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ここだけホビーバトル大会 その1

1o7SK7L7zxJvm:2017/09/01(金)21:17:47 ID:ZyY()
時は現代より少しだけ近未来、世界を熱狂させるホビーバトルの世界大会が今年も開催されようとしていました。
そしてあなたは大会が開催されるこの地へと訪れました。かけがえのないパートナーと共に、この大会で優勝する為に。
それは栄光の為に、賞金の為に、約束の為に、夢の為に……理由はそれぞれでしょうが、立ち塞がるのは数多くのライバル達。
この大会が終わった時、誰が勝利の栄光を手にするのか……それはまだ、誰にもわかりません。


・大会について
World Hobby Battle Tournament……略して WHBT。一年に一度、数ヶ月に渡って開催されるホビーバトルの祭典です。
巨大な会場内では幾つものドームで連日競技が催され、それ以外にも数々の催し物や大会参加者向けの宿泊施設も存在しています。
ただし最大の会場となるメインアリーナは本戦の開始までは解放されず、そのアリーナには大会優勝者に送られるトロフィーも安置されています。


・バトルシステムとホビーついて
フィールドはバーチャルグラフィックで対戦の度に形成され、その内容は地上から宇宙まで、市街地から火山地帯まで自在に用意することが可能です。
またフィールド内ではホビーの耐久値は数値として可視化され、相手の耐久値を0にすることがこの競技の勝利条件となります。
貴方はホビーを実際に操縦しても、戦闘は機体AIに任せて自分はサポートに回っても構いません。その戦い方は全て貴方次第です。
またバトルでホビーが負った損傷は実際のダメージとしてフィードバックされます。ただ戦うだけでなく、修理や改修もこの競技の要の一つなのです。

レギュレーションで定められた、大会で使用可能なホビーは三種類存在します。
人型ロボット模型として展開する『闘機』シリーズ。
獣型ロボット模型として展開する『鋼獣』シリーズ。
美少女ロボット模型として展開する『戦姫』シリーズ。
どれもサイズは平均として10〜20cm、また全てのホビーには最高で人間と同等の知能を有するAIを搭載することが可能となっています(『戦姫』のみAIはデフォルトで搭載)。
ホビーの性能はその完成度に依存します。例え強力な武装であっても作り込みが甘ければ性能が発揮されることはなく、その逆も当然あり得ます。
またAIを搭載した機体であれば競技中でなくとも自立稼働が可能となっており、 AIを搭載せずともバトルシステムを流用すれば競技外での駆動は可能でしょう。


キャラシート1(キャラクター)
【名前】キャラクターの名前
【性別】キャラクターの性別
【年齢】キャラクターの年齢
【風貌】キャラクターの風貌
【概要】キャラクターの概要

キャラシート1(ホビー)
【名前】ホビーの名前
【シリーズ】『闘機』/『鋼獣』/『戦姫』のいずれか
【風貌】ホビーの風貌
【装備】ホビーの装備
【概要】ホビーの概要

雑談スレ
http://kohada.open2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1504192694/
373黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/24(日)00:08:48 ID:mah()
>>371

彼女の返答を聞いたならば、闇の中で戦姫は微笑む。
その笑みに籠められた意味なんて、きっと誰にも解りはしない。所詮は機械、仮想人格が紡ぐ人の真似事。

笑顔を齎す娯楽の祭典、然しその裏に蔓延る悪意を彼女は理解しているかのように。
其の首が傾けられ、紅い瞳がラニアに向けられる。機械の瞳に果たして、感情と呼べるものは篭るのか。
きっと、そんなものは存在しない。あるのだとすれば、其れは人を模倣した機微が齎す、細やかな錯覚。


「こんな雨、だからこそ。冷たい雨に晒される孤独は、人にとって堪え難いものだから」

「ーーーーーーいいえ、いいえ、人ならざる被造物がそれを語るのも、戯言に過ぎないのかもしれないけれど」


其れはやはり異質であった。幾ら最先端の人工知能が優れたものであったとしても、拭い去ることのできない異様を纏っていた。
其れは言語化できぬ違和感。そしてそういった猜疑心を抱かせるよう、黒い戦姫は意図的に振舞っているかのようで。
その上でーーーーーー彼女は、貴女と言葉を交わそうとする。自らの異常性を語らずとも伝えた上で、其の孤独に立ち入ろうとする。


「迷える人、可哀想な人。その姿を嗤う者こそ居ないとして」

「けれども、誰かが傘を貸してくれるなんて限らない……貴女の其れは、果たして自棄?」


唱うように、淡々と言葉を紡いだなら、黒い戦姫は支柱の上に立ち上がる。
空を仰いだ視線の先に、拡がるのは淀んだ曇天のみ。星のひとつさえ浮かばない、冷たい夜。
374ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/24(日)00:26:55 ID:L5I
>>373


 昏い曇天を見上げた視線が、不意に交錯した。
 闇をそのまま彫り上げたような素体に、銀色の髪。人形のような微笑みを持つ、人形そのもの。
 わざと人に似せて人になり切れぬような不気味さの谷を、しかしその人形は敢えて遊び歩いていた。
 ――ラニアは、眼鏡を外した。深く淀んだ金色の瞳は、眇められて人形を睨め付ける。


「――……アナタの目論見は、なに」

「趣味が悪いということは、よくわかった」
「けれど、ダレかを嘲笑うだけで暇を潰すほど、馬鹿でもなさそうだ」


 弱り目に祟る悪霊であるのなら、その目論見を先に吐くがいい。そう、彼女は告げていた。
 せめてそれが彼女に許された、最低限の自衛であった。心を蝕まれると知っているのなら、どこをどう喪うかだけは理解したいと。
 そも、彼女の苦悩を誰が知るというのだ。親しくしてくれた素晴らしい友人にも、終ぞ何も吐き出せなかった代物である。


「アナタに、"わたしの何がわかる"。……文字通りの、意味でスよ。」
「言ってみろ。言えないなら、とっととココからいなくなれ」


 街の喧騒が遠ざかっていく。雨粒が地面を穿つ。少しずつ、雨脚は強まっていた。
375黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/24(日)00:52:29 ID:mah()
>>374

「貴女の名前を知っています。貴女の境遇を知っています。貴女の動機を知っています」

「貴女の出生も、故郷も、家族もーーーーーけれども、そんなものは知ろうと思えば知れること」


その戦姫は、既に純粋な情報に関しては知り得ていたのだろう。
其れはたった今知り得たのか、ラニアと邂逅した時に知り得たのか、或いはずっと前から知り得ていたのか。

ふわり、と。悪霊の如き黒の戦姫は、支柱の頂点を飛び降りる。
そしてラニアの隣にあるブランコの座席の上に着地したなら、今度は見上げる形でその紅い視線を向けるだろう。
有機的な人を模した人形の表情は、然しどこまでも無機的なままで。


「……結局、貴女の内面が何であるかなんて、貴女にしか知り得ない」

「だからこそ、尋ねてみたいーーーーーー貴女が誰にも零せなかった苦悩は、果たしてどのようなものであるか」


次第に勢いを増す雨音は、宛らノイズの如く、二人の会話を覆い隠す。
その会話を誰も聞きはしない。多くの人々が行き交うこの街において、この空間だけがたった二人だけの世界として切り離されてしまったかのように。
376菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/24(日)02:12:50 ID:Crn
>>372
「注意しておくべきだなんてそんな……私なんて、全然大したことないですから……!!」

 あの有名なチームのエースファイターに注意すべき、なんて言われたからには……菱華にとっては、嬉しいことではあった。
 いつもならば徹底的な謙遜が繰り出されるのだが、そうでなく。言葉ではそういうものの、その態度には隠しきれない喜色が出ているのは……。
 直前に、少々の心境変化があったから、だが。然し、迂闊だったのは――――それに気を取られて、彼女の表情の機微を見切れなかったことだろうか。

 リコリスの装甲へ――――アイゼルネスは、拳を突き出して小突く。
 こつん、と当てる程度の仕草であった。敵意や悪意の類は一切存在しなかった。ただ、何かをその機体に察していたのかもしれない。
 アイゼルネス自身理由をはっきりとさせることが出来ない、謂わば……直感などという、余りにも人間らしいものによって、とでも言うべきか。

「……お前も」

 その瞳を覗き込む。そしてゆらりと、アイゼルネスの碧い瞳が揺らめくだろう。
 紅色の光が右の瞳に明滅する。それは本当に微弱な光だった。その瞳を覗き込まなければ間違いなく見逃すような、些細な光であった。

「――――強そう!」

 そうして紡ぎ出される言葉は、純粋な闘争心と興味からなる一言であった。
 実に感情豊かに、湧き上がるそれを抑えきれないとばかりに満面の笑みでそう言った。そこに一切の矛盾もなければ、裏もなく。

「駄目だよアイちゃん、今日はバトルしに来たんじゃないんだから……」

「ええー、バトルしたーい!! しーたーいー!!」

 いきなり好戦性を剥き出しにするアイゼルネスへと向けて、そう言って諌める。
 いつもの事である……他のホビーを見るとすぐにこうなるが故に。それでも毎回抑え切るには少々叱る力が弱すぎて、駄々を捏ねるのを許してしまうのだが。

「あ、は、はい……頼みます! ……えっと、えっと」

 ニーナに促されて、菱華はまたメニューを見つめ直す……のだが。果たしてどれを頼めば良いのやら。
 何せ行列のできる店など来たのは初めてで、禄に下調べもせずに来てしまったものだから、こういろいろなメニューを前にすると目移りしてしまう。
 一番美味しそうなもの、一番食べたいものを選べばいいが、それでも優柔不断に迷ってしまい……。


「……あ、あの。お、オススメ、って、なんですか……?」


 何でもない質問である。これだけ食べている彼女に聞けば有力な答えも返ってくるだろうというものであった。
 相席になった者同士ならば、会話が弾めば違和感のない……で、あるが。
 菱華にとっては、凄まじく勇気を振り絞ったものであり。――――恐る恐る、彼女へとそう問いかけるだろう。
377ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/24(日)02:29:44 ID:Q3v
>>375


「――アナタ、愚弄しているか?」

「全て分かっているのならば、尚の事。」
「ワタシが今、何もできないでいるということが、分かっているはず」


 忌々しげにラニアは吐き捨てた。この壊れたような人形が告げていること。真であるか、偽であるか。
 偽であるならば立ち去ればいい。論理回路の壊れた人形の戯言に付き合うことがあろうか。――だが。
 少なくともラニアは、そのままブランコに座り続けた。この胡乱なるヒトガタの言葉に、苛立ちさえ示していた。


「けれどアナタ、よく分かっている。この悩みは、ワタシにしか分からないものだ」
「今までも、これからも。ワタシがあの輝かしい戦場ではなく、何故こんな場所でうらぶれているか」
「その理由を知っている、なぜ今更ワタシに聞く。そんなことも分からないなら、アナタ、出来損ないの人形だ」


 続く皮肉を、人形は解するだろうか。理由が分かっているのに、その結果を訊ねるなどと、なんと滑稽なことだろう。
 然し、滑稽なのは彼女であった。結果的にそれは独白に似ていた。誰にも告げられなかった懊悩は、怒りによって容易く引き出されていた。
 それに、彼女は気付かない。追い詰められていたのだ。正気ではなかったのだ。――それでいて、まだ己れは真っ当であると、思い込んでいるのだ。


「"アナタに、何ができる"。何もできやしない。」
   「――何か出来るというのなら、言ってみろ。何だって、やってやる」


 その台詞だって、ラニアには答えの分かりきったものだった。だが彼女の思う答えは、続くであろう人形の言葉とは重ならない。
 濁った金色の瞳はペシミズムなまでに悲愴であった。どこか遠く映る摩天楼の光さえ、一瞥に拒む闇を宿しかけていた。
378黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/24(日)20:37:44 ID:mah()
>>374

聞き終えた回答は、果たして彼女が望んでいたものか、其れとも。
紅い眼は絶えずラニアに向けられたまま。無機的な輝きを灯すその視線は、まるで瞳の奥底にある内面さえも見通そうとするかのように。
きっと、壊れた人形という表現は正しい。この個体はどこか根本的な部位で、致命的なまでに壊れていると、理解することができるだろう。
けれども、だからこそこの人形はーーーーーー貴女へと語りかけている。その理由は、きっと。


「……ーーーーーーもしも、私に何かができるとして。いいえ、”貴女の望む通りのことができるとして”」

「差し出された手を、貴女は掴む? 例えそれがーーーーー悪魔の差し出した手だとしても」


其れが戯言ではないと、唯愚弄する為だけの台詞でないと、理解するのに時間はかからない。
そもそも前提として、この機体の存在が異常であった。言葉を交わせば交わすだけ、その異端な性質が露わになる。

もし、その瞳に感情というものが宿っていたのなら、其処には深淵の如き闇を湛えていたのかもしれない。
或いは、既に其れに等しいものをこの個体は内包しているもかも知れなかった。人の感情に翻訳するなら、悪意と呼ぶに相応しいものを。
危険だと、何かが可笑しいと、勘の鋭い競技者であれば察することが可能に違いない、それでも。


それでも、悪魔の囁きは、何処までも蠱惑的に。


「……本当に、何だってやってくれる? ラニア・エルハレド=シャリフィー」


きっと頷いてしまえば、後戻りはできないだろう。
差し出された手は救済か、それとも破滅への導きか。
379ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/24(日)21:51:32 ID:L5I
>>378


     「――――っ、…………。」


 ――――流石に、辟易ろいだ。

 確かにラニアの思考は錯綜していた。絶えず打ち付けられる雨粒のひとつとて、熱暴走したニューロンの冷却にはならなかった。
 人形に投げかけられた、ともすれば嘲笑に近いような言葉の数々は、さらにそこから真っ当な論理回路をショートさせていった。
 今の彼女は一種のマリオネットであった。だがそれでも、最後に残った本能のような何かが、絶え間ない警鐘を鳴らしていた。
 進んではならない。受け入れてはならない。手を伸ばしてはならない。――分かっていた。だが、それでも。

 忌々しげに見開かれた金色の瞳が、淀みを以って人形を睨む。ぎり、と小さな歯噛みが鳴る。
 それが彼女に許されたせめてもの抵抗であった。吐き捨てたいほど忌まわしい要件を、しかし呑まねば己れは死する。
 憐れな足掻きであった。至極穏やかな人形の破顔は、変わらない優しげな赤眼でラニアを見つめていたのだから。
 

   「――――…………、」


  暫しの沈黙。激しさを増す雨脚は、然しどこかに遠のくように聞こえた。


 「――イイだろう」
 「もう、縋れる藁もない」


 「喰らってヤル。アナタの吐く毒、全て」



 そうして畢竟、ラニアは屈した。慨歎するように視線を背けて、遣り場のない視線を輝かしい摩天楼に向けた。
 視線を合わせたくなかったのだ。沁み込む劇毒にも似た赤い瞳を見たくなかった。だが、既にそれは――。


 「ワタシの妹を、助けてほしい。難病なんだ。金が必要だ」
 「優勝賞金なら、賄える筈だった。――助けてくれ、……。」

  「アナタのことは、何と呼べばいい」


 微かにその声は涙ぐんでいた。とうに知れた独白の後に、ラニアは人形の呼び名に迷った。誤魔化すように。
 
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380ジョセフ◆LtdXCssiII :2017/09/24(日)22:20:12 ID:bOT
WHBT大会会場、いくつかあるラウンジのうちの一つ。
ここに設置されたモニターでは各ブースのイベントや、アリーナの様子を観戦する事が出来る。

「うーん……どうだいジョーカー?気になる人はいる?」

椅子に腰掛けコーヒーを飲みながら、モニターの映像に目を向けるジョセフはテーブルの上に立つ自分のホビーに問い掛けた。
紅白のピエロのような様相をしたホビーはジョセフに振り向くと、肩を竦めたジェスチャーをして返す。
それを見たジョセフは再びモニターに目線を戻すと、映像に映る者達を注意深く観察するのを再開した。

(……厄介な奴らに嗅ぎつけられたら困るな、今の内に怪しいのはマークしとかなければ)

その様子は側から見れば、対戦相手となる者を研究する熱心なホビープレイヤーにも見えるが…?
381黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/24(日)22:29:51 ID:mah()
>>374

「……ーーーーーーー解った」

「助けてあげる。大切な家族の為に戦う、貴女のことを」


彼女が、この人形が何を考えているなんて誰にも解らない。
それでも、それは確かに救いだった。溺れる者に差し出された、唯一の手に違いなかった。

黒い戦姫が浮かべる笑みは、慈愛に依るものか、或いは別のナニカに依るものか。
それでも一つだけ確かなことは、この人形は貴女のことを助けようとしていること。例えそれがどのような形であろうとも。
漆黒の装甲に奔る紅のラインが怪しく燈る。飲み込まれてしまう程の闇の中で、戦姫はその輪郭を浮かび上がらせる。


「…………ーーーーーー貴女にもう一度、舞台に立つ為の機会と、その手段を」

「貴女の機体は不正だと、一度は跳ね除けられた。ならば今度は、その通りにしてしまえばいい」


その言葉と同時に一つのプログラムが、貴女の機体に送り込まれる。
それが何であるか、競技者である貴女であるなら一眼確認するだけで理解できるだろう。

違法改造パーツ C.C.チップ。それが齎すものと同様か、或いはそれ以上に強力な違法データがそのプログラムには記されていた。
無論、その偽装能力も既存のものとは一線を画す。ならばこのプログラムを適応したなら……どのような悪意ある検査も掻い潜ることが可能となるだろう。
その上で、違法改造による機体の不正な強化も可能となる。その力を存分に使ったならば、“優勝”にさえも容易に手が届くに違いない。


其れを、使えと言っている。
これを使ってしまうことが、どういうことを意味するかを承知の上で。


「直ぐに再提出の機会が訪れる。そしてその検査で、そのプログラムを適応させた機体が弾かれることはないでしょう」
「さあ、存分に毒を食らって、そうして得た力で妹を助けてあげなさい」


「私の名前はGalatea(ガラテア)ーーーーーーーー大丈夫、私は貴女の味方だから」


そうして、彼女は再び微笑んだ。
その笑みは果たして、天使のものか、それとも悪魔のものか。
382赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/24(日)22:49:42 ID:ZOV
>>380

「……キャラに似合わねェことやってんなァ」

熱心にモニターを眺めるジョセフの背後から、その声は放たれる。
聞き覚えがあるかもしれない。振り向くならば、その姿にも見覚えがあるかもしれない。
無造作に伸びた髪の隙間から覗く三白眼、色々と悪い意味で有名なプレイヤーである故に。

「いやァ、ふと見えちまったからよ。ちょっと演目に苦情付けに来ただけだわ。
 ありゃ酷だと思うぜピエロ気取りサン。
 ホビーが好きでもなんでもねェって顔した女に、付き合えないだろうよエンタメってのは。」

先日の事、企業の看板プレイヤーと一芸人の戦闘に赤鉄シンヤも居合わせていた。
ただ単に有名プレイヤーの戦闘が見れるとして偵察に行っただけだが、少女が酷い顔をしていたのを覚えている。
383ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/24(日)23:26:26 ID:L5I
>>381


「――……これ、は」


 人形の躯体が紅い光を帯びる。血のような洸たる輝きは、截然たるものを以って夜雨の中に浮かび上がっていた。
 スマートフォンが着信に震える。懐のそれを取り出せば、競技用の機体調整アプリケーションには、見覚えのないプログラムが登録されていた。
 ――そうしてすぐに、彼女はその正体を理解した。雨はいつの間にか止んでいた。だのに震える指先を、彼女は濡れそぼった自身のトートバッグに潜らせる。

 取り出したのは、ひとつの闘機。モノトーンの塗装に身を包んだ、人であり人ならぬ異形の機体。


「使えというの。コレを。――ワタシに?」

「何の意味がある。アナタに。何の得がある。ワタシの味方になることに」


 その詰問は最後の抵抗だった。この齢20にも満たぬ少女は、然しファイターとしてはプロフェッショナルだった。
 負い目以前に、矜持があった。誇りがあった。愛着があった。己の望む未来のために、この機体を穢さねばならない屈辱は、堪え難かった。
 
 だがそれさえも選べぬということを、ラニアはよく知っていた。だからこそ、せめて、問い詰めるしかなかった。


「"ガラテア"。ワタシに与えたこの力。よもや、無償に使うがいいという訳ではないでしょう」
「――人の弱り目を見定めるような、アナタのような人形に」

     「何が、目的」
     「……いえ、それよりも。アナタ、何者――?」


 ――――夜半なおも続く喧騒は、隔絶たる雨が消え失せれば、少しずつラニアに近づいていた。
384赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/25(月)00:24:43 ID:dMQ
大会開催に合わせて再開発され、ホビーの聖地と化した"うみかぜ"。
大会真っ只中の今、スタジアムを中心として凄まじい盛り上がりを見せていた、が。
都市の隅、ライブハウス染みた看板を掲げるホビーカフェはそんな話とは無縁のようだった。
まず外観がホビー関連には見えないし、中も外観どおりの雰囲気の照明は明らかにそういう店である。
一応、ステージに用意されたバトルフィールドを使うと巨大モニターに中の様子が写され
楽器を鳴らすが如くパフォーマンスが行えるという実験的なホビーカフェではあるのだが。

「……まだ足りねェよなァ」

店内のラウンドチェアは唯一つだけ埋まっている。カウンターの上にはコーラとホビー。
ホビーは"人馬"の姿を持ち、それをまじまじと見つめるは三白眼。赤鉄シンヤがそこに座っていた。

パーツごとに分かれたジャンクを眺めて、椅子を回して、伸びして、また眺めて。
そのたびにあー……とうなだれた声を漏らす。要するに、機体の構成に悩んでいるのだ。

ショップの設備は見た目の胡散臭さに反して中々のもの。半分趣味で開かれた店だとかなんとか。
そういうわけで知る人ぞ知る穴場的なスポットなのだが、彼意外にも来店する者は、果たして。
385黒い戦姫◆o7SK7L7zxJvm :2017/09/25(月)00:49:55 ID:eNL()
>>374

「貴女は只、その機体で、その力で、より多くの敵を倒せばいい」

「一人でも多く、一機でも多く、戦いの舞台にて蹂躙し、そして壊し尽くす。私が貴女に求める対価は、ただそれだけ」


不正に得た力によって、正規の参加者とその機体を嬲れと、彼女は言っている。
優勝を目指すならば、他の参加者に勝利する必要がある。然し。彼女は只勝つだけでなく、一方的な蹂躙を要求した。
その不正な力によって、暴虐を成せと。そうする限りは自分は貴女の味方であり続け、そして貴女を優勝に導くだろうと。

矜持も、誇りも、愛着も、踏み躙るように。
ライナにとっての優勝が、只の栄光以上の重みを宿しているものだからこそ、その為には断ることができないと承知の上。


「…………ーーーーー私が何者か、ええ、それは」
「貴女と似たようなものとだけ、答えましょう。捨てられて、打ち拉がれて、その上で恨みを晴らそうとするものと」


「……では、健闘を祈ります。ああ、それからーーーーどうか、風邪を引かないようご注意を」


戦姫の姿が歪む。宛ら、投影された立体映像にノイズが走るかのように。
そして次の瞬間にはーーーーーその姿は忽然と消失していた。

それは果たして、戦姫としての機能だったのか。
然し前提として、ホビーの機能というものはバトルフィールド上でしか再現されないものであり。
其れをこのようなバトルシステムの存在しない場所で発動する等、そもそも出来るはずがないのだ。


雨は止み、残されたのは少女が一人。
まるで全ては夢の中の出来事であったかのようにーーーーー然し、夢でないことの証は、黒い戦姫が残したプログラムは確かに其処にある。
386冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/25(月)00:51:38 ID:W1W
>>384

あまり繁盛しているとは言えないカフェの一角に、机に立てたタブレット端末と向き合う少女がいた。
色褪せたジーンズに白いタンクトップ、丈の長いデニムジャケット、赤縁ナイロールに厚ぼったいレンズの眼鏡。
頭には片耳用のヘッドセット――なんて胡乱な装いとは裏腹に、メリハリのあるスタイルが勿体無い少女だった。

「あー、今度もやっちゃったんすね。……や、いいんすよ。アタシとしても本望っす」

シンヤの座席からそれは聞こえるし、見えもするだろう。どうやら彼女は通話中らしい。
その傍らの作業台には、長砲身のレーザーライフルや、ブースターと格納式銃架のついたSFSと言ったホビー用の装備が並べられていた。

「コナユキもなずなサンも頑張ってるんすから、アタシだって追いついてかないとっす。
 明日には間に合うようにボード作り置いとくんで。また思いっきり乗りつぶしてくださいな!」

朗らかに言って通話を打ち切るまでに、出るわ出るわ、聞き知った名前。
そして彼女自身も、ホビー雑誌に目を通すような人間にとっては、そこそこ名の通った人物かもしれなかった。
387赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/25(月)01:07:12 ID:dMQ
>>386
それなりに雰囲気のある場所に、浮いた服を着れば嫌でも目に付くものだろう。
椅子を回して、するとふと少女が目に入った。綺麗な顔立ちに勿体無い服装。
しばしの間視線を奪われれば、ボード、コナユキ、そしてあの名前。

「――――なずなァ!?」

同姓同名でもないだろうし、彼女であるのは間違いない。聞こえたのは所々、それでも内容は何となく理解できる。
彼女はつまり、あのアイドルのアーキテクトとと言うことだ。

ふと零してしまった声は、人の少ない店内であればさぞ響いてしまった事だろう。
388冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/25(月)01:22:35 ID:W1W
>>387

「……ふへ?」

フリーの右耳が不意に親友の名前を捉えて、少女は首を傾げつつヘッドセットを外す。
ふわりと広がった赤銅色の髪は、ケアは丁寧にされているようだが寝起きそのままのようにボサボサだった。

幾ら人の少ないところを選んだとはいえ、些か行儀が悪かったか。――まあ、この格好の時点で気にしてなんていないけど。
とは言え、断片的に聞き取った会話からなずなの名前を取り出すとは中々のファン魂だ。
今日持ってきているコナユキの武装は全て構造が把握されているし、ボードは知ってても乗りこなせるものではない。
ここにいるような相手なら話しやすいだろうし、ちょっとぐらい見せてあげてもいいか。

――なんて、のほほんとした考えで振り向いた少女のニヤつきは、一瞬で真顔に変わった。

「あっ、……赤鉄シンヤ、サン!?」

頓狂な声音に交じるのは、純粋な敬意と割り切れない複雑な感情。
そして――ひとりでここに来ていて良かったという、後ろ向きな安堵だった。
389ラニア◆.9ydpnpPps :2017/09/25(月)01:24:20 ID:FiL
>>385


  「――……っっ、……」

 
 返す言葉がなかった。如何様なる命令にさえ、彼女は従わざるを得なかった。堪えるように噛み縛られた下唇から、握りしめた片拳の掌から、黒く血が滲んだ。
 確かにチップの効力があれば、如何なる蹂躙さえ許されるだろう。だが彼女は、未だ嘗てそのような破壊を欲したことはなかった。
 恵まれない生命を這いずってきたラニアにとって、そこから己れを救い出してくれたホビーバトルという存在は、有り体に言えば救世主でさえあった。
 なればこそ彼女はチャンプとして認められ、帰る場所たる暖かい家族を守り、そしてこの街でさえ憧れた偶像に友人を得たのだ。
 ――それを、己れの手で汚したくなかった。地位も、友人も、家族も、その全てを裏切る行いであったから。それでも彼女は、その選択を受け入れるしかなかった。


「……アナタが。ワタシと、同じ、……?」


 だからこそ、その言葉は許せなかった。この身に最悪の選択をさせた黒い戦姫の、慇懃無礼な別れの挨拶は、ひどく彼女の精神を逆撫でした。
 脳天にまで湧き上がった怒りが彼女の顔貌を歪ませて、されどガラテアと名乗った人形は、データの海に溶けるようにしてその場から消え失せてしまう。

 ――握りしめた拳の遣り場を失って、ラニアは湿った地面を殴りつけた。跳ね返る泥濘が彼女を汚した。
 あるいは、それは。張り詰めたなにかを失ったことにより、もはや立つことさえも儘ならぬ故の擱座であったのかもしれない。
 この怒りをどうすればいい。この憎しみをどうすればいい。振り上げた拳をどうすればいい。――わたしの愛したこの競技を、どうすればいい。
 誰が悪いのか。誰を憎めばいいのか。誰に怒りをぶつければいいのか。――そも、斯様なる理不尽な運命を強いたのは、本当にあの戦姫であるのか?
 


    「……す」「……っ……す」「……ぶ、……」

              「――――潰す」




 雨上がりの冷え切った街。摩天楼の光は消えない。夜の闇が、消えぬ限り。
390赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/25(月)01:42:51 ID:dMQ
>>388

「いや、チガイマスネェ」

即座に返した声は否定。が、とっさに出した上ずった声は明らかに不振で、そもそもテーブルに並べられたパーツは確実に彼のものだ。
顔を見て名前が分かるぐらいの彼女なら、否定は殆ど無意味だろう。
あの戦闘の後にペナルティを受けかかったため、面倒は避けたかったのだが。

ニヤついた笑みが複雑な表情に塗り替えられる。
まあ、もう無理だろうと腹を括って。

「冬芽つばき、ねェ。やっぱ腕良いんだな、アンタ。」

テーブルに並べていたパーツを一旦ケースに仕舞い、つばきのテーブルへと。
テーブルの武装を眺めて、かけた声は酷く穏やか。皮肉を感じさせる声色でもない。
純粋な、言葉通りの意味だった。あのバトルフィールドに立っていた男と、同一人物とも思えないような。
391冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/25(月)02:11:52 ID:W1W
>>390

「全く、びっくりしましたよ。通話切った後でほんとよかったっす」

「……うーん。そりゃあ、作るのだけが取り柄っすからね」

目を合わせた時こそかなり驚いていたものの、シンヤが近づいてくることに対してつばきは冷静だった。
ある種、作り手としてのシンパシーのようなものが警戒を解かせたのかもしれない。
腕前を賞賛されれば、はにかむようなボヤくような、曖昧な調子で答えて。

バトルに求められる能力と造形技術が別物なのは当然だが、それにしたって冬芽つばきはファイターとしての活躍と無縁だった。
彼女が抱えるひどいVR酔いと戦闘中の状況判断能力の欠如は、言ってみれば負の天才とでもいうべきもの。
克服のために努力を重ねたものの成果を挙げられていないことは、過去のインタビュー記事でも触れられている。

「とは言え、世の中には破れ鍋に綴じ蓋って言葉もありまして。
 アタシが作ってなずなサンが戦う。分かりやすい話っすよ」

そしていま目の前にいるのは、叶わない夢を委ねられる相手を緒戦で負かせ、恥をかかせた人物。
とは言え、つばきの口ぶりに恨みがましさはない。

「その点赤鉄サンはオールラウンダーじゃないっすか。作って戦える、素晴らしいことっす。
 だから不思議なんすよね。何でわざわざ、〝あのキャラ〟に拘らないといけないのか。
 不戦敗やサスペンドのリスクを負うほどの意味が、どこにあるのか」

ただ、にまりと笑みを浮かべて――「なんで空は青いのか」と問うような身勝手さで、彼女は尋ねた。

「あ、ちなみにアタシの喋りはキャラじゃないっすからね」
392赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/25(月)02:42:42 ID:dMQ
>>391
思った以上に自身が受け入れられている事に拍子抜けしながらも、しかしそれ自体はありがたい。
立ちっ放しなのも何だと思って、対面の椅子に腰掛ける。そうして続く質問は

「……どうして皆俺が作ってるって前提かねェ」

先日戦った相手も、そしてこのなずなも。そこはビルダー同士の勘とでも言おうか、機体を見ればわかるという事か。

「俺ァホビーは好きだがプレイヤーは嫌いって事だ。」

こうして、すんな話し始められるのもそう言う事だろうか。
元より冬芽つばきに対しては、彼は好意的な印象を持っている。が、それでも。今まで誰にも話さなかったことなのだ。
そろそろ、大会を通して仮面が剥がれかかっているのを自覚しているのかもしれない。

「玩具だからなァ。何時か飽きるし、"俺ら"ぐらい熱中する方がおかしいんだろうよ。
 けど、な。直ぐ飽きて捨てる奴、新しい物が出る度に古いのを捨てていく奴、負けを機体のせいにして罵る奴。
 そういう奴等は"気に食わねェだろ"。」

今でこそ感情を見せるホビーを捨てるような人間は少なくなったが、しかしただの戦闘用AIしかなかった頃には。
世代の近いつばきなら心当たりがあるかもしれない。

「好きでも無いのに仕事でやってる、ってのも気にいらねェよなァ
 特にこんな舞台はな。ここはそういう奴らのステージじゃねェだろう。」

なずなへの当たりは即ちそういうことである。友人にポケバト(ポケットの中のバトルの略。この世界の名作ドラマである。)を見せるような本物感を雑誌などで発揮するつばきに対して
なずなのキャラクターは聊かそういうところには弱いと。少なくとも、彼にはそう映った。
要するに、気に入らないからぶっ壊す、と。しかしそれではデメリットに余りに釣り合ってないように思える。
質問に完全に答えたとはいえないかもしれない。
393日向 武士 ◆AcfUisI7l2 :2017/09/25(月)03:18:19 ID:suM
>>370

『日向、日向、技術の日向!当機体「スーパーヒナタ3号」は、日向製作所によって……』
「勝っ……た……?」

コンクリートのテクスチャに突き刺さるようにして聳え立ちながら、宣伝を垂れ流す3号。
ディスプレイに示された、相手のものであろう脱落の表示。
3号でまさか勝てると思ってなかったというのもあるが、十数年ぶりのホビーでの勝利の感覚に、武士は思わずしばし戸惑う。

────しかし、大切なことを一つ、武士と3号は忘れていた。

『日向!日向!ひな……ビギャーッ!!?』
「……あっ」

どこからか飛んできた胸を一寸たがわず撃ち抜くレーザー光線と、先ほどまで戦っていた相手の名前のすぐ下に表示された脱落表示が、それ────試合が乱戦形式であったこと────を思い出させた……時、すでに遅し。



試合が終わった後、武士は3号が収まった箱の乗った台車を押しながら、きょろきょろと鳥型機体の主を探して会場をしばし歩く。
「おわったあとのあいさつは、きもちよく」……超初心者用教本の一節にのっとって。
394冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/25(月)10:30:46 ID:W1W
>>392

シンヤの話が一区切りするとつばきは、んー、と息を吐いて大きく伸びをした。
上体を反らすとタンクトップの下で豊満なバストが強調される。マイペースも困りものだ。

「あー、……うん、生きづらそうっすね」

あまりにも率直な感想を無責任に放り投げて、つばきは薄笑いに目を細めた。

「アタシにも気持ちは分かります。でもその出力がおかしくないすか?
 ホビーは楽しいものなのに、まだ理解してない子を潰して追い出すなんて、もったいなくないすか?」

――趣味人というのは、とかく先鋭化しがちである。
解釈の違いを認められず、カジュアルプレイヤーに対して当たりが厳しい。それらの問題が、悪意ではなく愛から生まれるのがとびきり悪質だ。
サブカルチャーの世界で横断的に活動してきたつばきにとって、この傾向はありふれたものだった。

「捨てるヤツが嫌いなのにトラウマ植え付けて捨てさせる。完璧に逆効果っすよ。
 赤鉄サンの説明には、筋が通ってなく見える。リスクを背負ってまで、皆で損するのが目的……じゃ、ないんっすよね?」

つばきにはなずなのような義憤や激情はない。ただ純粋な好奇心と口惜しさが駆り立てる。
心からホビーを楽しむことができるはずの人間が、何故そうしないのかと。
395藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/26(火)00:40:37 ID:2ZI

 雨上がりの「うみかぜ」は、涼やかな秋晴れに穏やかな風を湛えていた。
 いっそ心地いいほどの鰯雲の下においてさえ、しかし熱狂が止まることはない。ホビーバトルの祭典は、まだ予選さえ終わっていない。
 ――WHBT会場を取り巻くように配置された、公式系列のホビーショップ。そのひとつに、彼女はいた。


「……Like an angel with cruel and merciless intent……
 Go forth, young boy And you'll become a legend――」


 女性にしては高い背丈が着古した白衣を纏えば、それは否応に目立つ。まして店内であろうとも躊躇わずに、取り回しの悪そうな蛍光色のヘッドホンをつけたままならば。
 やや低い声が口遊むのは「Cluel angel's thesis」。闘機シリーズ「蒼天のトロイメライ」のメインテーマとして、恐らくは作品を知らない一般人さえ耳にしたことのあるような曲。
 肩口まで伸びる黒髪を煩わしげにかぶり振って払い、銀縁眼鏡の奥の眼光は悩ましげに顰められていた。


「やっぱイイなぁ、"F-1"初号機……。や、"タイフーン"3号機も捨て難いなぁ――。
 どーせ組み直すんだから、面白い機体にさなきゃ、そうじゃなきゃ意味がない……」


 プラモデルのパッケージを片手に握り、あるいは取り替えて、しかし何れを買うべきか納得は行かぬと独り言。
 これを15分ほど続けていた。店員はやや訝しむような目線で彼女を見張っていたが、彼女がそれに気づくはずもない。


「――……わっ、……」


 ――ようやく彼女が表情を変えるのは、幾度目かにパッケージを棚に戻そうとしたところ、迂闊にもその手を滑らせてから。
 手から落ちそうになったそれこそ膝先で受け止めたが、しかし彼女はもう片方の手で別のパッケージを掴みかけていた。
 宙を舞う、紫色のボックス。――幸運にもそれを受け止められる人間は、いるだろうか?
 
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396菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/26(火)01:46:27 ID:s3b
>>395

 先日改修を終えたアイゼルネスの、更に息抜きに部分塗装と墨入れ程度で簡単なキットを作ろうと菱華はこの公式ショップまで足を運んでいた。
 菱華が特に好む作品の最新作、『Iron-Blood』の作品の機体が並んだ棚の前で、何を買おうかと頭を悩ませていた。
 この作品のキットは安価でありながら組み易さと造形に稼働、そして遊びにおける幅広さの全てが良好という傑作揃い。
 その上、作品の出来に関しても賛否両論(出来る限り抑えた表現)によって元が安いところから更に値下げをされることも多々あった。

「やっぱり、この大きいハンマーとずんぐりした身体は格好良いなぁ……。
 こっちは単純にスタイリッシュでいいよね。こっちは……凄まじかったし、これも買ってこう……」

 選んだのは三つ。
 僅か三話ほどの登場でありながら強烈な印象を残した超重量機体。
 兵器らしいデザインと騎士のような流麗さが上手く融合した蒼と黒の機体。 
 そして劇中で『凄まじく印象的な』活躍と設定、描写を見せた漆黒の大型機体であり、それらを重ねてカウンターへと持っていこうと歩き出す。

(……あ、この歌……)

 位置関係上、必然的に「蒼天のトロイメライ」シリーズの棚を通ることになる。
 目の前では眼鏡を掛けてヘッドフォンをかけた女性がパッケージと睨めっこをしている……その気持ちは、菱華にもよく分かる。
 この歌は国民的にも……よくやっている「アニメソングランキング」なんかでよく上位に入る歌だ。
 何故あの作品がここまで人気になったのか、あれは間違いなく万人受けする作品じゃないのに……なんてことを考えながら。
 彼女は熱心なファンなのだろう。邪魔をしないように、そっと彼女の横を通り抜けようとして。

「……わぁっ!」

 宙を舞うパッケージ。反射的に、それを取ろうとした……が。
 両手は先の三つのプラモデルを重ねている。両手を差し出したところでそれを、受け止めることは出来ないのだが。
 何とも幸運なことに。落下するボックスは、一度菱華の頭をこつんと角で叩いて一度バウンド。
 そして、そのまま手に持っている重ねられたボックスの、4つ目と落下――――そこで、その動きを止めた。店の床に落下するということはなかった。


「……いたい……」

 菱華にとっては、不幸としか言いようがなかったが。
397藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/26(火)02:14:32 ID:2ZI
>>399


「――あちゃぁ…………」


 ああこりゃ最高に不本意な形で購入コースだなぁ。――彼女がそう思ったのも、束の間のこと。
 不幸な奇跡が重なって、「初号機」のパッケージは無事であった。……ひとりの少女の幼気な痛みを犠牲として。
 やってしまった。額に掌を押し当てて、彼女は天を仰ぐ――のも、やはり束の間。無事であったパッケージを、ひとまずは商品棚に戻す。
 そのままヘッドホンを外し、嘆く少女の(恐らくは)涙声に狼狽えて、当惑と謝罪の綯い交ぜになった表情にて、幼い顔立ちを覗き込むのだった。


「――ゴメン、ぶつけちゃった……? 痛かったよね、うん……」


 恐らくはパッケージの角が打つかったであろう額を、やや戸惑いつつも掌で撫でる。まるきり子供扱いではあったが、然し彼女は歳下と接するのが上手くない。
 ――ふと。その視線が、少女の持っていたキットを捉えた。


「……あ、『IB』。――解ってるなぁ」


 忙しい女だった。少女の頭をさすりつつも、その感性と審美眼に感服する。確かに「Iron-Blood」のプラモデルは、ほとんど投げ売りのように扱われていることも多い。
 だがそれは決して完成度の低さに起因せず、むしろネット上の半ば小馬鹿にしたような無責任な評価が原因でさえある。
 何せ近年ではそもそも、新作か出るたびにバッシングを食らうシリーズである――彼女自身が「IB」に下した評価は、「意欲作」程度のもの。
 ましてモデラーとして見たのであれば、近年稀に見る当たりシリーズ。……買ったはいいが積んでいるのは、それはそれであると言うが。


「重くない? てか重いでしょ。あたしも持つよ」


 有無を言わせぬ恩返しのように、白衣の女は一番上のキットを抱える。その買い物カゴには少女と同じシリーズより、「θθ」の「Exusia」。
 通りがかった商品棚から今度は「AC」シリーズより、「F/A-22B」を掻っ払い――買うとなれば、決断は早いタイプであるらしかった。
 
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398菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/26(火)02:57:03 ID:s3b
>>397

 痛みに目の端に涙を浮かべつつも、手の中に降ってきたパッケージに目を落とす。
 ああ、これは『初号機』……パッケージの角は多少潰れてしまったものの、そもパッケージとは商品を包む包装紙であり梱包材なのだ。
 この程度のダメージであれば特に何かあるわけでもないだろう。少しだけホッとした……犠牲になったプラモデルは無いのだ、と。
 そうしていると……唐突に、額に手が触れる。

「……! あ、あの、いえ、だ、大丈夫です……」

 顔を上げれば、先程まで商品を睨みつけていた……恐らくは年上である女性が、菱華の額を撫でていた。
 確かに彼女からすれば菱華は子供なのかもしれない……が、菱華自身はもう十四歳。そんな風に子供扱いされる歳は過ぎている、と自分では思っていた。
 その為、強がってそう言った。やはり涙声では、あるものの。

「あ。……ふふっ」

 然し、彼女の『IB』シリーズに対する考え方をその一言に垣間見てほんの少しだけそんな良い意味での笑い声を漏らした。
 確かに、『IB』に対しては色々と菱華自身思うところはある。が、少なくとも良いところも沢山あった。
 だから、少なくとも嫌いではない――――ので、そう言われると、自分のことのように嬉しく。

「えっ、あ、そんな。……ありがとう、ございます」

 ひょいと少女の一番上の、一番大きなキットが持ち上げられる。 
 全くそんなことを期待しておらず、面食らいつつも礼を言い――――彼女がカウンターに向かうのであれば、おずおずとその後ろをついていくことだろう。
 時折、何処か不安気に彼女のことを見上げ、然し何か言うわけでもなく。……そして。大会の効果で多くが並ぶレジ待ちの列にて。

「……あの、その……」

「『IB』。……好き、ですか?」

 そして、何処かビクつきながらそう言った。
 菱華にとっては、他人に何かを聞くというのは大冒険である。今しがた会ったばかりの人間に、となればそこに更に倍率がかかる。
 それでも、彼女にそう話しかけたのは、ただ無言のままに居るというのも気まずいというのもあったが。
 『自信を持つ』ということの訓練の一つとして、思い立ったというのが理由の多くであった。
399藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/26(火)20:29:02 ID:2ZI
>>398

 ヘッドホンを外してなおも、白衣の背中が振り向くことはなかった。少女の視線に気づくこともなかった。
 気まま女である。傍若無人でもある。そして堂々とさえしている。微かに曲がった背中は、憂鬱さか鈍感さか。

 ――然しおびえたような声を聞けば、彼女はゆったりと振り向いた。やや丸くしたような目尻は、穏やかさの表れ。


「――ん……ま、嫌いじゃないし、悪くないと思うよ。もうちょっと詰めてほしいと思ったトコはあるけどさ」
「悪評にめげず今後とも頑張って欲しいね、スタッフには」

 その態度に不思議そうな声色で応えつつも、彼女の言葉に偽りはなかった。及第点の作品というのが、彼女の評価。
 なればこそ少女の決心を知る由もない。レジに並ぶ人の列はまだ長かった。今度は彼女の口から、独白のような言葉が続いた。


「面白い作品を作るっていうのは大変だよね。誰にも文句を言われない作品なんて、誰にも作れやしないだろうけどさ」


 あるいは少女の言葉に応じた、彼女なりの話題の継続であったのかもしれない。サブカルチャーに携わるひとりの人間としての見解。
 そして話題は次第に哲学性を帯びる。全て途切れずに長いレジの行列が原因であった。誰に話しかけるでもなく、虚空を見上げて彼女は呟いた。
 

「そういう意味で、考えるとさ。――"面白いプラモデル"って、なんなんだろうね?」


 ――語りたがり。議論好き。スノッブ気味。「蒼天」のファンにありがちではあった。取り合うか、取り合わぬか。
 
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400赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/26(火)22:20:48 ID:TCD

>>394
大きく伸びをする少女は、きっと、自分の格好なんて考えても居ないのだろう。
アイドルと呼ばれるからには視線の意識が染み付いてそうなものだが、少女は例外らしい。
しかし成程偶像足りうるポテンシャルは確かに、なんて呆れた目で眺めていた。

「そうかァ?
 好きにやってるつもりなんだがな。」

似たようなホビー狂いにはあっさりと見抜かれるヒールの仮面は確かに、素の顔と言う訳ではない。

「筋通そうなんて思ってねェよ。アンタ俺を買い被りすぎだ。」

気に喰わない物を気に喰わないと言い続けて、足掻いて、何時の間にか形成されてしまった仮面。
気に入らない、"玩具を愛さない"ような輩は消えてしまえと。おかしな事を言っている自覚はあれど、しかしその衝動を抑えられずに。
中途半端な熱ならば、いずれ冷めゆく恋ならば今すぐに消えてしまえ。
目の前で捨ててしまうぐらいに、折って、壊してしまえばいい。ならば自分が拾ってやれる。不本意な筈のヒールの仮面、手放す気は無くなっていた。

「別に誰彼構わず潰れろとは思っちゃいねェよ。ただの初心者を潰そうと思ったこたない。
何時"こんな"になったか知らんが......悔しがって欲しいんだわ。多分な。
熱はいつ冷めるかわからんが、俺に負けても悔しいって這い上がれるなら。そりゃ折れない奴だろう。」

それは余りにも不器用な選別。長く、出来れば生涯玩具と共に居られるような気狂いを求めて。
一般的な感性で言えば質の悪い存在でしかないだろうが、基本的には初心者を煽る様な事はしない。よっぽど舐めた態度を取らない限りは。

「ま、アンタが何を期待してても俺はこんなもんだ。
駄々捏ねてんだわ。こいつらの命を全うさせられない奴以外、触るんじゃねぇってな。」

ぽん、と。優しい手つきでパーツケースを叩
く。
聞く分には酷く、歪んでいるように思えるだろうか。結局それはデメリットに釣り合わない、どころか狂った思想の産物で。
病気なのだろう。玩具に対して、余りにも感情を込めすぎる病気。
401菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/26(火)22:47:17 ID:evW
>>399

「そっ、そ、そう、ですよね……! 少なくとも、1期は文句なしに面白かったんですから、実力はあったと思うんです!!
 ただ畳み方が雑になったのは本当に残念で……でも、その、私も、嫌いではないです」

 実に嬉しそうに、菱華はそう語るだろう。
 まあともかく会話の第一歩は成立したのであり、菱華にとってはそれでも百点満点であるくらいだった。
 抱える荷物さえ無ければ小さくガッツポーズでも取っているところだった。

「……面白いプラモデル、ですか?」

 “面白いプラモデル”――――どういう意味だろう。
 単純に組み上げる時の構造のことだろうか。『IB』シリーズはフレームに装甲パーツを嵌め込んでいく作業は確かに面白い作りであった。
 然し、旧シリーズのモナカキットを今風に稼働改造するというのも乙である……いや、これはそれとも見る側の話だろうか。
 そうなってくると、話は面倒なことになる――――が、少なくとも、辿り着く答えは何方も同じだ。

「……そういうの、考えるの、無駄じゃないかなって思います。

 ――――あ、いえ、その、別に悪いとかじゃなくって!!」

 無神経極まりない一言であった。
 或いはそれは彼女の思想の否定にすらなるのではないかと、彼女自身危機に思ってそういったのだ。
 別に、その哲学性自体は悪いとは思わない。蒼天ファンの考察は見ていて楽しいものがある。……問題なのは、彼女がそれを向けた先というか。
 
「自分が作って、自分が楽しめたのであれば、それがどんな形であれ……“面白いプラモデル”だと思うんです。
 だから……その、アニメ作品とは違って……プラモデルは、自分が満足するのが一番ですから。

 私は――――そういう、これが絶対、っていう定義は……決められないし、決めるものじゃないと思います」

 ……生意気を言い過ぎただろうか、と思う。 
 肩を縮こませて、段々とその声はか細くなっていった。が、それが菱華の思想である。要は、自己満足できればそれでいい。
 スミ入れだけでも、素組みだけでも、仮組みで満足したって良いじゃないか――――と。
 全く、議論を求める人間からしたら、余りにもつまらない人間だろうが。
402ニーナ・アルキファイス◆P8zupxgDdA :2017/09/26(火)23:11:18 ID:33m
>>376

確かにニーナは菱華を注意すべき相手と言った。
だが実際のところ、ニーナにはそんなことは関係ない。ニーナにとって勝つことが全てで、負けることは許されない。
その為に育てられた彼女にとって目の前の彼女もただの対戦相手に過ぎないのだ。戦ってただ勝つだけの相手、ただそれだけ。
ニーナは一時の友情や愛情などは抱くことはない。いや、抱いてはいけない。それらは勝利を遠くし感覚を鈍らせる。だからそんなものを持ってはいけないと教えられた、決定付けられたのだから。


『バトル、ですか。申し訳有りませんがマスターは今日は……』

「────いいわよ、バトル。ただし、条件がある」

『マスター…?』

ニーナには一つだけ分からないことがあった。
それはホビーバトルそのものだ。言うなればホビーバトルはただのおもちゃ遊びに過ぎない。
大会などが開かれたと言っても所詮は遊び。それに熱中したり、本気でやろうとする人たちの気持ちがニーナには分からなかった。
ニーナにとってみればホビーバトルは辛いものでしかない。故にそんな考えに至るのも当然といえば当然なのだろう。

「もしもこのバトルに負けたら、これから永遠にバトルをしない……それを条件にするのなら、バトルをする」

だから試す。
バトルなんてするつもりはないけれど、もしもこれで菱華が、菱華のホビーが拒否するのであれば彼女たちにとってホビーバトルとはその程度のもの。そう簡単に結論付けられる。
同時にホビーバトルはそれだけのものだと自分の中でも決着が付く。

だがもしも、もしもだが。
菱華がそのバトルを了承するのであれば、それは──────
403冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/26(火)23:16:36 ID:LKC
>>400

「好きに? アタシには〝軋んでる〟みたいに見えるっすけど。
 これも、本当は良い人であって欲しい、って希望的観測の仕業っすかね?」

自分で自分を茶化すようにケラケラと声を上げつつ、それは本心であるようには見えなかった。
敢えてズケズケと切り込んでいくのは、彼女が人との距離感を測るのが苦手だからという以上に、シンヤに善き人であって欲しいからだ。
ゴシップ的に騒ぎ立てられる壊し屋ではなく、一人の同好の士として。

「――実を言うと、アタシも最初はなずなサンに近い気持ちを抱いていたっす」

だからこそ、笑顔のままこんな話もできるわけで。

「なんで好きでやってるわけでもない子に、こんな才能があるのか。なんでアタシの気持ちはファイトに通じないのか。
 幾らチームメイトで友達だからって、そりゃ悩むっすよね。
 沢山アニメを見せたのも、勝つためというよりはメカに引っかかりを持ってほしかったからで……おっと」

つばきの言葉を遮るように、不意にひとつの機影が作業机の上に飛来し、小さな砂埃と重々しい音を立てて着地した。
影の正体は、翼竜を模した一羽の鋼獣。
テーブルの近くに据え付けられた調整用の小型筐体を見れば、稼働中だったそれが電源オフになっていることが分かるだろう。
どうやらこのやんちゃな闖入者は、さっきまで気ままな一人遊びに興じていたらしい。

「この子がテレビにも出てるククルっす。作業中VRで遊ばせてたんすけど、気になって出てきたみたいっすね。
 よしよし。お空は楽しかったっすか? そりゃよかった……」

つばきのパートナーたるククルのベース機は、『鋼獣創世記アニマキナ』に登場する『アズダルカス』だ。
作中においては古代文明が生み出した鋼獣という設定で、古代人の因子を組み込まれた帝国軍の少女が駆る〝空のライバル機〟として活躍した。
第二~第三クールを通して強敵の存在感を見せ、やがて味方となり、最期は暴走した巨大鋼獣の一撃から身を呈して主人を護る漢ぶりが人気の機体である。

――閑話休題。ククルはそのストイックでクールな機体の印象に反し、まるで小鳥のような仕草を見せる。
翼を軽く開いて首を傾げたり、つばきの手に身体をこすり付けて甘えたり。
それは丹念に仕上げられた塗装やバトルでの損耗を度外視して精緻を極めた造形以上に、印象に残る有様かもしれない。
404赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/26(火)23:49:48 ID:L5o
>>403

「……お前の人が良すぎるだけだなァ、そりゃ
 玩具弄りが上手だけで良い奴、ってんなら俺ァこうならん。
 何時か変なのに騙されるぞ?キナ臭い事件もあったろ。」

少なくともシンヤ自身は自分を良い人なんていえるはずも無い。
後悔等は無いが、やってきたことは褒められないと自覚している。
口から漏れる警告は、それでもどこか自己評価とずれているかもしれない。

冬芽つばきが直接バトルに参加しない理由は、雑誌か何かで読んだ覚えがある。病的なVR酔いだったか。
好きでもなんでも無い癖に、実力だけは持っている。そんな相手が直ぐ身近に居る、自分であれば気が狂いそうな案件である。
そういう所を考えてみれば、少女は強い。自身では恨みの対称にしか出来ないだろう相手に、夢を託せるのだから。

「気休めを言う訳じゃァないが、アンタも間違いなく天才だ。
 あいつの強さの半分はお前だろ。それに……ま、アレだ。アレ。」

それは彼にしては珍しい、気を使った言葉だった。
慣れていないのだろう、頬の色に紅が差し、前髪を指で弄り始める。

「態々、好きになって貰おうとまでしたんだろう。俺と似たような気持ちのクセに。
 ……上手く言葉にならんが、お前も大概ツエーって。」

なんとかなんとか言葉をひねり出そうと悩んで、諦めて、雑に言い放った丁度その時。
事前に雑誌やTVで見ていなければ、野鳥か何かと見まごう程にリアルな乱入者が。

「目の当たりにすると、コエーぐらいだわ。
 懐いたペットみてー……てかそのものって位だな、これ。」

勿論シンヤとてその元ネタとなるアニメを見ていたが、しかしその印象を覆すほどにその造詣、動きがリアル。
呟いた言葉は純粋な賞賛である。これほどの錯覚を見せるAI調整に対しての賞賛であるが―――
 
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405冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/27(水)00:19:42 ID:iyR
>>404

「確かに気をつけるべきっすね。アタシだけの身体じゃないし。
 ――って、赤鉄サンやっぱ良い人っぽいじゃないっすか~! やだな~もう!」

舌の根も乾かぬうちに、つばきは自分のことを心配してくれたシンヤにヘラヘラと笑いかけた。
とは言え、注意が必要なのは事実だ。彼女の身に何かあれば、それは事実上なずなのWHBT退場をも意味する。
ことホビーファイトにおいては、二人は間違いなくお互いの半身と言えた。

「エヘヘ。そりゃ嫌いや無関心より好きなほうが楽しいっすから。
 実際あながち無駄でもなかったっすよ。なずなサン、話は食い入るように見てますし。
 ただ――副作用っていうんすかね。上手く組めなくて素材を殺しちゃうのが、怖いみたいで」

つばきにとって〝壊し屋〟としてのシンヤは、〝敵が同じなので味方〟という位置づけだ。
騒ぎ立てられることに辟易しているだろう彼なら、こういう事情を話しても口が固かろう、と。
今までずっと笑顔だったつばきだが、なずなが組み立ての方面を向いてくれないことについては、若干寂しげに目元を伏せていた。

「……、あー、えぇっと」

そしてククルの真に迫った挙動を賞賛されると、つばきは珍しくしどろもどろになって。

「まあー、長い付き合いっすからね。それこそ『ぷりず』のみんなよりも。
 この子と一緒に飛んであげられないのは残念っすけど、その分、言いたいことを言えるようにしてあげたかったんっす」

「そういえば、赤鉄サンの子って『戦姫』っすよね。
 あれってわざとなんすか? それとも――手をつくしても〝ダメだった〟……とか?」

相当思い入れがあるだろう相棒の話を短く切り上げ、シンヤの相棒に話を移そうとするだろう。
戦姫から言葉を奪うなんて、と非難する(コナユキは試合のあと、ボロクソに言っていた)者も居る、『あの』処置。
けれどつばきには、やはりそれが悪意や八つ当たりによるものとは思えないらしかった。
406菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/27(水)00:22:28 ID:sMx
>>402

「は? やだけど」

「流石にそれは……」

 当然、その問いかけには難色を示して当然だった。
 ――――それにしても、特にアイゼルネスの返答は非常に早いものであった。最早即答と言っても過言ではないだろう。
 しかも表情もまた失礼極まるものであり。「何言ってんだこいつ」という表情を、全くと言っていいほど隠す気が無かった。
 俗な言葉遣いでそれを現すのであれば、『ドン引き』であった。……菱華の方は、もう少しまともな表情をしているのであるが。
 アイゼルネスを諌めない辺りに、彼女がどう思っているかは無意識のうちに現れているだろう。

「なんでそんなメリットの欠片も無い条件飲んでバトルしなきゃなんないのさ……そういうもんじゃないでしょ、バトルって」

 饒舌なのはアイゼルネスの方であった。
 頭の後ろで手を組みながら、彼女は菱華の下へとテクテクと歩き出す。
 ――――まるで、最早興味はないと、或いは、寧ろ其処には、微かな怒気すらも見られるくらいの。そんな態度だった。

「そんなバトル、全く楽しくないじゃん。『負けたら一生バトルできない』なんてバカみたいな条件背負いながら戦って。
 ていうか――――誰が私のバトルを制限できるっていうのさ!! 私のバトルは、私達のものだし。
 好きにバトルして、好きに勝って、好きに負けて、好きに楽しむ。それがホビーバトルだし。

 ――――なんか勘違いしてない? ホビーバトルって、遊びだよ?」

 そしてくるりと背を向けて、実に呆れ果てた、と言った表情で。
 菱華自身は止めなければ、と思っている。思っているが、同時にアイゼルネスの言葉を否定しきれないが故に……それは。
 言葉も態度も強いものであるが。言うなれば、彼女の代弁ですらあるのだ。故に――――遮れない。遮ることが、出来ない。

「あ、アイちゃあん……」

 酷く困った表情で、そう絞り出すのが精一杯だった。当のアイゼルネスには、欠片の静止にもなっていないのだが。
407赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/27(水)00:45:00 ID:HvR
>>405
笑いかけられる、と言う経験がそもそも少ない。へらへらと笑みを絶やさないつばきの相手は色々と慣れない経験である。

「気ィつけるきねェだろテメェ……」

特にこんな、気の抜ける相手は中々居ない。本当に。

隣に有名モデラーが居れば中々自分で、と思いにくいかもしれない。二人は互いに親友で、そしてライバル同士とも言えるか。
ある意味では似たもの同士なのかもしれない。少し、背負うものが大きいけれど。

「―――なんなら組まなきゃならん状況にしてやりゃいいさ。一発踏み込めば吹っ切れるだろ。
 リベンジマッチはその辺重点的に煽ってやっかァ?」

なんて、冗談っぽく。そこは二人の問題で、自分の踏み込める領域でもないだろう。
だからほんの少しだけ、記憶に残る程度の言い方で。
そしてこうやって冗談を言えるということは、赤鉄シンヤの悪感情は幾らか払拭されても居た。
あのホビー暴走の日の彼女は、少なくともあの戦いよりは本気の顔に見えたから。

言葉を詰まらせる事の無かったつばきがしどろもどろ。それは付き合いの深い人物であれば確かな違和感であったかもしれない。
しかし所詮はこの日に会った二人。追求する事も無く、シンヤは受け流してしまう。

「……ってこたァ何年前にこのレベルの造形を?
 回答次第じゃ、アンタ天才超えて化け物かもな。」

長い付き合い、というのをそういう風に受け取って。

「……コイツは拾った時からこうだ。
 旧式だからな。元々ンな高度なAI搭載してねーのか、失われたのかもわかんねェ。
 色々やってみたがシステムボイスしか聞けん。ま、それでも可愛いモンだ。」

すべての動機はホビーへの愛、であれば。当然そんな処置をするはずも無い。
"ジャンク"を構成するのはすべて嘗て捨てられた廃品であり、単純に旧いか壊れたかもわからない。
ただ、シンヤ自体はその事を気にしていないようだった。言葉を話そうが話すまいが、相棒に変わりは無く。
408冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/27(水)01:17:08 ID:iyR
>>407

「ややっ、躯体は年を追ってブラッシュアップしてるっすよ。
 最初からこうだったわけないじゃないっすか。アタシは、ククルと育ってきたっす」

にへらっとした無責任な笑みを、作る。
つばきは演じることには慣れている――ただ、シンヤの言葉には静かに胸を抉るものがあった。

 化け物――確かにそうだ。かつて衝動のままに〝それ〟を成し遂げて、アタシは自分を恐れた。
 その恐怖から目を背け、自分ではない誰かになりたいと思ったから、演じることを生きることにしたいと思った。
 逃げるように求めた世界で、掛け替えのない仲間や趣味を同じくする友人を得られた、けれど。
 この胸に鎮めた忌まわしい罪とは、きっと永遠にさよなら出来ない。

「……あぁ、やっぱり。有る事無い事言われてるんで、気になってたんすけどね。
 それ、幾らでも美談にできる……というか、美談じゃないすか。ほんと、生きづらそうな人っすよ」

ちゃんと説明すれば10人中9人は絶賛してくれそうな話を、敢えて今まで公表せずにいるシンヤ。
今更ベイビィ・フェイスには戻れないということなのかもしれないが、何というか、悲愴だ。
とは言え、戻れないのはつばきに言えたことでもない。――誰も彼もしがらみの中で、藻掻き続けている。
409赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/27(水)01:50:52 ID:Gzw
「あ、あァ......流石にそうか」

考えてみれば当然の事ではある。常にアップグレードを果たすのがホビーであるのだから。
ただ、それでもと思ってしまう実力を彼女は持っていた。

「......美談?美談か?」

きょとんと疑問符を浮かべる。本当に、どこが美談かをわかっていないのだ。

「好きならこんなモンだろう。どいつもこいつも。」

きっと、彼は基準が高すぎるのだ。愛が深すぎて、それを誰にでも期待してしまう。
生き辛いといえばその通りだろう。難儀な性格なのだ。

にへらと浮かべた少女の笑みに小さな違和感。
演じ作った笑顔にはどうしても力が入る。つい先程まで抜けきった笑顔を見せつけられていれば尚更だ。
荒っぽい口調は生来のもので、ホメたつもりの化物がこうも抉るなんて思わない。
ただ、その小さな違和感は無視できなくって。

「......そうだな、次はリベンジマッチが終わったら会おうや。
 今日の事はお互いに他言無用、ってな。悪役のまま倒した方が気持ちいいだろ。」

さり際にまた、と。もう一度会えるように約束を。
感じた不安のとおりに──────この笑顔が最後のならないように。
410赤鉄シンヤ◆.FuZ8eXCfs :2017/09/27(水)02:15:12 ID:Gzw
>>408
>>409
//安価付け忘れてました......
411冬芽つばき◆Y7uW0eJRp9Ye :2017/09/27(水)02:24:52 ID:iyR
>>409

「……ほんっと、数寄者っすねえ。お互い様っすけど」

今度は演技ではない、優しい苦笑をつばきは咲かせた。

いと高き理想を描き、しかしそれを理想(ゆめ)とは思わない男を、つばきは嫌いにはなりきれない。
彼女自身、同じなのだ。おぞましい秘密と、勝利の栄誉から遠ざかる呪いを抱えていてもなお。
逃げる場所ではなく、自分を肯定し、他者とつながる領域としてのホビーを心の底から愛していた。

「アタシはホビーにはいろんな楽しみ方があっていいと思うっす。
 浅瀬でチャプチャプでも、深みにドップリでも。作るのでも、戦うのでも、一緒に生きるのでも」

「あー、これ以上は野暮っすかね。続きはバトルおねえさんにでも聞いてくださいな。
 赤鉄サンとは全く見ている方向が違うっすけど――あの子だって、今は前を向いてるはずなんで」

そしてリベンジマッチの話が切り出されれば、ニヤリ、と不敵に歪んだ口元がシンヤに向けられて。

「エヘヘヘっ、わかってるっすよ。なずなサンは人情に脆いっすからね。
 あ、何も教えないとまたコナユキが凄いこと言い始めると思うんすけど、許してほしいっす」

思えばククル同様に、コナユキも感情表現が極めて豊かだ。ともすれば放送コードが危ういくらいに。
これもまた、「言いたいことを言えるように」というつばきの思想によるものなのだろうか。

「それじゃまた。クククッ……祝杯、奢ってもらうっすよ」

アイドルとしてはまずい笑い声から冗談を繰り出して、つばきはシンヤの背を見送るだろう。
全てが片付いた時、親友にネタバラシをする瞬間を想像しながら。――その時が来るかすら、わからないというのに。
412東雲真鶴 ◆0SuLG0jdAEYi :2017/09/27(水)22:57:12 ID:X0P
>>393
完敗、と言って良かっただろう。
わずか2つばかりの手の内しか見せられず、あまつさえ最後の一撃は見せつけられた手札だけで往なされてしまったのだから。
拳が飛ぶことも、腕が延びることも。あの吶喊の前には知っていたはずなのに。
それらがもたらすだろう結果を想定し得なかった、これは真鶴の過失だ。

「日向なにがしとやら、一廉の選手なのであろうな。
願わくばこの試合を勝ち残って...」

悔し紛れの独り言を、少し前に聞いたようなアラートが遮る。
そして電工掲示板の表記を見て、未だ起動していたコントローラーの液晶画面をみて。何とも言えない表情で肩を竦めた。



「すまないな、陽萬。どうやらお前の半身は少しばかり損傷が大きいらしい...」

高質量の一撃を受けた後ろ足は、ひしゃげてしまって動かない。
そんな様子でぐでっと頭を投げ出すように俯せになった鳥獣を撫でながら、屋台も並ぶ広場を歩く。

「ふーふふー、ふーふふーっ」

試合の中で流されてすっかり脳裏にこべりついた、どこぞの製作所の社歌を口ずさみながら。
413藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/28(木)00:06:05 ID:qGW
>>401


     「――……ふむん」

 女は、結論を焦らなかった。
 鷹揚な頷き。仮に少女が本当に害意を持った言葉を投げかけたのだとしても、彼女は落ち着いて聞き遂げていたことだろう。
 少しずつ弱くなる語調など、やはり彼女は知ったことではなかった。暫し虚空を睨んで、ひとり思索を巡らせてから、ゆっくりと唇を開く。

  「なるほど。ならば矢張り、或る種アニメと同じよ。言った通り、みんなが『面白い』と言ってくれる作品なんてない」
  「だったらそれはプラモデルも変わらない。自分の感性を信じて、多くの人に『面白い』と言ってもらえるだろうモノを……」



 ――言い続けようとする中で、彼女はふたたたび口を噤んだ。組み立てたロジックをみずから打ち崩して、新しい答えを求めようとする。


    「……違うな。そもそも、他人の評価なんて気にしなくってもいい。そう言いたいのね、貴女は?」
    「プラモデルはその未完成性ゆえに、購入した個々人との関わりによって、それぞれに違う『物語』を提供する」
    「なればこそ根底にあるのは自己の創造意欲であり、純粋にモノを作ろうとする心構えである……」


 そうして結局、また女は考え込むのである。そこに害意はなけれど、やはり傍若無人であり、ともすれば不機嫌さの発露にさえ見えてしまうかもしれない。
 だが彼女は単に、真理を追い求めたいだけなのだ。迷える己を導く規則を手にしたい、その一心に他ならないのだ。
 ――暫しの沈黙の後、ようやく彼女は少女のことを思い出したようだった。孤独な思索を律して、穏やかな感謝の微笑みを投げかける。


「いや、勉強になったわ。――ホビーの『可能性』というのを、また考え直す良い刺激になった。ありがとう」
「変なことを聞いて御免なさいね。本戦向けの最終調整をしているうちに、行き詰まってしまっていて」

「若し貴女さえよかったら、後でひとつバトルでもしていかない? 現時点での完成度、確認しておきたいの」

 躊躇わない提案をひとつ。――レジに向かう人の列。その半ばほどまでに、彼女たちは来ていた。
 
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414菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/28(木)02:27:43 ID:Vxc
>>413
「……えっと、その、……はい、そうだと思います……?」

 そこまで難しく考えるものでもないのに――――と思いながら、恐らくは彼女の言っていることはあまり自分の言っていることから外れていないだろうと。
 いや、自信はないのだが、多分そうだろうと。疑問符は消しきれなかったものの、彼女の言葉へとそう肯定の言葉を返すだろう。
 然し、何故そんなに考え込むのかがわからないのだ――――結局プラモデルは自分が楽しむものなのだということなだけなのに。
 分からないのはこの人のほうだ――――と思いながら。

「えっ、いえ、その、私で良ければ……

「――――ばとる!?」

「……あっ、アイちゃん、 変なところ触らないでぇ~!!」

 ……方角、声の出処は間違いなく菱華から――――然して、菱華とは全く違う声色が聞こえてくることだろう。
 ごそごそとそれなりの大きさの何かが、菱華のジャケットやワンピースを内側から押し返しつつ、昇っていく。 
 そしてそれが動く度に、擽ったそうに菱華は身体をうねうねと動かす――――両手に持っているプラモデル達を、なんとか落とさないようにと頑張りながら。
 

「――――するの、バトル!? したいしたい、バトルしたい!!」


 そうしてようやく胸元からひょっこりと現れたのは、その蒼い瞳をキラキラと輝かせた“戦姫”。
 先程まで、自身とは関係無い仕事としてつまらなさそうにスリープモードに入ってジャケットの内側のケースに入っていた菱華の相棒、アイゼルネスだった。
 バトル、と聞いて居ても立ってもいられず、スリープモードを解除して菱華の身体を這い上がってやってきたのである。
 菱華にとってはとんだ災難であったが。

「……はい、アイちゃん……私の戦姫もこう言っているので。私で良ければ、お相手しますね。
 ほらアイちゃん、ちゃんと外出て……恥ずかしいよ……」

「やったヤッター!バトルだー!」
 
 菱華がそう言うと、箱の上に菱華が持つ箱の上へとアイゼルネスは実に嬉しそうにはしゃぎながら転がり落ちる。
 そして箱の上を舞台として二回、三回スキップをした後、ひょいっとその肩の上に飛び乗った。
415藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/28(木)22:48:31 ID:qGW
>>414

 不意な声音に女は目を丸くした。くぐもって服越しに響く喜びの声は何者であったかを、彼女は暫し後に理解した。
 胸元から這い出、ご機嫌な動きで箱上に飛び移った戦姫を、白衣の女はまじまじと見つめる。


「……あら、アイゼルネス? 趣味合いそうね。あたしも好き」
「ありがちな高性能試作機って所から更に踏み込んだ、ハイエンド量産型――って設定、惚れ込むわ」


 そうして穏やかに笑う。されど声色ばかりは、ややもすれば微かな情熱が篭っていた。少しだけ、語らせてほしいような顔をしていた。
 彼女が好むのは、何も「碧天」シリーズだけではない。工学系美大生という奇異な経歴を持つ彼女にとって、あらゆるSFは嗜好の対象であった。
 例え、それが商業向きのスペースオペラであったとしても。創作に貴賎を持ち込まないのが、ひとつ彼女の主義であった。


「それに、対話インタフェースも積んでるのね。既製品のAI――では、ないな。……うん」
「会計済ませたら、向こうでやりましょうか? 丁度空いてるみたいだし、ね」


 両手の塞がる彼女は、やや仕方なしに店の隅に設けられた真新しい筐体群を顎で差す。そうしている間にも、列は進む。
 少女と共に会計を手早く済ませて、パッケージを詰めたビニールバッグを片手に引っ掛け、やや急く足でバトルスペースへと向かうだろう。
416菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/29(金)00:38:04 ID:UVU
>>415
「そ、そうなんです、アイゼルネス、好きです……!
 量産機であっても単純なグレードダウン、ローコスト化機体じゃなくて、運動性能は劣るけどその他の点においては寧ろ洗練されていて……!
 高火力高性能化のインフレーションを起こしていたあの時代の中で生みだされた中でも、頭一つ抜けているくらいなところとか!
 すごく、すごく好きなんです……!!」

「えっ、いや~そんな風に言われたら照れちゃうなぁ……」

 アイゼルネスについて、ほんの少しだけ踏み込んだ彼女に――――ぴこん、と帽子の上のリボンが揺れた。 
 実に嬉しそうに楽しそうに、蓮見菱華はアイゼルネスについて、ほんの少しだけとは言え、そうして言葉を連ねていった。
 ――――菱華もまた、多くの“オタク”たちと根本的な性質において代わりはないのだ。
 年齢は彼女とは大きく離れているものの。こと、好き作品においては、正しく“語りたがり”、であり。

「はい、アイちゃんは――――」

「私のAIは菱華の愛の結晶だよ!! だから私は最強なんだ!」

「ちょ、言い過ぎだって……」

 アイゼルネスのAIは際限しようがないものである――――成長型の、真っさらなものから、菱華の隣で様々なものを吸収して完成したものなのだから。
 だから、アイゼルネスはそれを誇りに思い、愛の結晶だと声高に掲げるのだ――――故に、だからこそ、自身は最強だという無尽蔵の自信にすら。
 会計を済ませて、早足の彼女へと急いでついていく。肩の上では、アイゼルネスが器用に準備運動をしていた。

「実は、アイちゃんもつい最近調整を終えたばかりなんです……だから、私達も試運転に付き合って貰う形になっちゃうんですけど」

「だからって、お互い遠慮しなくていいからね! よーし、バトルだバトルだ!

 ――――エントリー!!」

 戦闘用の装甲を纏ったアイゼルネスが、バトルスペースへと舞い降りた。
 準備は万端、待ちきれないとばかりに。今回のフィールドが展開されるのを、今か今かと待ち構えていた。
417藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/29(金)01:46:30 ID:0ie
>>416

 愛情と熱意に溢れた少女だった。白衣の女は決してその感情を否定することはなく、鷹揚かつ力強く頷いて応えた。
 驚くべきはアイゼルネスでもある。人間を癒す人工知能、人間を励ます人工知能は数多とあれど、人間を引き摺りさえもする人工知能は奇矯だ。
 少女の秘めたる情熱を受け取って、かの戦姫はここまで強烈な人格性を得たのであろう。
 ――それほどまでに衝撃ある感性を、今の己れは有しているだろうか。微かにその横顔に、憂いある微笑みが差した。

 だがそれも一時のこと。この競技を誘ったのは己れである。なれば、今ばかりは迷っていられない。


「全然平気。――その分だと、武装の方までカスタムしてあるんでしょう? むしろ気になるくらい。
 自己学習AIとのシナジーがどんなものなのか、期待できそうだしね」


 果たしてホビーに準備運動など必要なのだろうかという思考を一先ず彼女は横に置き、小脇に抱えるトートバッグに手を差し入れた。
 差し当たって自前のアーケードコントローラを取り出せば、USBで筐体に接続。個人用のテストモードを起動し、メンテナンス具合の確認。
 ジョイスティック・エイミングマウス・各種ボタンの反応を試す。ややマウス感度が鈍感。閾値を100から120まで引き上げて、――問題なし。


「そういや名乗ってなかったわね。あたしは篠見。藤原篠見。そんで、こいつが――」


 もう一度、彼女――篠見は、バッグの中に手を入れる。取り出されるのは、無骨な黒いツールボックス。
 白い指が外縁のトリガーを押し込む。――ボックス内に仕込まれたカタパルトが、内蔵された「その機体」を上方に射出する。
 オート化されたランディングプログラムはスタンバイ・ポジションとの高低差を瞬時に計算し、バランサーと脚部駆動モーターを連携させた機体制御を狂いなく実行。
 バトルフィールドに、悠然と立つ青白い機体。強靭かつ流麗な流線型の装甲に、角と複眼を持つ悪鬼のような顔貌。威風堂々とその背に負うは、規格外のエネルギー・シリンダー。
 

「あたしの、相棒。86式『武鷲』よ。」
「エントリー完了。――さ、始めましょうか?」


 「86式」。モデラーの世界では名の知れた、「魔改造向け量産機」。決して総合性能には優れず、拡張性を第一義の武器とする機体である。
 ジョイスティックを軽く弾けば、選択されたのはランダムステージ。己にとって有利なフィールドで戦うつもりはないという、彼女なりの矜持。
 乱数が選択したのは、「メガフロート」。海上となるステージに点在する足場と、中央部を走る高速道路を重ねた攻防が激しきステージ。
 筐体がVRフィールドを展開し、夕暮れに染まる海上都市が作り上げられたのならば、2体は高速道路上にて相対することになる。

 ――バトルスタートまで、3秒前。「武鷲」の青い複眼が、睨め付ける用に輝いた。
418菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/29(金)02:26:50 ID:UVU
>>417
 ――――やるならば、全力で。気になるくらい、などと言われてしまえばより一層気は引き締まる。
 頑張らなければ――――相手を満足させるくらいに、全力で。そして、今回は、勝ってしまえるくらいに、と。
 相手の機体は――――『闘機』。改造作例についてはかなりの数を見る、最早モデラーの中では改造を前提として見られているくらいの機体だ。
 そして、その拡張性があるが故に相手は未知数。そして、それを出してくるということは……少なくとも、モデラーとして、かなりの腕だと言っているようなもの。

「そ、そうだった……はい、篠見さん。私は……菱華、蓮見菱華です」

「私は……まあ、いらないよねー。じゃあ、よろしくね、ハチロク――――」

 カウントダウンが流れる――――視覚補助用のバイザーがアイゼルネスの目元を多い、モノアイに光が灯り蒼く輝いた。
 ステージは海上都市。高速道路と乱立するビル群達が足場となる場所……アイゼルネスには海中装備は無ければ、海上走行を得意とするわけでもない。
 ならば足場の把握が重要だ……接続したタブレット型のデバイスを何度かタップし、マップデータを開くと、アイゼルネスへとそれを送信する。
 それに合わせて、アイゼルネスが楽しそうに笑い――――

「――――ゴー!!」

 バトルスタートと同時に、左腕部に装着されたブースター・シールドを起動する。
 このアイゼルネスの前身となった機体、『ヴァルケン』が外伝漫画にて死闘を繰り広げた機体『クライング・イオタ』を参考に設計。
 従来のシールドにビーム・コーティングを施し、補助ジェネレーターを搭載することによる機体の急制動を可能とした装備であり。
 それは、バトル開始と同時にお互いの距離を即座に埋めるのに、余りあるほどの加速力を見せつけ。


「先手必勝!! ――――先ずはこいつの性能からだ!!」


 そして、そのままシールドの先端を『武鷲』の胴体部へと叩きつけんとするだろう――――そして、その瞬間に。
 先端部に搭載された、至近距離においての使用によって最も効果を発揮する、謂わばビーム・ショットガンとでも言うべきか。
 それを早速、極至近にて炸裂させることだろう。
 目元はバイザーによって覆い隠されているが――――それは正しく光り輝いていることだろう。口元は、満面の笑みに裂けるように。


「……背部のブレードに、巨大な背中のは多分出力のための砲……サテライト・キャノンに近い高出力砲かな。
 見たところそれ以外の射撃武器は盾に集中しているように見える。
 実体剣も持っているけど、あれだけの巨大な武器を持つならアイちゃんの方が格闘戦は得意なはず……だから、この最初の一手は、多分正しいはず」

 
 正しく、バトルにのめり込んでいると言うべきか……対象の武装からの得意レンジの考察、それに伴った戦術の構築とバトルの展開方法。
 表情は至って真面目そのものである。アイゼルネス程に分かりやすくはない、ないがが……やはり、バトルを『楽しんでいた』。
419藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/29(金)03:01:34 ID:0ie
>>418

 バトルの開始を告げるアラートが鳴り響く。――開幕転瞬、攻めるは戦姫。ブースターが大気を灼き、装甲纏う躯体を跳ばす。
 バイザーが宿すのは夕陽照る残光か戦意あふるる野性の眼光か。左腕部の装甲盾兼補助推力機は、一瞬にして彼我の距離を詰めた。
 されど其の瞬間、篠見は既に動いていた。反射じみた動きでスティックを弾き、右横方向に全推力を最大出力で集中。
 シールドの打突を限界まで引き付けて躱し、続く散弾ビーム砲の乱撃は、左腕装備の射撃盾を掠める程度に留めさせる。
 眼鏡に似せたウェアラブル・デバイスは、目まぐるしく変動する数値系を映していた。この回避機動でコンデンサ電力の過半を消費した以上、光学兵装の使用には困難がある。



「――上等。いい動きじゃない、貴女」



 自然と唇が緩んだことを、篠見は感じていた。まただ。歓喜している。この身体は。心血を燃やすような至高の緊張と、報酬系の過剰駆動。
 それはまだ燃え始めたばかりの種火でしかなかったが、然し彼女は知っていた。この感覚は、止まらない。
 デバイスから視認した情報から、刹那の内に幾つかのシミュレーションを組み上げる。ここからの勝ち筋。どう戦うかの道筋。


(主推力機の立ち上がりは互角だけど、ノビが違うか……ちょっとでも直線機動を取ると、ドバッと差が詰められる)
(判定勝ち狙いのガン逃げもできそうにない。――射撃戦で上手くやるしかなさそうだね)


「あたしも、遠慮せず行くよ。大破全損、恨みっこ無し――だかんねッ!!」


 そうして彼女は決断した。
 先程の回避機動にて空中に跳んだハチロク。スティックを弾き、ボタンからショートカットを入力。メインブースターの出力はそのままに、ベクトルだけを偏向させる。
 両肩から噴き出る蒼い噴射炎は燃え盛る翼にも似ていた。空中で機体を旋回させつつ、サイドブースターの推力を不規則に引き上げて、左右にぶれつつも後退する機動を取る。
 海上の空中に誘い込むような動き。同時に左腕部の安全装置を解除し、シールド内蔵のガトリングガンと空対地ミサイルを撃発する。
 狙っているのは半ばアイゼルネスであり、半ばその足場であった。安直な回避はさせない乱撃に、誘導弾の打撃を織り込む。まだ、彼女の動きは「堅実」であった。
420菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/29(金)21:07:33 ID:DK9
>>419
 アナログパッドによるマニュアル操作とは今時珍しい――――今ではAI制御の戦姫は兎も角、もっと直感的なインターフェースを使うのが主流だ。
 然しそれを使うだけの自信と、腕前は感じられる――――ブースター・シールドによる猛攻をほぼ無傷に抑えられるとは両者ともに思っていなかった。
 ブースター・シールドの出力のままにそのまま立ち止まること無く抜けて……能動的質量移動による姿勢制御を以て、身体を更に反転。
 
「おっと――――海の方にはあんまり出たくないなぁ!!」

「ミサイルは私が落とすよ、アイちゃんはガトリングと足場に気をつけて!」

「了解!」

 高速道路上をバック・ブースターを噴射しながらの疾走――――そしてシールドを構えつつ、背部有線制御支援火器を展開する。
 展開されたインコム――――菱華の左右前方に二つのバーチャル・モニターが展開されると、操作の比重はそちら側へと移行する。
 ミサイルの進行方向と速度を感覚で計算し、その進行方向に置いていく形でビームを撃つ。それはアイゼルネスに辿り着くこと無く中途で炸裂させる。
 足場である高速道路が破壊されるのは少々もったいないが、そこまで対応している程処理能力に余裕はなく、甘んじてそれは受ける、が。

「セオリーに忠実に――――そっちこそ、悪くない動きだ、けどォ!」

 ガトリングの掃射を後退によって回避しつつ、ブースター・シールドによって回避しそこねた部分を回避する。
 背部ミサイル・ランチャーを展開、垂直に放たれた六連ミサイル、合計十二発が『武鷲』へと殺到していくことだろう。
 そして、その合間を縫ってビーム・ライフルを放つ――――黄金の光条が、その片翼を撃ち貫かんと放たれるだろう。
 ――――肩部サブマニピュレーターが左前腕部に装着されたブースター・シールドを取り外し、そして固定する。

「だからこそ! 与し易し!!」

 左腕を前方に突き出すと――――前腕ごと、切り離され飛翔する。
 この機体がアイゼルネスであることに気付いていた以上、この武装が搭載されていることは予測できていただろう……で、あるがゆえに。
 ただまともに使っても予測されて切断されるだけだと見て……多くの攻撃の、対応に追われた直後にそれを放つことにより“不意を突く”ことを狙った。
 それは彼女の機体へと向かい……その、片足に掴みかからんとするだろう。


「そっちが! こっちに! 来ォい!!!」


 そして、そこで足を止めて、無理矢理その機体を引き摺り下ろしてやらんと力任せに“引き寄せようとする”だろう。
 無論、ご丁寧に右腕に握ったビーム・ライフルは再度そのメインブースターに狙いを定めて、引き金を引きながら。
421藤原 篠見◆.9ydpnpPps :2017/09/30(土)00:44:58 ID:has
>>420


(インコムの起動も、射撃も上手い。少し優勢を取れたとしても、手は抜けない。)


 シールド内蔵のハンドミサイルが3本の軌道に白煙を残す。然しアイゼルネスから展開された援護射撃システムの射撃によりその全てが迎撃された。
 粒子砲の残光が夕焼けを焦がし、届かぬ砲火の爆炎が広がる。連装ガトリングガンによる牽制射撃も決定打にはならず、かの脚元を砕くに終わる。
 放たれるビームライフルを後退射撃で躱しながら、VLSの集中連射にはガトリングガンの砲角度を調整、可能な限り発射直後に撃墜。
 ――撃ち漏らしが、2発ほど。その旋回半径に入り込み、噴進に対する誘導を間に合わなくさせるのが、ミサイル回避のセオリー。
 頭上から飛来するVLS相手では行い難いマニューバである。故に彼女は攻撃の手を止めた。エイミング用のマウスを奥に押して、機体カメラを上方へと向けようとした――その、瞬間。


「しま、っ――――――。」


 ――鳴り響くアラート。バランサー系統に異常発生。左脚部に駆動障害。ロックオン警告がけたたましくも、既に打つ手はない。
 無論のこと藤原もまた、アイゼルネスの武装構成から、その攻撃手段を理解してはいた。だが、反応と対処が遅れた。
 ブースター推力を最大まで引き上げつつも、地に足を付けたアイゼルネスの安定性能とでは勝負にならない。――放たれるビームライフルが、機体肩部を抉った。


「ッッ、メインブースターがイカれたか……!!」


 片背に負いし青い炎が弾け飛び、黒煙を吹く。右肩推力装置の急激な出力低下。幾度か始動トリガーを引くも、虚しく燃えるのは短絡。
 直ぐ様供給系統を遮断して修復スクリプトを立ち上げ、推進プログラムを再補正のち最適化。損傷後の機体推重比、0.862。
 それは即ち、自力での浮上飛行が不可能であるということを、これ以上は機体を「飛ばせない」ということを示していた。――そして、なおも掴まれたままの左脚。


「そっちがッ! その気ならッッ!!」


 なれば取るのは一つの方策のみ。
 再び全スラスター推力全開。方位290/360。内装熱量がレッドゾーンまで噴き上がる。青い片翼が、空を染める。その方角は、アイゼルネスへと。
 同時にスティックを押し込み、ガトリングシールドを爆砕ボルトにて離断。左腰のバスタード・ブレードを引き抜きつつ、右手をバックウェポンに伸ばす。
 引き出されるのはビーム・マグナム。片脚を突き出したドロップキックの体勢による急速な接近と共に、「武鷲」はそれを乱射する。

 落下姿勢でパワーダイブを図りながら、急速に接近する藤原の機体。再び彼我の距離が失われ、ふたつの機体が交錯しようとする瞬間――
 「武鷲」の脚部に装着された姿勢保持用アンカーが、蹴撃と共に起動する。本来であれば接地静止時の安定を図って用いられるそれは、アイゼルネスの胴体を撃ち抜かんと迫るだろう。
422菱華&アイ ◆pit0XHwivyYW :2017/09/30(土)22:02:11 ID:4Co
>>421

 そのままそこらに叩きつけて見せるか、水中に叩き込むか、それとも串刺しにしてみるかと考えてはいたものの。
 やはりそう都合よく行くものではないだろう。そしてだからこそ、アイゼルネスが好きなバトルなのであり。
 背部メインブースターを破損させたのは良い戦果である。空中戦闘能力は存在しないアイゼルネスにとっては、その優位を削げただけでも十二分。

「おっと、来るか上等!!」

 左腕を「武鷲」の脚から外し帰還させる。再接続とともに左腕部シールドをオンライン。
 恐らくは、近中距離での機動戦闘に移行する手段を取ったのだろう。その両手には先とは打って変わって武器を握り締めて此方へと猛烈に迫る。
 ばら撒かれるビーム・マグナムによる攻撃――――ブースター・シールドによって一撃を防御すれば、或いはそれを以て態勢を崩されかねないほどの衝撃。
 その一撃を以て、着弾地点のビーム・コーティングが引き剥がされるほどであり、即座に回避する方向へと対処方針をスイッチさせていく。

「アイちゃん、脚!!」

「――――あぶなっ!!!」

 穴だらけになっていく高速道路と、降り注ぐ粒子の乱射への対応に集中し続けていることによって、本体への警戒は半ばだったとでも言うべきか。
 全力のスラスター推力と、近接攻撃武装と化した蹴撃……のみであれば、まだ自身の装甲ならば耐えられる自信があったのだが。
 脚部アンカーの杭打機じみた運用方法に気付いたのはその直前――――咄嗟に、ブースター・シールドを前方に突き出した。
 その先端にアンカー・ボルトが叩き込まれ、その部分から盾全体へと罅が入っていく。すでに盾としての機能を失ったブースター・シールドの補助ジェネレーターを停止。


「アンタにはぁ、水底がお似合いだ!!」


 そしてスラスターの急速起動によって前方方向への速度を作りつつ、一歩前へと踏み出す。そして右手を握り締めて硬く拳を作り込み。
 そのまま、『武鷲』の頭部を思い切り殴りつけようとするだろう――――本来ならば近接戦闘であれば、ビーム・サーベルを使えれば一番良かったが。
 これだけのショートレンジ、下手をすればその動作すら時間の無駄、決定的な隙になる――――と、判断したが故にであり。
 目的は……頭部に対する衝撃によるセンサー類の打撃と、その衝撃のよって高速道路から、水中へと叩き込んでしまうことであり。


「――――まだだ! 菱華ぁ!!」

「うん、アイちゃん!! 当たれぇ!!」


 そして、菱華が叫ぶのに合わせて脚部装甲を展開。
 跳ね出すビーム・サーベルのグリップを左手が握り締め、更にそれが切断されて有線誘導によって、『武鷲』を追いかける形で迫っていき。
 その胴体部分をすれ違いざまに斬りつけて、寸断しようという――――その機動自体は、単純だが。
 然し、実に特異な動きではあった。有線制御式の遠隔攻撃装置を複数兼ね備えた、アイゼルネスならではの連撃を以て一気に攻めきってしまおうと。

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