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ここだけホビーバトル大会 その1

301Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/17(日)22:35:16 ID:ohH()
>>296

「わあ、エンジさん!!今日はよろしくお願いします!!
 多喜山スタードリーマーズのエースにも来てもらえるだなんて、いや〜光栄です!!」

同鋼獣使いとして彼のことは知っていたらしく、彼を見つめる瞳はキラキラと尊敬の念に輝いていた。
早速、色々と語りたくて仕方がないようでウズウズとしているカナデだったが……彼女が言葉を発するよりも先に彼に語りかけたのは。


「……あれー、先日ぶりだね。元気にしていたかい?」


エンジに語りかけたのは店員である眼鏡をかけた若い女性。現在はウェイトレス姿に身を包んでいる彼女だったが、しかし彼女のことをエイジは知っている筈だろう。
先日のホビー暴走事件の後始末にあたって挨拶を交わした、ユニバース社社員にして開発主任、六徳セツナ。彼女がなぜかここで働いていた。


>>299

差し出された名刺を見て、少しばかり考え込んだ後に思い出す。
確か、そんな名前の海外ファイターがいた筈だと。ストリートにて頭角を露わにし、躍進を続けているというが彼女こそがーーー。


「……デトロイド!!アメリカン!!海の外のファイターとも会えるなんて……この交流会開いてよかったあ……!!」

「暴走……いやいや、きっと大丈夫だって!!もう原因は判明したっていうし、防犯レベルも引き上げられたってニュースで言ってたからさ!!」


ジョークを流さず真面目に答えるのは、カナデがそういう性格をしているからか。
そして出された闘機を見るとカナデは瞳を輝かせ……今まで寝ていた白狼の鋼獣がぴくりと目を覚ます。
バイザー越しにラニアの見つめるその瞳に宿るのは、果たして闘志だろうか。
302マキト◆M0KwQrAFd. :2017/09/17(日)22:35:41 ID:KRl
>>295
カフェの扉が強引に開き、ドアベルの鐘が無作法に鳴り響く。
扉の向こうに立っていたのは息を切らした一人の青年、白吉 マキトだ。
赤いキャップにキャップにジーパン、胸には紫色の下地に"ETC専用レーン"の文字が堂々と輝くTシャツ。少し大きめのリュックを背負った青年。

「ハア……ハア……オフ会の会場はここで合ってるよね?」

ドアノブから手を離し、洒落たカフェの中へと重い足取りで中に入る。店の雰囲気から考えるとめちゃめちゃ浮いている。
そして次の瞬間、彼が捕った行動は――

「私、白吉 マキト、ものの見事に寝坊して遅刻をかましましたッ! 本当にスイマセンでしたーッ!」

土下座である。丁寧にキャップまで床に置き、額を床に押し付ける古き良きジャパニーズスタイル。
何が彼をそこまで駆り立てたのかはわからない。だがそれほどまでさせる何かがあったのは確かだろう。本人が遅刻と公言しているのだが。

「いやね、まさかこんな時間まで寝てるとは思わなかったのよ。明日はオフ会だからって早めに寝ようとはしてたんですよホント。
 でもさ、夜遅くに試合のリプレイ集とかやってたら見るでしょ。見ちゃうでしょ。それが健全で正しいバトラーってもんでしょ。
 酷えと思いませんかね、思いませんかね皆さん。だからボクは悪くなくって悪いのはあんな時間に再放送やるテレビ局に問題があって……」

「アッハイ、ホントスンマセンでした。ハイ」

頭を床に擦りつけたまま妙な早口で言い訳を展開する姿はまさに異様。コイツの目的が本当に謎である。
ともかく開幕土下座という姿は嫌でもインパクトに残ってしまう結果になりかねない。掴みはバッチリ。
303初風なずな&冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/17(日)22:44:50 ID:nR5
>>295

こんこんとノック音をさせてから扉を開いたのは、二人の少女だった。

「こんにちはー。あの、交流会ってここでやるんですよね?」

一人は栗色のセミロングヘアとくりくりした瞳を持つ、小動物然とした女の子。
フェミニンなピンクのニット・セーターと白いチュールスカートに、こげ茶色のショートブーツを合わせた、いかにもフェミニンな秋の装いで。
はきはきと挨拶を交わしつつ、集まった人たちにもにこにこと会釈する。
その腕には、ぬいぐるみのようにスカイブルーの『戦姫』が抱かれていた。

「こんちわーっす。……エヘヘ。一体どんな機体(こ)たちが集まってるんでしょうか」

もう一人は、なんというか干物みたいなやつだ。
色褪せたジーンズに白いタンクトップという下地に丈の長いデニムジャケットを適当に羽織り、分厚い赤縁ナイロールの眼鏡をかけている。
年季の入ったベージュのキャスケット帽とダサい迷彩柄のブリーフケースも相まって、雰囲気は相当濃いオタクのそれ。
ただ――よくよく見てみると顔は結構いいし、スタイルも良い。どこかちぐはぐな印象を与える、不思議な少女だった。
彼女は人より先に、ホビーの方を舐めるような視線で精査していて、自身も肩に翼竜型の鋼獣を乗せていた。

二人の姿を認めれば、驚く人も居るかもしれない。
彼女たちは女子高生アイドルグループ『ぷりずまてぃっく』のメンバーであり、ファイター・モデラーとしても一定の知名度がある、初風なずなと冬芽つばきその人なのだから。
304ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/17(日)22:49:37 ID:kf1
>>300
「さあ、どこからでも掛かってきてください!時間は限られていますよ!」
「早くしないと時間切れ……に……」

相手が本気であってもあくまで態度は崩さない、ショーの進行に間違いがあってはならないように煽り言葉をまくし立てて焚き付ける。
そんなパフォーマンスをしていると、目の前でリコリスが武装を展開し始めた、ガシャガシャと次々に姿を現わす火器、ミサイルとガトリングが見えてきた辺りで嫌な予感がして来た。

「……あー……ちょっと待って、今から『ミサイルとガトリングとビームライフル禁止』ってルール付け加えてもいい?」

流石にドン引きする量の武器群、鬼ごっことは言ったが戦闘不能に陥らせるのは構わない、勿論それをわかっているが故の曖昧なルールであった。
だが、まさかいきなり破壊寸前まで攻撃を仕掛けてくるとは誰が思うか、ジョセフは引きつった笑みを浮かべる。

「わーっ!わーっ!!ストップストップ!!危ないって!!」
「ジョーカー!頑張れ!どうしようもないけど頑張れ!!」

四方八方から襲い来るミサイルと弾丸の雨あられ、一度でも受けてはひとたまりもないその猛攻からジョーカーは必死で逃げ惑う。
ミサイルが地面に落ちた爆発で吹き飛ばされ、弾丸が掠り、頭上をミサイルが通過する。
何とかいい所にダメージを食らってはいないが回避するだけで精一杯だ、こちらから攻撃することが無いだけ回避に専念出来るのが不幸中の幸いとなった。

だが、ジョーカーは確実に攻撃を回避している、戯けたような動作だが、その実動きに全く無駄が無い事がわかるだろう。
305深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/17(日)22:55:12 ID:cjm
>>301

「あ、ああ……知ってくれていたみたいで嬉しいぜ。」

彼女の興奮した様子に少々面食らいながらも返答する。
そう。クラブチーム所属の彼は多くの参加者に知られている。
一方的に情報アドバンテージを失っている現状をなんとかしなくては、という思いは当然あった。
しかし、

「あー……どうも。」

意外な人物の登場に目を丸くする。
まさかこんな場所で再会するとは。できるなら大会の運営サイドとはあまり関わりたくないのだが……

「まあ、ぼちぼちっすね。幸いそこまで大きな破損もなかったですし。
 ……ていうか、白衣の印象が強すぎて気づかなかったんですけど。副業か何かっすか?」
306Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/17(日)22:58:07 ID:ohH()
>>302

「うん、とりあえず店内で土下座はやめてくれないかな
 景観的にも衛生観念的にもよろしくないから、ね?」

笑顔のままやんわりと告げる店員こと六徳セツナ。そして貴方が立ち上がったならまずはお手拭きを手渡すだろう。
そして視線の高さが同じになったなら、改めて主催者であるカナデが貴方に向けて歓迎と自己紹介を告げるのだった。

「……え、ええっと。まあ、よくあるよくある!!寝坊なんて私も模型製作に熱中した翌日には大体やらかすし、気にしない気にしない!!
 あ、主催者の瑞樹カナデですっ、今日はよろしくお願いします!!」

>>303

「…………………マジで?」

思わず真顔で呟いてしまったカナデと、その表情に少しばかり吹きそうになるのを堪えるセツナ。
モデラー界隈においても一定の知名度があるアイドルがそれも二名……驚かない方が無理な話かもしれないが。

「あらら、主催者さんが緊張でフリーズしてしまったね
 とりあえず開いている席なら自由に座っていいよ。あ、飲み物何がいい?」

硬直してしまった主催者の代わりに店員であるセツナが席へと案内するだろう。
この面子の中ではどうやらセツナが一番の年長者らしく、その対応も落ち着いたものだった。
307ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/17(日)23:02:31 ID:wMW
>>301

「だよねえだよねえ、まさかまさか!
 『神聖なる知性と闘争の式典を、斯く卑劣で野蛮なる手段にて侮辱するような――』って、誰か言ってました!」

 変わらずニコニコ彼女は笑って、恐らくはニュース番組かどこかで聞いたような、わざとらしく格式ばった言い方を真似て――。
 やはり冗談かそうでないか、話し方だけでは解らない少女だった。本気にしているのか、していないのか。
 ともあれ彼女の笑顔に嘘はなかった。テーブルの上に立たされた白黒の闘機は何も喋らなかった。
 ――然し。カエデと共なる鋼獣の、闘志に似た視線を感じ取ったのなら、初めて少々慌て気味に。

「わあ、どーどー! わたしちょっと今、バトルできないんですよ――。」

 そしてやや、申し訳なさそうに。初めて少々頭を下げた。その弁解は、いまいち要領を得ていなかったが――。

>>303


「――あーっ! なずなサン、つばさサン!」


 ――2人が、席に座るや否や。不意に彼女は椅子から飛び降りて、長い銀髪をたなびかせながら、とてとてと入り口へ駆け寄ってゆく。
 恐らくはふたりの背丈でも見下ろせるほどに小さな少女が、小麦色の手に愛機を握り、眼鏡の奥から金色の瞳を輝かせていた。やはり、見上げていた。

 
「はじめましてー! 『PrisMatic』、わたしファンなんです! この間のシングル、買いました!
 やっ、なずなサンがホビーファイトをやり始めてから知った、俄か者ですが……。」

「あッ。申し遅れました! ワタシ、ラニアといいます! よろしくお願いします!」


 ぴょこんとまた名刺を差し出す。今度は、2枚。――受け取ってほしい、とのことらしい。
308ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/17(日)23:06:36 ID:1Hm
>>304

「拒否します、ルール変更は受け付けません」

淡々と告げるとさっさとリコリスの補助に専念。ミサイルの弾着予想、敵の回避行動の予測、ガトリング砲の制圧射撃。
どれも相手の動きを止め確実に葬ろうとしているそれらの攻撃はしかし致命傷を与えるには至らない。これだけの重火器を持ってしても当たらないのは回避ばかりに専念していることもあるだろうが機動力も大きいだろう。

「ミサイルの着弾ルート変更、地面に着弾するようにして地形を崩せ」

既にジョーカーの周りの地形はボコボコになっている。ニーナはそれ以上にジョーカーの足元の地形を崩すように指示しジョーカーが満足にその場で回避行動が取れないようにしようという魂胆だ。
そしてそれでも足りないと思ったのかニーナはもう一つの指示を出す。

「……リコリス、粒子バズーカ砲構え。フルチャージで発射」

『指示受諾、バズーカ砲チャージします』

弾幕は緩ませず、しかし構えた長大なバズーカ砲には光の粒子が集まっていき高濃度のエネルギーを生成していく。
圧倒的な熱量を誇るそれは明らかにかなりの威力を誇るものだろう。

『粒子圧縮率70%…85%……100%』

「……撃て」

合図と轟音と共に放たれたのは極太の光の柱。大地を抉り膨大な熱と共にそれはジョーカーへと迫っていく。
309菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/17(日)23:12:41 ID:Sn7
>>293
 アリスは菱華の手を取った……まるで、彼女と自分が対等であるかのようだと、ふと菱華は思った。
 いつもならばそんなことを考えるなんて、烏滸がましいし失礼だと考えるし、実際のところそうであったのだが……それでも、その感情よりも。
 彼女がそういう風に見てくれているならば、とても嬉しいという気持ちが湧き出たのは、きっと少しでも……“自信”を持つための第一歩なのだろう。

「私の武器、私の強み――――」

 噛みしめるように、菱華はそう言った。……そうか、自分にも、そんな取り柄が有るなんて。
 たった今、一度そう言われたばかりだと言うのに、然しアリスという少女が言うのであれば間違いはないのだろうという安心感が確かにあった。
 柔らかく笑う彼女に合わせて、透き通るように、浸透していくような。そんな微笑みを、自然と浮かべて。


「――――はい。私、絶対本戦に行きますから。絶対、絶対、戦いに行きますから。

 それから、私――――」


 『次は、勝てるようにがんばりますから』と。
 彼女にしては、ありえないくらいに前向きな発言とともに、一人と一機を見送った。

 さぁ、さぁ、さぁ――――やることが山積みだ、やりたいことが山積みだ。何をしよう、何から弄ろう、何をどうしよう、どれをどうしよう。
 けれども、その視界は今まで以上に明瞭で透き通っていて。迷いなく、突き進むもので在ることだろう。彼女は、それをそう導いたのだから。
310深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/17(日)23:16:18 ID:cjm
>>302

「ええ……」

己と同様に場に不釣り合いな人物の登場にすこし安堵の表情をにじませた
が、次の行動にはさすがにドン引きである。

ちょっとかかわらないほうがいい人かなあ、とか思いつつも、

「録画すればいいんじゃないっすかね」

茶々を入れる場所はそこでいいのか。本人にもよくわからなくなっていた

>>303

「お、この前のアイドル」

続いて現れたのは、先日の事件の時に同席したアイドル……と、そのグループ仲間のひとり。
正直そこまで詳しいわけでもないのだが、それでも一応露出の多いモデラー、バトラーとして把握はしていた。

……とはいえ、一方的に知っているだけで向こうが覚えているとも限らない。
それに有名人の相手をするのはファンからのやっかみとか色々非常に面倒っぽいので、そちらへ目線をやって軽く会釈するに留まって。
311Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/17(日)23:19:32 ID:ohH()
>>305

「副業というか、趣味みたいなものだね
 本社での仕事が一段落した時なんかは、よくお手伝いに入ってるって訳」

つまりプライベートだから、そう警戒する必要もないよと付け足して。
同時にその胸ポケットの中から、小さな顔がひょっこりと顔を出してエンジを見つめるだろう。
純白の髪に青い瞳の神姫……しかし何処か一般のキットとは雰囲気が異なるのは、セツナが特殊な立場であることに関係があるのだろうか。


「先日の事件、ニュースで見ましたよ!!あのマッドレックスベースの機体ってエンジさんのホビーですよね!!  
 やっぱり恐竜型のホビーっていいですよね!!そういえば今度マッドレックスのカラバリが出るらしいですよ!!気になりますよねー!!」


高テンションでカナデが話かけるのと入れ替わるように、神姫はセツナのポケットの中に引っ込んだ。


>>307


「……ワン」

仕方ない、といった風にないて白狼は再び寝る姿勢に戻る。
そもそもAIであるこの狼に睡眠は必要ないのだが、これも感情構築の一貫である。

そして残念そうにしているのはカナデも同じだったが、選手であるならば戦えない状況というのも理解できる。
模型の改良や修理、調整の最中ではホビーバトルなんてもってのほか。そのデリケートな状態で無理強いするほどバカでもない。


「そっか、それなら仕方ない!!まあ大会期間はまだまだある訳だし、また別の機会にね!!」


その時を楽しみにしていると笑みを浮かべる彼女の後ろで……店員でありユニバース社の一員でもあるセツナはラニアを見つめていた。
その表情はまるで訳知り顔とでもいうべきもので、然しセツナは自分からは何も言おうとはしなかった。
312ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/17(日)23:29:41 ID:kf1
>>308
華麗とは言い難いステップで攻撃を回避し続けている内に、自分にダメージは無くともステージが傷ついて行く。
段々と地形は悪くなり回避に有する動作もしにくく、動きにくくなっていく、それ程までにリコリスの攻撃は苛烈だった。

「足場を崩すか……中々上手い手を使って来ますね!!」

ミサイルの狙いが今までよりも下の方へ、ジョーカー自身よりも足元を破壊する事にシフトした軌道となる。
それでもジョーカーは軽やかにかわし続け、大きく跳躍した、しかし───

「あっ───」

着地した瞬間ボコン、とミサイルがあけた穴に右脚を取られ、体制を崩してしまう。
そこに襲い掛かるのは止まぬ弾幕と、地面を抉る光の塊。

「ああ!まずい!!ジョーカー───!!」

誰がどう見ても躱せない、ジョセフの悲痛な叫びがその光景から来る予測を裏付けていて。







「───なんちゃって」

しかし、それすら台本通り、彼の考える演出の内の一つだった。
ジョーカーは崩れた体制のまま、ナイフを3つ投擲し、精密な狙いでミサイルの弾頭を突き刺す。空中で爆発したミサイルが巻き起こした爆風に後続の弾丸とミサイルを巻き込ませる。
更にその爆風に乗り高く跳躍、間一髪の所で光を回避しつつリコリスの頭上高くを飛び越えて、背後に着地を披露した。

背後を取ったからと言ってジョーカーは反撃に出るのではない、新体操のような着地から、流れるようなお辞儀をして、観客に応える。

「間一髪、って所かな?」
「いやあそれにしても素晴らしい!足元を崩してからの一撃、まさに仕事人のような冷静な判断!流石企業の一流選手!」
「こんなに楽しい勝負、まだ終わらせるには早い、そうでしょう?」

リコリスを操るニーナに賞賛の言葉を送り、ジョセフはにこやかに笑った顔で彼女と、周りの子供達に腕を広げてみせた。
大会出場者の実力、その一端を目の当たりにした子供達は、最初は驚いていたものの徐々にその魅力に取り憑かれつつある。
ジョセフとしては非常に良い流れ、それもこれも彼女あっての事だと、ジョセフはニーナに礼をした。

「どうです?まだまだこんな物で終わりじゃあ、ないですよね?」

残り時間は、あと一分。
313初風なずな&冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/17(日)23:33:43 ID:nR5
>>306

「おや。チラシにはどなたでも歓迎、と書いてあったはずですが」

「あはは……コナユキ、流石にその物言いは酷だよ」

スカイブルーの戦姫の皮肉屋な物言いを、なずなは相棒の頭を指先で撫で、曖昧な微笑を浮かべて諌める。
彼女たちの後ろにカメラマンの姿はなく――どうやら、本当にいち参加者として交流会を訪ねたらしかった。

「あ、六徳さん。その節はお世話になりました。でも、どうしてここに?」

何でここに、なんて質問は出来た立場じゃないけれど、それでも聞かずにはいられない。
そういうわけでなずなが気安く聞いてみると、目の前に現れた人物の顔を認識したつばきが短く叫んだ。

「――えっ!? なずなサン『主任』と知り合いだったんすか?」
「うん。ちょっとソロのお仕事でお会いする機会があって」
「マジっすか……そのことも『主任』がウェイトレスさんってのも初耳っす。ラテアートでサインとか書いてくれるんすかね……?」
「あ、それブログのネタにいいかも。……って、無茶振りしちゃダメだよ。セツナさん、普通のエスプレッソお願いします」
「すいませんっす。じゃあアタシはホットココアで」

バトルシステムの開発主任である六徳セツナは――つばきにしてみれば、それこそミリオンヒットを飛ばしたアイドルのような存在である。
興奮気味でまくし立てるのをなずなにあしらわれつつ、二人はドリンクを注文し、カウンター席に並んで座った。

>>307

「うひょわーっ、こ、こっちこそホンモノなんすか!?
 あの子、『インビジブル・ダークホース』ことラニア・エルハレド=シャリフィーっすよ! なずなサンご存知でないっすか!?」

「あっ――聞いたことある。確か、全米グランプリで初出場トップ3を決めたって」

着席したつばきは辺りをキョロキョロと見回した後、なずなの耳元に囁く――にしては大きすぎる声で耳打ちする。
極めて癖の強い機体を自在に使いこなし、デビューから短期間で実績を上げたデトロイトの俊英。
ある意味、なずなにも近い形で始まり――しかしずっと優れた経歴を持つ、若手のトップエースの一人が、そこにいた。

「はは、はじめましてっ。ラニアさんだよね。
 ……にっ俄なんてとんでもないよ。わたしこそ、海外にファンが居るとも、自分よりずっと強い人がそう言ってくれるとも思ってなかったし。

「あーもう、やばいよ。ちょっとうるっと来ちゃった……」
「ごめんなさいっす、なずなサン泣き上戸で。アタシなんか憧れの有名人に立て続けに会って、爆笑を堪えるフェイズっすよ。
 ただまあ、こっちからファンって言うつもりだったんで、この展開は驚きっすけどね」

クククッとアイドルらしからぬ笑い声を喉奥から溢しつつ、つばきは名刺交換に応じる。
なずなも促されて懐から自分のそれを取り出し、渡そうとするだろう。
314マキト◆M0KwQrAFd. :2017/09/17(日)23:36:36 ID:KRl
>>306
「おお? ボク許された感じ? いやー、ココの人たちが遅刻に寛容で本当に良かった良かった」

店員に声を掛けられ、というより許されてようやく顔を上げるマキト。床と接触していた部分が若干汚れているのが真剣だった何よりの証拠。
手渡されたお手拭きを受け取り、汚れた額と両手を入念に拭き上げる。

「それでは改めて……。ボクが話を付けてた白吉 マキト。今日はいろいろとよろしく。
 ところでボクみたいなのが来ても大丈夫なトコだったのかな、ココって。正直めっちゃ居づらいんだけど」

周りを見ればこのようなイマイチイケてない大学生感丸出しの学生が入ってはいけない空気が出ていることぐらい理解できた。
おかげで先ほどまで土下座まで勢いで行っていた程の勢いは急速に失われていた。
主催のセツナへと語り掛ける声がわかりやすいぐらいに小さくなっている程度には。

>>310
「いやまあ、録画してりゃいいんじゃないかとは途中で気づいたんだけどね、もうその頃には番組終盤だったんだよね。
 だからもうここまで来たら最後まで見ちゃうかーって思ってね。いやまあキミの言う通りなんだけどね」

ヤジとも受け取れる声が飛んできた方向には、自身と同じく、この場所にはいかにも似合ってなさそうな青年が。しかも同性ときた。
マキトの表情からも不安の色が一気に抜けたのがわかるだろう。この目は居場所と同類を同時に見つけた目だ。

「ってキミは前にどっかで見たことあるよ! えっと、なんだったっけなー……確かにどっかで見たんだけどなー……」

少年の顔には見覚えがあったらしい。が、何なのかは正確には思い出せず、頭を捻るばかり。
315深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/17(日)23:43:12 ID:cjm
>>311

「はー、なるほど。それ聞いて安心しました」

警戒がバレていたか、と髪色の違う一房を弄りながら、誤魔化すように笑う。

参加者サイドと運営サイドが親密になりすぎて八百長だのヤラセだの言われるパターンはごまんとみてきた。
大抵は周囲のやっかみだろうが……わざわざ批判材料を作るまでもない。
自分ひとりの話で済むなら別に問題はないが、今の自分はチームの看板を背負っているのだから。

とかなんとか考えていたら、胸ポケットから顔を出した戦姫と顔があった。
作り自体は一般的なものだが……どこか、違和感を覚えるものがあって。

「その戦姫がセツナさんのっすか?
 やっぱり特殊なAI積んでたりとか……っと」

面倒ごとには関わりたくないとか思いながらもついつい訊ねてしまうのはモデラーとしての性か。
食い気味に話しかけてきたカナデに質問を遮られ、

「おう、そうそう。やっぱりアニメで主役機とかライバル機だと公式で色々アレンジ効かせてくれて滾るよなー。
 その点ホワイトウルフも人気作だし、アレンジのし甲斐があるんじゃねえか?」 
 
「あんな形でニュースに載るなんて思わなかったけどな。
 ま、大会優勝で一面飾る予行演習くらいにはなったぜ」

ニヤリと笑いながら大口をたたく。カナデの反応を待つように挑発的な目線で、だ。
316ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/17(日)23:43:58 ID:1Hm
>>312

「……楽しくなんて、無い…」

『…マスター……』

小さく呟き、その表情が一瞬陰る。だがそれも一瞬ですぐにいつもの無表情へと戻る。
そしてそんな様子を心配げに憂うのは彼女の機体であるリコリスだけだった。

「接近戦へ移行する、ミサイルを四発発射後急速接近。アームによる捕縛を指示」

次にリコリスが取った行動は先ほどとは対照的。ミサイルを牽制として放った後、ホバー走行によりジョーカーとの距離を詰めにかかる。
ミサイルは二発はジョーカーの左右、もう二発で後方を狙い前方しか逃げ場が無いように無理矢理仕向ける。だがミサイルが着弾する前にその思惑に気づけば十分対処可能な類だろう。

リコリスがもしも接近できたのならばその両腕の巨大なアームでジョーカーを掴もうとし、接近が出来ないのであれば再びガトリング砲とミサイルの弾幕を張るだろう。
317深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/17(日)23:55:44 ID:cjm
>>314

「はは……まあ気持ちは分かりますよ
 実際ああいう番組はうまい構成になっていて、なかなか辞め時が見つからなかったりしますしね」

安堵に似た雰囲気を漂わせる男に、ため息をつきたくなる。
まあ、周囲が周囲で主催と店員を除けばアイドル2人と、外人女子。
しかもこの男からすれば全員年下となれば、それも仕方ないかな、という思いもあって。

「俺っすか?俺は―――」

どっちかな、と思案する。
ひとつは、「多嘉山スタードリーマーズ」のエースとして知っていたか。
もうひとつは先日のホビー暴走事件のニュースで知ったか。

だが、どちらにしても、

「―――俺自身より、こいつを見たら思い出すかもな」

言いながら、肩から提げたエナメルバッグから己の愛機を取り出した。
『タイラントレックス』。黒と紫を基調としたティラノサウルス型大型鋼獣だ。
318Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/17(日)23:55:49 ID:ohH()
>>313

「……あ、すいません興奮の余りちょっとトリップしてました!!
 今日はよろしくお願いします!!あ、あとサイン頂いても宜しいでしょうか!!!」

軽くテンパりつつもペンと色紙を出そうとして……色紙なんて持ち歩いてる筈もなく見兼ねたセツナがカウンター奥から用紙を渡すフォローを入れる。
そして改めて紙とペンを若干不安げに差し出す姿は、どうやらカナデが二人のファンであることの証明に他ならない。
その様子を楽しそうにカウンターから眺めつつ、セツナはココアとエスプレッソの支度を進める。ラテアートは流石にサービス外のようだったが。

「あー、今の私は一店員に過ぎないので気にせずどうぞー
 あれだよ、ずっと開発室に引き篭もってると人間ダメになっちゃうから、気分転換にね」

そう戯けながら、二人の目の前に注文の品を置く。
その隣に置かれた小皿に乗った闘機モチーフのキャラクッキーは、彼女からのサービスだった。


 >>314

「気にしない気にしない!!ホビーバトルが好きならここにいちゃいけない理由なんて一つもなし!!」

そういうのを一切気にしないタチであるカナデはマキトの負い目など知って知らず、席に座ればメニュー表を差し出すだろう。
そしてちらり、と彼の持ち物を一瞥する。何が気になるかといえば、それは言うまでもなく。

「ねえねえ、貴方のホビーも良かったら見せてくれない?
 あ、ちなみにこの子が私のホビー、シルバーウルフカスタムだよ!!!」

「わおん」

それまでテーブルの上で丸くなっていた小さな白狼が、カナデの紹介に応じるように小さく鳴いた。
319ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/18(月)00:06:25 ID:TEQ
>>311

 ――実の所。ラニアの機体に不調などはなかった。まして、次の試合に向けた気力の温存などでもなかった。
 何故ならば彼女の機体に、「修繕箇所」など有りはしないのだ。何故ならば彼女に初めから、「次の試合」など有りはしないのだ。
 無邪気で小さなその背中を見つめる視線に、きっと彼女は気付いていた。であればこそきっと、斯くも明るく振舞おうとしていた。

>>313

「やー、強いだなんてとんでもゴザイマセン! まぐれまぐれ、Beginner's Luck! アハハ」
「にしても、憧れのつばさサンやなずなサンに褒めてもらえるなんて、ワタシ冥利に尽きる!」

 照れ隠しのように笑って頭を掻くラニアは、しかしやはり満更でもないようだった。幼気な笑顔だった。
 小麦色の小さな手がテーブルの上に伸びて
、ことん、と自身の機体を置く。「彼には、頑張ってもらってます――」。
 それは正しくラニアの愛機、F/A-23"ヘマタイト・シャドウ"。目に痛い白黒のフェリス迷彩が施された、人型の「闘機」。
 ご丁寧に彼女の代名詞とも呼ばれた、200cm電磁火薬複合射突槍――「ブリューナク」パイルバンカーまで、その右手に握られていた。

「実はブッチャケた話しちゃうと、なずなサンがホビーバトルで凄い戦績挙げてるって聞いて、これは目を付けとかなきゃ! って思って」
「どんな闘い方してるカナーって色々調べてたら、いつの間にかハマっちゃってたって言うか――ミイラ取りが、ミイラになる。みたいな!」

 返された名刺を丁寧に懐へと仕舞い、どうにも怪しい日本語でへらへらと笑いながら、まったく自然に彼女はふたりの隣に座る。
 出てきたショートケーキをぱくつきながら、ココアをひとくち。――けれど。


「……まあ今回の大会で、わたしアナタたちとぶつかれないし! 安心して勝ち進んでほしいです、ハイ!」


 少しだけ、元気な声のトーンが落ちた。悲しそうな横顔には、それでも笑顔が残っていた。
320Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/18(月)00:11:10 ID:jgj()
 >>315

「ああ、この子ねーーーそれについては、企業秘密」

セツナは戯けるように答えをはぐらかす。ただ、その回答からしてその戦姫が市販のキットとは全くの別物であることだけは解るだろう。
開発スタッフであるからこそ所有が可能な、そんな特殊な機能を搭載しているといったような事情だろう。彼女は開発者であって、競技者ではないのだから。


「ええ、勿論!!ホワイトウルフだってバリエーションの数なら沢山ありますし、外伝漫画なら主役を務めたこともある名機ですから!!
 公式で色んなバリエーションが提示されているとやっぱりモデラーとしても妄想が刺激されて製作が捗りますよね!!」

ホワイトウルフ、鋼獣シリーズの中でも最もポピュラーな機体の一つであり、その人気からマイナーチェンジも数多く存在する。
カナデがその機体を今回の大会のパートナーに選んだのも、やはりその機体が好きだからであり……模型製作には誰も彼も少なからず、愛が伴うものなのだろう、きっと。


「……いやー、確かにすごいですね!!ニュースの一面を飾るなんて!!
 けれども!!最後に優勝を飾って一番のニュースになるのは……この私ですから!!!」


そして張り合おうする程度には、負けん気が強かったらしい。
優勝してみせると何の躊躇いもなく言い放てる彼女のメンタルは、豪胆なのかそれともタダのバカなのか。
321ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/18(月)00:21:06 ID:UyI
>>316
「そうかな?じゃあもっと頑張って楽しんで貰おうかな!」

表情の陰るニーナ、彼女が楽しめないというのなら、それは自分がまだ未熟である証拠。
エンターテイナーである以上戦う相手すらも楽しませなくては一流とは言えない、その為に何をするべきか。

今はまだ、例え何かに気付いていても手を出すべき時ではない、少なくとも今の自分はそうあるべき人間なのだから、それらしいやり方をするだけだ。

左右と後方を抑える軌道のミサイル、それに気付いた時には既に誘爆が危険となる距離となっており、回避が難しくなっていた。
ならば、ミサイルの唯一存在しない方向、リコリスの迫る前方へとあえて踏み出す。
ジョーカーは自分からリコリスへと接近し、自分に&#25681
322初風なずな&冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/18(月)00:23:58 ID:OWU
>>310

会釈に対して、なずなは軽い目配せで応え、コナユキも手を振るに留める。
つばきはエンジの所属チームを知っているのか、少し身を乗り出していたが、翼竜の鋼獣に首を軽くつつかれて話しかかけるのをやめた。

彼の姿から連想するのは、あの事件で一緒に居た幼い少年のこと。
サインを楽しみにしてくれていたのに、気がつくといなくなっていた。事情は知らないが心配だ。
とは言えエンジに聞くことではないし、自分が分け入っていいことかもわからないので、なずなはそれを口にしなかった。

>>318

「もちろん! それと後で事務所の人に、お店に掲示してもらってもいいか聞いてみるね」
「嬉しいけど、あんまり字には期待しないでほしいっす。デカールにポチポチっとロゴを書くのは得意なんすけどねぇ」

カナデのお願いを快諾してサインを書き始める二人。慣れた手つきのなずなに対し、つばきは若干筆に迷いがある。
なずながさらさらと書き上げたのは、最初の「な」と「ず」を繋げて、最後の「な」の書き終わりがハート型になっているアイドルらしい丸文字のサインだ。
このハート型、ファンの間では植物のナズナの実をイメージしたものだと考えられている。
一方でつばきは、フルネームをロボットアニメのタイトルロゴのような角ばった書体で書き上げた。

「そりゃインドア派には耳が痛い話ですな……って、おおっ! この絵柄はアタシが出たアニメの主役機じゃないっすか!」
「ほんとだー。でもつばきちゃん、確かその時はロボットに乗らないお姫様の役で」
「それは言わないお約束っす。……乗りたいんすけどねえカッコいいの。
 いっそラスボス機の生体ユニットとかでいいんすけど」

ちょっと濃くて形振り構わないトークでなずなを苦笑させつつ、つばきは絵をなるべく残すよう、キツツキが木を少しずつ削るようにクッキーを食べていく。
コナユキに「はしたないですよ、母様」と注意されると、呻きながらもちゃんと食べたが。
323ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/18(月)00:29:31 ID:UyI
>>316
「そうかな?じゃあもっと頑張って楽しんで貰おうかな!」

表情の陰るニーナ、彼女が楽しめないというのなら、それは自分がまだ未熟である証拠。
エンターテイナーである以上戦う相手すらも楽しませなくては一流とは言えない、その為に何をするべきか。

今はまだ、例え何かに気付いていても手を出すべき時ではない、少なくとも今の自分はそうあるべき人間なのだから、それらしいやり方をするだけだ。

左右と後方を抑える軌道のミサイル、それに気付いた時には既に誘爆が危険となる距離となっており、回避が難しくなっていた。
ならば、ミサイルの唯一存在しない方向、リコリスの迫る前方へとあえて踏み出す。
ジョーカーは自分からリコリスへと接近し、自分に掴みかかるアームをギリギリの所で回避、そのまま前方至近距離の位置をキープする。

「残り時間30秒、ここからはボーナスタイムだ!!」
「ジョーカーは君の相棒の目の前から動かない!さあ捕まえられるかな!?」

それはジョセフの計らいであった、ジョーカーをリコリスの至近距離のまま、いつでも捕まえられる位置で捕縛をかわし続ける宣言。
相手に塩を送るかのように思える行為だが、しかしそれはジョーカーにとってはやりやすい体制であった。
何故ならばジョーカーは先程から弾幕を回避するにあたり、ダメージが蓄積していたことによりこれ以上遠距離を回避し続けるのが難しくなっていた為。
相手が遠距離攻撃をし辛い位置をキープしつつ、場を盛り上げるジョセフの知恵だ。




───誰かが言った、「頑張れ」と。
それは小さな子供の声、自分達が束になっても捕まえられなかった憎々しいピエロがもう少しで捕まえられるところにいる。
自分達の雪辱を今こそ晴らしてくれと、子供達の声援がニーナ達にかけられる。
「頑張れ」「もう少し」と叫ぶ声、彼等にとってはただの遊びでも、遊びに本気になれるのが子供達であって、それこそがホビーの正しい遊び方なのだ。



「…あれ?もしかして僕、嫌われてる?」

呟いた内容とは裏腹に、ジョセフの表情はとても楽しそうに笑っていた。
324マキト◆M0KwQrAFd. :2017/09/18(月)00:34:50 ID:liu
>>317
「そうそうそれそれ! そんでもってボクはテレビ局の構成の手のひらの上でまんまと踊らされたって訳だ。
 このままじゃボクはテレビの前から動けなくなりそうだよ。ま、今日からは録画の準備をすることにするよ。見る時間が確保できればの話だけど」

いくらこの中では比較的年上であるとはいえ、中身はいわゆるオタク寄り。女性との免疫がそれほど強くないのも事実。
そうなると逃げ道として選ばれるのは、多少年下でも同性になってしまう訳だ。

「んんー? その機体は……」

マキトの目の奥が鋭く光った、ような気がする。あくまでも気分の問題。

「ああ! 思い出したよ! この前の事件の時にいた機体じゃないか!
 いやー、まさかあの時の功労者がキミだったとはねー。アレは凄かったよー。ボクもあそこまで操れるようになりたいもんだ。
 ホントはあの場に居合わせたかったんだけど、生憎知ったのがその日のニュース映像でさ。でも現場の光景はネット経由で見させてもらったよ」

どうやら後者の方で。あの事件に現地にいた観客の一人が、一部始終をネットに上げていたらしく、その映像で見た、という訳だ。

>>318
「なら安心安心。ほら、ボクが自分で言うのもアレだけど、浮いてるじゃん。自覚はちゃんとあるんだよ。ホントに」

カナデの言葉を聞き、ホッと胸をなで下ろす。
キャップを被りなおせば、近くにあった席に座りメニュー表としばらくにらめっこ。

「あー、ホント何頼めばいいのかわからないなー。こんなトコ来るの初めてだからなー。
 んじゃあ、アイスココアで頼みますわ。これならボクでも何が来るか想像付くし」

マキトには少々敷居が高かったようで、メニューに載る品を見てもピンと来るものが片手で数え切れる程度しか見つけられなかった。
数少ない理解できる品を見つければ、意気揚々と注文。メニューをテーブルの端に寄せる。

「おっと、コレがキミのかい。おーよしよし、いい子いい子」

テーブル上の白狼の頭を人差し指で撫でるようになぞる。その中でも目線は機体の隅々へと向かっている。

「なーるほど、やっぱり気になるよね。お呼びとならば仕方なし。カモン、ストーム。行動を許可する」
『よっこらせっと。招集でありますか、隊長』

マキトがリュックの口を開けると、中から一機の兵士が顔を出す。風体を言い表すならば一兵士そのもの。このまま人間サイズになれば戦場に居そうなモノ。
オリーブドラブ一色の塗装に身を包んだ兵隊が、リュックより飛び降りてテーブル上に着地する。
325深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/18(月)00:37:37 ID:WNt
>>320

秘密、と言われてしまえばそこからさらに言及することはない。
開発者であるなら非公開のデータを搭載することだってあるだろうし。

「そっすか」とか気のない返事で、会話を打ち切るだろう。


「まあな。でも俺なんかは天邪鬼だから改造案を公式に先越されて頭抱えることも結構あるぜ。
 後追いしてくれる分には大歓迎だけどなー」

射撃タイプの機体をシールドに持ち替えさせるなど、敢えて王道から外している節もあって。
そういう点では公式と被ってしまうのは複雑な気持ちになるという。

「ククク、言うね。だがそうじゃなくちゃ面白くない」

満足げな笑みをカナデに向ける。どうやらその返答を待っていたようで。
チャンスは誰にだって訪れる。立ちはだかる全員がライバルなのだから、
優勝を語るくらいでないと面白くない。

「あの事件なんてただタイミングが合ったのが俺だっただけだよ。もしあの場にいたのがお前だったら、多分お前が載ってただけさ」
326初風なずな&冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/18(月)00:43:20 ID:OWU
>>319

「ヘマタイト・シャドウ! 武装未改造でプロシーンに持ち込んでる凄腕、ラニアサンしか見たことないっすよ!
 うちのコナユキも近いところがあるんすけど、パフォーマンスの理論値相応に要求が高すぎるんすよね。
 とっつきに隠し腕にステルス、こんなのアタシなら絶対脳がパンクするっす……」

加えて言えば、複雑を極めるダズル迷彩の塗り分けも完璧。
ディティールの暴力と言ってよい剥き出しの推進機関や駆動系に至るまで、注意深く作られている。
気がつくと、つばきは魂の篭った仏像を目にしたかのようにヘマタイト・シャドウを拝んでいた。

「褒められてうれしいけど、ラニアさんにすごいって言われちゃうと何かくすぐったいなあ。
 順位も大会の規模も、何から何まであなたのほうが上だも――、――ん?」

まるで予選で既に敗退したかのような発言がひっかかった。
例え当たり運が下振れて負けが込んでも、まだ予選通過の芽はあるはずだ。
実績を加味すれば数回分の不戦勝すらあってもおかしくない。なのに、どうして対戦の確率が無いと?


「ラニアさん、今なんて言ったんですか。予選、まだ半分ぐらいありますけど……」

おおっぴらにしていない事を敢えて口にしたというなら、これは根掘り葉掘り聞くべきことだろう。
アイドルとしてではなく、一人のファイター仲間として、なずなは詰問に踏み切る。
327Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/18(月)00:52:14 ID:jgj()
>>319

「“マリオン”」


そう呟いたセツナに答えるように、彼女の胸ポケットの中から一機の戦姫が顔を出す。
その青い瞳はわずかな間だったがタニアと彼女の機体を観察し、その視覚情報を取得したなら再びポケットの奥へと引っ込んでいくだろう。

セツナが何を考えているかは分からない。けれども彼女の事情に立ち入ろうとする様子もなかった……少なくとも今の所は。

>>322

「おおー……文字も綺麗です。流石アイドル、私もそれくらい画力があったらなー……
 戦姫のアイリペとか、一時期興味があって手を出したことがあったんですけど全然描けなくて……」


余談であるが、そのアイリペした戦姫をSNSにアップした所ファンからは“目力で呪い殺されそう”という有難い評価を頂いたりした。
ちゃっかりとクッキーのひとつを頂き、頬張りながら二人のアイドルをじっと見つめる。そのやりとりは画面越しに見えるフィクションではない、本当の光景。


「お二人とも、仲良しなんですね!!やっぱり生で見ると良いものです……!!」

二人のやりとりを満足そうに眺めながら、自分の紅茶をくいっと飲み干した。
328深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/18(月)01:07:27 ID:WNt
>>322

(鋼獣使いかよあの女、ていうか『アズダルカス』とかやるなアイツ……)

なずなの方の機体は先日目にしたものだが、つばきの機体を視界に入れるとひそかに目を光らせる。
鋼獣使いとして、同じ鋼獣使いに対するチェックはどこか厳しくなる。そういうものだ。
ましてや恐竜と翼竜、絶滅種同士となればなおさらだ。
燃え上がる対抗心は、今はひとまず押しとどめて。

>>324

「ただああいう番組は結局大衆受けするスーパープレイが主ですからね。
 試合の参考にするには、やっぱ試合全体を自分の目で見ないと。
 ……まあ、娯楽としての強度は勿論ありますけどね」

テレビを見るのも研究のため。少年はそう言っているのだ。
マキトのほうの語り口をみるに、おそらくそこまでのことを考えてはいないのではないか、と思っているようだが。

「はは……いや、あれはほんとにただ居合わせただけで。
 それに実際、相手との相性も良かったですよ」

敵も二体だったが、もう一方は苦手なタイプの機体だった。
あの時はそこのアイドルともう一人が引き受けてくれたが、そっちと相対していれば自分の機体もどうなっていたか、と続ける。
しかし、不謹慎な話ではあるのだが、褒められればどうにも誇らしい。

「まあ当然運営側も動くみたいですし。あんなことはそうそう起こらないでしょうよ」
329ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/18(月)01:08:19 ID:TEQ
>>326

 つばさからの絶賛を浴びれば、やはり彼女は満更でもなさそうに、しかし照れたような爛漫の笑いを浮かべる。
 その手先の器用さは、幼い頃の廃品漁りで身に付いたものだった。ホビーファイターとして成功する前の、多くは知らぬ彼女の過去。
 憧れのふたりと出会えたこと、憧れのふたりから褒め称えられたこと――その喜びが、ついラニアの口を滑らせたのかもしれない。


「――や、……それが、デスね」


 問い詰めるなずなに気圧されたのなら、彼女は言葉を誤魔化すことはできなかった。ファンの1人としても、先達のファイターとしても、嘘はつきたくなかった。
 ――躊躇うようにひとつ息を吐いて、俯いたまま。不承不承のうちに、彼女は語り始める。

「ワタシの機体、フォローアップの時に弾かれちゃって。……大会、出られないんです」

 悲しげな笑いを、もはやラニアは隠すこともなかった。ちいさな指先を"ヘマタイト・シャドウ"へと這わせて、愛おしげに撫でる。

「ステルスユニットの起動システムに違反モジュールが見つかった、――って、聞きました。
 確かにあの部分は、ソフト側の更新が遅れていたけれど……でも、旧型のホビーじゃ出られない規約なんて、どこにもない。
 ルール解釈のエラッタがあったとも聞かないし、前の大会では問題なく出られてた機体なンです」

「例えばCCチップみたいな、明らかに悪意のある非公認装備なら、即刻の出場停止も分かります……。
 でも、ただ旧バージョンのモジュールで出撃しようとしただけ、ですよ? そんな理由で出場できないなんて、聞いたことありませン。
 まして弁明の余地も、再提出の機会も与えられないなんて――こんな対応、ぜったいオカシイって、いま抗議してる所なンです」

 次第にその言葉は、独白から嘆きにも似て、もはや悲しみに笑うこともない。不意に、彼女は振り向いて。

>>327


「……あのッ。セツナ、さン。」

「先日WHBTの運営のホウに、検査の再試と裁決への抗議、申し出たンですけど」
「そちらは、どうなっていますか。ワタシ、大会、出られそうですか」

 ――そう、声をかける。嘆願するように、あるいは祈るように。ラニアは、彼女を知っていた。
 WHBT運営へと処罰の是正を訴えようとした時に、相談にあたってくれたのがセツナだった。
 彼女と話をして、然るべき筋から運営へと不服の意思を申し出たのが、数日前のことだった。
330Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/18(月)01:13:34 ID:jgj()
>>324

「……そうですか?確かに変わった人だなーとは思いましたけど…」

そう言ってカナデは店内を見渡す。見事に変わり者しか存在しない空間だった。
なので浮いているとか、そういった要素は気にならない。寧ろ色んな意味で濃い人間ばかりなので、多少の浮き沈みは分からないと言った方が正しい。

テーブル上に着地した兵士の如き闘機に対して、白狼は闘志の宿った瞳を向ける。
流石に今から戦う訳にもいかないが、それでもこの大会にいるのならばいつかは戦うことになる可能性のあるライバル……つまりは倒すべき敵だと。
そういった認識がこの狼の中にはあるようだった。尤も、マスターであるカナデはというと狼とは対照的に目の前の機体に夢中だったが。

「おお。かっこいい!!良いなあ、こういうリアル志向のモデルも……!!」

つんつんとつついたり、じろじろと眺めたり。
そんな熱心な主人の姿を見て、白狼は少しばかり呆れたように欠伸をこぼすのだった。

>>325

「ええ、勿論ですよ!!なんたって私、強いですから!!!」

自分を強いと言い切れるだけの自信が、そしてその自信の裏付けである愛機への信頼が彼女にはあった。
だからこそ有名チームのエース相手にもここまでの大口を叩けるのだろう。そして彼女もまた、その時を楽しみにしていた。
今は同じ大会に出場する同好の士として、けれども次は…… 

「戦う時が訪れたなら、その時は全力で挑ませていただきますよ!!
 ええ、勿論コテンパンにしちゃいますので!!覚悟しておいてください!!」

堂々と宣戦布告————どうやら同じ鋼獣使いとして、そして憧れの選手が相手であることで、彼女の闘争心に火がついたようだった。
331初風なずな&冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/18(月)01:26:58 ID:OWU
>>327

「あー、ハイライトのパターンがまずいと呪いのビデオのアレみたいになるっすよね。
 髪パーツを取った状態でつけた時のことイメージしないとダメっすし、結構難儀っていうか。
 アタシも中学生の頃は、削りすぎて色が乗らなかったり筆をケチって失敗したりそりゃもう大変で」

過去の失敗を共有する、というのはつばきが得意とする芸風のひとつだ。
あのモデラーも前はこんな下らないミスをしてたんだ、と思って貰えれば間口は広がる。

「戦姫だと、もとより可愛くなくなっちゃったらかわいそうだもんね。わかるわかる」

尤も、他の誰より大事な少女は〝こっち側〟を体験してはくれないのだけれど。
お陰でアーキテクトとして絶対的に信頼されているのだから――と、つばきが暗い喜びを感じているのも事実だった。

「そりゃ仲良しっすよ。何せ冬休み使って原作アニメ一挙視聴合宿した仲っすから!」
「そうそう。お陰でだいぶ詳しくなったかな。お相手さんが何使ってても、これつばきちゃんゼミでやったやつだ!ってね」

お互いに言いたいことを言い合い、受け止め合い、適度に受け流す。
「百合営業」と揶揄されることもある二人だが、私生活でも実際かなり近い距離感を持っている。
なずな自身からしてみても、つばきは気の置けない友人であると共に、ファイターとしての半身である。
彼女の調整は繊細にして大胆、機体の損壊に対するケアも入念。なずながレーサーなら、つばきはピットクルー。
お互いを補う関係がこれからもずっと続くのだと、二人は漠然と信じている。
332Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/18(月)01:31:09 ID:jgj()
>>329


「……問い合わせたけど、依然審議中だってさ
 そもそも責任の所在が曖昧なもんで、畑違いの研究職じゃあこれ以上手が出せない」


一切誤魔化すことなく伝えたのは、セツナなりの優しさか。
今の時点ではどうしようもない……それが彼女からの残酷な回答だった。

当然といえば、当然の話。彼女は技術者であっても大会運営に直接携わっている訳ではない。
仮にその立場を利用して彼女の救済に動いたとしても、できることなどタカが知れているのだろう。


「まだ予選の期間はあることだし、もう少し待ってみなよ」
「もしかするとーーーー“状況を打開するような救いの手が転がり落ちてくるかもしれないし”」


それは慰めか、気休めか、それとも。
そんな不確かな言葉を残して、空になったカップを洗う為にセツナは一旦カウンターの奥に引っ込んでいく。
333深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/18(月)01:37:09 ID:WNt
>>330

「クククッ、コテンパンと来たか」

本当に滾らせてくれる。なんなら今すぐ戦いたいくらい、熱い少女だ。
しかし、自分が挑戦を受ける側とは。勿論強豪チームのエースとして誇らしくもあるが―――


「―――お前が強いのは知ってるよ。強くなきゃこの大会、出場権すら得られないからな」

実際、同じクラブチームでも出場を逃したチームメイトは沢山いる。
強豪とされるチームでさえ、だ。それだけ、この場にいるのは世界中でほんの一握り。

「だが、ここではその一握りの中からただひとりを決めるんだ。
 そのとき、何が必要になるか―――わかるか?」

ただ「強い」だけではなく、「最強」であるために必要なこと。
彼自身がクラブチームでずっと追い求めてきたことだ。それが分かるかと、宣戦布告してきた彼女に問うた。
334マキト◆M0KwQrAFd. :2017/09/18(月)01:48:26 ID:liu
>>328
「んー、確かにその通りだよねー。ボクも出来ることなら直接見たいんだけど、どうしてもパーツ探しに時間取られちゃって観に行けてないんだよ。
 それにさ、たまにはいいプレー集めたモンタージュ集とか見たくなる時だってあるじゃん? たまにはいいじゃない夢見たってさ。
 まあ、ボクには自分のプレーを見て研究するなんて羞恥プレーは出来っこないけど」

どちらかと言えばマキトは他人のプレイしている所を見るのが好きなタイプである。もちろん自分で実際に動かすのも好きであるのだが。
この中ではかなり観客側に近い存在なのだろう。なぜ出場したのか本当にわからなくなりそうだ。

「申し訳ないんだけど、ボクはイマイチキミの使ってる鋼獣シリーズに詳しくないから偉そうなことは言えないんだけどさ。
 あの試合…と言ったらダメなんだろうけど、まああの時のキミは良かったと思うよ。一視聴者として。相性がどうたらの話なんて気にならないくらいに」

「このまま平穏に過ごせればいいんだけどねえ。いつの間にボクの機体も不具合で勝手に動きだしたりして。なーんて」

凄かったことを素直に言って何が悪い、と言わんばかりの口調でひたすらに捲し立てるマキト。
根は思ったより真面目で素直なのだろう。それこそ人前で堂々と土下座が出来る程度には。

>>330
「はは……言ってくれるね。ボクもよく言われるけど」

カナデの言葉でスッと自身に張り付いていた緊張が剥がれ落ちる音がした気がした。この場にいるのは皆同じホビーファイトが好きな同類ではないか。
ならば性別の差が何だ。年齢の差が何だ。流石に幼すぎるのはいろいろとマズイだろうが、この際はいったん置いといて。
とりあえずこれからは気兼ねなくこの場にいる面々と話が出来そうな気がした。あくまでもこの場では、の話だが。

マスターたちの知らないうちに同じ機体通しである兵士と白狼の間には闘争意識というべきか、ライバル意識というか、そういった意識が飛び交っている。
もちろんこの兵士にも意識はあるし、戦うのであれば勝ちたいという思いはある。それは持ち主であるマキトも同じ。思いがけない場所で前哨戦はすでに始まっていたのである。
まあ、当の本人たちは互いの機体に夢中なのであるが。

「キミの機体も凄いね。ボクも背伸びして鋼獣にも手を出してみるかな」
『隊長、自分を手放すつもりでありますか? 隊長の夢はどうするつもりなのですか?』
「いや、言ってみただけだって。第一今のボクには新調出来るほどの資金を持ち合わせてないんだから」

白狼を指先で触りながら、もう片方の手で兵士をつつく。二方向から弄ばれる兵士は左右に揺らされながらも、直立を続けようとする。この性格も生真面目というわけだ。
335初風なずな&冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/18(月)01:53:14 ID:OWU
>>329 >>332

「えっ、そんな」「おぶえあ!?」「……は?」

悲嘆に思わず口元を抑えるなずな、鳩が豆鉄砲を食ったようなつばき、冷たい憤りを見せるコナユキ。
二人と一機は、ラニアの告白に三者三様の――而して一様な困惑で以て応じた。

「おかしいですよラニアサン! だって直近の大会じゃ完璧にフォーマットリーガルだったじゃないっすか!
 確かなずなサンが出た学生選手権でも、純正ヘマタイト使ってる人が居たっすよ。
 多分ファンで、真似してたんでしょうね――案の定負けてたけど失格はしてないはずっす!」

世界大会の前哨戦と目される世界各地の大会で、ヘマタイト・シャドウが失格の原因になっているはずはない。
もしそうならレギュレーションに記載があるだろうし、欠陥商品としてのバッシングがニュース沙汰にもなるだろう。
それが突然、掌を返すように。到底納得できる話ではなかった。

「……聞く限り、私には誰かがあなたをハメようとしているようにしか思えませんね。
 恨まれるようなことに心当たりは? 怨恨があってプロファイターの機体に細工ができる人間など、そうは居ないでしょう?」

コナユキはひょいと机の上に飛び乗ると、腕を組んだ姿勢を取る。
理詰めに義憤が同居した、重々しい声音がラニアに問いかけた。
お姉さまと、対等以上に戦える可能性のあるファイターが権利を奪われたことが許せないのだ。

「抗議、わたしにもさせてくれないかな。折角アイドルなんだもん、この声が届く範囲には伝えたいよ。
 こんなのぜったい間違ってる――なんて、初対面で言われるのも鬱陶しいかなって、ちょっと思うけど。
 でもわたしは、ラニアさんが正しいって信じたい気持ちなの」

そしてなずなは感情的に語ると、ラニアの手を取ってぎゅっと握ろうとするだろう。
殆ど本能のように、彼女は目の前の苦境に立つ少女を励ましたいと感じた。
それはアイドルだからというより、彼女が初風なずなであるが故の行動だった。
336深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/18(月)02:18:36 ID:WNt
>>334

「見てる分には最高に気持ちいいですからね。
 ただ、ああいうの見すぎると土壇場でああいうスーパープレイに頼りたくなっちゃいますから」

スーパープレイの基本パターンは超技能による回避、超長距離の狙撃、ロマン武器による一発逆転・一撃必殺。
シールドと装甲による堅牢な守備をベースとする彼のタイラントレックスの戦い方とは真逆なのだ。

「まあ、だからこそ。この間みたいに自分で滅多にできないスーパープレイができると滾るんですけどね」

先日の事件の最後。敵のミサイルを薙ぎ払った、最大出力エネルギーキャノンの一撃。
あれは良かったと自分でも思う。というか出来すぎだった。普段の戦いではとても参考にはならない。
だからこそ熱くなるものがあることは、彼も認めるところではある。

「もしそうなったらまた俺が止めてあげますよ。
 機体どうなっても知らないですけどね」
337Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/18(月)02:24:02 ID:jgj()
>>331

「模型製作とは別系統の技術ですよねえ
 純粋に絵心がないと難しい加工ですし、せめて市販の瞳デカールがもっと種類増えればいんですけどねー」

モデラー同士の会話、趣味の通ずる者だからこそ、気兼ねなくできるあるある話。
普段であればSNSなどのインターネット上のコミュニティでしかできない話が、こうしてリアルで交し合える、それだけでもこの交流会を開いた甲斐があったと思えた。
しかも、その相手が応援しているアイドルメンバーの一員なのだから、まるで夢でも見ているかのような心地である。


「ああ、何というか二人だけの世界って感じがします……!!
 一ファンとしてはこの間に割って入ることなど断じて許されない……!!なのでここから眺めてます……どゆるりと!!」

二人の間に流れる濃密な空気を満喫しつつ、その光景を眺める方向にシフトするカナデ。
なんだかんだ、この交流会を一番満喫しているのは彼女自身のような気がしなくもなかった

>>333

「ふ……愚問ですね」

彼からの問いかけに対して、少女は不敵に笑みを返す。
カナデとて何も考えずにこの大会に参加した訳ではない。彼女なりの信念があって、愛機と共にこの戦場に訪れたのだから。
そしてその信念とは、彼女の考える戦いに勝ち抜くために必要となるものはーーー

「—————“愛”……ですよ!!模型にかける情熱、その想いがどれだけ込められているかこそが、ホビーバトルの本質です!!
 ホビーバトルなんて、言ってしまえば子供の遊び。けれども遊びだからこそ、誰よりも本気で、誰よりも楽しんだ人が勝者に成り得るんです……多分!!」


彼女の答えには根拠があった。それは昨年度のWHBT優勝者である男の、彼女が最大の目標とする選手の在り方があった。
彼はホビーバトルを楽しんでいた。作り上げ、壊し、そしてまた作り上げるその全てを愛し、そしてその情熱が彼を優勝に導いた……とカナデは分析している。
その姿に憧れたからこそ、カナデはこの大会に出場することを決意したのだった。その情熱が、何れは頂点にだって届くものと信じて。
338Rumors◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/18(月)02:24:08 ID:jgj()
>>334

「お、いいですねー、鋼獣ぜひ作ってください!!
 パーツ数こそ闘機よりも多くて複雑なものが大半ですが、その分完成させた時の満足感はとても素晴らしいですから!!」

鋼獣をメインに作成するカナデにとって、鋼獣勢が増えることは喜ばしいことに他ならず。
ダイレクトマーケティングを仕掛けたなら、最初のオススメはシルバーウルフですよーと自身の愛機のベースになったキットを紹介するだろう。

それから少しして、白狼はぴょんと飛び上がってカナデの肩に着地する。
流石にこれ以上、戦い前に機体を触らせるという訳にもいかず、続きはホビーバトルの時に披露するということで。

>>all
「では、一旦買い出しに行ってまいります!!お菓子とか模型とか、いろいろ買ってきますので!!
 それまで皆さん、適当に寛いだり話したりしていてくださいな!!ではっ!!」

そう言ってカナデは駆け足で店を飛び出していった。
肝心の主催者は席を離れたが、交流会自体はまだまだ続く。

話したいことがあれば、気の向くままに話せばいい。まだまだ、貸切の時間はたくさんあるのだから……。
339ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/18(月)02:34:45 ID:TEQ
>>332

「……そう、ですヨね。……ありがとうございます。ごめンなさい、急かすようなこと言って」
「もう少しだけ、待ってみまス。……このまま、帰るわけには、いかないんです」

 ふたたび彼女は俯いて、ひとつ拳を握り締める。遣り場のない悔しさと焦りが、今の彼女を駆り立てていた。
 今のラニアには、負けられない理由があった。――ともすればそれは、この大会に出る他の誰よりも重い荷でさえあった。

>>335

「――強いて言うなら、アップデートは遅れていました。セキュリティ改善用の定期更新でス。
 けれどそれは、前の大会の時から同じでした。……いくら検査の厳しくなるWHBTだからって、あり得るハズがないンです」

 カウンターの椅子に座り直して、呼吸のようにココアを口にする。それでも、ラニアの心が落ち着くことはなかった。
 何よりも異常であったのは、基準違反と看做された後の「即刻出場停止」。
 本戦であれば兎も角、ホビーバトルの初心者も多く参加する予選の検査において、ここまでペナルティが厳しくなるはずもない。

「……ストリートで戦ってた頃には、いくつか因縁も作りましたケド。でも、彼らにそんな高度な技術があるとは思えない。
 日本に来てからの事前検査は、問題なかった。だから本戦直前でひっかかるのは、何かの手違いだって、思うしかなくって」

 なにかに潤んだ金色の瞳は、小さくとも威厳あるコナユキの声にも顔を上げることはなかった。遣る瀬無くアイスココアの底を覗き込んでいた。
 決して治安の良くないデトロイトのストリートにおいて、暴力沙汰は珍しくもない。ホビーバトルに負けた腹いせに、小狡い嫌がらせを受けたことはあった。
 けれども精々彼らにできるのは、備品の破壊や落書きといった程度の低いもの。ソフトウェアの意図的な書き換えといった、高度な犯罪をこなせる人間はまずいない。

 異議を唱えても、なしのつぶて。彼女は途方に暮れていた。だからこそ理由もなくあてもなく、偶然にSNSでの募集を見てこの喫茶店に入りこんだ。それだけだった。
 ――しかし。憂いを帯びた横顔が、不意に戸惑いに変わるのは、その手に温もりを感じたから。

      「へ、ッ――?」

「……そ、そんな! なずなサン! これ、ワタシの問題! アナタに助けてもらうなんて、申し訳なくて、ワタシ、……。」
「もしかしたら、なずなサンやつばさサンまで、巻き込まれちゃうかもしれないし――。」

 ――初めて、ラニアは戸惑いを見せた握られた手の優しさと力強さに、何をすれば良いか分からなかった。
 いままで彼女が頼ってきたのは、己が身とその才能だけだった。貧しく辛い日々を生き抜くために、彼女は自身だけを頼りにした。
 であればこそ誰かに頼るという行いには、少なからぬ躊躇があった――まして、自分の憧れたアイドルが、そんな約束を契ってくれるだなんて。
 そこにきっと、ラニアは最も躊躇いを覚えていた。だが己の小さく柔らかい手を強く握り締めるなずなの瞳から、彼女は何かを知ったらしかった。


「……ありがとう、なずなサン。つばきサン。コナユキさン。ワタシ、もう少しだけ頑張ってみまス。
 今回の大会は、絶対に負けられないんでス。……こんなところで逃げるなんて、できませン。」

「それに。なずなサンとつばきサンがいらっしゃるのなら、ワタシに手を貸してくださるのなら――百人力、ですかラ!」
 

 ――にこり、と再び屈託無く、ラニアはふたりに笑いかけてみせた。白磁の歯が綺麗に並んで、天真爛漫なる小麦色の笑みを彩っていた。
 これが誰かに力を与えることなんだ。これがアイドルという仕事なんだ。彼女たちふたりは、ワタシより、余程「プロ」をしている――そんな、心強い確信も、胸にしながら。
340マキト◆M0KwQrAFd. :2017/09/18(月)02:50:36 ID:liu
>>336
「その気持ちすっごいわかる。めっちゃわかる。ああいうの見てると自分でも頑張れば出来るんじゃないかとか思えて来るからタチ悪いんだよ。
 んで、実際にバトルでやって難易度の高さを思い知っていつも通りやる羽目になるまでがワンセット。結局そういうモンなんだよねえ」

「でもさ、ロマン兵器を抱え込んでる以上、そういうのでキメてみたいじゃん? 結果がどうであれ自分が気持ちいいプレーをするのが一番。
 ……いや、勝負するなら勝ちたいってのが正直な所なんだけど。そこは人間ってことでどうか一つ」

戦術で言えば彼とかなり近いモノはあるかもしれない。高い装甲値による波状攻撃で、相手を出来るだけ寄せないように立ち回るプレー。
そしてシメのロマン砲。このカタルシスに勝るものはそうそうない。少なくとも今のマキトが知る中では。

「いやー、機体ぶっ壊されるのは勘弁してもらいたいなー。パーツ全部そろえるのめっちゃお金掛かったのよ。冗談抜きで。
 じゃあ何でバトル出てるのかって話でしょ。ホントなんでなんだろうね」

「そうだ、この際だからキミにも聞いとこう。チタニア社って知ってるかな。ボクの探してる企業なんだけどね、機体の大体のパーツをこの企業製パーツで補ってるんだよ。
 今じゃもう会社自体が無くなってるから流通量が少ないの高いので苦労してるんだよ。見かけたら教えてほしいなーって話なんだけど……ダメ?」

リュックからそれなりに年季の入った冊子が出てくる。いわゆるホビーのカタログというヤツだ。
所狭しと大企業から中小企業が展開する販売戦略が載る中で、小さいが得体の知れない存在感がにじみ出るページがある。ここに載るのが彼の言うチタニア社である。
販売している商品はどこに需要があるのかイマイチわからないニッチな品物ばかり。こんなことしてるから早々と店じまいすることになったのだが、それは別の話。
そして、彼の前にいるマキトという青年は、この危険な沼に魅入られてしまった哀れな被害者なのであった。
341深山エンジ◆h3le2z/CaI :2017/09/18(月)03:17:18 ID:WNt
>>337

「―――――――」

ぽかん、と。彼女にとっての答えを聞いて、呆気に取られたかのような表情を浮かべる。
しかし、徐々にそれは笑みに代わっていって。

「……クククッ、愛と来たか。いや実際いい答えだと思うぜ」

己の機体を愛し、信じ、ともに戦い抜くこと。
ホビーバトルの基本にして、なるほど本質と言っていいかもしれない。

………だが。

少年はクラブチームで過去何年も、大会の本戦への出場を決めてなお最強の座に届かず敗れていった者たちの背中を見てきた。
あの人たちに機体への愛がなかったとは思わない。誰もが己の機体を信じぬいて、それでも王者にはなれず去っていった。
この差は何だ。勝者と敗者の分水嶺はどこにある。

そんなことを思いながら、カナデに手を振り見送った。

>>340

「上手い人はさも当然みたいにやりますからね……」

多分、その行動パターン自体を練習して身に着けたわけではないのだろう。
磨かれた直感。それによって導き出される最適解。それを実現するセンス。
そういうものは不足しているなあ、と考えることはある。
――――と、いつもよりネガティブ思考になっている自分に気づく。いかんいかん、と頭部を軽く掻いて。

「俺はどっちかというと結果重視ですわ、勝てるなら頭突きでも踏み付けでもいいから勝ちたい
 ロマンは分かりますけどね。思っていた通りの試合運びでいけると脳汁めっちゃ出るし」

「壊れたら直しゃいいんじゃ……って、チタニア社?」

名前はちらっと目にしたことがある程度だ。既に会社としては存在せず、大会環境にも滅多に姿を見せないため大会参加前のチェックから漏れていた。
そんなところの機体だったのか。そりゃ見慣れないわけだ。そしてそりゃ直せないわけだ。

「率直に言ってかなりマイナーなパーツばっかり作ってますよね、これ見る限り……
 一応ショップとかで見かけたら教えますよ。こっちで使うアテもないですしね」

勝敗にすらさほどこだわらない男の、強烈なこだわりなのだろう。可能なかぎり助けになってやりたいと思う。
342初風なずな&冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/18(月)03:18:41 ID:OWU
>>339

「……アタシ、作るのは自分でも上手いと思ってるんすけど、バトルがほんとダメなんすよ。
 だから世界大会に出られる人たちみんなに、すッごく憧れてて。
 その人が目の前に居て戦う前に敗けそうってなったら、放っておけるわけじゃないっすか」

つばきにとって、トーナメントシーンのファイター達は届くことのない綺羅星だった。
穢されてはならない高みにいる人のために、少しでも役立ちたいという切なる願いが、その言葉にはある。

「あのC.C.チップ事件といい、この大会はどこかがおかしい。
 最もシンプルに考えるならば――獅子身中の虫がいます。背中を預けあえる友軍を作るメリットはリスクを上回る。
 あなたが心配するまでもなく、この舞台にいる時点で既に、お姉さま達は後ろから刺されかねない立場なのです」

声を顰めて語るコナユキの口調は相も変わらず冷淡だったが、ラニアを仲間と認めようとしていた。
それでも若干辛辣で不機嫌な理由は――〝お姉さま〟と慕うマスターがラニアのそれに重ねた手を頻りに横目で見る様子から、想像できるだろうか。

「うん。……そうだ。ちょっとだけ、名刺返して貰える?」

ラニアが了承したなら、なずなは名刺の空欄にすらすらと数字を――彼女の私的な連絡先を書き込んでいく。

「わたしたち友達だから。いつでも、どんなことでも聞いてね。
 辛い時は全部喋っちゃえる相手がいれば、意外と何とかなるから」

一拍置いて、これ経験則だよ、と付け加える。唇に指を当て、作るのは秘密を示すジェスチャー。
或いはそれは、この予選大会で緒戦から敗北を喫した彼女自身が立ち直るために使った方法論なのかもしれない。

「取り敢えず、今日だけは美味しいもの飲んで――ゆっくりしていこ?
 わたしも最近働き詰めでさー。こういうのんびりした時間、貴重なんだよね」

エスプレッソを啜ると、なずなは口元に泡の髭を生やした顔でにっこりと笑った。
343ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/18(月)20:48:11 ID:d7r
>>323

「こんな…こんな遊び…!」

ただの子供遊び、おもちゃを戦わせるだけのただの遊びだ。
こんなものに熱中するなんて、あり得ない。私にとって苦痛しか与えないホビーバトルなんて楽しい筈がない。
だから目の前の男にも、男が操るホビーにも何も感情は浮かばない。ただ倒すべき対象というだけ、ただそれだけの存在だ。

『マスター、敵機捕らえられません。機動力は完全に上回られています』

「パージ許可は出ていない…ここは……
………随分と舐められたもの。リコリス、粒子バズーカ砲構え、充填を開始」

『了解、粒子圧縮開始……』

相手が動かないというのなら遠慮なくやらせてもらうだけ。
そんなとき、聞こえてくるのは子供達の声援。誰かから声援をもらうなんて生まれて初めてのことだった。
だが今はそんなことに気をとられるわけにはいかない。
声援を耳で感じつつも、勝つためにニーナとリコリスは全力を尽くす。それしか存在意義は無い。勝たなければ、生き残れない。

『マスター!』

「リコリスッ!撃てッ!!」

粒子圧縮はすぐに終わる。そしてニーナの掛け声と共にバズーカ砲から先ほどとほぼ同じ熱量の粒子砲が発射される。
大地を抉り、空気を焦がしながらそれは確実にジョーカーを捉えてる。普通、この間合いで射撃攻撃を行うのはあり得ないだろう。
だがしかしこのバトルの場合、このバトルだけは違う。なんたって相手は攻撃をしてこない。反撃が無いのなら存分に撃てるというもの。それも極太のこのバズーカ砲ならば避けることはかなり難しくなるだろう。
344ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/18(月)21:28:19 ID:AU4
>>343
「そうだよ、こんなのは〝遊び〟だ」
「だってホビーバトルは楽しい遊びじゃあないか、みんなが笑顔になれる素晴らしい発明だ」

ホビーバトルを遊びと言うのならそれは間違いではない、これは戦争でも闘争でもない、ただの遊びなのが事実なのだから。
でも、『遊びだから本気になれない』というのは大きな間違い、遊びだからこそ本気で遊べば楽しくなれる、楽しいから熱中する。

「───それに、本当につまらないなら、君はこんな遊びに付き合ってはいないだろう?」
「こんな遊びに『勝ちたい』と思えるのなら、君もきっと気付ける筈だよ」

熱中するから、『勝ちたい』と願う。機械的に勝ちを欲するだけならここまで勝利に執着する事は出来ない筈だ。
ジョセフはこの戦いに全力を尽くす事が出来る彼女らを無感情とはとても思えない、感情の無い戦闘マシーンにこんな事はとても出来ないから。

「さあジョーカー!幕引きだ!」

ジョセフの掛け声に反応し、物言わぬジョーカーは眼を輝かせた。

「この至近距離!ミサイルだろうとガトリングだろうと撃てば本人もタダじゃ済まない!」
「全力でアームを躱せば───」

だが、この戦況を最後の最後で見誤ったのはジョセフのほうであった。
アームを伸ばせばすぐ届く程の至近距離、この距離で遠距離武器を放つなど、自分が巻き添えを喰らう自滅行為だ。
そう考えるのが定石である、しかしニーナの考えはその更に上を行っていた。

「ちょ……!そんな事したら君の相棒もタダじゃ済まないよ!?」

バズーカを構えたリコリスを見て制止の声をかけるジョセフ、しかしそれが相手に聞き入れられる筈もない。
至近距離で放たれた光子バズーカは、回避を行おうとしたジョーカーを逃さず炸裂し爆裂する、しかしこれだけの距離で爆発が起こればリコリスだって無傷ではいられない筈。
しかしそれを耐え切る事が出来たのなら、莫大なダメージによって機能停止し、爆煙の中から吹き飛ばされるジョーカーのボディを掴む事は容易であろう。
345ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/18(月)21:55:33 ID:d7r
>>344

「知ったような、口を…!何も知らない癖に…!!」

ジョセフのその言葉を聞いた瞬間、その表情には憤りとも取れるものが浮かび上がる。
こんな遊びに付き合ってはいない?付き合わざるおえないこちらの身の内も知らないで、いけしゃあしゃあと…!!

〈ニーナ、耳を傾ける必要はない。はやく蹴りをつけろ、"その為に"お前は居るのだぞ〉

「っ……分かっています、先生…」

誰にも聞こえないように言葉を返す。感情を押し殺し、やらなければいけない。それしか道はない。こんな自分を、分かってくれる人なんている筈がない。
壊すだけだ。立ちふさがる敵は全て粉砕する。誰にも理解は出来やしない。
……少なくとも、彼女自身がそう思っている間は彼女とわかり合うことはなし得ないだろう。
自ら塞ぎ込んでいるのだから、それをこじ開ける以外にはどうしようもない。

爆炎と爆煙でリコリスとジョーカーの姿は見えなくなり、あたりは沈黙に包まれる。
しかしその沈黙はリコリスの生存を持って破られることになる。煙の中から現れたのは外部装甲を所々破損しながらもリコリスは立っていた。そのアームでジョーカーを鷲掴みにしていて、誰の目から見ても結果は決まっていた。
346ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/18(月)22:17:37 ID:AU4
>>345
爆煙がもうもうと立ち込め、固唾を呑んで観客がそれを見守る。
煙が晴れてその中に立つ者を見る前に、結果を知っていたのはニーナとジョセフの両者だけだった。

「……残り時間は1秒、おめでとう!君の勝利だ!!」

爆煙の中から力なく四肢を垂らすジョーカーを掴むリコリスが立っているのが見え、観客が歓声を上げる直前にジョセフは賞賛をニーナに送った。
自らのダメージを覚悟した捨身の一撃をもって勝利をもぎ取った、素晴らしい覚悟を持った戦いに拍手を送る。

「皆様ご覧下さい!ニーナ選手は見事私の相棒を捕まえてみせました!」
「いやあ流石は企業の公式選手だ、私のような大道芸人では敵いませんね……一応私も大会選手なんですけど」

そして、これは二人だけの勝負ではない、観客の存在する彼の公演でもある。
有力選手の実力の一旦を思わぬ所で垣間見る事が出来た、貴重な機会は観客を沸かせるには最適であった。
結果として───ニーナを利用する形ではあるが───ジョセフは沢山の人々を楽しませるという目的を達成した、勝利などは目的ではない。

「さて、それでは私の相棒もお疲れのようですし、本日はここで幕引きとさせていただきます」
「またの機会には皆様どうぞ、私達の芸をご覧になって行って下さい」

「それでは、私ジョセフ・ドーソンとその相棒、マジカルジョーカーが」
「そして、華々しい勝利を飾ったニーナ・アルキファイス選手とその相棒、リコリスがお送りいたしました!!」

観客に大きな身振りと共に話しかけるジョセフ、彼が恭しいお辞儀と共に締めの挨拶をすると、観客はそれにつられるように拍手をした。
347ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/18(月)22:58:40 ID:d7r
>>346

『…任務完了、目標討伐完了しました』

「………やっぱり、くだらない…どうせ私が勝つんだから…」

小さくぼそりと呟くと、周りの観客の歓声など物ともせずにニーナはリコリスを回収し帰っていく。
一切の観客へのサービスも無い、クールというよりは無表情。しかし立ち去る前に僅かにジョセフを一瞥し、一言聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた。

「私には、これしかないの」

──────
────
──



『ニーナ、今回の戦いは無茶苦茶だったぞ。冷静さを欠いていた、貴様の役割と自分の立場、お前にどれだけの金が掛かっているかというのをよく理解しているんだろうな?』

「……はい…分かっています、先生…」

会場に存在する選手用のホテル。ニーナは先生と呼ぶその男とそんな会話をしていた。

『お前はチームシュタールの看板、お前に負けは許されない。何度も言わせるなよ』

そんな言葉を受け、顔を伏せて受け応える。
その顔にはやはり笑顔は無く、ホビーバトルを楽しむという気持ちは感じることさえできない。
その内にあるのはどす黒い感情だけ、一切の光すら差さないその心は救われることはあるのだろうか。
348ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/18(月)23:41:41 ID:AU4
>>347
「───お疲れ様、ジョーカー」
「悪いね、いつもこんな役回りをさせて」

観客への挨拶も一通り済んだ後で、フィールドに残されたジョーカーを回収し、その傷付いた機体に労いの言葉をかける。
楽しませる為のパフォーマーは、その為に傷付く事は慣れたものだ。
鈍痛がジョセフの全身を襲う、リンクしたダメージが身体中を蝕んでいるが、持ち前の演技力はそれを一切感じさせない。

「……チームシュタール……アイゼンカンパニーか」

やれやれ、と片目を閉じてニーナの所属チームを思う。
彼女がどうあれ、下手に首を突っ込むべきではない事情なのは分かっている、無駄に行動を起こせば自分の事すら手が回らなくなる事も。
だけど、それでも。

こんなに楽しい事を楽しめないなんて、悲しい事じゃないか。

「……さてと、どうしようかな」

アリーナから去るジョセフの足取りは、暗い影を歩いていた。
349AcfUisI7l2 :2017/09/19(火)01:03:25 ID:I7T
WHBT会場の一つ、とあるフィールド。
市街地のフィールドが展開された中、その一角にパチモノ臭いフォルムの胴体に馬鹿でかい両腕を携えた機体────スーパーヒナタ3号はいた。

「なんでよりにもよって乱戦なんだよ……」

それを操る参加者は、周りの参加者と比べ年齢が一回りほど行っているであろう、サラリーマンルックの男性────日向武士。
げんなりした表情で握るのは、これまた一際でかいコントローラー。
『いくら乗り気でないとはいえ、一度も戦わないというのはまずいだろう』と重い腰を上げ、重い機体を運んで会場まで来たものの、始まろうとするのは入り組んだ市街地フィールドでの大乱戦。
どう見ても、鈍重なスーパーヒナタ3号では不利だ。
……それに、ホビーの珍妙さと年齢のせいもあり、明らかに変な意味で注目を集めてしまっている。
WHBTへの参加は趣味ではなく、仕事なんだ……武士は自分にそう言い聞かせて平静を保とうとするが、ため息と羞恥心は抑えきれない。

「……勘弁してくれよ……」

そんな武士のつぶやきをよそに、スタートまでのカウントダウンが始まる。
どんな相手が待つのだろうか?
350東雲 真鶴◆0SuLG0jdAEYi :2017/09/19(火)01:24:24 ID:LXK
>>349
全国各地から選りすぐりのプレーヤーが集う、WHBTが会場の一つ。
上空にホログラムで浮かぶ赤色の信号灯が、カウントを刻むと同時にゆらりと点滅する。


「さて、ようやく出番だ…… 頼むぞ、陽萬」

ポニーテールに鉢巻きを巻いて、獣型のホビーを撫でるプレーヤー。
彼女のホビーは呼応するように首をもたげ、そして軽やかに地面に降り立った。
ふわりと広げた白い翼、名状しがたき三本だけの鳥脚で。
モノトーンの間隙にわずかに艶やかな紅の舞う、その機体の名は『陽萬』。

目の前に広がる市街地のミニチュアを前に、陽萬は伸びをするように翼を伸ばし。
信号灯が緑色に染まるとともに、ふらりと街を駆けだした。


「陽萬、まずは機動力の活用と遮蔽の利用を確認しよう。
 エナジーピストル3,4を使え。極力エンゲージは避ける様に」

そう冷静に事を運ぶプレーヤー、彼女の名は東雲真鶴。
ついこの間ホビーを持たされたとは思えないほど落ち着いた様子で、液晶付きの端末に視線を落とす。

ビルの合間を揺られるように、見えない対象にヒットアンドハイドを繰り返す白い機体。
若干六度のそんな演習の末に、メインカメラが鈍重そうな機体を捉えた。

『……!』
「エンゲイジか。少し隠れていてくれ、陽萬」

すぐさまビルの陰に隠れ、そっとその機体の様子を窺う陽萬。
対峙する重厚なホビーのメインカメラには、彼女たちの様子はどう映っただろうか。
351日向 武士 ◆AcfUisI7l2 :2017/09/19(火)02:11:37 ID:I7T
>>350

「えーっと……どうだったっけ?確か……」

一方の武士は、信号が青になった後も十数年ぶりにホビーを持たされたプレイヤーに相応しいぎこちなさでコントローラーをいじる。
ある程度の練習はしたものの、ほぼマニュアル操作である都合上まだあやふやな箇所が多いのだ。
巨大すぎる手のひらを地面につけ、指を蜘蛛の足のように扱いながらガシャガシャと音を立てて3号は動き回る。

『ノー!ノー!バーン・ヒナタ・スピリッツ!』
「ハァ……誰のせいでこんな難儀背負ってるか、分かって……わからないよなぁ……」

やたらでかい音量と無駄にネイティブな発音で、3号は武士の操作にダメ出しを行う。
専門外の日向製作所が無理やり作ったAIは、とてもオート操縦に耐えうる代物ではなく、武士のため息を増やす一因だ……。
その時、コントローラーの液晶に翼を持った機体が映る。

『ピガー!フルパワー!ヒナタ・ナックル・スタンバイ!』
「あっ、待てっ、おい!」

ちらりと見えた方向へ3号が巨大な左腕をまっすぐに向ければ、腕から重厚な機関音が唸りだす。
ロケットパンチ。それはホビーが生まれる以前よりロボットに積まれてきた、由緒正しき男のロマンの必殺技……だが、序盤でぶっ放すべき技ではない。
3号に乗せられているそれは、撃った後勝手に戻ってきてくれるような便利な代物ではなく、1試合左右1発ずつの完全な使い切り兵器であるのだから。
必死になってポンコツAIを止めようとするが、慌てているせいかキャンセルのコマンドがなかなか成功せず……。

『ファイァァァア!!!』
「あ˝ー!!!」

結果、鳥型機体が隠れているビルの影へ向け、必殺拳は暴発する。
その拳はかなりの強度が設定されているはずのビルのミニチュアを易々と砕きながら、鳥型機体へ迫ることだろう。
その威力は凄まじく、生半可なガードを張っても一発スクラップ待ったなしだろう……まともに当たれば、の話だが。
352東雲 真鶴◆0SuLG0jdAEYi :2017/09/19(火)02:29:51 ID:LXK
>>351
ビルの影から望んだホビーは、ぎこちない動作でゆっくりと視線を合わせる。
何事かを宣う敵機の音声信号は、ビルの壁面に反響し奇妙なハウリングを生んだ。

「陽萬、そろそろだ。牽制しつつ隣のビルの影に移ろう」

真鶴も初心者とはいえ、出場権を勝ち取ったプレーヤーの一人。
そして期間は短いながらも妹との練習試合を重ね、操作くらいは滑らかにできるようになっていた。
ビルの陰で白い翼を広げ、今いるビルの影を飛び立とうとしたその時。


「な……っ!陽萬、急げ!!」

悠長に突き出された腕から放たれたのは、あろうことか拳そのもの。
飛び立とうとしていた三足の鳥の、翼の先の黒い羽根を圧倒的な破壊力が掠める。

「くっ……」

被弾箇所がパージ可能な部位で助かったと言える。だが、完全に初動は失敗だ。
バランスを崩した三足の鳥は、空中を回転しながらもう片翼の黒羽を解き放つ。
散弾のようにばら撒かれたそれは、しかし大した威力も出ないだろう。少なくとも鈍重と引き換えのかの装甲には。

不意打ち用の武装でもある黒羽を、こんなにも早く削られるとは。
初めての予選で受けた手痛い仕打ち ――たとえ、それが偶然であっても。真鶴を緊張させるにはそれで十分だった。

わずかに汗ばむ手で操作端末を握り直し、機動力の落ちた翼で。
サブウェポンの低威力エネルギー弾をばら撒きながら、鈍重な機体へと吶喊する。
353日向 武士 ◆AcfUisI7l2 :2017/09/19(火)22:43:38 ID:I7T
>>352

『日向!日向!世界の日向!ただいまお見せした一撃は、日向製作所謹製、油圧式……』
「あああぁぁぁーもう、なんでこうなるかな!ホント勘弁してくれよ……」

相手を焦らせているとはいざ知らず、武士は年甲斐もなく軽くキレていた。
唯一の武装である腕を片方(手首から先だけとはいえ)くだらないポカで失ったのだ。それでいて拳がかすりはしたものの、敵はいまだ健在。初動失敗どころの騒ぎではない。
それをよそに、3号は「日向製作所」社歌をBGMに先ほどとは打って変わって滑らかな女性の声で宣伝アナウンスを垂れ流す……。

「うおおおおおあっっ!?」

ばら撒かれる黒羽に慌ててコントローラーを操作すれば、3号は左腕を折り曲げて盾にしながら相手から遠ざかろうと移動する。
片方の手のひら分軽くなったためか、右手のひらだけでも移動はできている……バランスの悪さからくる偏りに目を瞑れば。
腕の重厚すぎる装甲は羽を易々と弾くが、通常程度の装甲しか施されていない胴体はそうもいかず、いくつか刺さって耐久値が減少する。
そして、機動力が低下しているとはいえ侮れない速度での吶喊が3号へ迫る────。

「くっ……こんのっ!」

路地の中、機動力に劣る3号で逃げ続けるのは無理だと悟った武士は3号を止め、手のひらのない左腕を空中の相手へ向ける。胴体部分へ当たった光弾は、じりじりと耐久値を削っていく。まだ戦闘不能まではいかないが、あまり長々とこの状況でいることは避けたい。
レバーを操作すれば、まるで孫悟空の如意棒のようににょきにょきと勢いよく、迫る相手へ向け腕が伸びていくではないか。
本来ついているべき手のひらがついていないものの、手のひら抜きでも攻撃には十分な質量と速度はある。鉄パイプで突きを放つのと同じぐらいだと思えばいいだろう。
そしてそれの命中にかかわらず、伸ばした腕をそのまま、まるでハエを追い払うかのように腕を振り回すだろう。闇雲ではあるが、これもまた並の鈍器レベルの攻撃力はある。
354ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/20(水)00:05:00 ID:poZ
>>342

 嗚呼こんなにも誰かとは優しいのだろうか。まして己が憧憬の視線を向けていた人たちが、決して打算ならぬ温もりを投げかけてくれている。
 少しだけ、ラニアは泣きそうな思いでさえあった。けれど自身の目尻に溜まる熱い感覚を彼女は必死で堪えた。――こんなに優しいひとたちに、心配をさせたくない。
 3人の言葉に幾度となく彼女は頷いた。「シシシンジュー……?」と小首を傾げ、怪訝なコナユキの視線を不思議がった。


「――へ? 名刺、ですカ?」


 なずなの言葉に少しばかり疑問符を浮かべながら、しかしペンを取り出す彼女を見て、ラニアはふたたび驚いた。
 手の中に帰ってきた1枚を見れば、みたび。――この番号は明らかに、事務所の連絡先などではない。


「わあっ、――ありがとう、ございまス! ワタシ、嬉しくて、すごくって、――感謝感激、雨アラレ、です! ハイ!
 辛いことある、すぐ話します! なずなサンが仰ってくださるなら! ワタシ!」


 涙に潤んだ目をきらめかせて、ラニアは何度も感謝の言葉を述べるだろう。信頼。恩情。友達と呼んでくれたことのへの、嬉しさ。
 「ワタシ、またヒトツ、ファンになっちゃいました――」やはりその日本語はどこか、伝えるに拙いものではあったけれど。


「――ハイ! フツツカ者デスが、どーかこれからも……宜しく、お願い致しまス!」


 午後の安らかな時間。ケーキをひとくち頬張りながら、にっこりと彼女も笑うのだった。
355藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/20(水)00:43:07 ID:poZ



     (……満たされないなぁ)


 WHBT予選会場、バトルブース。尋常ならざる数のギャラリーに囲まれた、ホビーバトル用の筐体。
 1P側のバトルポジションに腕を組んで立つ、白衣の女。銀縁眼鏡の奥から気怠げな目線を投げかける彼女の肩に、その愛機たる白青の「闘機」が降り立つ。
 2Pサイドに機体を構えていた1人の青年は、大破した己のホビーを片手にその場を去る。
 「対戦ありがとねー」――去りゆく背中に、一応はそう声をかける女の語調は、どうにも間延びしていた。


(ホビーバトルは自己表現だ。言葉で伝わらないからこそ、競技と戦闘を通して"伝える"。)
(言葉では伝えられないものを。大切なものを。激情を。矜持を。信念を。)

(――――。じゃあ。あたしはこいつに、何を籠めてやればいい? それほどまでに譲れないものが、今のあたしにあるのか?)
(こうして勝ち続けても何も感じることのない、この感覚はなんなんだ? どうすればあたしは、「伝えて」、「伝わる」んだ?)


 ひとり人目も憚らず、彼女は思索に耽っていた。女が戦っているのは、「マキシマム」などと渾名される「勝ち抜き戦」。
 筐体の上に掲げられた液晶ディスプレイが、彼女の連勝数を大きく誇っていた。――「5」。
 1勝や2勝では盛り上がらない。だが3勝となれば空気は変わり、4勝となれば誰もが勇み、然し5勝となれば皆がたじろぐ。


「次のチャレンジャーは誰かしら。――いないの?」


 ざわめくギャラリーを歯牙にもかけずに、細い唇があくび交じりに呟く。――その手を挙げるものは、いるのか?
356オニミチ◆v9tS0arEUcVD :2017/09/20(水)00:56:40 ID:ZSW
>>355




 いた。


 五勝勝ち抜きと言う結果にたじろぐことなく、ギャラリーの波からゆっくりと歩み出した青年は女を見る。
 いや寧ろ、その顔には。頭を占めるヘッドホン。漏れるほどに垂れ流される何がしかの音楽に没頭するように俯くその顔に、薄笑みすら浮かべて。

 サンダルを突っ掛けた脚で、しぺたしぺた、と。女の前に立つのだった。


「やるよ。やらせて欲しい」


 自力で染めたのだろう。くしゃくしゃの金髪は、プリンの様な色合いをしている。
 ダメージジーンズめいた改造を施しただぶだぶの学生ズボンに、上に引っ掻ける赤いパーカー。耳には、ささやかに光るシルバーピアス
 そんなあるチャラけた見た目に反して、口調と、女に向けられた微笑みは至極柔和だった。

「キリが良いよね、五勝って。そろそろ回れ右してもいいかなって、そんな頃合いだろ? 待ってたんだ。貴女の勝ちのカウントが重なるのをさ」

 五勝したこの女を倒せば、この青年は或いは、さらにそれより強いのだと言う見方もできなくはないかも――。
 とにもかくにも。彼は鴨を太らせた童話の狼のような心持ちで、虎視眈々と、待っていたらしく。


「――オープニングには丁度良い」


 ワントーン下がった声の震えに呼応するように、ホビーらしからぬ重機めいた起動音を響かせて、パーカーのフードから影が飛び出した。
 乾いた血のような色合いのボディに、怒りを満面に振り撒くフェイス。その額から天を突くは金色の一角。それはまさしく鬼か天魔か。


「――――鬼門鬼道(きもんおにみち)ってんだ、よろしく頼むよ。こいつはヤシャ」
357藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/20(水)01:17:07 ID:poZ
>>356

 音漏れ、うるさいなあ。――青年を初めて目にした女の、実直な感想はそれだった。いやともすれば、それは少年であったろうか。
 アウトローな装いをした彼の姿は全くもって人目を引いた。時代からさえはみ出した旧世代の不良。だが存外に丁寧な言葉遣いは、かえって好感的でもあった。
 対して女は真逆である。着古した白衣にコーデュロイシャツ。タイトスカートとストッキングのサイズ感はやや小さい。
 引き締まったフォーマルな格好だった。それでいて貧相な身体つきではなかった。――だが気怠げな語調と態度は、あるいはギャラリーの不興を買ってさえいた。
 

「あら。宜しく」


 然し些事であった。彼ら/彼女らが戦うのはホビーバトルである。当人らの格好や人格に何の意味があろうか。
 組んでいた腕をほどき、ひらひらと振る掌にて彼女は軽い挨拶をした。煙草のひとつでも吸い出しそうな顔をしていた。


「気が合うわね。あたしもそろそろ退こうかと思ってたけど、挑まれたんなら吝かじゃない」

 バトルフィールドのスタンバイ・ポジションに、白く青い機体が降り立つ。繊細さと力強さの共存する、流線型のシルエット。
 だがその顔貌には、鬼のような角がみっつ。額から突き出して一本、こめかみから後ろに伸びて二本。
 突出した顎は邪神のそれだった。真っ当な双眸に見えるその両目さえ、幾多ものカメラアイが織り成す複眼であった。


「藤原。藤原篠見。この子はハチロク。――じゃ、始めましょうか」


 ――――ごく軽い語調で、特に躊躇うこともなく、彼女はスタートを宣言した。転瞬筐体よりVRフィールドが展開され、彼らの戦場を包み込む。
 「パーキングエリア・夜」と題された、文字通りのコンクリートの戦場。静かに降りしきる雨でさえ、其れは幻想。
358オニミチ◆v9tS0arEUcVD :2017/09/20(水)01:30:10 ID:ZSW
>>357

「こう言うときは――――」



 瞬である。それは雨降り注ぐ夜を駆けた。


 間はない。いやあってしかるべきなのだが、そのホビーの爆走はその間を感じさせなかった。駆動力が明らかに平均を頭二つほど抜かしきっている。
 ヘッドホンの片方に手を当てた青年は、鼻唄すら歌いながらそこをリズミカルに叩いた。タッチパネルになっていて、その入力がホビーに反映される型の――見た目に違わぬ、旧世代感。


「男から行くのが定石だよね」


 まるでピアノを滑らかに撃ちならすがごとくに指がうねり、それと全く同期したタイミングで鬼面のホビーが重機めいたうなりと共に――振り上げるは――剣。

 一般に出回っているホビーの初心者キッドに詰め込まれているような、片刃の剣だった。しかしどうであろうかその厚さ。明らかに幾重にもカスタムを施した鉈のごとき異様。
 そしてそれが、間を感じさせぬほどのパワー型ホビーの駆動力によって振るわれる。それは単純な降り下ろしにあって、余りにも無慈悲な質量爆弾。


「当たったら死ぬし、カスっても痛いよ?」

 それは大して根拠もない、相手の耐久力も度外視した煽りだったが。
 ぎゅごあと落下する刃の威圧を見ていると、強ちそれも――嘘ではないように思えてくるのが、困り物。
359藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/20(水)01:54:25 ID:poZ
>>358

 開幕と共に、霧雨が弾けた。ヴェイパーコーンに似ていた。音速でも超えたような破裂音。
 銀縁眼鏡はウェアラブル・デバイスだった。紅いロックオン・アラートがレンズに映る。気怠げな瞳が微かに見開かれた。
 彼我の距離は急速に詰まっていた。だが女は焦らなかった。筐体と接続したアケコンのスティックを弾き、いくつかのボタンを潰す。
 青白の機体は身構えた。青い眼光が夜の闇に感傷的な残像を残した。然しコンクリートを踏み締めれば、舗装路が罅割れる。


「どうだか」


 確かに刃は迫った。少しずつ強まる雨を弾いて。無改造ではないことは、誰の目にも一目で分かった。彼の機体の駆動出力も、また。
 ――――雨粒を弾き飛ばして、女の機体が左の手甲を突き出す。そこに備え付けられているのは、かの機体を覆い隠さんばかりの大楯である。
 

「あたし、ジェンダー論とか嫌いだけどさ」

「こういう場でね。女扱いって、されて嬉しくはないんだよね」


 八つ当たりに似ていた。女は静かに笑っていた。だがそれは愉しさ故ではなかった。張り付いたような、愛想笑い。
 単段式宇宙船の船底を流用した歪な盾が、鉛を砕くような音と共に、分厚い刃と打つかり合う。であれば雨夜、痛々しく散らされるのは火花――である、筈だった。


「Peekaboo. ご機嫌いかが?」


 ――刃の切っ先が、大楯の表にめり込んだ瞬間。少なからぬ痛手を実感できる筈の一刹那。
 その盾は「爆ぜる」。ごく単純な構造のERAであった。絶対的な至近距離から繰り出されるのは、宛ら大袈裟な指向性散弾。
 弾け飛んだ装甲の破片と爆風により、迂闊な白兵戦を仕留める痛烈な罠。――白と青の機体、その右腕に構えられた粒子砲に、光が集まる。
360IoNFgh3FysYt :2017/09/20(水)02:12:31 ID:ZSW

>>359

「うおっひょぉ、マジィ!?」


 盾から弾ける散弾をもろに喰らい、耐久力が半分削れたにも関わらず。
 オニミチは嬉しそうに目を見開いて歓声を上げた。
 面倒なのは嫌いだ。だからこそヤシャは高機動力/高攻撃力/高防御力を重ねに重ねた、ごくシンプルな一枚岩のビルドにしてある。
 究極の一枚を持てば勝てる。それが彼の持論だったから。それが彼の拠り所だったから。


 ――やっぱり、路上のタイマンなんかとは違うんだな。

 噛み締めた歯から、耐えきれないように、空気が漏れた。
 悔恨ではない。焦りでは、勿論無い。負けるかも知れないって言うのに、自分の究極の一枚が今まさに崩れ去ろうとしているのに。その訪れかけている常識の崩壊が鬼道には嬉しくて仕方がなかった。

「――――ふ――」


 ――――ヤシャの面すら。


 ――――歓喜している、様で。


「ふははっ!!!」

 鋼鉄の左手が唸った。その腕力でもって盾を下から抉じ開け、その懐に体を捩じ込もうとする。前へ。
 ただ前へ。退けば確実に負けると言う確信もあったしかし何よりこの歓喜に嘘をつきたくない。
 この高揚に背を向けたくない。最高にグルーヴィなこのバトルに――勝ち負けを越えたクラッシュシンバルの大音声を刻み付けたい。

「上等だよ――。女扱いして悪かったな、おねーさん。あんた其処らのガラクタぶら下げてイキッてるギャングよかよっぽどこえーですよ。
 でもな俺だって――伊達にやって来た訳じゃねえッッッ!!!!」


 技術など彼には無かった。知識もほとんど浅薄極まる物だった。
 故にこそのシンプルな一枚。故にこその単純なビルド。だがそれはダメージお構いなしのストリートスタイルに於いては最適解――!!!

 懐に入りこんだなら、ヤシャの右腕のブレードが真紅の炎を峰から迸らせて唸るだろう。駆体すらもその勢いに乗せられ陰惨と煌光の融合した疾走にて虚空に朱を刻みつける。
 ブーストブレード――撃刀・流れ星が、その真価を発揮した瞬間であった。


 至近距離での抜き胴になろう。おそらく懐に入られたなら、それを回避するは至難の技と思われる。
361名無しさん@おーぷん :2017/09/20(水)17:34:32 ID:xoY
358 オニミチ◆v9tS0arEUcVD[] 2017/09/20(水)01:30:10 ID:ZSW

360 ◆IoNFgh3FysYt[] 2017/09/20(水)02:12:31 ID:ZSW



http://awabi.open2ch.net/test/read.cgi/net/1505750793/
オニミチこと名誉ヲチ民オリジンの実態はこちら(閲覧注意)
362東雲 真鶴◆0SuLG0jdAEYi :2017/09/20(水)19:27:52 ID:zLo
>>353
そろそろ、居合の射程に入る。斜め掛けに背負った刀の柄を鋼鉄製の嘴が掴みかけ。
次の瞬間には、闇雲に振り払った鉄パイプのような剛腕が空を薙いだ。

「腕が伸びた……?陽萬、止まろう」

両翼のローターフィンを逆噴射気味に傾けて、空中で立ち止まる三つ足の鳥獣。
無作為であるがゆえに軌道を読めない腕の乱舞が、彼を中心とした球の中への立ち入りを躊躇わせる。

東雲真鶴は、負けず嫌いであった。
勝負と名の付く出来事に敗北の二文字を刻むことが許せない。
そんな彼女の集中力が、敵の一挙手一投足を逃すまいと冴え渡り――。
……結果として、彼女は名も聞いたことのない製作所の知識ばかりを増やした。

「埒が明かないな… いや、行くぞ陽萬!」
『――!!』

逆に考えればこの程度しか牽制の手が無いのでは無いかとも考えた。
勝る機動力でこのまま距離を開け続け、光弾を打ち込めばいずれ事が済むのでは無いか、と。
――しかし、この試合は乱戦形式なのだ。
いつどこで、悠長な態度から不意を突かれるか解ったものではない。


故に、一閃。

それさえ届けば、決められる。

大きく腕が振り払われた直後の間隙を見出し、白色の翼が空を切る。
剛腕の嵐を、あるいは他の迎撃を。その白色が掻い潜ることができるなら。
――鋼の嘴に携えた銀閃が、その胴を袈裟斬りに断てるだろうか。
363ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/21(木)23:51:13 ID:C4q
会場内には様々な施設が存在しており、その中には当然飲食ができるようなカフェや喫茶店なども存在している。

そしてここはそんなものの中の一つの喫茶店。特にケーキなどと言ったお菓子が美味しいことで有名の場所である。当然それ目的でそこに立ち寄る客は多くバトルの観戦のついでに、またはバトルをついでにという理由で多くの客が今日も食べにきていた。
そしてその中には、ちょっとした有名人となりつつある人物の姿も。

「………美味しい」

『それならば幸いです、マスター』

ニーナ・アルキファイス。
有名企業が率いる初のホビーバトルチーム"チームシュタール"のホビーファイター。企業からの参加というのも珍しくは無い、だがその企業が企業で"アイゼンカンパニー"と来れば話題性は抜群だ。
更に彼女のその戦闘を見れば必然と知名度は上がるだろう。表情をほとんど崩さずその戦いの様は無駄のない洗練されたもの。いつしか"氷帝"という二つ名めいたものまで付けられるほどに。
彼女が操るホビー"リコリス・ラジアータ"は堅牢な装甲に身を包んだ姿をしているが、その装甲の機能を全て知っているのは"チームシュタール"の人間のみ。
未だリコリスはその装甲を纏った状態を解いたことはなく、装甲を纏った重厚な姿がリコリスの姿だと思う者で殆どだろう。
その装甲の下に存在する本当の姿は未だ晒したことはない。

────そんな彼女は今、この喫茶店の席で目の前のテーブルに山ほどに皿を積み上げ店のほとんどのケーキを食さんとしていた。そして同じくテーブルの上には相変わらずその重厚な"鐵"に身を包んだリコリスの姿があった。
喫茶店は混んでいるようで、空きの席もほとんど無い。もしもこの喫茶店に次に訪れるのならばニーナと同席ということになってしまうだろう。
364菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/22(金)00:25:10 ID:Q3m
>>363
「えっ……相席ですか、あの、えっ、どうしよう……」

「良いよ店員さん! 案内して!!」

 飲食店の混雑時となると、ただ客が来るだけで店員は殺意を抱きかねないものである――――手間取る客ならば当然であった。
 故に、ここで答えを待つよりかは、小さな客の言葉を優先したのは精神状況を鑑みると当然であったろう。
 兎も角、彼女は案内された。元よりコミュニケーションも他人との関わりを苦手とする彼女……蓮見菱華からすると、はっきり言って不安だらけだった。
 確かにこの店のケーキを食べてみたいというのはその通りであり、これを逃したら多分一生この店には来なかっただろう。
 故に、肩に乗った小さな友人……“アイゼルネス”の一押しは、結果を果たすものとしては最適なものであったのだが。

「あ、あの、失礼します……」

「わっ、めっちゃ食べてる!」

「だ、駄目だよアイちゃん!! そういうこと言わないで!!」

 申し訳無さそうに、その対面に少女は座るだろう――――そしてその肩に乗った戦姫が、余りにも初対面の人間に対して無礼にそう思わず言った。
 その持ち主である少女は、驚愕しつつ戦姫をそう叱りつける……ほんの少しだけしゅんとした様子を見せたが、余り気にしてない様子の戦姫を他所に。

「す、すみません……あの、どうか相席宜しくお願いします……」

 そうして、対面したニーナへと頭を下げることになる。未だ、彼女がホビーファイターであることには気付いていない。
 それも、相当な知名度を誇る相手であることも――――それよりも、相席になったことへの緊張と申し訳無さで他に気が回らないだけだったが。
 少女、蓮見菱華もまた大会に出場するホビーファイターである……が、全くの無名無所属の新人、且つ現在公式での戦闘記録は予選を二回程度しか無い。
 然し、特筆すべきはその試合相手であろうか。一回目はチャンピオン『武藤ツカサ』、二回目はアイドル『初風なずな』というビッグネームと行っている。
 その何方との戦闘も、敗北に終わっているのだが――――もしも、彼女が二人の試合に興味を寄せていたのであれば。
 初心者ながらに、両者を“あと一手”のところまで食い下がることが出来た……というのは、多少は印象に残る要素にもなるだろうか。
365ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/22(金)00:50:56 ID:Tw5
>>364

「やっと来た…!」

『相席、ですか。いえこちらは構いません。マスターもそうだと思います』

店員が次の皿を運んでくると同時に相席の旨を伝えてくる。だが当の本人はそんなことよりも次に運ばれて来たケーキに夢中のようで全く話が入っていない。
返事をしたのはテーブルの上で大人しくしていたリコリスの方で、しかし店員ももう何度もニーナのテーブルを行き来して慣れたのか卒なくこなす。

「……………」

『いえ、構いません。マスターは甘い物には目がないもので、それに日頃のストレスの解消の意味もあるのだと推測しています』

ニーナ本人は返事無し。対するリコリスは当然といえば当然の反応をされたので自分のマスターについてのことをとりあえず話していく。
日頃のストレス…はリコリスにとっては分かりきったことだろう。だがそのことまで事細かに口外するつもりは無い。そこまでの権限は与えられていない。

『マスターからも、何か挨拶くらいは』

「挨拶…?……あれ、いつの間にか人が居る…」

リコリスから促されやっと気付いたのか、先ほどまでケーキを食べていたフォークの手を止め相席したらしい相手を見る。

「あれ?どこかで見たことが………あぁ、思い出した。確か動画で…武藤ツカサと初風なづなに負けた……」

有力な対戦相手の候補の戦闘はいつも見させられている。見たくはなくとも無理矢理、何度も見せられるのだから嫌でも覚えてしまう。
確か目の前のこの少女は見せられた中の映像で二人に負けていたと記憶している。しかし圧倒的力量で負けたわけではない。あの二人の腕前は相当のもの、それにあそこまで食い下がったのだからきっと彼女も腕の立つファイターなのだろう。
────まぁ、自分には関係無いが。

『私も記憶しております、確か蓮見様…でよろしかったでしょうか
こちらは私の使い手、マスターのニーナアルキファイス様です。そして私はリコリス・ラジアータと申します。リコリスと呼称してもらえれば幸いです』

結局リコリスが挨拶を返すことに。
礼儀正しく頭を下げてのその挨拶は淡々としたものだったが、これがリコリスの精一杯なのだろう。
しかし当のリコリスのマスターはケーキを食す作業にすぐに戻ってしまうのだった。
366菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/22(金)01:20:53 ID:Q3m
>>365
 返答は随分と下からであった……位置的に。必然菱華も目線を下げれば。
 闘機……だろうか、恐らくは彼女の持ち主であろうホビーがいる。
 一度ちらりと、恐らくマスターであろう少女へと目をやれば、此方側への興味は一切無いようで……それに対して、追求出来るほど菱華は強い心の持ち主ではなく。
 肩を縮こませながら、会話の相手はホビーへと移る……。

「あ、はい、どうも……ありがとうございます……」

 相席のことも、失言のことも、寛大な対応に感謝する……とはいっても、聞いていなかったから助かったようなものかもしれないが。
 兎も角、取り敢えず席にありつくことは出来たのだ。テーブルの隅に立てられた、メニューへと手を伸ばし。

「え、あ、は、はい……お、お二人に負けた、蓮見菱華です……」

 どうもこのまま無視を決め込まれたまま進むのかと思っていた――――であるが故に、不意打ちに感じつつもそう言った。
 自覚はしているし、あの戦いに悔いはないが、はっきりと言われると少しショックではあった……であるが、然し。
 同時に、無名で敗北記録しか無い素人ファイターである自分を知っていたことだけは少しだけ嬉しく感じてはいたが。

「はい、ニーナさんと、リコリスさんですか……え、ニーナさんって……。

 アイゼンカンパニー傘下チームのシュタール選抜選手……ですか?」

 恐る恐る、と言った様子で問いかける菱華――――アイゼンカンパニーと言えば超大企業、それの直下チームの選手が此処にいるのだ。
 ……女帝、チャンピオン、アイドルと来て、次は“氷帝”――――であるとするのであれば。
 全く自分の引き運の良さに驚くばかりであった。それが良いことであるのか、悪いことであるのかは、別として。

「……う~ん」

 そして、アイゼルネスは菱華の肩の上からテーブルの上に飛び降りると、訝しげな表情のままリコリスの下へと歩き出した。
 腕を組んで、首を傾げながら、その目前へと辿り着くと。ずいっ、とその纏う装甲を舐めるように見つめ――――


「――――う~ん?」


 やはり、訝しげに眉を顰める。
367ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/22(金)02:19:50 ID:RlX

 昼過ぎの通り雨が、「うみかぜ」の街並みを濡らしていく。
 街頭に設けられた液晶ディスプレイが60を超えた降水確率を伝える。ホビーバトルの祭典に、少しばかりの水を差す曇天。
 どこか白けたような顔をして、道行く人はみな傘を差していた。煩わしい雨を嫌って、自己の圏内を明示していた。
 強く降るでもなしに、馴れ馴れしい雨。膚に触れることを許したのならば、それは瞬く間に体温という自己を蝕み、心の隙間の奥深くまで冷え切らせる。


「…………――――」


 ――きぃ、きぃ、きぃ。繁華街から少しばかり離れたところにある、古い公園。錆びて軋んだ音を立てて、そのブランコに座る人。
 ひとりの少女だった。日本人ではなかった。生気のない茶色の肌に、雨に霞む銀色の髪が、蛞蝓のようにべっとりと張り付いていた。
 かけている眼鏡は雨粒に覆われて、恐らく前さえ見えはしない。微かに震える指先が、ブランコの鎖を握り締めて、震えていた。
 シャツもパンツも肩にかけたトートバッグも、ぐっしょりと濡れ切っていた。そうして彼女は、少しずつ勢いを増す雨にさえ無頓着であった。


「――いのーち、みじかし、こいせよ、……おとめ、……。」


 その旋律の意味を、彼女は知っていたのだろうか。掠れるような声が、歌声を紡ぐ。それは雨音に掻き消されて、傘差す人混みには届かない。
368日向 武士 ◆AcfUisI7l2 :2017/09/23(土)00:17:43 ID:2uz
>>362

「んなっ!?」

それは、一瞬のことだった。
振り回された腕の隙間を、機械仕掛けの鳥は風のように掻い潜る。
スペック差による覆しようのない必然か、それとも主の差による覆しえた必然か。
それはわからない。しかし、そんな考えが武士の中で巡るコンマ数秒の間にも、刃は迫る。
あの速度を迎え撃てなくてもいい。せめて避け、反撃のチャンスを引き寄せられる何かはないか────。
そう考えようにも、3号には珍妙奇天烈な腕しかない……。

「……それしか、ないんだよ……なっ!」

日向武士は、律儀であった。
その証拠に、「勘弁してくれよ」と口では言いながらも、ホビーの勉強をある程度してきた。
最初に読んだ超初心者向け教本の中には、こうあった……「さいごまでホビーをしんじて、がんばろう」
たった今思いついたアイデアがいかにばかげていて、分の悪い賭けであったとしても。
その教えを、今忠実になぞる────。

そして、一閃。

3号のものの部品が散らばり、耐久値が勢い良く減っていく。
だがしかし、3号の脱落のジャッジは下らない。
鳥型機体の下に残されているのは、すっぱりと切断された脛より下のパーツと、『右手のひら』のみ……。

『ピィィィィガァァァァァ!!!』

奇声は、翼の上より響く。
そこには宙を舞う……というにはあまりにも物理法則の定める放物線に乗った3号。
1発残った大質量のロケットパンチを、右手のひらを接地したまま放つことで、反作用によって本体を飛ばしたのだ。
そして武士のコントロールによって、右腕と左腕が勢いよく最大値まで伸びていく。その長さは大人の腕を目いっぱいまで伸ばしたほど……だが、ホビー基準だとちょうど市街地のビルの高さにまで相当する。
先ほどの一撃で大きく損傷し、さらに両手を失った3号にとって、最後のチャンス。
並のホビー20機は下らない質量を持つ特大鈍器が、一閃を放った後の鳥の脳天へ向け振り下ろされる────!

「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

窮鼠、猫を噛むか?
369黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/23(土)01:53:26 ID:QqN()
>>367

雨音は喧騒を覆い隠し、世界と世界を隔絶する。
曇天に星は姿を示すことなく、霞んだ視界に遠く浮かぶ人工の光だけが微かな道標。
手を伸ばそうにも届かない、ただ冷たい雫が肌を打つ。宛ら、こんな世界で貴女は孤独、唯一人と告げるように。

行き交う人々は、誰も貴女に気がつかない。気がつこうとはしない。
ならば、この孤独は雨が降り続く限り、終わらない無為な時間であるのかと。


ーーーーーーーされど。


「……ああ、可哀想」


そう、呟いたものがいたのは、果たして気の所為だろうか。
いいや、決して空耳ではない。その声の主は貴女の真上、ブランコの支柱の上に”居た”。

何時から、そこに彼女は居たのだろうか。
彼女は人間ではない。いや、その正体が何者であるかなんて、この大会参加者であれば一目瞭然だろう。
支柱の上にちょこんと座り、雨濡れを意に介さず佇んでいたのはーーーーーーーーーーーー未知の“黒い戦姫”だった。


「可哀想。こんなにも多くの人々がいるのに、貴女はたった一人」

「誰も貴女を助けてくれない。誰も貴女に手を差し伸べてくれない……人はとても残酷なものだと、そう思わない?」


その問いかけは、果たしてラニアに向けたものか、それとも。
雨に淀んだ暗い世界は、詠うように語る戦姫の表情さえも、暗幕のように覆い隠す。
370東雲 真鶴◆0SuLG0jdAEYi :2017/09/23(土)11:08:38 ID:Lwv
>>368
残心。
確かに鋼鉄を切断した手応えとともに、器用に首を回して滑らかに刀を振り切った。
その場に残された、敵機の残骸と思しき2つの鉄塊。それらに敗北を告げるアラートが響く――

ことはなかった。


「……何だと?」

それは、偶然の産物と言って良かっただろう。
もしこれが1対1の試合ならば、機動力と遮蔽を活かして慎重に蜂の巣にする戦法を取っただろう。
もし敵機の脚を切断していなければ、吶喊の勢いのままに陽萬は駆け抜けるだけだったに違いない。
そして何より、その鈍重なフォルムが故に高高度の跳躍という連想ができなかった、真鶴の想像力の欠如。

試合時間があれば、切断対象が無ければ。そして何より経験と想定があったなら。
翼を地に縫い付けんばかりのこの鉄槌は、下りえなかっただろうから。


街宣じみた音声を垂れ流していたスピーカーが、気合一発吼える声。
刀を咥えた鳥獣の周囲に、にわかに歪な影が差す。

「陽萬、逃げろっ……!」

敵機の体高が高かったゆえに空中にとどまっていた陽萬に、瞬発性など望むべくもない。
どんどんと大きく濃くなっていった影は、その影を作り出していた巨大な両腕は。まっすぐに地面へと突き刺さり。
――そこには後ろ半身をつぶされた陽萬と、地面に突き立つ巨大な杭のような両腕が残るばかり。


判定のアラートが、真鶴たちの名を告げた。
371ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/23(土)19:39:42 ID:m9H
>>369


     「――――…………」


 雨は続く。強まることもなく、弱まることもなく。誰もが雨音に飽きてしまうのを、手ぐすね引いて待っているかのように。
 だからこそ、狎昵たる声色はよく響いた。同質であった。その色だけは黒かった。この冷たい雨は灰色だった。然し。
 断ち割ってみたのであれば、そこに蠢くのは穢れた悪意であろう。雨雫に曇ったラニアのレンズには、少なくともそう見えていた。


 声は確かに聞こえていた。だが少女は振り向くこともなく、その返答を口にする。
 顰められた言葉。まだ幼くとも、絶望に抗えずとも、彼女は向けられる悪意の何たるかを知っている。


 「If you think so, shut up this little bastard.(そう思うなら黙っていればいい。チビのガラクタ)」

   「I bet you do too, don't you?(残酷なのは、お前も同じ。違う?)」
     「――こんな雨。わざわざワタシに話すアナタも、同類だ」


 あるいは、当てつけであったのかもしれない。態とらしい言葉を、己に聞こえる場所で吐く、どこか厭世的なその戦姫への。
 錆びついたブランコの鎖が、軋みながらも前後した。泥となりつつある足元を蹴りながら、彼女はひとり揺らめく。
372ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/23(土)23:41:35 ID:7XL
>>366

菱華が席に着く頃には先ほどニーナが頼んだケーキはもうすっかり食べ終わっていた。そしてつい先ほどまでケーキが乗っていた皿はテーブル横の皿の塔に追加されまた一番高さが増す。
そうしてようやくニーナは顔を上げて菱華の方を見る。その表情は相変わらず無表情だ。

「そうよ、ニーナ・アルキファイス。そのシュタール所属の、ね」

シュタールの名前を口にする時だけ、少し憎々しげに聞こえたがそれもほんの些細なこと。それを聞き分けられただろうか。

「注意すべきホビーファイターは、チェックしておけって言われてるから」

それはつまり、ニーナにとって蓮見菱華は"注意すべきホビーファイター"に含まれているということだ。
それは嬉しいことなのか、それともマークをされたという悪いことなのかは菱華次第だ。
ただ一つ言えることはニーナは菱華を評価しているということだろう。

『…?どうかなさりましたか?私のボディに何か?』

リコリスを不思議そうに見つめるアイゼルネスに対し、やはりリコリスも不思議そうにアイゼルネスに聞く。

そんな様子を眺めながらニーナはつまらなそうに店員を呼んで次のケーキを注文しようとする。

「あなたも食べに来たんでしょう?一緒に頼むけど、大丈夫?」
373黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/24(日)00:08:48 ID:mah()
>>371

彼女の返答を聞いたならば、闇の中で戦姫は微笑む。
その笑みに籠められた意味なんて、きっと誰にも解りはしない。所詮は機械、仮想人格が紡ぐ人の真似事。

笑顔を齎す娯楽の祭典、然しその裏に蔓延る悪意を彼女は理解しているかのように。
其の首が傾けられ、紅い瞳がラニアに向けられる。機械の瞳に果たして、感情と呼べるものは篭るのか。
きっと、そんなものは存在しない。あるのだとすれば、其れは人を模倣した機微が齎す、細やかな錯覚。


「こんな雨、だからこそ。冷たい雨に晒される孤独は、人にとって堪え難いものだから」

「ーーーーーーいいえ、いいえ、人ならざる被造物がそれを語るのも、戯言に過ぎないのかもしれないけれど」


其れはやはり異質であった。幾ら最先端の人工知能が優れたものであったとしても、拭い去ることのできない異様を纏っていた。
其れは言語化できぬ違和感。そしてそういった猜疑心を抱かせるよう、黒い戦姫は意図的に振舞っているかのようで。
その上でーーーーーー彼女は、貴女と言葉を交わそうとする。自らの異常性を語らずとも伝えた上で、其の孤独に立ち入ろうとする。


「迷える人、可哀想な人。その姿を嗤う者こそ居ないとして」

「けれども、誰かが傘を貸してくれるなんて限らない……貴女の其れは、果たして自棄?」


唱うように、淡々と言葉を紡いだなら、黒い戦姫は支柱の上に立ち上がる。
空を仰いだ視線の先に、拡がるのは淀んだ曇天のみ。星のひとつさえ浮かばない、冷たい夜。
374ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/24(日)00:26:55 ID:L5I
>>373


 昏い曇天を見上げた視線が、不意に交錯した。
 闇をそのまま彫り上げたような素体に、銀色の髪。人形のような微笑みを持つ、人形そのもの。
 わざと人に似せて人になり切れぬような不気味さの谷を、しかしその人形は敢えて遊び歩いていた。
 ――ラニアは、眼鏡を外した。深く淀んだ金色の瞳は、眇められて人形を睨め付ける。


「――……アナタの目論見は、なに」

「趣味が悪いということは、よくわかった」
「けれど、ダレかを嘲笑うだけで暇を潰すほど、馬鹿でもなさそうだ」


 弱り目に祟る悪霊であるのなら、その目論見を先に吐くがいい。そう、彼女は告げていた。
 せめてそれが彼女に許された、最低限の自衛であった。心を蝕まれると知っているのなら、どこをどう喪うかだけは理解したいと。
 そも、彼女の苦悩を誰が知るというのだ。親しくしてくれた素晴らしい友人にも、終ぞ何も吐き出せなかった代物である。


「アナタに、"わたしの何がわかる"。……文字通りの、意味でスよ。」
「言ってみろ。言えないなら、とっととココからいなくなれ」


 街の喧騒が遠ざかっていく。雨粒が地面を穿つ。少しずつ、雨脚は強まっていた。
375黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/24(日)00:52:29 ID:mah()
>>374

「貴女の名前を知っています。貴女の境遇を知っています。貴女の動機を知っています」

「貴女の出生も、故郷も、家族もーーーーーけれども、そんなものは知ろうと思えば知れること」


その戦姫は、既に純粋な情報に関しては知り得ていたのだろう。
其れはたった今知り得たのか、ラニアと邂逅した時に知り得たのか、或いはずっと前から知り得ていたのか。

ふわり、と。悪霊の如き黒の戦姫は、支柱の頂点を飛び降りる。
そしてラニアの隣にあるブランコの座席の上に着地したなら、今度は見上げる形でその紅い視線を向けるだろう。
有機的な人を模した人形の表情は、然しどこまでも無機的なままで。


「……結局、貴女の内面が何であるかなんて、貴女にしか知り得ない」

「だからこそ、尋ねてみたいーーーーーー貴女が誰にも零せなかった苦悩は、果たしてどのようなものであるか」


次第に勢いを増す雨音は、宛らノイズの如く、二人の会話を覆い隠す。
その会話を誰も聞きはしない。多くの人々が行き交うこの街において、この空間だけがたった二人だけの世界として切り離されてしまったかのように。
376菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/24(日)02:12:50 ID:Crn
>>372
「注意しておくべきだなんてそんな……私なんて、全然大したことないですから……!!」

 あの有名なチームのエースファイターに注意すべき、なんて言われたからには……菱華にとっては、嬉しいことではあった。
 いつもならば徹底的な謙遜が繰り出されるのだが、そうでなく。言葉ではそういうものの、その態度には隠しきれない喜色が出ているのは……。
 直前に、少々の心境変化があったから、だが。然し、迂闊だったのは――――それに気を取られて、彼女の表情の機微を見切れなかったことだろうか。

 リコリスの装甲へ――――アイゼルネスは、拳を突き出して小突く。
 こつん、と当てる程度の仕草であった。敵意や悪意の類は一切存在しなかった。ただ、何かをその機体に察していたのかもしれない。
 アイゼルネス自身理由をはっきりとさせることが出来ない、謂わば……直感などという、余りにも人間らしいものによって、とでも言うべきか。

「……お前も」

 その瞳を覗き込む。そしてゆらりと、アイゼルネスの碧い瞳が揺らめくだろう。
 紅色の光が右の瞳に明滅する。それは本当に微弱な光だった。その瞳を覗き込まなければ間違いなく見逃すような、些細な光であった。

「――――強そう!」

 そうして紡ぎ出される言葉は、純粋な闘争心と興味からなる一言であった。
 実に感情豊かに、湧き上がるそれを抑えきれないとばかりに満面の笑みでそう言った。そこに一切の矛盾もなければ、裏もなく。

「駄目だよアイちゃん、今日はバトルしに来たんじゃないんだから……」

「ええー、バトルしたーい!! しーたーいー!!」

 いきなり好戦性を剥き出しにするアイゼルネスへと向けて、そう言って諌める。
 いつもの事である……他のホビーを見るとすぐにこうなるが故に。それでも毎回抑え切るには少々叱る力が弱すぎて、駄々を捏ねるのを許してしまうのだが。

「あ、は、はい……頼みます! ……えっと、えっと」

 ニーナに促されて、菱華はまたメニューを見つめ直す……のだが。果たしてどれを頼めば良いのやら。
 何せ行列のできる店など来たのは初めてで、禄に下調べもせずに来てしまったものだから、こういろいろなメニューを前にすると目移りしてしまう。
 一番美味しそうなもの、一番食べたいものを選べばいいが、それでも優柔不断に迷ってしまい……。


「……あ、あの。お、オススメ、って、なんですか……?」


 何でもない質問である。これだけ食べている彼女に聞けば有力な答えも返ってくるだろうというものであった。
 相席になった者同士ならば、会話が弾めば違和感のない……で、あるが。
 菱華にとっては、凄まじく勇気を振り絞ったものであり。――――恐る恐る、彼女へとそう問いかけるだろう。
377ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/24(日)02:29:44 ID:Q3v
>>375


「――アナタ、愚弄しているか?」

「全て分かっているのならば、尚の事。」
「ワタシが今、何もできないでいるということが、分かっているはず」


 忌々しげにラニアは吐き捨てた。この壊れたような人形が告げていること。真であるか、偽であるか。
 偽であるならば立ち去ればいい。論理回路の壊れた人形の戯言に付き合うことがあろうか。――だが。
 少なくともラニアは、そのままブランコに座り続けた。この胡乱なるヒトガタの言葉に、苛立ちさえ示していた。


「けれどアナタ、よく分かっている。この悩みは、ワタシにしか分からないものだ」
「今までも、これからも。ワタシがあの輝かしい戦場ではなく、何故こんな場所でうらぶれているか」
「その理由を知っている、なぜ今更ワタシに聞く。そんなことも分からないなら、アナタ、出来損ないの人形だ」


 続く皮肉を、人形は解するだろうか。理由が分かっているのに、その結果を訊ねるなどと、なんと滑稽なことだろう。
 然し、滑稽なのは彼女であった。結果的にそれは独白に似ていた。誰にも告げられなかった懊悩は、怒りによって容易く引き出されていた。
 それに、彼女は気付かない。追い詰められていたのだ。正気ではなかったのだ。――それでいて、まだ己れは真っ当であると、思い込んでいるのだ。


「"アナタに、何ができる"。何もできやしない。」
   「――何か出来るというのなら、言ってみろ。何だって、やってやる」


 その台詞だって、ラニアには答えの分かりきったものだった。だが彼女の思う答えは、続くであろう人形の言葉とは重ならない。
 濁った金色の瞳はペシミズムなまでに悲愴であった。どこか遠く映る摩天楼の光さえ、一瞥に拒む闇を宿しかけていた。
378黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/24(日)20:37:44 ID:mah()
>>374

聞き終えた回答は、果たして彼女が望んでいたものか、其れとも。
紅い眼は絶えずラニアに向けられたまま。無機的な輝きを灯すその視線は、まるで瞳の奥底にある内面さえも見通そうとするかのように。
きっと、壊れた人形という表現は正しい。この個体はどこか根本的な部位で、致命的なまでに壊れていると、理解することができるだろう。
けれども、だからこそこの人形はーーーーーー貴女へと語りかけている。その理由は、きっと。


「……ーーーーーーもしも、私に何かができるとして。いいえ、”貴女の望む通りのことができるとして”」

「差し出された手を、貴女は掴む? 例えそれがーーーーー悪魔の差し出した手だとしても」


其れが戯言ではないと、唯愚弄する為だけの台詞でないと、理解するのに時間はかからない。
そもそも前提として、この機体の存在が異常であった。言葉を交わせば交わすだけ、その異端な性質が露わになる。

もし、その瞳に感情というものが宿っていたのなら、其処には深淵の如き闇を湛えていたのかもしれない。
或いは、既に其れに等しいものをこの個体は内包しているもかも知れなかった。人の感情に翻訳するなら、悪意と呼ぶに相応しいものを。
危険だと、何かが可笑しいと、勘の鋭い競技者であれば察することが可能に違いない、それでも。


それでも、悪魔の囁きは、何処までも蠱惑的に。


「……本当に、何だってやってくれる? ラニア・エルハレド=シャリフィー」


きっと頷いてしまえば、後戻りはできないだろう。
差し出された手は救済か、それとも破滅への導きか。
379ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/24(日)21:51:32 ID:L5I
>>378


     「――――っ、…………。」


 ――――流石に、辟易ろいだ。

 確かにラニアの思考は錯綜していた。絶えず打ち付けられる雨粒のひとつとて、熱暴走したニューロンの冷却にはならなかった。
 人形に投げかけられた、ともすれば嘲笑に近いような言葉の数々は、さらにそこから真っ当な論理回路をショートさせていった。
 今の彼女は一種のマリオネットであった。だがそれでも、最後に残った本能のような何かが、絶え間ない警鐘を鳴らしていた。
 進んではならない。受け入れてはならない。手を伸ばしてはならない。――分かっていた。だが、それでも。

 忌々しげに見開かれた金色の瞳が、淀みを以って人形を睨む。ぎり、と小さな歯噛みが鳴る。
 それが彼女に許されたせめてもの抵抗であった。吐き捨てたいほど忌まわしい要件を、しかし呑まねば己れは死する。
 憐れな足掻きであった。至極穏やかな人形の破顔は、変わらない優しげな赤眼でラニアを見つめていたのだから。
 

   「――――…………、」


  暫しの沈黙。激しさを増す雨脚は、然しどこかに遠のくように聞こえた。


 「――イイだろう」
 「もう、縋れる藁もない」


 「喰らってヤル。アナタの吐く毒、全て」



 そうして畢竟、ラニアは屈した。慨歎するように視線を背けて、遣り場のない視線を輝かしい摩天楼に向けた。
 視線を合わせたくなかったのだ。沁み込む劇毒にも似た赤い瞳を見たくなかった。だが、既にそれは――。


 「ワタシの妹を、助けてほしい。難病なんだ。金が必要だ」
 「優勝賞金なら、賄える筈だった。――助けてくれ、……。」

  「アナタのことは、何と呼べばいい」


 微かにその声は涙ぐんでいた。とうに知れた独白の後に、ラニアは人形の呼び名に迷った。誤魔化すように。
380ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/24(日)22:20:12 ID:bOT
WHBT大会会場、いくつかあるラウンジのうちの一つ。
ここに設置されたモニターでは各ブースのイベントや、アリーナの様子を観戦する事が出来る。

「うーん……どうだいジョーカー?気になる人はいる?」

椅子に腰掛けコーヒーを飲みながら、モニターの映像に目を向けるジョセフはテーブルの上に立つ自分のホビーに問い掛けた。
紅白のピエロのような様相をしたホビーはジョセフに振り向くと、肩を竦めたジェスチャーをして返す。
それを見たジョセフは再びモニターに目線を戻すと、映像に映る者達を注意深く観察するのを再開した。

(……厄介な奴らに嗅ぎつけられたら困るな、今の内に怪しいのはマークしとかなければ)

その様子は側から見れば、対戦相手となる者を研究する熱心なホビープレイヤーにも見えるが…?
381黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/24(日)22:29:51 ID:mah()
>>374

「……ーーーーーーー解った」

「助けてあげる。大切な家族の為に戦う、貴女のことを」


彼女が、この人形が何を考えているなんて誰にも解らない。
それでも、それは確かに救いだった。溺れる者に差し出された、唯一の手に違いなかった。

黒い戦姫が浮かべる笑みは、慈愛に依るものか、或いは別のナニカに依るものか。
それでも一つだけ確かなことは、この人形は貴女のことを助けようとしていること。例えそれがどのような形であろうとも。
漆黒の装甲に奔る紅のラインが怪しく燈る。飲み込まれてしまう程の闇の中で、戦姫はその輪郭を浮かび上がらせる。


「…………ーーーーーー貴女にもう一度、舞台に立つ為の機会と、その手段を」

「貴女の機体は不正だと、一度は跳ね除けられた。ならば今度は、その通りにしてしまえばいい」


その言葉と同時に一つのプログラムが、貴女の機体に送り込まれる。
それが何であるか、競技者である貴女であるなら一眼確認するだけで理解できるだろう。

違法改造パーツ C.C.チップ。それが齎すものと同様か、或いはそれ以上に強力な違法データがそのプログラムには記されていた。
無論、その偽装能力も既存のものとは一線を画す。ならばこのプログラムを適応したなら……どのような悪意ある検査も掻い潜ることが可能となるだろう。
その上で、違法改造による機体の不正な強化も可能となる。その力を存分に使ったならば、“優勝”にさえも容易に手が届くに違いない。


其れを、使えと言っている。
これを使ってしまうことが、どういうことを意味するかを承知の上で。


「直ぐに再提出の機会が訪れる。そしてその検査で、そのプログラムを適応させた機体が弾かれることはないでしょう」
「さあ、存分に毒を食らって、そうして得た力で妹を助けてあげなさい」


「私の名前はGalatea(ガラテア)ーーーーーーーー大丈夫、私は貴女の味方だから」


そうして、彼女は再び微笑んだ。
その笑みは果たして、天使のものか、それとも悪魔のものか。
382赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/24(日)22:49:42 ID:ZOV
>>380

「……キャラに似合わねェことやってんなァ」

熱心にモニターを眺めるジョセフの背後から、その声は放たれる。
聞き覚えがあるかもしれない。振り向くならば、その姿にも見覚えがあるかもしれない。
無造作に伸びた髪の隙間から覗く三白眼、色々と悪い意味で有名なプレイヤーである故に。

「いやァ、ふと見えちまったからよ。ちょっと演目に苦情付けに来ただけだわ。
 ありゃ酷だと思うぜピエロ気取りサン。
 ホビーが好きでもなんでもねェって顔した女に、付き合えないだろうよエンタメってのは。」

先日の事、企業の看板プレイヤーと一芸人の戦闘に赤鉄シンヤも居合わせていた。
ただ単に有名プレイヤーの戦闘が見れるとして偵察に行っただけだが、少女が酷い顔をしていたのを覚えている。
383ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/24(日)23:26:26 ID:L5I
>>381


「――……これ、は」


 人形の躯体が紅い光を帯びる。血のような洸たる輝きは、截然たるものを以って夜雨の中に浮かび上がっていた。
 スマートフォンが着信に震える。懐のそれを取り出せば、競技用の機体調整アプリケーションには、見覚えのないプログラムが登録されていた。
 ――そうしてすぐに、彼女はその正体を理解した。雨はいつの間にか止んでいた。だのに震える指先を、彼女は濡れそぼった自身のトートバッグに潜らせる。

 取り出したのは、ひとつの闘機。モノトーンの塗装に身を包んだ、人であり人ならぬ異形の機体。


「使えというの。コレを。――ワタシに?」

「何の意味がある。アナタに。何の得がある。ワタシの味方になることに」


 その詰問は最後の抵抗だった。この齢20にも満たぬ少女は、然しファイターとしてはプロフェッショナルだった。
 負い目以前に、矜持があった。誇りがあった。愛着があった。己の望む未来のために、この機体を穢さねばならない屈辱は、堪え難かった。
 
 だがそれさえも選べぬということを、ラニアはよく知っていた。だからこそ、せめて、問い詰めるしかなかった。


「"ガラテア"。ワタシに与えたこの力。よもや、無償に使うがいいという訳ではないでしょう」
「――人の弱り目を見定めるような、アナタのような人形に」

     「何が、目的」
     「……いえ、それよりも。アナタ、何者――?」


 ――――夜半なおも続く喧騒は、隔絶たる雨が消え失せれば、少しずつラニアに近づいていた。
384赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/25(月)00:24:43 ID:dMQ
大会開催に合わせて再開発され、ホビーの聖地と化した"うみかぜ"。
大会真っ只中の今、スタジアムを中心として凄まじい盛り上がりを見せていた、が。
都市の隅、ライブハウス染みた看板を掲げるホビーカフェはそんな話とは無縁のようだった。
まず外観がホビー関連には見えないし、中も外観どおりの雰囲気の照明は明らかにそういう店である。
一応、ステージに用意されたバトルフィールドを使うと巨大モニターに中の様子が写され
楽器を鳴らすが如くパフォーマンスが行えるという実験的なホビーカフェではあるのだが。

「……まだ足りねェよなァ」

店内のラウンドチェアは唯一つだけ埋まっている。カウンターの上にはコーラとホビー。
ホビーは"人馬"の姿を持ち、それをまじまじと見つめるは三白眼。赤鉄シンヤがそこに座っていた。

パーツごとに分かれたジャンクを眺めて、椅子を回して、伸びして、また眺めて。
そのたびにあー……とうなだれた声を漏らす。要するに、機体の構成に悩んでいるのだ。

ショップの設備は見た目の胡散臭さに反して中々のもの。半分趣味で開かれた店だとかなんとか。
そういうわけで知る人ぞ知る穴場的なスポットなのだが、彼意外にも来店する者は、果たして。
385黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/25(月)00:49:55 ID:eNL()
>>374

「貴女は只、その機体で、その力で、より多くの敵を倒せばいい」

「一人でも多く、一機でも多く、戦いの舞台にて蹂躙し、そして壊し尽くす。私が貴女に求める対価は、ただそれだけ」


不正に得た力によって、正規の参加者とその機体を嬲れと、彼女は言っている。
優勝を目指すならば、他の参加者に勝利する必要がある。然し。彼女は只勝つだけでなく、一方的な蹂躙を要求した。
その不正な力によって、暴虐を成せと。そうする限りは自分は貴女の味方であり続け、そして貴女を優勝に導くだろうと。

矜持も、誇りも、愛着も、踏み躙るように。
ライナにとっての優勝が、只の栄光以上の重みを宿しているものだからこそ、その為には断ることができないと承知の上。


「…………ーーーーー私が何者か、ええ、それは」
「貴女と似たようなものとだけ、答えましょう。捨てられて、打ち拉がれて、その上で恨みを晴らそうとするものと」


「……では、健闘を祈ります。ああ、それからーーーーどうか、風邪を引かないようご注意を」


戦姫の姿が歪む。宛ら、投影された立体映像にノイズが走るかのように。
そして次の瞬間にはーーーーーその姿は忽然と消失していた。

それは果たして、戦姫としての機能だったのか。
然し前提として、ホビーの機能というものはバトルフィールド上でしか再現されないものであり。
其れをこのようなバトルシステムの存在しない場所で発動する等、そもそも出来るはずがないのだ。


雨は止み、残されたのは少女が一人。
まるで全ては夢の中の出来事であったかのようにーーーーー然し、夢でないことの証は、黒い戦姫が残したプログラムは確かに其処にある。
386冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/25(月)00:51:38 ID:W1W
>>384

あまり繁盛しているとは言えないカフェの一角に、机に立てたタブレット端末と向き合う少女がいた。
色褪せたジーンズに白いタンクトップ、丈の長いデニムジャケット、赤縁ナイロールに厚ぼったいレンズの眼鏡。
頭には片耳用のヘッドセット――なんて胡乱な装いとは裏腹に、メリハリのあるスタイルが勿体無い少女だった。

「あー、今度もやっちゃったんすね。……や、いいんすよ。アタシとしても本望っす」

シンヤの座席からそれは聞こえるし、見えもするだろう。どうやら彼女は通話中らしい。
その傍らの作業台には、長砲身のレーザーライフルや、ブースターと格納式銃架のついたSFSと言ったホビー用の装備が並べられていた。

「コナユキもなずなサンも頑張ってるんすから、アタシだって追いついてかないとっす。
 明日には間に合うようにボード作り置いとくんで。また思いっきり乗りつぶしてくださいな!」

朗らかに言って通話を打ち切るまでに、出るわ出るわ、聞き知った名前。
そして彼女自身も、ホビー雑誌に目を通すような人間にとっては、そこそこ名の通った人物かもしれなかった。
387赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/25(月)01:07:12 ID:dMQ
>>386
それなりに雰囲気のある場所に、浮いた服を着れば嫌でも目に付くものだろう。
椅子を回して、するとふと少女が目に入った。綺麗な顔立ちに勿体無い服装。
しばしの間視線を奪われれば、ボード、コナユキ、そしてあの名前。

「――――なずなァ!?」

同姓同名でもないだろうし、彼女であるのは間違いない。聞こえたのは所々、それでも内容は何となく理解できる。
彼女はつまり、あのアイドルのアーキテクトとと言うことだ。

ふと零してしまった声は、人の少ない店内であればさぞ響いてしまった事だろう。
388冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/25(月)01:22:35 ID:W1W
>>387

「……ふへ?」

フリーの右耳が不意に親友の名前を捉えて、少女は首を傾げつつヘッドセットを外す。
ふわりと広がった赤銅色の髪は、ケアは丁寧にされているようだが寝起きそのままのようにボサボサだった。

幾ら人の少ないところを選んだとはいえ、些か行儀が悪かったか。――まあ、この格好の時点で気にしてなんていないけど。
とは言え、断片的に聞き取った会話からなずなの名前を取り出すとは中々のファン魂だ。
今日持ってきているコナユキの武装は全て構造が把握されているし、ボードは知ってても乗りこなせるものではない。
ここにいるような相手なら話しやすいだろうし、ちょっとぐらい見せてあげてもいいか。

――なんて、のほほんとした考えで振り向いた少女のニヤつきは、一瞬で真顔に変わった。

「あっ、……赤鉄シンヤ、サン!?」

頓狂な声音に交じるのは、純粋な敬意と割り切れない複雑な感情。
そして――ひとりでここに来ていて良かったという、後ろ向きな安堵だった。
389ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/25(月)01:24:20 ID:FiL
>>385


  「――……っっ、……」

 
 返す言葉がなかった。如何様なる命令にさえ、彼女は従わざるを得なかった。堪えるように噛み縛られた下唇から、握りしめた片拳の掌から、黒く血が滲んだ。
 確かにチップの効力があれば、如何なる蹂躙さえ許されるだろう。だが彼女は、未だ嘗てそのような破壊を欲したことはなかった。
 恵まれない生命を這いずってきたラニアにとって、そこから己れを救い出してくれたホビーバトルという存在は、有り体に言えば救世主でさえあった。
 なればこそ彼女はチャンプとして認められ、帰る場所たる暖かい家族を守り、そしてこの街でさえ憧れた偶像に友人を得たのだ。
 ――それを、己れの手で汚したくなかった。地位も、友人も、家族も、その全てを裏切る行いであったから。それでも彼女は、その選択を受け入れるしかなかった。


「……アナタが。ワタシと、同じ、……?」


 だからこそ、その言葉は許せなかった。この身に最悪の選択をさせた黒い戦姫の、慇懃無礼な別れの挨拶は、ひどく彼女の精神を逆撫でした。
 脳天にまで湧き上がった怒りが彼女の顔貌を歪ませて、されどガラテアと名乗った人形は、データの海に溶けるようにしてその場から消え失せてしまう。

 ――握りしめた拳の遣り場を失って、ラニアは湿った地面を殴りつけた。跳ね返る泥濘が彼女を汚した。
 あるいは、それは。張り詰めたなにかを失ったことにより、もはや立つことさえも儘ならぬ故の擱座であったのかもしれない。
 この怒りをどうすればいい。この憎しみをどうすればいい。振り上げた拳をどうすればいい。――わたしの愛したこの競技を、どうすればいい。
 誰が悪いのか。誰を憎めばいいのか。誰に怒りをぶつければいいのか。――そも、斯様なる理不尽な運命を強いたのは、本当にあの戦姫であるのか?
 


    「……す」「……っ……す」「……ぶ、……」

              「――――潰す」




 雨上がりの冷え切った街。摩天楼の光は消えない。夜の闇が、消えぬ限り。
390赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/25(月)01:42:51 ID:dMQ
>>388

「いや、チガイマスネェ」

即座に返した声は否定。が、とっさに出した上ずった声は明らかに不振で、そもそもテーブルに並べられたパーツは確実に彼のものだ。
顔を見て名前が分かるぐらいの彼女なら、否定は殆ど無意味だろう。
あの戦闘の後にペナルティを受けかかったため、面倒は避けたかったのだが。

ニヤついた笑みが複雑な表情に塗り替えられる。
まあ、もう無理だろうと腹を括って。

「冬芽つばき、ねェ。やっぱ腕良いんだな、アンタ。」

テーブルに並べていたパーツを一旦ケースに仕舞い、つばきのテーブルへと。
テーブルの武装を眺めて、かけた声は酷く穏やか。皮肉を感じさせる声色でもない。
純粋な、言葉通りの意味だった。あのバトルフィールドに立っていた男と、同一人物とも思えないような。
391冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/25(月)02:11:52 ID:W1W
>>390

「全く、びっくりしましたよ。通話切った後でほんとよかったっす」

「……うーん。そりゃあ、作るのだけが取り柄っすからね」

目を合わせた時こそかなり驚いていたものの、シンヤが近づいてくることに対してつばきは冷静だった。
ある種、作り手としてのシンパシーのようなものが警戒を解かせたのかもしれない。
腕前を賞賛されれば、はにかむようなボヤくような、曖昧な調子で答えて。

バトルに求められる能力と造形技術が別物なのは当然だが、それにしたって冬芽つばきはファイターとしての活躍と無縁だった。
彼女が抱えるひどいVR酔いと戦闘中の状況判断能力の欠如は、言ってみれば負の天才とでもいうべきもの。
克服のために努力を重ねたものの成果を挙げられていないことは、過去のインタビュー記事でも触れられている。

「とは言え、世の中には破れ鍋に綴じ蓋って言葉もありまして。
 アタシが作ってなずなサンが戦う。分かりやすい話っすよ」

そしていま目の前にいるのは、叶わない夢を委ねられる相手を緒戦で負かせ、恥をかかせた人物。
とは言え、つばきの口ぶりに恨みがましさはない。

「その点赤鉄サンはオールラウンダーじゃないっすか。作って戦える、素晴らしいことっす。
 だから不思議なんすよね。何でわざわざ、〝あのキャラ〟に拘らないといけないのか。
 不戦敗やサスペンドのリスクを負うほどの意味が、どこにあるのか」

ただ、にまりと笑みを浮かべて――「なんで空は青いのか」と問うような身勝手さで、彼女は尋ねた。

「あ、ちなみにアタシの喋りはキャラじゃないっすからね」
392赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/25(月)02:42:42 ID:dMQ
>>391
思った以上に自身が受け入れられている事に拍子抜けしながらも、しかしそれ自体はありがたい。
立ちっ放しなのも何だと思って、対面の椅子に腰掛ける。そうして続く質問は

「……どうして皆俺が作ってるって前提かねェ」

先日戦った相手も、そしてこのなずなも。そこはビルダー同士の勘とでも言おうか、機体を見ればわかるという事か。

「俺ァホビーは好きだがプレイヤーは嫌いって事だ。」

こうして、すんな話し始められるのもそう言う事だろうか。
元より冬芽つばきに対しては、彼は好意的な印象を持っている。が、それでも。今まで誰にも話さなかったことなのだ。
そろそろ、大会を通して仮面が剥がれかかっているのを自覚しているのかもしれない。

「玩具だからなァ。何時か飽きるし、"俺ら"ぐらい熱中する方がおかしいんだろうよ。
 けど、な。直ぐ飽きて捨てる奴、新しい物が出る度に古いのを捨てていく奴、負けを機体のせいにして罵る奴。
 そういう奴等は"気に食わねェだろ"。」

今でこそ感情を見せるホビーを捨てるような人間は少なくなったが、しかしただの戦闘用AIしかなかった頃には。
世代の近いつばきなら心当たりがあるかもしれない。

「好きでも無いのに仕事でやってる、ってのも気にいらねェよなァ
 特にこんな舞台はな。ここはそういう奴らのステージじゃねェだろう。」

なずなへの当たりは即ちそういうことである。友人にポケバト(ポケットの中のバトルの略。この世界の名作ドラマである。)を見せるような本物感を雑誌などで発揮するつばきに対して
なずなのキャラクターは聊かそういうところには弱いと。少なくとも、彼にはそう映った。
要するに、気に入らないからぶっ壊す、と。しかしそれではデメリットに余りに釣り合ってないように思える。
質問に完全に答えたとはいえないかもしれない。
393日向 武士 ◆AcfUisI7l2 :2017/09/25(月)03:18:19 ID:suM
>>370

『日向、日向、技術の日向!当機体「スーパーヒナタ3号」は、日向製作所によって……』
「勝っ……た……?」

コンクリートのテクスチャに突き刺さるようにして聳え立ちながら、宣伝を垂れ流す3号。
ディスプレイに示された、相手のものであろう脱落の表示。
3号でまさか勝てると思ってなかったというのもあるが、十数年ぶりのホビーでの勝利の感覚に、武士は思わずしばし戸惑う。

────しかし、大切なことを一つ、武士と3号は忘れていた。

『日向!日向!ひな……ビギャーッ!!?』
「……あっ」

どこからか飛んできた胸を一寸たがわず撃ち抜くレーザー光線と、先ほどまで戦っていた相手の名前のすぐ下に表示された脱落表示が、それ────試合が乱戦形式であったこと────を思い出させた……時、すでに遅し。



試合が終わった後、武士は3号が収まった箱の乗った台車を押しながら、きょろきょろと鳥型機体の主を探して会場をしばし歩く。
「おわったあとのあいさつは、きもちよく」……超初心者用教本の一節にのっとって。
394冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/25(月)10:30:46 ID:W1W
>>392

シンヤの話が一区切りするとつばきは、んー、と息を吐いて大きく伸びをした。
上体を反らすとタンクトップの下で豊満なバストが強調される。マイペースも困りものだ。

「あー、……うん、生きづらそうっすね」

あまりにも率直な感想を無責任に放り投げて、つばきは薄笑いに目を細めた。

「アタシにも気持ちは分かります。でもその出力がおかしくないすか?
 ホビーは楽しいものなのに、まだ理解してない子を潰して追い出すなんて、もったいなくないすか?」

――趣味人というのは、とかく先鋭化しがちである。
解釈の違いを認められず、カジュアルプレイヤーに対して当たりが厳しい。それらの問題が、悪意ではなく愛から生まれるのがとびきり悪質だ。
サブカルチャーの世界で横断的に活動してきたつばきにとって、この傾向はありふれたものだった。

「捨てるヤツが嫌いなのにトラウマ植え付けて捨てさせる。完璧に逆効果っすよ。
 赤鉄サンの説明には、筋が通ってなく見える。リスクを背負ってまで、皆で損するのが目的……じゃ、ないんっすよね?」

つばきにはなずなのような義憤や激情はない。ただ純粋な好奇心と口惜しさが駆り立てる。
心からホビーを楽しむことができるはずの人間が、何故そうしないのかと。
395藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/26(火)00:40:37 ID:2ZI

 雨上がりの「うみかぜ」は、涼やかな秋晴れに穏やかな風を湛えていた。
 いっそ心地いいほどの鰯雲の下においてさえ、しかし熱狂が止まることはない。ホビーバトルの祭典は、まだ予選さえ終わっていない。
 ――WHBT会場を取り巻くように配置された、公式系列のホビーショップ。そのひとつに、彼女はいた。


「……Like an angel with cruel and merciless intent……
 Go forth, young boy And you'll become a legend――」


 女性にしては高い背丈が着古した白衣を纏えば、それは否応に目立つ。まして店内であろうとも躊躇わずに、取り回しの悪そうな蛍光色のヘッドホンをつけたままならば。
 やや低い声が口遊むのは「Cluel angel's thesis」。闘機シリーズ「蒼天のトロイメライ」のメインテーマとして、恐らくは作品を知らない一般人さえ耳にしたことのあるような曲。
 肩口まで伸びる黒髪を煩わしげにかぶり振って払い、銀縁眼鏡の奥の眼光は悩ましげに顰められていた。


「やっぱイイなぁ、"F-1"初号機……。や、"タイフーン"3号機も捨て難いなぁ――。
 どーせ組み直すんだから、面白い機体にさなきゃ、そうじゃなきゃ意味がない……」


 プラモデルのパッケージを片手に握り、あるいは取り替えて、しかし何れを買うべきか納得は行かぬと独り言。
 これを15分ほど続けていた。店員はやや訝しむような目線で彼女を見張っていたが、彼女がそれに気づくはずもない。


「――……わっ、……」


 ――ようやく彼女が表情を変えるのは、幾度目かにパッケージを棚に戻そうとしたところ、迂闊にもその手を滑らせてから。
 手から落ちそうになったそれこそ膝先で受け止めたが、しかし彼女はもう片方の手で別のパッケージを掴みかけていた。
 宙を舞う、紫色のボックス。――幸運にもそれを受け止められる人間は、いるだろうか?
396菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/26(火)01:46:27 ID:s3b
>>395

 先日改修を終えたアイゼルネスの、更に息抜きに部分塗装と墨入れ程度で簡単なキットを作ろうと菱華はこの公式ショップまで足を運んでいた。
 菱華が特に好む作品の最新作、『Iron-Blood』の作品の機体が並んだ棚の前で、何を買おうかと頭を悩ませていた。
 この作品のキットは安価でありながら組み易さと造形に稼働、そして遊びにおける幅広さの全てが良好という傑作揃い。
 その上、作品の出来に関しても賛否両論(出来る限り抑えた表現)によって元が安いところから更に値下げをされることも多々あった。

「やっぱり、この大きいハンマーとずんぐりした身体は格好良いなぁ……。
 こっちは単純にスタイリッシュでいいよね。こっちは……凄まじかったし、これも買ってこう……」

 選んだのは三つ。
 僅か三話ほどの登場でありながら強烈な印象を残した超重量機体。
 兵器らしいデザインと騎士のような流麗さが上手く融合した蒼と黒の機体。 
 そして劇中で『凄まじく印象的な』活躍と設定、描写を見せた漆黒の大型機体であり、それらを重ねてカウンターへと持っていこうと歩き出す。

(……あ、この歌……)

 位置関係上、必然的に「蒼天のトロイメライ」シリーズの棚を通ることになる。
 目の前では眼鏡を掛けてヘッドフォンをかけた女性がパッケージと睨めっこをしている……その気持ちは、菱華にもよく分かる。
 この歌は国民的にも……よくやっている「アニメソングランキング」なんかでよく上位に入る歌だ。
 何故あの作品がここまで人気になったのか、あれは間違いなく万人受けする作品じゃないのに……なんてことを考えながら。
 彼女は熱心なファンなのだろう。邪魔をしないように、そっと彼女の横を通り抜けようとして。

「……わぁっ!」

 宙を舞うパッケージ。反射的に、それを取ろうとした……が。
 両手は先の三つのプラモデルを重ねている。両手を差し出したところでそれを、受け止めることは出来ないのだが。
 何とも幸運なことに。落下するボックスは、一度菱華の頭をこつんと角で叩いて一度バウンド。
 そして、そのまま手に持っている重ねられたボックスの、4つ目と落下――――そこで、その動きを止めた。店の床に落下するということはなかった。


「……いたい……」

 菱華にとっては、不幸としか言いようがなかったが。
397藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/26(火)02:14:32 ID:2ZI
>>399


「――あちゃぁ…………」


 ああこりゃ最高に不本意な形で購入コースだなぁ。――彼女がそう思ったのも、束の間のこと。
 不幸な奇跡が重なって、「初号機」のパッケージは無事であった。……ひとりの少女の幼気な痛みを犠牲として。
 やってしまった。額に掌を押し当てて、彼女は天を仰ぐ――のも、やはり束の間。無事であったパッケージを、ひとまずは商品棚に戻す。
 そのままヘッドホンを外し、嘆く少女の(恐らくは)涙声に狼狽えて、当惑と謝罪の綯い交ぜになった表情にて、幼い顔立ちを覗き込むのだった。


「――ゴメン、ぶつけちゃった……? 痛かったよね、うん……」


 恐らくはパッケージの角が打つかったであろう額を、やや戸惑いつつも掌で撫でる。まるきり子供扱いではあったが、然し彼女は歳下と接するのが上手くない。
 ――ふと。その視線が、少女の持っていたキットを捉えた。


「……あ、『IB』。――解ってるなぁ」


 忙しい女だった。少女の頭をさすりつつも、その感性と審美眼に感服する。確かに「Iron-Blood」のプラモデルは、ほとんど投げ売りのように扱われていることも多い。
 だがそれは決して完成度の低さに起因せず、むしろネット上の半ば小馬鹿にしたような無責任な評価が原因でさえある。
 何せ近年ではそもそも、新作か出るたびにバッシングを食らうシリーズである――彼女自身が「IB」に下した評価は、「意欲作」程度のもの。
 ましてモデラーとして見たのであれば、近年稀に見る当たりシリーズ。……買ったはいいが積んでいるのは、それはそれであると言うが。


「重くない? てか重いでしょ。あたしも持つよ」


 有無を言わせぬ恩返しのように、白衣の女は一番上のキットを抱える。その買い物カゴには少女と同じシリーズより、「θθ」の「Exusia」。
 通りがかった商品棚から今度は「AC」シリーズより、「F/A-22B」を掻っ払い――買うとなれば、決断は早いタイプであるらしかった。
398菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/26(火)02:57:03 ID:s3b
>>397

 痛みに目の端に涙を浮かべつつも、手の中に降ってきたパッケージに目を落とす。
 ああ、これは『初号機』……パッケージの角は多少潰れてしまったものの、そもパッケージとは商品を包む包装紙であり梱包材なのだ。
 この程度のダメージであれば特に何かあるわけでもないだろう。少しだけホッとした……犠牲になったプラモデルは無いのだ、と。
 そうしていると……唐突に、額に手が触れる。

「……! あ、あの、いえ、だ、大丈夫です……」

 顔を上げれば、先程まで商品を睨みつけていた……恐らくは年上である女性が、菱華の額を撫でていた。
 確かに彼女からすれば菱華は子供なのかもしれない……が、菱華自身はもう十四歳。そんな風に子供扱いされる歳は過ぎている、と自分では思っていた。
 その為、強がってそう言った。やはり涙声では、あるものの。

「あ。……ふふっ」

 然し、彼女の『IB』シリーズに対する考え方をその一言に垣間見てほんの少しだけそんな良い意味での笑い声を漏らした。
 確かに、『IB』に対しては色々と菱華自身思うところはある。が、少なくとも良いところも沢山あった。
 だから、少なくとも嫌いではない――――ので、そう言われると、自分のことのように嬉しく。

「えっ、あ、そんな。……ありがとう、ございます」

 ひょいと少女の一番上の、一番大きなキットが持ち上げられる。 
 全くそんなことを期待しておらず、面食らいつつも礼を言い――――彼女がカウンターに向かうのであれば、おずおずとその後ろをついていくことだろう。
 時折、何処か不安気に彼女のことを見上げ、然し何か言うわけでもなく。……そして。大会の効果で多くが並ぶレジ待ちの列にて。

「……あの、その……」

「『IB』。……好き、ですか?」

 そして、何処かビクつきながらそう言った。
 菱華にとっては、他人に何かを聞くというのは大冒険である。今しがた会ったばかりの人間に、となればそこに更に倍率がかかる。
 それでも、彼女にそう話しかけたのは、ただ無言のままに居るというのも気まずいというのもあったが。
 『自信を持つ』ということの訓練の一つとして、思い立ったというのが理由の多くであった。
399藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/26(火)20:29:02 ID:2ZI
>>398

 ヘッドホンを外してなおも、白衣の背中が振り向くことはなかった。少女の視線に気づくこともなかった。
 気まま女である。傍若無人でもある。そして堂々とさえしている。微かに曲がった背中は、憂鬱さか鈍感さか。

 ――然しおびえたような声を聞けば、彼女はゆったりと振り向いた。やや丸くしたような目尻は、穏やかさの表れ。


「――ん……ま、嫌いじゃないし、悪くないと思うよ。もうちょっと詰めてほしいと思ったトコはあるけどさ」
「悪評にめげず今後とも頑張って欲しいね、スタッフには」

 その態度に不思議そうな声色で応えつつも、彼女の言葉に偽りはなかった。及第点の作品というのが、彼女の評価。
 なればこそ少女の決心を知る由もない。レジに並ぶ人の列はまだ長かった。今度は彼女の口から、独白のような言葉が続いた。


「面白い作品を作るっていうのは大変だよね。誰にも文句を言われない作品なんて、誰にも作れやしないだろうけどさ」


 あるいは少女の言葉に応じた、彼女なりの話題の継続であったのかもしれない。サブカルチャーに携わるひとりの人間としての見解。
 そして話題は次第に哲学性を帯びる。全て途切れずに長いレジの行列が原因であった。誰に話しかけるでもなく、虚空を見上げて彼女は呟いた。
 

「そういう意味で、考えるとさ。――"面白いプラモデル"って、なんなんだろうね?」


 ――語りたがり。議論好き。スノッブ気味。「蒼天」のファンにありがちではあった。取り合うか、取り合わぬか。
400赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/26(火)22:20:48 ID:TCD

>>394
大きく伸びをする少女は、きっと、自分の格好なんて考えても居ないのだろう。
アイドルと呼ばれるからには視線の意識が染み付いてそうなものだが、少女は例外らしい。
しかし成程偶像足りうるポテンシャルは確かに、なんて呆れた目で眺めていた。

「そうかァ?
 好きにやってるつもりなんだがな。」

似たようなホビー狂いにはあっさりと見抜かれるヒールの仮面は確かに、素の顔と言う訳ではない。

「筋通そうなんて思ってねェよ。アンタ俺を買い被りすぎだ。」

気に喰わない物を気に喰わないと言い続けて、足掻いて、何時の間にか形成されてしまった仮面。
気に入らない、"玩具を愛さない"ような輩は消えてしまえと。おかしな事を言っている自覚はあれど、しかしその衝動を抑えられずに。
中途半端な熱ならば、いずれ冷めゆく恋ならば今すぐに消えてしまえ。
目の前で捨ててしまうぐらいに、折って、壊してしまえばいい。ならば自分が拾ってやれる。不本意な筈のヒールの仮面、手放す気は無くなっていた。

「別に誰彼構わず潰れろとは思っちゃいねェよ。ただの初心者を潰そうと思ったこたない。
何時"こんな"になったか知らんが......悔しがって欲しいんだわ。多分な。
熱はいつ冷めるかわからんが、俺に負けても悔しいって這い上がれるなら。そりゃ折れない奴だろう。」

それは余りにも不器用な選別。長く、出来れば生涯玩具と共に居られるような気狂いを求めて。
一般的な感性で言えば質の悪い存在でしかないだろうが、基本的には初心者を煽る様な事はしない。よっぽど舐めた態度を取らない限りは。

「ま、アンタが何を期待してても俺はこんなもんだ。
駄々捏ねてんだわ。こいつらの命を全うさせられない奴以外、触るんじゃねぇってな。」

ぽん、と。優しい手つきでパーツケースを叩
く。
聞く分には酷く、歪んでいるように思えるだろうか。結局それはデメリットに釣り合わない、どころか狂った思想の産物で。
病気なのだろう。玩具に対して、余りにも感情を込めすぎる病気。
401菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/26(火)22:47:17 ID:evW
>>399

「そっ、そ、そう、ですよね……! 少なくとも、1期は文句なしに面白かったんですから、実力はあったと思うんです!!
 ただ畳み方が雑になったのは本当に残念で……でも、その、私も、嫌いではないです」

 実に嬉しそうに、菱華はそう語るだろう。
 まあともかく会話の第一歩は成立したのであり、菱華にとってはそれでも百点満点であるくらいだった。
 抱える荷物さえ無ければ小さくガッツポーズでも取っているところだった。

「……面白いプラモデル、ですか?」

 “面白いプラモデル”――――どういう意味だろう。
 単純に組み上げる時の構造のことだろうか。『IB』シリーズはフレームに装甲パーツを嵌め込んでいく作業は確かに面白い作りであった。
 然し、旧シリーズのモナカキットを今風に稼働改造するというのも乙である……いや、これはそれとも見る側の話だろうか。
 そうなってくると、話は面倒なことになる――――が、少なくとも、辿り着く答えは何方も同じだ。

「……そういうの、考えるの、無駄じゃないかなって思います。

 ――――あ、いえ、その、別に悪いとかじゃなくって!!」

 無神経極まりない一言であった。
 或いはそれは彼女の思想の否定にすらなるのではないかと、彼女自身危機に思ってそういったのだ。
 別に、その哲学性自体は悪いとは思わない。蒼天ファンの考察は見ていて楽しいものがある。……問題なのは、彼女がそれを向けた先というか。
 
「自分が作って、自分が楽しめたのであれば、それがどんな形であれ……“面白いプラモデル”だと思うんです。
 だから……その、アニメ作品とは違って……プラモデルは、自分が満足するのが一番ですから。

 私は――――そういう、これが絶対、っていう定義は……決められないし、決めるものじゃないと思います」

 ……生意気を言い過ぎただろうか、と思う。 
 肩を縮こませて、段々とその声はか細くなっていった。が、それが菱華の思想である。要は、自己満足できればそれでいい。
 スミ入れだけでも、素組みだけでも、仮組みで満足したって良いじゃないか――――と。
 全く、議論を求める人間からしたら、余りにもつまらない人間だろうが。
402ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/26(火)23:11:18 ID:33m
>>376

確かにニーナは菱華を注意すべき相手と言った。
だが実際のところ、ニーナにはそんなことは関係ない。ニーナにとって勝つことが全てで、負けることは許されない。
その為に育てられた彼女にとって目の前の彼女もただの対戦相手に過ぎないのだ。戦ってただ勝つだけの相手、ただそれだけ。
ニーナは一時の友情や愛情などは抱くことはない。いや、抱いてはいけない。それらは勝利を遠くし感覚を鈍らせる。だからそんなものを持ってはいけないと教えられた、決定付けられたのだから。


『バトル、ですか。申し訳有りませんがマスターは今日は……』

「────いいわよ、バトル。ただし、条件がある」

『マスター…?』

ニーナには一つだけ分からないことがあった。
それはホビーバトルそのものだ。言うなればホビーバトルはただのおもちゃ遊びに過ぎない。
大会などが開かれたと言っても所詮は遊び。それに熱中したり、本気でやろうとする人たちの気持ちがニーナには分からなかった。
ニーナにとってみればホビーバトルは辛いものでしかない。故にそんな考えに至るのも当然といえば当然なのだろう。

「もしもこのバトルに負けたら、これから永遠にバトルをしない……それを条件にするのなら、バトルをする」

だから試す。
バトルなんてするつもりはないけれど、もしもこれで菱華が、菱華のホビーが拒否するのであれば彼女たちにとってホビーバトルとはその程度のもの。そう簡単に結論付けられる。
同時にホビーバトルはそれだけのものだと自分の中でも決着が付く。

だがもしも、もしもだが。
菱華がそのバトルを了承するのであれば、それは──────
403冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/26(火)23:16:36 ID:LKC
>>400

「好きに? アタシには〝軋んでる〟みたいに見えるっすけど。
 これも、本当は良い人であって欲しい、って希望的観測の仕業っすかね?」

自分で自分を茶化すようにケラケラと声を上げつつ、それは本心であるようには見えなかった。
敢えてズケズケと切り込んでいくのは、彼女が人との距離感を測るのが苦手だからという以上に、シンヤに善き人であって欲しいからだ。
ゴシップ的に騒ぎ立てられる壊し屋ではなく、一人の同好の士として。

「――実を言うと、アタシも最初はなずなサンに近い気持ちを抱いていたっす」

だからこそ、笑顔のままこんな話もできるわけで。

「なんで好きでやってるわけでもない子に、こんな才能があるのか。なんでアタシの気持ちはファイトに通じないのか。
 幾らチームメイトで友達だからって、そりゃ悩むっすよね。
 沢山アニメを見せたのも、勝つためというよりはメカに引っかかりを持ってほしかったからで……おっと」

つばきの言葉を遮るように、不意にひとつの機影が作業机の上に飛来し、小さな砂埃と重々しい音を立てて着地した。
影の正体は、翼竜を模した一羽の鋼獣。
テーブルの近くに据え付けられた調整用の小型筐体を見れば、稼働中だったそれが電源オフになっていることが分かるだろう。
どうやらこのやんちゃな闖入者は、さっきまで気ままな一人遊びに興じていたらしい。

「この子がテレビにも出てるククルっす。作業中VRで遊ばせてたんすけど、気になって出てきたみたいっすね。
 よしよし。お空は楽しかったっすか? そりゃよかった……」

つばきのパートナーたるククルのベース機は、『鋼獣創世記アニマキナ』に登場する『アズダルカス』だ。
作中においては古代文明が生み出した鋼獣という設定で、古代人の因子を組み込まれた帝国軍の少女が駆る〝空のライバル機〟として活躍した。
第二~第三クールを通して強敵の存在感を見せ、やがて味方となり、最期は暴走した巨大鋼獣の一撃から身を呈して主人を護る漢ぶりが人気の機体である。

――閑話休題。ククルはそのストイックでクールな機体の印象に反し、まるで小鳥のような仕草を見せる。
翼を軽く開いて首を傾げたり、つばきの手に身体をこすり付けて甘えたり。
それは丹念に仕上げられた塗装やバトルでの損耗を度外視して精緻を極めた造形以上に、印象に残る有様かもしれない。
404赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/26(火)23:49:48 ID:L5o
>>403

「……お前の人が良すぎるだけだなァ、そりゃ
 玩具弄りが上手だけで良い奴、ってんなら俺ァこうならん。
 何時か変なのに騙されるぞ?キナ臭い事件もあったろ。」

少なくともシンヤ自身は自分を良い人なんていえるはずも無い。
後悔等は無いが、やってきたことは褒められないと自覚している。
口から漏れる警告は、それでもどこか自己評価とずれているかもしれない。

冬芽つばきが直接バトルに参加しない理由は、雑誌か何かで読んだ覚えがある。病的なVR酔いだったか。
好きでもなんでも無い癖に、実力だけは持っている。そんな相手が直ぐ身近に居る、自分であれば気が狂いそうな案件である。
そういう所を考えてみれば、少女は強い。自身では恨みの対称にしか出来ないだろう相手に、夢を託せるのだから。

「気休めを言う訳じゃァないが、アンタも間違いなく天才だ。
 あいつの強さの半分はお前だろ。それに……ま、アレだ。アレ。」

それは彼にしては珍しい、気を使った言葉だった。
慣れていないのだろう、頬の色に紅が差し、前髪を指で弄り始める。

「態々、好きになって貰おうとまでしたんだろう。俺と似たような気持ちのクセに。
 ……上手く言葉にならんが、お前も大概ツエーって。」

なんとかなんとか言葉をひねり出そうと悩んで、諦めて、雑に言い放った丁度その時。
事前に雑誌やTVで見ていなければ、野鳥か何かと見まごう程にリアルな乱入者が。

「目の当たりにすると、コエーぐらいだわ。
 懐いたペットみてー……てかそのものって位だな、これ。」

勿論シンヤとてその元ネタとなるアニメを見ていたが、しかしその印象を覆すほどにその造詣、動きがリアル。
呟いた言葉は純粋な賞賛である。これほどの錯覚を見せるAI調整に対しての賞賛であるが―――
405冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/27(水)00:19:42 ID:iyR
>>404

「確かに気をつけるべきっすね。アタシだけの身体じゃないし。
 ――って、赤鉄サンやっぱ良い人っぽいじゃないっすか~! やだな~もう!」

舌の根も乾かぬうちに、つばきは自分のことを心配してくれたシンヤにヘラヘラと笑いかけた。
とは言え、注意が必要なのは事実だ。彼女の身に何かあれば、それは事実上なずなのWHBT退場をも意味する。
ことホビーファイトにおいては、二人は間違いなくお互いの半身と言えた。

「エヘヘ。そりゃ嫌いや無関心より好きなほうが楽しいっすから。
 実際あながち無駄でもなかったっすよ。なずなサン、話は食い入るように見てますし。
 ただ――副作用っていうんすかね。上手く組めなくて素材を殺しちゃうのが、怖いみたいで」

つばきにとって〝壊し屋〟としてのシンヤは、〝敵が同じなので味方〟という位置づけだ。
騒ぎ立てられることに辟易しているだろう彼なら、こういう事情を話しても口が固かろう、と。
今までずっと笑顔だったつばきだが、なずなが組み立ての方面を向いてくれないことについては、若干寂しげに目元を伏せていた。

「……、あー、えぇっと」

そしてククルの真に迫った挙動を賞賛されると、つばきは珍しくしどろもどろになって。

「まあー、長い付き合いっすからね。それこそ『ぷりず』のみんなよりも。
 この子と一緒に飛んであげられないのは残念っすけど、その分、言いたいことを言えるようにしてあげたかったんっす」

「そういえば、赤鉄サンの子って『戦姫』っすよね。
 あれってわざとなんすか? それとも――手をつくしても〝ダメだった〟……とか?」

相当思い入れがあるだろう相棒の話を短く切り上げ、シンヤの相棒に話を移そうとするだろう。
戦姫から言葉を奪うなんて、と非難する(コナユキは試合のあと、ボロクソに言っていた)者も居る、『あの』処置。
けれどつばきには、やはりそれが悪意や八つ当たりによるものとは思えないらしかった。
406菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/27(水)00:22:28 ID:sMx
>>402

「は? やだけど」

「流石にそれは……」

 当然、その問いかけには難色を示して当然だった。
 ――――それにしても、特にアイゼルネスの返答は非常に早いものであった。最早即答と言っても過言ではないだろう。
 しかも表情もまた失礼極まるものであり。「何言ってんだこいつ」という表情を、全くと言っていいほど隠す気が無かった。
 俗な言葉遣いでそれを現すのであれば、『ドン引き』であった。……菱華の方は、もう少しまともな表情をしているのであるが。
 アイゼルネスを諌めない辺りに、彼女がどう思っているかは無意識のうちに現れているだろう。

「なんでそんなメリットの欠片も無い条件飲んでバトルしなきゃなんないのさ……そういうもんじゃないでしょ、バトルって」

 饒舌なのはアイゼルネスの方であった。
 頭の後ろで手を組みながら、彼女は菱華の下へとテクテクと歩き出す。
 ――――まるで、最早興味はないと、或いは、寧ろ其処には、微かな怒気すらも見られるくらいの。そんな態度だった。

「そんなバトル、全く楽しくないじゃん。『負けたら一生バトルできない』なんてバカみたいな条件背負いながら戦って。
 ていうか――――誰が私のバトルを制限できるっていうのさ!! 私のバトルは、私達のものだし。
 好きにバトルして、好きに勝って、好きに負けて、好きに楽しむ。それがホビーバトルだし。

 ――――なんか勘違いしてない? ホビーバトルって、遊びだよ?」

 そしてくるりと背を向けて、実に呆れ果てた、と言った表情で。
 菱華自身は止めなければ、と思っている。思っているが、同時にアイゼルネスの言葉を否定しきれないが故に……それは。
 言葉も態度も強いものであるが。言うなれば、彼女の代弁ですらあるのだ。故に――――遮れない。遮ることが、出来ない。

「あ、アイちゃあん……」

 酷く困った表情で、そう絞り出すのが精一杯だった。当のアイゼルネスには、欠片の静止にもなっていないのだが。
407赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/27(水)00:45:00 ID:HvR
>>405
笑いかけられる、と言う経験がそもそも少ない。へらへらと笑みを絶やさないつばきの相手は色々と慣れない経験である。

「気ィつけるきねェだろテメェ……」

特にこんな、気の抜ける相手は中々居ない。本当に。

隣に有名モデラーが居れば中々自分で、と思いにくいかもしれない。二人は互いに親友で、そしてライバル同士とも言えるか。
ある意味では似たもの同士なのかもしれない。少し、背負うものが大きいけれど。

「―――なんなら組まなきゃならん状況にしてやりゃいいさ。一発踏み込めば吹っ切れるだろ。
 リベンジマッチはその辺重点的に煽ってやっかァ?」

なんて、冗談っぽく。そこは二人の問題で、自分の踏み込める領域でもないだろう。
だからほんの少しだけ、記憶に残る程度の言い方で。
そしてこうやって冗談を言えるということは、赤鉄シンヤの悪感情は幾らか払拭されても居た。
あのホビー暴走の日の彼女は、少なくともあの戦いよりは本気の顔に見えたから。

言葉を詰まらせる事の無かったつばきがしどろもどろ。それは付き合いの深い人物であれば確かな違和感であったかもしれない。
しかし所詮はこの日に会った二人。追求する事も無く、シンヤは受け流してしまう。

「……ってこたァ何年前にこのレベルの造形を?
 回答次第じゃ、アンタ天才超えて化け物かもな。」

長い付き合い、というのをそういう風に受け取って。

「……コイツは拾った時からこうだ。
 旧式だからな。元々ンな高度なAI搭載してねーのか、失われたのかもわかんねェ。
 色々やってみたがシステムボイスしか聞けん。ま、それでも可愛いモンだ。」

すべての動機はホビーへの愛、であれば。当然そんな処置をするはずも無い。
"ジャンク"を構成するのはすべて嘗て捨てられた廃品であり、単純に旧いか壊れたかもわからない。
ただ、シンヤ自体はその事を気にしていないようだった。言葉を話そうが話すまいが、相棒に変わりは無く。
408冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/27(水)01:17:08 ID:iyR
>>407

「ややっ、躯体は年を追ってブラッシュアップしてるっすよ。
 最初からこうだったわけないじゃないっすか。アタシは、ククルと育ってきたっす」

にへらっとした無責任な笑みを、作る。
つばきは演じることには慣れている――ただ、シンヤの言葉には静かに胸を抉るものがあった。

 化け物――確かにそうだ。かつて衝動のままに〝それ〟を成し遂げて、アタシは自分を恐れた。
 その恐怖から目を背け、自分ではない誰かになりたいと思ったから、演じることを生きることにしたいと思った。
 逃げるように求めた世界で、掛け替えのない仲間や趣味を同じくする友人を得られた、けれど。
 この胸に鎮めた忌まわしい罪とは、きっと永遠にさよなら出来ない。

「……あぁ、やっぱり。有る事無い事言われてるんで、気になってたんすけどね。
 それ、幾らでも美談にできる……というか、美談じゃないすか。ほんと、生きづらそうな人っすよ」

ちゃんと説明すれば10人中9人は絶賛してくれそうな話を、敢えて今まで公表せずにいるシンヤ。
今更ベイビィ・フェイスには戻れないということなのかもしれないが、何というか、悲愴だ。
とは言え、戻れないのはつばきに言えたことでもない。――誰も彼もしがらみの中で、藻掻き続けている。
409赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/27(水)01:50:52 ID:Gzw
「あ、あァ......流石にそうか」

考えてみれば当然の事ではある。常にアップグレードを果たすのがホビーであるのだから。
ただ、それでもと思ってしまう実力を彼女は持っていた。

「......美談?美談か?」

きょとんと疑問符を浮かべる。本当に、どこが美談かをわかっていないのだ。

「好きならこんなモンだろう。どいつもこいつも。」

きっと、彼は基準が高すぎるのだ。愛が深すぎて、それを誰にでも期待してしまう。
生き辛いといえばその通りだろう。難儀な性格なのだ。

にへらと浮かべた少女の笑みに小さな違和感。
演じ作った笑顔にはどうしても力が入る。つい先程まで抜けきった笑顔を見せつけられていれば尚更だ。
荒っぽい口調は生来のもので、ホメたつもりの化物がこうも抉るなんて思わない。
ただ、その小さな違和感は無視できなくって。

「......そうだな、次はリベンジマッチが終わったら会おうや。
 今日の事はお互いに他言無用、ってな。悪役のまま倒した方が気持ちいいだろ。」

さり際にまた、と。もう一度会えるように約束を。
感じた不安のとおりに──────この笑顔が最後のならないように。
410赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/27(水)02:15:12 ID:Gzw
>>408
>>409
//安価付け忘れてました......
411冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/27(水)02:24:52 ID:iyR
>>409

「……ほんっと、数寄者っすねえ。お互い様っすけど」

今度は演技ではない、優しい苦笑をつばきは咲かせた。

いと高き理想を描き、しかしそれを理想(ゆめ)とは思わない男を、つばきは嫌いにはなりきれない。
彼女自身、同じなのだ。おぞましい秘密と、勝利の栄誉から遠ざかる呪いを抱えていてもなお。
逃げる場所ではなく、自分を肯定し、他者とつながる領域としてのホビーを心の底から愛していた。

「アタシはホビーにはいろんな楽しみ方があっていいと思うっす。
 浅瀬でチャプチャプでも、深みにドップリでも。作るのでも、戦うのでも、一緒に生きるのでも」

「あー、これ以上は野暮っすかね。続きはバトルおねえさんにでも聞いてくださいな。
 赤鉄サンとは全く見ている方向が違うっすけど――あの子だって、今は前を向いてるはずなんで」

そしてリベンジマッチの話が切り出されれば、ニヤリ、と不敵に歪んだ口元がシンヤに向けられて。

「エヘヘヘっ、わかってるっすよ。なずなサンは人情に脆いっすからね。
 あ、何も教えないとまたコナユキが凄いこと言い始めると思うんすけど、許してほしいっす」

思えばククル同様に、コナユキも感情表現が極めて豊かだ。ともすれば放送コードが危ういくらいに。
これもまた、「言いたいことを言えるように」というつばきの思想によるものなのだろうか。

「それじゃまた。クククッ……祝杯、奢ってもらうっすよ」

アイドルとしてはまずい笑い声から冗談を繰り出して、つばきはシンヤの背を見送るだろう。
全てが片付いた時、親友にネタバラシをする瞬間を想像しながら。――その時が来るかすら、わからないというのに。
412東雲真鶴 ◆0SuLG0jdAEYi :2017/09/27(水)22:57:12 ID:X0P
>>393
完敗、と言って良かっただろう。
わずか2つばかりの手の内しか見せられず、あまつさえ最後の一撃は見せつけられた手札だけで往なされてしまったのだから。
拳が飛ぶことも、腕が延びることも。あの吶喊の前には知っていたはずなのに。
それらがもたらすだろう結果を想定し得なかった、これは真鶴の過失だ。

「日向なにがしとやら、一廉の選手なのであろうな。
願わくばこの試合を勝ち残って...」

悔し紛れの独り言を、少し前に聞いたようなアラートが遮る。
そして電工掲示板の表記を見て、未だ起動していたコントローラーの液晶画面をみて。何とも言えない表情で肩を竦めた。



「すまないな、陽萬。どうやらお前の半身は少しばかり損傷が大きいらしい...」

高質量の一撃を受けた後ろ足は、ひしゃげてしまって動かない。
そんな様子でぐでっと頭を投げ出すように俯せになった鳥獣を撫でながら、屋台も並ぶ広場を歩く。

「ふーふふー、ふーふふーっ」

試合の中で流されてすっかり脳裏にこべりついた、どこぞの製作所の社歌を口ずさみながら。
413藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/28(木)00:06:05 ID:qGW
>>401


     「――……ふむん」

 女は、結論を焦らなかった。
 鷹揚な頷き。仮に少女が本当に害意を持った言葉を投げかけたのだとしても、彼女は落ち着いて聞き遂げていたことだろう。
 少しずつ弱くなる語調など、やはり彼女は知ったことではなかった。暫し虚空を睨んで、ひとり思索を巡らせてから、ゆっくりと唇を開く。

  「なるほど。ならば矢張り、或る種アニメと同じよ。言った通り、みんなが『面白い』と言ってくれる作品なんてない」
  「だったらそれはプラモデルも変わらない。自分の感性を信じて、多くの人に『面白い』と言ってもらえるだろうモノを……」



 ――言い続けようとする中で、彼女はふたたたび口を噤んだ。組み立てたロジックをみずから打ち崩して、新しい答えを求めようとする。


    「……違うな。そもそも、他人の評価なんて気にしなくってもいい。そう言いたいのね、貴女は?」
    「プラモデルはその未完成性ゆえに、購入した個々人との関わりによって、それぞれに違う『物語』を提供する」
    「なればこそ根底にあるのは自己の創造意欲であり、純粋にモノを作ろうとする心構えである……」


 そうして結局、また女は考え込むのである。そこに害意はなけれど、やはり傍若無人であり、ともすれば不機嫌さの発露にさえ見えてしまうかもしれない。
 だが彼女は単に、真理を追い求めたいだけなのだ。迷える己を導く規則を手にしたい、その一心に他ならないのだ。
 ――暫しの沈黙の後、ようやく彼女は少女のことを思い出したようだった。孤独な思索を律して、穏やかな感謝の微笑みを投げかける。


「いや、勉強になったわ。――ホビーの『可能性』というのを、また考え直す良い刺激になった。ありがとう」
「変なことを聞いて御免なさいね。本戦向けの最終調整をしているうちに、行き詰まってしまっていて」

「若し貴女さえよかったら、後でひとつバトルでもしていかない? 現時点での完成度、確認しておきたいの」

 躊躇わない提案をひとつ。――レジに向かう人の列。その半ばほどまでに、彼女たちは来ていた。
414菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/28(木)02:27:43 ID:Vxc
>>413
「……えっと、その、……はい、そうだと思います……?」

 そこまで難しく考えるものでもないのに――――と思いながら、恐らくは彼女の言っていることはあまり自分の言っていることから外れていないだろうと。
 いや、自信はないのだが、多分そうだろうと。疑問符は消しきれなかったものの、彼女の言葉へとそう肯定の言葉を返すだろう。
 然し、何故そんなに考え込むのかがわからないのだ――――結局プラモデルは自分が楽しむものなのだということなだけなのに。
 分からないのはこの人のほうだ――――と思いながら。

「えっ、いえ、その、私で良ければ……

「――――ばとる!?」

「……あっ、アイちゃん、 変なところ触らないでぇ~!!」

 ……方角、声の出処は間違いなく菱華から――――然して、菱華とは全く違う声色が聞こえてくることだろう。
 ごそごそとそれなりの大きさの何かが、菱華のジャケットやワンピースを内側から押し返しつつ、昇っていく。 
 そしてそれが動く度に、擽ったそうに菱華は身体をうねうねと動かす――――両手に持っているプラモデル達を、なんとか落とさないようにと頑張りながら。
 

「――――するの、バトル!? したいしたい、バトルしたい!!」


 そうしてようやく胸元からひょっこりと現れたのは、その蒼い瞳をキラキラと輝かせた“戦姫”。
 先程まで、自身とは関係無い仕事としてつまらなさそうにスリープモードに入ってジャケットの内側のケースに入っていた菱華の相棒、アイゼルネスだった。
 バトル、と聞いて居ても立ってもいられず、スリープモードを解除して菱華の身体を這い上がってやってきたのである。
 菱華にとってはとんだ災難であったが。

「……はい、アイちゃん……私の戦姫もこう言っているので。私で良ければ、お相手しますね。
 ほらアイちゃん、ちゃんと外出て……恥ずかしいよ……」

「やったヤッター!バトルだー!」
 
 菱華がそう言うと、箱の上に菱華が持つ箱の上へとアイゼルネスは実に嬉しそうにはしゃぎながら転がり落ちる。
 そして箱の上を舞台として二回、三回スキップをした後、ひょいっとその肩の上に飛び乗った。
415藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/28(木)22:48:31 ID:qGW
>>414

 不意な声音に女は目を丸くした。くぐもって服越しに響く喜びの声は何者であったかを、彼女は暫し後に理解した。
 胸元から這い出、ご機嫌な動きで箱上に飛び移った戦姫を、白衣の女はまじまじと見つめる。


「……あら、アイゼルネス? 趣味合いそうね。あたしも好き」
「ありがちな高性能試作機って所から更に踏み込んだ、ハイエンド量産型――って設定、惚れ込むわ」


 そうして穏やかに笑う。されど声色ばかりは、ややもすれば微かな情熱が篭っていた。少しだけ、語らせてほしいような顔をしていた。
 彼女が好むのは、何も「碧天」シリーズだけではない。工学系美大生という奇異な経歴を持つ彼女にとって、あらゆるSFは嗜好の対象であった。
 例え、それが商業向きのスペースオペラであったとしても。創作に貴賎を持ち込まないのが、ひとつ彼女の主義であった。


「それに、対話インタフェースも積んでるのね。既製品のAI――では、ないな。……うん」
「会計済ませたら、向こうでやりましょうか? 丁度空いてるみたいだし、ね」


 両手の塞がる彼女は、やや仕方なしに店の隅に設けられた真新しい筐体群を顎で差す。そうしている間にも、列は進む。
 少女と共に会計を手早く済ませて、パッケージを詰めたビニールバッグを片手に引っ掛け、やや急く足でバトルスペースへと向かうだろう。
416菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/29(金)00:38:04 ID:UVU
>>415
「そ、そうなんです、アイゼルネス、好きです……!
 量産機であっても単純なグレードダウン、ローコスト化機体じゃなくて、運動性能は劣るけどその他の点においては寧ろ洗練されていて……!
 高火力高性能化のインフレーションを起こしていたあの時代の中で生みだされた中でも、頭一つ抜けているくらいなところとか!
 すごく、すごく好きなんです……!!」

「えっ、いや~そんな風に言われたら照れちゃうなぁ……」

 アイゼルネスについて、ほんの少しだけ踏み込んだ彼女に――――ぴこん、と帽子の上のリボンが揺れた。 
 実に嬉しそうに楽しそうに、蓮見菱華はアイゼルネスについて、ほんの少しだけとは言え、そうして言葉を連ねていった。
 ――――菱華もまた、多くの“オタク”たちと根本的な性質において代わりはないのだ。
 年齢は彼女とは大きく離れているものの。こと、好き作品においては、正しく“語りたがり”、であり。

「はい、アイちゃんは――――」

「私のAIは菱華の愛の結晶だよ!! だから私は最強なんだ!」

「ちょ、言い過ぎだって……」

 アイゼルネスのAIは際限しようがないものである――――成長型の、真っさらなものから、菱華の隣で様々なものを吸収して完成したものなのだから。
 だから、アイゼルネスはそれを誇りに思い、愛の結晶だと声高に掲げるのだ――――故に、だからこそ、自身は最強だという無尽蔵の自信にすら。
 会計を済ませて、早足の彼女へと急いでついていく。肩の上では、アイゼルネスが器用に準備運動をしていた。

「実は、アイちゃんもつい最近調整を終えたばかりなんです……だから、私達も試運転に付き合って貰う形になっちゃうんですけど」

「だからって、お互い遠慮しなくていいからね! よーし、バトルだバトルだ!

 ――――エントリー!!」

 戦闘用の装甲を纏ったアイゼルネスが、バトルスペースへと舞い降りた。
 準備は万端、待ちきれないとばかりに。今回のフィールドが展開されるのを、今か今かと待ち構えていた。
417藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/29(金)01:46:30 ID:0ie
>>416

 愛情と熱意に溢れた少女だった。白衣の女は決してその感情を否定することはなく、鷹揚かつ力強く頷いて応えた。
 驚くべきはアイゼルネスでもある。人間を癒す人工知能、人間を励ます人工知能は数多とあれど、人間を引き摺りさえもする人工知能は奇矯だ。
 少女の秘めたる情熱を受け取って、かの戦姫はここまで強烈な人格性を得たのであろう。
 ――それほどまでに衝撃ある感性を、今の己れは有しているだろうか。微かにその横顔に、憂いある微笑みが差した。

 だがそれも一時のこと。この競技を誘ったのは己れである。なれば、今ばかりは迷っていられない。


「全然平気。――その分だと、武装の方までカスタムしてあるんでしょう? むしろ気になるくらい。
 自己学習AIとのシナジーがどんなものなのか、期待できそうだしね」


 果たしてホビーに準備運動など必要なのだろうかという思考を一先ず彼女は横に置き、小脇に抱えるトートバッグに手を差し入れた。
 差し当たって自前のアーケードコントローラを取り出せば、USBで筐体に接続。個人用のテストモードを起動し、メンテナンス具合の確認。
 ジョイスティック・エイミングマウス・各種ボタンの反応を試す。ややマウス感度が鈍感。閾値を100から120まで引き上げて、――問題なし。


「そういや名乗ってなかったわね。あたしは篠見。藤原篠見。そんで、こいつが――」


 もう一度、彼女――篠見は、バッグの中に手を入れる。取り出されるのは、無骨な黒いツールボックス。
 白い指が外縁のトリガーを押し込む。――ボックス内に仕込まれたカタパルトが、内蔵された「その機体」を上方に射出する。
 オート化されたランディングプログラムはスタンバイ・ポジションとの高低差を瞬時に計算し、バランサーと脚部駆動モーターを連携させた機体制御を狂いなく実行。
 バトルフィールドに、悠然と立つ青白い機体。強靭かつ流麗な流線型の装甲に、角と複眼を持つ悪鬼のような顔貌。威風堂々とその背に負うは、規格外のエネルギー・シリンダー。
 

「あたしの、相棒。86式『武鷲』よ。」
「エントリー完了。――さ、始めましょうか?」


 「86式」。モデラーの世界では名の知れた、「魔改造向け量産機」。決して総合性能には優れず、拡張性を第一義の武器とする機体である。
 ジョイスティックを軽く弾けば、選択されたのはランダムステージ。己にとって有利なフィールドで戦うつもりはないという、彼女なりの矜持。
 乱数が選択したのは、「メガフロート」。海上となるステージに点在する足場と、中央部を走る高速道路を重ねた攻防が激しきステージ。
 筐体がVRフィールドを展開し、夕暮れに染まる海上都市が作り上げられたのならば、2体は高速道路上にて相対することになる。

 ――バトルスタートまで、3秒前。「武鷲」の青い複眼が、睨め付ける用に輝いた。
418菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/29(金)02:26:50 ID:UVU
>>417
 ――――やるならば、全力で。気になるくらい、などと言われてしまえばより一層気は引き締まる。
 頑張らなければ――――相手を満足させるくらいに、全力で。そして、今回は、勝ってしまえるくらいに、と。
 相手の機体は――――『闘機』。改造作例についてはかなりの数を見る、最早モデラーの中では改造を前提として見られているくらいの機体だ。
 そして、その拡張性があるが故に相手は未知数。そして、それを出してくるということは……少なくとも、モデラーとして、かなりの腕だと言っているようなもの。

「そ、そうだった……はい、篠見さん。私は……菱華、蓮見菱華です」

「私は……まあ、いらないよねー。じゃあ、よろしくね、ハチロク――――」

 カウントダウンが流れる――――視覚補助用のバイザーがアイゼルネスの目元を多い、モノアイに光が灯り蒼く輝いた。
 ステージは海上都市。高速道路と乱立するビル群達が足場となる場所……アイゼルネスには海中装備は無ければ、海上走行を得意とするわけでもない。
 ならば足場の把握が重要だ……接続したタブレット型のデバイスを何度かタップし、マップデータを開くと、アイゼルネスへとそれを送信する。
 それに合わせて、アイゼルネスが楽しそうに笑い――――

「――――ゴー!!」

 バトルスタートと同時に、左腕部に装着されたブースター・シールドを起動する。
 このアイゼルネスの前身となった機体、『ヴァルケン』が外伝漫画にて死闘を繰り広げた機体『クライング・イオタ』を参考に設計。
 従来のシールドにビーム・コーティングを施し、補助ジェネレーターを搭載することによる機体の急制動を可能とした装備であり。
 それは、バトル開始と同時にお互いの距離を即座に埋めるのに、余りあるほどの加速力を見せつけ。


「先手必勝!! ――――先ずはこいつの性能からだ!!」


 そして、そのままシールドの先端を『武鷲』の胴体部へと叩きつけんとするだろう――――そして、その瞬間に。
 先端部に搭載された、至近距離においての使用によって最も効果を発揮する、謂わばビーム・ショットガンとでも言うべきか。
 それを早速、極至近にて炸裂させることだろう。
 目元はバイザーによって覆い隠されているが――――それは正しく光り輝いていることだろう。口元は、満面の笑みに裂けるように。


「……背部のブレードに、巨大な背中のは多分出力のための砲……サテライト・キャノンに近い高出力砲かな。
 見たところそれ以外の射撃武器は盾に集中しているように見える。
 実体剣も持っているけど、あれだけの巨大な武器を持つならアイちゃんの方が格闘戦は得意なはず……だから、この最初の一手は、多分正しいはず」

 
 正しく、バトルにのめり込んでいると言うべきか……対象の武装からの得意レンジの考察、それに伴った戦術の構築とバトルの展開方法。
 表情は至って真面目そのものである。アイゼルネス程に分かりやすくはない、ないがが……やはり、バトルを『楽しんでいた』。
419藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/29(金)03:01:34 ID:0ie
>>418

 バトルの開始を告げるアラートが鳴り響く。――開幕転瞬、攻めるは戦姫。ブースターが大気を灼き、装甲纏う躯体を跳ばす。
 バイザーが宿すのは夕陽照る残光か戦意あふるる野性の眼光か。左腕部の装甲盾兼補助推力機は、一瞬にして彼我の距離を詰めた。
 されど其の瞬間、篠見は既に動いていた。反射じみた動きでスティックを弾き、右横方向に全推力を最大出力で集中。
 シールドの打突を限界まで引き付けて躱し、続く散弾ビーム砲の乱撃は、左腕装備の射撃盾を掠める程度に留めさせる。
 眼鏡に似せたウェアラブル・デバイスは、目まぐるしく変動する数値系を映していた。この回避機動でコンデンサ電力の過半を消費した以上、光学兵装の使用には困難がある。



「――上等。いい動きじゃない、貴女」



 自然と唇が緩んだことを、篠見は感じていた。まただ。歓喜している。この身体は。心血を燃やすような至高の緊張と、報酬系の過剰駆動。
 それはまだ燃え始めたばかりの種火でしかなかったが、然し彼女は知っていた。この感覚は、止まらない。
 デバイスから視認した情報から、刹那の内に幾つかのシミュレーションを組み上げる。ここからの勝ち筋。どう戦うかの道筋。


(主推力機の立ち上がりは互角だけど、ノビが違うか……ちょっとでも直線機動を取ると、ドバッと差が詰められる)
(判定勝ち狙いのガン逃げもできそうにない。――射撃戦で上手くやるしかなさそうだね)


「あたしも、遠慮せず行くよ。大破全損、恨みっこ無し――だかんねッ!!」


 そうして彼女は決断した。
 先程の回避機動にて空中に跳んだハチロク。スティックを弾き、ボタンからショートカットを入力。メインブースターの出力はそのままに、ベクトルだけを偏向させる。
 両肩から噴き出る蒼い噴射炎は燃え盛る翼にも似ていた。空中で機体を旋回させつつ、サイドブースターの推力を不規則に引き上げて、左右にぶれつつも後退する機動を取る。
 海上の空中に誘い込むような動き。同時に左腕部の安全装置を解除し、シールド内蔵のガトリングガンと空対地ミサイルを撃発する。
 狙っているのは半ばアイゼルネスであり、半ばその足場であった。安直な回避はさせない乱撃に、誘導弾の打撃を織り込む。まだ、彼女の動きは「堅実」であった。
420菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/29(金)21:07:33 ID:DK9
>>419
 アナログパッドによるマニュアル操作とは今時珍しい――――今ではAI制御の戦姫は兎も角、もっと直感的なインターフェースを使うのが主流だ。
 然しそれを使うだけの自信と、腕前は感じられる――――ブースター・シールドによる猛攻をほぼ無傷に抑えられるとは両者ともに思っていなかった。
 ブースター・シールドの出力のままにそのまま立ち止まること無く抜けて……能動的質量移動による姿勢制御を以て、身体を更に反転。
 
「おっと――――海の方にはあんまり出たくないなぁ!!」

「ミサイルは私が落とすよ、アイちゃんはガトリングと足場に気をつけて!」

「了解!」

 高速道路上をバック・ブースターを噴射しながらの疾走――――そしてシールドを構えつつ、背部有線制御支援火器を展開する。
 展開されたインコム――――菱華の左右前方に二つのバーチャル・モニターが展開されると、操作の比重はそちら側へと移行する。
 ミサイルの進行方向と速度を感覚で計算し、その進行方向に置いていく形でビームを撃つ。それはアイゼルネスに辿り着くこと無く中途で炸裂させる。
 足場である高速道路が破壊されるのは少々もったいないが、そこまで対応している程処理能力に余裕はなく、甘んじてそれは受ける、が。

「セオリーに忠実に――――そっちこそ、悪くない動きだ、けどォ!」

 ガトリングの掃射を後退によって回避しつつ、ブースター・シールドによって回避しそこねた部分を回避する。
 背部ミサイル・ランチャーを展開、垂直に放たれた六連ミサイル、合計十二発が『武鷲』へと殺到していくことだろう。
 そして、その合間を縫ってビーム・ライフルを放つ――――黄金の光条が、その片翼を撃ち貫かんと放たれるだろう。
 ――――肩部サブマニピュレーターが左前腕部に装着されたブースター・シールドを取り外し、そして固定する。

「だからこそ! 与し易し!!」

 左腕を前方に突き出すと――――前腕ごと、切り離され飛翔する。
 この機体がアイゼルネスであることに気付いていた以上、この武装が搭載されていることは予測できていただろう……で、あるがゆえに。
 ただまともに使っても予測されて切断されるだけだと見て……多くの攻撃の、対応に追われた直後にそれを放つことにより“不意を突く”ことを狙った。
 それは彼女の機体へと向かい……その、片足に掴みかからんとするだろう。


「そっちが! こっちに! 来ォい!!!」


 そして、そこで足を止めて、無理矢理その機体を引き摺り下ろしてやらんと力任せに“引き寄せようとする”だろう。
 無論、ご丁寧に右腕に握ったビーム・ライフルは再度そのメインブースターに狙いを定めて、引き金を引きながら。
421藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/30(土)00:44:58 ID:has
>>420


(インコムの起動も、射撃も上手い。少し優勢を取れたとしても、手は抜けない。)


 シールド内蔵のハンドミサイルが3本の軌道に白煙を残す。然しアイゼルネスから展開された援護射撃システムの射撃によりその全てが迎撃された。
 粒子砲の残光が夕焼けを焦がし、届かぬ砲火の爆炎が広がる。連装ガトリングガンによる牽制射撃も決定打にはならず、かの脚元を砕くに終わる。
 放たれるビームライフルを後退射撃で躱しながら、VLSの集中連射にはガトリングガンの砲角度を調整、可能な限り発射直後に撃墜。
 ――撃ち漏らしが、2発ほど。その旋回半径に入り込み、噴進に対する誘導を間に合わなくさせるのが、ミサイル回避のセオリー。
 頭上から飛来するVLS相手では行い難いマニューバである。故に彼女は攻撃の手を止めた。エイミング用のマウスを奥に押して、機体カメラを上方へと向けようとした――その、瞬間。


「しま、っ――――――。」


 ――鳴り響くアラート。バランサー系統に異常発生。左脚部に駆動障害。ロックオン警告がけたたましくも、既に打つ手はない。
 無論のこと藤原もまた、アイゼルネスの武装構成から、その攻撃手段を理解してはいた。だが、反応と対処が遅れた。
 ブースター推力を最大まで引き上げつつも、地に足を付けたアイゼルネスの安定性能とでは勝負にならない。――放たれるビームライフルが、機体肩部を抉った。


「ッッ、メインブースターがイカれたか……!!」


 片背に負いし青い炎が弾け飛び、黒煙を吹く。右肩推力装置の急激な出力低下。幾度か始動トリガーを引くも、虚しく燃えるのは短絡。
 直ぐ様供給系統を遮断して修復スクリプトを立ち上げ、推進プログラムを再補正のち最適化。損傷後の機体推重比、0.862。
 それは即ち、自力での浮上飛行が不可能であるということを、これ以上は機体を「飛ばせない」ということを示していた。――そして、なおも掴まれたままの左脚。


「そっちがッ! その気ならッッ!!」


 なれば取るのは一つの方策のみ。
 再び全スラスター推力全開。方位290/360。内装熱量がレッドゾーンまで噴き上がる。青い片翼が、空を染める。その方角は、アイゼルネスへと。
 同時にスティックを押し込み、ガトリングシールドを爆砕ボルトにて離断。左腰のバスタード・ブレードを引き抜きつつ、右手をバックウェポンに伸ばす。
 引き出されるのはビーム・マグナム。片脚を突き出したドロップキックの体勢による急速な接近と共に、「武鷲」はそれを乱射する。

 落下姿勢でパワーダイブを図りながら、急速に接近する藤原の機体。再び彼我の距離が失われ、ふたつの機体が交錯しようとする瞬間――
 「武鷲」の脚部に装着された姿勢保持用アンカーが、蹴撃と共に起動する。本来であれば接地静止時の安定を図って用いられるそれは、アイゼルネスの胴体を撃ち抜かんと迫るだろう。
422菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/30(土)22:02:11 ID:4Co
>>421

 そのままそこらに叩きつけて見せるか、水中に叩き込むか、それとも串刺しにしてみるかと考えてはいたものの。
 やはりそう都合よく行くものではないだろう。そしてだからこそ、アイゼルネスが好きなバトルなのであり。
 背部メインブースターを破損させたのは良い戦果である。空中戦闘能力は存在しないアイゼルネスにとっては、その優位を削げただけでも十二分。

「おっと、来るか上等!!」

 左腕を「武鷲」の脚から外し帰還させる。再接続とともに左腕部シールドをオンライン。
 恐らくは、近中距離での機動戦闘に移行する手段を取ったのだろう。その両手には先とは打って変わって武器を握り締めて此方へと猛烈に迫る。
 ばら撒かれるビーム・マグナムによる攻撃――――ブースター・シールドによって一撃を防御すれば、或いはそれを以て態勢を崩されかねないほどの衝撃。
 その一撃を以て、着弾地点のビーム・コーティングが引き剥がされるほどであり、即座に回避する方向へと対処方針をスイッチさせていく。

「アイちゃん、脚!!」

「――――あぶなっ!!!」

 穴だらけになっていく高速道路と、降り注ぐ粒子の乱射への対応に集中し続けていることによって、本体への警戒は半ばだったとでも言うべきか。
 全力のスラスター推力と、近接攻撃武装と化した蹴撃……のみであれば、まだ自身の装甲ならば耐えられる自信があったのだが。
 脚部アンカーの杭打機じみた運用方法に気付いたのはその直前――――咄嗟に、ブースター・シールドを前方に突き出した。
 その先端にアンカー・ボルトが叩き込まれ、その部分から盾全体へと罅が入っていく。すでに盾としての機能を失ったブースター・シールドの補助ジェネレーターを停止。


「アンタにはぁ、水底がお似合いだ!!」


 そしてスラスターの急速起動によって前方方向への速度を作りつつ、一歩前へと踏み出す。そして右手を握り締めて硬く拳を作り込み。
 そのまま、『武鷲』の頭部を思い切り殴りつけようとするだろう――――本来ならば近接戦闘であれば、ビーム・サーベルを使えれば一番良かったが。
 これだけのショートレンジ、下手をすればその動作すら時間の無駄、決定的な隙になる――――と、判断したが故にであり。
 目的は……頭部に対する衝撃によるセンサー類の打撃と、その衝撃のよって高速道路から、水中へと叩き込んでしまうことであり。


「――――まだだ! 菱華ぁ!!」

「うん、アイちゃん!! 当たれぇ!!」


 そして、菱華が叫ぶのに合わせて脚部装甲を展開。
 跳ね出すビーム・サーベルのグリップを左手が握り締め、更にそれが切断されて有線誘導によって、『武鷲』を追いかける形で迫っていき。
 その胴体部分をすれ違いざまに斬りつけて、寸断しようという――――その機動自体は、単純だが。
 然し、実に特異な動きではあった。有線制御式の遠隔攻撃装置を複数兼ね備えた、アイゼルネスならではの連撃を以て一気に攻めきってしまおうと。

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