっている。血の跡の時折見かけられる。

「ダンジョンとはこのような場所なのですか。自ら好んで住もうとは思いませんが」

イメージしていたモノと異なっていたのか、そんな言葉を言いながら。
その時、曲がり角の奥から何かが動く音がした。自然に起こったとは思い難い不自然な音。何かいると考えるのが自然か。
棒の先を静かに向けながら、一歩ずつゆっくりとその角へと向かっていく。
393ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/19(日)02:40:44 ID:jTg
>>392
ラナは入り口横で詠唱を始める。魔力によって構成された大掛かりな魔方陣は時に広がり、翻り、綴られ、収束して効果を発揮する。
唱えた呪文は光払い。視覚的な隠蔽を行う呪文である。


身代わりの碧玉を機能させる為の陣を敷いたり下準備の手伝い等の業務は誰かしらが行う必要があるが、ダンジョンキーパーが素材の回収を行えるのであればキーパーを育て上げるべきである。
では何故それが行われないのか?
答えは簡単。
キーパーの存在が採取採掘という面でプラスに働かないからである。
キーパーが直接救助を行う場合、悪知恵を効かせて攻略する。それが可能な人間である。ただそれだけである。
一例を挙げると、ある者は『一定時間不死になる魔法』によって突撃し目標を達成した後に魔力が切れる前に帰還。
その後に身代わりの碧玉片手にダンジョン入り口で魔術を解き自殺し、碧玉の効果で完全再生。すぐ傍の遺品を回収して任務クリアといった具合である。
酷い人間になると迷宮の内外がねじ曲がっていることをいいことに壁抜けを行ったりとやりたい放題である。

ラナの迷宮内移動方法は光払いの魔法を維持しながら精神回復役をがぶ飲みしながら移動するという単純なもの。
ある意味正攻法であるがこの場合は、薬代により採算が取れない、安全性に不安が残るのが欠点である。
それ故に臨時のキーパーであるのだが。


ヤケクソ気味に匂い消しの灰を被り、準備は出来た。

「極力音は出さないで、マントの裾でも掴んでついてきて。トラップだけは注意してね。」

と、ルシアがいたであろう場所に声を掛けるも返事は当然無い。おかしい。無視を行うような人物ではない印象を受けていた。
完全集中状態に入っていた為に行方も分からない。

ダンジョン入り口を見ると記憶違いで無ければ内部へ向けての痕跡が増えているでは無いか!
小走りでルシアに追いつくと隠蔽の魔法を解き背後から声を掛ける。
正攻法で進むなら姿を現した方が個人の負担が出来る。用意した精神回復役は今度使う事にしよう。

「うん、運がいいからね。トラップも起動されているからね。正攻法でも大丈夫だと思うわ」
「でもホントに注意してね。ホントにね」
394ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/19(日)03:01:22 ID:oZT
>>393
とまあ、そんなキーパーの苦労なんて考えることも無く、ひたすら前に進んでいくルシア。
本来ならば気を付けるべきであろう隠ぺいやらも気にすることなく前進を続けていくのであった。

ちょうど曲がり角付近へと到達する前、背後からの声に振り向けば、そこにいるのはラナの姿。
ルシアの事を心配していたようだが、本人にそんな自覚は全く存在せず、ただ一礼して迎えるのみ。

「申し訳ありません。自警団より迅速に事を済ませるように頼まれていましたので、つい先走ってしまいました」
「これからはラナ様の指示に従います」

と、ここで先ほどの物音。何かがいることは間違いなさそうだ。このタイミングから図るに。

「この先、何かがいるかと思われます。もしやすると、例の方かもしれません」

棒を構え、ゆっくりと角を曲がったその時、壁の向こうから何かが現れる。
それはヒトであった。人相の悪い顔、長く伸びた頭髪とヒゲ、やけに傷だらけの身体。間違いない、奴が今回のターゲットだ。

『ウォーーッ!』
「なっ、そちらですか!」

突如として飛びかかって来た悪人は不意打ちにてルシアの棒を払いのけ、そのまま彼女を突き飛ばす。
次に目を付けたのは、後続に控えていたラナだ。少々精神は錯乱しているようだが、隠蔽の魔法もない今は確実に認知している。
このまま勢いに任せてラナをも突き飛ばし、ダンジョンからの脱出を図ることだろう。そうなれば今回の作戦も失敗だ。
だが忘れないでほしい。あくまでも今回は奴の身柄は確保せねばならない。この要求は少々難しいモノがあるだろう。
395ラナ◆pTPITQpM1Q:17/11/19(日)03:19:54 ID:jTg
>>394
「私はねえ! 後衛なのよ!」

半狂乱になった相手に対して、先にルシアへ攻撃した隙と合わせると十分なカウンターの準備が出来た。
飛び掛かってきた相手に対して、ラナは重心を落とし肩で突き上げるように体当たりを返す。
相手は転倒するも大したダメージにはならない。
起き上がる男に対して腰に下げた剣を大げさな動作で引き抜き強く地面に打ち付けた。
甲高い音と共に火花が飛ぶ。少しでも相手の動作を制すればいいのだ。

位置取りを考えた際に男の背後にいるであろう自治のプロ。捕縛の技能に優れているであろう人物に視線を送った。
396ルシア◆hHo5Paj/Yc:17/11/19(日)03:42:54 ID:oZT
>>395
ラナの尽力により、男の動きは妨害される。真っすぐ地面に振り下ろされる剣は、突撃を踏みとどまらせるには十分であった。
初めて炎を目の当たりにした獣のように、その身を下げる男。精神が不安定になると獣に近くなるという話はどうやら本当であるらしい。
だがそれでは終わらない。男の後ろにはすでに体勢を取り戻したルシアがいるのだから。

「申し訳ありませんが強硬手段を取らせて頂きます。どうかご覚悟を」
「――成敗ッ!」

勝負は一瞬であった。男が振り向くより前にルシアの持つ棒が奴の後頭部を叩く。
スコーン、と景気のいい音が通路に鳴り響き、そのまま奴は前のめりに倒れ込む。

このダンジョンの罠が作動していたのも、奴が全て踏み荒らしていたからであろう。血の跡があったこともこれなら頷ける。
ここまで酷い目に合って未だに無事で居られているというのは、悪運が強い証拠なのだろう。たぶんきっと。
幸い奴が恐れを為して出口付近にまで戻ってきていたおかげで手早く済んだが、奥の奥まで入り込んでいたならば、魔物との遭遇も覚悟しなければならなかっただろう。
本当に今回は運に恵まれていた。お互いに。

「本日はご協力ありがとうございました。この方の身柄はルシアが責任を持って自警団まで連行しますので、ご安心ください」
「報酬の程は後日自警団を通じて運ばせて頂きます。それではルシアは仕事が残っておりますのでお先に失礼させて頂きます」

無事にダンジョンの入り口へたどり着き、捕獲した男の身柄を乗って来たマオ鳥の背中に乗せて、今一度ラナへと礼を。
今度からはこのようなミスを仕出かさない事を祈るしかない。この尻拭いを命がけで行うのは、彼女らのような人員なのだから。
ルシアは男と共にマオ鳥と飛び去って行った。先ほどよりも高度の低い飛行と共に。

後日、ラナの元へ気持ちばかりの食料と酒を持ってルシアが現れることになるが、これはまた別のお話。
397ソラ◆.hFeg/F0PY:17/11/21(火)17:11:41 ID:2hU
「今日オープンしたお肉屋さんだよー!」
そう叫びながら少年がチラシを配っている。
いや、正確に言えば投げている。
チラシには

『本日オープンした肉屋です』
『オープンセール10%引き!』

と書いてあるのだが字が汚くて読めない。

「あー疲れたーチラシ配りって大変だなー」
「でもあれだけ配ったら1人位はお客さん来るよね!」
398アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/21(火)21:15:50 ID:hby
>>397
毛先が黄色い赤髪の青年は投げ配られていたチラシに目を通していた。
そして読み終えてからの第一声は。

「読めんな! まあなんとかなるだろう!」

新しく出る店はコスタ・ノエでは珍しいことではないが、どんな店かさえわかっていればあとは聞き込みでなんとかなるだろうと。もしくはチラシに店の場所が地図で書かれているはずだ。
どちらにせよそれらを頼りに辿り着いた少年の店で店主だろう人物に呼び掛けた。

「ここがこのチラシの店か!? もう少し字は丁寧に書いた方がいいぞ! それと量が多く、安価な肉をもらいたいがあるか!?」

客の一人がこの青年である。笑顔でこの台詞だが、店主(?)の応対はどうだろうか。
399ソラ◆.hFeg/F0PY:17/11/22(水)15:24:35 ID:NJM
「お客さんだー♪」
少年の大きな紫色の瞳が輝いた。

と同時にナイフが飛んできた。
ナイフは青年の首筋にかす...る前によけた。
いや、避けなくても当たっていなかっただろう。

「こんにちは!一番安いのは鹿の肉!...だったと思う。」
「10%引きだから.....。」
どうやら計算も苦手らしい。

「とりあえずそこに値段書いてあるから見て!」
と言って誤魔化した。
客にする対応だとは思えない。
値札の字は先ほどの汚い字とは思えないほど綺麗だった。
ショーケースの中には色々な肉が入っていた。
『鹿の肉1kg 450円』
「あっ、10%引いてるからね!」
400アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/22(水)19:03:58 ID:oLl
>>399
「ハッハッハ! 客に向かって随分な応対だな!」

ナイフを避けた後、笑顔ながら怒り混じりの声で後方を確認。幸い誰も当たってはなかったようだ。

「鹿肉か! 一割引きは助かるな!!」

聞くよりは見た方が早いようだ、という結論に至りすんなり値札に目を移す。
1㎏につき銅貨にして五枚ほどか、ここから一割となると一枚減るか減らないか程度だろうか?

「うむ、では鹿肉を4㎏いただこうか! これで足るか!?」

銅貨16枚を広げて見せた。元は銅貨18枚相当になるところから約一割に相当するだろう二枚を抜いた形になる。
個人で食うには多すぎる気がしなくもないが、店主的には特に気になるところではないだろうか。
401ソラ◆.hFeg/F0PY:17/11/23(木)10:50:21 ID:pGF
「わかったー!4kgだ...えぇ!?」
少年はびっくりして叫んだ。
「ショーケースにある肉じゃ足りないからさばいてくる!」
そこにびっくりしたのか、と思うと急に笑顔になった。
そして先ほど投げたナイフを拾い、暗い店の奥に入っていった。

「ただいまー!」
1分もしないうちに戻ってきた。
少年のエプロンにはさっきまでついてなかった血がついていた。

「おにーさんが初めてのお客さんだから、銅貨15枚でいいよー!」
「あっ! これあげる!」
そういってネズミの丸焼きをプレゼントされた客の反応はどうだろうか。
402アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/23(木)14:24:36 ID:Q2i
>>401
「それは手間取らせてすまぬ!」

さばいてくる、の発言にも至って平静の様子だ。そういった場面に慣れている人物なのだろう。

「うむ! しかし今後同じようなことがあるなら血は落としてきた方がいいと思うぞ!!」

解体作業では仕方ないことだろうが新鮮さなどよりも恐ろしさを覚える例もあるためだ。

「なに! それはありがたい!! では御言葉に甘えさせてもらうとしよう!」

遠慮とかはない人だ。声が大きいため周りに広まらないことを祈るばかりである。
そしてネズミの丸焼きに目がカッと見開く。

「……! どこに居たネズミかだけ尋ねても良いか!?」

嫌がる様子もなく受け取りながらも、ある意味当然の疑問だった。この短時間で色々行えたのかどうか疑うのは仕方ないことだろう。
403ソラ◆.hFeg/F0PY:17/11/23(木)17:16:42 ID:pGF
「? 草むらにいたネズミだよ?」
きょとんとした顔で答える。
「昨日たくさんとれたから、子供たちにも配ったんだー!」

まだ開店したばかりで所々薄汚れている。
おまけに店の奥は暗くて見えにくい。
客にナイフを投げるような男だ、疑われても仕方ない。
「あはは...奥の方は電球足りなかったんだー。
でも僕目も、耳も、鼻もいいから大丈夫!」
そういう問題じゃない。

これまでの動向を見るかぎり、頭を使うことは苦手らしい。
だがナイフの腕前はプロ並みだ。
どんな親に育てられたらこんな子が育つのだろうか。

「そういえばお客さんお名前はー?」
404アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/23(木)20:31:11 ID:Q2i
>>403
「なるほど! ならばいい! すまぬな!」

それなら洗いはしてるだろうと決め付けた。子供に配ったというが……まあ獣人亜人に配ったと思うしかあるまい。

「灯りは重要だぞ! 作業をするなら尚更必要だろう! 古びたランタンなどを他所より貰うことも考えるといい!」
「俺の名か!? 俺のことはアカハネと呼んでくれ! そういう君は何者だ!?」

常に声が大きいアカハネもどういう育ちをしているのか。
既に渡されているならば肉を包んで抱えていた。
彼の火は常備する灯りには向かないのが現状とも言える。焚き火とかに使うものだし。
405ソラ◆.hFeg/F0PY:17/11/25(土)12:14:42 ID:74L
「ぼく?ソラだよ!」
笑顔で答える。
すると店の奥から1人の少女が出てきた。
406ミーファ◆.hFeg/F0PY:17/11/25(土)12:28:44 ID:74L
「こんにちは、アカハネさん。」
鈴のような声だ。
背や年はソラより下か同じ位だろうか。
407アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/25(土)12:37:48 ID:5mJ
>>405
>>406

「うむ、よろしくなソラ! む?」

握手を交わそうとしながら店の奥に目を向けて少女の姿を見つける。
挨拶をされるとまた表情を明るくして。

「こんにちは! ソラよ! この子は君の妹か!? それとも同居人か!?」

挨拶を返しつつ、交わしていたならば握手を解くと無作法にも少女の方に指を差して尋ねた。
408ソラ/ミーファ◆.hFeg/F0PY:17/11/25(土)13:42:55 ID:74L
【ソラ】
「うん!妹のミーファだよ!双子なの!」
【ミーファ】
「はじめまして...。ソラ!チラシの字汚すぎ!何語かと思ったわ!」
【ソラ】
「ミーファだって朝起きなかったじゃん!」
「ぼく1人でチラシ書いて配ったんだから!」
急に口喧嘩が始まった。
【ミーファ】
「ソラが早く寝ちゃったから私が夜遅くまで値札書いて明日の仕込みやってたの!」
「っていうか配ったんじゃなくて投げてたし!」
【ソラ】
「やっぱ起きてたじゃん!」
【ミーファ】
「あんな大声聞いたら起きるわ!掃除しとけって言ったのにしてないし!両腕もぎとるぞ!」
女子が言うセリフじゃない。
409ソラ/ミーファ◆.hFeg/F0PY:17/11/25(土)13:56:53 ID:74L
「あっ ごめんなさい。」
お客さんの前だったことを思いだし、ミーファが謝った。
そしてソラを睨んでから店の奥へ戻って行った
410アカハネ◆L1x45m6BVM:17/11/25(土)14:19:26 ID:5mJ
>>408
>>409
「ハッハッハ! 随分と物騒な子だな! しかし客が呆れぬようにはするといい!」

目の前で繰り広げられた口喧嘩を聞いて笑ってるあたり胆が据わってるというかなんというか。

「それとソラ少年! 字に関してはミーファの言う通りであるぞ! 案内でもなければ伝わるまい!」

ミーファが店の奥に戻ってからのこれである。声のせいでよく聞こえていることだろう、店の奥にも。
意外と言っていくタイプのようだ。

「では腕をもがれぬように励むといい! もがれては商売などできぬからな!」

ハッハッハ! と冗談で言っているのか本気なのかわからなくなるほど笑っている。
とりあえず肉を買うというアカハネの用件は済んだとも言えるが。
411グレイス◆QMJXt1PSbE:17/11/26(日)16:40:11 ID:k0q
夜が明け、朝日が差す頃、グレイスは鏡で自分の顔を見ていた。
「嗚呼美しい、朝日にあてられて輝く美しき僕のこの顔!」
と鏡に向かって大声で言った。朝日を浴びながら自分の顔を見ていたらしい。
「さて、ブレィクファストを頂くとしよう。」
朝食を済ませるのである。それも自分で作ったものである。
「完璧だ!流石僕!!何もかも無駄がない!!!」
そのウザさが無ければな。と言いたい。そして朝食を済ませた後。
食器を片付け、身なりを整え、コートを羽織り、外へ出て

「さぁ!今日も昨日より多くの愚民どもを魅了しに行くとしよう!」

散歩するのである。こんなナルシストに誰が絡もうと思うのか。
412ソラ◆.hFeg/F0PY:17/11/26(日)16:54:29 ID:QS0
「あー!ベルトくんだー!おはよー!」
故意か素かは知らないがおもいっきり名前を間違えている。
そしてナイフを投げて持ち手の部分が顔面に直撃!
知り合いらしき少年のこの態度にナルシストはどんな反応をするのだろうか。
413グレイス◆QMJXt1PSbE:17/11/26(日)17:28:01 ID:k0q
出会い頭にくらった、彼からの挨拶と名前の間違いにグレイスは注意しようとした。
しかし、彼からのご挨"殺”と言えるナイフの投擲をモロにくらい(笑)
注意どころではないと本能が警告したのか、

「“出でよ!美しき我が翼!”」

するとグレイスの背から翼が生えた。しかしその翼は美しいと言うにはあまりに黒く汚いカラスの羽だ。

「この場から去ることを許せ、少年。さらb...失敬。サラバ!」

と噛んだことを気にも溜めずに飛んでいった。
敵前逃亡とも言えるこの行為に彼はどう思うのだろう。
414ソラ◆.hFeg/F0PY:17/11/27(月)16:57:00 ID:2Gv
ソラはナイフを拾い上げ、猛ダッシュで追いかけた。
追いかけている途中で店が開店する時間なのを思い出す。
(やべぇ...今戻ったらミーファに両腕もぎ取られる...。)
屋根をつたって追いかけようと考えたが、そうすると両足ももぎ取られそうなので、
急いで店に戻り、おとなしく説教を聞くことにした。
415グレイス◆7s7.YhuBYM:17/11/27(月)20:21:15 ID:3xJ
ソラから逃げてどれだけ経っただろう。
グレイスはソラが追いかけてないか確認するために、あちこち飛び回った。
そしてソラが営む肉屋が見える一軒の家の屋根の上に降り立った。

(む。ソラ少年...と同居人か?)

状況を見るに叱責されているようだ。この光景を見たグレイスは

(なんだあの少女は?あのソラ少年が自営業?もう追いかけたりしないよなぁ?)
と思う節は多々あったがグレイスが思ったことはただ一つ

「神は私に味方した!!!」

と膝をつき、両腕を広げ、天を仰ぎながら叫んだ。その時、
パァン
翼が散っていった。時間切れである。
(なっ しまった もう時間切れか!やはりこんなところに降りるべきではなかったか...)
グレイスがこう思うには訳がある。
グレイスは高いところから見下したい性分なのだが、高いところから降りれないという面倒な部分があるのだ。
翼はまた生やすのにもインターバルを置かなければならない。その上、近くで叫んだので居場所はバレている。
さてソラはこの状況に陥ったグレイスにどう対応するのか。
416ソラ◆.hFeg/F0PY:17/11/28(火)17:53:52 ID:KH3
「グレーテルー!」
妹の説教が終わったのか逃げてきたのかは知らないが、
名前を間違えながら猛ダッシュで追いかけてくる。

が、グレイスのいる家の前でピタリと止まる。
どうやら妹に見つかったらしい。
双子の喧嘩が始まる頃にはグレイスの羽も生やせるようになっているだろう。

後日肉屋の割引券がもらえたとかなんとか。
417伝書櫓◆FlUF1ZoVFw:17/12/02(土)22:00:13 ID:4I2
雪虫が飛ぶと雪が降る、と伝えられているので冬に飛ぶ白い虫をそう呼ぶらしい。
実際もう雪が降ってもおかしくない時節なのだが、その虫・・・・・・虫?

落ち葉舞う地面に大きい影を落として舞い降りる、サイズ的には竜と見紛うその姿。
白蛾の精霊モルスは亜人である。
体の下半分は白い蛾の姿をしており、四枚の巨大な翅が重鈍い音を立ててホバリングする。

「はぁはぁ、久しぶりに飛ぶと疲れますね・・・・・・運動不足ですね」

「白蛾様~、無理を承知で申し訳ないけどもう少し頑張ってよー、あたし海から山には飛べないのよ」

此処はちょうどコスタ・ノエからロアールに戻る林道にあたる。
何やらモモンガの獣人と書物のような荷物を運んでいるようだが、途中でへばってしまったらしい。
418マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/12/02(土)22:15:38 ID:ZPa
>>417
季節はすっかり冬の様相を示し、山々は冬ごもりの準備を始める季節。
山の奥地の方面ではすでに雪化粧をしているとの話もあるが、幸いにもこの一帯はまだ降雪には至っていないようで。

冬ごもりを始めるのは何しも山に住む生き物だけではない。人間も冬支度を味める季節である。
その証拠に、こんな季節に林道を進む人物の姿が一人。

「寒くなってくると、街まで行き来するのも一苦労だね。雪の中を進むよりはまだマシだけどさ」

冬の山道は寒い。そのため、この季節に周辺を通る人々はそれなりの装備が必要となる。
彼も普段使いとしては少々過剰なほどに上着を着こみ、相変わらずの大荷物のリュックを抱えて歩く。

「おや、こんな場所で誰かいるのか? 同業者か何かだろうか」

遠くに見えたのは人……っぽい何者かが佇む光景。
山道で止まるのであれば何かの問題を抱えている可能性が高い。行き倒れを作るのも見過ごす気にもなれなかったのである。

「やあキミたち、こんな山の中でいったいどういう用件……」
「あー、随分と変わった格好をしているね。あとその荷物を拝見させてもらってもいいかな?」

彼らの様相に驚くのもつかの間、興味はすぐに彼らの抱える書物らしき荷物へ。これが商人の性か。いや単なる趣味か。
419カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/12/02(土)22:27:24 ID:jA3
>>417
>>418

まだ降雪の季節には早かった山中はまだ足場は安定している。
落ち葉を雑多に踏み散らかして進むのはそれが楽しいからだろう。むしろそれで寒さを紛らしているのかもしれない。

「おんや? また不思議な子らが集まってるもんだね……一人は知ってる顔だけどさ」

木々の向こうから目敏く見つけたガイコツ姿の人物(?)は三人のうち一人の姿を見てキツくキツく体の布を巻き付けた。
手は生憎晒し者だが、まあ後ろに隠せば良いだろうと踏んで、ぼろっちい長靴の足でやっと歩みを進めた。

「あー、もし、そこのお前さん方。こんな山の中で何をしようってやってきたんだい?」

片手に持ったランタンはまだ灯りをつけることなく佇んでいた。それを持つ手には布を被せて隠していた。

つまり、姿だけはやたら怪しかった。頭に至っては頭巾のようなもので深く隠しているせいで、紫色の光しか見えないし。
店主が気付くかどうかは……声などに覚えがあるしかない。
420伝書櫓◆FlUF1ZoVFw:17/12/02(土)22:50:57 ID:4I2
>>418
>>419

「ああもう、人が集まってきたよモルス様・・・・・・何?あたし達金目の物なんか持ってないわ」

珍しい姿の亜人と、やはり珍しいタイプの体付きをしている獣人。
両者に共通して言えるのはこの寒さの中では羨ましくなるくらいに体毛がもっふもふという点である。そのもふもふの体毛のお陰でモモンガ獣人はポンチョ一枚で済んでいる。
そして特に目を引くのは白蛾の亜人だが、やはりこの巨体で飛ぶのは相当のエネルギーを使うのだろう。体の3倍くらいある翅を折りたたんで地面に降りて休んでいる。

「まぁまぁパルファムさん、見たところ山賊ではないようですし・・・・・・」

「私達は伝書櫓の者です。それは冬の市場の相場表を纏めた書物ですよ」
「そうよただの業務書類よ、伝書はさっさとギルドに届けなきゃ仕事になんないの」

調べてみると確かに内容は目の痛くなりそうな細かい字でびっしりと書かれた早見表だ。
肉や魚、穀物や加工品の他にもポーションや魔獣素材の取引価格なんかも記されている。
途中に「教会騎士団禁断の愛シリーズ~司祭×騎士団長リバ本~」とか何か変な本が混ざっているが概ね業務書類である。
421マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/12/02(土)23:02:00 ID:ZPa
>>419
>>420
「心配しなくていいさ。僕はただの行商だよ。今からロアールまで帰るところさ」
「しかし君は凄いねえ。それ本当に羽毛? ちょっと触っても大丈夫かい?」

荷物も気になるところだが、彼らの姿も相当なモノ。
すぐにも彼らの許可もなしに手を伸ばし、冬場には最適であろうそのモフモフにありつこうとするだろう。
かといって毛を頂こうとしている訳でもなく、ただ純粋に触り心地を確かめるだけである。嫌ならば適当にあしらえば良い。

「ほう、なかなか面白いモノが揃っているね。君たちも行商……ああなるほど。あの伝書櫓のか」
「これはこれは邪魔をしてしまったね。今度僕も世話になると思うよ。雪が降ると街までは行きにくくなるからね」

ちらりと荷物へと目を通す。なるほど間違いなく業者特有の品々。よくわからないモノも混じっていたが、理解できなかった様子。

しかしその時であった。
向こうから聞こえてくるどこかで聞き覚えのあるような気のする声、そんでもって木々の影から浮かび上がる紫の光。
彼にはこの光も声も知っていた。しかも本人も興味のためにかなり念入りに記憶の奥底にしまっておいた物。

「その声は……いつぞやの骸骨じゃないか! こんな場所まで来るのかい、行動力の高い骸骨だねえ」

そう叫ぶ彼の顔はにこやかであった。そりゃ以前あんなに楽しませてもらった人物(?)ですもの。再会が嬉しくないはずがない。
すぐさま駆け寄り、姿を確かめるかのように全身を見渡す。間違いない、あの時のままだ。
カモフラージュのためか衣服を着ている姿は、何とも言えないミスマッチ感を醸し出していて。

「僕かい? 僕は街からの帰りだよ。そろそろ冬支度を始めないといけないからね。いつもの行商のついでに買いこんできたのさ」
「これも何かの縁だ。君たちにもお裾分けだよ。遠慮はいらない」

そういい骸骨、行商の二人組にそれなりの大きさを誇る干し肉が手渡される。
冬の間で一番困ることは食料である。このような保存食は冬場には重宝される品物である。
422カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/12/02(土)23:17:45 ID:jA3
>>420
>>421

対して、マクシスの呼び掛けを聞いた途端にマクシスに向けられた紫色の光はとてもつまらなさそうに揺らめいた。

「はぁ……行動力の高さはお前さんには劣るってもんさ、それよりもね?」

ガサガサと心なしか乱暴に落ち葉を踏み荒らすような様子で向かってくる店主と合流すると干し肉を遠慮すらなさそうに奪い取り。

「こっちがあの二人組の反応を見ようって時に大声で正体をバラしちまうのはどういう心境なんだい? お前さんには楽しむ気はなかったのかい?」

凄まじい言いがかりと自分勝手な意見をもはやヤケクソ気味に骨の指でマクシスを指して並べ立てた。これを聞かされる二人組の心境もいかに。

「冬支度ってやつだね、生身の人間は大変で辛そうだねえ」

ガジガジ、と羨ましくなりそうな歯並びの良い口で干し肉を噛んでいると、思い出したように二人組の元に向く。

「そうさね、山賊ならもう少し数を見せるってもんさ」

対してこの人物。寒くないのかと思うほど身体は筋張ってるほどに細く、それを布一枚で隠している。見る人が見れば心配にもなるだろうなほどだ。
まあ、中身がマクシスの語った通り骨しかないせいでもあるのだが。

「伝書……? お手紙のようなものかね? ……難しいものばかり並んでるねえ」
「しかしお仕事とはいえ外に出なきゃならないのも辛いところだね? そこに混じってる変な題名の本も気になるところだけど」

噛み千切った干し肉を無い喉仏を鳴らして飲み込んでから興味深げに記されていたものを見た。しかし、やはりそれよりも。

「その体毛を見る限り亜人の系列、ってところだね、手触りはどうだいバカ店主。こちらも触りたいところだけどねえ」

よほど恨んだのか呼び名が酷いことになっていた。そのせいなのか巻いていた布を緩めていった。

結果、腰や腕などの骨が露出しだしたわけだが。
423伝書櫓◆FlUF1ZoVFw:17/12/02(土)23:50:18 ID:4I2
>>421
>>422

「お互いご苦労様ですね、まぁ私は見ての通り人の社会には疎いものですから・・・・・・」

竜ほどもある彼の巨体は多少モフられても意に介す様子はない。ほどよくやわらかく温かく、まるでシルクの毛糸で出来たオフトゥンとも言うべき最上級のさわり心地だ。

「白蛾の生糸は滑らかでしょう?これも結構重いのですよ、どうも毛が伸びてくると飛ぶのが億劫で」

「が、骸骨・・・・・・?あんたも亜人の類かしら?」
パルファムは順当に全身布切れ男への警戒心を露にし、皮膜を広げて威嚇している・・・・・・威嚇に見えないのはともかくとして。
モフい白蛾に並んでやはりモフモフした獣人の彼女。後ろに回りこんで不意を付けば、何処かほの甘い香りが漂う尻尾に存分顔を埋められるだろう。

「ええとこの本は・・・・・・「騎士団長を押し倒した司祭は荒い接吻で彼の口内を攻め立て云々」?」
「!?!?!?!?ちょっ!それは違うの!あああーーー読まないでーーー!」

よく分からない本のおかげでよくわからない事になっている。

「おやおや、動く骸骨とは珍しい。私もその紫色の霊力には興味がありますね」
424マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/12/03(日)00:02:35 ID:KLI
>>422
>>423
「楽しみ? 何を言ってるんだ、僕は君に再び会えた事が一番の楽しみだよ。それ以上何を求めるって言うんだい?」

骸骨の嫌味や言いがかりも何のその。知らぬ存ぜぬといった様子で話を勝手に進めていく店主。
この男に風情やお約束というモノをあまり期待しない方がいいのかもしれない。こういうタイプの人間なのだから。
少なくともドッキリの仕掛け人にはなれない系種の人間だ。

「冬も本格的になるとこの道も降雪で埋まってしまうからね。この時ばかりは空を飛べる人種を羨むばかりだよ」

雪の中を一歩間違えれば遭難し、春の雪解けまで雪の中で過ごすことになるような状態で突き進むのはあまりにもリスキー。
自分の足で品物を揃えなければならない彼には、この季節はかなり辛いシーズンとなる。
まあ、彼の場合は雪が降ろうが槍が降ろうが目当てのモノのためなら突き進むタイプなのだが。

「おお……これは良いモフり具合……」
「この毛皮を使えばどれほど上質なコートが出来上がるか……いやなに、流石に冗談だよ。忘れてくれ」

両手に感じる確かな肌触りと感触。そして生き物特有の温度。街で取引されるどんな毛皮でもこの感触には到底及ばないであろう。
しばし両手に至福を得て、悦に浸るがそのうち我に返り、パッと両腕を離す。
最後に漏れた冗談にしては趣味の悪い言葉は、名残惜しさからだろうか。それにしても気味が悪いが。

「ん、その本は初めて見る系種の本だね。ちょっと僕にも読ませてもらいたいが……」
「…………イマイチ意味が分からない。なぜこの本の司祭と騎士団長は口づけを? あまりにも騎士団長が情けないし、こんな行動に至る意味が分からないなあ」

横から開かれていた例の本の中身を覗き見する店主。
幸か不幸か彼には内容が理解できていないようで。いろんな意味で未知の世界であるから仕方ないのかもしれない。
425カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/12/03(日)00:20:21 ID:Q2C
>>423
>>424
「それを言われちゃ怒るに怒れないねえ……でもこっちの楽しみはあの二人の狼狽えを見ることだったんだよ」

はぁ、としたため息が感情をよく表していた。今はもう叶わないと言わんばかりだ。
とはいえ会えたことが楽しみといわれるとどうも核の上のところが疼くというか。

「必要なら依頼でもしたらどうだい? 知ってる顔に飛べる竜が居るしねえ」

その竜、現在寒さに震えて外出の頻度が少なくなってることをガイコツは知らず、ましてや知らされるはずもなく。
干し肉かじって店主の元からやや離れ、二人組の回りをぐるぐると回るように歩き出せば二人の姿をじっと光で見つめて。

「亜人というには異形過ぎるかね? 生憎威嚇で怯えるほど獣に弱かないよ」

最早人と呼べるところが骨格くらいしかないのだ、それも本当に骨しかない。
実は苦手な種類があるのだが、ここに居るのはそうではないため余裕たっぷりにまるでニヤついてるような雰囲気を醸し出す。

「なんだか甘いねえ? 菓子でも仕込んだのかい?」

鼻も穴しかないのに臭いを感じているこのガイコツ。不思議の塊である。

「……お二人さん、これはこの子の名誉とかのためにも読まないであげた方がいいねえ。意味を言うならそうだねえ……それが好奇心、衝動ってもんさ」

なんとなく察してくれたのかガイコツはゆっくり本を閉じようと骨だけの手を添えながらマクシスにも雑に伝えた。

「ケケケ、生憎あたしゃも自分のことはよくわかってなくてねえ、この目の霊力がわかるだけでもいいもんさ」
「ああ、お嬢ちゃん? ――こういうのは慣れてるかい?」

本体の核は体の内に、そしてガイコツに唯一怯えてそうなパルファムに向かっていきなりその骨の身体をさらけ出した。布を荒く剥いで、だ。
見えるのはアバラ下部と背骨、骨盤が少しだろうか。肉がないせいで不思議とエグさはないが……。

「ああ、店主? 多少の危険さえ気にならないなら飛べる人に乗っけてもらうのが一番さね、ほらこの白い人やお嬢ちゃんでも良いじゃないか」

反応を見てから、身体を隠すとマクシスに向かってそう提案していた。
勿論目の前の二人組にも飛び火させて。抜かりはなかった。

「さて、立ち話も良いけれどあまりここに留まっていても冷えちまうよ? 互いの目的が被るならだけど街に向かうのもいいんじゃないかい?」

寒さを一番感じてなさそうなガイコツさんの発言は寒さを思い出させるには十分……かもしれない。
426伝書櫓◆FlUF1ZoVFw:17/12/03(日)00:40:45 ID:BA2
>>418
>>419

「ふふふ、毛皮なんかにしなくても生糸は作れますよ。まぁ多少白蛾達の力を借りなければいけませんが・・・・・・伝書櫓に訪れる事があれば、シルクのマフラーでもお作りしましょう」

どこか浮世離れした肝の据わり方をしている白蛾の亜人。精霊故の余裕というものだろうか。
彼の生糸を貰えればどこぞの服飾店で服にでもしてもらえるかもしれない。

「小説というものですかね?街の人間は面白い本を書くものです。・・・・・・まぁこれは経費では落ちませんからね」
「うっうっごめんなさい・・・・・・お願い誰にも言わないで・・・・・・」

どういうわけか半泣きになってモルスの巨体から本を取り返そうとするパルファムだったが、時既におすしであった。

「甘いのはあたしの体臭よ、あなたこそほのかに死臭がするじゃない・・・・・・ひー見せなくていいってばぁ」

骸骨姿に目を細めて顔をしかめているあたり慣れてはいない様子。

「そうですね、少し休んだので大分良くなりました。・・・・・・乗って行きますか?」

巨大な翅を翻す。ここからロアールまではそう遠くない。もう少しモフを堪能しながらロアールまで戻るのもいいだろう。
427マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/12/03(日)00:55:18 ID:KLI
>>425
>>426
「それはすまなかった。今度は忘れないように周囲を確認してからにしておくよ」
「竜か……確かに竜なら飛べそうだね。今度会う機会があれば聞いてみよう。貴重なご意見をどうも」

飛んで移動できればそれでいいと言った感じなのだろう。自分が持ってないモノを羨ましく思ってしまうのは人間の性か。
被っていたハンチング帽を取り、胸の前で一回転させながら軽やかに会釈。らしくない事をするもんだ。

「ん、そういうものなのかい? これはこれで面白そうではあるから、僕も一冊写本でもあれば手元に置いてみたかったんだが……」
「まあ次に街に行った時にでも探してみるとしよう。タイトルは……『教会騎士団禁断の愛シリーズ~司祭×騎士団長リバ本~』だったかな?」

つまらない、とでも言いたげな表情と共に、閉じられてしまった本の表紙を目で追って。
言わせてもらうが、彼には悪気は一切ないのである。意図して言っている訳ではない。本当に。
他人の趣味を周囲に知れ渡わたらせるように、かつ嫌がらせのようにタイトルを復唱するという畜生のような行為を行っているが。

「その恰好からして、君たちも飛べるのだろうね。まあこれで飛べなければとんでもない見掛け倒しなわけだが……」
「ならば僕を乗せる事も可能なわけかな? 少々荷物はあるが、まあ君たちなら大丈夫だろうよ」

置かれた伝書櫓組の荷物と自身の荷物を地面に置きながら、二人に対して交渉を始める店主。
だがどうも彼の様子からして本意は別にあるようで。

「君らはコレを今からギルドまで運ぶんだろう? まあ全部という訳ではないだろうけど」
「僕もこれを運ぶのを手伝うからさ、後で少しでいいからこの荷物と少しばかり取引させてもらえないかな」
「君たちはこれを運ぶ手間が少しでも省ける。僕は手伝う代わりに取引をする。お互い損はないと思うけど、どうかな」

本音はこちらだったらしい。鼻をずるりと鳴らしながら、どこで身に付けたかもわからない宣伝文句らしき言葉を続ける。
428カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/12/03(日)01:07:00 ID:Q2C
>>426
>>427
反省した様子に「わかればいいんだよ」とどこか笑顔に感じれそうな雰囲気がマクシスに向いていたという。
いやいや、と意見の礼にも社交辞令のように声かけして干し肉の礼と言うようにかじっていた。

「ケケケ、あたしゃにゃ似合わないだろうけどねえ」
「まあまあ経費も自費も関係無いけど返してやんなさいな、人は秘密抱えて生きるもんさね」

ここまで深いようで使われたところが残念な言葉もあっただろうか。

「ケケケ、……死臭? おかしいね、そんな匂いはしないはずなんだが……」

どうだい? とモルスとマクシスに嗅がせようと手を差し出す。不気味なくらい無臭である、強いて言うなら干し肉の匂いがするくらいで。

「そこまで覚えてるならすぐに見つかるだろうね、街中まではあたしの管轄外さ」

つまり、パルファムはどうにかしてマクシスの復唱を制御する必要が出てきた。このガイコツは肝心なところで役にはたたない。

(取引が上手いもんだねえ、まああたしは骨以外取っても使い途もよくわからないけどさ)

「あたしは余裕があるならで良いさね、そもそもこんな姿だ。街の中までは堂々と入れないからねえ」
「しかし、街中までが予定に見えるけどそこはどうなんだい? 外で降ろせるなら乗ってみたいところさね」

時々街の中まで出張ってたりするのだがそれはそれ、これはこれである。
空を飛んでみたくも思うが、相手の邪魔にならないのが理想である。あとで退治されないためにも。

総合すると、こいつ美味しいとこだけ啜りに来てる。なんてやつだ。
429伝書櫓◆FlUF1ZoVFw:17/12/03(日)01:40:22 ID:BA2
>>427
>>428

「アッアッ、許されるなら今ここで塵になって消えたい」

もはやパルファムに復唱を止める手立ては無かった。無念。
ちなみに同伝書櫓のプシュテとは同じ趣味の同志らしい。

「そうですね・・・・・・かなり大荷物ですから比較的軽いものはパルファムさんに持ってもらってと・・・・・・」

飛行種族にとって積載重量はたいへん重要である。軽さがあるからこそ飛べるのだ。
精霊の霊力で浮き上がるモルスにしてもやはり重量制限はある。

「ふむ、ではそのように。シルクの織物と交換ですね」

「動いている翅には触れないでくださいね、指が飛びますよ」
二人を乗せ、重低音を立てて羽ばたき上がる。
一定の高度まで上がるとパルファムはモルスから飛び降り、空中を滑るように滑空する。

そうして一人と一骸骨を乗せた白い翅が、冬空に消えていった。
430マクシス◆hHo5Paj/Yc:17/12/03(日)01:53:37 ID:KLI
>>428
>>429
「仕方ない、続きは手に入れてから探すことにしよう」

面倒なことにあの本に興味を示してしまった事が運の尽き。
今後彼が彼女らと同じ道に走ることになるかどうかは、まだ未知数で未確定。どうなることやら。

「臭いだって? どれどれ……僕は何も感じないけどね。魔力の残骸でも感じ取ったんじゃないかな?」
「僕は魔力を一切持たないし感知もできないから分からないだけかもしれないしね」

差し出された手、というか骨の匂いを嗅いで一言。
人種や体質によっては魔力を匂いによって感知、判別する者もいるという話もある。
この話が本当であるならば、魔力や魔法に関して完全に専門外の彼に何も感じ取れないのも頷けるが、真相は分からない。

さて、ついに交渉も成立。
まだ見ぬ名品、珍品との出会いに胸を膨らませながら互いの荷物を載せていく。
力はそれなりに持ち合わせているらしく、あの大荷物もよろけながらではあるが、無事に搭載することに成功。
後は背中へと一歩ずつ慎重に足を乗せ、待ちに待った浮上の時を待つ。

「あまり揺らさないように頼むよ。支えてはいるけど荷物が落ちれば溜まったものじゃないからね」

ついにその時が訪れる。言葉にし難い浮遊感が全身を覆い、木々を揺らす強い風が唸りを上げる。
木々が少しずつ視界から消えていき、冷たかった風がますます温度を下げ、地肌を鋭く刺していく。
だがそれ以上に感じていたのは、自分が空にいるのだという事実と、それから起こる高揚感。全能感であった。

「……コレは凄い。人々が空に憧れるのも頷けるよ。クセになりそうだ」

大きな荷物と、ついでに人間一人と骸骨を乗せた大きな飛行船が冬の空を色鮮やかに駆け抜けていく。
荷物も楽しみだが今はこの不思議な感覚に浸っておこう。そう噛みしめたとある冬の日。
431カボ・ビアンコ◆L1x45m6BVM:17/12/03(日)02:03:19 ID:Q2C
>>429
>>430

「塵になるには少し若すぎると思うねえ、まあこれも人生の苦味ってことで」
「お前さんが歪まないことを願うばかりだねえ、うんうん」

今のところ、そういった興味は持つことがなかったスケルトンであった。

「ああ、なるほど。そっちを感じたなら仕方ないね、ありがとさん、おかげで気にならなくなりそうだよ」

漸く干し肉をすべて食べきって満足そうに歯を鳴らした。
魔力の匂いもわかっていないスケルトン。彼(彼女?)が自らの正体や動く理由を知るのは恐らくまだまだ先の話である。

「ケケケ、有難いねえ。安心しな、指が飛んでもあたしゃ気にならんからさ」

飛んだところで、また生える。そんな認識しか骨の身にはできないらしい。

温度を感じるには失いすぎた肉体でもかかる力は直に感じる。何を失って何が残ってるかわからない体でもこれを感じることはできたようだ。

「……空から見る景色ってのは、良いもんだねえ。感謝するよ、お前さん方」

紫色の光は揺らめいた。どこか爛々とした様子で揺らめき、景色を治めるかのように細まっていく。
冬の空、遥か彼方に雪の景色が見えたかもしれない其処を堪能するスケルトン、カボ・ビアンコを名乗る者はその記憶を欠けさせることはないだろう。


そしてちゃっかり荷物運びは手伝わなかったという。
432イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/15(金)21:11:12 ID:CI1
聖夜と呼ばれる特別な夜が訪れたロアールの街。既にあちこちで鈴の涼しい音が鳴らされている。

「あれはどういった行事で? ――なるほど、では私も行ってまいります」

その知らなかった行事を教えてもらって、早速とギルドから飛び出していく腰元に籠手を下げ、額から角が生えたメイドさんが目撃されたという。
勿論、中から呼び止める声もあったが扉は閉まったし、まあ初めてだし、と色々な理由で許されていた。

さくさく、と軽く積もってる雪をブーツで固めて街の中を見て回る新入り、イルメアは時々見かける雪だるまや黒く染まった住民を見て。

「……予想以上にハズレが多いのでしょうか、ふむ……」

贈り物目当てで飛び出してきたはいいものの、いざハズレだらけの光景を目の当たりにすると迷うところがあった。
……どうせなら誰かに手助けしてもらえる方がいい、と周りを見渡し始めるイルメアに見える姿は果たしてどのような人物だろう?
433リリン・カマル【63】hHo5Paj/Yc:17/12/15(金)21:27:15 ID:CDZ
>>432
今年もロアールに冬が訪れる。冬となれば、これから始まる一大行事も各所で行われていくわけで。
現在このロアールには各地で小さな鈴の音と、それに伴い悲鳴や歓喜の声が上がっていた。
お祭り好きな住民たちが見逃すはずもなく、今日も誰かが果敢にトライしていることだろう。

さて、ここにも一人小さな鈴を持った挑戦者の姿があった。
寒さ対策に防寒着をしっかりと着こみ、首にはマフラーを巻きつけた少女である。
彼女はこの行事に参加することは二度目であったが、その際はあまりいい結果に恵まれなかったのである。
そのこともあり、今宵の彼女はやる気と期待に燃えていた。非常に珍しく。

「……よし。妖精さん妖精さん、どうか私にステキなモノをお願いします……」

街角で祈りを捧げながら、小さな鈴の音がちりん、と鳴る。
さて、そんな彼女の元に舞い降りるのは祝福か、はたまた……。
434イルメア【27】L1x45m6BVM:17/12/15(金)21:38:13 ID:CI1
>>433
イルメアが目にしたのは、お鼻を赤く光らせた防寒対策バッチリの少女だった。
そういえばマフラーも巻いてなかったが、イルメアは今のところ寒さに堪える様子は無さそうだ。
それはそうと、急に赤く光れば少女も驚いてる頃だろうと少し心配しながら近付いて。

「そこのお嬢様、……それは所謂妖精のイタズラ、ですよね?」

鼻だけ光る種族に心当たりもないので、ちょっと珍しそうに手袋をした指で爪が当たらないように鼻に触れようとしながら話し掛けてくるメイド……背が高かった。成人男性も負けそうなくらい。

「このようなイタズラもあるとは……妖精とは面妖なものですね。しかしこの程度ならば……」

触れていたなら手を離してから少し離れて、鈴をチリンと鳴らしたメイド。果たして妖精は何を贈るだろうか?
435リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/12/15(金)21:57:20 ID:CDZ
>>434
「えっ、あっ、ちょっ、ナニコレ!?」

鈴を鳴らしても雪が降る様子もなければ何かが降ってくる気配もない。代わりに出たモノは……視界が何だか赤い?
慌てて手を当てればますます明るくなる光。間違いない。この光源の正体は自分の鼻からだ。
両手で覆い隠すが指の隙間からあの灯りがぼんやりと広がる。これで夜道も安心だが、ビジュアルがあまりにもひどい。

と、この光に誘導されたのか見知らぬ人物が寄ってくる。

「あっ、はい。たぶん妖精さんの仕業だと思います……ってキャー!? だ、大丈夫ですか……?」

その人物は随分と大きかった。リリンと比べればその差は歴然であるだろう。親子と思われてもおかしくない程度には。
高身長特有の威圧感と自らの鼻の強調による気恥ずかしさが混ざり合った、もどかしい思いで何とか言葉を紡ぎ出す。

が、鈴の音と共に目の前の人物が真っ黒な何かに覆われる。
思わず飛び退き、何かを確認する。この色と臭いには覚えがある。炭だ。液体になっている理由は謎だが間違いなく炭である。
この寒空の中で液体を被るのはその身に堪えるものがあるだろう。上着からせめてもの助けとハンカチで微力ながら身体を拭くお手伝い。

「あの、妖精さんは悪戯好きみたいで、いっつもこんな感じなんです」
「時々プレゼントとか貰えるみたいなんですけど、私はまだもらえたことがなくって……」

赤い鼻を気にしながら説明していると、ちょうど去年の苦い記憶が蘇る。
この町に来た途端に雪山に埋まり、鈴を鳴らせば雪だるまに襲われる……。ロクな目に遭ってないな、なんて考えながら。
それでもなお鈴を鳴らすことを止めようとしないのは、リリンもこの町に染まって来たという証拠なのだろうか。
436イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/15(金)22:10:25 ID:CI1
>>435
妖精の贈り物――それは真っ黒な液体、炭のアレンジバージョンである。勿論被った。避けられるはずもない。

「……ええ、幸い危険な液体ではないようなので。ありがとうございます、お手数おかけして申し訳ありません」

拭いてもらいやすくするためかしゃがみこみ、ひらひらして拭きにくいだろうスカートなどは軽く払ってからギュッ、と絞った。白い地面が黒く染まる様はなんとも言えない光景である。

「プレゼントと悪戯の割合が合っていない気がしますねそれは……いつもとはお嬢様も被った経験が?」

もう大丈夫です、と先程よりマシな姿になったイルメアは立ち上がって最後に髪についた炭を後ろへ流した。手袋にはあまり残ってない辺り、そういうもの、とわかる。

「しかし、ここで引いては妖精の思うつぼというものです、どうでしょうお嬢様……ここはもう一度鳴らしてみるのは」

既に街に染まりかけてるメイドさん、メイドにあるまじき行為とも言える少女にもう一度促すという行為に出た。
その一方で鈴についた炭を落としていたのだが、まだ鳴らないのは中に入っているからだろう。
437リリン・カマル【82】hHo5Paj/Yc:17/12/15(金)22:28:20 ID:CDZ
>>436
何度も拭いては絞り、拭いては絞りを繰り返すがハンカチの面積の都合か、炭の量が凄いのかなかなか拭き取れない。
少しして、雪で真っ白な地面が一角だけ真っ黒に染まるという光景は何かの呪いのようにも見えて。
とにもかくにも水分は取ることが出来た。黒い汚れに関しては流石にどうすることも出来なかったが。

「……前は雪だるまが落ちて来たりしましたね。気づいたら一面真っ白で、全然身動きが取れなくって」
「この鈴を鳴らすのなら、誰かと一緒に鳴らしたほうがいいと思います。何が起こるかわかりませんから」

経験者は語る。この鈴の恐ろしさを。そしてどうするべきかという対処方法を。
この人なら大丈夫そうだけどな、なんてことを思いながら最期に真っ黒になったハンカチを絞って上着のポケットにしまう。

「えっ? もう一回……ですか?」
「でっでも、何があるかわからないし、もしあなたに迷惑をかけてしまったら……」

リリンは悩んでいた。確かに鳴らしてみたいという気持ちはある。
だが過去の経験と目前で起こった惨事を思うと、自身の安全と目前の人物の身の心配が降りかかる。
少しばかり悩んで、悩んで、やっぱり悩んだ挙句彼女の取った決断は……。

「……やってみます」

他人からの頼み事を断れないリリンに拒否という選択肢は取れなかった。
意を決して鈴をちりんと再び鳴らす。さて妖精は彼女に微笑んでくれるのか……。
438イルメア【83】L1x45m6BVM:17/12/15(金)22:43:29 ID:CI1
>>437
残った汚れは帰って落とす、そう決めた。水分さえ抜ければへっちゃらである。

「雪だる――まさか先程までの雪だるまはすべて!?」

てっきり落とされはしても埋まるとまでは考えてなかったようで驚きの顔で通ってきた道の方を見ていた。
もし残ってるようなら掘り起こして恩……ではなく助けておかねばと決意した。

「ハンカチまで黒くして申し訳ありません、今度良ければお好きな色のものでお返ししますので」
「ご安心を。このイルメア、何かあってもある程度までは大丈夫ですので」

荒く頼まれたりしたらまだしもこういう遠慮がちな少女にはこのくらいでちょうどいいのだと。誰彼構わず不遜な態度は取らないようにはしているのだった。

そして鳴らされた鈴に応える妖精の贈り物は――プレゼントボックスと見て間違いないものだ。

「おめでとうございます、お嬢様。これはきっと先程の手助けによる褒美に違いないでしょう、中身はどうでしょう?」

リリンが開けて、見るであろうその時だった。ピッ、と炭が抜けきった鈴がちりんと鳴ったのは。
439リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/12/15(金)23:03:17 ID:CDZ
>>438
水分のなくなりきった炭は危険である。服に染みつき乾燥してしまった汚れ程落ちにくいモノは無い。
洗濯の際には入念な手洗いは必須であるだろう。彼女の腕であれば問題はないだろうが。

「……たぶんそうでしょうね。凍えちゃう前に助け出したほうがいいかもしれません」

この時期の雪だるまの中には当たり付きという名の中身が入ったモノも含まれているということ。
まあこの町の住民ならよほどの事がない限りは自力で脱出することは可能だろう。先ほどの雪だるまも崩れて這い出ている中身もいることだ。
ただ自力で逃げられないような人物が食らってしまったのなら、その時はどうにかすべき。

「い、いえ、大丈夫ですよ! このくらい洗えば落ちますから! たぶんですけど……」

見ず知らずの人からもらい受ける事も申し訳なくて出来ないような気質である。
何よりこれはリリンの善意で行ったモノ。困った時はお互い様という意思の表れなのである。

「わっ! 初めて何か来た! これはプレゼント……なのかな?」
「中身は……これって、銀貨……だよね」

ふいに落ちてきた小さなプレゼントボックス。過去の経験上、あまりいいモノは入っていないのではないかと警戒してしまうのは無理もない事だろうか。
恐る恐る封を開けると、中には見覚えのある銀貨が数枚。でも中に混ざる一枚はどうも様子が異なるようで。
取り出して確認するも、この詳細はよく分からず仕舞い。でも貰えるものは貰っておくが。

「あっ、そちらもですか。開ける時は気を付けたほうがいいですよ。何があるかわかりませんから」

警戒心マンマンで語るそれは完全に臆病者の風体であった。
440イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/15(金)23:19:08 ID:CI1
>>439

ひとまず戻る際にやることはできたと確信した。そしてこれで脱け出したことも正当化できる! とズルい考えを浮かばせて。

「……人の厚意は受けた方がいい、というものですよ? しかし今回はお嬢様の思いを尊重致します」

鳴るまでの間に、スカートの裾を摘まんで丁寧にお辞儀。籠手が重なる音がするものの所作だけならメイドっぽくはあるのだが。

「私が見る限りでも銀貨ですね――と。……確かに妖精ならばこれを開けた途端爆発もあり得なくありませんね」

落ちてきたプレゼントボックスに目敏く気付いて片手で受け止める。潰さないように慎重になるのは色んな意味で仕方ない。
そしてさらりと恐ろしいことを言ってリリンの言う通り警戒しつつ、腕を伸ばして顔より離れたところで封を開ければ――何の偶然か、そこにはリリンのプレゼントと同じ銀貨が入っていた。
それを見て、思わずクスッ、と笑って近くに寄せる。

「……これも何かの縁でしょうか? しかし……一枚だけ普通ではない銀貨がありますね。……どうでしょう、ギルドで見てもらいますか?」
「……そうでした、名乗り忘れておりましたね、私はイルメア、ロアールのギルドに最近雇っていただいたメイドです」

不思議なものは鑑定に慣れた者に見てもらうのがいいだろうと封を閉めながら提案。とはいえリリンが必要ないと思うならイルメアも無理強いはしないだろう。
そしてここでやっと思い出す。まだお互いの名も知らないではないかと。これではいけないと再びスカートの裾を摘まんで丁寧にお辞儀しつつ自己紹介。

「お鼻の真っ赤なお嬢様、貴女のお名前をお聞かせ願えますか?」

少しからかいが混じるのは、悪いノリというものだろう。
441リリン・カマル【90】hHo5Paj/Yc:17/12/15(金)23:40:37 ID:CDZ
>>440
「は、はい……。でも、本当に大丈夫なんです……」

やっぱり断れないリリンであった。しかしこの度は先に向こうが折れてくれたので一安心。
しかし頭の中はこの汚れをどうやって落とそうかという不安でいっぱいなのであった。

「あっ、本当だ。なんでしょうコレ……。ちょっといつも見る銀貨とは違いますね。私の故郷でも見たことないです」
「そうですね。わかる人に聞くのが一番早いですよね。知ってそうな人をあんまり知らないんですけど……」

言われて改めて謎の銀貨を確認。何か魔力的なモノが込められてそうな雰囲気は感じ取れたが、やっぱり分からないまま。
とりあえず先ほどの銀貨たちはポケットの中に納まる。謎の一枚だけは別ポケットに入れて。

「こ、こここれは妖精さんの悪戯でッ! 私がなりたくてなった訳じゃないですからッ!」
「…………リリンです。リリン・カマルって言います。私もこの町のギルドに入ってます……」

鼻を指摘されると、鼻と同様に顔も真っ赤にさせて手袋をした両手で光る鼻を覆い隠す。
彼女に対して後ろを向いたまま、先ほどよりはるかに小声で自己紹介。
彼女のからかいの効果は想像以上に効果があったようだ。
慌てて身体を動かしたからか、上着のポケットの中から小さな鈴の音が響いた。
442イルメア【26】L1x45m6BVM:17/12/15(金)23:54:15 ID:CI1
>>441
「ギルドにそういったことに詳しいお方はいらっしゃるかと。他にも不思議な品を扱ってる店の主人や、様々な商品に触れる商人なども」

挙げた人物像のどれかにリリンの知っている人物が居れば幸いである。今のところイルメアはギルドで見るつもりであるらしい。

「そうでしたね。ですがそのおかげで私はリリン様とお会いできたので良い悪戯だと思いますよ? ……少なくとも炭よりは」

一瞬、鬼神のオーラ的なものが見えた気がするのはきっと気のせいであろう。角あるけど。

「おや、それはまた偶然が重なっていますね、よろしければ今度ご一緒しましょう……っとリリン様、また良き贈り物のようですね?」
「私も負けてはいられませんね、戻る前にもう一度……」

これは良きサポートをした、と少しだけ自分を誉めていくイルメアだった。

ちりーん――。

となれば。少し調子に乗って鳴らすのは致し方ないことだろう。例えそれが凶になる可能性があったとしても。
443リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/12/16(土)00:17:22 ID:aGq
>>442
「うーん……私も探してみようかな、と思ってます。知ってる人がいればいいんですけど……」

リリン自身が内向的な部分があるため、あまり多くの人とのふれあいを持てないであるのであった。
とりあえず今度あの竜人さんに聞いてみよう。そんなことを思いつつ。

「そ、その辺りは妖精さんに言ってください……」

謎の気迫に押されたのか、急激に縮こまるリリン。
何か見てはいけないモノを見てしまったかのような感覚に襲われるのであった。

「痛っ! あれ、プレゼント……? うっかり鳴らしちゃったのかな」
「えっと中身は……うわっ! プハッ! な、何なのコレ!? しょっぱい! 海水!?」

コツンと頭の上に落ちてきた少し大きめのプレゼントボックス。あまり重くは無かったが、サイズだけならなかなかのもの。
先ほどの一件から警戒心が減ったのが運の尽きだったのか、開けた途端に降りかかる海水によって全身びしょ濡れ。
収まった所で箱の中身を確認したところ、中には箱の大きさには見合わない靴下が一つ。
持ち上げてみれば中からはさらに魚がぼとり。もう意味が分からない。この靴下がこの事態を引き起こしたとでも言うのか。

とりあえず中身は貰っておく。今度聞かなければならないアイテムの詳細が増えたのであった。

「…………だいじょうぶ、ですか……?」

今度は目の前の人物が炭の雨でぐっしょり。寒空の下で濡れ鼠が二匹誕生した瞬間である。
とりあえず先ほどのハンカチで身体を拭こうとするが、夜風が身に染みるのか、上手く水分を絞れずにいるのであった。
444イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/16(土)00:31:05 ID:6fh
>>443
「リリン様!? 大丈――」

突然の海水にびっくりしている。まさか妖精のイタズラボックスとでも言うのか!? と考えたところで視界を黒が覆い尽くす。

「…………っふー、けほっ」

炭の雨、再来である。もはや伝統芸になってしまいそうなほどに綺麗な浴び様だった。汚れたけど。

「ご心配なく、先程と同じ液体です、少し冷える程度で支障はありません」

ちょっと口に入ったりした炭をなるべく淑やか(?)に吐き捨てて、せめて顔だけでも手袋で拭った。

「しかしリリン様もお召し物もハンカチもひどいことに……どうでしょう? リリン様がよろしければギルドで身体を拭く布や乾くまでの服の替えをご用意できるよう相談しますが……」

さすがにこれ以上真っ黒な液体を染み込ませる訳にはいかないと気持ちだけ受け取ってハンカチを優しく止めながら提案。
真っ黒な水が道を顔に作っている姿はすこーし怖いかもしれないが、これもメイド……というかイルメアの優しさでもある。
風邪を引く前になんとやら、受け入れた場合はすぐにギルドに引き連れていくことだろう。道中崩れてない雪だるまを拳で砕いたりしながら。
445リリン・カマル◆hHo5Paj/Yc:17/12/16(土)00:53:15 ID:aGq
>>444
全身びしょ濡れになった状態で外にいるのは非常に危険。さらに現在は冬。あまりに過酷な環境であることは言うまでもない。
ましてはその被害者が身体の強くない少女であったならば、どうなるかは言うまでもないだろう。

「さ、寒くて手が……動かない……」

震える手でハンカチを絞ろうとするが相変わらずそれは叶わない。
この光景を見かねたのかイルメアも理解してくれている。思わずハンカチが地面に落ちる。

「お、おねがいします……ヘックシュンっ!」

ズルリと真っ赤に光る鼻を啜りながら答えるリリン。この状態でこの提案を拒否する理由もないだろう。
言葉を受け入れるや否や、すぐに二人はギルドへの道を歩み始める事だろう。
道中で雪だるまを叩き割るイルメアの姿に恐怖を覚えながらも二人は無事に目的地であるギルドに到着。
暖炉の前に陣取り、暖を得ながらこの日はギルドの世話になることになるであろう。

多くのナゾと新たな宿泊先を見つけながら、聖夜の夜は更けていく。
446アルドール◆55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)12:43:23 ID:lin
ロアールの外れ。
森に近いところにある家の前で、ちりちりと鈴の音がひとつ鳴っていた。

「…………はあ」

ちりん。鈴とともに、ため息が出る。
鈴を鳴らしているのはこの家の主人。ボサボサ頭の根暗魔術師――アルドールという男。
つけている瓶底メガネのおかげで表情は読めないが、ため息をついているあたり妖精からのプレゼントはもらえてなさそうだ。

アルドールの傍らには、暖かそうな毛布に包まれた何体かの人形たち。
一方鈴を鳴らす魔術師本人はといえば……ボロいローブと毛玉だらけのマフラーをつけているだけだった。
447イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/20(水)12:55:20 ID:4pd
>>446
鈴の音に引かれてやってくる妖精はまだ居ない。
しかし代わりに別の人物がやってきたことだけはよくわかる、妖精が起こすことはない足音が聞こえてくる。
その人物は長身だ。そして……所謂メイド服、ロングスカートで手袋とブーツ、そして寒さゆえかマフラーを装着している。頭にはヘッドドレスと一本の角があった。

「おや、鈴の音が聞こえてきたので何かと思いきや……これはまただらしのない人が居ましたね、ため息ばかりでは寄ってこないのでは?」
「……人形の方は防寒バッチリですが」

開口一番にこれだ。長身のため視線を下に置きがちで人形もその視界に入ったのかちょっと呆れ気味に。
メイドの片手には鈴が一つ握られている。そして腰元には……物騒な籠手が下がっていた。

「まあ良いでしょう、少しお付き合いしてもよろしいですか?」

ずい、と近寄ってマフラーから毛玉を一つ取ろうとしながらそう言った。
448アルドール【48】55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)13:46:24 ID:lin
>>447
「…………うわ」

声のした方を素直に見る。そして即座に目をそらす。
なんといってもいたのは鬼だ。しかも(彼視点では)BBAだ。すなわちオニババがいるのだ。
誠失礼なことだが、彼にとって相手は脅威の存在でしかない。
その心中たるや。思わず人形たちにかけている毛布をずらし、相手の目線を人形から遮ろうとするくらいだ!

「あ、え…………あ、あぁ…………」

しかしコミュ障の悲しいサガ。ずずいと来られてしまうと押し負けてしまう。
あ、あ、あ、と口を震わせながらも、イルメアの行動に逆らうことが出来ない!
隣にはこられ、毛玉は取られ。彼に出来る事は、微妙に座っている位置をずらして心なしか距離を取ることくらいだ。

そしてちりん、とまた鈴が鳴る。
空振り続きの妖精探し。彼に呼び寄せられる妖精はいるのだろうか。
449イルメア【92】L1x45m6BVM:17/12/20(水)13:57:47 ID:4pd
>>448
なお鬼BBAメイド、否イルメアの年齢は21である。確かに許容範囲次第ではBBAである。

「あの、さすがにそこまで怖がられると傷付くのですが」

鬼、オーガとも言える彼女は人によっては怖がっても仕方ない、がアルドールの反応を怯えととったのかどこか複雑そうだ!
開いた距離を直そうとしたその時! 何かを感じて一歩下がるついでにアルドールに近い人形達を抱えあげた!
そして次に目にはいるのは……アルドールが雪だるまに変身(違う)した姿であった――。

「……お助け、するべきでしょうね」

そっと人形達を再び置いて、毛布をかけ直すと何やら拳を後ろに引いて腰を落として構えて――正拳を雪だるまに放った!!
雪だるまそのものなど軽く砕くことができるぞ! うっかりアルドールくんが前に出ていたら少し余波が当たるかもしれないが、それはさておき。

「やはり一人で鳴らすものではありませんね」

誰かの不幸の後に鳴らすのがいいと言わんばかりに今、アルドールが解放された直後に彼女は鳴らした。
450アルドール【24】55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)14:10:24 ID:lin
>>449
突如視界が銀白色に染まる。遅れて襲い来る寒さ。気配・オブ・フローズン。
けれどその寒さもそう長くは続かない。凍えきる前に助けが来たからだ。

ぼん。雪だるまを砕かれた余波でその場でよろめくアルドール。
しかし感謝の念など湧いてこないなぜなら相手は初対面のBBAだからだ!

「…………!!…………触るな、触るなッ!」

人としてどうなのだろう、と思うが、なんとアルドール。雪だるまから脱出すると即座に人形たちをイルメアから奪い返そうとする!
喉から絞り出されたのは悲痛な叫びだ。子供を奪われたかのような、そんな叫び。
人形たちをその手に再び抱きとめることが出来れば。
その時は、直前にあげた声とはうらはらに、硝子細工でも扱うかのように人形たちを抱くのだろう。

「……な、なに、か…………そ、そそそ、その、は、こ……」
「いっ……い、いいいい、いrrrr、るんじゃ、ない、か」

彼の気配が豹変したのもつかの間。イルメアの手元にプレゼントが落ちてくれば、普段通りの吃音で話す魔術師。
なんの冗談、と思いきや……彼女の手にあるプレゼントボックスは、確かにがたがたと揺れているのだ。
まるで箱の中に、なにか生き物でもいるかのように。
451イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/20(水)14:24:01 ID:4pd
>>450
「! これは失礼しました……大事なものゆえ雪に潰れるよりはと思いましたが」

すんなりと返してくれる様子だった。それだけ悲痛に見えたのだろう、このメイドさんも。ギルドのあらくれ達も「この人誰?」と思うほど様子が違うがなんてことはない、人によって態度変わってるだけである。
雪より手袋の方が汚かったか、とちょっぴり気にしてるのは目の伏せ方から察せ……るのだろうか。

「おや、やはりこの鈴は意思を……? ……生き物?」

プレゼントボックスを持ち、首を傾げるも束の間、ガタガタ揺れ出すそれを見て出てくる感想はやや安直。しかし仕方ない、それしか浮かばない。
ガタガタ揺れるもがっしり抱え込んでプレゼントの蓋を開けると――残像が見えた。そして二人の鼻には美味しそうなお肉の匂いが通ることだろう。げしっ、と蹴られたイルメアの頭の上には確かに居た。

表情を変え、それが八種類くらいだったからということで名付けられた八面鳥……の丸焼きが! もう一度イルメアの頭を蹴れば次はアルドールの頭に飛び移り、そのまままた頭を蹴り飛ばして煽るように逃げ出した! よりにもよって人形の居る方角へ!
その瞬間だ、イルメアの目が獲物を狩る目になったのは。この人、お肉は大好きだ。

「流石妖精の贈り物――挑戦的なことで!!」

雪が弾けるほど気合の入ったこの人による二次被害が発生するかもしれない今、アルドールはその逃げ出す八面鳥(丸焼き済み)を止めることができるだろうか!? それとも人形を守るだろうか!
452アルドール【69】55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)14:45:41 ID:lin
>>451
イルメアの謝罪に対しては、答えない。ただ大切そうに人形を抱きしめるだけだ。
彼女の謝意や罪悪感も……おそらく汲み取るつもりもないのだろう。
彼が壊滅的なまでに大人の女が苦手なのも、この態度の理由ではあるだろうが。

だが、彼の態度に疑問を持ってもやはり答えは返ってこないだろう。
揺れるプレゼントボックスに不信感を抱き、人形を安全そうな切り株の上に下ろすアルドール。
しかしその行動こそが運命の分かれ道となる――!

「…………や、やっっ、ぱ、り、なに、……か…………あッッッッバ――――!!!」

がっガッがっガッがっ。
アルドールのメガネやボサボサ髪につく脂!肉汁!芳ばしい香り!
何が起きたのかさっぱり分からなかったが、分からないなりに今非常事態が起きていて、その元凶が人形たちに向かっているというのだけは理解できた!

「ッッ!!…………さあァァァアア――――せるかぁあああああッ!!」

魔術師が――吼えた。
だが肝心の魔術は使えない。焔も氷も人形たちを傷つける。
風や水も、土も。丸焼きに向けてしまえば、近くにいる人形たちが汚れてしまう。ならば。

雪を蹴る。「sshi-win――――brw,fl」呪文を唱え、風の術を発動。
瞬間的な加速。この距離、丸焼き程度であればすぐに追いつける……!

そしてそのまま丸焼きを捕獲……するのではなく!
彼の手はまっすぐ、人形たちに伸びた!
ターキーレッグを捕まえるより、人形を護ることを優先したのだ!
丸焼きから人形たちをかばい、抱え込むアルドール。もちろん彼の背中はガラ空きだ。
相手からしてみれば――目があるかは不明だが――彼の背はとても蹴りやすい、格好の獲物だ!
453イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/20(水)14:57:49 ID:4pd
>>452
「速ッ――――そちらで――!?」

頭の上の芳ばしい香りに後で落とそうとか考えるよりも目の前のアルドールが迷うことなく人形の守護に入ったことに思ったことが口に出る。
しかし丸焼き捕獲より人形を守った方が早いのは確かである。捕まえられない丸焼きより、庇える人形だ、もっともイルメアの優先度は丸焼きのが上で。

丸焼きはその背中を睨み付けた! (目はないが)
そして後ろから迫らんとするイルメアを感じ取り一目散にアルドールに向かい、その背を遠慮なく踏み台として蹴った!
このまま空中へ、そのまま森の中へ逃げようとしたフェアリーターキー――きっと彼に想いがあるならその中には同族(?)を見つけてほのぼのしたり天敵とのバトルなどもあったことで――。

ガシッ。

「――ああ、折角の丸焼きが冷めてしまうではありませんか、逃げないでください」

否、そんな未来は来ない。このメイドの前に現れてしまったその時から。
足跡、先程のイルメアの場所を見るにアルドールの前で消えている――つまりこのイルメア、地力でそこまで跳んだわけであった。
ジタバタするターキー、それを掴んだままアルドール達を飛び越え、切り株の向こうに左手、膝、足で着地するイルメア。

「名も知らぬ人形のお方、謝罪と共に感謝します、……少し食べますか? なかなかいけますよ」

振り向くイルメアのその頬には既にターキーの片足が収まっていた……。そのお味にはお気を召したようで。
454アルドール【60】55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)16:14:38 ID:lin
>>453
一方のアルドールは、なんだかげんなりした様子で立ち上がる。
人形を護れたことは良かったが……問題は彼の格好だ。
頭もメガネも服も脂と肉汁まみれ。下手に動けば人形が汚れてしまう。
はあ。彼からまたため息が零れるのも仕方がないことだった。

「…………いや……、…………いい」

力なく首を振り、イルメアに背を向けるアルドール。
幸いなことに家はすぐそこだ。とりあえず服を着替えてしまえばいいと彼は思ったのだろう。
ざく、と雪を踏みしめ、家に向けて歩き出す。
――ちりん。そして動きに合わせ、小さく鈴が鳴ってしまうことは。彼にしてみれば、まったく思ってもみないことだった。
455イルメア【85】L1x45m6BVM:17/12/20(水)19:44:26 ID:4pd
>>454
そうですか、と返答を聞くと遠慮なくそのお肉を堪能せんとかぶりつく。普通は切り分けて食べたりするものだがフライドチキンみたいな感覚で食べられるとはターキーも思ってなかったことだろう。

「家はこの近くで? 触りはしませんので人形は守らせてもらいますが」

そういえば自分も髪のあたりが脂と肉汁に濡れている、水ならまだしも脂でテカるのは勘弁である。

「……私はどうやら赤い鼻に縁があるようで……」

赤く照らされる周囲……イルメアはそれに見覚えあり。少女の時と状況は異なるが縁として感じるには十分。

「行ってらっしゃいませ、人形様達をあまり待たせないように――」

しゅる、と裾の隙間からハンカチを取り出すとそれを髪に乗せて肉汁を吸い取りつつ、アルドールに声かけ。片手のターキーは既に半分以上食い尽くされていた。

「…………ふむ」

アルドールが帰ってくる(かどうかはわからないが)までの間に少し暇と思ったのか、別のハンカチで包んだターキーを切り株の下に置いて、人形より少し離れてちりん、とイルメアは鈴を鳴らした。
456アルドール◆55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)21:44:52 ID:lin
>>455
「…………あ?」

ほわりと赤く照らされる周囲。もちろん光源は彼の鼻なのだが――アルドール自身は“そう”だと思っていない。
けれどなんだか妙に周囲が明るい、くらいの感想は抱いたのだろう。
あからさまに怪訝な表情を浮かべ……だが、家に戻って着替える意思は変わらない。
イルメアの言葉を聞いて彼女を一瞥。そのまま、上等とは言えない家へと戻るのだが。

――あああ、という気の抜けた悲鳴が聞こえたのは、彼がちょうど髪の脂を取るために鏡を見ていそうなタイミングだった。

そして彼がイルメアの元に戻ってきた時。
着替えたと思われるローブは相変わらずボロいまま。髪も変わらずボサボサだったが……
鼻のあたりまで頑張って巻かれた毛玉まみれのマフラーが、はっきりと目立っていた。
いかんせん鼻までのマフラーだ。そこからして目立つ。
おまけにマフラーの隙間から溢れる赤い光。とてつもなく目立つ!
これが街中であれば、「まああの人……ぷ」なんて言われそうな風体だ!

「……く、そ。…………お、お、おまえの、ssssss、せい、で……、」
「ひっ、ひひひ、ひっっ、ひ、ど、い、……酷い、…………い、いいいい、いち、にち、だ……っ」

ぶつぶつボソボソと低い声で独り言をいいながら、人形たちを迎えにきたアルドール。
そのまま何事もなければ、名前すら名乗ることなく、人形を抱えてまた家の中に引っ込んでしまうだろう。
だがもしも何か語ることがあれば。その全てを無視する、ということはないはずだった。
457イルメア【100】L1x45m6BVM:17/12/20(水)21:58:42 ID:4pd
>>456
気の抜けた悲鳴を聞いて「今頃気付いたようですね」とまるで人形に語りかけるかのように。
そしてぽすん、と落ちてきたプレゼントボックス。この時期はどうやら幸運続きと言えるようだ。開けて見ると中身はほんのり暖かいクリスタル……冬にはちょうど良い代物でもあるだろう。

それを見て、ふむ、と一考する頃にアルドールが戻ってきた……その姿に少し吹き出しそうになるのを堪えながら。

「……ふ、お嬢様とはまた……ふふ……」

少女とは違った隠し方がなんとも言えないツボに入ってしまったようだ!

「おや、それは私としては心外ですね、貴方も人形様達に祈ってみてはいかがでしょう? 私は人形様の近くに居るとこのようなものも受け取れた訳ですし、大事なればこそのその人形様のためにもう一度試されてみては?」
「それと私はお前ではありません、ギルドに雇われましたメイドのイルメアと申します、以後お見知りおきを。真っ赤な鼻のトナカイ様?」

人形を抱えて戻る最中でのこの台詞。試してみたいと言う気分がいっぱいである。そしてお前呼ばわりのままもアレと思ったのか、スカートの裾を摘まんで礼の所作をとって自己紹介。
その手にあるプレゼントボックス。……暖かいそれは今何故か身体がぽかぽかした気分の自分より色々寒そうな彼に与えてみるのも一興と鈴の音と共に考える――。
458アルドール◆55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)22:23:56 ID:lin
>>457
笑いを堪えきれないイルメアを見て、ち、と舌打ちをする。
だが、そのまま放置して家に戻ろうとまた彼女に背を向けた時。聞き捨てならない言葉が聞こえた。
人形のためにも。そう言われて、どことなく腹立たしくも思ったが、もう1度くらい、という気持ちが生まれたのも確かだった。
妖精がまともなモノを寄越すとはあまり思っていなかった彼だったが……あと1度くらいは。

「…………アルドール」
「それと、彼女たちを、だしに使うな」

呻くような声だった。どうも人形の話題を下手に出すのは良くなさそうだ。
町でも変人の名で通っている人形師だ。彼には彼なりに、人形たちに対し強い感情を持っているのだろう。

そして――ちりん、とまた鈴を鳴らす。
鳴らすが、何も起こらない。
やはりこんなものか。そう、彼が思ったときだった。

…………ゥゥゥウウウウウウウウウ――――ドンッッッ!!

空から落ちてきた巨大なプレゼントボックス。そいつが彼の真上に着地!
だが完全にアルドールが押しつぶされたわけではない!
人形を護るかのように人形たちに覆い被さり……ぎりぎりのところで耐えている!
けれどモヤシのようにガリガリなアルドール!その手足はだいぶプルップルにふるえている!
459イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/20(水)22:36:54 ID:4pd
>>458
「アルドール様、ですね。失礼致しました」

頭を下げての一言。下手に付け加えていき相手を刺激するのも良くない。名前を知れたのは良いことだと。

そしていざ、と鳴らされた鈴の音――何も起きなかった。

(もしかしてアルドール様の妖精とは――)

そんな少し空想的なものを考えようとした時だった――どちらの音に反応したかも定かではない、巨大なプレゼントボックスが目の前にあった。

「……アルドール様!!? が、頑張ってください! 今お助けしますので!!」

自身のプレゼントボックスを素早く置くとスチャ、と腰元に下げていた籠手を装☆着!! メイドさんというにはあまりにも武装派な姿が誕生した!!
直ぐ様ガシッ!! とボックスの底面を持てば、角に微弱な電気が走るほどの気骨を込めて踏ん張り――

「ッ――はぁッッ!!!」

――持ち上げた。彼女の籠手は非生物にのみ効果がある、そう――「箱」は非生物だ、多分。故に怪力。それをズウゥン、と真後ろに置けばザッとアルドールの真正面に推参し。

「ご無事ですか!? 人形様方は!」

籠手を外してまでのそれはアルドールの心配じゃなかった。ひどい。
そして小さなプレゼントボックスを回収してから、巨大ボックスに手を添えると……。

「……しかし、このようなサイズもあるとは、アルドール様、これを拝見なされたことはありますか?」
460アルドール◆55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)22:54:21 ID:lin
>>459
「ぐっ…………う、お、お、お……!」

腕も足もぷるぷる――ではなくガクガクとし始める。
このままではあと少しも持たない……だがそこをイルメアの怪力が救うのだ!

急に重さから解放され、よろりとまたよろめき、そして人形たちを避けて雪の中に倒れこむアルドール。
もちろん、人形たちには傷ひとつない。
そのことを確認すると、ほっと彼は安堵の息をつくのだ。

「…………?あ、あぁ……い、や」
「き、き、き、きょ、うう……きょ、かいのだあ、あ――だ、だれ、か、が」
「おお、きな……おおおお、お、お、kkkkkk、なっ、……、は、こ、を」

長くなるので翻訳すると。
『教会の誰かが去年大きな箱をもらったという噂話を聞いたことがあるが、実物は見たことがない』
――と、そんなことを彼は言っていた。
大きなプレゼントの存在は知っていたが、彼自身も見るのは初めてらしい。
雪の中で倒れ込んで人形を抱きつつ、その視線は興味深そうにプレゼントボックスにむけられていた。
461イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/20(水)23:02:00 ID:4pd
>>460
狼狽えたり悲鳴をあげた様子がないため、人形は無事だとイルメアも判断したようだ。これで目の前の巨大プレゼントボックスに集中できる。

「………………」

ぽくぽくぽくぽくぽく…………チーン(解読)

「ふむ、教会の方が……そこから持て余したりした噂がないようならば、少なくとも悪いものではありませんね。一応ですが人形様達に警戒を」

では、開けてみましょう。
巨大な箱には不運が……なんて伝承もあるものだが。

そしてその箱の封を慎重にイルメアは開けていく。大きさが大きさなので上に飛び乗ってからしゅるると外していき……地上に降りて蓋を開けると――。

きゅーきゅー。


「…………これは」

あまりにも巨大な……毛玉のような生物。それを見てイルメアは言葉を失いかけていた。
462アルドール◆55Rq1Tu8Bo:17/12/20(水)23:13:49 ID:lin
>>461
「……………………」

アルドールは、というと。
こちらはもう、完全に言葉を失っていた。
その巨大さに、思わずメガネを何度かかけ直すほどだ。

だが、少し経てば正気を取り戻す。
――――そして、ちょいちょいと風やら何やらの魔術を使い、そっと箱に蓋を閉じようとする。

…………。…………。
こいつ、なにも見なかったことにしようとしているぞ!!
463イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/20(水)23:18:55 ID:4pd
>>462
「……ひっ!?」

アルドールが行動を起こした時、イルメアもなんとか立ち直る。ほんのり暖かいプレゼントボックスに手を突っ込んだら静電気だ! 

「……アルドール様、さすがにそれには無理があるかと。もう共犯ですよ」

蓋を閉じる様子を敢えて見逃しながら笑顔でアルドールに呼び掛ける。さらっと共犯に仕立て上げてるぞこのメイド!

「とはいえ、これを個人で飼うのも難があるのでしょうか? アルドール様、この生物を飼うことは可能ですか?」

そっ、と蓋を閉める行動を手伝う……きゅーきゅーというなんだか悲痛な鳴き声に心痛めながらも心を鬼にして。
そして一度閉め終わって、揺れている箱を背にすると。

「よろしければこちら、お使いになりますか? 寒そうなことですし」

小さなプレゼントボックスを開けて、まだ暖かさを残してるクリスタルを見せてイルメアはそう言った。
464アルドール◆55Rq1Tu8Bo:17/12/21(木)10:53:08 ID:JmP
>>463
「…………きょ」

共犯ってことはないだろう、共犯は。
そう言いたげに表情を歪めるアルドール。けれど残念。声には出ないのだ。
おまけに顔の半分はマフラーで、もう半分はメガネで隠れているものだから歪んだ表情さえわかるかどうか不明だ!
眉の傾き具合?ええ、ボサボサ髪がしっかりカバーしてくれています。

「…………か、かっっ、か、かえ、ると思う、か」
「そお、う、うえっ…………そ、すうぅっ。そ、それ、に……そいつ、もっ、い、いいいいい、いら、……、ない」

さっき汚い悲鳴をあげていただろう。
吃りながらもそう付け加え、イルメアの2つの提案をやはり拒否。
飼えると思うか、という時の声色はむしろ迷惑そう。
なんといっても、見た目からしてぎりぎり小屋とは呼べない程度の作業場兼寝床。
恐らく隙間風の酷い家に住む彼にとって、クリスタルは良い申し出だと思うのだが……
(彼からすれば)BBAからの贈り物、というのがアウトらしかった。

けれど彼の言い分を無視してコ=モやらクリスタルを押し付けてしまえば、情に負けて――
――――。情に負ける性格かどうかは、イルメアが判断することだ。
465イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/21(木)11:27:20 ID:3pL
>>464
残念ながら歪み具合を透視できる目は持っていないため、都合良く気付かず微笑みを。
彼視点からBBAと見られてる以上、笑みもあまりよい評価にはならなさそうだが気付いてないだけまだマシか。

「ふむ、では一度ギルドに頼んでみるとしましょう。落とし主が妖精というのも面白くありますし」
「……クスクス、そうですか。良い提案だと私は思ったのですが……」

さすがに生物であるコ=モは押し付ける気にはならなかったようだ。というより一人でもなかなか厳しそうなコイツを彼の家に置いていくのも姿を見る限りは厳しそうだ、超失礼だが。

プレゼントボックスの蓋を閉めて、封まで再現すると人形の前にそれを置いて――。

「ではこちらは人形様にお渡ししましょう。随分と寒空の中に居させてしまいましたし、もしかしたら受け取れないために私の元に落ちた可能性も否定はできませんし……」
「ああ、だしにしたつもりはありませんよ? これでも私は人形は嫌いじゃないのです」

有無を言わせる気がなかった。否定するにはできそうだが、それをさせる気がないほどに流れが早く、それでいて美しい。
そして少し冷えてしまったがまだ匂いも食感も味も衰えていないターキーを回収して――メイドらしくなく口にして食べると飲み込んでからお次はコ=モを……担ぎ上げた。
ここの辺りでアルドールも実感するかもしれない。怒らせたりするとやべえやつだって。

「では、私はそろそろギルドに戻るとしましょう。アルドール様、どうかお風邪を引かず、引かせないようにしてくださいませ……それと鳴らす際は人形様を少し離したりしておくのをオススメしますよ」

そう言ってイルメアは背を向ける。何か言うことができたならそれを聞き遂げるだろうが……。
 
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466アルドール◆55Rq1Tu8Bo:17/12/21(木)13:36:35 ID:JmP
>>465
あの巨大さなら、ギルドの過労死直前受付嬢も仕事をしながら寝れるだろう、と小馬鹿にしたように笑う。
それとも、野良に還れと叩き出すのだろうか。
良くも悪くも仕事熱心な彼女ならやりかねない。
そう思いつつ――クリスタルを人形に渡すイルメアの行動自体は、止めなかった。

「…………。…………悪く、ない」

そして去りゆくイルメアに呟かれた低い一言は、彼女に届くだろうか。
直接的に感謝や謝罪を示す言葉ではない。
だが、少なくとも彼が彼女に悪い感情を持たなくなったことの現れではあった。
人形に対する気遣いが、彼の心を緩めたのだろう。
人ではなく、徹底的なまでに人形を優先する。それが、彼という男の在り方だった。

故に――イルメアがどれほど驚異的な存在でも恐れはしないのだ。
自分の感情に素直すぎる。それが彼の欠点であり、生きづらい理由であるのかもしれない。
ともかく、彼からこれ以上の言葉が発せられることはなかった。
イルメアが去るのを見届けることもなく、人形たちを抱えて襤褸の家へと戻るのだ。
次に会うのはいつだろうか。同じ町にいる以上、そう遠い未来ではなさそうし……その時は、今日ほど冷たい反応でもないはずだ。
467イルメア◆L1x45m6BVM:17/12/21(木)16:20:16 ID:3pL
>>466
「…………ありがたき幸せ」

ほんのわずかな一瞬、止まった脚。雪を固めるのがそこだけ長くなってしまった。
誰でも自らの行いを悪く思われないのは嬉しいこととイルメアは思う。特に、人形に対して少しやりすぎとも思えるほど自己犠牲ができるアルドールからの、人形への行動に対するその評価は。

少し上機嫌、やって来たことを祝われ、記念という意味で贈られているのかもしれない多くの贈り物。
身体はターキーを食べてからなんだか暖かく(錯覚)、歩く度にきゅーきゅー聞こえてくる巨大な箱も案外良い愛玩動物になるかもしれない。
そしてギルドに辿り着けばイルメアは若干荒くギルドマスターに交渉することだろう――この巨大なコ=モをどうにかして飼えないか、と。
世話はやれ、と言われたらやるだろう、何か起きる前に対応しろ、と言われたらそこそこにやるだろう。何はともあれ……刺激されたのか彼女は強気だったという。

(――もしや、この銀貨は……ふふ、良いものです)

アルドールと同じく鼻が赤く光ってしまっていた少女と居た際に受け取れたプレゼント、一枚だけ絵柄の違う銀貨。それを幸運の……として見るのはきっと自然なことだろう……。

そして翌日、体調を崩したイルメアであったという。……誰がどう見ても、外とギルド内を往復したことによることが原因だった。
 
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468アリス◆XKI2z5mfl2:17/12/23(土)16:53:20 ID:QBE
【ちらちらと雪の降る寒空の下、通りを歩く人影が一つ】
【注意深く辺りを見回し、何かから逃げるようにフードを目深く被る】
「……っ……寒い……」
【かじかんだ指先に息を吹きかけながらぽつり、と呟く】
【その顔色は悪く、察しの良い者ならあまり栄養状態が良くないのだと気付くだろう】
ふとある面影が、脳裏をよぎる。
心の底まで冷え切ったこの僕に、手を差し伸べてくれた暖かいあの青年。
何故、僕なんかに、あそこまで……
【意識が、暗転する】
【一拍おいてその身は傾ぎ、直にその華奢な躯は石畳へと打ち付けられるだろう】
469アマンディーヌ◆hHo5Paj/Yc:17/12/24(日)21:32:38 ID:r0Q
ロアールの聖夜。人通りもあまりないとある通りに、一つの人影がありまして。

「……気の利いたことをやってるみたいね。ワタシみたいなのにもプレゼントだなんて」

黒いコートに身を包み、肩に付いた雪を払い落す人物。
こめかみから生える蝙蝠の羽が特徴的な彼女こそ、知る人ぞ知る吸血鬼であった。
手に持つ鈴と周囲に飛び散る雪が、直前までの彼女に何が起こっていたかを示している。

彼女のような種族でもこんな時期に一時の運に身を任せたくなる時があるらしい。
何者にも平等に富または悪戯を授ける妖精から、どのようなプレゼントが彼女に与えられるのか。
470シェルフィ◆L1x45m6BVM:17/12/24(日)21:43:16 ID:QwG
>>469
各方角から聞こえてくる鈴の音、雪の音、液体の音。
それにビクビクしながらもロアールにやって来た人影がその通りに加わる。

「……ぷ、プレゼント貰えたの? お、お姉さん……」

雪が乗った大きな貝殻を背負った、白い布を貧相な体に纏った少女。耳は良さそうだが色々な音のせいで直前の音は知れなかったようだ。

「私まだもらえてなくて……なんでかなー……」

鈴を見せてそう言う少女。どうやら炭もライトも雪ももらってないようだ。……妖精が来ないのもそれはそれで虚しいが。
残念そうで羨ましそうな目と吸血鬼を見上げる少女……夏のどこかで出会った気がしなくもないが、少女の記憶ちがいかもしれない。
471アマンディーヌ【81】hHo5Paj/Yc:17/12/24(日)21:59:07 ID:r0Q
>>470
ふう、と一息ついたそばから聞こえてくる声。
気を張りながら向くと、そこには聖なる夜に相応しい可愛らしい少女。気になる点はあるがまあいいだろう。

「そうね、つい今妖精さんから素敵なプレゼントを貰ったばかりよ」
「あの子たちは移り気だからね、もう少し待っていたらアナタのところにも来るかもしれないわよ」

一目見て人間でないことは明らか。最近はよく海の子と縁があるわね、なんて思いつつ。
ゆっくりと貝殻を背負った少女に向けて一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄る。背丈の差から少々威圧感を与えるかもしれないが、それも理解しながら。

「だったらワタシもやってみようかしら? アナタみたいな子と居たほうがあの子たちも寄ってきそうだし」
「何かあってもお互い様でしょう? ね?」

わざわざシェルフィの傍まで寄ってから、ちりんと鈴を目前で鳴らすのであった。
はてさて、本当に彼女の元に妖精はやって来るのだろうか。答えはもうじき明らかになる。