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『World of Legacies』ロールスレ

1PL3LCLEHis:2018/01/27(土)11:29:53 ID:DuJ()
――それは空前絶後の出来事だった。
次元と時間の壁を越え、あらゆる世界が融合する――。
そして各々の世界を彩りし綺羅星の群れも、生けると死せるとに関わらず一つの舞台に集う。
百万の歴史を一点に束ね、新たなる歴史を紡ぎだすために。
そこに現れるのは戦火か、友情か。
あらゆる世界の遺産を受け継ぎ、今ここに新たなる価値を創造せよ――。

【スレについて】
このスレの舞台は、おーぷんやパー速などの過去のあらゆるなりきり世界が融合した設定の世界です。
そこでは同じ世界の複数の時間軸の融合も起こったため、過去スレのキャラを生死を問わず再登場させることができます。
また、既になくなったものも含め、過去スレのあらゆる建造物や組織・国家などの舞台設定を再登場させることも可能です。
もちろん新規のキャラや設定の使用も可能です。
強めのキャラクターも許容しますが、通常戦闘ではチートや確定描写を控えるなどマナーを守るようにしてください。
キャラクター審査希望の場合はその旨表記して雑談スレに投稿してください。
次スレ建ては>>950を踏んだ方にお願いします。

キャラクターシートテンプレ(必要に応じて改変可)
【名前】
【性別】
【年齢】
【容姿】
【性格】
【能力等】
【概要】

Wiki:http://wikiwiki.jp/w-o-legacies/
2プロローグ◆PL3LCLEHis :2018/01/29(月)23:03:33 ID:72m()
 「――――それで爺さん、伝えたいことってのは?」

若い男が随分と儀礼ぶったような整った声、表情、手の仕草で問いかける。
その相手たる老紳士は、それに応えるように、というよりもほとんど自然体の弱々しさと紙一重の落着きはらった態度で返答する。

「ええ、――でも念のため言っておくと、真面目な話ですよ?
“この辺り”の情勢についてです。」

若い男は仰々しい戯れを解き、その美しい顔を思わず苦笑いに染め、同時に両手を左右に流して参った、とばかりに一息ついてしまう。
成程、見た目はただの老人だが、その人生経験相応の観察眼に自分も見破られているということか、と彼にしては珍しく同性相手に感心してしまう。

彼らが今その身を置いているのは、一件の酒場。
豊かでも貧しくもない、地位としては所謂中流とでも呼ばれる人々の集う、何の変哲もない、しかしそれだけに穏やかな市民の憩いの場だった。
しかし、そこは決して賑やかではなかった。目立った笑い声は数えるほどしか聞こえない。それほど輝度の大きくない照明が、店内に仄暗さを残していた。

「簡単に言うと、この辺りには大きく分けて3つの勢力があります。
一つは『コンツェルン』。あなたもこの街に入って何度か広告を見たでしょう。その資本力と技術力に物を言わせ、この一帯のあらゆる分野の産業を事実上独占している大財閥です。
最早この辺りで豊かな生活は彼らの存在なくしてはありえませんが、一方で単純労働者には奴隷のような労働条件を押し付け、更には上層部には自らの財力を誇り彼らを見下す性悪な連中が多いようですな。
また、企業でありながら私兵集団とも呼べるものを有しており、金の代わりに暴力を用いることも多いのだそうな。

もう一つは『同盟』。これは魔法使い、剣士、エルフ、悪魔、魔法少女、あるいは異能力者――そういった、技術力の乏しい世界の出身だったり、豊かでないながらも特別な力を持つ者らによって構成される組織です。
彼らはこの地に台頭しつつある『コンツェルン』に対抗する者達です。彼らが持つ力こそが、彼らを『コンツェルン』の単なる単純労働者に甘んじさせない強みなのでしょうな。
資本力や技術力は『コンツェルン』に及ばないながらも、魔法をはじめとした不思議な力は決して侮れませぬ。
それに彼らは――特に魔法少女を中心に、『星のかけら』と呼ばれる集めれば願いをかなえるものを集めているようですな。

最後に――これは現実的に最も弱い勢力ではありますが――『共和国』です。“融合現象”以前からこの地を統治していた国家であり、魔法も異能も存在しないごく普通の日常が繰り返されていました。今ここに憩う人々もほとんどはその市民でありましょう。
しかし“融合”以後は異世界からやってきた勢力が元となって『コンツェルン』や『同盟』が生まれ、その抗争により国家は荒廃する一方です。
『共和国』政府は辛うじて存続しながらもその実力と存在感を弱め、戦火から市民を守る力も乏しく、故に市民の支持も失いつつあります。
しかしある時、政府は異世界から齎された謎の黒い物質に目を付けました。それには、一般人を能力者にしたり、通常兵器を未来科学や魔法にも対抗しうる超兵器に変えたりする力があることが判明したのです。そこで政府は、その物質の研究と能力者・超兵器の開発を開始しました。
そのようにして、今はどうにかこうにか戦乱の渦中で国家としての独立を保っているような状況ですな。」
3プロローグ◆PL3LCLEHis :2018/01/29(月)23:03:54 ID:72m()
ポケットに手を入れ、脚を組み、半ば眼を閉じながら分かった、分かったと何度も肯く様な様子で、若い男は老紳士の報告に耳を傾けていた。
その間、老紳士にはとりたててそれをとがめるような様子もなかった。
話が一区切り済んだというところで、若い男は眼を開け、赤黒く真摯な眼差しで老紳士の半透明の顔を貫いた。

 「――へぇ、争いが起こってるのは思った通りだが、超科学に魔法、それに異能と。これは宝石箱なこって。
 しかし、魔法少女と星のかけらも絡んでいるのか……」

「……ふむ、どうやら何か縁があるようですな。
そういえば、これは噂に過ぎませぬが――実は『コンツェルン』も星のかけらに何らかの資源的価値を見出し、それを狙い、そのことも『同盟』との抗争を加熱させる一因になっているとか……」

 「(……そうか。なら、俺も無関係ではいられないか……)」

若い男は、自らのコートの中でぼんやりと光る輝きにちら、と視線を落とし、程なくして老紳士へと向き直った。

 「しかしまぁ、なぜ俺にそこまでの情報を与える?
 いや、邪推しているわけじゃないが、美しいレディでもなければ俺は全面的には信用しない性分でね。」

「……ただ、“物語”を愉しみたい……それだけです。
それが悲劇になるか……喜劇になるかは……分かりませぬ。“あなたたち”自身が脚本家です。
しかし――どちらに転んでも“物語”は愉しい……――」

 「……ああ、そうかい。現状を見るならこれは間違いなく悲劇だろう。
 だが――悲劇の中でこそ英雄は輝けるものだろう?
 爺さんのお眼鏡に適うか分からんが、やってやるよ。戯曲は見るのも演じるのも大好物なんだ。」

「フフ……期待しています――――」

元々弱々しい老紳士の声がほとんど囁くような感じになったかと思えば、若い男の視界の中に既に彼の姿はなかった。
不思議に思いながらも、若い男は真摯な眼差しそのままに窓ごしの外景を眺めていた。
突如として響く地鳴りのような音と、外の地面を次々に覆い尽くしつつある巨大な影。
その場にいる誰よりも敏感に危険を察知した男は、会計も忘れ、足早に店を去って行った。

後に残るのは、飲み逃げを捕まえる余地もなく壊滅してしまった店の瓦礫と、人命が惜しくないかのように都心で抗争を繰り広げる『コンツェルン』の巨大戦車と『同盟』の巨獣部隊だった――――
4ラビム◆PL3LCLEHis :2018/01/30(火)23:52:44 ID:yw2()
“存在”が在った。
“それ”は歩いていた――――
いつぐらいからだろう、創世の昔からか、融合現象の初めからか、ついさっきからか。
始まりも終わりもない時間を彷徨っているのか、それとも――時間すらないのか。

「――――」

言葉はなかった。安易な言葉の標本に堕とし込むことは事実の価値を下げることを知っていたから。
ただ現実と最低限の繋がりを保つ五感が頼りだった。
耳は人々の溜息や欠伸、喧嘩の音を掬い取り、眼はどこまでも続くような汚い路地を映している。
肌は、季節柄の寒さだけではない何かに小刻みな震えを返していた。

「……ふむ。……ふむ。」

ただ肯いてその感覚を反芻するのは、一人の老紳士――らしき人物?。
いや、老人特有の弱々しさを通り越して、“人”と呼ぶことにすら一抹の疑問を投げかけるような虚無感を漂わせる――

「悲惨――それだけではないか。希望はまだ、僅かながら……」

自分の足がここに導かれたのも僅かなそれを期待してのことだったのかもしれない。
貧しくともなお生きるのは、心がまだ死んでいない証拠である。
大分歩いた。いつしかそこは郊外というにも街の外に近い位置になっていた。
誰か、外の者と相見えることができるかもしれない。
5ガルディア◆R7iX.lD3rE :2018/01/31(水)00:42:46 ID:3B1
>>4
虚無を漂わせる老紳士?に一つ。大きな影が落とされる。
彼がそれに気付きそちらに目をやれば、パワードスーツに身を包んだ年端もいかぬ少女が立っているのが確認できるだろう。
少女の背から伸びた巨大な機械腕は高々と挙げられていた。まるで老紳士を見下し威嚇するように。
外骨格に包まれた脚で歩み老紳士に近寄れば、人間離れした鮫のような歯を見せて意地悪げに笑い、そして口を開く。

「よぉ、おじいさん。こんな所を独りで散歩かァ?暇なんだなァ?」

どこか芝居掛かった口調で老紳士に言葉をかける。
この日常の空間には似つかわしくない機械腕は話している間、手持ち無沙汰を潰すように金属音を鳴り響かせながら指を動かしていた。
老紳士の漂わせる虚無感への疑問、人ならざるものなのではという疑問などは別段持ってはいないようで。
老紳士を見る少女の視線は見つめるというよりは睨みつけるに近く、されど口は笑みを崩さずにいた。
6ラビム◆PL3LCLEHis :2018/01/31(水)21:28:08 ID:aTk()
>>5
ふと自らの足元に伸びる影に、老紳士は気づいた。
彼自身は影を作らないから、それは背後にいる誰か他人のものだとすぐさま分かった。
太陽の光は彼を素通りしていく。影もまたそうであった。

「……やはり、来ましたか。」

ゆっくりと体ごと背後に振り返り虚ろな視線を向けた老紳士はしかし、それなりに穏やかともとれる表情をしていた。
まるで自分の庭にでもいるように。とはいえ、そこに訪れた女は庭の草木に遊ぶ雀と同じようでは到底なく、明らかな武装に身を包んだ容姿と今にも獲物を狙うかのような表情に、老紳士は内心気圧されていた。
さながら庭に突如として這い入ってきた熊に驚くように。表情はそのままに、擦るような足の動きが老紳士の身体を僅かに後方へと向かわせた。

「……ええ、いつもこのような感じですよ。
……でも、あなたの性質次第では、退屈が退屈でなくなるかもしれませぬ。
荒事はできませぬが、それに及ばない刺激程度は求める身でしてね――」

最低限の肉体性が本能的な恐怖を惹起するにも関わらず、似合わぬほど穏やかな表情はそのためだった。
予感に似た期待があった。それに応えたのが彼女なのだろう。そう運命の恩寵を噛み締めて――

「――随分、お強そうですね。普段は何を?」

人が普段世間話をするのと全く同じ調子で、そう問いかけた。
睨み付けるような女の視線はしかし、老紳士の虚ろな身体が今にも女の大きな影に呑み込まれそうな印象を受けるだろうか。
7ガルディア◆R7iX.lD3rE :2018/02/01(木)00:49:55 ID:iUM
>>6
荒事はできない___。その言葉に呆れたように息を漏らしそして機嫌を損ねたことを露骨に表情に表した。機械腕も拳を作りそれをぶつかり合わせ轟音を鳴らしている。
ここまで分かりやすく苛立ちを示したがそれを老紳士へぶつけようとはしなかった。

「別に何もしちゃいねェよ。ただ本能のままに欲望を晴らしてるだけだ。誰かに"協力"してもらってな」

少女は気怠そうに問われたことを答えた。少女の言う通り普段していることといえば極めて本能的な、自分の欲を晴らすという事だけ。

今日も手応えのある獲物を探して徘徊していた。しかし今、目の前にいるのはどこか虚ろな老人。少女は彼に対し少し小突けば倒れてしまいそうな印象を受けていた。
そんな者を傷付けても逆に鬱憤が溜まるだけだ。
故に自分の中にある嗜虐心、破壊欲、支配欲は満たされないと考え、柄にでもないが人の話に付き合ったのだ。
8ラビム◆PL3LCLEHis :2018/02/01(木)21:46:56 ID:cnn()
>>7
「(……おやおや。)」

一目で明らかな女の苛立ちを前にして、老紳士はやはり怯えるでもなく、しかしやや意外という風な表情をして、その様子をしげしげと観察する。
自分がこれまで見てきた人なり知的生命は、先ほどまでのような言動をしたからといって怒ることは滅多になかった。つまり、彼女は特異な例である。
その苛立ちの背後には何が横たわっているのだろうか。疑問に思っていると、程なくしてヒントが彼女自身の口から明かされた。

「……欲望、ですか。」

随分わかりやすい答えだ、と思ったのも束の間で、本質的には疑問が氷解していないことに老紳士は気づく。
ようは欲望が満たされないから機嫌が悪いのか。腹を空かせた子どものように。
しかし、私を目の前にしては満たされない欲望とは何か……?
それに、人は不可解なものであり、時には生命に相反する死をも欲望するものだ。なら、何を欲望してもおかしくないわけで、老紳士にはまだそれが分からなかった。

「……私ではその“協力”相手たりえない――そういうわけですね?
では、どのような者ならば貴女の欲を満たしえますか?」

底の見えない深淵の瞳が彼女に問いかける。それもまた“知識欲”という名の欲望だった。
9ガルディア◆R7iX.lD3rE :2018/02/02(金)02:29:17 ID:wH0
>>8
どのような者なら自分の欲を満たし得るのか。
本能で動いていたから、そんな事は一切考えたことがなかった。故に問われてから少女は一考した。
思考するために逸らしていた真紅の瞳を、考えがまとまったのか深淵へと戻す。
その時の表情に苛立ちはなく、再び鮫のような歯を見せて笑っていた。

「そうだなァ。威勢の良い奴、正義感の強い奴とか良いんじゃねェかな?
オレの話を聞いただけで許せないだのなんだの鳴いてきやがる
そんで殺そうとしてきたり更生させようとしてきたり、色んな手を使ってオレに刃向かう
でも最後には無様に命乞いしたり殺してくれーって頼んできたりするんだぜ?それが最高ってんだ
くだらねェ正義感や信念、そんなもん簡単に壊せるんだよ」

口数の多くなった少女はまるで夢を語る子どものように楽しげに話す。
自分の力で誰かを傷付け、壊し、支配したい。それが彼女の欲望。
もはや麻薬のように取り付き、彼女自身もそれに陶酔しきっていた。力を得た少女はそれでしか快感を見出せない。

「人を嬲る時にいつも思うんだ。なんでこんなに楽しいんだってな」

食欲、金欲、様々に欲望があるように自分の中にあるその欲望は当然のものだと、求めるのはおかしくないと少女は考える
喋りすぎたと思ったのか話すのをやめ老紳士の反応を待った。
10ラビム◆PL3LCLEHis :2018/02/02(金)20:18:09 ID:GcS()
>>9
「ほう……」

老紳士に脅威を与えたあの表情のまま、女は自らの“欲望”を語る。
尤も、彼はそのときになると最早同じような感覚は抱いていなかった。ただ、問いという空虚が綺麗に隙間なく満たされていく、その特有の心地よさに魂を浸しているのみ。

「納得ですよ……確かに私には正義なるものは分から“ない”。それに貴女に刃向う力も“ない”。
ただ、その虚無を埋めたいと、知識を求めるのみ。

――今度は……貴女がどう動くかを見せてもらっても構わないですか?
この国では三つの勢力が入り混じって攻防を繰り広げています。

その技術力と資金力を背景に市場を独占し、搾取を繰り返す大財閥『コンツェルン』、
それに抵抗する異能・魔法の持ち主たちによって構成される組織『同盟』、
そして、それらの抗争によって脅かされた市民の安全を守ろうとする『共和国』政府。

皆それぞれ違う理由で戦うでしょう。
貴女のように単に戦いが好きという者もいれば、貴女が望むような強い正義感の持ち主もいるかもしれない。
何にせよ、貴女が戦いを望むのならば私はそれを否定しませぬ――それが貴女の“物語”ゆえに。」

沈潜するような調子でそう結んだ。辺りがごく自然に静まり返る。
今も向こうの都心で進むビル建築工事の音が微かに聞こえる。より近くでは、貧民たちの気持ちばかりの生活音が聞こえる。
ここが――――“物語”の舞台である。
11ガルディア◆R7iX.lD3rE :2018/02/02(金)21:05:25 ID:wH0
>>10
「オレは財閥だの組織だの政府だの興味ねェ。
だがそいつらが闘いをおっぱじめてるってなら話は変わる
ははは……いいねェ、まだまだ楽しめそうだ」

状勢を聞いて少女の胸は恋をしたように高鳴る。
想い焦がれた闘争が、愛すべき蹂躙が、少女の元へと訪れようとしているのだ。
正義に満ちた者、異能を持つ者、同じ欲望を持つ者。
嗚呼、壊したい。支配したい。

感情が漏れ出したか、恍惚の混じった溜息を吐き出す。
そして少し間を置くと踵を返した。

「じゃあな、知りたがりのおじいさん。せいぜい死なないように生きるんだな」

背中を向けながらヒラヒラと手を老紳士へ振り、機械腕もその手と同じような動きをして見せた。
少女が歩みを進めれば、"物語"の舞台に無機質で猛々しい機械音が鳴り響く
破壊と支配を渇望する少女の"物語"は、これからどう紡がれてゆくのだろうか_____。
12ラビム◆PL3LCLEHis :2018/02/02(金)21:22:43 ID:GcS()
>>11
「…………」

無言。無心。目の前の相手を観察するに言葉も心もいらぬ。
ただ空虚な霊魂が老紳士の逆説的な本質ゆえに、女の有様をありのままに受け止める。

不思議、だがごく自然な感覚だった。恋に焦がれる少女ならこの目で何度も見てきた。
それと似ている。表情も息遣いも、語調もだろうか――――
数多くの群像が彼女に重なり、その抽象的で輝かしい本質を、錬金術のように霊魂の前に現前させた。

「ええ……“死”、それも私の興味を引き付けて止みませぬが、まだ早い。
貴女の――あなたがたの運命を見届けましょう。それが“観客”の本分。」

女が去っていく間もずっと彼は立っていて、役者が舞台に立つのを見送っていた。
混じりけのない虚無。事物をそのままに受け止めるにはあまりにも模範的な視線であった。――――
13城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/06(火)19:53:05 ID:7mY()
城。それは白亜の、中世風の。
もっと近くで見てみよう。それは老人の皺のような罅、黒い沁みを、また崩れ落ちた角質のような瓦礫を見せ、幻想を打ち砕く。
長らく打ち棄てられたそれは、風雪に曝され、尚も形を留め、逆説的な力強さを見せつけている。

その敷地内。欄干に囲まれた広々とした高台。見下ろすのは、深く広い堀。
水面は昼過ぎの陽光を複雑に照り返し、さながら大量のダイヤモンドがぎっしりと密集しつつ浮かんでいるかのようだった。
強い寒風が明瞭な音と共に何度も吹き、水面を揺らす。そのたびに勢いよく波が発生し、更に大量のダイヤモンドをばらまいた。

「……――――」

黒いコートの男は、その光景に言葉無く見入っていた。
両腕を欄干にかけ、下半身は脚をクロスさせて片足だけが地面を踏むという彼好みの洒落っ気を持たせた格好で。
寒さは平気だった。しかしあまりに強い冬の風に身が揺られ、思わず両足立ちに姿勢を正してしまった。
そんな自分自身の様子にも「フッ」と感慨の笑みを漏らし、冷え切った顔面に僅かな温もりを取り戻しては、芸術鑑賞を続ける。
一刻、一刻。時が過ぎていった。

//ソロールでも絡み待ちでもいけそうなのを一つ
14ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/07(水)03:05:24 ID:VBg
>>13
フィールドワーク。独自調査。そんな一環で、こんな辺境まで取り留めもなく辿り着いた。
すくざくっ、と、歩みゆくブーツが踏みしめるのは、風化して泥となった微かな粒。ああ無常。
手ごろな石を蹴飛ばすと、水面には、波。


「  穴場スポット、だな。そんでもって──どこにだって、繋がれそうだ」

ああ、こういう濃い遺跡には、たまによくあって、不可避なんだ。
 ──残留思念。
《悲願を果たした革命団長が、アバンギャルドな旗をたかだかと掲げた》

脳裏にそんなビジョンが、

《夢見し世界の果ての果て。救いをもたらす王子様。何の効果をも持たない、無欲の剣デュオス。そして叶わぬ少女革命》

途切れ途切れのテープのように描画された。



西洋の城をとりまく死生観に、輪廻はない。
  ただ一度きりの人生で、如何にして幸せを遂げるか。
限りなく高められた執着は、目には見えない幻想テープとして、ふとした拍子に自動再生される設定で、世界にこびりつく。


「審美眼って眼差しだったな、お前。  何か見えたりしたか?」

深く行こうとすれば、どこまでだって深奥へ行けるし、
何も見ようと思わなければ、生きながら死んでるも同然なくらいの他者になれる。
大事なのは、ちょうど良いバランスをとることだ。


冬の光を砕きゆく銀の瞳は、その虹彩が、雪のような淡い希望で満ちている。
俺はいつもそんな風にして、光との、世界との調和を図っている。


ふきすさぶ、一陣の風。
失われた時を求めるようにして、俺たちはここに居るのか。
今は亡きプルーストが、紅茶を啜り、感嘆をついた。
15城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/07(水)19:23:05 ID:1rW
>>14
「――ああ。見えるさ。
でも何(what)が見えるでもない、ただどうやって(how)世界が移り変わるかだけが見えている。それだけで十分さ。」

どこの誰かも分からないその声に、男はごく自然に応えた。
稲妻の走る空が光で満たされるように、魚が波に乗るように。
それは彼が世界との調和的関係を今、どんなときよりもこの上ないほど享受しているからなのだろう。
彼らの下には同じ風が吹き遊び、その間で声を媒介していた。

「ファウスト……って知ってるか。
風、石、水、土、木、光、雲、精神――
世界に縦横と蠢く諸力、その奥底に何が秘められ、全ての手綱を引いているのか、それが知りたい……と。

あえて求めるものがあるとすれば、それかな。
けどそれはいつも俺の頭の中の偶像に過ぎなくて、ただ変わりゆく風景だけが目に映る。
それでも、不思議と不幸せにはなれない。」

水面にさんざめく複雑な光の数々。それは確かに、この城の今は失われた栄光の時を偲ばせるマドレーヌの香りに他ならないのだろうが。
男は、その栄光のやや向こう側を見ているようだった。そこに何が映るともなしに。人はそれを、"未来"と呼ぶ。
16ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/08(木)21:03:50 ID:QyH
>>15
形而上。
「学問を知り尽くしたファウストは、次に実体験を求めたけど──それにもきっと、終わりはあるんだろうな。
全て体験し尽くしたら、ネクストステージは何だ? 知識、実体験、『ナニカ』、『超ナニカ』──、終わりはない。満ちることはない」


「それでも、"未来"だけは、無条件で美しいと、俺もそう思う。五感は俺たちに『生きろ』と奮いたたせる。それは生物としての本能なのかもしれないけど──」

「Hallo,world of Legacies.Though no where,──Now here」
“おはようを告げた世界。それがもしもどこにもなかったとしても、それでも"わたしたち"は確かにここにあり続ける”



「敢えて具体性を伴わせてしまうのなら、
俺は、ただ心のあるがままに、
──そこから生まれた感情や発想に、決して言葉によるラベリングを施さないで、
感じたそのままの温かさを忘れないよう、胸に手を当てて、ただ、瞳を綴じる」


「だから」

"未来"に、想いを馳せる──。



やがて、鳩が訪れた。欄干上をスキップのように跳ね歩き、オリーブを咥えている。

でも、全く同じ瞬間に、どこかで別の鳩が死んだ。病気で死んだ。肛門と爆竹で死んだ。人間を殺した後に死んだ。料理ベタが砂糖と間違えて死んだ。
ふとした間違えで精神が肉体から乖離して死んだ。


だけど、──この世界のどこかで、──雛が孵った。

オリーブを咥えた鳩が、君に、プレゼントを贈るような丸い眼差しをする。
17ヘレネ◆USPiH/O7pk :2018/02/08(木)22:43:38 ID:GQs
夜になれば昼の住民は寝静まり、それと入れ替わるように闇の住人が活動を始める。密売人、或いはモンスター、そしてこの街においては―――魔法少女。

「あの方は今日も見つからないか…」

街の中でも一際大きい、恐らくそこから見下ろせば街を展望できるであろう建造物の最上から、ほとんど明かりの灯っていない闇夜を見下ろす影が一つ。
よく見ればそれは、少女だと分かる。ブロンドヘアーを伸ばし、透き通るような白い肌、そしてこの闇夜ですら灯せそうな蒼い眼をしている少女だ。その姿はあまりにもこの場に似つかわしくなく、何か神聖なものすらも感じさせる。
そして、何よりも特徴的なのはその街における超お嬢様学校の制服を着ていて、その学校の生徒会の証を身につけている事である。すなわち、黒百合学院生徒会への所属―――魔法少女である事を意味していた。
そう、ここは魔法少女の街。魔法少女の戦場。魔法少女の監獄。魔法少女管理都市―――――瀬平戸市である。そして、彼女こそが全ての魔法少女を統括すべく暗躍する黒百合学院副生徒会長、ヘレネ=ザルヴァートル=ノイスシュタイン。

(あれから生徒会長は行方不明のまま、今は私が代理として生徒会をまとめ上げてはいるが、やはり会長の求心力は凄まじい。彼女が見つからない不安からか士気は以前よりも下がっている…あぁ、全くもって面倒な状況だ)

あの事件からどのくらい経っただろう。生徒会に従わない勢力との戦闘中に、突如辺り一面が光に包まれたのだ。生徒会のメンバーはほぼ全員がそれに巻き込まれた。
気が付いたら全く見知らぬ土地に飛ばされていて、しばらくしてようやく戻ってきたが生徒会長は以前行方不明のまま。
世界が融合した際に生まれた膨大なエネルギーによって生まれた光によって強制的に転移させられたと知ったのは後の事である。
それからは毎日のように会長を捜索してはいるが、未だに手がかりは何も発見されていない。

(とっくに死んでいるなら死んでいるで死体でも見つかれば良いものを!そうすれば皆諦めがついて私が会長の役を引き継ぎ、全ての権力を以て連中を皆殺しにしてやるというのに!
士気が下がっている事を悟られて反生徒会の連中につけあがる隙を与えたら面倒な事になるじゃないか!あのグズめが!)

ヘレネは内心悪態をつく。事実、最近になって反生徒会勢力の抵抗が激しくなっているのだ。
その上、絶対的な求心力を持つ会長が長期に渡り行方不明ともなれば士気が落ちるのは必然。それを相手に悟られれば付け入る隙を与えてしまう事になる。なんとしてでも、会長を見つけ出す必要があるのだ。

「せめて手がかりさえ見つかれば…」

ヘレネは深いため息をつく。答えるものはいない。冬の寒さで白くなった息は、そのまま闇夜に溶けていった。

/導入のソロール的な、絡み待ち的な
18城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/08(木)23:30:58 ID:pH6()
>>16
――――そこで
――――ふと、我と我が身のめぐりを顧みて
――――男は、自他未分離のゆりかごから眼を醒ます。

「……なんだか、不思議な気分だな。でもって、不思議な奴だな、お前。
……ふっ、こういう経験をすると、否が応でも語彙は貧弱になっちまう。この堀の輝きを見てるときもそうだが。」

その体験を表す言葉はないから。本当に美しいものを前にしたときに、言葉は光に呑み込まれる闇に均しい。
だから、“芸術”などという言葉は本当はどうしようもなく空虚なものなのであって――

「今お前が感じていることもそうだ。あんたは言葉から"距離を置いてる"。
でも、言葉を否定しているわけじゃない。それは装身具みたくあんたを美しく飾ってる。」

そう話している内にも、一つの“未来”が確かに訪れた。
皮肉である。オリーヴは平和の象徴であるが、この世界は戦乱の真っ只中である。
こういう出来過ぎた展開があると、ますますこの人生が秀逸な戯曲じみて、にやけ顔で神の手腕を素直に評価したくなる。

「――で、あんたも未来を見つめるとわかった。
どんな“未来”がいい?資本主義の関係網(Konzern)か、失われた幻想の時代の復古集結(alliance)か、それとも名もなき市民たちの共有財産(republic)か。
それとも……――」

3つの分かれ道がある。どれも荒れ果てているが、頑張れば通れないわけではない。
でも、与えられた道をなぞるだけが、やれることなのか?
人ならばそうだ。だが、人は人と超人の間にいる。その間の深淵に投げ渡された綱が、確かにある。
渡るか、どうか。
19琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/09(金)18:20:37 ID:4xq
目覚めると見知らぬ天井があった。いや、それは岩だ。此処は洞窟の中だろうか。

「うーん、……夢?」

頬をつねって返って来たのは確かな痛み。此処は現実ということだろうか。
眠りにつく前の記憶はある。いつも通りの日々を終え、いつも通りに自室のベッドで眠りについた筈。

「まさか誘拐!?」

その割には手足も自由で洞窟の入り口も開け放たれている様子。
改めて周囲を見渡してみると、祭壇の様な祠の様なものがこの空間の中央に存在している。
その上には木製の弓と三本の矢が入った矢筒、そして小さなナイフ。それらが安置されるかの様に置かれていた。

とりあえず誰の物かも分からないそんな物騒な物には手を付けないで外を確認しようと足を運ぶ。
外に出る直前まで逆光に照らされその景色は見る事は叶わなかったが。
――――洞窟を抜けるとそこは異世界だった。

そう、少なくとも私の元居た世界には空高くを飛んで火を吐くドラゴンなんて居なかったのだから。
其処は森の中にある大空を見渡せる拓けた崖の上だった。

「これって所謂異世界モノなのかな?」

一応現代っ子、若干ながらもそういう系の知識は持っていた。

「凄い凄い、こんな事って本当にあるんだ!」

非日常を目の当たりにして最初に心に湧きあがったのは感動で。
そして異世界に来たのなら武器は無いよりはあった方がマシだろうと、さっきの弓矢やらを取りに戻ろうと振り向くと。
其処には洞窟なんて存在しなかった。

武器無し、食料無し、土地勘無し。現在地は森の真っ只中。
無い事尽くしの異世界漂流が今、幕を開けた。


/始動ソロールと絡み待ちを兼ねて、今日は置きになると思いますが明日の午後から動けます
20ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/10(土)02:23:51 ID:I2k
>>18
「個人的には幻想を推すけれど、」
空虚。ただ白だけが横たわっている。カタチのない精神は、溶けて、白い空虚となりやすい。


「でも、それならもう、心に決まってるんだ      ──一旦全部、解体(バラ)したい」


   何か、噴き出す      ──  俺の、記憶。

思い出される感覚に、苦渋をしかめながらも、続ける。
「壊すのとは違う。解体──分解だ。他の何かと繋がりやすいように、接続詞だけは残しておく。」
ネクステージ。

「脱構築……とかいうのかな。
秩序とか、簡潔さとか、普遍さとか……そんな風にして、今現在はくっきりと輪郭を与えられた各勢力が
  アウトラインを溶けさせられて、ひとつとなってしまえばいい。どこかに偏ることなく、均一に」
それだけが"未来"。調和。


「溶けあうことで、各勢力とか、文化とか、そういうものに少しずつ共通性が生じて──そうなってしまえば、みんな同じ生命体だ。戦争なんてくだらなくなる。
好きな小説を語り合える相手っていうのは、嫌いになんてなれやしないんだ」
融け方が、甘い。まだ、表層的な発想のまま生じて
、そのままの世界。産まれたての赤子。心からのそのままの言葉で、思考を与えなければ。
融合現象というほぼ災害に襲われたものなら、俺たち意思によって復興を施さなければ。


「戦争によって、それぞれの勢力は、それぞれ自身の確かさを結果で証明しようとしている──みたいに、いくらバラしたって、確かになりたがるから、
だからどんなにバラしたって、それはいい感じに再構築されるだろうから、


  きっとダイジョーブだ」
21ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/10(土)02:24:04 ID:I2k
      …   …………    ……
         …… ……   ……──!!
          …   ……
「こんな、日常茶判事で“融合現象”に生じられるとさ、不安定に晒された俺たちは、どうもフィクションみたいな人生を送っている感覚に陥りがちだ。  けど    」
「人生を、ひとつの"物語"というスケールで捉えて─未来はだから、可能性だから─ だから今 この瞬間を、何度だって繰り返してやる」
永劫にだって回帰してやる。


 氷       青い     Lハーモニー
       愛        脂      
     親衛隊士    トルストイ2号    絞殺獣
  Mバランス    肉機械   オールド=ゲロ=テクノ           テルリア     ゼロエントロピー
    ドストエフスキー3号   原初の光   こた、えろ!
こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ!



再構築される、俺。
──……瞳は虚銀を、髪は実存銀色を帯びた。


オリーブ鳩の傍に、ナノマシンの集合体が飛来する。鳩は自らの意思でカラダを差し出す──ナノマシンが全身を喰らい尽くし
          ──再構築。
俺専用の伝書鳩となる。咥えていたオリーブはある文書に再構築されていた

くちばしによって器用に文書は開かれた────
22城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/10(土)19:52:14 ID:KAT
>>20-21
「……」

“それ”は正に“超人”の宣言だった。
力強く、遠大。眼下に口を開ける深淵を前にしてそれを恐れず、綱渡りを厭わない。
“融合世界”という深淵を前にしてぶち上げられた、解体と融合の見事なヴィジョン。
見事過ぎて、あるいはそれは福音にすら聞こえるかもしれない。

——福音?しかしそれは、神なきこの地平において——かつて哲学者が告げたように——最早妥当性を認められないものなのではないか?
純潔な空気の中に、突如として濁りが生じた。男は、「超人」を志す者が得てして陥りがちな、逆説的な運命に思いを至らせ、思わず悲痛そうに表情を曇らせ、視線を目前の男から逸らしてしまう。

「——ダイジョーブ、か。ああ、そうなることを祈ってる……」

大丈夫。ダイジョーブ。No problem. Que cela cela.
言葉は全て空虚だって知っている。でも今となってはそれだけが魂を安らえさせるおまじないだ。
皮肉だな、と思って男は再びやや笑みを取り戻して。

「——それがお前の“再構築”か。
確かに『ダイジョーブ』とでも言い聞かせないとやってられないだけの“危うさ”は感じる。
けど……言い尽くしがたいだけの“面白さ”、“美”はある。
“美”——それだけは、いつまでも忘れてやらないでくれ。」

でないと、人は生きる意味を失ってしまうから。
危ういがしかし刺激的に平衡を保つ感覚のまま、開かれる文書の内容を待った。
23ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/11(日)01:25:23 ID:C22
>>22
◆◇◆◇◆◇◆◇伝書鳩による文書◆◇◆◇◆◇◆◇

  〝雑談スレの>>83の、キャラシート〟、そのもの。それが文書。
   ヘルベティカ体──ぞっとするほど等間隔に美しく並ぶフォントで、綴られていた。
  
◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


キャラシート。俺の朱肉つき。経歴書とか、履歴書とか、自己PRとか、そう呼ばれたりもする。
多文化的な企業とかが、これから行動を共にする新メンバーにあらかじめ書かせたりしている。融合以前にいた世界などの、差異を理解するために。
第三者的な記述。見せられるものしか書かれない。それでも、少し知ってしまうと、だから逆にもっと知りたくなる。


理解を深め終えた。青い機械によって拡張された鳩が、終わりを見計らうと、くちばしを強く擦りあわせ、発火させた。
朱を帯び始めた冬の冷たい光に、微かな燃光を尽かしつつある文書。
役割を果たしたのは文書だけでなく──鳩も。鳩は自壊する。粒子レベルにまで分解されて、散った。青い光を伴って。

灼け去る塵や、光去る青い粒子を虚ろに眺め、
「──  清々しい」


「忘れない。美し過ぎると、なにがなんでも神の所業にように、理想主義になってしまうから──」
神は死んだ。
「泥臭くやる。糞みたいな醜さを、讃えていこう。ダイジョーブさの可能性を、せいぜい高めておく」
24ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/11(日)01:26:44 ID:C22
>>22/続き


神は死んだんだ。それはいいことでも悪いことでなく、人間に対する事実に過ぎない。
自然から乖離しつつあるわたしたちは、わたしたち自身で枠組みをつくっていかなければならないということ。
我々は決して神ではない、決して成れない。でも、人と超人の間でもできることは、想像よりも遥かに多かったりする。
人の未来の、人に祈ろう。




感知。
鳩を再構築したナノマシンは、俺のカラダを巡るらしい青い脂が引き寄せたものらしい。感知できる。青い脂が、第六感の追加をもたらしたから。
〝青覚〟、と呼ぶべきか。
キャラシートにも書かれていた通りに、内宇宙とも呼べるインナースペースに──どうやら獣が棲息しているらしいということも、感知できる。


試しに、ジッパーを開き──覗きだすのは、青黒いスペース。両腕をおしこむと、ぐちゃぐちゃの精神のような、肉のような、抵抗がかえってくる。
探る。〝青覚〟を研ぎ澄まし、──見つけた。
心の底から、引っ張りだす。


ここは、湖面に取り残された、ひとりぼっちの風化城。残留思念は城という単位で結合されて、それはきっと寂しんでいる。どことなく憂いの森に囲まれて。
冬の太陽と空の間、静かに空いた世界に。──憧れてしまったかのように、生まれる────


  青黒い、犬?。人間の二倍のサイズ感。
青い羊水に塗れても、がくがくと慣れない脚を、徐々に立たせる。犬自身も青い脂身を、所々剥き出しにしている。
既に成人している。後はもう、完全に立ちあがるだけ。

「犬が大丈夫になったら、」
ヴィクトル・ペレーヴィン
 「絞殺獣  に、乗って帰ろうと思う。──近くの都市まで送り届けるよ。お前さんも、どうだい?」
夕暮れのような、"美"以外の思想を明るみにしていない、名前も知らない相手に、尋ねる。
25城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/11(日)11:59:27 ID:xzn()
>>23-24
「(――どこかに所属しているのか。この技術からして、『コンツェルン』辺りか?)」

推測を深める。それは紛れもなく深淵であり、泥沼であり、一度足を突っ込んだが最後、最後まで関わりを持ちたいと思うようになる。
いや、融合世界の総てがそうかもしれない。深淵は今ここに、総ての次元と時空を包む大口を開けたのだから――――

「“戦慄”の美というのもある。整いすぎていることは機械みたいでかえって気味が悪いからな。
本当のハーモニーには不協和音もまた必要ってことさ――。」

美と醜の入り混じる深淵では、“あれかこれか”の思考なんて通用しないのだから。
“あれもこれも”。神は絶対たることに執着しすぎて、逆に相対的なるものに殺されてしまった。
整った白皙の顔立ちに不思議と矛盾しない傷と煤だらけの黒コートを寒風に重々しく翻しながら、男は次なる相手の所作を見守った。

「――――フッ」

正に戦慄。人が人自身の規定性を食い破っていくかのような。
解剖学、とは少し違うのかもしれない。あれは所詮、死んだ化石を標本にするだけなのだから。
生きながらにして自らを解剖する、あるいは、その場その場で決断し(entschließen)、生きることそのものが自身の生理学的な開示(Entschlossenheit)である、そういうことなのかもしれない。

ふと、自らの左腕の“悪魔の腕”を両者の目前に擡げる。それが何よりの身分証明だと知っているから。
赤黒い腕の彼方を見つめる赤黒い瞳は、青黒い獣の到来を欠片の揺るぎもなく見届けた。
あるいはそれも、一見静かな彼の内面の一部かもしれぬと思いを馳せながら。

「ああ、助かるぜ。暫くはあの都市が本拠になりそうだからな。
俺は城ヶ崎 廸久(じょうがさき みちひさ)。魔術師だが――とりあえずは傭兵稼業で食っている。
今はこの“戦争”をいい塩梅で終わらせるために――あんたの謂う“脱構築”を果たすために動いてる。
そのためには、どこの勢力も決して圧倒的になっちゃいけない。“差異”が潰されちゃどうしようもないからな。」

獣が準備を整える間を利用して、簡単に述べる。
その表情や仕草に忌憚はなかった。
26ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/11(日)20:54:27 ID:C22
>>25
獣はゲロを吐く。生青い酸液が容赦なく風化砂の地べたにぶちまけられた。
バランスがとれない──後脚を引っ張るように取りつく、異常肥大している脂塊が邪魔だ──!
頭を高々と擡げ、そして上から目線で不愉快の原因に照準を定め、

アタマをぶんさげる。ハンマーのように振りおろされ、脂身に、喰らい尽く──黒い牙によって、容易く削り取られ、

──べちゃっぁ、っと彼方へ吐き出す。


飼い主を認識。同調が行われる──Mバランスが平衡化され、Lハーモニーの調和が完了した。




差し出される腕。
(色のない世界において、お前も黒側"ブラックサイド"の人間か。決して齎される白い光には、英雄には、なれない。けど──)




常態の四足歩行になる、青黒い獣。──眼の前の黒い男を、上から下まで見回す。
<item>

<赤黒い腕──悪魔?。煤と黒コート。黒寄りの、人間性。信頼の蓋然性十分>
</item>

<clear──?>   </allclear>
がらがらの瞳に、生気が真ん中に宿る。やがてふたりに背を向けた。
27ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/11(日)20:55:17 ID:C22
>>25/続き
真っ先に飛び乗るヴァーチ。
そして、手を差し出す──

(英雄には到底できやしない、醜くも美しい在り方。そういう、最高密度の黒色だ)

「  виртуальн  ──ヴァーチだ。よろしく」


握手のように。そして、引っ張りあげるように。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄
風化城は、既に限界だったのだろう。出発の途端に、ひとつ崩れ落ちる。立て続けに幾つもいくつも崩れ、湖面へと叩きつけられる。
さらば。

振り返ることもせず、青黒の獣は駆けた。冬に溶けつつある夜の匂いを嗅ぎ分けて、最高速度でつっぱしっていく。
雪の森。山。熊。雪原。星空。北極星。溶けない小川のせせらぎ。

そして──、


開ける、   煌びやかな黒の光──。
州間高速道路、中央自動車道。そういう整備された、道。
静かさのバイクが音もなく背のほうへ通り過ぎていく。
天蓋無き高級車がテールライトの尾鰭を道路上の空に描きながら、遠く後方へと去っていく。
絶え間はあるが、断続的に、マシンの交通が繰り広げられる。
ここは、まだ郊外。近郊産業が流行っている──中央を眺めると、それは



    ──摩天楼。ライトアップビル&タワー。広告挺。
     ──『共和国』の、中枢都市。


まだ、近づく時ではない。強く睥睨すると、もう二度と脇目にもしなくなる。



到着。

「戦争は、一度起こってしまった以上、どう収拾をつけるか。理想を企てるのでなく、極めて現実的に処理していかなくちゃならない。」

郊外の、煩雑な街路。おおよそ、繁華街か。
そこの──デッドスペース。複雑化した都市において、誰の目も届かない、プライバシーの秘境。
おろす。

「表層的なところでは、確実に目標の一致した、同士だ。それなら、またすぐにでも会えるはず」
28城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/11(日)22:51:15 ID:xzn()
>>26-27
「――ああ。」

差し出された手に、城ヶ崎は迷わず左の悪魔の手を返す。
そして取る。普通は、人間のままの右の手でなければ握手には応じないのだが――
しかし、単なる信頼関係とは違う、思想上のベクトルの一致――あえてモダンな言い方をすれば、世界理性が矛盾なく彼我を調和させるようだから――により、ヴァーチを単なる他人と見做さなかったからだ。

引っ張り上げられ、獣の上に乗る。
“失われた時”に別れを告げ、彼らは山野へと赴く。
『共和国』の領土内でありながら、およそ人の手の加えられていないであろうそれを駆け抜け。
そして彼らは、コンクリートと鉄とネオンの森へと辿り着く。
まるで人類の歴史を辿るパノラマのようで。圧巻の速度で繰り広げられたそれに、城ヶ崎は思わず眩惑されたようになった。

「理想主義者ならとっくの昔に卒業している。
いや、理想が現実で肉付けされつつあるというのがいいんだろうな。理想は――決して死んだわけじゃない。」

街の喧騒が耳に入りながらも、光までは完全には届かないような、都市の裏側。
交わす言葉は闇の中を何度となく跳ね返り、決して表には出ない。

「ああ。世界の行く末を見つめていれば――必然同じところに辿り着く。
じゃあな。」

そして闇は完全なる闇となった。
29ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/11(日)23:41:06 ID:hRe
がたん、ごとん、といくつもの荷馬車が列になって山道を行く。
なだらかな坂は左右を青々とした木々に挟まれているが、天頂から降り注ぐ陽の光を不自然に遮ることはない。
鬱蒼とした、というよりは長閑と言った方が相応しいだろう、そんな道だった。

彼らはいわゆる行商隊だ。街から街へと物資を運んで利益を得る、流浪の商人達。
今もまた商売のために、山を越えて次の街へと向かう途中であった。
そして商品を守るために一時の護衛を雇うのもいつものことだった。
特に山道などなにがあるか分かったものではない。野生動物ならまだ可愛いものだが、物資を求める盗賊などに遭遇してはひとたまりもないのだ。
だから彼らは行商において、必ずその間の食事と幾許かの報酬を約束して行きずりの者を何人か雇う。

さて隊列の最後尾、商品を積んだ馬車に後方を向いて座る少女が一人いた。
真っ黒な髪とローブが風に流れるのに合わせるかのように、投げ出した足をぶらぶらと揺らしている。
頭頂部の獣耳がたまにぴくりと震えて葉擦れの音に反応した。
商人達に雇われているのならば、最初の顔合わせで名前くらいは覚えがあるだろう。とはいえまだ互いにそれだけの関係だ。
少女の横顔はどことなく退屈そうで、空を仰いで手のひらを陽光に翳していた。
30城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/12(月)00:12:41 ID:yWh()
>>29
同じく隊列の最後尾。
雇われた護衛の一人である黒いコート、銀のアクセサリー、そして赤黒い左腕の男は、頻りに辺りを見回しながら徒歩で隊列に付いて行っていた。
――――しかし、やがて彼も少女と同じような気持ちを共有しつつあるのだった。
辺りを見回すのは警戒のためという名目だが、こののどかな田園風景、賊や魔物が現れそうな不穏な雰囲気もなく、やがて男の関心は横の馬車に腰掛ける少女に向けられることになる。

そして――――少女が手で陽光を遮るまでもなく、歩み寄ってきた男の影が少女の元に伸びた。

「――――幸い、この辺りは平和そうだね。
これならちょっとしたデート気分でこの任務を終えられる――そうは思わないかい?」

それが第一声だった。
あまり話さなさそうな子だ。どういう反応が返ってくるか、あるいは返ってきたとしても、それが好意的なものであるかどうか。そもそも年齢の差が――――
そういう見通しは、必ずしも良くないとは分かっている。
けど、このまま彩りのない任務を遂行し、冷たい金属でできた丸く薄い小さな板を貰うだけだというぐらいなら――――そして彼は一介の傭兵たることをやめ、一人の“男”としてそこにあった。
彼の表情は、ただ機械的に辺りを見回していたときよりは幾分と生気に満ち、愁いを帯びながらもそれだけに明るすぎない優しさに溢れていた。
31ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/12(月)00:51:27 ID:QAu
>>30
手のひらで太陽を隠しても指から溢れる光に目を細める。少しの後悔が眉間に浮かんだが、すぐに別の影に遮られた。
男の声には顔だけをそちらに向けると、声をかけられたのが意外だったのかやや首を傾げる。
光を掴もうとした手はまた所在なさげに荷馬車の縁に添えられた。

「デートにしては、少し退屈すぎるんじゃないかな」

少女はなにを考えているのか悟らせない、あるいはなにも考えていなさそうな表情で返す。
とはいえその声色から、男に対する警戒心や敵意は感じられないだろうが。
やはり同様に何事もなく目的地に辿り着けると考えているのだろう、少女は束の間の暇潰しに付き合う事を決めたらしい。
ふと少し顔を上げて道端を覆う深緑を見やる。また風が葉を揺らした。
かれこれ数時間は同じ景色だ。ここまで順調な道のりに、周りの空気もどこか弛緩しつつある。
でもまあ、とエメラルドグリーンの視線を男に戻す。少女の方が見上げる形だった。

「楽にこしたことはない、と思う」

誰だって楽をして利益を得たい。国が違おうと世界を隔てようと、誰もがそうありたいと願うだろう。
社会に浸かる人間ならば誰しもが考える、ある種普遍的な理想の形。
ただそれを口にするのが、まだ自分の身で稼ぐには些か幼いであろう少女なのだが。
32城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/12(月)22:45:12 ID:yWh()
>>31
概ね予想通りの反応だと思い、しかし表情は変えなかった。
だからこそ、というべきなのか――彼には元々ナンパを成功させようなんて魂胆はなく、ただ無機質な時間をどうにか変えたいと思ってのことだった。
反応が返ってきただけで御の字というものである。彼の内心は、今非常に落ち着いており、余裕がある。

「僕もそう思うよ。だからこそ、こうして話がしたかった。」

しかしどうも相手の内心は読みづらい。読めない。
それでも、話に応じてくれただけ敵意はないに相違ない。
ついさっき知り合ったばかりの男から、急に恋人扱いするような言葉を受けて、どぎまぎするでもなく、冷静にそういう表情と口調で返せるということは、見た目に似合わずその手の経験には慣れているのか。
それとも、恋愛を自分には関係ないと思うまでにそういう感情が欠落しているのか。
周囲の深緑に目を落ち着かせながらする様々な想像が男の脳裏を駆け巡り、彼のロマン的精神に滋養を与える。

「ああ――そうだね。人に余裕を与えるような状況が続くというのは、大事なことだ。
生きるために必要だと、忙しない気持ちに心を満たしてあれこれと周りに気を揉むようなことが続けば、結局心は死んでしまう。」

声に対し、傭兵としての殺伐とした日々に倦んだ瞳を癒すようにぼんやりと緑を眺めながら、男は応えた。
ここで相手へと視線を合わせると、相手が見た目は年端もいかない少女であることを改めて確認し、少し話の方向性を修正しようとの気持ちに駆られる。

「――――と、このままでは随分と退屈な話になりそうだ。
君ぐらいの女の子なら、どういうことになら興味があるかな……」

そう考えてはみるものの、これといった事柄は浮かびはせず……
33ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/12(月)23:41:16 ID:QAu
>>32
表情にこそ浮かんでいないが、少女の男に対する印象は変わっているの一言に尽きた。
退屈なのは分かる。誰だって延々と続く代わり映えのない緑並木には飽き飽きするだろう。
無為な時間から脱したいというのも理解できる。何事もないのが一番なのだが、こうも刺激がないと時を無駄遣いしている気になる。
しかし、だ。そこで自分を話し相手に選んだ事が少女にとっては不可解であった。
雇われの護衛はなにも二人だけではない。年の近いだろう同性も何人かいたはずだ。彼らの方が話も弾むだろうに、少女にはそれが不思議に思えた。
無論少女は恋愛の何たるかを知らないわけではない。男が女に声をかける意味に気がつかないほど鈍感ではないのだが、今回に関してはそう考えていなかった。
そういう対象として捉えるには互いの、少なくとも外見年齢に些か差があるからだ。男にそういった嗜好があるというなら話は別なのだが。

「……うん。これもきっと、大切な時間」

小さく頷く。まるでかつてそうであったような男の言葉に深く立ち入る事はない。
彼に過去なにがあったのか少女は知らない。知ろうとも思わなかった。
今はまだ相手の領域に踏みこもうとはしない。たった一つの依頼でたまたま交差しただけの、瞬きに過ぎない邂逅なのだから。
どこかで鳥が羽ばたいた。彼らの描いてきた軌跡など知るはずもなく、一瞬だけ影を落としてどこかへと飛び去っていく。

「えっと……どういう……?」

不意に男に問われて、初めて少女が感情を顔に映した。大きな起伏ではないが、明らかな困り顔だった。
ううんと少しばかり唸る。答えを探すまでの間、視線は男から外れてあちこちを彷徨っていた。

「……なんだろう。生きることしか考えてこなかったから、あんまり分からない」

結局のところ明確な答えは見つからなかったらしい。悩んでしばらく、返すのは曖昧な言葉。
少女も男が求めるような返答ではないことに気がついているようで、どことなく申し訳なさそうな声色だ。
心なしか獣耳も、しょんぼりと前に倒れているようだった。
34城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/13(火)21:11:44 ID:cak()
>>33
多分、理由なんてない。
男が数ある仲間たちの中から特に少女を選んで話しかけたのにも、彼らがこの護衛の仕事に集ったのにも、緑がここに生い茂っていることにも、また、そもそも我々が存在していることにも……

――だからこそ、我々は敢えて何らかの“縁”を探す。
白紙のキャンバスを七色に塗り分ける。濃淡を付ける。自由な線描によって自在に対象を繋ぎ合わせる。

それは関係と言うにはあまりにも軽薄な関係と言わざるを得ない。
だが、人生が彩りや濃淡、明暗を奪われた全くの無地の画用紙と同じであったならば、我々はそれに耐えられるのか。
男と少女は影を重ね合わせたにすぎない。軽い、ほんの刹那的な影。肉の身体を持った男女が睦み合うにはあまりにも程遠い、この世の彼方の淡い幻影。

そして絵を描くように、しかし明確なヴィジョンはなく、男は話題を探っていたのだった。
その言葉は少女への問いだが、同時に男の自問とも言えるものである。
結果は、両者とも答えがでないという歯切れの悪いものだった。
だがそれは言葉の上の話である。少女の顔面に立ち昇ってきた、初めてのと言っていい表情らしい表情を、男は見逃さなかった。

「……ふふ、それならそれでいいさ。世の中には分からないことが多すぎる。
でも……少しずつ知ることならできると思う。君も知っているだろうけど、世界は色々なところに“繋がった”。
本の中の存在だと思っていた魔法のランプに本当に出くわしたり、教科書でしか知らない昔の偉大な王をこの目で見かけたりするかもしれない。
それは――実に素晴らしい可能性だと思わないかい?」

人が感情によって最もよく動くのならば、少女が無表情から解放された時点で、最初のドミノは倒されたことになる。
彼女の獣耳がよくその感情を表している、と男は思った。彼はその表情と耳の様子を同時に見据え、彼女の反応を待つ。
35ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/13(火)22:49:56 ID:Jhr
>>34
きっと長い一生と比べてしまえば、ほんの刹那に過ぎない出会いなのだろう。
けれどだからこそ、一時だけ言葉の応酬に戯れようと思ったのかもしれない。
それくらいの関係が少女には楽だった。他者と深く関わるよりはこの方がいい。

「ん、そうだね。そういう知らないものには、興味があるのかな」

かすかに微笑んで、どことなく他人事のような物言い。けれどそれは感情の欠落故ではない。
彼女には生まれ育った故郷の記憶がない。だからどんな世界に至ろうと、それは全て未知で不可思議なものだ。
常に受動的だったせいだろうか、自分がそういった類に少なからず関心を向けていた事を忘れかけていた。
しかしだからといって進んで未知の探求に勤しもうとするほど、少女に積極性はない。根幹にはそれ以上に生への執着がある。
それでもないよりはある方がいい。これはそんな胸に秘めた、ささやかな子供心だ。
ふと、目を伏せる。向こうへと流れていく砂利道を見送る表情は、また心を覆い隠してしまった。

「でも、繋がっていい事ばかりじゃない」

融合によって光が生じるならば、そこには必ず影もある。
最も色濃く現れているのはおそらく勢力間の紛争であろう。彼らの諍いは部外者であろうと嫌でも目につく。
どれだけの人が苦しみ、犠牲になっているのか。煩雑な情勢からその全てを窺い知るのは難しいが、少なくない数であろう事は容易に想像できる。
可哀想だ、と憐れむ資格はないかもしれない。それでも束の間、見知らぬ誰かを悼むように瞼を閉じた。

「……下手な勢力争いには、巻き込まれたくないけどね」

また目を開いて男を見上げる。少し重たい話だったかもしれない。今度は少しばかり苦い笑みだった。
そのまま僅かに首を傾げる。その仕草は言外に同じ問いを投げかけていた。
すなわち融合したこの世界で、彼はどんな可能性を求めるのだろうかと。
36城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/14(水)22:11:04 ID:9Tk
>>35
「(……?)」

少女の様子を観察し反応を待っていた男は、その他人事のような物言いに違和感を抱いた。
まるで親が子に関して言うような。変わった子だとは思っていたが、いよいよ彼は疑念を深めた。
しかしそれは肯定的な感情だと同時に彼は思う。ヴェールに包まれた彼女の過去と意味深な微笑みが、獣の要素が入ったその外見をミステリアスに彩る。
容易に到達できぬその本性がかえってそれを前にした男にある種の崇敬の念を抱かせる。

そんな男にとって“啓示”とも言える時は終わりを告げてしまった。
闇が彼女の心の面を覆い尽くしてしまう。いやそればかりか、地の表全てが暗く閉ざされているかのような……
彼女の言っていることはまぎれもない真実である。この広大なばかりの世界の中で人々は真理に暗く、行く末を見失い、ただ猜疑心と儘ならぬ激情のままに紛争に明け暮れる。
神が最初に“光あれ”と言ったことが、正に単なる神話でしかないことを確信させるような状況。

「——それもそうだね。
可能性に溢れているということは、悪い可能性もあるということさ。」

程なくしてまた少女に表情が訪れた。
それは話の雰囲気に似つかわしいものであり、存外に繊細な感情も持ち合わせているとの印象を男に与えた。
紛争の現実は融合した世界にいる全ての者にとって避け難く存在する。今度は男が自分の所感を述べるべき番だと悟り、

「ああ……今でこそこうして話ができるほどにのんびりした時を過ごせているけど、結局そんな僕たちもいつ抗争に巻き込まれるかわからない。
いや、現に僕は既に巻き込まれていると言ってもいい状況だが……そのことは置いておこう。

確かに紛争は受け止めるべき現実だけど、反面、それは異なる世界観を持っていた者達同士が接触し、何らかの調和を図る契機にもなる。
誰だって戦いは嫌だからね、いずれは人も冷静になり、互いが互いの個性を尊重し合う時が訪れる。
でも……そのとき尊重すべきものがこの戦いで失われては何の意味もない。
だから今やるべきことは、どの勢力も圧倒的になることがなく、でもどの勢力にも存在が許されるような、そんな状況を作り出すことだと思う。」

男の傷と煤だらけのコートが、田園風景に似つかわしくなく小さく、しかし重々しく揺れる。
その整った顔付きはこの刹那だけ軽薄な色を引っ込め、鋭い眼差しが豊穣な自然の向こう側に横たわる不毛の荒野を冷徹に見据えているかのようだった。♦♦♣
37ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/14(水)23:41:23 ID:jrJ
>>36
男がどんな印象を抱いているのか少女は知るはずもなく、じっと目を逸らさず返答を待つ。
しばらく真剣な眼差しで聞いていたが、男が既に争乱に片足を突っ込んでいると知った時だけ一瞬物憂げに目を伏せた。
やはり争いは好きになれない。いつなにが喪われてしまうか分かったものではない。
それが別段親しいわけでもない、この場限りの相手でも不思議とそう思えてしまう。
否、だからこそだろう。無差別な戦乱の波紋がいかに無慈悲か、否が応でも一層際立って見えてしまうのだ。

「それは……」

理想だ、と言いかけて口を噤む。僅かに目が泳いだ。射竦められてか、獣耳がぴんと緊張する。
手の届くはずがない幻想だ、絵空事だと否定するのは容易い。言葉にしてしまえばいいだけだ。
けれど今では誰もが知っている。世界は繋がって個々の価値観は限りなく無意味なものになった。
自分の常識が隣人の非常識かもしれないし、一つ隣の街に赴けば物語でしかあり得なかった空間が当たり前のように広がっている。
全てがそう変貌してしまった世界で、一人の夢を現実になり得るはずがないと否定するなど誰ができようか。
だから喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、小さく笑ってみせるのだ。

「……うん、そうなるといいね」

揺れたコートを目で追う。これまでの彼の苦難を物語るそれは、きっとこれからの道のりをも暗示しているのだろう。
男の目つきから痛々しいほどに伝わる。その先に待つものが分かっていても尚、彼は進もうとしているのだと。

「だから、応援くらいはしてあげるよ」

少女は止めない。今はまだ、そこまでの義理があるわけではない。
けれどせめて彼がいつか折れてしまわないように、夢を捨ててしまわないようにと。
どこかで祈るくらいなら、構わないだろうと思うのだ。
また男を見上げる。相変わらず青空は憎らしいほどに眩しくて、僅かに目を細めて微笑んだ。

38城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/15(木)21:44:15 ID:rMY()
>>37
「……ありがとう。」

同じく、ささやかな笑みで返す。
それは愛想笑いではなく、真に心の底から滲み出てきた感情である。
この状況で満面の笑みを浮かべたとしても作り笑いにしか見えまい。それだけに、より彼の感情が誠実だと見る者に確信させるだろう。

「そうだ――これもささやかながら僕の努力なんだが、さっき言った僕の目標にも共感してくれる、ある男のことを教えるよ。
つい最近知り合ったばかりなんだけどね。彼は『ヴァーチ』と呼ばれている。ガスマスクを付けていて、青黒い犬のような獣を操る男だ。
彼も恐らく、僕と同じように動くだろう――この広い空の下、もし彼に会うことがあったのなら、僕の名前を出すといい。きっと君のことも信用してくれるはずだ。

僕は『城ヶ崎 廸久』(じょうがさき みちひさ)。魔術師で、傭兵稼業をしている。」

ただでさえなだらかだった傾斜が消えかかり、山道も峠に差し掛かる頃だろうか。
木々のヴェールは一旦取り除かれ、満天の青空がいっそ清々しさを感じさせる。
そして同時に、この隊商が目指すべき次の街が既に眼下に広がっている。
39ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/15(木)22:56:56 ID:8sB
>>38
お礼を言われると擽ったさそうに肩を揺らしてどういたしましてと返す。
人から好意や感謝の意を向けられる事に慣れていないような、照れ隠しを思わせる仕草。
理想を否定しない事にほんの少しの罪悪感が胸を締めたが、表には出さず内に秘めて閉じこめた。

「ん、分かった。覚えておくね」

情報は重要だ。それこそ命と同等になり得る事も多々ある。
勢力の入り乱れて混迷したこの情勢では特に、知る知らないの違いだけで容易く身の破滅を呼ぶ可能性だってある。
そして少なくとも敵対関係にはならないだろう人物の情報は、有益にこそなれど不利益をもたらすとは考えにくい。
だからこうして素直に頷くのだが、それは多少なりとも男を信用しているという意思の表れでもあった。
向こうから名乗られるとちょっとの間きょとんとしていたが、まだ互いに名前も知らなかった事に今更ながら気がついたらしい。
ああ、と気を抜けた声を出しながら誤魔化すように片手で流れる黒髪を弄んだ。

「ミチヒサ、だね。うん、覚えた。
ルゥ・ヴィレット。今はもうなにもない、ただの旅人だよ」

ちょうど山道を登りつめると、それまでの見飽きた景色が下に消えて視界が一気に開けていく。
遮るものが途切れたせいか、先程までより空がより広くなったようにも思える。
少女が行く手を見ようと振り返って荷馬車の上で膝立ちになる。目的地まではそう時間はかからないだろう。
二人がいるのは隊列の最後尾だから先頭までの流れがよく見える。先頭は大分街へと近づいていて、おそらくはこの下り坂の間もまた平和な時間の繰り返しだ。
ふう、と安心したのか少女が小さく息を吐く。きっと、別れの時ももうすぐだ。
なにか言っておくべき事はないだろうか、見下ろす街並みから言葉を探す。

「……また、会えるかな」

じっと、行く末から目を逸らさずに。
穏やかな風が吹いて鳴らす葉擦れに紛れてしまいそうな、そんな呟きだった。
40城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/15(木)23:51:17 ID:rMY()
>>39
「よろしく、ルゥちゃん。
(今は何もない、か――――)」

ささやかな笑みはそのままに相手の名前を呼び友好の証とするも、ルゥのちょっとした自己紹介の言葉が城ヶ崎の気にかかっていた。
人はそもそも歴史的存在である。それはその個人の来歴だったり、個人を取り巻く社会や世界そのものの歴史だったりする。
その積み重ねが人を創るのであれば、誰一人として虚無であるとは言えない。
だが、にもかかわらず時として人は自分が空虚であるという自覚に囚われることがある。精神とは豊饒なもので、この融合世界と同じくあらゆる可能性を有し、したがって虚無への可能性も孕んでいる。
そこで彼は、もう一人の知り合いである老紳士のことを思い浮かべた。どこから来たでもなく、どこへ行くでもなく、ただ彼自身ではなく外界をのみ語る謎に満ちた彼の存在は、最後に会った『共和国』の酒場以降も時々城ヶ崎の心を捉えることがあった。

「(――それでも、人には“今”がある。)」

「……ああ、会えるさ。君のような“美しい”子の存在を僕は忘れはしない。」

余裕が生れた表情で、そのように言ってみせる。その表情は朗らかであれ、軽薄という態ではない。
ルゥぐらいの外見年齢の子にはどちらかといえば“可愛い”のほうが相応しいかもしれない。でも不思議と、今回ばかりは“美しい”という言葉を使いたかった。

何もないと言うこの少女に、何かを得よと急に強いることはない。
だが、契機だけは作っておきたかった。二人の出会い、また一人の友人に関する情報がそれになるだろう。
少女の眼前にも広がる諸々の遺産の世界<World of Legacies>。過去に向き合う心を持つために、街までの残り少ない時間を、彼らは“今”を紡ぎだすのに使うのである――――

//私からはこれで〆で
41ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/16(金)01:16:42 ID:UTp
>>40
半ば独り言だった言葉を聞かれていた、と恥じらうような真似はしない。もしかしたら心の奥底では聞いて欲しかったのかもしれなかった。
どちらにせよ、未来に希望的な可能性を見出す返答に安堵を覚えたという事実は変わらない。
描く理想に制限がないように、広がる先にはどんなものであろうとそこに存在し得るのだから。

「……むぅ」

突然の賛辞には僅かに口を尖らせて唸る。困ったような戸惑っているような、そんな表情。
それはもう片方の形容詞を用いたとしても同じだったろう、逃げるように道沿いに目をやる。
真摯な言葉だと分かっているからこその反応だった。やはりどうにも、こういった時の対応というものは分からない。
ルゥが乗っていた御者が二人に声をかけてくる。街が近づいてきたために、報酬などについて先んじて確認したいようだ。
束の間の休息は終わりを告げ、手短な別れを済ませる。それからまたしばらくは、互いの道を往くのだろう。

「……次も、こうして話ができるといいね」

再会がいつになるのか、そもそもそんな時が訪れるのかなど、運命の神でさえも与り知らぬところかもしれない。
けれどもしもそれが叶うのであれば、いつ襲うとも知れぬ戦乱の最中などではなくせめて今みたいに平和な時間であればと、そう思うのだ。
例え過去がなくとも未来に願いを託すくらいは、きっと許されるのだろうから。

//それではこれで〆ますね、ありがとうございましたー
42琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)17:44:29 ID:Uct
【現在地:『同盟』領付近の深い森の中】

目につく木の枝を折ったりして目印を作りながら迷わないようにと進んできたが、
未だ視界に映るものは只管に鬱蒼とした樹木だけである。

一度改めて現在の持ち物を確認してみよう。

衣服は学校の制服だ。目覚める前はパジャマ姿で眠りに就いた筈だったのだが。
ポケットにはスマートフォンが入っていた。無論圏外。
カメラやライト等の機能は使えそうだが充電する手段が無いのでバッテリーが切れればそれまで。

「あれ、これ詰みなんじゃ……」

せめて食料が少しでもあれば僅かな希望も抱けたのだが現実とは非情である。
このまま行けば森を彷徨い飢えて死ぬ。

「誰か助けて下さーい!」

そんな嘆きが静かな森に木霊した。


【それから数刻後】


「はあっ、はあッ……」

朱音は未だ森の中。そして何かに追われていた。
遠吠えを響かせながら幾つかの足音が追随してくる。
其れ等は五頭からなる飢えた狼の群れだ。
狼と言っても朱音の元居た世界の其れと比べると二回り程サイズが大きい。
一頭だけでも華奢な少女の体をバラバラに喰い千切るのは容易いだろう。

不運にも森を彷徨う最中でエンカウントしてしまった。

(うそ……私こんな所で死ぬの?)

状況は最悪だ。仮にあの洞窟から武器を持ってきていたとしてもとても生き残れるとは思えない。
ここまで全力で逃げ続けてきたがそれももう限界が近い。
死の足音は刻一刻と直ぐ後ろにまで迫ってきている。

「嫌だっ……だってなにもしてない! ここに来て誰かに会ってすらいないのにっ……」

武器も持たず、戦闘技能も異能力も持たない一般人の末路など知れている。
運良く何者かが援けに入ってくれるだろうか。それとも更なる不運が姿を現すか。
或いはこのまま……。
43マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)20:01:06 ID:RNS()
>>42
無風。森と自然の優しさを思わせる木々のざわめきは一つとして聞こえぬ。
そこはただ少女の怯える声と、獣の唸り声と足音が彩る、死と生の過酷な境界線。

――――そこに、一つの赤い影が闖入する。
高速で迫ってきたそれは狼の群れを次々に蹴散らすと、鬱蒼とした森の中を文字通りの炎の光で赫々と照らした。
やがて速度を緩めたそれは纏う炎を収め、停止し、限られた木漏れ日の中でその全貌を顕にする。
赤毛の大きな馬と、騎手。ゆっくりと馬から降りたその男は狩衣、烏帽子と公家じみた格好をしているが、腰には武士さながらに太刀を帯びている、奇妙な取り合わせだ。

「……ほう、この大きさ、恐らく物の怪の類と見た。
よい“式神”になりそうなものだ。ここで捕えおくとするか――――。」

男の視線は少女ではなく、ひたすら化け物じみた体躯の狼の群れに向けられていた。
先程蹴散らされたそれらは衝撃と体毛に付いた火で暫くもがき苦しんでいたが、黒煙を上げながら皆やがて体勢を整えた。
怒り交じりの視線と共に、新たな「獲物」を見据えながら――――

男は腰の太刀を抜き、狼の群れに向かっていった。
そこには毫も恐れる様子がなく、むしろその表情には狂気じみた笑みが浮かんでいた……
44琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)20:26:38 ID:Uct
>>43
現れたのは高速の炎の塊。やがて静止した其れは狩衣、烏帽子に太刀を帯びた男であった。

「平安時代のお侍さん?」

先刻見たドラゴンの姿からファンタジー的世界観を想像していた為に、
旧和風なその出で立ちに若干の困惑を見せる少女。
彼女はまだ此処が混沌極まる世界であることを知らない。

そしてどうにも見ている感じ、援けに入ってくれたという風でもない。
男の関心は寧ろ狼達に向いている。

この場をどうするのが正解なのかを思案しながら暫し佇む。

――――――――――――――――――――――――――――――

狼の群は突如として出現した敵に対し迎撃の姿勢を取る。
通常の獣であれば炎を恐れ逃げ去ったのだろうが、
森の帯びる魔力によって魔物にも近しい存在へと成長を遂げていたものと見える。

群れの長と思しき個体が遠吠えを上げると残りの四頭が連携する様に同時に男へと飛び掛かった。
45マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)20:52:01 ID:RNS()
>>44
抜刀した男の全身は青紫色のオーラに包まれ、烏帽子から伸びる長い髪が激しく揺れる。
狂気を孕んだ表情が迫り来る獣性を真っ向から見据え、速すぎず遅すぎず、足捌きを巧みに調整しながら彼我の距離を測る。
そして身を屈め、一頭目の爪を難なく躱す。間断なく迫る二頭目、三頭目。
男の逃げ道を塞ぐように挟撃するそれらだが、彼はまず右手の一頭の噛み付きを太刀で止め、更にそれに体重をかける形で宙に浮かび、身体ごと振り回すような回し蹴りでもう一頭を蹴飛ばす。
ついでに太刀をかけていたほうの狼の口を引きの動作で斬り裂く。
続く4頭目。頭上から飛び掛かるように襲い掛かるそれだが、鋭い爪を紙一重のところで躱し、反撃とばかりにより鋭い横薙ぎの斬撃を喰らわせる。
そしてその狼を完全に仕留めたか否かを確かめる暇もなく、その脇を駆け抜ける。
狙うは奥にて指揮を執っていると思しき最後の一頭である。真っ直ぐに駆ける中で男は太刀を横に引きながら磨くように視線を刃に滑らせる。
男を包む気が薄くなる代わりに、気の多くが太刀に集中した。

「――ふんっ!!」

そして、振り抜いた。だが、未だ刃が標的に届く距離ではない……
いや、しかし確かにその殺気は狼の長に向けられ、そして獣ながらに感じるその気に獰猛な魔物じみた存在といえど微かな恐れが生まれつつあるようだ。
――そう、それは宙を駆け行く気の刃。振り抜かれる動作と共に太刀を離れたそれは通常の斬撃を上回る鋭さを以って狼の長に襲いかかる。
46琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)21:09:50 ID:Uct
>>45
初撃は難なく躱され、続く三頭の攻撃も軽くあしらわれる。
内二頭は太刀に斬り裂かれ絶命。
最初の一頭と蹴り飛ばされたもう一頭は再度立ち直る。

そして狼の長へ向けられるのは間合いの外からの一閃。
常識的には刃が届くはずの無い距離。

しかし向けられた殺気への恐れと野生の直感からその場に留まってはならぬと判断する。
そして其れは正しく、跳ね退く様に躱した跡には真一文字の刀傷が出来ていた。

狼の長は獣でありながら極めて人間的な思考で次の手段に出る。
響く遠吠え、指示を受けたのは先の二頭。

次なる狙いは先程の獲物の少女。
其れが人質として通用するのかどうかを試そうというのだ。

仮に其方へ注意が向く様なら長の狼自らが背後に飛び掛かるべく機を狙う。


「え、うそ。こっちに来る!」
「お名前存じませんがそこの方! お願いします助けて下さい!」

少女は半ばパニックに陥りながら男へと請願する。
47マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)21:42:24 ID:RNS()
>>46
「ほう――
(見た目よりも賢しらな獣よの)。」

恐らく長は飛ぶ刃を見てから飛び退いたわけではなかった、ということを男は見抜く。
まさにそれは、鍛え上げられた武士がするような、敵の殺気を読んだうえで次なる行動へと移るということ。
やはり群れを従えているだけあって先程の4頭ほどは簡単ではないと、男の眼つきがやや真剣みを増した、その時だった。

「――!?」

声がした。今まで大した注意を向けていなかったながらも、男がその存在に気づいてはいたという程度の少女。
声からしてそれは少女のものだということが瞬時に察せられた。やや視線をそちらに向けるが――――

「!!」

その隙を狼の長の抜身の刃の如き目線は見逃さなかった。
長は全身の毛を鋭く逆立たせながら、まさに一つの刃の如く跳んだ、肉薄した。
隙を衝かれたせいでやや対応が遅れて、男は太刀ではなく左腕でその両爪を受け止めた。

気に包まれてその身は鎧に守られたようになっているとはいえ、狼の攻撃は決して生半可なものではなく、爪が少し男の腕に食い込むと共に、その勢いに押されてやや後ずさりする。
そんな中でも体勢を整えて右手の太刀を添え、その力を加える。漸く押しとどめ、両者鍔迫り合う形になる。

「……ふむ……ならば……――火馬(ひうま)!!」

男の怒号と共に、先程彼が乗っていた赤毛の馬が嘶き、走り出した。
脅威的な加速と共にそれは文字通りの炎を全身に纏い、薄暗い森の中に紅蓮の軌跡を描く。
そしてそれは主人を助けるべく、狼の長へと突撃する――――のではなく、今にも少女に襲いかかりそうな二頭の狼を跳ね飛ばしたのだった。二頭は全身を炎に焼き尽くされ、原型を留めないまでになった。

これには流石の長も動揺をきたしたようだ。獣に似合わず人間的な思考をしているのだから、なおさらである。

「(狙いが当たったな。精々策に溺れるがよい――)」

明らかに鍔迫り合いの勢いが相手側で減退したのを見て、一気に押し切らんと右足での蹴りを放つ。
48琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)21:59:14 ID:Uct
>>47
少女の請願に男の視線が流れるのを見計らっての攻撃。
見事太刀を浴びずに肉薄するに成功する。
鍔迫り合う形で両者の動きが止まった。

これで娘の方へ向かわせた二頭に男への攻撃を命じれば、そう長が考えて居た時にであった。
赤毛の馬の事は失念していた。いや、戦力であるとは考えていなかった。

炎を纏った馬は二頭の配下を跳ね飛ばし、焼き尽くした。

そして其処への動揺を突かれ右脚からの蹴りを真面に受ける。
数メートル吹き飛び、よろめきながらも態勢を整える。

流石に勝ち目が無いと覚ったのか早々にこの場を去るべく向きを変え駆けだす。
49マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)22:16:12 ID:RNS()
>>48
目付きが、

「――――」

変わった。“修羅”のそれへと。
狩る側が狩られる側へと転ずるということ。その皮肉を、如何に知能の高い魔狼といえ理解できるかどうかは分からぬが。
凪の一つもなかった森の中に突如巻き上がる突風。巻き上がる砂埃。その向こう側にある青紫の影が、不気味なまでの光を正面の狼の身体へと揺曳させている。

「――――逃がさぬよ。」

そう、男は気で強化された身体を猛スピードで駆け、逃げる狼に回り込んだのである。

「……だが安心せよ。亡き者にはせぬ。
亡き者には……な。――――」

狼が踵を返さんとしたその時である。

一閃。紫電一閃。
正に稲光のような一瞬の出来事の後に、狼は綺麗に意識を刈り取られ、倒れ伏した。
だが、その身体には一つの紙人形が添えられていた。斬り抜けたままの姿勢の男は、そのまま何事か呪文を呟く。
すると狼の全身が光り、紙人形へと吸い込まれた。たちまち人型から狼型に姿を変えた紙人形を、男は拾う。

「うむ……群れの長を務めるほどのものだ。使えよう。
さて……――」

男はゆっくりと太刀を納め、すっかり静まり返った森を歩き出す。
その延長線上には男の式神の一つである火馬がいるが、同時にそれは少女のいる方向でもある。
50琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)22:27:50 ID:Uct
>>49
“修羅”を前に逃げ切る事は叶わず。
猛スピードで回り込まれ紫電一閃、意識を刈られ紙人形へと吸い込まれる狼。

そんな様子をぽかんと眺めていた少女は。
此方へ、正確には赤毛の馬へだろうか。向かって来る男に気が付き。

「助けて頂きありがとうございました。」

深くお辞儀をしてみせた。
相手は見た目和風なのでこれで気持ちは伝わるだろうか。
51マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)23:00:52 ID:RNS()
>>50
「……む?」

式神火馬に乗りこんで足早に森を去らんとしたところに聞こえた声、そしてその仕草。
文化的な同質性から、男にはこれが謝意であることが難なく察せられ、ふと足を止めた。

「助けた……?――ふむ、一先ずはそういうことにしておこう。」

彼の目的は最初から少女の救出ではなく、魔狼の式神化捕獲であった。
確かに戦闘中にも火馬を使って結果的に少女を助けたが、それは長狼の動揺を誘うためであり、やはり少女のためではなかった。
だが、その真意を明確に述べてまで少女の謝意を拒絶する必要もないと考えた。

「童よ、見たところそなたは我の居た土地の者ではないな。
かといって“西”の者でもない。より進んだ時代の者だ。

我もそなたぐらいの時代には関心があるのでな、暫く付いてやっていてもよいぞ。」

言葉からして、彼はこの世界に様々な時代背景が融合したことを知っているようだった。
それゆえに、彼女の制服姿からその大体の時代状況を見抜いた。
彼は火馬に向かって手を掲げると、それを馬型の紙人形に変え、懐にしまうのだった。
52琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)14:11:01 ID:gGE
>>51
男の口振りでは如何やら訳知りの様子で。
故に右も左も知れぬ少女は問い掛ける。

「重ねて申し訳ありません……宜しかったらこの世界について教えて頂けませんか?

 私は元々貴方の使っていた魔法? みたいな力も無くて、
 さっき襲われた大きな狼なんかも居ない世界で暮らしていたのですが。
 何故か此処へ迷い込んでしまったみたいで……

 すみません、貴方は何かご存知の様だったので……」

此処に来て初めて会った人間で、今この状況を知る為の鍵になるやもしれなくて。
それ故相手の失礼に当たらない様にと、たどたどしく言葉遣いを選びながらの問い。

一先ずの命の危機からは脱したものの未だ怯えの抜けきらぬ少女に男は何と返すだろうか。
53マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)16:22:13 ID:Op5()
>>52
「ふむ……ふむ……。」

自身の真っ白な顎を撫でながら、男は少女の声に耳を傾ける。
相も変わらず無風の森の中で、しかも立ち止まっているにも関わらず、烏帽子から流れる長髪がゆらゆらと揺れている。
その様は、戦闘が終わった今でさえ男から発せられる超常的な雰囲気を否が応でも少女に印象付けるだろう。

「――この森を抜けるには“あちら”へ進めばよい。
歩きついでに語れることは語ろうではないか。」

そう言ってある方向を指差し、まもなくその方向へと歩き出す。
この男が少女にとって完全に安全であるとまだ決まったわけではない。それでも、今は彼が唯一の道しるべとなるだろうか。
54琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)16:40:11 ID:gGE
>>53
無風にも関わらずゆらゆらと揺らぐ男の長髪などの雰囲気、気配から、
矢張り彼は彼女の元居た世界の常識の外に居る者なのだという事を印象付けられる。

『――この森を抜けるには“あちら”へ進めばよい。』

示された方向へと歩み出す男のやや後ろを追いかける様に少女も動く。
仮にこの男が彼女に対し何らかの敵意、害意を隠していたのだとしても。
今は他に縋る相手も居ない。
故に少女は男から何か動きがあるまで押し黙ったまま付いて行くだろう
55マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)16:54:56 ID:Op5()
>>54
地面を踏み抜く音がもう一つ、背後から聞こえるのを確認すると、
男は口を開きだすのだった。

「この状況を簡単に言うならば、世界の“融合”よ。
様々な世界が融合し、地続きとなった。恐らくそなたも、そのせいでここに迷いんだのであろうな。」

融合した世界は無数であり、したがってあらゆる世界観・文化に出会う可能性がある。

「その中でもこの一帯は、複数の世界が出会う土地。
ゆえに、今の物の怪の如きもののみならず、別の場所に行けば「動く鉄の箱」であるとか、「天を摩するような高い建物」なんぞも見ることができる。」
56琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)17:07:27 ID:gGE
>>55

「世界の、“融合”……」

まだはっきりと実感は出来ないが詰まりは此処は色々な世界がごちゃ混ぜになった場所だという事か。
男の話の中に出て来た「動く鉄の箱」とか「天を摩するような高い建物」というのは、自動車やビルの事かもしれない。
其処に行けば文化的には元の世界と同じ暮らしができるだろうか。
しかし、少女の心にある願望は一つで。

「私、出来ることなら元の世界に帰りたい……です。
 そういう“戻ることが出来る”可能性はありますか?」

どうかあって欲しいと切望するようにそう問い掛ける。
57マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)17:22:49 ID:Op5()
>>56
「ふむ……」

男はひっそりと目を閉じ、またもや顎を撫で、少し思案するような仕草を見せる。
やがてゆっくりと眼を見開き。

「世界が地続きになったのなら、当然元の世界に戻る可能性はあろう。
しかし何分“融合”は何処で起きるかが分からぬ。一つの道を往って、望み通りの目的地に着くとは限らぬ。
正にこの樹海を彷徨う様に、永遠に融合した世界を彷徨い続けることもありえよう。
ちなみに我は、“融合”が起こって以来一度も元の世界に戻ったことはない。」

低く、重々しい声で告げられたのは、希望と絶望が綯交ぜになったような展望だった。
58琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)17:34:47 ID:gGE
>>57
男は語った。可能性は0では無いと。
しかしそれは何時出られるかも知れぬ迷宮を行く様なものだと。
希望と絶望を綯交ぜて重々しくもそう告げられた。――――でも。

「可能性が0じゃないなら諦めたくないです。
 私、武器も持ってないし真面に戦うことも出来ない。
 きっとさっきの狼みたいなものにまた出会ってしまったら次は絶対生き残れない。
 けれどもしかしたら元の世界に戻れるかもしれないのだったら……

 私は前に進みます。」

そんなものは虚勢だ。現実は冷たく非情なものだと先刻も痛感したばかりではないか。
しかし絶望を前にしても芯の部分では折れない強かさを垣間見せる少女であった。
59マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)17:55:16 ID:Op5()
>>58
「ほう……」

そのとき、男の足が止まった。それは突然のことなので、少女もそれに合わせて止まるとしても、彼我の距離は確実に縮まるだろう。
振り向いて、少女の表情・姿勢を観察する。
確かに言葉は強いが、もしそれが虚勢であるなら、立ち姿であるとか雰囲気であるとかは、それに見合っているとは言えないのであろう。

「童ながらにそのような意志を持ち合わせているとはな……
ふむ、そういう足掻くということは我も嫌いではない。
力有る者が絶望するよりも、力無き者が希望を持つほうが可能性はある、ということか……」

そしてまた、彼は歩み出す。
彼に弱者の気持ちは完全には理解できなくても、しかしかつて自分がかの「強大な存在」を敵に回したことを思えば、圧倒的な困難に直面したときの人間の気持ちは理解できる。
重く垂れこめるような息をつき、それを彼なりの感心の証とする。
60琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)18:07:32 ID:gGE
>>59
突然男の足が止まる。少女も合わせて止まったが数歩分空けてあった距離は縮まった。
振り向き、此方を観察する様に見つめる男。

少女の立ち振る舞いは超常の気配を纏う男と比べ凡庸そのもの。
おまけに未だ怯えは抜けきっていないのか急に男が振り向いた瞬間には小さくびくついていた。
しかし眼は、眼だけは死んでおらず男の視線に見つめ返している。

言葉を零し、再び歩み出した男。その背に向かって少女も呟く。

「……ありがとうございます。」

彼なりの激励であると受け取ったのだろう。
或いは男の耳に届かないかもしれない程小さな返礼ではあったが。

さて、そろそろ森も拓ける頃合いだろうか。
61マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)18:33:08 ID:Op5()
>>60
「……」

その返礼が男に届いたかどうか、分からない。
あるいは、その超常の雰囲気の奥底に真意を秘めているのか。

やがて光が満ちてきた。それと同時に、二人の足音以外の音も聞こえてきた。
それは人の話し声であるとか、足音であるとか、道具を使う音であるとかが雑多に混じった、いわゆる生活音。
また、薄暗い森に慣れた二人の目には眩しくてすぐには視認できないかもしれないが、複数のテントから構成される野営地らしき場所が見えてくる。

「……ここでは『同盟』という一勢力が、この森の調査のために出張ってきておる。
どうやらこの森には「星のかけら」なるものの影響で不思議な力が漂っており、あの物の怪もそのせいで生まれたようだ。

我も行動の都合からこの『同盟』に味方しておる。
力を持たぬ者でも働き手は募っておろう、必要だと思うならばここの者に声をかけるとよい。」

少女はおそらくここで通用する金銭や寝泊りの場所は持っていないであろう、そう配慮した上での言葉だった。
同時に、彼はなぜ童一人にここまで世話を焼くのだと、心中で自問する。
しかし、こうすることと自らの目的は、不思議と矛盾することではないと感じられたのだった。
62琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)22:09:07 ID:gGE
>>61
徐々に視界に光が満ち始める。
木々の騒めき一つない魔の森の気配は遠のき人々の活きる音が聞こえ出す。

森を抜けて直ぐには目が眩んで視認できなかったが、
幾つかのテントで構成された野営地らしきものが目の前にあった。

『同盟』『星のかけら』

どれも何となくの意味合いは解るがこの世界に於いてその言葉以上の意味を持つものなのだろう。
ここからがスタートライン、まだまだ覚えるべき事象は多い。

男に此処での働き口を紹介して貰ってようやく気付く。
彼の名を知らず自らもまた名乗っていない事を。

「ごめんなさい。命まで救って貰っておきながら、ちゃんとした挨拶もしていませんでした。
 琴珠朱音(ことだま しゅおん)と言います。
 本当に色々お世話になりました。ありがとうございます。」

彼にとっては救ったつもりもないのかもしれないが少女にとってはそうでない。
再度深くお辞儀をし感謝の意を示す。
63マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)22:55:22 ID:Op5()
>>62
「無理もなかろう。
名とは魂。信用した相手にでなければ魂を預けられぬのは道理よ。」

男も名乗るといえば自称の称号のみを人に名乗ってきたのであり、本名を告げることは滅多になかった。
それは彼の出身文化の発想である。名とは即ち人の言霊であり、単なる記号以上の意味をもち、それを知る知らないは親密さの度合いに関する有力な指標である。

「“修羅”、あるいは“はぐれミカド”――我は普通そのように名乗っているが……
『マサトモ』、それが我が名よ。姓はとうに捨てた。国と共にな。」

こうして二人は本名を交換しあった。
会って間もない見知らぬ少女とここまでの縁になるとは奇妙なことだ、と思いつつも、不快感はなかった。
彼は深く頷き、朱音の謝意をじっと受け止めた。その冷静な表情にも綻びはない。それはいかにも“威厳”あるべきとされる者の態度だった。

「――“生き”よ、強くな。我が望む“国”の姿とは、民がそのようである国のことだ。」

そう言うと彼は懐から馬型の紙人形を取り出し、そこから式神火馬を具現化させ、乗る。
自らはひとまず役目を終えた、とばかりにマサトモは静かに森の方向へと進路を取ると、瞬く間にその魔の領域へと戻ってゆくのだった。
64琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)23:08:28 ID:gGE
>>63
名とは魂。そう言った上で名乗り返してくれたのが、
この世界に於いてまだ何者でもない少女にとっては誇らしかった。

「さようなら、マサトモさん。」

紙人形から炎の馬を呼び出し其れに跨り去りゆく彼を手を振り見送った。

『“生き”よ』

恐らく彼のその言葉は善意からのものであったのだろう。
しかし今はまだ少女自身も知らないのだ。
其れが彼女にとってどれ程の意味の呪いの言葉であったのかを。


//これで〆で宜しいでしょうか
//お相手頂きありがとうございました!
65ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/17(土)23:09:08 ID:x25
どこかで悲鳴が響いた。また別の場所から怒号、さらに銃声が続く。
『共和国』に属しているここは、つい先程まではありふれた平和を享受している街だった。
ただ運が悪かったとすれば、『同盟』と『コンツェルン』の抗争の舞台として選ばれてしまった事だろうか。
『同盟』の巨体と怪力を誇るオークが手の棍棒を振るえばコンクリート造りの建物は豆腐のごとく砕かれる。
『コンツェルン』の二足歩行型の無人戦闘機が熱線銃を放てばたまたま射線上にいた人が呆気なく倒れる。
まさしく戦場に生きる者にとってはありふれた、しかし民間人には地獄としか言いようのない光景が広がっていた。

そんな戦場の只中を、息を切らして駆ける影が一つ。
黒いローブにフードを被った、体格からすればまだ子供とも呼べる人物が、人気の少ない路地を走っていた。
曲がり角の度に人影を探り、安全を第一にある一定の方向へとひたすらに進む。
街の地理に明るければその先が街の外である事は容易に察せられるだろう。
そしてやや広い路地に出た瞬間、不幸は起こった。
ちょうどオークと戦闘機が接敵していたのだろう、オークが振るった棍棒が戦闘機に直撃し、勢いよく吹き飛ばす。
メキッと嫌な音を立てて戦闘機が吹き飛んだ先は、まさにフードの人物が立っている場所であった。

「わっ……!?」

咄嗟の事に体が反応できていないのか、その場から動けず立ち竦むフードの人物。
金属の塊であるそれが見た目相応の重量を誇るだろう事は、想像に難くない。
避ける事も叶わず、ぎゅっと目を瞑って迫り来る衝撃を待った。
66ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/17(土)23:34:48 ID:0rG
>>65

 戦闘機がフードの人物を押し潰さんとした瞬間。
その無慈悲な鉄塊の影となっていた空間が、びしりと「割れた」。
裂け目に覗くのは光。スパーク。
やがてその中に浮かび上がる一つの人影。

「!」

 降り立った青の戦士は落下物に気づき、さっとそちらに向き直った。

『CALL:HERO』

 電子音声とともに彼は光に包まれる。
やがて現れ出た青銅の英雄が、墜落する無人戦闘機を受け止めた。
驚くべきことに、その体は少しも揺るがない。
赤いマフラーが波打ったきりだ。

「フンッ……!」

 そして僅かな掛け声とともにそれを無造作に放り投げた。
地面にずしん、という衝撃が走る。

「……やれやれ、この世界はベースキャンプにするには少し物騒――む?」

 ジョーカーはようやくフードの人物の存在に気づき、そちらをじっと見た。
ゴーグル型ガジェットのランプが小さく点滅する。
背後では立て続けに爆発が起こっていたが、彼はそれが耳に入らないかのように平然とした態度である。

(どうやらこいつ、『只者』ではないらしい……さて、ここで『狩っ』てもいいが、しかし……)

 ジョーカーは鎧の奥で僅かに目を細め、フードの人物に尋ねた。

「おい、お前。『生きたい』か?」
67ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/17(土)23:52:41 ID:x25
>>66
「…………?」

ああ、これは駄目かもしれないと覚悟を決めてしかし、予測していた衝撃はいつまで経っても訪れない。
おそるおそる目を開けて、ようやく自分が助けられたという事実に気がついた。

「あ…その、ありがとう」

戸惑いがちではあるが少なくともこの場では敵対者ではないと判断したのか、爆音にかき消されない程度に声を張って礼を述べる。
向き合ってその容貌を見れば、まだ年端もいかない少女である事が分かるはずだ。
唐突な問いには怪訝そうに眉を顰め、しかし返答は早かった。そんな答えはとうの昔に出ている。

「生きたいよ。生きないと、いけないんだ」

じっと、鎧に隔てられた目を見透すかのようなエメラルドグリーンの視線。無表情のようで、眼差しだけは真剣を思わせる鋭さを宿していた。
しかし次の瞬間、ぱっと少女が目を見開く。明らかな焦りの表情だ。

「後ろっ……!」

先程戦闘機を吹き飛ばしたオークが、ジョーカーへと接近していたのだ。ずしん、ずしんと重たい足音からそれを察知するのは容易であろうが。
どうやらSFめいたジョーカーの鎧を『コンツェルン』の勢力である証と見てとったらしい。つまりはオークの殲滅対象だ。
その身長は2mをやや越える程度だろうか、不気味に大きな影を落とす破壊者は敵を叩き潰さんと棍棒を振り上げた。
68ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/18(日)00:08:16 ID:B8y
>>67

「そうか。生きたいか」

 少女の断固とした答えに、ジョーカーは無感動に応じる。
そしてゆっくりと振り返った。
露骨な脅威、棍棒を振りかざすオークが迫る。
ジョーカーはぱっと銃を抜き、照準した。

『SOLAR-SHOOTER』

 電子音声とともに、ジョーカーは猛然と銃を連射。
怒涛の勢いで吐き出されれた光弾が次々と飛翔、炸裂し、オークを打ち倒さんとする。

『CALL:JOKER』

 ついで、ジョーカーは元の姿に戻る。
光弾の炎がメタリックブルーの装甲に照り返して輝く。

「行くぞ」

 青の戦士はぶっきらぼうに言い放つと、少女を先導する形で歩き始めた。
ひとまず目指す避難先は郊外。
障害が現れればその手の銃、あるいは剣で排除していく心積もりである。
69ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/18(日)00:30:39 ID:qim
>>68
図体こそ大きいがそれが災いしてか、彼の種族の動きは言ってしまえは緩慢に過ぎた。
これまでの相手ならばそのまま力に任せて殴殺できただろうが、今回ばかりは相手が悪かったと言わざるを得ない。
棍棒を振り下ろす事も叶わないまま、放たれた光弾はがら空きの胴体に吸い込まれて確実にオークの体を蝕んでいく。
ややあって、ついに衝撃に耐えきれなくなったオークの巨体は後ろに倒れ、ずしんと音を響かせてアスファルトに打ち付けられるだろう。
光弾のダメージか倒れた時の打ち所が悪かったのか、オークはそのまま沈黙した。
一連の流れの間、少女は呆けたように目をぱちくりさせていたが、声をかけられてようやく我に返ったらしい。

「ぁ……う、うん」

躊躇いがちではあるがその意図を汲み取ったのか、男が歩き出せば慌てて数歩後ろをついていく。
完全に信用した、とは言い難いがこの街から脱出するための確実性に軍配が上がったと言ったところか。
それでも警戒は怠っていないのか、道中の少女の視線は敵影を探したり男を観察したりと忙しないものであったが。

しばらく道を行けば不意に、無残な姿を晒していた建物群が途切れるだろう。しつこかった怒号も死臭も、いつの間にか気にならない程度になっていた。
郊外に辿り着いたのだ。途中戦闘に出くわさなかったのは男にとっては僥倖と捉えられるだろうか。
少なくとも少女には幸運以外の何物でもなかったらしく、ほっと息をついた。

「……えっと、さっきはありがとう」
70ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/18(日)00:53:08 ID:B8y
>>69

 ひとまず安全地帯に辿り着いたジョーカーは、いまだ熱を持つ銃をホルスターにしまった。
彼のしたことは善行と言えたかもしれないが、少女の礼に対する反応は冷淡なものだった。

「勘違いしないでもらおう。お前を助けたのは親切心からではない……むしろ、無責任な善意は俺のもっとも憎むものだ」

 ジョーカーは道端の「止まれ」の標識にもたれかかった。

「貴様がただの人間でないことはわかっている。何かしら並々ならぬ『チカラ』を持っているだろうということも」
「しかも、その歳からいって……お前にはまだ伸びしろがあるんじゃないかと思ったんだ。それが助けたワケだ」

 彼はひたすら淡々と語る。

「生きて生きて生き抜いて、強くなるような気迫も、まあ、感じられないことはなかったからな」
「もし無ければ、あの場でお前を殺していたが」
71ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/18(日)01:12:19 ID:qim
>>70
びくり、と僅かに肩が震えた。だが怯えを示すような仕草はそれだけだ。
まっすぐに男から目を逸らさない様は、虚勢のようにも自信のようにも見える。

「……そう」

男が語り終えれば、おもむろにフードを取る。確かに男の洞察通り、少女は人間ではなかった。頭頂部に存在する獣耳がそのなによりの証だ。
そもそもこれを隠していたのはあの戦場において『同盟』の者だと勘繰られないようにするためだったから、今ではもう必要ない。
窮屈そうな黒髪をローブの外へ流す。血生臭い風がさらさらと揺らしていった。

「一つ、聞いていいかな。
もしわたしが強くなって、またあなたと会ったらどうするつもりなの?」

伸びしろ。男はそう言った。
であればそれが主たる目的であると考えつくのは簡単だ。しかしその意図がどうにも掴めなかった。
ただ漠然と、よくない予感がした。そしてそれを見て見ぬふりできるほど少女は楽天家ではない。
一字一句、一挙動を見逃さじと問う少女に先程見せた安堵は既になく、無表情で答えを待った。
72ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/18(日)01:38:26 ID:B8y
>>71

 毅然とした獣耳の少女の問いかけを聞くと、ジョーカーは僅かに肩を揺すった。

「ふふふ……俺がいつもしてきたようにするだけだ」

 彼は標識から体を起こし、歩き始める。

『CALL:HERO』

 一歩歩くと、電子音声とともにジョーカーの姿が変わる。
青銅の鎧に赤いマフラーの姿。

「俺はいくつもの世界を巡ってきた。ファンタジーじみた世界。超高度科学の世界。超能力者の支配する世界」

『CALL:TYRANT』

 二歩。今度は金色の鎧、黒いオーラを纏った姿。

「いくつもの景色があり、いくつもの価値観があった。しかしただ一つ、ただ一つの真理だけは変わらん」

『CALL:NINJA』

 三歩。艶消しの黒の鎧。

「――『力』だ。力のある者が全てを手に入れる……それだけは不変だ」

『CALL:JOKER』

 四歩歩き、少女とすれ違うとともに、ジョーカーは青い鎧の姿に戻った。

「どうするつもりか、だったな。俺はその真理に従うだけだ」
「力は何物にも勝る。俺は力を得るために、殺して、奪う!」

 彼は少女に背中越しに語り掛ける。その声色は僅かに上ずっていた。
73ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/18(日)02:00:29 ID:qim
>>72
ああ、やはり得てして嫌な予感とは当たるものだ。
黙ったまま次々と変わりゆく男の姿を眺めながら、内心で小さく溜息をつく。
すれ違いざま、少女の体は僅かに強張る。けれども男の言葉が終わるまで動きはしなかった。
束の間の沈黙。やや興奮した様子の男に対して少女は目を瞑り、静かに佇んでいた。

「……わたしは」

ややあって口を開く。
噛みしめるように、自分に言い聞かせるように。

「これからも生きてくんだと思う。いや、絶対に生きていく。
もしかしたらその間に、今より強くなるかもしれない」

そこまで語って振り返る。
その翠玉の瞳を覗き見れば、そこには確かな決意が映るだろう。

「でもそれは、あなたに奪われるためじゃない。わたしは、わたしのために強くなる」

背中に向けるそれは明らかな宣戦布告だ。顔には感情を見せないものの、どことなく語調が強い。
子供の戯言かもしれない。それでも確かに、彼女は本気だった。
例えそれがどれだけ未来の話だろうと、自分はきっと死んではいけないのだから。
74ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/18(日)02:13:40 ID:B8y
>>73

 少女の決意を聞くと、ジョーカーは一瞬黙り込んだ。
しかしやがてくつくつ笑い出す。

「そうだ、その意気だ……」

 そう言って一人ごちた後、彼は虚空に手をかざす。
すると何の前触れもなく空間が「割れ」、再び空間の裂け目が生まれた。

 ジョーカーは首だけで少女の方を振り返る。

「俺の名はジョーカー。ジョーカー=サファイアだ」
「また会える時を楽しみにしているぞ……」

 やがて、彼は裂け目の奥へと姿を消す。
直後、その裂け目も消滅してしまうだろう。
死を告げる幻影のごとく、青の狂人は現れ、去る……
75ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/18(日)02:37:50 ID:qim
>>74
「っ……!」

顔を見なくても分かる。男から伝わる狂気に後退りそうになるが踏み止まった。
ここで逃げては負けだと、不思議とそう思えたからだ。

「……ルゥ・ヴィレット。その時も、わたしは絶対に生き抜くから」

異界へと繋がる穴を潜る男の背に投げかける。本来ならわざわざ名乗り返さなくてもいいのかもしれない。
それでももし次があるのなら。彼に負けないくらい強くなったと言えるように、その言葉を引き出せるように。
その時、互いに呼ぶ名がなくては困るような気がするのだ。
裂け目と男の姿が幻だったと錯覚させるほどに呆気なく消えるまで、じっと油断なく見据える。
いつの間にか街の騒乱もある程度収まったようで、後に残るのは静寂だけだった。

「……はぁ……」

一気に緊張が解けたのか、ぺたんと地べたに座りこむ。心なしか背中が嫌に汗ばんでいるように感じる。
とんでもない事を口走ってしまったとは思う。けれど後悔はしていない。ルゥは決して嘘を騙ってはいないのだから。
立ち上がって街道を歩き出す。今はただ強さよりも、生き残る事だけを求めて。

//それではこの辺で〆でしょうか、ありがとうございましたー
76マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)00:09:01 ID:6b4()
――“強さ”。
それは常に彼の気にかかっていた。
混沌たる世界の中、力は金銭の如く価値を持ち、ゆえに強い者こそが権力を握るのである。

「……新たな式神も手に入った。
だが、この程度の力では『ミカド』を殺すにはつゆ足らぬ。
“力”……“チカラ”……フッ、呟くは容易なれど、求めては言葉は幻影の如く我を欺くのみか……」

――――そしてあるとき、
彼(つわもの)は導かれた――――

 「――集え、“力”求める者らよ。」

幻聴ならぬその声に従い、幻影ならぬ大地を踏みしめた。


――――『バトルガーデン』、荒野。
一面の茶色い大地には、所々に岩や乏しい雑草が点在するのみ。
公家姿の彼は佩刀した剣の柄に手をかけながら待った。志を同じくする者が来ることを。

なお、この空間に来る者たちは皆一様に、ここが現実とはある程度かけ離れた世界であり、ここにおける死傷は現実世界には何ら影響を及ぼさないことを何らかの力により“確信”させられている。
77マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)00:12:34 ID:6b4()
//『パワーガーデン』です。誤字すいません
78ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/20(火)00:32:54 ID:M2f
>>76
あるモノを『求める』事と『必要とする』事は、似ているようで根本的に違う。
少女にとって力とは後者であった。叶うならば力がなくとも平穏に過ごせるような日常を、と願うのももう幾度とも知れない。
けれども記憶もなく、故郷も血族も全てが闇の彼方に隠された子供が一人で安穏と生きていけるほど、数多が融合した世界は甘くない。
だから仕方なく、せめて理不尽な死を迎えまいと。そのためだったはずなのに。

乾いた風が駆け抜けた荒涼の地で、文字通り空間が割れた。
吐き出されたのは黒の少女。ローブをはためかせて荒野に降り立つと、まずエメラルドグリーンの瞳で辺りを睥睨する。
ややあって事情を把握したのか、続いて少しばかり距離の空いている男を見やる。頭頂部の獣耳が警戒を示すようにぴんと立っていた。

「……えっと、よろしく、って言った方がいいのかな」
79マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)17:44:44 ID:2iw
>>78
空間に裂け目が生じたとき、いよいよ男は柄頭に触れていただけの右手で柄を握った。
その影は人型。彼が待ち望んだときが訪れたのである。

「うむ……だが言葉は既に不要よ。
この空間のことは風の噂で耳にしていた。ここで力ある者同士が出会うということの意味、主も既に分かっていよう。」

そして彼は太刀を抜いた。静かながら鋭い金属の擦れ音がその場を一層の緊張感で彩る。
それと同時に男の全身は青紫色のオーラに包まれ、風の有無に関わらず常に揺らめいていた髪がより激しく揺れる。
戦うための“気”が彼を覆ったのである。陰陽道は自然界を循環する気を操り、自らの力とする。
彼という収束・発散点を得た気は、彼の殺気に応じて空間そのものを殺気で満たす。そこは既に戦場の空気となった。

「——始めようぞ。」
80ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/20(火)19:01:16 ID:M2f
>>79
「…………」

男の言葉にはこくりと頷くだけに留める。彼の言う通り、ここから先の会話など野暮というものだ。
この世界で求められるのはただ一つ、命を種火とした闘争のみなのだから。
刀の擦れる音が皮切りとなって場を支配していた空気が変わる。紛うことなき戦場のそれにしかし、幼い少女は臆さない。
ぎゅっと両の拳を握って男を睨めつける。ふわり、黒髪が風とはまた違う何らかの力を受けて舞い上がった。
その瞳が向けるのは荒ぶる殺気とは対照的な、静かな殺意だ。宛ら気配を押し殺して獲物を狙う獣のような。

戦場独特の緊張感が痛い程に身を刺す、暫しの膠着を先に打ち破ったのは少女の方だった。
地を蹴って男へと駆ける。言ってしまえば余りに愚直な突進だ。ただその速度が異常である事を除けば。
見た目相応どころか、おそらくは大の大人でも簡単には追い縋れないであろう速さをもって相手への急接近を狙う。
もし叶うのであれば体格の差を利用して、そのまま懐へと潜りこもうとするだろう。
81マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)21:45:47 ID:2iw
>>80
油断なく相手を見据えているうちに、その静かな殺気を感じる。
それは確かに、気を操る陰陽師にも直接介入しえない領域である。人の気はあくまでもその者にしか支配できない。
そうして両者の殺気が伯仲したのを、男は確かな手応えとして受け止めた。

「(来るか——!)」

そして充血せんばかりに目を見開いて、弾丸の如く迫り来る小さな身体を見た、いや、感じた。
既に視覚で捉えきるには力不足なほどの速さに敵が迫っていることはわかっていた。故に、それは武士として鍛え上げられた戦場感覚によって、半ば第六感的に感じ取るしかない。

「——フッ!」

彼は反応した。懐に潜り込もうとして肉薄する少女の身体を、刀の平地の部分で、自身から見て右側へと受け流すのである。
ただし、刃でない部分での動作のため、その受け流し自体に殺傷力はない。
そして受け流した後の少女の身体をしっかと見据え、自身から見て右上から左下の袈裟斬りを繰り出す。刀もやはり、使い手自身同様に青紫の気に包まれている。
82ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/20(火)22:39:15 ID:M2f
>>81
急速な接近に反応されても驚きはない。相手の所作、居住まいから只者ではないのだろうと踏んでの事だった。
そもそも無手と太刀では届く範囲があまりにも違う。故に至近距離に迫る事でその差を埋めようとするが、さすがにそれが許される程に甘くはない。

「っ……!」

受け流さんとする刀の刃がこちらに立てられていないのを認めると、無理には止まろうとせず男の狙い通りに少女にとっての左方へと弾かれる。
やや体勢を崩すが、ここで動きを止めれば追撃が来るのは明白。
疾駆の勢いと受け流された際の力を利用して左足を軸に体を回転、男の横に回りこむようにして袈裟斬りを避ける。
そのまま軸足を素早く入れ替えると姿勢を低くし、蹴りをもって片足を払わんと。
83マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)23:52:53 ID:2iw
>>82
「(ほう——)」

敵の姿を見据えて繰り出した斬撃は、彼女の巧みな力のコントロールと体捌きによって空を切る結果となった。
最初の殺気の応酬の時点で敵の力の程は読めていた。
しかしここに来て、この敵は少女の姿をしながら、戦闘の技量に関しても侮れないものを持っていると男は実感した。

「——!?」

そこから流れるような調子で敵の足払いが繰り出された。
その動きはやはり速く、しかも敵の体格が小さいこともあってまるで高速で動き回る点を捉えるごとき動体視力が要求される、と男は直感した。
彼が即座にやや後方に跳びのき、足払いを辛くも避けることができたのは、偏に敵の姿勢の低下からの足元への攻撃を警戒する本能が彼に染み付いていたからに他ならない。
もし敵の動作がその予想を上回っていたならば、彼は容易く一本を取られたに違いない。

回避の影響でやや距離が開いたのを利用し、リーチの差を生かそうと、名一杯右腕を伸ばす形で自身から見て右から左の横一閃を繰り出す。
84ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/21(水)00:58:56 ID:Ggk
>>83
繰り出した蹴りがあえなく空振って、こちらの動きが読まれた事を知る。
やはり一筋縄ではいかない相手のようで、内心で歯噛みしつつ素早く体を起こして飛び退った男を目だけで追う。
距離を取られるのは厄介だ。ただでさえ得物の差がある上に、少女の特性上長期戦となるのは上手くないからだ。
リーチの不利を埋める異能は、今はまだその鱗片を見せない。己の細胞を酷使するに留めるだけだった。

「わわっ……!」

横に走る一閃を身を屈めてやり過ごし、さらに一歩。後退の二文字はない。勝利は進んだ者にしか掴めないのだから。
踏みこみの勢いに任せて鋭い蹴り上げ、伸びきった右腕を狙う。
85マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/21(水)19:22:06 ID:nkM()
>>84
「(これは……)」

やや慌てたような声色ながらも、此方の攻撃を掻い潜り突き進む敵の姿。
そんな戦場における刹那の遣り取りから、男は少女の“前進”という確かな意志を感じ取るのだった。
自らの怯えすら敵と同様の敵とみなし、それを押し殺し、勝つために必要なことをする意志は並大抵のものではない。故に――

「(――一筋縄ではいかんか。)」

右腕を伸ばしきったまま次なる連撃に移ろうとしたところ、やはり素早い動きで反撃の蹴りが飛んできた。
狙いは右腕。体術の中では比較的リーチのある足技であり、なおかつ最も少女に近い男の部位が攻撃のために伸ばした右腕であったからであろう。
蹴りは少女の狙い通りの的に命中した。男はたかが攻撃を中断されるだけであろうと考えていたが、その存外な鋭さに青紫の気ごしに十分な痛痒を覚え、思わず刀を放り投げてしまった。
暫く宙を舞った刃は男の大きく後方の地面に突き刺さった。

「……やるな。」

獲物を奪われた彼は、これで一挙に不利な状況に追い込まれる。
だが長年の戦闘経験が彼をして冷静さを失わせず、おそらく敵が自分の右腕に気を取られているであろう隙に、ごく自然な素振りでそっと左手を自らの背後に忍ばせる。

「(――――)」

そして、男は少女を、いやそれどころかその向こうまで見据えるような鋭い目つきを以って向き直り、構えた左拳で敵の顔面を狙った殴打を繰り出す。
その一撃は腰が入っているながらも大振りで、よもや獲物を失くして慌てているのやもと見る者に思わせるような様子だった――――
86ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/21(水)20:41:29 ID:Ggk
>>85
確かな手応え。しかし想定していた以上に頑強な的に眉を顰めずにはいられなかった。
やはりと言うべきか、あの纏っている青紫の気には鎧のような性質があるらしい。
そう推察する間は刹那だったかもしれない。それでも腕の立つ者にとっては十分過ぎる時間だ。
男の賛辞には強い眼差しで返す。言葉にするだけの余裕も油断も存在しなかった。
迫る拳。蹴り上げで崩れた体勢と直後の短い硬直で、回避は間に合わない。
だがしかし、少女は反応してみせた。

「こ、のっ……!!」

がつん、と打撃音が響く。殴打に合わせて繰り出された頭突きが拳とかち合った音だ。
まだ誰の目も死んでいなかった。それだけが、まだ何かが来ると確信させるに至らせた。
それはある種の信頼と呼べるものだ。彼は得物を手放そうとも、そこで終わりはしないだろうと。
命を奪い合う相手に抱く感情としては似つかわしくないかもしれない。けれどそのやりとりで育めるものは確かに存在し得るのだ。

「っ……ぅ……!」

少女の小さな体躯は容易く後方へ弾かれる。受け止めた額からは僅かに血が滲んだ。
どうにか体のバランスを崩さずしっかりと立ってはいるが、立て直すまでは隙だらけだろう。
痛みに顔を歪め、微かに肩を上下させていようとも戦意は未だ失われてはいない。
とはいえ少女もただで受けたわけではない。両者の接触の瞬間、額を帯電させていたのだ。
触れていた時間は短いだろうが、殴り抜いた拳を伝って強い電流がその体を流れるはずだ。
87マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/21(水)21:06:17 ID:nkM()
>>86
「ぬぅ……!!」

拳が敵の身体を打ち据えた感覚は確かにあった。しかし、それは人体の中でも固い部分だった。
知的生命体の要たる脳は頭蓋骨によって強固に守られ、それは頭突きという攻撃があるように、攻めにすら応用できるほどの頑丈さである。
蹴りが右腕を打ち据えたのと劣らぬ痛みが拳を通じて沁み渡る。

高い身体能力を持つ双方の打撃が衝突した衝撃は並大抵でなく、男も少女ほどでないにしても吸収しきれぬそれによっていくらか後退する。
――――だがそれだけではなかった。

「――――グッ……!!!!」

痺れ。それは物理的衝撃による痛みと似ているようで異なる。
身体が内側から焦がされていくような感覚を覚える。雷の類の術を受けたときと同じ感覚だと、男は悟った。
その電流量は、気の鎧がそのいくらかを遮りつつも男にその場に膝を付かせるぐらいにはあった。

「……ッフ……だが……甘いぞ……っっ!!」

――男が不穏な笑みを浮かべるのと時を同じくして、
少女は背後に、小気味よく高速で打ち鳴らされる足音を聞くはずである。

そう、それは男が召喚した式神、火馬。
式神は彼が持つ紙人形から具現させるものだが、殴打の瞬間、袖に仕込まれていた紙人形がその勢いで宙を舞い、少女の遥か後方で具現化したのである。
つまり、彼が攻撃の直前に左手を背後に潜ませたのも、単に腰を据えるだけの目的ではない。式神召喚のために紙人形を仕込むことが最大の目玉だった。

火馬は既に十分な速度を得、その全身に名前に違わぬ業火を纏っていた。
高速の巨大な火の球同然の赤き式神が、少女を背後から襲う。
88ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/21(水)21:53:06 ID:Ggk
>>87
「いっ……つう……」

痛みがじくじくと額から全身へと伝って蝕むが、まだそこに気を取られるわけにはいかない。
膝をついた男にしかし、その喜びに浸るにはまだ早かった。
背後に降り立つ音を聞いて獣耳がぴくりと反応する。いつの間に、だとかどうやって、などと考える暇なんてあるはずもなく。
ただ迫る灼熱に振り返らず、遮二無二横に転がって必死の回避。ローブの端が僅かに焦げた。

「ぐぅ……!」

注視していれば見えるだろう、回避運動を取る少女の黒髪が小さな電を帯びたのが。
ばちり、弾けるような音が鳴る。次の瞬間、それは一斉に火を纏う馬を襲う。
その正体は少女の髪を発生源とした放電だ。これを狙うがために背を向けたままだったのだ。
放たれた雷光が当たる当たらないに関わらず、少女はやや不恰好に一時の難を逃れるだろう。

「…………!」

しかし躱した先でぺたりとへたりこんだまま、少女は動こうとしない。手を地面について、ぜえぜえと息を切らす。
長い黒髪も重力に任せてはらりと地に流れている。先までの威容はもうどこにもない。
いわば充電切れだった。火馬への雷撃で、蓄めこんでいた全てを出し切っていたのだ。
それでもやはり、瞳に諦めは寸分もない。ただ年相応のような、悔しさを滲ませてじっと男を見据えるのみだ。
89マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/21(水)22:27:07 ID:nkM()
>>88
その外見通りの獣の如き敵の反応力に感嘆を漏らす暇も無く、男は敵の真横を通過した火馬を自らも回避するために、痺れの切れぬ体を押して跳躍せねばならなかった。

「(――――流石に、鋭いな。)」

身体が宙にいる間、ようやく思考を整理する刹那を得る。
同時に敵の様子を観察する。獣の如き耳。あれこそが少女をして火馬に対応せしめたほどの感覚を与えているのだろう。
野生の感覚というのは武士のそれにも劣らぬほど鋭敏であり、近頃森で狼と戦ったことのある男にはそのことが再び生き生きとした実感として蘇ってきた。
また、彼女の髪からの発光、そして放電の音を認める。
直後に放たれた電流は如何に高速の火馬といえども逃げ切れぬほどの速度であり、瞬く間にその赤く逞しい体躯を黒い塊に変貌せしめた。

「(――――されど……っっ!!)」

火馬はただの紙人形に戻り、暫くの具現化が封じられる。
しかし、いかに式神を失おうと、式神は所詮式神である。それは陰陽師の道具であって、彼が目的を達成するために如何様にも使うべきものだ。
万物に魂は宿る。それが彼の出身の国の教えである。だが、一時は国を乗っ取ろうとしたまでに支配意志に溢れる彼は、万物の気の力を借りながらも、それをあくまでも自己のために利用する冷徹さを持ち合わせていた。

男の跳躍が最高点に達し、自由落下が始まる。
そのとき、地面に刺さっていた太刀が宙を舞い、男の右手にしっかと収まった。
なぜか。電撃が直撃する寸前に、火馬がその足を以って弾き飛ばしたのである。太刀が男の後方、すなわち火馬が向かっていった方向であったことが功を奏した。

「……!!我の本気を見よぉぉ……!!!!」


腹から絞り出すような声で叫ぶ。全ての気合いが柄を握る両手に、ひいては刃先に込められた。

「―――― 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!!!!!」

九字。彼の国に伝わる護りの言葉。ひいては、己にあだなす敵を粉砕せんがための呪。
気という気が脈打つ。男のそれだけではない。彼の周囲の荒野の、岩や草や土や空気。あらゆるものの気が脈打ち、力を一点に終極させる。
男の全身を覆う青紫の気も全てが剥がれ、刃先へと集中した。急速な気の移動の影響により、その媒介となった身体は負担を帯び、朽ち果てるように痛んでいく。

本気の、そして捨て身の縦一文字斬りが、少女に脳天から襲い掛かる。
力を出しきった相手にそれは過大な攻撃やもしれぬ。しかし、自らも力を使い切る攻撃をすることで、強者(とも)への敬意を表す、それが戦う者の礼儀である――――
90ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/21(水)23:09:18 ID:Ggk
>>89
体が軋む。普段以上の力で酷使したツケが遅まきながらやってくる。
現在進行形で生み出される電力量では再び四肢を強化するには程遠い。
手足というものはこれ程までに重かっただろうか、持ち上げるのですらひどく億劫だ。
それでも未だ、その意思は折れてなどいない。

「まだ、まだ……!」

二本の足で立つという事の難しさを再認識する。だが少女はやり遂げた。
最早異能も役目を果たさず見た目相応の少女でしかないそれはしかし、その場において獣であった。
宙空の男をしっかと目で捉え、集う殺気にも怯えず真っ向から立ち向かう。
ただ偏に、生への執着だけをその力の源として。

「っ……ぁ……!!」

必殺の刃が打ち下ろされるその瞬間、少女の体が揺らいだ。
半ば倒れこむように、当たれば即死は免れぬだろう頭部を刀の軌道から逸らす。
それでも完全な回避には至らない。鋭き斬撃は少女の肩口を容易く裂き、胴と左腕を寸断する。
少女はそのまま尻餅をつくと痛みに顔を顰めるが、決して苦悶を口にはしない。
ただ残った右の拳を堪えるように強く握り、ほんの少しだけ笑みを浮かべて呟くだけだった。

「っ……強い、ね。まいったな」
91マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/21(水)23:34:17 ID:nkM()
>>90
紫電一閃。多大な力が集ったその刃を振り下ろすだけで、周囲は光のような一瞬の何色かに染まった。
そして視界が晴れた。斬撃は急所を外れ、敵の肩口から身体を斬り裂いたことを攻撃の主は認める。
同時に彼自身も崩れ落ちる。辛うじて刀を地に突き立て杖としたが、最早自力で自身を支える力を持たない身体に容赦なく重力の重みが伝わってくる。

「……フッ、当然よ……我はいずれ“ミカド”を殺さねばならぬのだ……!!
一度奴に屈辱を味わわされた事実は一度として我が脳裏を去っておらん……我は……我こそが……!!

――――帝王<ミカド>と……相成るのだ……!!」

力を使い果たした今、執念が彼の意識と活動を繋ぎ止めている。
枯れ木のように痛んだ顔面も、ただ不穏な笑みを崩すことがない。

「貴様も……その力も、存在も……復讐のために我が力を増すためにある……
恐らく貴様とて同じことだろう……貴様も目的があって戦い、我と相見えた……
だがよい……少なくとも自ら力を求める者は……嫌いではない……――」

故の敬意。故の全力。
そして、むざむざ急所を攻撃の猛威に曝すことなく、できるだけの回避を心がけた敵の行動にも同様の感情を抱く。
もし敵の技量が上回っていれば、そのまま自分は無防備な状態を晒し、結果は逆になっていたかもしれない。
だがやはり今回は、胴と左腕の寸断という事実が大きいだろうか。寸断までいけば大量出血は免れぬであろうし、それは程なく生命体にとっての終焉に繋がる。

空間が歪んでいく。あたかもそこが、勝敗を見極める意思でも持つかのように。
力を持つ者同士の本気の果し合い。普通では成し得ぬその体験は、目的は違えど強さを求める双方にとって大きな意義を有したに相違ない。
92ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/22(木)00:10:46 ID:4OL
>>91
じっと、独白のような男の言葉を黙って聞く。その妄執とも呼べる野望が良いものなのか悪いものなのか、彼女には推し量れない。
けれど一つの目標に邁進するその姿は、きっと今の少女にはまだ真似る事はできないのだろう。
だからただ、そっかと頷くに留めた。潜めようと努めてはいるが、その息はまだ荒い。

「ん……そう、だね。……手合わせ、ありがとうって言っておくね。
っ……わたしは、好きで強くなろうとしてるわけじゃっ……!」

言いかけて口を噤む。力は求めるものではない、必要なものだ。
いくらそう強く思おうとも、傍からすれば同じ事だ。そこに如何な理由があったとしても強くあらんとしている事に変わりはない。
だから言い淀んだ。どう言葉を選ぼうと、この地に招かれた以上はそうあろうとする心が一片でも存在していたという事なのだから。
零れる鮮血が乾いた大地を赤く染める。ああ、左腕があった断面が憎らしい程に痛い。何かを失った痛みはあの時以来だ。

「…………っ?」

ふと、疑問を覚えた。割れた額とはまた違う、頭の奥がどこか痛みを訴えた気がした。
その訳を深く考える間もなく空間が揺らぐ。直感的に終わりの時が来たと悟った。おそらくここに来る前へと、全てが戻るのだろうと。

「ルゥ……ルゥ・ヴィレット。次は、勝つから……!」

だから名前を置いていく。少女なりの男に対する、精一杯の敬意の表れだった。
ここで得たものは決して零ではない。普段ならば使わないだろう、いつもより少しだけ強い言葉がその証左だ。
もしかしたら自分から追い求める事も決して悪くはないのかもしれないと、消えゆく世界で微かに思った。

//それではこの辺りで〆でしょうか、ありがとうございましたー
93序章 :2018/02/22(木)00:24:21 ID:n5f
───聖杯戦争。
現代に召喚された7騎の英霊を用いて戦い、勝ち残った1組だけが願望を叶える権利を得る。
私が知り得た知識はそこまでだった、矛盾しか存在しない、恐らく〝正しい〟聖杯戦争の知識。

この地において互いに争う7騎は無く、英霊を従える者は無く、願望を叶える聖杯すら存在しない。
そこにあるのはただ一つの目的の為の行動───理由という目的を一つ与えられただけの7騎の戦鬼。
目的の為の手段は何一つ問われない、好きな形で、好きなやり方で。辿り着くところさえ同じであれば良い。

混ざり合った世界はそれぞれの世界の歪みすらも融合させてしまった、捻れ曲がった因果と悪意が偶々一つの聖杯に注がれ汚したというだけの話。
それを拾い上げたのは誰か、それを使ったのは誰か、世界に歪みを広げようとするのは誰か。
それを知る者は混沌とした世界の波に飲み込まれた、残るは英雄として祭り上げられてしまった7騎のみ。
則ち───

屠竜のセイバー。戦闘姫のアーチャー。機人のランサー。星海のライダー。学園都市のアサシン。不運のキャスター。正偽のバーサーカー。

其れ等は決して英雄と呼ばれるものではなく、何処かであった話の中で人知れずに生きていただけの一人に過ぎない。
夜空に輝く幾多の綺羅星が如く、誰の記憶にも残らず、何処の記録にも残らずただ消えた一介の登場人物達。
拾い上げられ鍍金を吹かれて再利用される、本来あり得ないサーヴァント。

───私も、そのうちの一人。

英雄を目指し、英雄を知り、英雄に成れず、英雄を騙り、英雄を汚して死んで行った。
それを語る者はいない、それを思い出す者はいない、人々の記憶に何一つ残らなかった───筈、なのに。
今私は英霊として拾い上げられここにいる、〝正偽のバーサーカー〟などと皮肉めいた呼び名と共に。

その理由を知りたいとも思わない、どうだっていい。
考える事は一つだけ、この世界でこの立場で、今度こそ果たす事が出来なかった事に身を捧げる。
正義の為に、何を犠牲にしてでも───
94ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/22(木)21:36:57 ID:77X

 その都市は「同盟」の勢力圏に存在した。
屋台が立ち並ぶ通りは、夜闇の中に灯りと喧噪をまき散らす。
人間と亜人の入り混じった人混みが、その中を血液じみて流れていく。
その賑わいは、どこかで繰り広げられている戦いを忘れているかのようであった。

 ジョーカーはメインストリートの脇、教会めいた建物の尖った屋根の上にいた。
眼下は少し過剰なほど明るく、屋台の店主が張り上げる大声と、ごちゃまぜになった音楽で溢れている。
しかし彼はそれらにあまり関心を示さず、つまらなそうに一瞥しただけだった。

 彼は目元のガジェットに手をやり、何やら操作を始める。
探しているのだ。彼の求める者を。
刃を交え、その力を奪うに足る強者を……
95城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/22(木)21:56:46 ID:7xA()
>>94
所狭しと屋台が連なり、人と物が行き交う通り。
その光と、音と、匂い。優美ではないにしても豊かな内容を持ったこの光景を、時々は見にきたくなる。

一人の男が通りを歩く。一通り今日の品揃えや人の顔ぶれの見物を終え、その終点たる教会付近に差し掛かった頃だった。

「――?」

彼は違和感を覚えた。
散策の締めくくりの地点として彼が最も好むのが、その壮麗な様相を月光の下に白く晒す、正に凍れる音楽の形容が相応しいゴシック教会の光景だった。
だがどうだろう。今回に限って感じるのは、整然たる音楽に闖入して壊乱を生ぜしめる不協和音。
その正体が、教会の尖った屋根の上にいる人影であると男は悟った。
彼は魔術を発動し、手元に愛用の大剣『大魔砲剣=翳夜』を召喚する。

「――『魔嵐』。」

続いて風の魔術を発動し、大剣の排気口から黒い風を発し上空への推進力とし、屋根へと一挙に飛び上がる。
すたり、と軽々とした動作で怪しげな男と同じ地平に着地した彼は、あくまでもごく自然な素振りを見せて彼の隣へと位置どる。

「……美しいよな。この光景は僕も好きなんだ。」

それは確かに彼の本音ではあったが、共感してもらおうという意図はさらさらなかった。
反応を待つ。不穏な雰囲気を放つこの男の正体をぜひとも確かめるために。
96ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/22(木)22:15:47 ID:77X
>>95

 ジョーカーは屋根に据えられた彫刻のごとく無感動に通りを見下ろしていたが、
大剣を持った男が飛び上がってくると、ぴくりと反応して「眼」を向けた。

「……なるほど」

 兜の内側でひそかにつぶやく。
そしてさりげなく、右手で銃の感触を確かめた。
ジョーカーは知っている。自分に恨みを持つ人々は多いと。
もしやこの男も?

 しかしその疑いと裏腹に、男は――少なくとも表面上は――平和的な問いを投げかけてくる。
ジョーカーは首だけでそちらを見た。

「そんなに美しいか」

 一切の感情を覆い隠すフルフェイスのバイザーに、街の灯りが照り返す。

「この世界は物騒だ。少し雑多ではあるが、このように賑わっている町は希少なことは確かだ」

 ジョーカーは視線を眼下に転じた。
光の具合が変わり、彼の顔を闇が呑む。

「だが無意味だ」

 やにわ銃を抜く。
SFめいてはいるが明らかに凶器をわかるそれを、メインストリートへと向ける。

「これはすべて幻想だ。力を持たぬ虚像。俺が引き金を引けば、雲散霧消する」
「真に美しいのは――真の価値とは、力なのだ」

 そしてさっと振り返る。銃口が男の方を向く。
賑やかなバックライトに照らされた屋根の上で、二人の男が相対した。

「さて……貴様の価値はどれほどか」
97城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/22(木)22:41:17 ID:7xA()
>>96
これが本当の意味で平和的な会話だったならば、男はその美を共有せんがために自らも視線を街の光景に固定したままだっただろう。
しかし現実には彼は横目ながらに、会話の相手を観察していた。兜の奥底で発せられた呟きは聞こえなかった。右手が銃に触れる動作も、癖の一種かと思い完全な戦意の証とは見なかった。

「(――見えないな。)」

故に読みにくい。素顔を晒した相手ならば、まるで名画から意味を汲み取るように感情の読み取りも容易なのだが。
バイザーに照り返された街の灯りは機械的な分析の下に本来の光の暖か味を失っているかのように見えて、やや戦慄するような感情を覚えた。
やがて鉄兜の奥底から人の言葉が聞こえた。だが間もなく闇に覆われた相手の顔に、不吉な予感がし。

「――――!?

……なるほど、それが君の真意かい。存外に分かりやすくて安心したよ。
だけど共感はしないさ……たとえ剣を振るう腕力がなくても筆を振るって美しい絵を描くことはできるわけだからね。」

皮肉だった。彼自身もまた剣を握っているからである。
そもそも最初から相手を警戒していたからこそ、屋上に着地したのちにも武器をしまうことがなかった。
だが男は笑っていた。はにかむとまではいかなくても、余裕はあるという内心は伝わるような表情。
彼には表情があった。素直な人間としての感情を表現していた。敵意を感じとり眼差しは鋭くなったが、やはり表情全体の印象は変わらず。

「――――舞おうか。」

男は大剣の砲身を相手の足元に向け、魔法弾を発射。
その反動で彼自身は大きく吹っ飛んだ後、通りとは反対方向の、比較的人の少ない地面に着地する。
98ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/22(木)23:05:12 ID:77X
>>97

 皮肉じみた、しかしジョーカーよりはいくらか建設的な城ケ崎の言葉。

「ハッ」

 ジョーカーはそれを耳にすると、メット越しでもわかるほど露骨に嘲笑した。

「いい話だ。子どもにでも語って聞かせてやるといい……だがその子どもも、やがて知るだろうよ」
「強大な者にかかれば、どんなに心を込めた絵でもたやすく引き裂かれてしまうということをな」

 眼下の通りで、父親から焼き菓子を買い与えられた兄弟が笑い合った。
教会の二人もまた、ともに笑っていた。
――しかしこちらは、未来永劫相容れないことは明らかだ。魔法弾が飛来する!

「だが剣を握るならば――力があれば」

『SHUFFLE-SWORD』

 電子音声とともに銃が変形し、現れる光の剣。

「守ることもできる!」

 ジョーカーはそれを水平に一閃させ、魔法弾を切り払う。

「何をするにしても力!力!力なのだ!」

『CALL:HERO』

 ジョーカーの姿が変わる。肉厚な青銅色の鎧に赤いマフラーの「ヒーロー」。
ついでおもむろに屋根の頂上へ飛び上がり、そこにある十字架のモニュメントの根本を両手で掴み、力を籠める――破壊音。

「友愛を説くこの教会でさえ、司教の威光と騎士団の武力なければ築かれまい!」

 2、3メートルはあろうかというその十字架を、城ケ崎めがけ屋根の上から投げ落とす!
99城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/22(木)23:29:39 ID:7xA()
>>98
敵の分厚い鉄仮面ごしに聞こえる笑い、いや――嗤い。
同じ笑いでも随分と違うと、嘲笑を受け止めた城ヶ崎は実感した。

「(――奴には“こころ”がない。)」

着地した後、そう脳裏で評してみた。無論、あの鉄人形の中に人間が入っている以上は彼とても心を持つ存在であることは確かだろう。
だが、それはあまりに冷たい心だと城ヶ崎は感じた。まるで人間であることに倦み、人間をやめたような……

「“力”……それが時に美しさに繋がることも否定はしないさ。
闘争の中に美を見出した文豪もいた。でも……彼でさえも秩序を否定し、混沌を賛美するばかりではなかった。」

そう言葉に出しつつ、『魔塵』の力を発動。
大剣の刀身に増し加わった、土属性に相当する魔塵属性の元素によって、大剣はその外見に相応しいほどの重量を得る。
そして一振り。投げ落とされた黄金の十字架は城ヶ崎の目前で粉々に砕かれ、月に照らされる闇夜を煌びやかに彩った。

「力――それは秩序そのものさ。
秩序なくして人は生きられない。ならば僕は、秩序を守るために戦うさ……!!」

屋上のジョーカーに向けて砲口を構える。同時に水属性に相当する魔泥属性を発動。
その力により、毒混じりの泥の球を放つ。泥は十字架の黄金の破片を含み、殺傷力を以って迫る。
その毒には衰弱効果があり、皮膚に触れれば30秒間だけ効果がある。だが、装甲を纏った相手に通用するか否か。
100ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/22(木)23:54:54 ID:77X
>>99

 十字架を粉砕する城ケ崎。
ジョーカーはその力量を推測し、密かに目を細めた。

「お前は思い違いをしている。秩序など、弱者が寄り集まったはりぼての城を維持するためのお題目に過ぎん」
「秩序が真に人を支えるのなら、『悲しみ』という言葉などありはしない。『怒り』という言葉などありはしない!」

 やがて、殺傷力を含んだ泥球が襲い掛かる。
「ヒーロー」は敏捷性に欠け、回避は不可能。

「バカめ!」

 ジョーカーは逆に、左手で叩き落しにいった。
泥球が弾け、鎧を汚す。黄金の破片が鎧の表面に無数の引っ掻き傷を作る。
しかし耐久性に優れる「ヒーロー」は、城ケ崎の想定した衰弱効果を受け付けない!

『SOLAR-SHOOTER』

 ジョーカーは銃を抜き、反撃に移る。
今度はいくつもの爆発する光弾が降り注ぎ、城ケ崎を襲う!
101城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/23(金)00:14:25 ID:fHK()
>>100
城ヶ崎は、毒の泥に混じった金の破片が確かに敵の装甲を傷つけたのを見る。
だがその程度である。秩序をはりぼてと嘲るのにふさわしいほど敵は頑丈だと思った。

「悲しみ、怒り――。
力さえあればそれらに囚われることもなく、痛みさえ痛みとも思わない……そういうことか。」

闇夜を暴力的に染め上げる光弾を見る。
それは複数である。故に走り、大剣を前に構えて盾にしつつ、避けていく。
だが着弾によるいくつもの爆風までは凌ぎ切れず、右肩や右脇腹には火傷を負う。
城ヶ崎の整っていたはずの顔が苦痛に歪む。

「……くっ……だが、痛みを否定するつもりはないね。
痛み、悲しみ、怒る……そうしてこそ人は共感し合える。
人生に苦しみは付きものだ……!!」

きっ、と夜空に映える青銅色の人型を睨み据える。
やはり決定打を与えるには接近しかないかと踏んだ。再び魔嵐を発動し、大剣の排気口からの推進力で屋上に到達。
そして急な屋根を駆けあがる。目指すはジョーカーの待つ頂上。
素早く移動しながらも、次は魔焔属性を発動。闇に溶け込むような黒い火炎弾を牽制程度に放つ。
102ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/23(金)01:01:31 ID:7b6
>>101

「軽々しく言うものだな。一体お前がどれほどの苦しみを乗り越えてきたというんだ?」
「よしんばお前が苦行僧だったとして、たとえばこの戦争で家を焼かれ、家族を失ったような奴に同じことを言えるのか……?」

 ジョーカーは射撃を中断してガードの構えを取り、城ヶ崎の火炎弾を受け止める。
「ヒーロー」のもつ火炎吸収能力を期待してのことだ。

「飛び道具しか能のない――むっ?これは……!」 

 しかし黒い炎は鎧に纏わりついたまま、吸収を拒む。
あくまでも科学技術に依るジョーカーの能力は、未知の魔術のエネルギーまでは完全にカバーできないのだ。
ジョーカーはそちらに気を取られ、うかつにも城ヶ崎の接近を許した。
ジョーカーによる高所の地の利を生かした封殺戦術は崩壊し、戦闘は新たな段階へと展開する。

『CALL:NINJA』

 炎を振り払おうともがいていたジョーカーの輪郭が揺らぎ、夜闇の中に「溶けた」。
寄る辺を無くした黒い炎もまた、口惜し気にゆらめきつつ消える。
頂上に辿り着いた城ヶ崎が見るのは、眼下のメインストリート――
ソーラーシューターの爆音に驚き引き潮のように逃げていく群衆だけであろう。

 そのとき彼の背後にて、屋根の縁から黒い煙が音もなく這い上がって渦を巻き、人の形を成す。
「ニンジャ」に変身したジョーカーが姿を現した。暗闇に紛れた煙化能力による迂回だ!

『SHADOW-BLADE』

「イヤーッ!」

 そして城ヶ崎の背中めがけ、日本刀状の武器で袈裟掛けに斬りつける!
103琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)16:01:19 ID:0Ci
マサトモさんに誘われ『同盟』の野営地で暮らし始めてから暫くが経った。
戦闘や力仕事には向かないので食事の用意の手伝いなんかをして生計を立てている。
生憎と家事スキルに於いてはそこそこ習熟していたのが功を奏した。

そして稼いだお金の一部を使って簡素な木製の弓矢を購入した。
元の世界では弓道をやっていたので他の武器よりは使えるだろうからという理由だ。
いざという時に最低限の自衛の手段を、と考えたのだ。
とは言っても動き回る的に当てるなんて芸当は到底無理で所詮は付け焼刃に過ぎないのだろうけど。

そんな朱音は今何をしているのかと云えば、
野営地の隅に設けられた修練所にて弓矢の扱いの練習をしている所だ。
和弓との扱いの違いに手古摺りつつもようやく狙った的の近辺に当てられるようになってきていた。
104ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)16:22:35 ID:AKB
>>103
そんな朱音のすぐ近く、がさがさっと野営地の外にあたる茂みからなにやら物音が聞こえるだろう。
遅れてひょっこりと顔を出すのはまだ幼いと言っても差し支えない少女だ。その頭頂部には獣の耳がある。
少しの間きょろきょろと辺りを見回していたが辺りの雑多な種族様から『同盟』側と判断したのか、苦心しつつも茂みから抜け出す。
黒いローブのあちこちに木の葉がついていたが気にした様子もなく、一番近い位置にいた朱音に声をかけようとして。

盛大な腹の音が鳴った。

「…………ぅ」

音の主が少女なのは明らかである。羞恥にやや顔を赤らめて、開いた口をぱくぱくさせているのだから。獣耳もぺたんと前に倒れている。
なんともいえない空気に耐えられなくなったのか、朱音の横を通り過ぎて野営地の奥へと向かおうとする少女。
空腹なのは事実なのだろう、その足取りはやや覚束ないが。
105琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)16:34:56 ID:0Ci
>>104
がさがさと物音を立てる茂みに先日の魔狼の襲撃を連想しびくりと跳ね上がる朱音。
やがてひょこっと姿を見せたのは――――獣耳の少女。

(凄い、動いてる、本物の獣耳だー可愛い)

『同盟』の野営地故エルフだとかファンタジーの常連種族の人々は目にしていたが、
獣人種に出くわしたのは初めてであり内心感動している様子。

直後鳴り響いた大きな腹の虫を聞き、
きっと相当お腹を空かせているのだろうと偶々間食にしようと持っていたビスケットの袋を取り出して。

「えと……食べます?」

自信なさげにそう問うてみた。
106ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)16:48:53 ID:AKB
>>105
既に背を向けていたところに声をかけられると、驚いたのか肩を跳ね上げて振り返る。
申し出には逡巡の表情。さすがに見知らぬ人にいきなり施しを受けるのは抵抗があるようで。

「…………ん」

それでも三大欲の一つには勝てなかったらしい。歓喜と申し訳なさが入り混じった顔で手を出してねだる。
朱音が獣人種との初邂逅に浸っている事には全く気がついていない。ただなんとなく悪い印象は与えていないらしいくらいの認識だ。
食べ物を素直(?)に受け取るあたり、少なくとも少女は朱音にあまり警戒心は抱いていないようだ。
袋を受け取ればビスケットをひと齧り、年相応の笑みが零れるだろう。
107琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)16:58:10 ID:0Ci
>>106
ビスケットを受け取ってひと齧りし笑みを零す少女を見て朱音もまた朗らかな笑顔になる。

「良かった。余計なお世話だって言われるかもってちょっと心配だったんです。
 宜しければこれ、差し上げます。
 私もちょっと前に此処の人に助けて頂いたので、
 私からも誰かの助けになれたらなんて……出過ぎた真似でしょうか?」

見た目は自分よりも幼い容姿だがそんなものは当てにならないのはこの『同盟』にて実感済み。
だからとりあえずは敬語を崩さない。
108ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)17:14:47 ID:AKB
>>107
しばらく一心不乱にビスケットを貪っていたが、袋ごと譲ってもらえるとは思っていなかったらしくぱっと朱音の顔を見上げる。
そこまでは、と言いかけるが続く朱音の言葉に悩むような素振りを見せてから小さく頷いた。

「ううん、そんな事ないと思う。すごく助かる。
だからわたしも、いつか助けてあげる」

とりあえずの人心地はついたのか、残りは後で食べるつもりのようだ。
外見上であれば明らかに相手の方が年上であるが、少女の方はというと対等であるかのような口振りである。
不遜なのか社会性が些か欠けているのか、実際は後者なのだが。

「これ、ありがとうね。えっと……」

何はともあれ少女にとっての危機は去ったわけで、礼を述べようとして言い淀む。
どう呼べばいいのだろうかと悩んでいるのだろう、ひとまずは自分から名乗るべきと判断。

「ルゥ。ルゥ・ヴィレット。あなたは?」
109琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)17:26:32 ID:0Ci
>>108
小さな親切心をちゃんと受け取って貰えたのを内心喜びながら。

「はい、私弱っちいのでそうして頂けると嬉しいです。」
「名前は朱音(しゅおん)。琴珠朱音です。」

名は魂なんて、いつかの恩人の言葉を思い返しながらそう名乗り返す。
朱音はルゥの口調に関しては特に違和感を抱いていない様である。

ふと、あちこちに木の葉がついた黒いローブ姿と相当にお腹を空かせていた様子から。

「ルゥさんは旅人なんですか?」

と、素朴な疑問を浮かべ聞いてみる。
110ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)17:42:51 ID:AKB
>>109
「シュオン、うん、覚えた。本当にありがとう」

ぎゅっと袋の口を握りしめているあたり、相当に嬉しかったらしい。
腹が満たされた、というよりはそれがお菓子だった事に起因しているのだが、気恥ずかしいのでそこまでは口にしない。

「そう。たまたまこの辺りの森に飛ばされたんだ。
大変だったよ。食べ物もないし、変なのもいるし……ここが見つかって、本当によかった」

変なの、とは森の性質で変容した魔物に近しい獣達の事だろう。思い出したのか、僅かに苦々しい表情で。
自分の髪やらローブやらに纏わりついている木の葉には気がいっていないようで、少女が身動ぎするたびに少しずつはらはらと地面に落ちる。
よく観察すれば年端もいかない少女だろうに、その体には傷らしい傷が見受けられないのが分かるだろう。
111琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)17:53:39 ID:0Ci
>>110
彼女のこの辺りの森に飛ばされてきたという言葉に反応して。

「奇遇ですね、私もついこの前この森に飛ばされてきたんです!
 しかも大きな狼の群れに追いかけ回されて。
 その時は偶々助けてくれた方がいたんですけど、
 もしあの時あの人が来てくれなかったらって思うと……ゾッとします」

ちょっと似た境遇の彼女に対してシンパシーを感じる朱音であった。
と、そこで気が付く。
口振りではあの狼と同じようなものに遭遇したであろう少女の身に傷らしい傷が見受けられない事に。

「ひょっとしてルゥさんて、とても強かったりします?」

魔法とか使えたりするのだろうか、とか想像しながら質問する。
112ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)18:11:56 ID:AKB
>>111
「ここ、普通の森じゃないみたいだからね。お互い無事でよかった」

それなりの年月を旅しているが、こういった形で変質している森というのはルゥもなかなか遭遇した事がない。
朱音の話に肩を縮める。『あの人』が誰だかは分からないが、タイミングはともかくきっとよい出会いだったのだろうと少しだけ安堵。
もしかして自衛のための力があるわけではないのだろうか、とやや離れた場所の的と朱音の手にしている弓を交互に見やった。

「わたし?強い……のかな、自分じゃ分からない。身を守るくらいしかできないよ」

朱音の質問には首を傾げてどことなく自信なさげに答える。
少女は強さを積極的に求めようとはしない。それ故に今自分がどのレベルに達しているのかと問われても、上手く格付けできないのだ。
朱音の想像する魔法めいた異能こそ持つが、ルゥは朱音がそういった類が存在しない世界から訪れているとは知るはずもなく。
ううむと唸ってどうなのだろう、と目で朱音に問いかける始末。
113琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)18:23:48 ID:0Ci
>>112

『お互い無事でよかった』

「そうですね。生きていて、本当に良かったです。」

あの日体験した死が目前に迫っているという恐怖が脳裏に蘇り、身震いをした。

自らが強いのか自分では分からないと答えるルゥ。

「少なくとも私よりはずっと強いのだと思いますよ。
 この前思い知りましたけど、私には身を守る力すら無いようなので。
 こうやって弓矢の練習もしてますけど、この森の狼一頭相手ですら難しいと思います。」

異能も魔法も存在しない世界から流れ着いてしまった朱音にとってはこの世界は余りに過酷で。
それでも「前へ進む」と言ったからには色々足掻いてみせようと、そんな決意を胸に秘めながらそう答えた。
114ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)18:47:20 ID:AKB
>>113
朱音の答えにはそうだろうかと納得がいかないように首を捻る。
しかしなるほど確かに異能すら持たない一般人に比べれば、そうなのかもしれないと自分に言い聞かせる事にしたらしい。
朱音が使っていたと思しき的を改めてじっと観察する。その努力を垣間見たルゥの口から零れるのは素直な感想だ。

「でも続けていれば、きっと強くなれる……と、思う」

例え今は無様に逃げ続ける事しかできないとしても、生き延びようとする意思は何よりの糧となる。
それは少女の経験則でもあるのだろう。勝手な激励が少しだけ無責任のような気がして、最後に自信なさげな一言を付け足した。
けれども必要なかったかもしれない。朱音の奥に秘められた決意を、言葉の節々から感じ取れたからだ。誤魔化すように小さく笑った。

「でも弓……弓かぁ。お礼に手伝ってあげたいけど、わたしに何かできるかな」

そういえば、とつい先程の事を思い出す。もしかしたら自分が訓練の邪魔をしただろうか、と少しばかりの不安が表情に浮かんだ。
故の申し出であるが、ルゥも弓の心得があるわけではなく、そのためにどう鍛えればよいのかも不明である。
それでも先の食料の礼と邪魔をした詫びもあって、このままというのも気が引けた。
115琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)19:00:18 ID:0Ci
>>114

『でも続けていれば、きっと強くなれる……と、思う』

「はい。そう信じます。」

凡人には小さな進歩しか望めなくとも、それは無駄ではないのだと自身に言い聞かせる様に。
――――尤も、今の朱音こそ知らないが彼女には文字通り無限の時間が存在するのであるが。

「手伝い……ですか。」

そう尋ねられ考えてみる。
正直弓矢の腕前の上達に関しては完全に自身の努力量の問題なのでルゥに何か頼むことも無い。
しかしそれで尚求めるものがあるとすれば……。

「強いて言えば何か動きのある的に当てる練習をしてみたいですね。」

と言ってしまってから慌てて気付く。

「えっと、すみません! 的になってくれって言ってる訳じゃないんです。」

お菓子のお礼はお前の命だ的な意味合いで捉えられないよう必死にフォローする。
116城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/23(金)19:16:54 ID:tEn
>>102
「さぁね。けど絶望以外の選択肢があることぐらいは教えてやってもいい。
苦しみが事実だとして、それにどう立ち向かうかは人間の意志次第だからね……!

(ほう……見えたな。どうやら魔術の焔までは御しきれないらしい。)」

それが彼に見えた一筋の希望だった。
あの堅牢な装甲が個人兵器レベルの普通の火炎を受け付けるとは思えなかった。故に、効くとすればそれが普通の火炎でなかったからに違いない。

そのまま接近し、城ヶ崎は引き続き魔焔属性を宿し鋭さを増した大剣でジョーカーに斬りかからんとした。
しかし、その刃が標的に到達する前にその輪郭は闇の中に溶け、刃は虚しく空を斬った。

「どこ行きやがった……?」

目に映じるは自らが歩いてきた屋台の通り。尤も今は事態の異常さに気付いた民衆が逃げ惑い、バザーの賑わいは既に耳障りな恐慌に変じていたが。
辺りを見回すと同時に耳を研ぎ澄ませる。無論、遠くの雑音は切り捨てて近くの何らかの音を拾うために。

静かだった。その攻撃を城ヶ崎は読むことが叶わなかった。
異様な掛け声を聞いて反射的に背後に振り向きつつ、小手のようにも使える悪魔の左腕を構えたときには既に遅く、刃は腕に触れて急所は外すものの左肩に傷をつける。

「っつ——!!」

奇襲に遭ったことと足場の悪さもあり、バランスを崩した城ヶ崎は急な屋根を転がり落ちそうになる。
だが魔焔属性の鋭さのままの大剣を屋根に突き刺し、辛うじてその事態を避けた。
頂上付近のジョーカーに向き直ると、次は魔塵属性を発動。砲口から重力弾を敵の足元を狙い連射する。
重力弾は何かに当たった時点で斥力を発する。敵に当たればその圧力がダメージになるし、当たらなくてもその力によって付近の敵がバランスを崩すことも考えられる。
その一方で城ヶ崎自身も接近する。敵の様子を見つつも、あわよくば隙を突くときのために。
117ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)19:19:15 ID:AKB
>>115
「」

絶句。予想の斜め上の回答にぴしりと一瞬だけ硬直する。さっきまで感情豊かに動いていた獣耳も時を忘れたように動きを止めた。
朱音の言葉は物の見事に誤解されたようで、心なしか顔もみるみる青くなっているように見える。
もしやこれが理不尽な対価を要求して相手を破滅させるという、極東に悪名高いYAKUZAの手法なのか。
そういえば朱音も外見は東洋人だのなんだのと、ほんの短い時間で普段では考えられないくらいに頭が回転したが、どうにか必死のフォローは聞き取れたらしい。

「そ、そうだよね……そんな訳ないよね……」

ほっと胸をなでおろす。余程恐ろしかったらしい、おそらくはお菓子を与えられた時以上の安堵ではなかろうか。
こほん、と空気を変えるように咳払いを一つ。

「わたしが的になるのはまあ、その……ちょっと無理だけど、的を投げるくらいならやってあげようか」
118琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)19:29:14 ID:0Ci
>>117

「誤解を招くような物言いですみません……」

獣耳や表情の推移から察するに完全に悪い方の捉え方をさせてしまった事を詫びる。

「そうですね。それじゃあそれでお願いします。」

相手の好意を無碍にはしまいと彼女の提案に承諾する。
そんなこんなで朱音は弓を構えてルゥが的を放り投げるのを窺うのだった。


//修行風景長々と付き合わせてしまうのも悪いので
 自分の次のレスにて的に命中する場面までキンクリ致します
119ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)19:41:17 ID:AKB
>>118
「ん、分かった」

頷いて先程まで朱音が使っていた的付近まで歩くと、いつの間にか受け取っていたらしい円板状の木の板を頭上で大きく振って合図。
ちなみにこの的は話を小耳に挟んでいたお兄さんが用意してくれたものである。
朱音の準備が整えば下手投げで的を放るだろう。朱音が満足するまでは何度でも付き合ってくれるはずだ。


//了解ですー
120琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)19:50:11 ID:0Ci
>>119
それから幾度となく的は投げられただろうか。
朱音の息づかいに疲労の色が見え始めた頃だった。

「あ……やった。」

空中を移動する的にはしっかりと矢が命中していた。
喜びの声を上げたいがもうそれ程の体力も残ってはおらず。
その場にへたりと座り込んで息を整える。
121ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)20:07:28 ID:AKB
>>120
見ているだけというのもなんとも歯痒いもので、集中を切らさないように声には出さずエールを送る。
早く終わらせたいなどという感情はなかった。朱音が如何に真剣に取り組んでいるか分かっていたからこそ、ただ純粋にその成長を願っているのだ。
とはいえ疲労が蓄積すれば鍛錬の効率は著しく落ちる。
遠目で見ても疲れきっているだろう朱音に切り上げるべきと声をかけようとした時だった。

「わあっ……!」

小気味好い音がして矢が命中する。
からん、と的が地面に落ちるとほぼ同時に、ルゥは朱音の方へと駆け出していた。

「当たった、当たったよ……!」

ぱたぱたと駆け寄ってしゃがみこみ、朱音と目線を合わせる。
顔を輝かせて、まるで自分の事のような喜びようだった。
しかしへたりこんだ朱音を改めて見て彼女が疲れきっている事を思い出したのか、今度は少し慌てた様子で声の調子を落とす。

「ぁ……ご、ごめん、疲れたよね。立てる?」

そもそも疲れている様子から止めようと思い立ったところだったのを思い出したのか、おそるおそる手を差し出す。
もし朱音が自力で立てないようであればルゥは手を引いて、少女の体格には見合わない力強さで体を起こしてやるだろう。
よく観察していればその時にはルゥの長い黒髪が、ふわりと風とは違う力で舞い上がるのが分かるはずだ。
断られるならば、心配そうな瞳で見守っているだろうが。
122ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/23(金)20:19:47 ID:7b6
>>116

 屋根の縁で落下を堪えた城ヶ崎と入れ替わりに、黒い鎧のジョーカーは再び屋根の頂上付近に陣取る。
シャドーブレードをガンスピンの如く威圧的に振り回すと、切っ先に付着した血が飛び散って闇の中に消えていく。

「フン、言うだけならどうとでもなる」
「口だけは良く回るようだが、そろそろお喋りにも飽きたな!イヤーッ!」

 敵の巨大な得物がこちらを指向するのを見て、ジョーカーは跳躍した。
吐き出された異様なエネルギー弾が先ほどまで居たところに着弾する。
着地するのは頂上、十字架の台座。
しかしそこにも重力弾が襲来し、ジョーカーは回避のため――背後へ飛び降りた。
転落か?否!

「Wasshoi!」

 ジョーカーは先ほどの城ヶ崎の再現の如く、剣を屋根に突き立ててこらえた。
そのままそこを支点にして振り子のようにジャンプ、再度屋根に取りつく。
驚くべきは、鈍重な「ヒーロー」とは似ても似つかないその身軽さ!
なおも重力弾が飛来するが、ジョーカーはせせら笑うのみ。

「何度やっても無駄だ!」

 しかし彼はここで致命的な間違いを犯した。
回避ではなく、スリケン――もとい、手裏剣による撃墜を図ったのである。
重力弾は手裏剣が接触した瞬間斥力を放ち、押しやられたジョーカーの右脚が屋根のタイルから滑り落ちる!

「グ、グワーッ!?」

 ジョーカーはバランスを崩し、屋根を滑り落ちる。
縁でなんとか踏みとどまるが、落下しかかった不利な体勢となってしまう。
足を殺しうる重力弾は、スピードが命の「ニンジャ」に効果テキメンだ!

「ヌウーッ……イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

 しかしジョーカーもさるもの、なんとか屋根側に体を引き戻しつつ城ヶ崎を牽制にかかった。
おそるべき殺傷力を秘めた手裏剣を三連続で投擲する!
123琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/23(金)20:36:53 ID:0Ci
>>121
駆け寄ってきてしゃがみこみ自分の事の様に喜ぶルゥに、にこりと笑みを返して。

「ルゥ……さん。ありがと……ございました。」

息も絶え絶えにそう答える。
つい長々と練習に付き合って貰ってしまったがあちらには未だ疲労の色も見えない。
やはり決定的に違うものがあるのだと感じてしまう。

立てるかとの問いには首を横に振って返す。

ルゥに手を引かれ自分よりも小さな身体に見合わぬ力強さで持ち上げられる。
ようやく息も整ってきたのだろう。こんな状態の自分を恥じる様にやや赤くなりながら。

「すみません。長々と付き合わせてしまいました。
 でもおかげで少しでも進歩できたと思います。」

と、ビスケット一袋とこの作業とでは吊り合わないと感じ。

「よければ私の働かせて頂いてる食堂で一杯御馳走しますよ。
 ここまで付き合って下さったお礼です。」

時刻もちょうど夕餉の頃合いか。
元々空腹から始まった出会いはこれで締めくくるのが良いだろう。


//こんな感じで〆で宜しいでしょうか?
124ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/23(金)20:56:10 ID:AKB
>>123
「ううん、わたしは大したことはしてないよ。シュオンが頑張ったから」

本心の言葉だった。ルゥは手伝いこそしたが、成長できるのは朱音本人でしかないのだし、そしてそれを見事やり遂げた。
過酷な世界ではほんの小さな一歩かもしれない。けれどその一歩がなければ、人は前に進めないのだ。

「えっ……いいの?じゃあ、ごちそうになろうかな」

食事の提案には目を見開くが、少し悩んで小さく頷く。
ルゥとしてはビスケットでも十分対価としてなり得たのだが、断るもむしろ悪いと思えたからだ。
本音を言えば路銀が少々心許ないというのと、既にこのコミュニティに属している朱音についていった方がなにかと楽だろうという算段はあるのだが。
ただそれとは別に、もう少しだけ彼女と話していたいという気持ちもどこかにあったのかもしれない。

「……でも、的にはならないからね?」

仕返しのつもりだろうか、悪戯っぽく笑う。いつの間にか空が赤く染まりつつあった。
夕日に照らされて二つの影が長く伸びる。どちらともなく歩き始めて、後には巣に帰る鳥の落とす影だけが通り過ぎていった。

//そうですねー、ロールありがとうございました!
125城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/23(金)21:19:45 ID:tEn
>>122
「(敵のミスか。だが二度はないな。)」

このまま重力弾を放って追い討ちすることも考えられる。
しかし、敵も効果を学習するであろうから、そうなると回避のために動き回られて余計不利になるだけだろう。

「(ここは一気に——)」

シナリオを心中に描きつつ、大剣を前方に構えながら今度はジョーカーへと向かって屋根を駆け下りる。
手裏剣は全て大剣の堅牢さの前に弾かれた。この殺傷力の手裏剣ですら傷をつけられないのは、素材が普通の金属でない証である。
そして大剣を両手で縦一文に持ち上げ、魔塵属性の元素を込めていく。その重量が増し、やがて両腕に痺れをきたすほどになる。

「——はぁぁぁぁ!!!!」

そして振り下ろす。
狙いはジョーカーその人だが、例え外したとしても、その一撃は教会の屋根のその部分を崩し、二人もろとも落下に導くだろう。
126ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/23(金)21:42:47 ID:7b6
>>125

 牽制の手裏剣は大剣に防がれ用を成さず、城ヶ埼はそれを大上段に構えて踏み込んでくる。

(チイッ、忌々しい剣……!)
 
 この体制では回避は不可能。牽制は失敗。
ジョーカーは観念してシャドーブレードを振りかざし、ガードの構えを取る。
しかし魔術武器の必殺の一撃は、取り繕った上辺だけの力を容易く打ち砕いた。
大剣を受け止めたシャドーブレードが軋み、砕ける!

「バカな!?」

 大剣の刃は勢いを僅かに緩めつつも、そのまま振りぬかれた。
ジョーカーの鎧のブレストプレートが抉れ、砕ける。
その内側、彼の肉体にも無視できぬダメージが及ぶ!

「グッ、グワーッ……!」

 思わず片膝をつくジョーカー。
勢い余った大剣の一撃は教会の屋根を粉砕し、傷ついた二人の戦士は瓦礫もろとも礼拝堂へと落下する。

 やがて粉塵が止む。
外の喧噪も今はなく、ステンドグラスの光だけが静かに降り注ぐその空間にこんもりとできた瓦礫の小山。
――その一端がにわかに蠢いたかと思うと、メタリックブルーの鎧が姿を現した!

「ハァーッ……ハァーッ……ハァーッ……!」

 青息吐息、胸から幾筋か赤いものを垂らしたジョーカーは、取り落としていた得物をなんとか拾い上げる。

『SHUFFLE-SWORD』

 光剣を手に、瓦礫の小山を振り返る。

「素晴らしい……素晴らしいぞ、その力……」
「だからこそ……だからこそ、殺す!殺して、その力を……!」

 ジョーカーは建材の破片を踏みしめて歩き回り、城ヶ崎を探す。
もし見つけたならば、もはや挑発する余裕さえなく、いきなりシャッフルソードで斜めに斬りつけるであろう。
127城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/23(金)22:01:03 ID:fHK()
>>126
壮絶に響く金属音と、揺るがされる大気。
程なくして石造りの屋根が崩壊する音が続く。

気付いたときにはそこは闇だった。
身体に圧し掛かる重たいものをどけば、ささやかな光が淡く彼らを洗礼した。

「……良策……じゃないけど、君ほどの奴を相手取るには……ここまでするしかないか……」

肩で息をするような調子でやれやれとでも言いたげに言葉を紡ぎ、揺れる視界の中にどうにか敵を見定める。
瓦礫の下敷きになったのは二人とも同じだが、先程の攻撃の分相手のほうがダメージは大きいはずである。
このまま持久戦に持ち込めば勝機はあるか。そう思った矢先、ジョーカーの口から発せられる言葉。

「殺して……どうするつもりだ?僕の力を……」

斬りかかってくるジョーカーに対しこちらも大剣を斜めに、両者の剣がクロスするように迎え撃つ。
鍔迫り合いの姿勢で、城ヶ崎は問いただす。
128ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/23(金)22:22:53 ID:7b6
>>127

 ジョーカーの白い光剣と、城ヶ崎の黒い大剣。
対照的な二つの剣がぶつかり合い、つばぜり合いの中、光剣のプラズマがスパークして火花を散らした。

「どうするつもりか、だと?決まっている……奪って、俺のものにするのだ……!」

 ジョーカーは力任せに剣を振り払い、城ヶ崎の右肩口に斬りかかる。

「俺はずっとそうしてきた。いくつもの世界でいくつもの死体を積み上げて、それを登ってここまで来たのだ!」

 さらに剣を切り返し、水平の一閃で城ヶ崎の左腕を狙う。
十字架、泥球、光弾、火炎弾、重力弾、手裏剣。
無数の弾丸が飛び交ったこの一戦、最後に残るのは剣戟のみ……
129城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/23(金)22:44:22 ID:fHK()
>>128
「力を……奪うだと……」

均衡を打破ったジョーカーの力を見て、より表情を険しくする。
消耗しているはずだが、なおこれほどの力を出しうるのは、偏に執念ゆえか。
そして、そうした感情の頼もしさと恐ろしさを城ヶ崎は知っていた。理不尽なるが故に人は可能性がある。
だが、その可能性は負の方向性にもベクトルを取り得る。

体勢を低くしつつ身体を左方に傾け、最初の斬撃をどうにか掻い潜る。
向き直る。次なる水平の斬撃は狙い通り城ヶ崎の左腕――すなわち『アスモデウスの腕』を直撃した。
というよりは、彼自らそうなるようにしたと言っていい。赤黒く、ごつごつとした正に悪魔そのものの腕は人間の皮膚よりも堅く、防御の役割を果たすことができる。
だが、魔術威力を司るこの部位が損傷することは、術の威力の低下をも意味する。この一閃で頑丈な腕は斬りおとされることこそなけれ、浅くはない傷を負った。

「(――後は刃と刃の語り合いか。)
……力が無くなることにこしたことはない。だが、僕は現実から逃げないと誓った。
大切なのは力のバランスだと分かった……――!!」

反撃とばかりに右手の大剣を振り抜き、同時にジョーカーから見て右側を走り抜けんとする。
すれ違いざまの横一閃を狙う。

「――だから、僕はこの力を失うわけにはいかない。」
130ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/23(金)23:21:24 ID:7b6
>>129

 逆袈裟の一撃をかわされつつも、水平の一閃が城ヶ崎の左腕を捉える。
クリーンヒットしたはずの一撃だが、腕を切り落とすには至らない。

 城ヶ崎の言葉を聞くと、ジョーカーの動きが一瞬止まった。
ひゅん、と光剣を引き戻しつつ、何やら思案する。

「……『力が無くなるに越したことはない』……『力のバランス』?何を言っているんだ、貴様は?」

 ジョーカーは知らない。
力有るゆえの苦しみなど理解できようもない。

「綺麗事といい何といい、貴様の論理には辟易だ……だが」

 右からの横一閃に右斜め上への斬り上げを合わせ、逸らす。
滑った大剣の切っ先がバイザーを掠めた。
セラミック、あるいは金属の破片が飛ぶ。

「……力量相応の、力への執着があるには違いないようだな」

 ゆっくりと振り返り、右手で光剣を下段に構える。
バイザーの穴から歪んだ笑みが覗いた。

「死にたくないという奴は山ほどいたが、そういう強気な言葉を聞いたのはいつぶりか……貴様、そこそこ気に入ったぞ」

 左手で光剣の柄、小さなスイッチを押す。
するとそこに設けられた小さなスロットから、何やらカードのようなものが排出された。
ジョーカーはそれを指で摘まんで、これ見よがしにひらひらさせた。

「今日はこれで満足していおいてやろう。ルゥ・ヴィレットとかいうメスガキも『寝かせて』あるのだ、一人も二人も変わりはしない」

 以前邂逅した少女の名前を挙げる。

「だがいずれ、この力を俺だけのものにするために貴様を殺す時が来る」
「もしそのとき、貴様もまた真理に目覚めていたら――それはそれは素晴らしい時間になるだろう」

 ジョーカーは一歩後ずさる。
胸から滴り落ちた血が、名残惜し気に血痕を残す。

「俺の名はジョーカー=サファイア。また会おう……否、また会うこととなる。真理の導きによってな」

 光剣をさっと振ると、空間が「割れた」。
現れた次元の裂け目にジョーカーはあっという間に滑り込み、姿を消す……
131城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/23(金)23:52:00 ID:fHK()
>>130
すれ違った刹那、切っ先に手ごたえを覚えた。
それから城ヶ崎が振り返ったのもジョーカーと同時だった。両者向き合ったとき、始めて彼の顔を一部なりとも見ることができた。

「……ずっとそんな表情で戦っていたのか。分かりやすすぎる悪役だね……」

大剣を右肩に背負い、そんな感想を吐いて見せる。
これまでも彼の表情が透けて見えるような場面はあった。だが、そんな想像に肉付けをする現実が今目の前に現れる。
対して城ヶ崎は、息を切らしながらも、どうにか薄ら笑いといった表情を浮かべることに成功はしていた。
楽ではない状況だが、逆にこうでもしないとやってはいけないと思った。余裕を失ってしまえば、それこそこの男と同じただの戦闘マシーンのようになってしまうと思ったから。

「それはどうも……こういう精神をしていなければ“悲劇”にはついていけないものさ。
死にたくない奴ほど真っ先に死ぬからね……全く、皮肉なものだ……」

無論、城ヶ崎自身は死にたいわけではない。だが、戦う者である以上、死への恐れはある程度は忘れ去らねばならない。
無駄な感情こそが戦場では不利に、ひいては死につながる。そうして何度も死線を切り抜けてきたことを傷や煤だらけのコートが物語っている。

「ルゥ・ヴィレット……!その名前を君が知っているとはね……」

運命はまた奇妙な縁を用意するものだ、と感心してしまう。
ジョーカーの口ぶりでは、彼女もまた自分と同じ扱いをされているに違いない。表情がこころなしか引き締まっていく。

「ジョーカー……正に君は例外、あるいは秩序を撹乱する濁り、か……
君の言う真理など真理とは認めないが……また僕らは会うことになるだろうね、物好きな運命の導きによって。」

裂け目が消え、完全に自分以外の気配がその場から消えた後、城ヶ崎は膝から頽れた。

「(教会――随分と懐かしいな。今日のところはここで夜を明かすのも悪くないかもしれない。)」

闇が意識を飲み込んでいく。
ステンドグラスから降り注ぐ神の祝福よりも甘美なそれは彼をたちまちにして、かつての光景に出会わせた。
教会、オルガン、棺桶、そして、自分が戦うことを決意したきっかけたる、あまりにも白い少女――――
132レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/02/27(火)22:25:12 ID:g8F

 同盟の支配地域に存在する「大図書館」は、その名に違わずジグラットじみた巨大さであった。
数十層にも及ぶフロアにはびっしりと本棚が並び、共和国の国立図書館など霞んでしまうような数の蔵書が収められている。

 一方で、エントランス付近のロビーは洒落たコーヒースタンドなども設置されており、
図書館に用の無い人も立ち寄るような憩いの場となっていた。
同名の勢力圏のこと、人間だけでなく怪物じみた姿の人々の姿も散見されるが、
本やコーヒーを片手に談笑しているところは変わらない。

(むっ、まただ……)

 その窓際の席に座っていた女性が、手元の本のページから付箋を剥がす。
マルーン色の服を着た彼女は整った容姿をしていたが、犬に似た耳と尻尾を持っていた。

(また付箋が……これで何枚目です?)

 今、その尻尾を不機嫌そうに揺らしながら付箋をテーブルの端に張り付ける。
そこにはすでに十枚以上の付箋の姿があった。

(貴重な本に付箋をベタベタと……前に借りた奴はどういう神経してるんでしょう、全く)

 女性はそうぼやいて労わるようにページを撫でる。
その本の表紙やページは茶色く変色し、縁はことごとく擦り切れており、古文書と言っても差し支えないような代物であった。

 同盟のために働いたことのある人間ならば彼女が同盟のエージェント、レイシィ・レシーバーであることがわかるだろう。
レイシィは暖かな日差しの差し込む窓の外をちらりと見た後、再び本に視線を戻す。
133ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/27(火)22:57:51 ID:sEO
>>132
整備され住み心地の良い街とはいえど、金をかけずにゆっくり過ごせる室内というのは意外とそう存在しない。
その数少ない一つである図書館のロビーには『同盟』だからこそ見られる多種多様の種族間の団欒がある。
そんな中に埋もれて一人、快適な読書環境を提供するための柔らかな長椅子に座る獣耳の少女の姿。
退屈そうに宙空を眺めたりたまに周りを窺ったりとと、明らかに暇を持て余しているといった様子。
ふと、辺りを見回していた視線が止まる。どこかで見た覚えのある顔だった。いつだったか、仕事をもらったような。

「んー……仕事、欲しいしな……」

ひとりごちて腰を上げる。飲み物を二つ買ったと思えば窓際の女性の方へと。
懐が寒かった。だというのに仕事が見つからないところで彼女を見つけたのは少女にとっては僥倖だったのかもしれない。
とん、と女性の傍に紙コップが置かれる。まだ湯気の立ち上るブラックコーヒーだ。

「随分、根を詰めてるみたいだけど」

横に立つ形で少女が声をかける。濡羽色の髪が窓から射しこむ陽光を飲みこんで揺れた。その手には甘々のカフェオレだ。
ほんの数回、仕事の斡旋で顔を合わせた程度の関係であるが、ただの雇われ人であった少女をレイシィが覚えているかどうか。
どちらにしろ少女は気にする様子はないだろう。こうして声をかけてきた辺り、その要件を察するのは難しくないかもしれない。
134レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/02/28(水)19:05:12 ID:vbt
>>133

 不意に呼びかけを受けたレイシィはきょとんとした顔で横を見やる。
しかし少女の顔を見ると、目に見えて表情を明るくした。

「ヴィレット先生じゃないですかぁ!お久しぶりです、いつぶりですかね?」
「ああ、この調べ物は半ば趣味みたいなもんなのでそんなにアレではないんですけど!」

 本をテーブルに放り捨て、いつのまにか掛けていた眼鏡も懐にしまう。

「それにしても……実は私、前々から先生に勝手にシンパシー感じちゃってたんですよね!ほら、耳が!」

 レイシィはちょっと屈むようにして、ルゥの耳に自分の耳を触れ合わせようとする。
どうやらルゥのことを覚えていたのも、彼女の獣耳が印象に残っていたからのようである。

「あ、コーヒー!いただいちゃっていいんですか?ありがとうございます!……おっと!」

 レイシィはコーヒーに喜んだかと思えば、いきなり手の平をぴっと突き出す。

「さては仕事ですね!仕事の話なんですね?『何か手ごろなクエストは無いか』――そうおっしゃりたいわけだ!」

 そう言って人差し指を左右に振る。尻尾もそれに同調したように動く。
幼い外見の相手を「先生」と呼び敬語を使うわりに、話題や振る舞いはかなり馴れ馴れしいものであった。
135ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/28(水)19:42:09 ID:n6t
>>134
「あーうん、久しぶり……。
いい、のかな?いやわたしはいいんだけど……」

ルゥに気づくや否やぱっと明るくなるレイシィとは対照的に、おおうとちょっと引き気味なルゥ。
さっきまで丁重そうに扱ってた本があっさりと机に放り出されるのをどことなく哀れみの目で見送ってやる。
先生呼びや敬語とそれに似つかわしくない押せ押せな態度には慣れたようで、というよりは最早諦めに近い。
ソウダネーとちょっと適当もとい曖昧に返しつつ、獣耳を触れ合わせるとくすぐったさそうに目を細める。
やはりレイシィと同じく身体的特徴から親近感を覚えるのか、なんだかんだと嫌ではないらしい。
しかし本題に入れば話は別。小さく頷いて向かいの席に腰を下ろそうと。

「今、暇してるからさ。なにかよさそうなの、ないかな?」
136レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/02/28(水)21:04:34 ID:vbt
>>135

 ルゥが向かいの席に座ると、レイシィは一転神妙な顔つきになった。

「それが、ですね……」

 テーブルの上に身を乗り出すようにして、顔を寄せようとする。

「実は、ですよ」

 いっそう小声になって。

「無いんですよね。ははは!」

 今一つ理由のわからない笑いの後、レイシィは席に座りなおしてコーヒーを一口飲んだ。

「いや、本当なんですよ。最近そこかしこで抗争がひどくなってまして、よっぽどの荒事以外じゃなかなか雇用ないんです」
「共和国軍の駐屯地に忍び込んでコンツェルン・シンパの将校を暗殺する依頼とかならありますけど、ヴィレット先生はそういうの専門外でしたよね?」

 苦っ、と呟いて、テーブルに置かれた瓶から角砂糖を紙コップに放り込んだ。
難しそうな顔をして話しながら、マドラーをぐるぐるとやる。
 
「そういうわけで……私としても心苦しいんですが、無いとしかお答えできなくて……」

 そのとき、先ほど放り出した古書がレイシィの目に留まった。
表紙から辛うじて読み取れるタイトルは「ラ・ボー遺跡 土偶の守護(まも)る地に眠る浪漫」。

「……あ!いっそ、遺跡にお宝探しに行ってみるとかどうですか!トレジャーハントですよ、トレジャーハント!」

 レイシィはそう言って本の表紙を示す。
……からかっている気配はない。
むしろその目はきらきらと輝いている。
137ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/28(水)22:17:25 ID:n6t
>>136
レイシィの表情の変化にルゥもまた真剣な眼差しで応える。ごくりと喉が鳴った。
口元に獣耳を寄せてさぞ重要な、ともすれば収入のいい話なのだろうと言葉を待って。

「…………えー?」

姿勢を戻しながら清々しいまでのジト目である。
これが噂の上げて落とすとかいうやつなのだろうかと、拗ねたように頬を膨らませた。

「まあ確かに、わたしは物騒なのはやらないけどさ……」

荒事、となれば必然的にこちらの危険性も高い。そういった仕事を選ぶ程少女は一攫千金を夢見ている訳でもないし、戦場を求めている訳でもない。
各勢力の情勢に首を突っ込んで下手を打つ事もあり得るのだ。
そういった依頼を受けるつもりはいくら金に困っていてもさらさらなかった。

「いや、気にしなくていいよ、仕方ないもん」

とはいえやはり仕事がないのは厳しい。ううんと唸って、カフェオレを一口啜る。
レイシィが砂糖を加えているのを見て次は同じものにしてあげようと密かに決意。
急な代案には目をぱちくりとさせたが、指の先を追って合点がいったらしい。

「ああ、そういう仕事もあるらしいね。
でもわたし、価値がある物なんて分からないし……なんだか、難しそう」

トレジャーハント、宝探し、遺跡探索。様々な呼び方こそあれど数多の文明が混ざり合った現在ではポピュラーな仕事ではある。
しかしそういった類の経験がないルゥにとってはまるで未知の領域だ。
ううんと自信なさげに首を傾げるが、興味はあるようで獣耳がぴくぴくと反応していた。
138レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/01(木)22:14:02 ID:DLy
>>137

「そうですよねえ……仲間に一人でも経験者が居れば結構違うんですけど……あっ」

 ルゥの率直な感想を聞くとレイシィは一転して退屈そうな顔になったが、何かに思い至ってまた表情が変わる。

「私経験者でした!」

 レイシィはコーヒーを一息に飲み干し、にやにや笑いながら続けた。

「まあ専門ではなくて、ヴィレット先生みたいな何でも屋だったんですけどね。その時に何度か、遺跡に潜ったんですよ」
「その後同盟の人に取り立ててもらって、自分が雇う側に回った感じで……おっと、私の身の上話はどうでもいいですね。隙あらば云々」
「とにかく私を同行させてくだされば、ご案内程度は……」

 その時、レイシィの懐から音楽が鳴った。
ルゥに一言断って席を立ちつつ取り出したのは、コールを報せるスマートフォン。
同盟側の人間が持っているのは不自然だが、組織からの支給品か、あるいはそっくりな魔道具なのかもしれない。
レイシィはロビーの外でしばらく通話してから、ルゥの元へ戻ってくる。

「ヴィレット先生ッ!天祐ですよ!天祐!」

 それも、あからさまに興奮して。
隣のテーブルで小説を読んでいた狼男が迷惑そうに一瞥する。

「たった今、遺跡に行く仕事が出来たんですよ!それも、ちょうどこの遺跡!ラ・ボー遺跡です!」
「内容はまあ……どうせ、不用心なトレジャーハンターの死体を確認するだけです。報酬もあまりたくさんは出しかねますが……行きがけの駄賃にお宝を漁れますよ!」
「水先案内は予習もバッチリの私がさせていただきますよ!お受けになりますよね!募集人員は私のほかに二名なので、急がないと埋まっちゃいますし!」

 その後は、よっぽど強く拒否しない限り、レイシィはルゥがその仕事を受けるという前提で手続きを進めてしまうだろう。
「デンジャラスな土偶はワンサカいるけど多分どうにかなるだろう」などと気になることを呟きながら。

 やがて、ロマンよりも宝に目がくらんだレイシィはさっさと本を返却してしまう。
しかしテーブルに戻ってきたとき、彼女はルゥにとって少し気になるかもしれないことを言うのだ。

「さっきの本なんですけど、やたらと付箋貼ってあって気になったんですよね」
「それで、司書の人に……前借りた人ってどんな奴かって、聞いてみたんですよ。とびきり古い本なので、覚えてるかもしれないと思って」
「そしたらやっぱり覚えてて。『全身真っ青な鎧の男』だったらしいですよ。変な奴ですよねえ、仮面ナントカ気取りなんですかね?」
139ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/01(木)23:16:18 ID:ja8
>>138
レイシィの突然の告白にへえ、と意外そうに漏らす。続く過去話にはまたソウナンダーとどことなくぞんざいな扱いであるが。
しかしレイシィにトレジャーハントの経験があるというならば話は別だ。気持ち前のめりになりつつ、心なしか瞳も輝いている。

「んー……じゃあ、お願いしようかな……?」

互いに乗り気になったところでのコール音には少しだけ肩を震わせたが、席を外そうとするレイシィには気にしないようにと軽く手を上げる。
本題に入ろうかといったところの中座の間に居住まいを正し、カフェオレを飲み干す。多めの砂糖が身に沁みた。

「お帰り……ってちょ、ちょっと、声……!」

予想以上に声を張り上げるレイシィが戻ってくれば、あわあわと人差し指を口に当てて窘めようと。
談笑を楽しんでいた周囲の冷ややかな視線に思わす獣耳もぺたんと倒れるというもの。
続くレイシィの言葉には興味がわいたのか、咎める言葉は少しずつ小さくなっていったのだが。

「へえ、随分とタイミングがいいね。まあ、それくらいならいいかな。
……ってちょ、あの、まだ受けるとは、いやいいんだけどさ」

あれよあれよと進む話に目を白黒させながらどうにか口を挟もうとするが、頑なに固辞する理由もないためその語勢は弱い。
物騒な言葉が聞こえたような気がして、手で顔を覆いたくなるのをどうにか堪える。転がる石を止めるにはもう遅すぎた。
結局ルゥは知らないところで手続きが進められるのを、小さなため息とともに容認するしかなくなるのであった。

レイシィの語る『変な奴』についてはただ一つ、相槌を返すがその様子は変わらない。
ただ感情を映さない相貌の内で、僅かに翠玉の瞳だけが細められるだけだった。
140レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/02(金)21:46:16 ID:Tvy

 ――今回の出来事の舞台であるラ・ボー遺跡。
起伏の激しいジャングル地帯、うっそうと茂る木々の間に佇む神秘の建造物……

 フリーランスたちと水先案内人を乗せた翼竜は、遺跡の数十キロ東方、谷川のほとりに降り立った。
分厚い枝葉を透かして降り注ぐエメラルドグリーンの陽光が、濁った流れの巻き上げる飛沫をささやかに輝かせる。

「さあ到着です!くれぐれも足元にはご注意を、泥の中に足を突っ込んだりしたらヒルに食われますからね!」

 手綱を握っていた水先案内人――レイシィ・レシーバーは、仕事人たちに翼竜の背の仮設シートから降りるよう促す。
その後自分も地面に降り立ってポーチから何かの果実を取り出し、疲労にあえぐ翼竜に食わせてやった。
ついで仕事人たちの前に立ち、しかつめらしい顔で手元のスマートフォンを見やりつつ、本題に入るのだった。

「それでは、あらためて今回の仕事の内容を確認させていただきます……昨夜、ラ・ボー遺跡に所属不明の航空機が着陸したという情報が寄せられました」
「この遺跡は『クリムゾン・チェーン』と呼ばれる詳細不明の物品を開発する研究所だったようですが、警備土偶と呼ばれる攻撃的な自動人形が現在でも多数稼働状態にあり非常に危険です」
「そこで我々は遺跡に突入し、航空機の乗員が民間人であった場合は救出……万が一共和国やコンツェルンの勢力だった場合は速やかに脱出し通報せよ。とのことです」

 そしてそこで一気に表情を緩和させる。

「まあ、どーせ不用心なトレジャーハンターでしょうから。死体だけ確かめて終わりですよ」
「今回の突入のルートはかなり安全策なので、何か起きない限りは土偶の大群に襲われるようなこともありませんし」
「それより……もしあなた方が往路なり復路なりで、何かしらのお宝を拾っていたとしても、私は見なかったことにします」
「そしてあなた方が私のそういった姿を見たとしても、あなた方はそれを忘れます。ていうか気のせいです」

 説明をバカバカしい取引で締めくくっておいて、レイシィは川べりの岸壁を指し示す。

「ご覧ください!」

 そこには遺跡の一部を切り取ったかのような、歴史を感じさせる重厚な門が存在した。
扉は固く閉ざされ、その上から蔦植物が這い上がっている。

「正面からいったのでは土偶にボコられるのは目に見えてますので、今回は『裏口』から侵入します。この門がそうです」
「古文書によれば、ここから地下の『トロッコ・ステーション』なる施設に降りられるようです」
「これらの遺跡を残した文明の技術レベルからいって、トロッコはまだ使用可能なはず……それで山の上のラ・ボー遺跡まで直通です!」

 レイシィはやや上ずった声で説明を終え、早速門のほうへ向かおうとした。
しかし思い至って、最後に仕事人たちに尋ねる。

「おっと、何かご質問のある方はいらっしゃいますか?……無ければすぐにでも、私の解錠魔法でこの門を開けて突入してしまいますが……」
141サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/02(金)21:58:53 ID:VF4
>>140
翼竜の背より音を殺してするりと着地する小柄な黒い人影。
水先案内人へ深紅の視線を向けるのは白髪に白い肌をした少年だ。

「遺跡捜索の護衛って話は聞いている。
 僕は宝物にはあまり興味はないけど、誰かが着服しても見なかったことにするよ。
 僕はサイスだ、それじゃあよろしく。」

少年は感情の篭らない声色で一通りの挨拶をし、周囲の反応を窺う。
142ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/02(金)22:06:13 ID:qk7
>>140
「……やっと、着いた……」

翼竜の硬い背から大地に降り立った獣耳の少女は、息も絶え絶えといった様子でぽつりと一言。
束の間の空の旅で彼女が極力下を見ないようにしていたのは、同乗者にも簡単に見て取れただろう。
どことなく青かった顔も温かな土の感触に安心したのか色を取り戻しつつあった。
レイシィの説明には事前に何度か聞いていた事もあってか、周囲の様子をきょろきょろと見回しながら幾度かの相槌。

「ん、そうだね。よく分からない物を拾うかもしれないけど、気のせいだよね、気のせい」

言外のトレジャーハントにはノリノリである。というかむしろそちらの方が主目的に近い。
もっともらしく頷いてみせるが実際ほぼ棒読み、高揚してるのか語調も明るいものだ。
重く荘厳な門を見上げるとおお、と吐息を漏らす。
遥か彼方の昔の姿を保ち続けているそれから感じる言い様のない威圧に、覚えるのは純粋な感嘆のみ。

「わたしは大丈夫。お宝……じゃない、誰かが待ってるからね」

>>141
今回の仲間となる少年の名乗りを聞くと、思い出したかのように少女も返す。
断じて慣れない高い所に必死で忘れていたとかではないのである。

「そうしてくれると助かる、かな。ルゥ・ヴィレット。よろしくね」
143レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/02(金)22:31:33 ID:Tvy
>>141

「サイス先生ですね!……ちゃ、着服とは人聞きが悪い!偶然ポケットに入るだけですよ!」

 レイシィは泡を食ってめちゃくちゃな否定をした。

>>142

「ヴィレット先生、よくわかっていらっしゃる!それではお宝を……もとい、救助に向かいましょう!」

 レイシィはそう言って門に近づくと、扉に手をかざして短く呪文を唱えた。
……奥で何かがへし折れたような音が響く。
レイシィはにやりと笑みを浮かべ、体重を入れて扉を押そうと――

 そのとき一行の背後の茂みから何者かが飛び出して、素早くレイシィに組み付いた!

「ぐわっ!?な、何ですアンタは!?」

 人影は瞬く間にレイシィを羽交い絞めにして、仕事人たちのほうへ向け盾とした。
すかさず拳銃型の武器を取り出し、彼女のこめかみに押し付ける。

『動くな!こいつの命が惜しかったらな!』

 月並みながら明快な言葉で仕事人たちを牽制する、全身を青いハイテック・アーマーに包んだ謎の男。

「何ですかって言ってんでしょ、誰ですかアンタは……」

 レイシィはそう喚きながらもがいたが、しばらくしてその男の正体に思い至る。

「あ、アンタは……ジョーカー=サファイア!?腕利きを殺して回ってる有名なキ印の……いてててて!めり込んでる!ピストルがめり込んでるから!」
144レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/02(金)22:33:23 ID:Tvy

『俺がキ印だろうがなんだろうが、今は関係ない』

 ジョーカーは仕事人たちのほうを見回して……ルゥに目を留めた。

『……ほう?どこかで見たような顔も混じっているようだが……それも今は関係ない』

「そ、そうか!あの本に付箋を貼りまくってたのはアンタですね!?マナー悪いんですよ!」

『貴様は黙っていろ!……とにかく、この遺跡に首を突っ込まれては色々と困る』
『俺はこれからラ・ボーに行くが、次に会ったら命は無いものと思え!』

 そう言ってジョーカーはレイシィを勢いよく川へ蹴り込む。

「グワーッゴボゴボ……」

『分かったらここらのジャングルでピクニックでもして、気が済んだら消え失せるがいい!』

 そして身をひるがえして扉を引き開け、その中に滑り込んで姿を消した。

「ゴボボーッ!ぷはあっ!」

 しかしレイシィが驚くべきガッツで川岸に食らいつき、ずぶぬれになりながらも這い上がる。

「皆さん!奴を追いましょう!あんの××××め、ぶち殺してやる!」

 その言葉に従って扉の奥に進んだならば、長い下り階段の奥に、二路線の小さな駅に似た広い空間が姿を現すだろう。
「トロッコ・ステーション」である。
一方の路線にはトロッコの姿はすでに無く、レイシィはもう一方の路線に停められたトロッコに飛び乗って、二人にも乗るように促す。
145サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/02(金)22:46:50 ID:VF4
>>142

「ああ、よろしく。」

ぶっきらぼうに端的にそう返すと少年は案内人に視線を戻した。

>>143-144
茂みから突如として現れ案内人を羽交い締めにする人影。
青い機械の甲冑を纏った男だ。

『ジョーカー=サファイア』

少年は目の前の人物にもその名前にも心当たりは無かった。

拳銃型の武器で人質を取っている間は少年は動かない。
自分の能力を知られていない今なら影を伸ばしての奇襲も可能だったかもしれないが、
今回の依頼は"護衛"なので案内人の命を危険に晒す訳にもいかない。

やがて遺跡に近づくなと残して男は去っていった。

『奴を追いましょう!』

「了解した。」

自らへの危険は度外視するかのように案内人に返答すると素早くトロッコの後ろへと続く。
146ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/02(金)22:55:20 ID:qk7
>>143-144
レイシィが解錠しているのには興味津々なのか、ほえーと間の抜けた声を漏らしながら覗きこむ。
一般に魔法と呼ばれるものには縁がないだけに、感心そうに眺めていた。
そのせいだろう、背後の影に気がつけなかったのは。

「うわっ……ちょ、えっ……!?」

突然の事にレイシィを庇うか、あるいは迎撃するかの判断に迷いが生じる。そのせいで動き出すのがやや遅れた。
こちらが動くよりも早く銃口が定められたのを見てとるや飛び退って距離を取る。
襲撃者の正体に気がつくのは早い。じっと見据える視線に滲むのは、静かではあるが確かな敵意だ。
しかし動く事は叶わない。仲介者を失ってしまえばどれだけ困るかは理解しているつもりだった。
故にいつでも動き出せるように静観する。見て分かるほどに握り拳に力が入った。
彼にかける言葉はまだない。今はただ、遺跡の奥へと去っていくのを黙したまま見送るだけだ。
ジョーカーの姿が見えなくなってようやくレイシィの方に注意を向けるが、その激情には少しだけ顔が引きつった。

「あーうん……とりあえず、落ち着こう?ほら、お宝が待ってるかもしれないし、ね?」

とうとうお宝とはっきり口に出したがそこはそれ、レイシィを宥めながら扉の奥へ。
トロッコが物珍しいのか、一向に続いて乗りこむ様子はどこか楽しそうで。
147ヘレネ◆PhAnGMnQIc :2018/03/02(金)23:01:05 ID:iFJ
>>140
>>143
>>144
ヘレネは瀬平戸市を離れ、開かれた世界の探査に赴いていた。
目的は会長の捜索と、星のかけら。ヘレネは広がった世界にも星のかけらが存在すると考えた。それならば、黒百合学院として回収しなければならない。
瀬平戸市を離れた後は適当なフリーランスという事にしてあちこちを飛び回り、そして今に至る。

「遺跡ですか…蛇が出るか鬼が出るか…あぁ、遅ればせながらよろしくお願いしますわ皆さま」

他の参加者に挨拶をして、その後に続く。

(遺跡といえばお宝があると聞くが…これは星のかけらもあるかもしれないな)

今は特に目立った行動を取るつもりはない。今敵を作ったところでデメリットしか存在しない。ヘレネは、今は他の参加者に合わせようと考えていた。
148レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/02(金)23:20:35 ID:Tvy
>>145

「あいつめ……この文明の遺跡が転移魔法の類を受け付けないんで、入りあぐねて私がカギを開けるのを待っていたに違いありません!卑怯な奴!」

 興奮冷めやらぬレイシィは冷静なサイスに熱っぽく語る。
救助より宝に目がくらんでいた者が他人を卑劣呼ばわりするのは正当なのだろうか。

>>146

「お宝?……そうです、お宝!古代の金銀財宝!奴に渡すわけにはいきませんッ!」

 レイシィは蹴落とされた川で「慎み」や「モラル」を流されてしまったかのようであった。
ルゥの宥める言葉も効いているのかどうか、今一つ判然としない。

>>147

「よろしくお願いします、ノイスシュタイン先生!さあ、お宝のために!奴をぶち殺してやりましょう!」

 静かに思考するヘレネに過激発言を投げかけておいて、レイシィは直感のままにトロッコの内部のレバーを倒す。
するとトロッコは何の前触れもなく発進、急加速した。

「おおっ!これは……速い!」

 レイシィは濡れた髪をかき上げつつ、呑気に感嘆する。
二本のレールの走るトンネルはちょっとした体育館のような広さがあった。
ずっと遠くの壁や天井には不思議な照明が埋め込まれていて、
それが過ぎ去っていく速さが、尋常ではないトロッコのスピードを物語る。


「――あっ!居ました!奴です!」

 やがて前方に、先を行くジョーカーのトロッコの尾部が見えてきた。
その上の青い鎧の人影がレイシィたちのトロッコを見て、一瞬固まる。
しかし次の瞬間、ジョーカーの鎧が金色のものに変化し、闇の羽衣の如く黒いオーラを纏う。
――あからさまに反撃の予備動作である。

「……あれ?なんか鎧が変わったような……」

 レイシィが間の抜けたことを言った直後、ジョーカーの纏う黒いオーラは渦を巻いて凝縮し、七本の剣となって宙に浮かんだ。
ほとんど間をおかずに剣はレイシィたちのトロッコへ飛来し、車上の人々を嵐の如く無差別に斬りつけ始める!

「うわあああー!?」

 対抗手段を持たないレイシィは、ただ伏せて嵐が止むのを待つことしかできない。
仕事人のうち一人でもジョーカーを攻撃できたならこの脅威を止めることができるかもしれないが、果たして?
149サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/02(金)23:30:43 ID:VF4
>>148
案内人の転移魔法の類を受け付けないという部分が気に掛る。
遺跡の出入り口のみなのか格部屋ごとに遮断されているのか。
後者だった場合はサイスの持つ能力の効力の半分ほどが制限されることだろう。

青い鎧のが金色のものへ変化し、黒いオーラを纏うのを確認する。
明らかな攻撃の呼び動作。

残念ながら走るトロッコより早く影を動かすことは出来ない為、その大本を叩く事は叶わない。
しかし、足元の影から大鎌を取り出し飛来する刃の幾つかを其れで弾いて防衛の姿勢を取る。

「誰か遠距離攻撃できる人、いない?」

恐らく非戦闘員である案内人を除く二人に問い掛けてみる。
150ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/02(金)23:41:13 ID:qk7
>>147
「ん、よろしくね」

もう一人の同行者であるヘレネには軽く一声。
互いに自己紹介は翼竜の旅やそれ以前で簡単に済ませていたのだろう。

>>148
火に油を注いだような気もするが、ラチがあかないのでソウダヨーと流しつつ。

「へー、これが動くんだ……ふぇあっ!?」

トロッコが発進すれば予想以上の速度に悲鳴のような声を上げて縁をがっちり掴む。
しかし少しすれば慣れてきたのか、目を細めてしっかりと楽しんでいる模様。
かび臭くも冷たい風に流されて、豊かな黒髪が後方に激しく靡いた。
しばらくして先駆者の姿を視界に捉えれば、すぐさま警戒の目つき、トロッコの縁を握る手に力が入った。
その変形を、彼女は知っている。

「っ……伏せて!」

咄嗟の判断。攻撃の予兆を敏感に察知したがためだ。
ばちり、濡羽色の髪が紫電を帯びる。このままでは無事終着点に辿り着けるかも怪しい。
であれば、こちらもやるしかない。

「やらせない……!」

防御を捨てて身を乗り出す。最低限の回避のみに集中していくつかの刃が掠める。
雷光が疾る。相対速度を物ともしない電は線路を駆け抜け、ジョーカーへと突き進むだろう。
151ヘレネ◆PhAnGMnQIc :2018/03/02(金)23:46:55 ID:iFJ
>>148
「あらあら駄目ですよレイシィさん、綺麗な女性がそのような下品な発言をされては」

笑顔で過激な発言をするレイシィを諭す。いつものようにヘレネは外殻を纏って他者に接する。

(大体なんで人間に尻尾と獣耳が生えてるんだよ、てめー獣クセェんだよぉ。この気持ちわりいヒトモドキが)

その内心は誰からも悟られる事はない。天真爛漫な外殻を剥がしたらそこにあるのは純粋な悪意。実際のところ、ヘレネは他の参加者を動ける肉盾程度にしか思っていなかった。
トロッコはスピードを上げ、ジョーカーのものに追いついてきた。

「どうやら一筋縄では行かないようですね…!」

相手の攻撃の動作を確認し、ヘレネもまた反撃へと転じる。剣を杖で受け止めつつ、そこから無数の光弾がジョーカーのトロッコ目掛けて撃ち出される。
仮にジョーカー本体に直撃しなくとも、トロッコに当たりさえすればその衝撃で動作を中断させる事ができるだろう。
152レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)00:11:16 ID:0HQ
>>149

 情けなくトロッコの床に這いつくばったレイシィは、あくまで冷静に対処するサイスを憧れの視線で見上げた。

「サ、サイス先生……頼りになるぅ……!」

>>150

 ルゥの放った雷は文字通り電光石火の速さでトンネルを走り、剣の操作に集中していたジョーカーの不意を突いて見事命中する。

『ぐっ!?これは!』

 応酬の間に差は縮まりその呻きも聞こえる距離である。
ジョーカーは追撃を恐れて剣を呼び寄せ、それを「解いて」闇のオーラを自分の周囲に展開する。

>>151
 防御膜ともなるオーラは、ヘレネの光弾を遮り、呑み込んで、ジョーカーを守り抜いてみせた。
――「ジョーカー」を。トロッコは対象外である。
光弾の一発がトロッコの車輪に命中!

『うおおっ!?』

 ジョーカーのトロッコは派手に脱線し、数千年分の土煙を上げながら路肩で派手にデスロールを踊った。
ジョーカーもその中に飲み込まれて姿を消し、トロッコの速度のままに過ぎ去っていった……。


「ざまあみろ!卑怯なことをするからばちが当たったんだ!反省しろよウワハハハ!」

 これに喜んだのはレイシィであった。
先ほどまでの怯えぶりもどこへやら、遥か彼方のジョーカーを煽りに煽る。

 その啖呵が途切れないうちに、トロッコは減速し、やがて停止した。
そこは川のほとりと同じようなプラットフォームである。
レイシィはトロッコを飛び降りると、先ほどよりはいくらか純粋に仕事人たちへ笑いかける。

「さあ到着です……ラ・ボー遺跡へようこそ!」
「これからのことですが……来る途中上空から見た限りでは、航空機は中庭に駐機されているようでした。多分あれは……ヘリコプター、ですかねえ?」
「我々もとりあえず中庭へ向かいます。ここを出て直進すれば、研究室を通り抜けて、中庭に出られるはずです」

 そう言って仕事人たちを先導し、プラットフォームを出る。
153レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)00:13:13 ID:0HQ

次に辿り着く部屋は、研究室。
教室ほどの広さの部屋に、得体の知れない機械や、わけのわからない文字の書かれた文書が散乱している。

 しかし探検者たちを何よりも驚かせるのは、無数の真新しい足跡、資料を引っ掻き回した形跡であろう。
それは飛行機でやってきた者たちが土偶の抵抗をはねのけことを示している。
しかし一方で、戦闘の痕跡は無いのだ。
レイシィもさすがに困惑した様子で、仕事人たちに意見を求める。

「こ、これは……どういうことなんでしょう?土偶どもは探検家たちを素通りさせて、漁るに任せたんでしょうか……?」

 さらに、ぽつりと付け加える。

「……そういえば、土偶、どこへ行ったんでしょう……」

 ……遺跡はごくひっそりとしている。
154サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/03(土)00:25:37 ID:eqh
>>152-153

『サ、サイス先生……頼りになるぅ……!』

「僕は……護衛、だから。」

少年はほんの少し気恥ずかし気に頬を掻いた。

電撃で動きを制限され光弾の直撃を以てトロッコは脱線。
鎧の男は土煙の中へと姿を消した。

一旦の落ち着きを取り戻した一行は遺跡の内部へと辿り着く。

得体の知れない機械や判読不能な文書などはサイスの元居た世界では見慣れぬものであり、多少の関心を向かせる。
部屋には真新しく何者かが荒らしまわった痕跡が残されており、飛行機で乗り込んだ者達はどうやら無事であることを証明する。

『……そういえば、土偶、どこへ行ったんでしょう……』

確かに事前に聞いていた攻撃的な土偶とやらに全く出くわしていない事に気付く。
しかし今の所は何か対策出来る程情報が整っていない為場の流れに合わせる事にした。
155ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/03(土)00:31:29 ID:DRg
>>152
雷撃の命中を確認しても気を緩めず、徐々に迫るトロッコを注視する。
いつ反撃が来てもいいように、髪を帯びた紫電はそのままだ。
しかしジョーカーの乗せたトロッコが見事なまでの横転を見せ、瞬く間に後方へと過ぎていけばようやく一息ついて能力を解除する。

「今のところはもう大丈夫、かな。
……多分、死んではいないんだろうけど」

いかにも楽しそうに煽るレイシィを横目に、何ヶ所か裂けたローブには頓着せず、姿の消えたトロッコの方をちらりと睥睨。
誰に言うでもなくぽつりと零す。切れた&#38960;の傷は徐々に塞がりつつあった。
停止したトロッコから飛び降りたらぐっと背伸び、全身で感じる加速感が今は少し名残惜しかった。

さて研究室に辿り着けばレイシィほど困惑を表面に出さないまでも、僅かに眉を顰める。その理由は宙空を舞う埃だけのせいではないだろう。
話に聞いていた防衛機構の影も形もなく、先客の痕だけがあるというのはどうにも気味が悪い。

「んー……土偶にとっては敵じゃなかった、とか?
とにかく、慎重に進んだ方がいいかもね」

意見を求められても明確な答えを導き出せるはずもなく、思いつきのままに言葉にしてみる。小首を傾げながら、いかにも自信なさげではあるが。
土偶の姿が見えないのも不気味な状況、先程のようにいつ予測不能な事が起こるとも分からない。
したがって周囲に注意を払いつつ、先に進もうとするだろう。
156ヘレネ◆PhAnGMnQIc :2018/03/03(土)00:42:31 ID:Ivp
>>152
>>153
光弾はトロッコに直撃し、あえなく脱線。ひとまずジョーカーを退ける事はできたようだ。

「これで追って来る事はできないはず…」

脅威が無くなり、トロッコは止まる事なく目的地へと真っ直ぐ進み続け、やがて遺跡へと到着する。
目標の航空機は中庭にあるらしい。まずはそこに辿り着く為に研究室を通る事になった。前情報で警備の土偶がいると聞いたので、ヘレネは十分に警戒しながら進むが…

「何もない…?それにこの荒らされた跡は…」

そこにいるはずの警備の土偶は見当たらず、研究室にあるのはまるで野盗に荒らされたような跡があるのみ。戦闘が行われたような痕跡もない。

「航空機に乗っていた人達は研究資料を狙って…?しかし警備が何もせず素通りなんて…いや、ハッキングのようなものをされてプログラムを書き換えられたなら…?」

どうにもきな臭くなってきた。 しかし、この状況から考えられる事はただ一つの憶測。警備の土偶は何かしらをされてシステムを乗っ取られ、そのまま侵入者の命令を受け付けるように改竄されているかもしれないという可能性であった。
157レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)00:57:55 ID:0HQ
>>154

「いやーその度胸は見上げたものですよ……!」

 ジョーカーを撃退して気持ちが大きくなったレイシィはサイスをほめちぎった。

>>155

「敵じゃなかった……古代文明の末裔が……いや、生き残りが時空を超えた帰還を……?」

 ルゥの思いつきから勝手な妄想を広げるレイシィ。
いつの間にか感情のベクトルは困惑から好奇心、興奮へと変わっている。

>>156

「ハッキング……プラグラムの書き換え!なるほど、それなら辻褄が合いますね……」
「しかし、古代の自動人形の制御などという高等技術はどこから……?」

 レイシィはヘレネの言葉を聞いてしばらく頭をひねっていたが、やがて吹っ切れたようである。

「だーっ!中庭にはまだヘリがあるんです、奴らもそこにいるに違いありません!中庭に行けば全部わかります!」

 そして中庭に通じる扉に近づき、鍵穴を覗いたり撫でまわしたりして解錠準備にかかるのだった。

「お待ちください、今この扉を開けますので……」
「あ、なんだったらその間、ここでお宝探しとかしていただいてもかまいませんよ!」

 ……探すつもりがあるかどうかを差し置いても。
既に一度漁られているとはいえ、浪漫に溢れる古代の遺跡のこと、彼らが「お宝」を見つける確率は0ではない。
【右の実験装置の下に何か見つける】か、【左の実験装置の下に何か見つける】か、それとも【机の上に何か見つける】か……
158ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/03(土)01:06:21 ID:DRg
>>157
「……や、ごめん、やっぱり違うと思う」

レイシィの突飛な発想の連続には相槌を打ちながら、最終的にはマサカーと聞き流す。
なんだか言い出したこちらも恥ずかしくなってきたので発言の撤回を要求するのであった。

「いいの?じゃあそっちは、ゆっくりでいいよ。のんびりね、のんびり」

解錠に取り掛かるレイシィの背に急ぐことはないと念押し。
もちろんそこに邪な考えなんてない。仕事中なのだから当たり前である。

「ううん……なにかある、かな?」

どことなく軽い足取りで部屋を物色しようと辺りを見回し、先客の手が届いていなさそうな右の実験装置を調べようと。
159サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/03(土)01:06:49 ID:eqh
>>157
サイスは元の世界で大型の魔物相手にハンター紛いの稼業をしていた為、
こと荒事にあっては非戦闘員であるレイシィよりも冷静に動けるのだろう。
先程見せた照れにも似た表情は影を潜め、またやや暗い表情に戻る。
あまり浮足立って足元を掬われたのでは堪らない。

文明レベルの違いからハッキング等の用語は理解できなかったが、
他の三人が意見を述べ合うのを少し遠巻きに俯瞰している少年。

「……」

【ふと左側の装置の下が気になったので其処を探ってみる】
160ヘレネ◆PhAnGMnQIc :2018/03/03(土)01:15:39 ID:Ivp
>>157
「とにかく、ここにやって来た人間がただの一般人じゃないのは確かなようですね」

とにかく中庭に行けば全てが分かるであろう。もし資料を狙いにやって来たのなら、逃走手段もまたヘリであるはずだ。

「宝ですか…折角遺跡に来たのですしそれもまた一興ですね」

(星のかけらが見つかれば最高なんだけどな、私の役に立たないお宝など使えないゴミに過ぎん)

ヘレネからすれば星のかけらが回収できれば最善。何かしら役立ちそうな物ならば善。ヘレネの役に立たない物は最悪である。
と、そんな事を思いながらなんとなく目の前にあった机を見てみた。
161レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)01:37:45 ID:0HQ
>>158

 ルゥが見定めた場所には、文書に半ば埋もれる形で鎖状のものが残されていた。
長さは2、3メートルだろうか。手に取れば、しっとりした石の感触があるだろう。

「ドア、開きました!……むむ、それは……?」

 そのとき、解錠を終えたレイシィが背後から声をかける。

「これは本で見ましたよ、『クリムゾン・チェーン』の試作品の一つで……たしか、『石の鎖』というものです」
「手に持って念じれば思った通りに動く、便利な代物ですよ!」

GET!

【石の鎖】
 手に持つと念じたとおりに動く石製の鎖。
長さは数メートルあり、少し手を加えれば応用の利く道具になりそうだ。
162レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)01:38:13 ID:0HQ
>>159

 サイスが気にした場所には、ガラクタじみた用途不明の実験器具の上に、拳大の鉱石が残されていた。
ずっしりと重いそれは、中心まで透き通った真紅である。

「サイス先生、ドアが……おや、それは宝石ですか?ちょっと貸してください、鑑定して差し上げましょう!」

 顔を出したレイシィがそれを気にして、少し借り受けようとする。
もし渡したならば、彼女はペンライトでその石を照らして、光の反射の具合を見ようとする。

「……ん?ルビーだと思ったんですが、ちょっと違うような……!?」

 いったんペンライトのスイッチを切ったとき、レイシィは目を剥いた。
その石はまるでペンライトの光を溜め込んだがごとく、内側から光を放っていたのだ。

「こ、これは……!?」

 そして次の瞬間、石から豆粒大の赤い光弾が放たれてレイシィの眉間を直撃した!

「痛って!」

GET!

【紅い石】
 エネルギーを吸収し、任意のタイミングで光線や光弾のように放出する鉱石。
大きさは拳大だが、少し手を加えれば戦闘に役に立つ道具になりそうだ。
163レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)01:38:44 ID:0HQ
>>160

 ヘレネが気にしたその場所には、ノート状の古文書と液体の入った小瓶が残されていた。
小瓶のラベルや古文書は相変わらず読めない……かに思われたのだが。

「ノイスシュタイン先生、ドアが……ん?」

 姿を現したレイシィが古文書を取り上げ、ぺらぺらとめくる。

「これ、ゲンガ文字ですね。私読めますよ……えーなになに?」


「『開発日誌、その33。上司がまた無茶言い出した。クリムゾンチェーンに人間態への変身機能をつけろというのだ』」
「『この上司が制御プログラムの性格をロリババアにしろと主張し始めた時点で私は彼の正気を疑っていたが、いよいよ末期症状らしい』」
「『しかしそんなもの不要だと言って聞かせたところで無駄に違いない。ああ、また徹夜だ。こうなったら栄養ドリンクだけが頼りだ』」

 レイシィは古文書を閉じた。

「……古代の人も、嫌な上司には苦労してたみたいですねぇ」

 そしてやや投げ槍に結論した。

GET! 

【古代の秘薬】
 小瓶に入った古代の栄養ドリンク。
飲むことで短時間だけ身体能力や異能、魔術の力を倍増できるが、あとあと腹を壊しそうだ。
164レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)01:50:15 ID:0HQ

「準備はいいですか?……では、開けますよ……!」

 仕事人たちが扉の前に集まり次第、レイシィは中庭への扉を開けるだろう。

 ……開ける視界。吹き込むジャングルの風。

 何らかの維持システムによって整えられた芝生の中に駐機する、黒いヘリコプター。

 周囲に集まった黒い軍服の兵下たちと、その中心に立つ、黒い甲冑めいた装甲を纏った男。
甲冑の男が、思わず息を呑むレイシィと、その後ろの仕事人たちを見る!


『シュコーッ、シュコーッ!誰だ彼奴らは!殺せ!』


 異様な呼吸音混じりの号令とともに、兵士たちが一斉に銃を照準し発射する。
しかしレイシィが先手を打ち、早口で呪文を唱えて結界を展開、自分と仕事人たちを銃弾から守る。

「……あ、アンタは……」

 その男の正体も、知っているようだった。

「共和国軍のコンツェルン・シンパの、カイ・ライトニング大佐……!?」
「コンツェルンの尖兵が、こんなところで何をしているんです!?」

 ――「カイ・ライトニング大佐」は、手で合図して兵士に銃を下させた。


『シュコーッ、シュコーッ……こちらのセリフだ……貴様ら、同盟の手先だろう。ここへ何をしに来た』

 ……中庭にて、二陣営の間に緊張感が走る。
165ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/03(土)02:03:16 ID:DRg
>>161
「んー……んんー?」

小難しい文書をいちいち精査するのは最初から諦めてバッサバッサと掘り返し、目に入ったアーティファクトらしきものを手に取ってみる。
が、長い。ルゥが片端を持って背伸びをしても余した石の鎖が床に小さなとぐろを巻く。
一見すれば原材料が少しばかり珍しいただの鎖だ。元の場所に戻そうとするが、レイシィの言葉に思い留まった。

「へえ、なるほど……売れる、かな」

最早個人的な目的を隠すつもりもなく、しかしこの長さをどう持ち帰るか束の間思案。
しばらく石の鎖をジャラジャラ鳴らして試行錯誤を繰り返していたが、結局緩く幾重に巻いて肩にかける事にするのであった。

>>164
さて物色も終えて扉の前に、いよいよ今回の本目的が待つ中庭へと。
警戒を怠らず屋外に足を踏み入れる。かび臭い空気を押し流すかのように外界の風が吹きこんだ。
随分と久しぶりに感じる日の光に目を細める。これで物騒な黒集団がいなければ、さぞ楽しいピクニックとなったのだろうが。

「う、わ……!?」

しかし現実は無情。挨拶代わりの鉛玉には気がつけても身体は反応せず、思わず肩を震わせて目を瞑った。
姦しい銃声に身を縮めて、痛みが訪れない事を疑問に覚えておそるおそる瞼を開く。
レイシィの結界によって守られた事を悟れば大きく一息、しかし危険が去ったわけではなく。
礼の言葉すらも憚られる空気が身を穿つ。これは自分の口出しできる領分ではないだろうと沈黙を守る。
それでも油断は決して見せず、いつでも動けるように相手方の一挙一動を注視しているのだが。
166サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/03(土)02:07:59 ID:eqh
>>162
装置の下を探って見つかったのは拳大の真紅の宝石だろうか。
レイシィが鑑定した際の奇妙な挙動からして只の装飾品という訳でもなさそうだ。
宝に興味が無いと言ったのは本心であり、
取り敢えずは所持しておき後で誰か欲しがる人が居れば譲ろうとサイスは思った。

>>164
中庭に辿り着くと黒い甲冑の男と軍服の兵士達が待ち構えていた。
迫る銃弾をレイシィの結界魔法が防ぎ一時的な均衡状態を作り上げる。

「この場合はどうするの?」

確か依頼には共和国かコンツェルンが関わっている場合は撤退するよう指示があった筈。
水先案内人であり依頼のホストであるレイシィに先の対応を問い掛ける。
167ヘレネ◆PhAnGMnQIc :2018/03/03(土)02:10:40 ID:Ivp
>>163
「つまるところこれは徹夜する時に皆が飲むアレですか…」

机の上にあったのは瓶に入った謎の液体。レイシィの解説によれば、これは某怪物だったり某翼を授ける系のエナジードリンクらしい。まあ、古代のものだから実際に自分の能力が増強しそうではある。

(はーしょっぼ…なんかこうもっとさぁ、封印されし兵器とかさぁ、隠された財宝とかさぁ、色々あるだろ。趣がないんだよ趣が)

内心毒づきながらもとりあえず持っておく事にする。

>>164
中庭に出た瞬間に銃撃を受けるも、レイシィの結界によって守られる。

「……お知り合いですか?」

レイシィとの会話から察するに、相手は共和国の手先らしい。そして、この2人は何かしらの縁があるようである。

(共和国といえば同盟と対立している相手じゃあないか…なら、これは国家が絡んでくる問題ってわけだ、これは面白くなってきたぞ)

ヘレネは警戒しながら相手を見据える。戦闘になった際に、いつでも戦えるよう準備をしつつ。
168レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)02:34:31 ID:0HQ
>>165

 レイシィは結界を維持しつつ、緊張している様子のルゥをちらりと見やる。

(……わ、私のせい、か……!)

 軽い気持ちでこの仕事に引き込んでしまったことに後悔の念が生じる。

>>166

「……脱出して、通報……のはずなんですけど……」

 レイシィは苦虫を噛み潰したような顔でサイスの言葉に応じる。
目の前のコンツェルンの手先たちは銃を下しはしたが、
相変わらず凶器を引っ提げていることには変わりない。
ライトニング大佐もそのただならぬ外見から、一般人でないことは明らかである。
その均衡状態は非常に危ういバランスの上に成り立っていた。

>>167

「いえ、職業柄……いろんな噂が入ってくるものですから」
「あいつはコンツェルンの手下の中でもとびきりフットワークが軽くて、とびきり冷酷な奴です。その道では有名も有名ですよ」

 臨戦態勢のヘレネに応じたところで、ライトニング大佐が口を開いた。

『シュコーッ……これ以上、睨めっこしていても仕方がない……我々は引き揚げさせてもらう。だが貴様らには死んでもらうとしよう』
169レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)02:34:49 ID:0HQ

 レイシィはつばを飲み込む。
ライトニング大佐は懐に手を差し入れ、金色の大きな鍵のようなマジカルアイテムを取り出し、印籠のように掲げる!

『……〈ベクターシグマの鍵〉……!』

 ――その鍵が輝いた瞬間、中庭を取り囲む建物のなかで無数の物体が一斉にうごめく気配がした。

『シュコーッ、シュコーッ……同盟の間抜けどもよ……精々可愛がってもらうがいい、土偶どもにな……!』

 ヘリのローターが低い響きとともに回転を始める。
何かしらのコンテナを抱えた兵士たちが次々にヘリに乗り込み、最後にライトニング大佐も乗り込み、ヘリはやがて離陸して、姿を消す。

 ――それと並行して、中庭に無数の自動人形が姿を現す。
外見は等身大の土偶。武器は剣、あるいは鉾。
異能者の攻撃であれば一撃で割れ砕けかねない貧弱な耐久と、単純な攻撃しかできない低い知能。

 ――しかし、同盟の戦士たちを取り囲む土偶の数はあまりにも多い!


「……なるほど、あの鍵で土偶をやり過ごして、あまつさえ操っていたと……そういうわけですか」

 レイシィは結界を解き、不敵に笑った。

「皆さん、私、こいつらをどうにか『爆裂魔法』で一気に吹き飛ばして見せますので……詠唱が終わるまでどうにか、しのいでください」
「今回の旅のしめくくりといきましょう!」

 その言葉が終わるのを待っていたかの如く、警備土偶が一斉に襲い掛かる。
剣を持った土偶がルゥに右側から斬りかかり、サイスに背後から斬りかかり、
鉾を持った二体の土偶がヘレネを左右から串刺しにせんと突きかかる。
レイシィは無防備な姿をさらしつつも、大規模な爆裂魔法の詠唱を開始する!
170サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/03(土)02:48:14 ID:eqh
>>169
〈ベクターシグマの鍵〉と云うのはこの遺跡を操作する為のアイテムだろうか。
事情を知らないサイスはそんなことを推測立てながら事の成り行きを窺う。

ヘリが飛び立ち『ライトニング大佐』なる人物はこの場を後にする。
そして待ち受けるは無数の警備土偶達。

どうやらレイシィにはこの場を解決する手段がある様で。
しかし其れには時間を稼ぐ必要があるらしい。

「解った、時間を稼ぐ。」

この身は英雄ではなけれども。
嘗ての世界にて繰り返した戦闘の経験は確かに此処に。

背後から迫る殺気に敏感に反応し、
背後の土偶の更に背後にまで己が影を伸ばす。

そして影結を発動。
サイスの全身は一瞬にして土偶の背後へと回り込む。
そのまま土偶の頸を刎ねる様に大鎌を振り抜く。
171ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/03(土)02:52:10 ID:DRg
>>168-169
レイシィの意味ありげな視線には気がつかない振りをする。
コンツェルン・シンパの将校。おそらくは以前図書館でちらりと話題に挙がった、あの依頼の対象である人物。
その時は関わりを避けるために断ったが、その代案であるこの仕事で縁を持つとはなんたる皮肉か。
それでもルゥにレイシィを責めるつもりは毛頭ない。結局のところ、これは結果論に過ぎないのだから。

緊迫した空気に喉を鳴らすが、それでも状況は予断なく動く。
新たな複数の気配、忙しなく退却する黒の兵士達、ローターの爆音、小さくなっていくヘリコプターの影。
ヘリコプターが完全に見えなくなるまで見送るほどの余裕もなく、兵士達の脅威が去ったと見ればすぐさま動き出した土偶を睥睨。

「ん。絶対守るから、安心して」

レイシィの指示にちらりとその顔を見ると、小さく笑って短く返す。
その言葉が紡がれたのはきっと、仕事の関係上だけではないのだろう。
ふわり、漆黒の髪が舞い上がる。今日はまだまだ余力があった。
右から迫る刃を、身体を斜めに踏みこみつつ回避。その勢いのまま土偶の武器を持つ手を狙った掌底を繰り出す。
一貫の流れの間もレイシィの方に注意を向けるのを忘れない。もし彼女に土偶が迫るようであれば雷電でもって退けようとするだろう。
土偶には些か相性が悪いかもしれないが、もし視覚があるのならば牽制程度にはなるかもしれないと。
172ヘレネ◆PhAnGMnQIc :2018/03/03(土)02:56:32 ID:Ivp
>>168
「なるほど、曰く付きの人物という事ですか…」

聞けばとびっきりで悪名高い人物のようだ。しかし、ヘレネからすれば面白い人物でもある。いつか個人的に接触みたいとヘレネは思った。同盟と共和国、この2つの争いに関わるのはとても面白そうだ。


>>169
そして大量の土偶に囲まれる一向。やはり土偶は敵の手に渡っていたようだ。

「分かりましたわ、あなたを守ります」

レイシィが魔法を発動するまで時間を稼がなければならない。ヘレネは左右同時から来た攻撃を杖で受け止め、軽くいなす。
そして杖から左右に光弾を発射し、襲いかかってきた2体の土偶を打ち砕かんとする。
173レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)03:11:10 ID:0HQ
>>170

 サイスの背中を狙った土偶は一撃で頸をはねられて膝から崩れ落ち、勝手に割れて動かなくなった。
その破片を無感動に踏みつけながら鉾の土偶が迫り、サイスを右側から突き刺そうとする。
さらに左側からも別の土偶が迫り、剣を袈裟掛けに振り下ろす。

>>171

 右手を砕かれた土偶はたたらを踏んで、後続を巻き込みながら派手に転倒。ガチャンガチャンと五体ほどが砕けた。
レイシィを狙った土偶も電撃を受けて怯むが、こちらはそれほど効き目がないようで、ターゲットをルゥに変えて剣で斬りかかる。

>>172

 鮮やかな攻撃を受けた二体の土偶が同時に砕け、崩れ落ちる。
しかし無機の戦士は怯まない。
新たに剣の土偶が三体出現し、立て続けに正面から襲いかかった。


 一方レイシィは三人の言葉に大いに勇気づけられつつ詠唱を続けていた。
徐々にその手に橙色のエネルギーが収束していく。
……しかしその背後から剣を持った土偶が出現し、背後から突き刺そうとする!
174サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/03(土)03:23:34 ID:eqh
>>173
第一波の土偶は頸を刎ねられ沈黙。
続くは二体の土偶による剣と鉾での挟撃。

サイスは再び影結を発動。
先程自分が立っていた位置に残しておいた影の場所まで瞬時に移動し二体の攻撃を躱す。

土偶達の強度は大したものでないと先程の一撃で認識。
大振りな横一閃にて二体同時撃破を狙う。

そして次なる土偶の攻撃に備え自身の左右5メートル程の位置に二つ影を分離して於く。

レイシィの元に迫る土偶の姿を捉える、が。
其れにふさわしいものはこの場に別に居ると、
自分の役割では無いとばかりに目の前の土偶の対処に専念する。
175ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/03(土)03:25:11 ID:DRg
>>173
打ち倒した土偶には目もくれず、次の標的へと素早く向き直る。
自然、レイシィからルゥへと目標を変えた土偶と相対するわけで、そちらに気を配るのがやや楽になる。
そのお陰だろう、レイシィの背後に迫る影にいち早く気がつけたのは。

「このっ……!」

振り下ろされた剣を肩で受ける。響くのは肉が裂ける音ではなく、緩く巻きつけていた石の鎖だ。
普段ならば深い傷になっただろう斬撃は硬い素材に阻まれ、しかし衝撃は殺しきれず僅かに顔が歪む。
それでも止まらない。止まるわけにはいかない。剣を側面から力に任せて叩きつけるように払いのける。

「させない、から……!」

そのまま跳躍、体勢の整わないうちに土偶を足場に更に高く跳べばレイシィの頭上を越えてその先へと。
着地点はレイシィを狙う土偶、踏み潰しかねない勢いでの飛び蹴りを放つ。
176ヘレネ◆PhAnGMnQIc :2018/03/03(土)03:33:51 ID:Ivp
>>173
「数が多くて面倒ですわね…なら…!」

倒したと思いきやまた立ちふさがる土偶達。一体一体倒していてはきりがない。今度は、ヘレネは杖を正面の3体に向けて横薙ぎに振るう。すると空間が裂け、そこから杭のような物が飛び出て3体まとめて串刺しにしようとするだろう。
だが、目の前の敵に気を取られてレイシィの背後の敵に気付くのが遅れてしまった。見ればルゥが既に対処に回っているので彼女に任せれば大丈夫だろう。ヘレネは目の前の敵に集中する事にした。
177レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/03(土)03:47:00 ID:0HQ
>>174

 刺突と斬撃は危なげなくかわされ、二体の土偶は呆けたように顔を見合わせる。
直後、彼らを横一閃の斬撃がバラバラに打ち砕いた。

>>176

 集中して繰り出された杭攻撃。
三体の土偶は団子の如く串刺しにされ、ワンテンポ置いて、砕け散った。

>>175

 ルゥに襲い掛かった土偶は攻撃を防がれた挙句、踏み台にされた拍子に転倒して木っ端みじんになった。
レイシィは詠唱を続けつつ身を屈めて、ルゥが飛び蹴りで土偶を粉砕したのを見届ける。

 ――そして、詠唱が完了する。
レイシィはしばし、手のひらの上に浮かぶバレーボール大のエネルギー塊を眺める。

「……サイス先生……ノイスシュタイン先生……ヴィレット先生。お待たせしました!」

 そして一際密度の高い土偶の群れめがけて、放った!

「まとめて!吹っ飛べぇーッ!」

 次の瞬間、エネルギー塊から猛烈な光と衝撃波、熱が噴き出した。
凄まじい破壊の奔流が地上を暴れ狂い、そこにあるものに衝撃を浴びせていく。

 レイシィはさっと伏せてそれに耐えたが、土偶たちがそれに対応できるはずもなくい。
あるものは立ったままバラバラになり、あるものは壁に激突して砕け散る。


 ……煙が晴れるころには、中庭の芝生は無数の陶片の山に埋まっていた。

「――っぷは!」

 そのうちの一つからレイシィが這い出す。

「皆さん、ご無事ですか……?」

 彼女は呼びかけに応じない者が居れば、どうにか探し当てようと努めるだろう。
その後は信号弾を打ち上げて翼竜を呼び寄せつつ、誰にともなく語るのであった。

「……コンツェルンの奴ら、『クリムゾン・チェーン』を持って行ったに違いありません」

「この研究所はそれを作るために建てられたんですから。奴らが持って行く価値もあろうというものです」

「何でコンツェルンがマジカルアイテムを欲しがるのかはわかりませんが……まあ、ただ、一つだけ確実なのは」


「私はもう二度とトレジャーハントなんてしないってことです」
178サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/03(土)04:01:59 ID:eqh
>>177
第二波の土偶達を往なした後。

『――――お待たせしました!』

レイシィから準備完了の合図が出る。
サイスは即座に土偶達の群れから一番遠い影へ転移した後地面に伏せる。

『爆裂魔法』と聞いて次なる展開は予測していた。
爆風と炎熱が暴虐の限りを尽くし土偶達は悉く無残な瓦礫と化した。

『ご無事ですか……?』

「ああ、なんとかね。」

土埃や土偶の破片やらを払いのけながら顔を上げる。
結局『クリムゾン・チェーン』なるマジックアイテムがどんな代物だったのかは解らず終いだった。

『二度とトレジャーハントなんてしないってことです』

「同感だ。」

そんな言葉でもって此度の依頼を締めくくった。


【翼竜に乗り帰還し、各々が報酬を貰って帰路に就いたのち】


「あ……そういえば。」

影の中から例の紅い石を取り出す。
色々あってこれを欲しい人に譲るのを忘れていた。
結果的にこれを着服してしまった、という事になる。

「まあ、いいか。」

なんとなく売ってしまう気にもならなかったので記念に取っておく事にした。
179ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/03(土)04:14:27 ID:DRg
>>177
重力に誘われ、着地の衝撃に任せて姿勢を下げる。身を起こそうとはしなかった。
すれ違いざま目の端に捉えたレイシィの手元に集うエネルギーが齎すだろう力が、魔術に疎いながらも本能的に察せられたからだ。
身体を伏せて爆発の直接の被害からは逃れたが、その副次的な破片の波にはさすがに抗いきれず。

「……うへぇ……」

言葉を発する間もなく飲み込まれ、しかし復活も早い。
口に入った砂利をぺっぺっと吐き出しつつ、砂埃にまみれた身体を払おうとして諦める。
身動ぎするたびに砂塵が舞うが、辟易して諦めのため息を一つ。
随分派手にぶっ放したものだと無残な欠片となった古代の遺物を四望、少しの間だけ目を瞑って土塊の操り人形を悼んだ。
レイシィの独白には言葉を返さない。それに応えてしまえば、未来の争乱にまた一歩近づいてしまうような気がした。
ただ最後の一言にだけは大きく頷いて、同意を示すのだった。

「そうだね。こういうのは、もうこれっきりでいいよ」

苦い笑みを浮かべて蒼穹を見上げる。またあの空の旅が待つと思うと、気が重くなって肩をがっくり落とす。
けれど今回も生き延びれた。例え勢力を巡る闇の一端を垣間見たとしても、それでいいのかもしれない。
とにかく今は、シャワーでも浴びてここにいた証を流してしまいたかった。

ちなみに手に入れた石の鎖はそれなりの金銭と替えられたらしく、ルゥはしばらくご満悦だったとか。
180ヘレネ◆PhAnGMnQIc :2018/03/03(土)04:22:52 ID:Ivp
>>177
「結局星のかけらの収穫はなし、ついでにクソッタレ会長の手がかりもなし…全く、とんだ無駄足だったな」

なんとかあの場を切り抜けて解散したあと、ヘレネは一人物思いに耽っていた。

「しかし、同盟とコンツェルン…面白そうじゃないか。捜索ついでにこっちにパイプを持つのも良さそうだ、何なら私が油をもっと注いでやっても良いけどな!」

仕事を果たしたは良いが、結局目立った収穫はなし。しかし、同盟と共和国の争いという玩具候補を見つけることができた。
火に油を注ぐのは自分の仕事と言わんばかりにヘレネの脳内には邪悪な想像が次々に思い浮かぶ。
全く関係のない第三者同士の争いというものはなんとも利用しがいがある。そこから生み出される無数の他人の不幸で食べる飯は、それはそれは無類の味。

「あー!それにしてもあの獣くっせえゲロブタヒトモドキのせいで疲れたしとっとと寝る!今日はもう何もしたくないもん!ばーか!」

とりあえず、疲れたのでどうするかは明日から考えることにする。
ちなみにあの栄養ドリンクは研究価値があるので手元に残しているようだ。
181ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/03/04(日)00:54:20 ID:c8i

 木々が広げた大きな傘の隙間、青空を切り裂いて飛んでいく黒いヘリコプター。
トロッコステーション入口の川のほとりで、鎧を叩いて粉塵を払っていたジョーカーはそれを見上げる。

 やがて兜の内側でコール音が鳴った。
表示される相手の名前を見て、一つ舌打ちをしてから回線を開く。

「もしもし。……ああ。全部終わったところだ……バッドエンドだがな。やはり奴らは『コンツェルン』だった。『鎖』は奴らの手に渡った……」
「……そうだ。だが、言っておくが俺の責任ではないぞ。俺は妨害を受けたんだ……あろうことか、『同盟』側にだ。まったくお笑いだ」
「ハナから俺に全部任せるか、さもなければ奴らの一人か二人は殺させればよかったものを。あれこれ注文を付けたばっかりに、『鎖』を奴らに渡したのはあんただぞ」

 ジョーカーの口ぶりは、彼が密かに「同盟」側の人間として動いたことを物語っていた。
そして「注文」に、「レイシィ一行を殺さない」という類のものが含まれていたということも。

 トロッコチェイス中の彼の攻撃――「タイラント」の剣は、彼の遠隔攻撃の中では破壊力が低く、制御性が高いもの。
すなわち、レイシィたちに致命傷を与える危険の少ないもの。
あの攻撃は熾烈なものではあったが、あくまで手加減されていたのだ。

「……ああ。……俺は『同盟』と『コンツェルン』の争いなどどうでもいい。最終的に『鎖』の力が手に入ればいい」
「あんたは余計な注文をつけず、『鎖』の在処を教える。俺は『鎖』を奴らから守る。シンプルなビジネスをしようじゃないか」
「……さもなければ、俺は別の方向から『鎖』にアプローチしなければならん」

 ジョーカーは不穏な宣告の後、通信を切った。
再び目線を上げ、木々の間、数十キロ向こうの丘の上に覗くラ・ボー遺跡を見やる。

(……『クリムゾン・チェーン』)
(そのチカラ、必ず俺が手に入れる……!)

 ――たった一人の第三勢力は身を翻し、作り出した次元の裂け目を通って姿を消した。
 
182カイ・ライトニング大佐◆SugTrQ7KgI :2018/03/04(日)00:54:56 ID:c8i

 カイ・ライトニング大佐が率いる、共和国軍の特殊部隊「ファントム・ナイツ」――その駐屯地。
秘密裡に建設された科学研究所の研究室に、ライトニング大佐は居た。

『……シュコーッ……シュコーッ……』

 全身を甲冑めいた黒い装甲とマントで覆い、両目があるべき場所には横一文字のスリットが青白く光るのみ。
感情も察しがたく、彼はただ、目の前のものを見つめる。
そこにあるのは、酸素カプセルに似たポッド。
本来の用途は異能者や魔術師の力をスキャニングするというものだったが、今回はマジカルアイテムの保管に転用されていた。
……すなわち、紅い鎖がその内側に収められていたのである。

『……〈クリムゾン・チェーン〉……か……』

「それがそうなの?たしかに赤いね」

 背後からの不意の声に、大佐は反射的に振り返る。
体から微かな金属音とモーター音が鳴る。
……背後に立っていたのは、耐爆服じみた分厚いコートを羽織った若い女性。

『……シュコーッ……サンビーム。来ていたのか……』

 コンツェルンと協力関係にある異世界の秘密結社、QQQ団。
女性はそのエージェントの一人、「サンビーム」だった。
初対面の時には「魔法少女」を名乗っていたが、名前はそこに由来するものか、あるいはただのコードネームか。

「『例の物』をお届けに参ったとこだよ。ここの飛行場に届いてるから後で確認してね。……で、資料はこれ」

 サンビームが投げてよこした紙の束を受け取る。
それだけの動作の間にも、機械的な音が混じる。
……彼はいわゆる、サイボーグであった。

 大佐は資料を流し読みしていき、目を留めた数字を読み上げる。

『シュコーッ……全高20.5m、重量43トン……大きいな』

「それでも随分軽くなってるみたいなんだけどね?エネルギー源が欠損したジャンク品だから……」

 資料に目を通す大佐の横をすり抜け、サンビームはポッドを覗き込む。

「で、この鎖がそのエネルギー源の代わり……って話だったね」

 ガラスに手を触れる。
……そのとき、鎖が紅く輝いた。
183カイ・ライトニング大佐◆SugTrQ7KgI :2018/03/04(日)00:56:18 ID:c8i
「うわっ!?」
『何だ!?』

 仰天した二人がポッドから離れる。
一時は剥き出しの電球のように眩く輝いた鎖だったが、やがて光は弱まっていく。

 光が収まり、ポッドの奥を見通して、二人は息を呑んだ。
ポッドの中に人影がある。
真っ先に目に飛び込んでくる、鮮やかな紅い長髪。
ついでポッドと見比べて、その体格が子供、少女のものであることに気づく。
……一糸纏わぬ姿の少女が、ポッドの中で眠っていた。

『……シュコーッ……形が、変わった、のか?』

「……そうみたい、だね。何だ、驚かせやがって……」

 サンビームがドギマギしながらも落ち着きを取り戻す。

「『クリムゾン・チェーン』は、人間態を持つマジカルアイテムだったってわけだ……まあ、往々にしてあることだよ」

 QQQ団は多くの世界に跨って存在する、多国籍企業ならぬ多世界企業である。
その構成員であるサンビームの見聞もまた、相応に広い。

『シュコーッ……なるほど……』

「この分だとおそらく人格も……って、いつまで見てんだロリコンロボ!」

 サンビームはしげしげと少女を見つめる大佐の顔を掴み、ぐいと逸らす。
サイボーグである大佐の首は勢いのままに180度回転した。

「うわっ気持ち悪っ!」

『……シュコーッ、とにかく、今のところは眠っていてもらったほうが都合が良い』

 大佐は首を回したまま、ポッドのコンソールを操作した。
シューという音とともにポッド内へ何かしらのガスが注入される。
そのガスが満ちている限り、少女が目を覚ますことはないのだ。

『〈これ〉を用いる準備が整うまではな……シュコーッ、シュコーッ』

 大佐は資料のあるページをサンビームのほうへ見せる。
そこには「それ」の三面図が印刷されていた。

 ……「それ」は人型だったが生物的な印象はなく、かといってロボットめいた角ばったところもない。
全身の不規則な丸みや凹凸は、岩石そのもの。
石を積み上げ、接着して作った人形のような姿であった。
184レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/05(月)22:10:11 ID:NQc

 その温泉街は同盟の庇護のもと、一大保養地として人気を博していた。
温泉宿や観光客向けの売店が立ち並ぶ谷間の市街のあちこちから、源泉のあげる白い蒸気が高く立ち昇る。
狸顔の亜人が経営する旅館はその外れにあり、小さいながらも行き届いたサービスから多くの常連客を抱えるに至っていた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

 浴衣姿でマッサージチェアに揺られるレイシィもその一人であった。
頬はほんのりと赤く、ぷるぷる震える獣耳はしっとり湿っている。湯上りである。

(まったく、この前はひどい目に遭いましたぁ……請け負ったときはラッキーとまで思ったのに)
(川に蹴落とされるわ、コンツェルンのやべーやつが出るわ、土偶にリンチされるわ、結局宝は手に入らないわ……踏んだり蹴ったりですぅ)
(思えば同盟に入ってから酷い目に遭ってばっかりですぅ……こういう骨休めに経費出してくれてもいいくらいですぅ)

 間抜け顔で揺られる彼女の横で、地域の住民と思しき老人たちが男湯の暖簾を潜る。
この旅館の浴場は宿泊客以外も利用することができ、温泉だけの利用客も多いのであった。

 番台の上、先ほどの老人たちを見送った狸顔の主人がレイシィを見とめて話しかける。

『レイシィ!そろそろ嫁の貰い手は見つかったんだろうな?』

 レイシィはむっとして反駁する。

「ヨケーなお世話です。ていうかセクハラですよそれ」

『何言ってんだ、心配してんだぞ?お前が行き遅れたんじゃ親父さんに申し訳立たんからなあ。よけりゃ、すぐそこの饅頭屋の長男でも紹介して……』

「ヨケーなお世話です!」

 主人はからからと笑って裏手へ退散した。
レイシィはむすっとした顔でマッサージチェアに体を沈める。

「まったく、フレンドリーすぎるのも考えものです……」
185ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/05(月)23:18:25 ID:ZHw
>>184
先日の仕事ではすったもんだあったものだが、なんだかんだで手に入れたお宝を元手にそれなりの路銀を得たルゥ。
そこで彼女が思い立ったのが、所謂観光地での休養だった。
放浪の身にとって贅沢は敵だが、たまには美味しい食事に舌鼓を打ち、柔らかな布団に包まれてぐっすりと眠りたい。
そんな訳で彼女にしては極めて珍しく、保養地で日々の疲れを癒していたのだが。

「…………あつい」

女湯の暖簾を獣耳で揺らしてくぐったその顔は、温泉に浸かっていただけにしてはやけに赤い。
和服に慣れていないのか少しばかり着崩れた浴衣で、ふらりと休息所の長椅子へ。
その途中、見覚えのある姿を視界に捉える。あの日以来の再会に、思わず声をかけようと。
瞬間、世界が揺らいだ。

「あー……れいしぃっ……!?」

ごつん、なにかがぶつかる音で遮られる。呼びかけの最後の一音は半ば悲鳴に近い。
レイシィが声に注意を向けたならば、柱の前で額を抑えて呻いている獣耳の少女が目に入るだろう。
186レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/06(火)20:08:44 ID:So4
>>185

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……ん?」

 マッサージチェアで間抜け顔を晒すレイシィ。
女湯の暖簾が揺れ、見覚えのある顔が覗いた気がして顔を上げかけたのだが。

(あは、まさか、です。ヴィレット先生がこんなところに居るわけないですよね)
(疲れてるんでしょうか……いや、のぼせたのかな……)

 大きく椅子にもたれ、瞑目する。

(そういえば、あの大騒ぎに巻き込んじゃったし……今度会った時は謝った方がいいですかね)

 そのとき鈍い音と悲鳴じみた声が聞こえ、驚いて身を起こす。

「んっ?……ヴィレット先生!?」

 意外な人物との遭遇と相手の悶絶がレイシィの気を動転させた。
慌てて立ち上がり、ルゥのほうへ駆けよる。

「すみません!……いや、それは私のせいではないんですけど……いや、私のせいなんですけど……」

 泡を食ってわけのわからないことをまくしたてていると、マッサージチェアが時間切れを知らせルコール音を鳴らした。
レイシィはその拍子にいくらか正気に戻る。

「と、とにかく、こんなところで会うとは……奇遇ですね!」

 それでも、先日ことへの引け目からか、どことなく落ち着きがない態度である。
飲み物の自動販売機(融合現象以前からあったもののようだ)を見つけ、財布を取り出しつつルゥに話しかける。

「そうだ、飲み物の一本でも奢りますよ!何がいいですか?」
187ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/06(火)21:26:38 ID:oTr
>>186
「…………いたい」

よほど痛かったのか、寄ってきたレイシィに上目遣いで訴えるルゥ。
除けた手の下、ぶつけた額は見るからに赤い。なんというかもういろいろと見た目相応の子供のそれである。
のぼせてぼんやりとしていたはずの頭も一瞬で覚醒するというもの。
レイシィのよく分からない謝罪のようなものには、どうにか首を横に振って意思を伝えることに成功。
しばらくぶつけた箇所をさすっていたが痛みは存外すぐに過ぎ去ったらしく、いつも通りのやや平坦な口調に戻る。

「そうだね、びっくりした。あの遺跡以来かな」

レイシィの罪悪感には全く気がつかない。ただどことなく挙動不審なレイシィに小首を傾げるだけだ。
当時こそあの視線の意味に勘付いてはいたが、まさか今の今まで彼女が引きずっているとは思ってもいない。
奢りの誘いには僅かな躊躇いを見せたが、図書館の分と解釈したらしく、小さく頷いて自販機の元へ。
ん、と指差すのは湯上がり定番の瓶牛乳。悲しいかな、最上段にあるために背伸びする姿はちょっと必死である。
188レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/06(火)22:07:27 ID:So4
>>187

「そうですね……それにしても、よく会いますよ!好みとかが似てるんでしょうか、私たち」

 小柄なルゥの精一杯の主張を見て取り、うんうん、と頷いて硬貨を投入しスイッチを押す。
がこん、と音を立てて落下した瓶を取り、ルゥに差し出した。

「どうぞ!……さて、私は……」

 横の清酒に一瞬目を取られたが、結局ルゥと同じ瓶牛乳を購入する。
それを一口飲んでから、側の長椅子に腰掛けた。

「いやあしかし、遺跡での一件には参りましたよ。散々な目に遭って、結局お宝も何もなしですから」
「お互いお湯で厄を洗い流せてるといいんですがね!」

 レイシィはそう言ってからから笑う。
ルゥが収穫を得ていたことは知らないか、あるいは忘れているようであった。幸か不幸か。

 その後レイシィははたと笑うのをやめて、少し小さな声で切り出す。

「そういえば、ヴィレット先生……私、あの仕事について、少し気になっていることがあるんですが」
「先生はあの仕事について……つまり、あの日我々がラ・ボー遺跡に行くということを、どなたかにお話になりましたか?」
189ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/06(火)22:34:40 ID:oTr
>>188
「わたしはあんまりこういう所には来ないんだけどね。
あの……ちょっといい稼ぎがあったから、たまたま」

先の遺跡で得た想定外の臨時収入については、言いかけてそっと伏せる。
あの時、解錠作業に集中していたレイシィだけがお宝を手にしていない事を思い出したからだ。
自分達と同じかそれ以上に散々な目に合っていながら、ほとんど旨味がなかったレイシィへのせめてもの情けのつもりなのだろうか。
瓶牛乳を受け取れば短くお礼を述べて、一気に半分程を流しこむ。白い髭を生やしてぷはっと一息。

「そうだね、しばらくはもっと楽な仕事でいいや。そういうご利益があるといいんだけど」

などとのたまっているが、温泉に浸かって直後にのぼせて柱に頭をぶつけているあたり、ルゥに関しては残念ながら期待できそうにない。

「わたし……?ううん、誰にも言ってないよ。
図書館でのレイシィの声が大きかったから、その時誰かに聞かれてたかもしれないけど」

どことなく真剣な雰囲気を察してか、レイシィに合わせてやや声を潜める。
しかしその問いの真意を掴みかねているのか、訝しげに目を細めてレイシィへと視線を向けた。
190レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/06(火)22:59:41 ID:So4
>>189

「へえ、それは重畳ですねえ!私なんか、フリーの頃は一年中金欠でヒイヒイ言ってましたよ」
「ヴィレット先生は何だかんだ、今の仕事が向いてらっしゃるのかもしれませんねー」

 私は案内人なんかに落ち着いちゃいましたが、と付け加えて、牛乳をまた一口飲む。
思えば同盟のエージェントであるレイシィは月給を貰っているわけであり、
その上トレジャーハントなどと欲をかいた罰が今回の受難なのかもしれなかった。

「まったくですね。なんとか割のいい仕事をご案内できるように努力しますので、どうか今回のことに懲りず、これからもよろしくお願いします」

 レイシィはさすがにばつの悪そうな顔で、そう申し出るのであった。
一方ルゥの答えを聞くと、レイシィは顎に手を当てる芝居がかった仕草で考え込んだ。

「やっぱりそうですよね……あのとき他にいらっしゃった方にも言えることですが、仮にもプロフェッショナルの方がおいそれと仕事のことを漏らすはずはない……」
「ではジョーカー=サファイアは、なんであそこで待ち伏せしていられたんでしょうか?」
「図書館でのことに関しては全くその通りで……奴は図書館にも出入りしていたわけですし、それを聞きつけたということもありえなくはないのですが……」

 彼女はそれだけ言ってしばらく唸っていたが、やがて立ち上がって牛乳を一気に飲み干した。

「ああー!いくら考えても無駄!無駄!無駄です!私バカなので!……それより、ヴィレット先生!」

 レイシィはルゥのほうへ向き直り、右手でラケットを振るジェスチャーをする。

「卓球、やったことありますか!?」

 彼女の背後、娯楽スペースの一角には卓球台がいくつか置かれていた。
191ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/06(火)23:24:58 ID:oTr
>>190
いのちだいじになルゥにとっては今の生活は天職と考えたくないようで、向いてると言われれば僅かに唇を尖らせる。
すぐに誤魔化すように今度は牛乳をちびりと一口。白い髭を手の甲で拭う。
レイシィの申し訳なさそうな顔を見てようやくまだあの時の後悔がまだ根付いているのに気がついたのか、気にしないようにと大きく首を横に振った。

「でも、あの本を借りてたのはわたし達が話を聞く前だったんだよね?
他の人達も、知り合いって感じじゃなさそうだったし……あと知ってそうなのは、レイシィに持ちこんできた人くらいじゃないかな」

うんうんと唸ってるレイシィの隣で、ルゥもまた天井を見上げて思考を弄ぶ。
思いつくままに口に出してみるが、所詮は一介の下請人。大した材料を持つわけでもなく。
自分とジョーカーとの繋がりは胸に秘めておく。今回の件に関してはおそらく無関係だろうと考えたからだ。
最後には諦めたように残りの牛乳を一息で飲み干す。また白い髭が生えた。

「たっきゅう……?ううん、やったことない」

また雑に鼻の下を拭って、素振りを見せるレイシィにはどことなく冷ややかな目。
ルールも知らないルゥにとってレイシィの仕草は、かなり怪しいものに見えるのであった。
192レイシィ・レシーバー◆SugTrQ7KgI :2018/03/06(火)23:46:52 ID:So4
>>191

「私に持ち込んできた人……というと『ボス』ですが……まあ、ボスに限ってそんなことはないですよ!」
「ボスはビール腹の禿茶瓶ですが腐っても幹部ですし、仕事の能力と心構えだけは私、そこそこ信頼してますし!」

 ルゥとジョーカーの因縁に思い至るはずもなく、レイシィはルゥの直感的な答えを否定するに留まる。
そして彼女の卓球への芳しくない反応を見るや、にやりと笑った。

「ほほう、卓球をご存じない……?温泉に来て卓球をしないんじゃ七割がた損してますよ?」

 レイシィは不可解な論理を展開しつつルゥを娯楽スペースへ誘う。

「私が教えて差し上げましょう、温泉レジャーの神髄を……手取り足取り!」

 そう言って、ルゥが拒まなければ卓球のルールから基本的なテクニックまでを教え込もうとするだろう。
温泉地の夜は長く、硫黄の匂いとともに更けていく。
193ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/07(水)00:07:26 ID:QJA
>>192
「へえ、そうなんだ。疑ってごめんね。
……いや、それ、褒めてる?褒めてるんだよね……?」

なんだかところどころ棘があるように聞こえるが、レイシィの上司としての尊敬の念だけは言葉だけでも強く伝わる。
そんな相手に僅かでも疑念を向けた事には素直に謝罪。顔も見た事がない人物についてそれ以上思案する事もなく。

「……そんなに楽しいの?じゃあ、教えてもらおうかな」

ともすれば誇大広告と言われかねないレイシィの言に興味が湧いたのか、半信半疑に卓球の誘いを承諾。
初めてのラケットを感慨深げに握って、熱心な生徒へと早変わり。
夜はまだ長い。少しばかりの娯楽に興じるくらいは、きっと許されるのだろう。
その後大人気なく能力をフル稼働させたルゥが、ピンポン球を本気で打ち返していたとかなんとか。
194アーサー・オーウェンズ ◆P4301E8CFs :2018/03/07(水)23:24:47 ID:QJA
『同盟』の傘下である山間地に、とある種族が暮らす集落があった。
切り立った岩肌を掘って居住区とし、お天道様の下は活気盛んな商業区となっている。
生活の場である洞穴は小さく、普通の人間が入るには屈まなければいけないほど。
呼びこみの声が飛び交う通りの屋台はまるで、子供がおままごとに使っているのかと見紛うほどに小さい。
それでもこの集落が成り立っているのはその店主も客も皆、それが標準の大きさだからである。
つまるところここは、ドワーフ達の集落であった。

「ん~……どうにもやる気が出ないんっスよねぇ」

そんな中を大の大人が歩いていればいやでも目立つわけで、黒いトレンチコートの男も例外ではない。
他の通行人が皆目線の高さにいないものだから少し歩くのにも気を遣う。サングラスに遮られながらも、足元に注意しているのがありありと見て取れた。
がしがしと頭をかいてため息を一つ、金色の髪が太陽に照らされてきらきらと。

「さすがの僕も髭が生えてる女性はきっついなぁ……さっさと終わらせて次に行きたいっス」

空を見上げて聞かれないように零す。実際彼の言う通りで、往来のドワーフ達は皆一様に髭がある。
ドワーフにもいくつかの種族が存在するが、ここで生活している者達は男女問わず髭が生えているというものなのだ。
ちなみに他の地域では、そもそも女性が存在しないドワーフなどもいるらしい。
また嘆息。男の苦悩など知ったこっちゃないとでも言いたげに、ドワーフ達の喧騒は衰えることを知らない。
195琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/07(水)23:48:27 ID:FG1
>>194

「ありがとうございます、おじさん。」
「えっ、女性なんですか! 失礼しました……」

そんなやり取りの後、鍛冶屋から出てくるのは平凡な顔立ちの少女。
元の世界に居た証である学生服は奇麗に洗った後借り宿の箪笥の中に安置されており、
現在の服装は『同盟』では一般的な布の服である。
両手で一抱え程の幾重にも布に巻かれた刃物らしき物を持っている。

彼女、琴珠朱音は働き先の食堂の使いでこのドワーフの集落を訪れていた。
この世界での生活には慣れてきたものの、
矢張りこういった王道ファンタジーな街並みを見ると感動が込み上げてくる。

そしてそんな街並みだからこそ黒いコートにサングラスとやや現代的な服装をした男の姿は自然と目に留まる。
決して睨みつけてるなんて誤解はされない様に気を払いつつ様子を窺ってみる。

(この辺りじゃ珍しい格好の人だなあ……)
(でもこの世界って割と色々な人が居るみたいだし普通なのかな)

とかなんとか考えながら男とすれ違おうとするだろう。
196アーサー・オーウェンズ ◆P4301E8CFs :2018/03/08(木)00:17:29 ID:CKR
>>195
ドワーフ達に取り囲まれていれば、自分の目線の高さに入る人物というものはどうしたって目に留まる。
それが女性であれば彼にとっては尚の事。すれ違う手前、サングラスの奥で碧眼がしっかりと追う。
少しばかり年下のようにも見えたが、それくらいでは止まる切欠にはなり得ない。
というか髭の生えた小柄なドワーフに比べればそのくらいは誤差の範囲内である。

「やあそこのお嬢さん、随分と重そうな荷物ですね。よければお持ちしましょうか?」

すれ違いざまに自然な動きで身体を反転させて朱音の隣をキープ。
普段の軽薄そうな表情を奥に潜めて、とってつけたような爽やかな笑顔を忘れない。
朱音の荷物が些か物騒な物であるのには勘付いているのかいないのか、今のところは好意である事を全面に押し出しているようだ。
もし男の申し出を了承すれば荷物を受け取り、そうでなくても並んで歩いたまま話を続けようとするだろう。

「まさか僕以外に人間がいると思ってませんでしたよ。なんだか安心しました」

人懐っこい笑みを浮かべ、少しばかりの気恥ずかしさを演出するかのように肩を竦めた。
実際雑踏の中で、彼ら以外の人間は見当たらない。やはり大きさという壁は共に生活するには少々分厚いのだろう。
197琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/08(木)00:35:35 ID:Pfy
>>196

『やあそこのお嬢さん、随分と重そうな荷物ですね。よければお持ちしましょうか?』

そんな第一声で抱いた印象は、"怪しい人に声を掛けられた"だった。
ちょっと胡散臭い感じの相手の服装も相まってである。

「いえそんな、見ず知らずの方に持って頂くのも難ですし……」

やんわりと拒否の意思を示しつつ歩を進める。

と、男の言葉でこの集落に人間が自分達以外に居ない事に気付く。
確かにこれでは相手からも自分は目立って見えたのだろう。

「仕事先でお使いを頼まれたので……
 ちょっと特別な包丁を受け取って来て欲しいって。」

様々な文化が融合したこの世界、当然色々な料理が存在する。
そして中には通常の調理器具では歯が立たない様な食材もまた存在するのだ。
これで相手にも少女の持ち物が何なのかは伝わるだろうか。
198アーサー・オーウェンズ ◆P4301E8CFs :2018/03/08(木)01:07:25 ID:CKR
>>197
「おっと、これは失礼。」

朱音に申し出を断られても下手に食い下がる事はしない。
所詮は声をかける切欠にすぎなかったのだし、こうして言葉を返してくれるだけでも御の字なのだ。
一連のやりとりを見ていた小さな店主が憐れみの目で見ていたような気もするが、気のせいだと割り切る事にする。

「へえ、お仕事中だったんですか。ということはもしかして、この辺りの町の方だったりします?
実は僕も取材でここに来たんですよ。ドワーフの集落なんてなかなかありませんし」

相手が刃物を持っていると聞いても萎縮する事はなく、変わらない調子で相槌を打つ。
そもそもの文化圏の違いのせいか、自分のサングラスが胡散臭さを増長させているとは夢にも思っていない。
“仕事”では表情を隠すために室内でもかけている事はあるが、晴天の今は単に日光から目を守るためでしかなかった。

「でもここだとお話を伺うのも一苦労で。どうにも僕の身長じゃあ、何をするにも難しいみたいなんですよね」

自嘲というよりは困ったような笑い声、照れ隠しに頭をかいた。
彼の苦労は同じくドワーフにとっては巨人に相違ない朱音にも伝わる事だろう。
目線一つ合わせるためにも屈まなければいけないのだ、彼らに合わせて動けば短時間で腰を痛める事間違いなしである。
取材という言葉は朱音ならピンとくるかもしれない。
特に相手に気を遣わなければいけない仕事なのだから、男がどれだけ神経と足腰を使ったは想像に難くないかもしれない。
199琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/08(木)18:38:43 ID:Pfy
>>198

『この辺りの町の方だったりします?』

「……私は最近この世界に流れ着いてきたのですが、
 今はこの山間地から街道沿いにある魔の森の野営地に住んでます。」

正直怪しいと思っている相手にそこまで話して良いものか迷ったが、
話し掛けられる感じそこまで悪い人ではないのではないかと思い答える。
朱音はまだこの世界に来てから人間に痛い目をみせられていない故の油断である。

「確かにここの皆さん、背が小さいですからね。
 取材ってことはお兄さんは新聞か何かの記者さんなんですか?」

取材という単語は元の世界基準でも馴染みのある言葉で、
男の立場の偽装は上手く作用したと思われる。

まだ完全に心を許した風ではないが多少の態度の軟化が見える。
200アーサー・オーウェンズ ◆P4301E8CFs :2018/03/08(木)20:50:56 ID:CKR
>>199
「ほうほう、魔の森に……あそこに野営地なんてあったんですねぇ。僕も一度お伺いしてみたいものです」

もっともらしく頷いてみせて目を細める。それはおそらく笑顔に伴うものではない。
その眼光は心なしか鋭く、しかし色眼鏡に遮られて窺い知る事は難しい。
それでも僅かな心境の変化でさえ表に出す事は決してない。あくまでも素直に感心している体の相槌だ。

「そうなんですよ。とは言ってもしがないフリーの記者なんですけどね。
そういえば自己紹介もまだでしたね。僕とした事が、貴女のような可愛らしい女性の名前を聞きそびれるとは」

気障ったらしい言葉を照れもせずに吐いて笑う。身の上を騙る事にはなんの躊躇も懺悔もない。
男にとってはこれが当たり前で、ごくありふれたものなのだ。

「アーサー・オーウェンズです。どうぞ気軽にアーサーと呼んでください」

名乗りと同時に少しだけサングラスを上げる。眩しそうな碧眼が柔らかく微笑みを象った。
薄い色素の瞳には日光は刺激が強かったのか、すぐにサングラスをかけ直す。
いつの間にか集落の外れに近づいていたのだろう、賑わってた通りがだんだんと静かなものになりつつあった。
201琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/09(金)18:09:47 ID:Be5
>>200

『アーサー・オーウェンズです。』

「アーサーさん。えっと、私は琴珠朱音といいます。」

流石に自分より年上であろう彼を呼び捨てにするのは気が引けたのだろうか。
相手の心中がどの様なものかも知らず呑気にぺこりと挨拶を返す。

朱音はいつの間にか集落の外れの方まで来ている事は気に掛けていない様子。
ドワーフ達の賑わいは二人の後方へと遠のいていく。

このまま進んで行けば魔の森方面へと繋がる街道へ出るだろうか。
整えられた道と云えど山間地故、人通りはあまり多そうでは無い。
202アーサー・オーウェンズ ◆P4301E8CFs :2018/03/09(金)22:36:27 ID:91Q
>>201
「朱音さんですか、いやぁいい名前だ。キュートな貴女にぴったりですね」

敬称には気にした素振りを見せず、口角だけを吊り上げる。
これから深い関係になるわけでもないのだ、どう呼ばれようと心底ではどうだってよかった。
ドワーフ達の商業区と街道の境目が見える頃になって、さすがにこのままついて行くのは不自然だろうかと思案。

「そうだ、もしよければ野営地まで同行しても?
魔の森は物騒と聞きますしね。女性を一人で歩かせるのも心配なので」

さも今思いついたかのような口調で提案、上辺だけはいかにも年下の少女を心配している風に取り繕う。

「それに記者として、ぜひ取材に伺いたいですし」

少しばかり声を潜めて、ダメ押しとばかりに茶目っ気を含んだ笑顔。
まるで悪戯をこっそり告白する少年のごとく、本心をさらけ出すような。
203琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/10(土)17:27:19 ID:d7Z
>>202

「止めてください。そんな風に言われると、照れちゃいます。」

中学の頃に男子に一回だけ告白されたりなんて経験自体はあるものの、
この手の軟派な異性への耐性は殆どと言って無い朱音は照れ隠しにと顔の前で両手をぶんぶん振る。

『野営地まで同行しても?』

このお使いを頼んだ食堂の店長は街道を辿って行けばほぼほぼ安全だと、
魔物除けのまじないが掛けられているとかなんとか言ってはいたが……。
やはり一度魔狼に襲われ死に掛けた時の記憶がひっそりと一人の不安を掻き立てる。

「そういう事でしたら……お願いできますか?」

第一印象からすれば随分と心を許した様にそんな返しをする。
元の世界はそれなりに治安の良い土地だったが為か若干天然が入っているが為か危機管理能力が甘いのだ。
204アーサー・オーウェンズ ◆P4301E8CFs :2018/03/10(土)21:25:39 ID:pBo
>>203
慣れない経験に戸惑う朱音とは対象的に、余裕たっぷりに微笑ましく見守るアーサー。
彼女が以前魔の森で危険な目に遭った事と、そこから来る懸念を知るはずもなく、承諾の事実に喜びの気色を見せるだけだ。

「ええ、もちろんです。貴女と一緒なら山の道も素晴らしいものになりそうだ」

一見すれば戦闘能力を持たなさそうな少女が一人で集落まで出てきているのだから、そう道中に危険がないだろうというのは予想がついた。
それでも同行を申し出たのは、少女を心配しての事だけではない。
得体の知れない人物が一人でいきなり乗りこむよりも、そのコミュニティに属している人間を介する方がなにかとやりやすい。
そんな腹の中を飲みこんで、どこまでもナンパ男の仮面を外さない。

「それではエスコートしますよ、お嬢様」

真面目くさった口調、それからサングラスを少し持ち上げ、片目を瞑って戯けてみせる。
朱音のアーサーに対する印象がプラスに傾いたのを感じ取ってか、どことなくその足取りは軽い。
集落の出口に差し掛かって、整備された道はやや砂利混じりに変わる。
そこからは危険もなく、彼らは無事に野営地へと辿り着くのだろう。
道中の話題は絶えない。仕事柄各地を巡るアーサーが一方的に、様々な街や文化について語る事が多かったかもしれないが。
天気もよい昼下がり、木漏れ日が降り注いで葉陰を濃いものにする。鬱蒼と生い茂る道沿いの樹木が二人を黙って見守った。
205琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/10(土)21:50:46 ID:d7Z
>>204
お嬢様だなんて扱いに戸惑い恥ずかしがりながらアーサーと街道を行く。
成程魔物除けのまじないと云うのは本当の事らしく危険な生物等に出くわす事は終ぞなかった。
道中ではアーサーのこの世界を各地を巡っての話に興味を引かれながらその隣を歩く。
やがて道の脇に生い茂る樹々の深緑も濃いものへと変わって行き。

「到着しました、ここが野営地です。送って下さりありがとうございました。」

謝意を表す為に今一度お辞儀。

野営地と言うだけあって一見した集落の見た目はテントがひしめくキャンプ地の様だ。
が、魔法による空間拡張技術等によってその内部はしっかりとした建物と大差が無い。
更に云えばここは『コンツェルン』等との紛争の最前線からは離れた内地にあり、
『星のかけら』が存在する可能性の高いとされるこの森を調査すべく大勢が暮らしている様だ。
206琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/10(土)22:01:16 ID:d7Z
>>205から続きます

もし彼が記者という肩書を使って聞き込みを行うのであれば、
『星のかけら』絡みの情報を得る事も可能だろう。
しかし飽く迄調査中の事柄故に確信に至るまでの確かな情報は得られない。
わかる事は森の獣の魔性化という現象と其れを引き起こしているであろう膨大な魔力源の存在か。
207正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/10(土)23:19:22 ID:9JO
───風が哭いている。

黒く染まったモノリスめいた高層ビル群は、遠い記憶の中に見たそれと酷似していて、頭痛を伴い回帰を呼び掛ける。
それらを狂気に落として潰し、ビルの隙間の夜空から、視線を足元に落とした。

赤、緋、紅───どこまでも続くような鮮血の赤が、足元と自分の両手を染めていた。
こんなものが何になると言うのだ、こんな行為が何をもたらすと言うのだ、なんの意味も無い殺戮でせめて心が晴れるのならばそれでもマシだというのに。

どこまでも無意味、世界が例え変わろうとやる事は何一つ変わってはいない。
何も成せず、何も変えられず、無意味な暴力で無作為に生を奪い取る、ただそれだけの無意味な行為。
それが英霊として呼び出された私に与えられた役割(ロール)だから───

【夜中、高層ビル群の路地裏、血溜まりの中に一人の女が立ち尽くしている】
【長い黒髪に、ロングコート、そして血に塗れた両手の彼女は、生気の感じられない冷たい眼で、足元の血溜まりを見つめていた】
208ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/10(土)23:39:18 ID:pBo
>>207
無機質なビル群に支配された路地裏は、闇夜に包まれてどこか物悲しい。
射し込む月明かりだけを頼りに往く細い道はまるで隠世に続くように思えて、知らず背筋が凍りそうになる。
吹き抜ける風はコンクリート独特の忌避感を孕み、方向感覚すら見失いかねなくて。
その中に混じる異質な、それでいて嗅ぎ慣れた臭いに自然と足が向いていた。

「…………っ」

微かに息を呑む音。狭く窮屈な世界でそれはいやに響いた。
曲がり角には赤と黒の世界を覗きこんだ、まだ年端もいかない少女の姿。
紛れるような黒いローブと揺れる黒髪、頭頂部の獣耳がぴんと立って微動だにしない。
月光を受けて佇む紅を見据えるエメラルドグリーンの瞳には驚愕こそ映れど、そこに怯えや恐怖は存在しない。
ただじっと、女性に敵対の意思があるのか見定めるかのように動向を伺うのみ。
見た目は幼いだろうに、目の前に広がる惨状にもむせ返るほどの血の臭いにも怯む事はなく。
209正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/10(土)23:59:46 ID:9JO
>>208
【女は少女の気配を感じ取ったのか、静かに視線を少女に向けた】

───子供か……いや、この世界で見た目など何の有用情報にもならない。
事実、この場所に来たというその事実こそが証拠。普通であれば無意識にこの場所を忌避したいという感情が生まれて当然、それを感じたか感じていないかに関わらずこの場に来たという時点で通常とは程遠い。

「……お前も、そうか」

そう、この足元に広がる人間だった物と同じ、ヒトならざる要素を持ち合わせた人間。
そうでなければ居合せる筈もなく、そうでなければ怯えを感じない理由が無い。

───しかし、最初にする事が問い掛けとは、いやはや……
『バーサーカー』などと皮肉な称号を貰ったものだ。

【女は問い掛ける、その言葉の真意は彼女自身にしかわからないが、確かにコンタクトを取ろうとしたのは確かだ】
【少女から何かアクションがなければ、女はゆっくりと歩み寄っていくだろう】
210ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/11(日)00:17:44 ID:TQm
>>209
少女が恐怖を抱いているのか、それともただひた隠しにしているのかは仄かな月明かりでは窺い知るのは難しい。
これまで幾度も目の当たりにして、決して慣れる事のない光景には目もくれず。
その落ち着きはただの少女には持ち得ないもので、なるほど確かに証たる獣耳が見えなかろうと、人外と確信するに足るのだろう。
女の問いかけには真意を掴みかねて怪訝そうに眉を潜め、それでも警戒を解きはしない。ぎゅっと両の拳を握りしめた。

「…………わたしが、なに?」

束の間の沈黙の後、短く問い返す。
下手に答えるよりは、相手の意図を少しでも推し量る方がいいと判断したが故。
女が歩を進めれば、ぴくりと獣耳が反応する。が、それだけだ。
自分からは歩み寄らず、さりとて後退する事もせず、少女は女が近づくのを黙って見守る。
血溜まりを歩く一人分の足音が、やけに反響して聞こえた気がした。
211正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/11(日)00:42:18 ID:7xU
>>210
靴底とアスファルトの間を、血が名残惜しそうに糸を引く。
私の脚を逃すまいと、いつまでもしがみ付いて音を立てる。
距離は縮まり、間合いが迫る、これでも逃げ出さないのなら確信できる。

「───私に、殺されなくてはならない人間だ」

【女が少女に歩み寄り、距離が3m程度になった所で立ち止まる】
【そして女は拳を硬く握り締め、抜群の瞬発力で少女へと飛び込んだかと思えば、勢いを乗せて容赦無く拳を振り下ろした】
【その威力、武器も防具も無いにも関わらず、アスファルトを砕く程の力を持っている】

───例えそれがどんな姿をしていようと。
それが殺すべき者ならば殺さなくてはならない、それが私の信じた■■■だから。
212ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/11(日)01:04:20 ID:TQm
>>211
距離が縮もうと背を向けないのは意地か誇りか、どちらにせよその意味はもう悟っていたのかもしれなかった。
少なくとも恐怖の針に縫い止められているわけではないのは確かで、僅かに靴底が擦れる音。
女が立ち止まって、また静寂。転がる屍が口を開くはずもなく。

「っ……と……!」

その言葉を理解するまでの時間が惜しい。音より速く、鋭い殺意が身を貫く。
女の踏みこみと同時、後方に飛び退る。激しい風圧に濡羽色の髪が靡いた。
目の前を通り過ぎた拳の威力に身を震わす。そのまま距離を置こうとするが、すぐにビルの外壁に背中がぶつかった。
曲がり角を出てすぐの邂逅であったから、背後のスペースはそう広いものではなかったのだ。ここが狭い路地裏である事に密かに歯噛み。
寄りかかったまま女を睥睨、そこに新たに宿るのは小さな覚悟。

「あなたに殺される謂れは、ないと思うけど」

背を壁につけたままの問いかけ。ふわり、黒髪が宵に沈んで舞い上がる。
最早会話で穏便に済ませられるとは思っていないのだろう、答えを待ちながらも敵意を隠そうとはしていない。
213正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/11(日)14:24:27 ID:7xU
>>212
「だろうな」

敵意、それを感じる様になるのは余りにも遅く、あと一瞬でも遅れていればその場で命を奪えていただろう。
握った拳に突き刺さるアスファルトの欠片を振り払う、痛みを感じない拳に血が滲んでいた。

『殺される謂れは無い』───それは当然の疑問だ、誰しもがそうなのだから。
そう、我々のする事に大義など存在しない、納得されるような意味など無い。
それは美徳でありながら悪徳であり、享楽であり、寄る辺でもある。逆に言えば『何物でもない』。

「だが、私はお前を殺さなくてはならない」
「謝罪するつもりは無い、しかし大人しく受け入れるというのであれば───」

【女はゆらりと体制を立て直すと、壁に追い詰められた少女を生気のない眼でじとりと見つめ】
【硬く拳を握り締める、聞いたこともないような筋肉が引き締まる音がミシミシと鳴っていた】

「痛みを感じる間も無く、殺してやる」

嗚呼そうだ、この行為に■■■なんて物はない、そんな事はわかっている。
だが───それがどうした?私が今までして来た事にそれはあったと言うのか?
否、私の人生全てにおいて『そんなもの』は存在しなかった、故に自身で勝手に作り出した幻想を盲目に信仰して来たに過ぎない。
ならば、今更真偽を問うて何になるというのか、最早私には与えられた目的をそれと信じる以外に無いのに。

「───正義の為に、死んでくれ」

故に、私は〝その称号〟を与えられたのだろう。

【ボソリと呟いた女は、硬く握った拳を躊躇無く少女の顔面に向けて振るった】
【アスファルトを軽々と砕く拳である、もし顔面に当たればどうなるか想像は容易いだろう】
214ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/11(日)20:28:08 ID:TQm
>>213
会話はできる、けれども話は通じない。
最早無駄だと諦めるより他になかった。狂戦士の名を冠する者を、言の葉の刃などで斬り裂けるはずもないのだ。
アスファルトが砕かれて宵闇を砂塵が舞う。月光を受けるそれは、堕ちた星屑の如くきらきらと。
都会に凡そ似つかわしくない幻想の向こうに、かろうじて滲んだ新たな赤を認める。
それは女の馬鹿げた怪力に身体が追いついていない証左であって、無意識に眉をひそめる。
痛みの有無など知った事ではない。その根底に病的なまでの信仰が横たわっている事も。
ただ女がそうやって身を削ってまで成そうとする様に、ある種の畏敬さえ覚えたのかもしれなかった。
例え女が目指す先が虚構に塗り固められた、水面に映る月であろうと。

「……悪いけど」

それでも、黙って死を享受するなどあってはならない。
どれだけ崇高で高潔な、自己犠牲さえ孕む正義と相対したとしても。
決して譲れない託された想いが、そこには確かに在るのだから。

「痛くても、苦しくても、それが誰かのためになるとしても」

風を切る音、迫る拳。上半身への殴打を予兆であった筋肉の軋みから読み取り、斜め前に転がってすれ違う形で回避。
先程まで背をつけていた壁は哀れにもアスファルトと同じ末路を辿るだろうが、戦場の時を止めるには至らず。
血溜まりに飛びこもうと気をやる事はない。酸素に触れた赤は変色を始め、路地の影と同化しつつあった。

「わたしは、誰かに殺されるわけにはいかないんだ」

まるで子供の駄々のような響き、それでいて確固たる信念に基づいた決意の言葉。
低い姿勢のまま体勢を整えつつ反転、その勢いを利用して背後から女の膝を狙った鋭い蹴りを放つ。
215正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/11(日)21:06:57 ID:7xU
>>214
【女の拳がコンクリート製の壁に、まるで発泡スチロールのようにめり込み巨大なヒビを広げる】

やはり、ああやはりそうだ、ただの人間にこの攻撃が躱せるものか。
間合いから放たれる拳を、あろう事が目の前の脅威に向かう形で回避出来る人間がそうそういるものか。
これは確実に戦いに慣れた者の身のこなしだ、反撃するという思考を確かに持った者の。

【少女の鋭い蹴りが女の膝裏を蹴り付け、支えを無くした体は崩れ落ちる様に体制を崩す】
【だが、女は壁に叩きつけた拳をそのまま開いて指を突き刺しそれを半ばで防いだ】
【その体制から、無理矢理右脚を背後に蹴り出す】

「では、尚更私はお前を殺さねばならん」
「理解する必要は無い、語って納得させる言葉を私は持たないからな」

───殺さなければ成らぬ者、消し去らなくては成らぬ者。
何故そうしなくてはならないのかを知っていても、それが事実であると語る確たる証拠は持たない。
何の確証も無く理由を与えられた、ただそれだけで十分だった。
216ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/11(日)21:52:05 ID:TQm
>>215
ただ己が身を守るために力を振るおうと、そんな心意気など相手からすれば凶器である事は変わらない。
生きるために磨いた牙は望む望まないに関わらず、敵に向けるを選ぶ。
なればこそ背を見せる逃走でなく、互いに睨み合う闘争を取ってしまうのだろう。
自身への反動を省みない戦い方から多少の打撃は通用しないと見て、機動力を削ぎに繰り出した蹴りには確かな手応え。
しかしコンクリートを掴んで体勢を保つなどという荒業はさすがに読めず、咄嗟の回避は叶わず。

「ぐっ……!」

伏せた状態から無理矢理後ろに飛びのいて衝撃を殺しつつ、両腕で蹴りを受ける。
それでも骨が軋む程の圧。小さく呻いてようやく身を起こす。

「どんな理由があったって、お断りだけど、ねっ……!」

両者の位置が入れ替わる形になって、血の匂いがより一層濃く感じる。
それでも今は死者を悼む猶予などない。かまけてこちらも仲間入りなどごめんだった。
起き上がりざま、肉塊を鷲掴んで女の顔面目がけて投げつける。
冒涜に対する罪悪感も背徳の快感もない。ただ生き残るための手段に過ぎない。
月の光すら忌避する屍はそれなりの速度を伴って、女の視界を阻まんと迫るだろう。
同時、地を蹴る音。疾駆する小さな影は死体の陰に隠れるように、女の鳩尾へと叩き込もうと。
217正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/11(日)22:22:33 ID:7xU
>>216
【少女に蹴りを放ち、距離を開けたのを確認した女は体制を立て直す】
【背後でコンクリート壁が崩れ落ちてガラガラと音を立てた、砂埃が舞って女の姿を隠す】

「───成る程」

屍肉を武器として使うか、その判断は戦士としては機転を褒めるべきだが、人の常識では異常だ。
それでいい、そうでもなければ生き残れまい、でなければ殺すに値しない。
あるものを全て使い生存の為の道具とする、強かで狡猾で賢明な戦い。

【砂埃の中に浮かぶ女のシルエット、それを正確に狙った肉塊が一瞬にして弾け飛んだ、割れた水風船のように破裂したのだ】
【続けざまの少女の攻撃、しかし少女に伝わる手応えは不自然なものだろう】

嗚呼、だからこそ───

「面白い」

【少女の攻撃の衝撃波によって砂埃に孔が空き、その中にいる女の姿が露わになる】
【黒かった眼は赫く輝き、口角は釣り上がっていて、開いた右掌だけで少女の攻撃を受け止めていた】

気分が昂ぶる、高揚が抑えきれず肉体が叫んでいる、目の前の敵を完膚なきまでに潰せと。
私の中の正義が吠えている、正義の為に悪を倒せと、その拳で邪魔者は全て打ち壊せと。

「私の正義を否定する力が、お前にはあるか?」

【女はそのまま受け止めた右掌と、肉塊を砕き血肉に濡れた左手で、少女の攻撃部位を掴もうとする】
【捕縛に成功したなら、そこを支点に少女を振り回し、地面に叩きつけようとするだろう】
218ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/11(日)22:54:15 ID:TQm
>>217
駆ける最中、一瞬で肉塊から挽肉へと散る様に僅かに目を見開く。
それでも足を止める訳にはいかない。背後には死の崖が常に口を開けているのだから。
光すら飲みこむ砂埃に飛びこんで、感じるのは確かな手応え。
肉と肉が打ち合う音が響く。風圧で世界が開けた。

「……否定するつもりは、ないけれど」

浅い。否、これは狙いの部位ではない。されど目標足り得る結果だ。
拳と手の平を合わせたまま女を睥睨。黒から赫に、まるで血の海の時が逆行しているような瞳を翠玉が迎え撃つ。
高揚する女とは対照的に、湛えるのは静かな熱。闘いに喜びを見出さず、生だけを見据えて身体を駆動させる。

「わたしは、あなたの正義を越えて生き残るだけだから」

左手の動きを認めても拳を引こうとはしない。けれどもそれは後退を棄てた無謀などではない。女の両手が触れた刹那、その獣は牙を剥く。
濡羽色の髪を紫電が走る。少女の身体を伝って流れる電流は、素手の女の身をも焼かんとするだろう。
それと同時、今度こそ土手っ腹を狙った蹴り上げを放つ。
219正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/11(日)23:34:55 ID:7xU
>>218
正義を超える───そうだ、それでいい。
その発言が虚構であったりしない事を心から願う、私の正義を超えると言い切ったのならやってみろ。
誰も超えられる筈のない、私の至高の更に上を行け。

【女が少女の手を掴んだ瞬間、夜の闇は稲光に眩く照らされた】
【紫電に晒され感電する身体、全身が麻痺し硬直している隙に少女の鋭い蹴りがまともに入る】

だが、まだ足りない。
正義を超えると言ったのなら、それを私の前で口にしたのなら、絶対に超えなくてはならない物がある。

「───ならば超えてみせろ」

【空中に放り出され、地面に倒れこむ女の身体、麻痺が未だ残る彼女に受身は無く、後頭部を地面に打ち付ける鈍い音が響く】
【しかしその意識は手放さず、期待と嘲笑を込めた言葉と共に───彼女の体は炎に包まれた】


「〝正義の味方〟を」

【噴火したかのように立ち上る火柱の中で立ち上がる人影、炎が振り払われたその奥に存在したのは、形を変えた女の姿】
【全身を白い鎧に覆われ、目元を黒いバイザーで隠し、翼のように裂けたマントと長い髪が赫く輝いてたなびく】
【胸に刻まれたマークは傷跡に塗りつぶされ、所々に傷と焦げ跡を湛えた、正義の味方】

「───変身。」
「───ジャスティス・エグゼイター」

【その姿は、彼女が正義の味方である所以】

呪われたこの姿こそが、私の背負う罪であり、私の犯した間違いであり───
そして、正義を代弁する為の力。
220ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/12(月)00:02:15 ID:osa
>>219
先とは違う、確かな手応え。宙を舞う女には追撃せず、月が落とす影を見守る。
受け止められた拳がじくじくと痛みを訴える。誤魔化すように少し振ってまだ動くのを確かめた。
受け身すら取らず地に堕ちた女に追い打ちをかけんとまた地を蹴ろうとして、すんでのところで思い留まる。
それはこの路地裏に齎された、初めての星空以外の光。
夜を包むには激しく、静寂すらも焼き尽くしてしまうような。
襲う熱に思わず腕で顔を守る。小柄な影が長く伸びた。

「言われなくても」

姿を変えた女に戸惑いや畏れはない。抱えるのは生への執着のみ。
無論油断はない。この手の類は往々にして、形態変化で大きく戦闘能力が変動する事を少女は知っていた。
それでも少女は先を取る。この背に翼がなくたって、越えなければいけないものがあるのだ。
最早手の内を隠す必要もなく、黒髪に帯びる紫電は闇に踊る。
ばちり、音が爆ぜた。少女より放たれた雷電は一閃となって、女の元へと光速で奔る。様子見のつもりか、少女はその場に動かないまま。
221正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/12(月)00:38:26 ID:pLl
>>220
やはり、この姿となっても恐れは無い、見慣れているという経験の表れだ。
ただの人間ではないと思ってはいたが、ここまで成熟した戦士だったとは、見抜けなかった自分の目が濁っていたか。

【女は無言で手を伸ばし、脇にある壁の中に手を容易く突っ込むと、その中に走る金属の配管を乱雑に引き抜いた】
【手の中に収まる金属パイプ、それを前方へぶん投げ紫電にぶつける、空中で電撃を受けたパイプは一度スパークし跳ねた】

だがまだだ、まだ足りない、正義の味方を超えると言うにはまだ足りない。
悪として打倒するのであれば足りるのだろう、しかしそうではないのなら。

【電撃の盾としたパイプが地面に落ちるより早く、バーサーカーはそれに追い付いていた】
【瞬発力の爆発によって飛び付き、未だ紫電を湛えた鉄パイプを掴みつつ少女に接近する】

私はお前を殺さなくてはならない、それが正義であるのかは理解出来ないが、正義であると言い聞かせて。
正義などという曖昧な物を信じてしまったが故に呪いに囚われた、最早引き返す事は出来ず、ならばと全ての行動を正義だと言い聞かせるしかない。
そんな私を、私の正義を超えると言うお前には、それだけの力と覚悟があるのか。

【女は少女に肉薄すると、鉄パイプを片手で横薙ぎに振るって攻撃する、それ自体は威力が高いだけの単調な攻撃】
222ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/12(月)01:02:36 ID:osa
>>221
電は鉄パイプに阻まれて女に届くには至らず、宙でぱっと弾けて消える。
やはりというか、痛みには強くても身体の機構は等身大の人間のようで。
雷撃を殴打や蹴りのように受けようとしなかったのがその証だ。
狂人じみた強靭さを女に齎す正義が如何なものか、少女は知る由もない。
それでも。どれだけ高く、分厚い壁だとしても。
越えて、その先の生を掴まなければいけないのだ。

「ふっ……!」

短く息を吐いて、瞬く間に迫る正義の権化を見据える。
鉄パイプが回収されるのを見届けるや否やその場で跳躍。一閃が下を通り過ぎて闇を裂く。
幅の狭い路地を利用して、もう一度壁面を蹴る。そこに翼は必要ない。
月光を背に受けて、星空に紫電が鳴る。女の頭上より落とされるは雷の鉄槌。
その命中の有無に関わらず少女は重力にしたがって落下、女に飛び蹴りを放とうと。
223正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/12(月)22:58:53 ID:ibu
>>222
疾い───雷を使うというのが理由ではないだろうが、その身のこなしは非常に素早い。
そして反撃に移る動作の滑らかさも見事だ、一分の無駄も無く攻撃動作を行なっている。
───しかし、その判断が正しいかと言えば、そうではないと言える。

【鉄パイプを空ぶったバーサーカーは、少女の動きを確りと目で追っていた】
【頭上から落ちる紫電がバーサーカーの元で弾ける、しかしそれは落雷によるものでは無い】

嗚呼、痛みを感じない。熱さを感じない。
拳が焼け焦げていると言うのに、感じるのはその臭いばかりで全く何も感じない。
正義が悪を砕くのに、痛みは無用だと信じていた───

【あろうことか紫電を拳で砕いたバーサーカーは、煤けた黒煙を上げる左手を引き腰を捻る動きを加えて右手の鉄パイプを振るう】
【バーサーカーの手の中の鉄パイプはいつの間にか彼女の手から侵食するように赫い光が回路状に走り回っており、その硬度と重さを倍増させていた】
【バーサーカーの持つ宝具の一つ、『強化の魔法』により、彼女に武器として見なされた物はその破壊力を跳ね上げるのだ】
224ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/12(月)23:57:38 ID:osa
>>223
「なっ……!?」

よもや片手で雷撃を防がれるとは思いもよらず、驚愕の声を漏らすが地に引かれる身体は止まらない。
肉の灼ける匂いが鼻につく。それでも悲鳴一つ上げない女の抱える正義にも、引力が発生しているような気がして。
振るわれた鉄パイプを足の裏で受け止める。重力を利用して加速しても、鉄パイプの重量と女の腕力には押し勝てず。
華奢な身体は思いっきり吹き飛ばされてコンクリートの壁に激突。
亀裂、それから轟音が疾って穴の向こうへ。月明かりではその奥を照らす事は叶わない。
また立ちこめた粉塵が、光を受けて星屑めいて煌めいた。
沈黙。モノが動く気配はなく、衣擦れさえも聞こえない。

「――まだ」

否、ほんの小さな言の葉。
砂煙の向こう側から現れる影。それは先程まで相対していた少女ではない。
同等の大きさのコンクリートの塊だ。凄まじい速さをもって女に肉薄する。

「まだ、終わらせない……!」

防がれたのならもう一度攻めればいい。痛みがないのなら駆動する身体を壊せばいい。
そして打ち倒されたならば、何度だって立ち上がればいい。
コンクリート塊のすぐ後ろから迫る影。女がどう対処しようと、狙うは女の右腕への接触だ。
225正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/13(火)01:09:17 ID:GBM
>>224
「───終わりだ」

いくら人ならざる力を持とうと、所詮はその程度だ。
人の道を外れた程度で、人の皮を被った怪物に叶う道理などない。
生きていようがいまいがどちらにせよまともに動ける筈がない、後はトドメを刺すだけ───それが普通の筈だ。

【少女が叩き付けられ砕けたコンクリートが砂埃となる、追撃の為鉄パイプを引きずりながらゆっくりと近付こうとするバーサーカー】
【しかしその歩みを止めたのは、他でもない少女の短い決意の声だった、その声と同時に飛来したコンクリートの塊をバーサーカーは鉄パイプで砕き割った】

成る程どこまでもこの少女は諦めが悪いらしい、私とは相入れは決してしないだろう。
私にもその諦めの悪さがあったなら、きっと今でも正義を嘲笑う事なんてしなかったのに、正義を騙る事なんてなかったのに。
羨ましく思う反面憎らしくも思う、やはりここで消しておかなくてはならない人間だと。

【砕かれたコンクリート片の向こうより来たる影、少女の手はバーサーカーの右手に触れることが出来るだろう】
【しかし底を狙った左の拳が既に振られていた、少女の側頭部から頭蓋を砕かん為の鉄鎚が、少女に迫っている】
226ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/13(火)01:58:09 ID:ATy
>>225
砕けて粉々になったコンクリートの雨に厭わず、懐に飛びこんで女の右手首を掴む。
リーチの差というのは特に無手では恐ろしいもので、せめて武器を持つ手を潰そうと画策した故。
半ば捨て身の特攻だ。蓄えた電気は無限ではなく、これまでの攻防でその底はもう見えつつあった。
それでも諦観の二文字はない。ただ愚直に、残った力を最大限に使うだけだ。

「これでっ……!」

狙うは直接触れた右手首への電流、ではない。絶対に逃さまいと強く握る。
少女の黒髪が発光と見紛う程の雷光を帯びる。既に黒く染まりきった血溜まりが刹那照らし出された。
痛みのない女に通用しているのかは分からない。どちらにせよ、最早これしか頼る術はなく。
瞬間、雷が爆ぜる。先の雷撃が点ならこれは面。女の全身を貫かんと奔る至近距離の電撃だ。

無論これ程の接近が許されたのだから、こちらもただでは済むとは思っていない。
横から迫る拳を目の端に捉えて、しかし回避を取ろうとはせず。
ここで退く訳にはいかないのだ。傷つく事を恐れて仕切り直せば、次はもうこちらが保たないだろうと確信していた。
故に女を繋ぎ止めている方とは反対の手で、側頭部を庇うのみ。
生きるための犠牲など、とうの昔に覚悟しているのだから。

「ぐ……ぁ……!!」

横からの衝撃に踏みとどまれず、思わず女の手を離す。ぼきりと、嫌な音がした。
宙を舞って数秒、更に地面に叩きつけられて数m程転がって止まる。
俯せに倒れた少女。砂埃に塗れた濡羽色の髪に最早雷電の兆候はなく。
227正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/13(火)22:34:46 ID:wRS
>>226
視界が白く染まる閃光、それと同時に全身を引き裂くような電撃が走る。
しかし確かに放った拳に手応えは感じていた、目の前の人影が離れて行くのと同じくして全身を襲っていた電撃は収まる。

「はっ……はっ……はっ……」

獲った───いや、まだ相手にも息がある。
早くトドメをささなくてはならないが、しかし自分も消耗が激しいというのがストップをかける。
あの少女の強かな戦い方と耐久力、そして決して諦めようとしない心を。
雷電の兆候が消えたように見えても、その中にまだ至高の一撃を備えているかもしれない。

万全の体であればそんな事を考えはしても気にしなかったかもしれない、しかし全身にダメージを負っている現状では一瞬の隙が命取りとなる。
───いや、例えそうであっても、嘗ての自分ならその身を厭わずに進み続けただろう。

だが、今はこの身を己の為に使う事は許されない。
目的の為に己を捧げるのだと、聖杯に呼び出された理由が自身を縛る。

「………………」

【バーサーカーは倒れた敵を目の前にしてまさかの撤退を選択する】
【後一本でも踏み出せば少女を殺す事が出来るかもしれない、目的を果たす事が出来るかもしれないのに、しかしその賭けから彼女は降りたのだ】

【変身を解いたバーサーカーは踵を返し、少女から遠ざかって行く】
228ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/13(火)23:28:36 ID:ATy
>>227
小さくなっていく足音を聞いた。
それが本当に遠ざかっているのか、意識が遠のきつつあってそう感じるのか定かではなく。

――それでもまだ、生きている。

微かな身動ぎ。次いで何かを引きずる音。
無理に酷使させた全身が遅れて悲鳴をあげる。そんなものは箱に閉じこめて蓋をすればいい。
蓄積されたダメージが四肢に絡みついて苛む。その程度で音を上げれば笑われてしまう。
片腕の感覚は既にない。けれどもう一本が残っているなら諦めるにはまだ早い。

「…………――――」

物音に振り向いたのならば、その瞳に映るだろう。
壁を支えにして、確かに二本の足で立つ少女の姿が。
蝕む痛みに声は上げない。歯を食いしばりながらも女を睨みつける。
片腕はだらりと力なく垂れる。喉から振り絞るのは最早人語に成り得ない、獣に近しい唸り声。
そこに意図など介在しない。ただまだ諦観の二文字を見ていないと、伝えたいだけだったのかもしれなかった。
全ての力を使い果たし、有効な攻撃手段など残ってはいないというのに。
229正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/14(水)12:13:58 ID:XKo
>>228
背後で立ち上がる気配があった、しかしそれは敵意ばかりで実際に襲い掛かってくる気圧を感じない。
振り向けばやはり、獣の威嚇と同じだ、唸り声を上げて睨むも望む事をする力がないのが目に見える。
今ここでやはり攻撃に移れば優位に立てるだろうが、一度退くと決めたのを考え違いだったとやり直すというのも些か狡いか。

【立ち止まり、振り返って少女を見るバーサーカー、その目は黒く戻っておりまた生気の無いぼんやりとした眼に戻っていた】

「……往生際が悪いな、お前は」
「生き残ったことに感謝か安堵くらいしたらどうだ?」

だがしかし、立ち上がる余力がまだあったという事実がある、私が近付けばその喉元に噛み付くくらいの事は出来たのだろう。
なればこの判断は正しかったのだと言い聞かせて納得させる、自分の行動は正しいのだと自分を慰める。
それは私がそうある為に常にしていた事、故に何もおかしい事ではない。

「お前などの為にリスクを冒すつもりは無い、私は〝聖杯〟の為にやるべき事をしなくてはならないのでな」
「命をかけるなどと馬鹿らしい事をする暇は無いんだ───今はな」

【バーサーカーの目は冷たくそして哀しく、少女を一瞥して逸らし、また背を向け歩き出す】

───未だ聖杯戦争は開催出来ず、幾ら他のサーヴァントを倒そうと願望は叶わない。
これは大いなる儀式の為の下準備だ、願望機を願望機たらしめる儀式を行う為の、そのまた儀式。
その為には自身を十全に保ちつつより沢山の者を殺さなくてはならない。

私は、私の正義を殺す為に願いを叶えなくてはならない。

「そこで臥せっていろ、そうすればこの撤退は私の愚かな判断だったと理屈がつく」

【それを言い残せば、バーサーカーはそのまま少女から遠ざかって行くだろう】
230ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/14(水)16:58:24 ID:6EV
>>229
女の言葉の通りだった。あのまま倒れ伏せっていれば、女は振り向かず立ち去っていただろう。
そうすればここで月が太陽に代わるまで、身体を休める事ができただろうに。
それでも立ち上がったのは、後押しする想いがあったからだ。
固執していた生への執着とはまた違う、けれど確かに根底で燻るものが。

「――――…………ぁ」

踵を返した女の後ろ、虚勢めいた唸り声が途切れた。言葉にならない小さな呟きが漏れる。
それが人語を発する気力もないせいか、痛みとたくさんの感情がないまぜになった胸の内を象る事ができないからか。
その理由も分からずに、立ち去ろうとする女を見送るだけしかできないまま。
もどかしいような腹立たしいような、そんな言い様のない激情のままに言葉を吐き出そうとしても、掠れた声にしかならなくて。

「っ……まっ……!」

最後まで言葉を紡ぐ事叶わず、崩れ落ちそうになった身体を動く方の腕で必死に支える。
息を切らして遠ざかる背中を睨めつける。霞む視界では闇に溶けそうな黒を見失わないようにするので精一杯だった。
その姿が路地裏に消えてようやく、力の抜けた身体が地面に叩きつけられる。
物言わぬ屍が近い。だが少女がそこに至るにはまだ早い。今はその事を享受するべきなのだろうが。
命をかけるに値する相手と認められても素直に喜ぶ事などできるはずもなく。
強く、拳を握り締める。なんなのだろう、胸を強く責め立てるこの感情は。

ああそうだ、久しく忘れていたこの想いに名前をつけるなら、きっとそれは――。
231MZBJ6680SY :2018/03/16(金)22:49:58 ID:l5F
こぢんまりとした応接間で椅子に腰かけ、テーブル越しに向かい合う二人の男女がいた。
漆喰の壁や古めかしい扉など、部屋の様相を見るに文明レベルは近世に近いものらしい。

「それでは、この世界はいつか滅んでしまうと?」

男がメモを片手に口を開いた。テーブルの上ではボイスレコーダーが作動している。
ベージュのジャケットにデニムのパンツといったカジュアルスーツスタイルは、この場ではひどく時代錯誤に見えた。

『そうです。私達はこれを終焉の洪水と呼んでいます。全てを呑みこんで後には何も残さない、とても恐ろしいものだと言われています』

答えるのは白い祭服の女性だ。宗教然とした居住まいは部屋の模様に合っていて、どちらが来訪者であるかは一目瞭然だった。
男が筆を走らせるのを眺めながら、女が言葉を続ける。

『ですがここ、サントアリオだけは神によって楽園に導かれると伝えられています』

「その……神というのが、都市の守護神であるダゴン神なんですよね」

男がメモを捲ってこれまでの話を目で追う。人懐っこい笑みながら、真摯な眼差しだった。
女は大袈裟に頷いて、テーブルに置いてあった木箱に愛おしむように手を添える。

『ええ、その通りです。ですから私達アーカニティは、この聖櫃を通してダゴン神に祈りを捧げます』

女が言う聖櫃とはその木箱の事だろう。
人の頭ほどの大きさのそれは華美な装飾こそないが、色鮮やかに彩色されている。
232MZBJ6680SY :2018/03/16(金)22:50:17 ID:l5F
『聖櫃は天上におわす神と私達との唯一の繋がりです。これに供物を捧げ、私達は救済を祈ります』

「供物というのは?」

『ダゴン神の右目は私達に恵みを与えてくださる太陽なんです。
その感謝を忘れないために小麦を捧げる事になっています。最近ではパンが主流ですが』

なるほど、と男が相槌を打ってメモを取る手を止める。
ボイスレコーダーの電源を切ると、空気を切り替えるかのように詰めていた息を短く吐いた。

「ありがとうございました、ジュリアさん。お陰でいい記事が書けそうです。もしよければこの後食事でも?」

『せっかくの申し出ですが、生憎予定が詰まってまして。でもお役に立てたようでなによりです』

すげなく断られても苦笑いで返し、そう残念そうには見えない男。
女はというとあからさまな上っ面にも反応せず、朗らかに笑った。

先程までいた建物を振り返る。夕日が白亜を朱く染めて反射するのがいやに眩しい。
見送りに出ていた女の姿はもう見えない。やれやれとばかりに肩を竦めた。
別れ際の、社交辞令的な来訪を期する言葉を思い出す。

「ま、特に問題はなさそうだし、もう来る事はないだろうっスけど」

金髪の男はそう独りごちるとサングラスで碧い瞳を遮って笑い、ふらりと雑踏に姿を消した。
233P4301E8CFs :2018/03/17(土)21:32:21 ID:taX
世界が境界線をなくして以来、実に様々な物が人の目に触れ、混じり合うようになった。
文化、科学、魔法。どの勢力も未知の技術我先にと取り入れようとする混迷の中で、未だに独特の不可侵性を保ち続けるものがあった。
大小問わず星の数ほど存在し、超越的な絶対者を信奉するそれを、人は宗教と呼ぶ。

宗教都市サントアリオ。どの勢力にも属さず、方舟信仰『アーカニティ』の下に成立している独立都市。
街並みは石灰の建物に統一されて、黒ずんだ屋根が陽光に映える。
石畳にはところどころに白墨で呪術めいた模様が描かれ、道を往く信徒達は男女共に統一された白い布の服を身に纏う。
街全体が信仰のために存在しているといっても過言ではない様相の中で、サントアリオを訪れた異邦人は一際異質な白を認めるだろう。
深くかぶったフードに煤けた白いローブ。覗く肢体と零れる長髪は病的までに白い。
そしてなにより目立つのは、目元を覆い隠す黒い包帯だ。年はおそらく十と数回の冬を越えた程度。
彼は異邦人に気がつくと、少年らしい変声期の差し掛かりのような声でこう語る。

『依頼があるんだ。君、仕事を探していないかい?』

もし興味を持ったならば、少年はついてくるように促して歩き出すだろう。視界が覆われていてもその足取りに迷いはない。
連れられて辿り着いた先は都市で最も大きく荘厳な建物、白亜の壁が眩しい大教会だ。
宗教的象徴としてではなく政治機構としての役割も果たすそこには、一般市民に開放している部屋も多い。
少年はそのうちの一室らしき会議室に案内すると、すぐにどこかへ去ってしまう。
部屋に残されたのは同じく少年に誘われたのだろう、見るからに『アーカニティ』の一員ではない冒険者達。
234P4301E8CFs :2018/03/17(土)21:33:14 ID:taX
しばらく部屋で待機していればやがて先程の少年ともう一人、成人して間もないといったところの女性が入ってくるだろう。
往来の市民達が着るものとはまた違う白い祭服は、彼女が聖職者である事を示していた。片手には人の頭程の木箱を抱えている。

「お呼び立てしてすみません。司祭のジュリア=ゴロスと申します」

ジュリアと名乗った女性がぺこりと一礼。その後ろで少年がものぐさそうに立つ。

「皆さんには私達『アーカニティ』の大司教、グロス=ゴルカを止めていただきたいのです」

グロスは自分達の手で終焉の洪水を起こして救いを得ようとしている、所謂過激派らしい。
当然それだけの事を成そうとしているのだから、人の手で簡単にどうこうできるものではない。
そのため彼ら過激派は人柱を立てる事で、性質を反転させた守護神ダゴンを破壊神として顕現させようとしているのだ。
もしそれが成功してしまえばその被害は、この都市が存在する世界に留まらないだろうとジュリアは語る。

「過激派の人達がこれまでおとなしかったのは、神を変質させるのに相応しい生贄が見つからなかったからなんです。
ですが、あの……偶然聞いてしまったんです。大司教様が、準備が整ったと仰ってるのを」

『で、その儀式が行なわれるのが今日の夜。僕達はそれまでにその人を見つけて止めればいいってわけ』

尊敬すべき人物を糾弾するのにまだ躊躇いがあるのか、そっと目を伏せるジュリア。
見かねたのか、代わって少年がぶっきらぼうに続ける。

『儀式ができそうな場所はだいたい探したけど見つからなかった。あとは大司教だけが入れる地下聖堂だけだ』

「そこにいると考えていいでしょう。ただ地下聖堂の入口は秘中で、大司教様の私室のどこかに隠されている事しか分かっていません」

ジュリアが聖櫃を両手で抱え直す。その手は微かに震えていた。
声の調子こそ気丈そうだが、不安を必死に押し殺そうとしているのが見てとれる。

「なのでまずは地下聖堂の入口を探したいと思います。ブランさんは念のため、他の部屋を見て回ってください」

ブランと呼ばれた少年が無言で頷いて部屋を出る。
ジュリアも大司教の私室に向かうべく、請負人達についてくるよう促す。
もし疑念や質問があるのならば、移動中にジュリアに聞けばできる限り答えようとしてくれるだろう。
235ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/17(土)21:58:09 ID:aSp
>>233
>>234

 サントアリオの大通りの隅にて、道着姿のナギ・ミストは行き交う白装束の群衆を漠然と眺めていた。
コンツェルンの爆撃で傷ついた同盟首都の街並みを思い出し、それと比べて……白い蝶が通る。
ナギはそれを目で追う。
そのうち、何を思い出したのか忘れた。

 蝶は白い街並みに溶け込むようで溶け込まず、ふわふわと宙を舞う。
そしてローブ姿の少年のあたりでくるりと翻り――
ナギはそれっきり蝶を見失ってしまった。
僅かに不満そうなナギに、その少年が声をかける。
曰く、仕事を探してはいないかと。

「……いや、私は『同盟』の……」

 そこでナギは何かに思い至ったような表情をした。

(これも『風』のお告げなのでは……)

「……ああ。探している。夕飯のお金もなくて大変だ」

 ナギはでたらめな思考のもとでたらめに答え、少年に後についていく。
やがて彼女は教会の一室に案内され、ジュリアという女性と少年の説明を聞くこととなった。
ナギは眠たげに目をこすりつつも、何度か相槌を打っていた。

「……つまり、大司教が人柱の儀式をして洪水を起こそうとしているから、それを止めたい、と……仰る」

(『同盟』エージェントの私が中立地帯の事情に首を突っ込むのは……いや、しかし、『風』のお告げが)

「承った」

 ナギは船をこぐような仕草でかくんかくんと頷き、質問もせずに大司教についていくこととした。
236サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/17(土)22:05:33 ID:8kM
>>233-234
統一された白が反転した様な真黒な煤けた外套を纏った小柄な少年。
サイスがその都市へ足を運んだのはちょうど先刻終えた依頼の帰り道にあったからと云う理由だけだ。
自らがよそ者であると無言のままに見せつけられている様でどこか居心地が悪い。

そんな中、歳の丈も同じくらいの自身と同じ真白な髪を持つ白いローブの少年と出くわす。

「仕事は、今しがた終えたところだ。内容と報酬次第で請け負うよ。」

どこかで共感の感情が沸いたのだろうか。
歩みを止め白の少年の話を聞きとめるだろう。


促されるままに付いて行くと自分と同じく部外者らしき者達と同じ部屋に案内される。
そこで司祭、ジュリアの依頼の説明を一通り聞いた。

「大体の内容は理解した。で、成功した場合の報酬はどうなる?」

破壊の神が顕現すれば世界の危機が伴う。結構。
彼が元居た世界では合計五柱もの破壊と魔性の神々が世界を滅すべく侵攻していた。
彼にとって滅びとは当たり前の事象であり、
故に未来を見据えた大局的な見地よりも目先の利益こそが優先されるのだ。

尤も、仮に報酬が割に合わないと感じても彼の出す結論は変わらないのだが。
危険な依頼ばかりを引き受けるのは自己破滅的な願望からか。
彼にはもう帰るべき故郷も守り抜くべき世界も何一つとしてないのだから。
237P4301E8CFs :2018/03/17(土)22:15:57 ID:taX
>>235
「えっと、随分と眠そうですが……大丈夫でしょうか?」

廊下の途中途中で振り返り、心配そうに眉根を寄せて声をかけるジュリア。
仮にも世界の存亡がかかっているのだ、明言こそしないが不安が隠しきれていない。

>>236
「もちろんご用意させていただきます。見合ったものか分かりませんが……」

そう言ってジュリアが提示する報酬は、一人ならしばらくは生活できる程。
不服だろうかと僅かに顔を曇らせるが、受諾の旨を聞くとほっと一息つくのだった。

>>all
「この部屋です。鍵は……開いてますね」

しばらく歩いた先、廊下の突き当たりにある古めかしい装飾の観音開きをジュリアが軽く押す。
ぎい、と蝶番が軋んだ音を立てて扉が開く。部屋はもぬけの殻だった。
整頓されている、というよりは生活感がないと表現した方が相応しい部屋だ。最低限の調度品だけが味気なく空間を飾る。

「どこかに入口が隠されているはずです。手分けして探しましょう」

さて部屋を見渡せばいくつか目につくものがあるだろう。
様々なジャンルの本が並ぶ【本棚】、やや雑然としている【テーブル】、インテリア然とした雑貨が散らばっている【キャビネット】。
奥まったところには【祭壇】らしきものが鎮座している。
これらを物色するもよし、あるいは【床】に何か落ちていないか調べてみるのもいいだろう。
238サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/17(土)22:28:21 ID:8kM
>>237
ジュリアに提示された報酬に納得したのかは表情からは窺えない。

「引き受けた。」

ただその一言を以て此度の探索に加わる運びとなった。

一行は最低限の調度品のみがあしらわれた部屋へと通される。
サイスは先ず目についた【祭壇】の周辺を探索するだろう。

影の操作を利用し祭壇の周囲に隙間が無いか、
あるならばその向こう側に何かしらの空間が存在しないかを探る。
239ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/17(土)22:29:09 ID:aSp
>>237

「む」

 やけに俯き加減で歩を進めていたナギは、声をかけられるとぱっと顔を上げる。

「大丈夫……問題無い。万事問題無い」

 そう言って何気なく袖で口元を擦る。
もしかしたらよだれを拭ったのかもしれないが、定かではない。
サイスとジュリアが報酬の話をしている最中も、
当事者の一人とは思えない無関心さで眼をしぱしぱさせるばかりであった。

 やがて大司教の部屋に辿り着き、一行は地下への入口の捜索を始める。
ナギは部屋をざっと見回したあと、しばし瞑目した。

「……!」

 目を開けるや否や、彼女は【キャビネット】のほうへ向かう。
判断基準は「風のお告げ」以外の何者でもなかったが、ナギは何ら疑いを持つことなく、
むしろ確信に近い情動のもと引き出しを片っ端から開けていく。
240P4301E8CFs :2018/03/17(土)22:45:12 ID:taX
>>238
「その祭壇なら私の部屋にもありますよ。普段はそこに聖櫃を安置しておくんです」

【祭壇】に興味を持ったサイスに声をかけるジュリア。彼女はというとベッドの下を覗こうとしていた。
【祭壇】の上には浅く四角い窪みがある。ジュリアが持つ聖櫃がちょうど収まるくらいの大きさだ。
その手前には円い切れこみが4つ並び、それぞれに色鮮やかな花が描かれている。
左から【桜のような淡紅の花】、【鈴なりの白い花】【中心から黒い袋が覗く紫の花】、【針状の葉と薄紫色の花】だ。
そして【祭壇】の周囲を探れば、真下に空間がある事が分かるだろう。
しかし【祭壇】はどれだけ力をこめようと、うんともすんとも言わないだろうが。

>>239
「そ、そうですか……」

あははと苦笑い、人選をした少年を少しだけ恨むジュリアであった。
さて【キャビネット】の中には目立ったものは特にない。男物の祭服が大量に詰まっているだけである。
目を引くのは【キャビネット】の上だろうか。【青銅の蛇のレリーフの箱】と【鳩の像の小棚】が並んで置いてある。
【青銅の蛇のレリーフの箱】は一見普通の箱だが蓋は開かない。蛇の目の部分にはクリスタルが埋めこまれている。
【鳩の像の小棚】は葉を咥えた鳩を模した像が乗っている、二段の引き出しの小棚だ。
上の段には三桁の回転式ダイアルロックがついているが、下の段には鍵がかかっていないらしい。
241サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/17(土)22:57:22 ID:8kM
>>240
【祭壇】の周囲を調べて得た情報は周囲に共有しておく。
色鮮やかな花が描かれた4つの切れ込みの事、
そして自身の持つ影の操作の能力の概要とそれを使用して感知した【祭壇】の下の空間の事。
試しに目だけでも影結で真下の空間に繋げて視覚情報を得ようかとも試みたが、
何らかの力で空間移動能力を阻害されているらしく不可能だった事も付け加える。

「多分この部屋に何らかの仕掛けがある、はずだ。」

最後の方は少し自信なさげにそう言って。
次は【本棚】周辺を調べてみる。
影による隙間の捜索と置かれている本の種類などの調査を並行的に行う。
242ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/17(土)23:03:57 ID:aSp
>>240

 キャビネットの中に目につくものが無いのを察すると、普段無表情なナギは不服そうな表情を見せた。

(……『風』の教えは……いや、私が読み違えただけか……あるいは室内ゆえに……)

 何気なくキャビネットの上に手をやる。
【箱】を手に取り開けようとするが、その蓋は思いがけず頑強に抵抗する。

「……開かない……蛇の箱、か……」

 ナギは誰にともなくそう呟く。
その言葉は他の人の耳にも入ったかもしれない。
彼女はそれっきり箱への挑戦を諦めて、次は【小棚】を手に取る。
しかしこの小棚の引き出しも同様の抵抗を見せた。
見れば、三桁のダイアル錠で施錠されている。

「『鳩の棚』も開かない……三桁の、ダイアルロック……」

 ナギはまたぶつぶつと言う。
もしかしたら彼女なりに、情報を共有しているつもりなのかもしれなかった。
そのわりに、サイスの同様の試みには反応が薄くはあったが。
ナギは【小棚】の下の段におざなりに目を通した後、手持無沙汰げに【床】を見回す。
243P4301E8CFs :2018/03/17(土)23:15:57 ID:taX
>>241
部屋の主は多趣味だったのか、並んでいる本は大衆小説や専門書、図鑑などどうにも一貫性がない。
目を引くものを挙げるならば、本立て代わりに使われている【カエルの像の箱】と背表紙にタイトルの書かれていない【緑の装飾の本】だろうか。
【カエルの像の箱】は蓋にカエルを模した像が乗っている、手の平サイズの小箱だ。
鍵がかかっているのか蓋は開かないが、鍵穴らしきものは見当たらないだろう。
カエルの右目には黄色い宝石が埋めこまれている。左目にも同じようなものがあったのか、丸い窪みになっている。

>>242
下段に入っているのはオレンジの装飾がされた一冊の本だ。
タイトルには『犠牲になれなかった少女』とある。本の上部からは栞が頭を出していた。

床を調べようとしたその時、足先に何かが当たる感触がするだろう。
爪先に当たったそれはころころと、【キャビネット】の下に転がっていってしまう。
その先を追うならば、【キャビネット】の下の隙間は狭く、指先はほとんど入らない事が分かるはずだ。
【キャビネット】は四つ足であるから、細い棒のようなものであれば横側に追い出す事ができるかもしれないが。
他に【床】を見渡せば、コインのようなものがぽつんと落ちているのが目に入るかもしれない。
244サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/17(土)23:25:29 ID:8kM
>>243
【本棚】に並ぶ本の種類には一貫性が無いように見える。
そんな中目を引いたのは【カエルの像の箱】と【緑の装飾の本】か。
前者は開ける事は出来ず、鍵穴らしきものも見つからない。
カエルという事もあって先程ナギの呟いた蛇の箱との関連性が気になった。

一先ずそれは置いておき【緑の装飾の本】を開いてみようと試みるだろう。

次いで可能であればまだ誰も調べていない【テーブル】の上も窺ってみる。
245ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/17(土)23:29:53 ID:aSp
>>243

 小棚から本を見つけ出すと、ナギは無感動に表紙と裏表紙を見る。
そして栞を見とめると、それが挟んであるページを開いて目を通し、何事かの手がかりの入手を試みる。

 その後本を閉じ、床を見やったとき、爪先に何かがぶつかる感触を得る。
目を下すと、蹴飛ばしてしまった「何か」はキャビネットの下に入り込んでしまうところであった。
ナギは鼻を鳴らしてそこに屈みこみ、そこを覗き込もうとする気配を見せた。
しかし重なるハズレにモチベーションを削がれていたのか、
キャビネットを持ち上げたり空山拳法で吸い込んだりする試みはなしに早々と諦めてしまった。

 ナギは立ち上がり、あらためて部屋を見回す。
やがて落ちているコインのようなものに目をつけ、それを拾い上げるだろう。
246P4301E8CFs :2018/03/17(土)23:44:47 ID:taX
>>244
【緑の装飾の本】の背表紙は無地だったが、表紙には『収穫を誤った娘』とタイトルだけがあった。
話の内容は至ってありふれたものだ。一人の娘が報われぬ恋をして、涙を流すだけの。
頁を捲っていれば、半ばあたりで栞に行き当たるだろう。
【鈴なりの白い花】の絵柄がいっぱいに描いてあり、下部に【language of Olive:平和】と記しているものだ。

テーブルにはペンや置き時計など、生活感に乏しい部屋の中で際立って人の営みを連想させるものが多く見られる。
その中に【本棚】で見つけたものとよく似通っている、【青い装飾の本】を認めるだろう。
タイトルは『歪んだ真珠の乙女』。こちらにもやはり栞が挟められている。
またテーブルの上で異彩を放っているのが、【錠前のかかった鍵】だ。
10cm程の大きなウォード錠だが、ブレード部に小さな南京錠がかかっているため鍵としては使用できそうにない。
棒として扱うくらいが関の山といったところだろう。

>>245
「あら……?これは私達が使っている硬貨ではないですね。玩具かなにかでしょうか?」

ナギが拾い上げたコインが気になったのか、手元を覗きこむジュリア。
しかし今回の件では関係がないと思ったのか、首を傾げると自分の作業に戻ってしまった。
コインは銀製のようだ。表に【舟】、裏には【150】と彫ってある。
247ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/17(土)23:57:22 ID:aSp
>>246

 芳しくないジュリアの反応を見て、ナギはそのコインをテーブルの上に捨てた。
しかしそこでふと思い直し、もう一度取り上げ、その裏側を見つめた。

「……150……」

 ナギはそこで古いコンピュータのように数秒間動きを止めた後、ようやく心当たりの正体を思い出した。
身を翻してキャビネットに向かい、小棚のダイアル錠を「150」に合わせてみる。

 やがて部屋の中心のほうへ戻ってきたナギは、テーブルの上に置かれたウォード錠に目を留めた。

「……長い……棒……」

 ナギはそこで古いコンピュータのように数秒間動きを止めた後、ようやく心当たりの正体を思い出した。

「少し借りる」

 ぼそりと一言断って、鍵を取り上げて再びキャビネットのほうへ向かった。
その下へ鍵を差し込み、先ほど蹴り込んでしまったものを取り出そうとする。
248サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/18(日)00:00:24 ID:2Q6
>>246
【緑の装飾の本】の内容は『収穫を誤った娘』。
一人の娘の報われぬ恋を描いたありふれた話のものだ。
栞の挟まれた頁には【鈴なりの白い花】と【language of Olive:平和】。

【テーブル】の上に見つけたのは先程の物に似た【青い装飾の本】。
それと【錠前のかかった鍵】か。

鍵の方はナギが持って行ってしまった。何かに使うのだろうか。

サイスは【青い装飾の本】の栞の頁を開いてみる。
249P4301E8CFs :2018/03/18(日)00:16:26 ID:Ai7
>>247
【鳩の像の小棚】の上段は、【150】に合わせる事で呆気なく開く。
中には【折りたたまれたメモ】と【赤い装飾の本】が入っている。
メモを開けば癖のある字でこう書かれている。

『我等が苦痛と罪を喰らいし復活の蛇は光を厭う
 安らかなる眠りへ導く深淵を湛えし闇を与えよ』

『星屑に踊らされた女』と題された【赤い装飾の本】にも栞が挟まれているのが分かるだろう。
いっぱいに【針状の葉と薄紫色の花】の絵柄が描かれてあり、下部に【language of Nigella:当惑】と走り書きがされてある。

【錠前のかかった鍵】を【キャビネット】の下に差しこめば、存外深くまでは行ってなかったらしく横側から転がり出てくる。
それは真珠のように濁った【白い宝石】だ。【キャビネット】の下にあったせいか、少しばかり埃っぽいが。

>>248
その栞には大きく【桜のような淡紅の花】の絵柄が描かれている。
下部には【language of Apricot:疑惑】と記されていた。
250P4301E8CFs :2018/03/18(日)00:18:30 ID:Ai7
>>245
【オレンジの装飾の本】に挟まれていた栞には【中心から黒い袋が覗く紫の花】が大きく描かれている。
その下部には【language of Heath:孤独】とだけ記されていた。

//抜けすみませんっ
251ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/18(日)00:23:30 ID:ACR
>>249
>>250

 ナギはメモを一瞥し、本をぱらぱらとめくって「当惑」の栞を取り上げ、これにも目を通す。
そしてキャビネットの下から回収した宝石と、先ほど回収した「孤独」の栞と一緒にテーブルの上に放り出した。
彼女はしばらくの間、テーブルの上に集められた謎の品々を無言のまま見つめていたが、やがて一言だけ言葉を発する。

「全然わからん」

 そして無駄に潔く踵を返し、壁にもたれかかって一つあくびをした。
252サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/18(日)00:35:12 ID:2Q6
>>249>>251
二冊の本の栞の頁と【祭壇】の花の種類の一致からそれぞれの言葉が何かしらの鍵になるのではと推測し皆に提言する。

ナギの発見したメモ及びテーブルに放り出した品々を目にやり。
幾つか試してみることにした。

先ず【青銅の蛇のレリーフの箱】の蛇の目のクリスタルを外す事は出来ないか。
それと【カエルの像の箱】の左目に【白い宝石】を嵌めてみる。

現在思いつくのはこのぐらいか、一応司祭からも何か無いか問うてみる。
253P4301E8CFs :2018/03/18(日)00:47:29 ID:Ai7
>>251
「あら、大司教様の字……えっなんですかこれ」

諦めた様子のナギが持つメモ帳を覗きこみ、思わず顔をひきつらせるジュリア。
なんというか、知人の昔のノートを読んでしまった心境である。具体的には14歳くらいの。
気を取り直してこほんと咳払い。顎に指を当てて考えこむ。

「蛇、ですか。この部屋だとあの箱くらいしかそれらしいものはなかったと思いますけど……」

>>252
蛇の目であるクリスタルは、どれだけ力をこめても外れないだろう。
一方【カエルの像の箱】は空いた左目を【白い宝石】埋めた事で蓋が開く。
中には紙片が一枚。縦に破った【メモの右辺】のようだ。そこにはこう記されている。

『霧深き森で道を喪
 平和は朽ちて調和の
 時の風に流され疑心
 灼けた荒野に終ぞ墜ち』

話を振られたジュリアはううんと首を傾げ、自信なさげに口を開く。

「多分、この目の部分をどうにかすればいいと思うんですけど……。
光より闇……明るいと駄目、とかですかね?」
254サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/18(日)00:58:45 ID:2Q6
>>253
カエルの箱から出て来たメモは破られた断片の様で、
果たしてこれ単体で解読可能なのかもう片割れが必要なのかは判断がつかなかった。
仮にあるとするならこの蛇の箱の中か。

ジュリアの発言から目の水晶に光が当たらなければどうかと思案。
この部屋の中に明らかな暗闇の場所は無かった。
故に影の操作で蛇の目を覆って確かめてみる。
255ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/18(日)01:03:47 ID:ACR
>>253

「蛇……」

 ジュリアの言葉を聞くと、ナギは首を巡らせてキャビネットの上の「蛇の箱」を見た。

「明るいと駄目……」

 まるっきり考えなしといった様子でオウム返しする。
するとサイスが蛇の箱に向かい、何らかの異能で蛇の目を暗闇――いや、影か?――で覆う。

(なるほど、闇か……)

 ナギは僅かに眉根を寄せた。
自分がここのところ役立たずという自覚はあるようで、誤魔化すようにテーブルの方へ向かい、品々に順番に目を通している。
256P4301E8CFs :2018/03/18(日)01:20:21 ID:Ai7
>>254
サイスの推測通りだったようで、クリスタルに光が当たらなくなるや否やかちりと解錠の音。
蓋を開ければ紙片のようなものが納められている。縦に破った【メモの左辺】のようだ。
これまでに何度も見た筆跡で、こう綴られている。

『い亡いた蒼穹に惑う
  大樹は枯れ果てた
  の種は翠海を渡り
   るは孤独な幻想』

>>255
「なかなか入口の手がかりが見つかりませんね……」

探せるところは探したつもりなのか、ナギに倣うようにして手持ち無沙汰そうにテーブルに集められたものを物色するジュリア。
ちなみに彼女はずっとベッド周りを調べていた。曰く男性は必ずと言っていい程そこに秘め事を置いておくらしい。
その成果についてはお察しであるが。

>>all
「あ、これ元々一枚の紙だったみたいですね」

ふと、ジュリアがメモの右辺と左辺を手に取る。破った跡は繋げようとすると、ぴったり組み合わさった。

『霧深き森で道を喪い亡いた蒼穹に惑う
 平和は朽ちて調和の大樹は枯れ果てた
 時の風に流され疑心の種は翠海を渡り
 灼けた荒野に終ぞ墜ちるは孤独な幻想』

「サイスさんが言うには【祭壇】の下にそれらしいものがあるそうですけど……」

言いながら祭壇を調べようとするジュリア。色鮮やかな花の絵柄を撫でながら、お手上げと言いたげに肩を竦めた。

「あ、この花の絵、スイッチになってるみたいですね。ううん……適当に押しても駄目みたいですけど……」
257サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/18(日)01:32:54 ID:2Q6
>>256
蛇の蓋は開きもう一つの紙片が手に入る。
ジュリアが言うには祭壇の花柄はスイッチになっているらしい。

と、紙に書かれている詩に4冊の本の栞と対応したワードがあるのに気づき、その順に押してみる。
【language of Nigella:当惑】
【language of Olive:平和】
【language of Apricot:疑惑】
【language of Heath:孤独】
頭文字を取るなら"NOAH"か。

アルタナティブ出身のサイスにはそれが何を意味するかまでは知れなかったが。
果たしてこれは正解か否か。
258ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/18(日)01:37:10 ID:ACR
>>256

 メモを復元して完成した文章に目を通すが、特に閃く様子もなく、ナギは漠然とジュリアについていった。
花の絵のスイッチの存在を知ると、興味深そうに何度か触る。
しかしその後サイスが入力を始めるまで、ナギは特にアクションを起こさなかった。
あくびをして出た涙をぬぐい、サイスがスイッチを押すのをつまらなそうに見やる。
259P4301E8CFs :2018/03/18(日)01:48:45 ID:Ai7
>>all
花のスイッチを順に全て押しこむと、祭壇がゆっくりと横に動き始める。
その下に現れたのは人一人分の幅しかない、地下へと続く階段だ。
覗きこんでも螺旋状の階段は薄暗く、底が見えない。これが地下聖堂の入口で間違いないだろう。
ジュリアが前に進み出る。テーブルにある置き時計を一瞥し、緊張に小さく息を吐いた。

「大司教様はきっとこの下です。もうすぐ夜になってしまうので、私達だけでも進みましょう」

階段に足をかけてから振り返るジュリア。少しの間葛藤に目を泳がせたが、しっかりと二人の顔を見て言葉を続ける。

「地下にはおそらく大司教様だけでなく、他の過激派の方もいるでしょう。なんとしても儀式を成功させようとするはずです。
ですから……彼らの生死は問いません。絶対に、儀式を阻止してください」

それは彼女にとって非情な決断だ。同じ神を信じる者を殺めるのを是とするのだから。
その証拠に語尾が微かに震えている。けれど胸に抱えるのは、躊躇以上の覚悟なのだ。
部屋にあったランタンを拝借し、何もないようであればジュリアは一行についてくるよう促して階段を下り始めるだろう。
260ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/18(日)01:55:11 ID:ACR
>>259

 地下聖堂への入口が姿を現すと、さすがのナギも目を丸くした。
しかしジュリアの言葉を聞くと、元の眠たげな、あるいは冷静な表情に戻る。

「……承った」

 たしかに頷き、ベルトから籠手を取り上げて両手に装着。
ジュリアに続き、螺旋階段を降り始めるのだった。
261サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/18(日)02:00:13 ID:2Q6
>>259
祭壇が動き階段が現れたなら。
謎との戦いは終わりだ、残すは地下に潜む大司教との戦いだけ。
夜は近い、早々の決着が望ましいだろう。

『彼らの生死は問いません。』

「わかった。」

短く応えた後、少年は紅い瞳に燐光を揺蕩わせながら戦闘態勢へと移行し、二人の後へと続く。
262P4301E8CFs :2018/03/18(日)02:11:13 ID:Ai7
>>all
何度もぐるぐる回って方向感覚が失われそうになる頃になって、ようやく階段が終わりを告げる。
その先は開けた空間だ。神聖であるはずの聖堂は地下という閉塞空間のせいか、どこか冒涜的な雰囲気を漂わせている。
奥には三つの人影。更に向こう側の祭壇に横たわる箱は装飾こそ聖櫃のようだが、まるで棺桶を思い起こさせる大きさだ。

『まさか異教徒の手を借りてまでここに来るとはな、ジュリア君』

一際華美な祭服の壮年の男が立ちはだかる。おそらくは彼が探していた人物、グロス=ゴルカだろう。
表面上こそ取り繕っているが、眼差しには苛立ちを隠せていない。

「もう止めましょう、大司教様!神を降ろすだなんて、いくら貴方でも許されるはずがありません!」

『敬虔な事だ。だがジュリア君、私は知ってしまったのだよ。祈りだけでは神に届かないとな』

ジュリアの叫びは説得には至らない。グロスが片手を上げるのに合わせて、二人の男が進み出る。
その手にあるのは彼らの聖櫃だろう、時折中から何かが羽ばたく音が聞こえる。
263P4301E8CFs :2018/03/18(日)02:12:08 ID:Ai7
『そろそろ日が沈んだ頃だろう。ロイガ、ツァール、時間を稼げ。始めるぞ』

グロスはそれだけ言うと背を向けて祭壇の前に跪く。儀式を始めるつもりだ。
少しずつ後退り、二人の後ろへ下がろうとするジュリア。

「皆さん、あの儀式は祝詞の後に聖櫃の中の生贄の命を捧げて初めて完成します。
なのでその前に生贄を奪還するか、大司教様の詠唱を止めてください。
自分の身くらいなら守れるので、私の事は気にしなくて大丈夫です」

すれ違いざまに声をかけ、そのまま後方で待機する。
二人の男はというと、聞き取れない程に小さな声で何かを呟くと、手にしていた短剣で己の聖櫃を貫いた。
途端、変異していく彼らの両腕。骨格の変化に耐えきれず悲鳴をあげる。ジュリアが小さく息を飲んだ。
現れたのは翼だった。両腕を身の丈程の黒い翼に変化させ、こちらを睥睨する二人の男。
照明のせいか、黒の中にちらちらと結晶めいた光が反射しているのが見えるだろう。
彼らが片翼を大きく振るうと大量の黒い羽、それも硝子の破片混じりのものが放たれ、猛烈な速度で襲いかかる。
264ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/18(日)02:32:03 ID:ACR
>>262
>>263

 冒涜的な雰囲気の漂う地下聖堂に到着し、大司教とジュリアの問答を聞く。

(風の導くままにここまで来た……そして、これからも風の導くままに……)

 ナギは僅かに目を細め、「時間を稼」ぐために進み出た二人の男との戦闘に備えた。
二人の男たちが変身して戦いの火ぶたは切られ、ガラス混じりの羽根が襲い掛かる。

「『天山空衝』……!」

 ナギが呟いて手をかざすと、そこに圧縮空気の塊が生じる。
鍛え上げられた動体視力でガラスの破片を見切り、空気のグローブをはめた手でそれらを一つ一つ受け止めていく。
その中で彼女はジュリアとサイスへ飛来するガラスをもできる限り防ごうと試みていた。

 やがて飛来が収まると、ナギは羽根を捉えたほうの拳を握り込む。
空気の塊が爆ぜ、羽根とガラスは粉々に砕け散った。

「……今度は、こちらから……」

 そして彼女はマーシャルアーツの構えを取り、二人に格闘戦を挑むような様子を見せ――

「――『天山剛掌波』!」

 中腰からの突きの動作とともに、「グロスめがけ」ジェット噴射じみた突風を放った。
不意打ちを狙った形だが、果たして命中するか。
265サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/18(日)02:43:07 ID:2Q6
>>262-264
幾度となく螺旋を描きながら地下の冒涜的気配の漂う聖堂へ辿り着く。
こちらの勝利の条件は生贄の奪還か詠唱の阻止。

聖櫃を貫き変異する二人の男。
黒い翼をはためかせ黒い硝子の破片の混じった黒い羽を浴びせかけんとする。

サイスは前方、左右へとそれぞれ影を分離させ影結での回避を考えたが、
圧縮させた空気を纏った掌で硝子の破片を防ぐナギの姿を捉える。

ならばと、外套で飛来する羽と僅かに逃れた硝子片を防ぎながら前へと進む。
その間にも暗い地下聖堂の床を忍ぶ様にサイスの前方を三つの影は先行する。

影結の効果はタネを知られてしまえばそれまで、
初撃にて出来る限りの打撃を与えるのが好ましい。

『天山剛掌波!』

そんな彼を掠め前方の二人組を狙う様に突風が駆ける。
266P4301E8CFs :2018/03/18(日)02:55:28 ID:Ai7
「時を育みし慈恵よ、芽吹きて我が憂いを断ち給え――!」

二人の後ろでジュリアが詠唱する。その様子を窺えるならば、結界がジュリアの身を守っているのが分かるはずだ。
とはいえその表情に余裕はない。彼女の援護を望むのは難しいだろう。

>>264
素手で硝子の破片を受け止めるナギに男達は目を見開くが、そこに焦りは見られない。
彼らの目的は時間稼ぎであって、敵を打ち倒す事ではないのだ。
ナギの構えに二人も油断なく、グロスへの道のりを塞ぐように身構える。
その立ち位置が功を奏した。ナギの動きに反応した片方が両翼を身体の前で交差させ、突風を受け止める。
短い呻き声。衝撃で黒い羽がぱっと散った。
異常を察知したもう片方がもう一度とばかりに、また翼を振るって黒羽と硝子をナギへと放つ。

>>265
サイスの接近に気がついたのは、ナギの突風を受けた方だった。
しかし揺らいだ体勢に咄嗟には動けない。ならばと先程使ったまま床に落ちていた短剣を蹴り上げる。
その鋒はサイス本体へ。迫る影にはどちらも気がついた様子はない。
特にナギへと集中している方は、サイスの接近にすら意識が行っていないようだ。
267ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/18(日)03:04:42 ID:ACR
>>266

 剛掌波を受け止められるが、ナギの表情には変化は見られない。
再度の羽根攻撃をに対し、再び天山空衝を発動。

「天山流に飛び道具は通じない」

 圧縮空気のグローブは、飛来するガラス片のことごとくを受け止めて見せた。
もう少し距離が詰まればともかく、同条件下では同じことが繰り返されるばかりであった。
さらにナギはガラス片を掴んだ手を男のほうへ差し伸べ、そして――

「返すぞ」

 圧縮空気がいくらか指向性を持った形で炸裂。
ガラスの破片は散弾のごとく、ナギに相対する男へ襲いかかった。
同時に彼女は地面を蹴り、跳んだ。

「『天山――龍疾風』!」

 突風を纏った跳び蹴りが同じ男へ追撃として放たれる。
268サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/18(日)03:15:40 ID:2Q6
>>266
ナギの突風を受けた方の男はこちらの接近に気が付く。
もう片方はナギの方へ集中している為かこちらへ意識を向けてすらいない。

欲を言えばグロスを墜とすのに使いたかったが、この辺りが使い時だろう。
こちらの接近に気付けていても暗い聖堂の床面を移動する影には気付けていない。

相手からすれば丸腰の小柄な少年でしかない自分はさぞ弱々しい獲物に見えることだろう。
自身へと相手の神経を集中させる。

「先ずは……一人。」

蹴とばされたナイフがサイスを貫くか貫かないかの瞬間。
その小さな人影は相手の視界から消滅する。
一切の間を置かずにその背後へ音もなく現れるは大鎌を構えた幽鬼。
其の姿は正しく紅く燃える眼を持つ死神の様で。
気取られる隙も与えずに男の頸を目掛けて刈り取る様に一閃。
269P4301E8CFs :2018/03/18(日)03:37:12 ID:Ai7
>>267
通じなくともその場に繋ぎ止められれば充分。そう思うが故の油断が彼にはあったのだろう。
まさか自身が放った硝子が向こうの武器になり得るとは思いもよらず、襲い来る硝子の破片を慌てて黒い翼で受ける。
自然視界は狭まるわけで、戦いにおいてそれは致命的だ。
上空から迫る驚異に気がつくのが遅れてしまったのだから。
翼でもって防ごうとするが、重力を味方につけた相手にそれはあまりに遅すぎた。
ナギの蹴りが男の胸を穿つ。その勢いのまま後ろに倒れ伏しそうになって、ギリギリのところで踏みとどまった。

>>268
サイスの目論見は見事にハマったと言っていいだろう。
事実、男は相手が無手の子供であるのをいい事に手ぐすね引いて接近を待っているのだから。
短剣が迫っても避けようとしないサイスにほくそ笑むが、その姿が消えれば瞬く間に驚愕の顔に変わる。
正面にいなければどこか、その答えを見つけるより速く振るわれた鎌。
死の一閃は男の首を走り、赤い線を描いた。

>>all
それは死の間際の悪足掻きだろうか。
男達は致命傷に等しい傷を負いながら、尚も動いた。それぞれ決して離さじと、二人に組みついたのだ。
ほとんど意識もないのだろう、しかしその力はただの人間を遥かに凌駕している。
その姿はまさに命すらも信仰に投げ捨てた、狂信者の名に相応しいものだった。
そして大司教が、立ち上がった。
270P4301E8CFs :2018/03/18(日)03:38:22 ID:Ai7
『はは、ははははは!!ついにこの時が来た!!』

狂気的な笑いだった。神を敬愛し、人々に尊敬される大司教の姿は最早そこにはない。

『君達はよくやったよ。だがそれもここまでだ。そこで我らが神の降臨を見ているがいい!!』

足元に横たえていた儀礼用のレイピアを手に取るグロス。生贄たる聖櫃に向き直って高く構え――。

その時、白い風が地下聖堂を吹き抜けた。

後方に控えていたジュリアにも、動きを封じられているサイスとナギにも、明らかに異形の男達にさえ気を取られず。
目にも止まらぬ速さで駆けるそれは、一筋の軌跡を描くとグロスにぶつかってようやく止まる。
煤けた白いローブ。病的なまでに色素の薄い髪と肌。
そしてその手にある透き通った琥珀色のダガーは、グロスの胸を貫いて赤く染まった。

『なっ……貴様ぁ……!!』

グロスの手からレイピアが滑り落ちて乾いた音を立てる。
ダガーが引き抜かれ、崩れ落ちる大司教。急所だったのだろう、その息は既にない。

『ごめん、遅れた』

ブランと呼ばれていた少年は相変わらず黒い包帯で双眸を覆ったまま、振り返って無感情に言う。
ジュリアはというと目の前の光景にショックを受けたのか、目を見開いて片手で口元を抑えている。
しかし依頼人としての矜持がそうさせるのか、青い顔ながら健気にも小さく笑ってみせた。

「ありがとうございました、皆さん。お陰で彼を……止める事ができました」

一瞬だけ言い淀む。人の死に慣れていない者の目だった。
二人の男は既に息絶えている。大司教の死と共に彼らの不可思議な力も消えてしまったのか、その身体を引き剥がすのは容易だろう。

「とりあえず生贄の方を助けて……そうだ、いい時間ですし、もしよければ食事でもいかがですか?」
271ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/18(日)03:51:35 ID:ACR
>>269
>>270

 男に組み付かれたナギはどうにか大司教に一撃を加えるべくもがいていたが、ブランが現れたことでその必要はなくなった。
ナギはそれを見て何らかの感情のもと目を細め――髪が風を受けて揺れた、気がした。
息絶えた男を振り払い、礼の言葉を述べるジュリアと向き合う。

「……私は風の声に従っただけ……」
「そして今、風は言った……『私はもう必要ではない。ここにいるべきではない』と……私はそれに従う」

 ナギは食事の申し出も断り、「私の報酬は鎌の彼に進呈する」と言い残して、一人でふらふらと教会を後にするだろう。
その判断が「自分の身分を明かせば外交問題になる」という理性的なものだったのか、風のお告げなのかは、誰も知らない。
ナギ自身も、知らないのかもしれなかった。
272サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/18(日)03:58:18 ID:2Q6
>>269
目論見は狙い通りに、男は成す術も無く首を断たれ死ぬ。
――――筈だった。

死に際の悪足掻きなど所では無い、死した後の動き。
流石に其れにまで対応可能では無かったサイスは一瞬身じろぎ拘束される。

『そこで我らが神の降臨を見ているがいい!!』

大司教が狂信的で邪悪な笑いを上げ、そして。
一迅の白い風によって大司教の胸が鮮血に染まる。

ブランと呼ばれていた少年が止めを刺したのだ。

やがて司教ジュリアは人の死に慣れない様に、
しかし依頼主としての矜持の為にかぎこちない笑顔を見せ終わりを告げた。

「いや、いい。」
「それにあれだ。報酬出すなんて言ってたけどそんな余裕ない、でしょ?」
「破壊の神の降臨とやらは阻止された。僕はそれだけでいい。」

皆に表情を悟られぬ様、外套を被りゆらりと音を殺しながらその場を去っていった。


影結での移動を制限していた不可思議な力もその主を失った今は無く。
地上付近まで登った後、手頃な隙間から地上の裏路地へと影を繋ぎ闇に紛れる。

「……」

やはり変異したものとは云え"人"を殺すのはどうにも慣れない。
強張った表情を凍てついた様に張り付け少年は夜へ融けた。
273P4301E8CFs :2018/03/21(水)00:58:35 ID:W2M
地平線から太陽が顔を覗かせ、石灰の建物群を陽光に染めていく。
白い布の服で統一された人々の賑わいがあちこちで生まれる。サントアリオに朝が訪れつつあった。

『もう行かれるんですか』

まだ人通りの少ない大教会の前で、向かい合う二人の人物。
見送りの側である白い祭服の女性が名残惜しそうに言う。その手にいつもの聖櫃はない。

「うん。ジュリアにはずいぶん世話になったから」

対するのは黒いローブの少女。困ったように笑って、頭頂部の獣耳がぺたりと伏せった。
地下聖堂の騒動から数日。大司教であるグロス=ゴルカの突然の死による混乱は収束に向かいつつあった。
二人の助祭は禁忌の儀式の末、異形と化して死亡。大司教は神の域に至ろうとした結果、気が触れて自害というのが表向きの顛末だ。
当時あの場にいた彼らの存在は、書類上ではなかった事になっている。後々彼らがこの都市を訪れた時を考えたジュリアの配慮だった。
そして少女もあの事件に関わりながら、いなかった事にされた一人である。

『いえ、こちらこそルゥさんにはご迷惑をおかけしましたし……』

申し訳なさそうに目を伏せるジュリア。ルゥが苦笑を浮かべて小さく首を横に振った。

「お互い様だよ。わたしが連れて行かれてなければ、大事にはならなかったんだし」
274P4301E8CFs :2018/03/21(水)00:58:58 ID:W2M
ルゥが意識を失った状態で大教会に運びこまれたのは、事件より少し前のある日だった。
その時はひどい怪我を負っていたのだが、 持ち前の自己治癒力が功を奏した。
加えて偶々面倒を見る事になったジュリアの尽力のお陰で、みるみるうちに快復に向かったのだが、それが大司教の目を引いたのだろう。
贄として人ならざるヒトを求めていた彼が、ルゥに一服盛って拐かしたのが儀式の前日。
以降、救出されるまで彼女はずっと棺桶サイズの聖櫃で眠らされていたのだった。

「でも、他の人達にもちゃんとお礼しておきたかったな」

『ナギさんもサイスさんも、あの後すぐどこかに行ってしまいましたからね。
ブランさんはルゥさんを運んでから、いつの間にかいなくなってましたし』

ぴくりと、獣耳が反応した。

「……ブラン?」

『ええ。お知り合いでしたか?』

「……ううん、なんでもない。知り合いはいたけど、その人は知らない」

自分でもどうしてその名前が気にかかったのか、ルゥには分からなかった。
ただそこに秘められた意味を即座に理解できた事に、驚きがあったのも事実だった。
辿るべき記憶の糸は既にない。けれどもしかしたら、懐古さえ覚える言葉にこそ出自の手がかりがあるのかもしれなかった。
二人は今度こそ別れを告げて、放浪の少女は歩き出す。
石灰の街並みに白い布服の人だかり。異邦人の自分はぽつんと浮かんだ染みのようで。
後ろを振り返ってみる。一際大きい白亜の壁が朝日に眩しい。真っ新な祭服の女性がまだそこに立っている。
この街のような名だ、とルゥは思う。そしてそれは、おそらくは真実のものではないと不思議と確信していた。
〈白〉を名乗った少年を、黒の少女はまだ知らない。
275P4301E8CFs :2018/03/21(水)01:00:52 ID:W2M
――――時は事件前まで遡る


「じゃあ今の大教会は、二つの派閥に分かれてるって事っスか?」

サントアリオの中心部にある大衆食堂で、青年が周りの喧騒に負けないように声を張る。
ワイシャツにサングラスをかけている様は、どうやってもこの都市の住民には見えない。
相席の白い布服を着た男が、黄色を帯びた葡萄酒に口をつける。既にかなり飲んでいるのか、その顔は赤い。

『そうなんだよ。ほら、最近あちこちで騒ぎになっただろ?なんて言ったかな……』

「融合現象っスかね」

『ああそれだ。なんでも大教会の中で、その融合現象を終焉の洪水だと考えてる人達がいるらしい』

僅かに青年の碧眼が鋭くなる。誤魔化すように赤褐色の葡萄酒を傾けた。
愛想のいい笑みを浮かべてこそいるが、その所作はアルコールが一切作用していないのかと思わせる程に酔いを感じさせない。

「でもその洪水が来たら、この都市以外は滅ぶんっスよね。だったら融合現象は関係ないんじゃ?」

『俺もそう思う。他所の混乱を終焉とでも考えてるんじゃねえのか。
ま、そう考えてる奴らは過激派扱いされてるんだけどな』
276P4301E8CFs :2018/03/21(水)01:01:55 ID:W2M
「なんか物騒な言い方っスね」

男の空いたグラスに息をつかせず次を注ぐ。初対面の異邦人によくここまで喋れるものだと、青年は内心で感心していた。
普段より砕けた口調だが、酒の席で話を引き出すにはこれくらいがちょうどいい。

『……これは噂だけどよ』

突然男が声をひそめて顔を寄せる。打って変わって神妙な雰囲気に、青年も真剣な表情で耳を傾けた。

『過激派にとっちゃ、世界は終わってるのにまだ神の救済が訪れてない訳だ。だからいろいろと危ないのが多いって話だ。
自分が神になろうとしてる奴、神を降ろそうとしてる奴、サントアリオ以外を全部滅ぼそうとしてる奴』

「へえ、それはなんとも……」

宗教などという不確実に本気で肩入れするつもりは毛頭ない。それでも全てが終わり、事の顛末を酒のつまみに聞くくらいなら。
面白そうだ、と言葉にするのを堪えて『コンツェルン』の諜報員は一人嗤った。
277ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/22(木)00:02:23 ID:QrN

 同盟の庇護下にある「商人ギルド」の幌馬車隊は、「魔の森」の中を貫く街道を進んでいた。
異常に発達した木々の枝葉は日光を遮り、その下に続く道は夜のように暗い。
時折聞こえてくる魔獣の遠吠えと相まって、言い表し用の無い不気味な雰囲気を醸し出している。

 しかし車列のうちの一台、三人の護衛が乗り込んでいる馬車の中では煌煌と魔石ランプが灯り、
乗客たちは暇潰しのカードゲームに興じていた。

「黄色の四!」

 そのうちの一人――マルーン色の服を着た獣耳の亜人、レイシィ・レシーバーが手札からカードを捨てた。
尻尾を振るのに同調するように、残り一枚の手札をひらひらと振る。

「よし、次で最後ですよ私は!――さあナギ、早く!」

 次に手番が回ったのは道着姿のナギ・ミストである。
もう一人の護衛――ルゥ・ヴィレットには、レイシィが「長い付き合いの同僚」だと紹介しているだろう。
ナギは一つあくびをした後、ぼそりと指摘した。

『レイシィ、ウノって言ってない』

 レイシィの動きが凍り付いたように止まった。
しばらくして、彼女は渋々と山札から五枚カードを引く。

「ちぇっ、普段ぼーっとしてるくせに変な時だけ気が回るんだから……」

 ナギは青の四のカードを捨てながら応答する。

『……私はいつだって賢い。この前もサントアリオでミステリーを解いた……』

「は?ミステリー?」

『……なんでもない』

「?……おっと、次はヴィレット先生ですよ」

 レイシィは要領を得ない話を切り上げ、ルゥに手番を知らせた。
彼女たちが興じているのはいわゆる「UNO」であった。
もしルールを知らなければ、始めるときレイシィが一通り教えているはずである。
278ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/22(木)00:30:21 ID:gr6
>>277
鬱蒼とした森を通りがかっているというのに、がたごと揺れる馬車の中は姦しいもので。
減ってきた手札と場札を交互に見るルゥの顔は真剣、というよりは何も考えていないよう。
こういったカードゲームではポーカーフェイスが重要であるが、多分彼女の思考はそこまで及んでいない。

「……あの時は、本当にお世話になった」

青のスキップを出しながら口ごもる。申し訳なさそうに獣耳が倒れた。
サントアリオで起こった例の事件に関わっていた人達の名を、ルゥは聞いている。
レイシィからナギを紹介された時には、少しばかり遅い礼を述べていた。
二人の微笑ましいやりとりを興味深そうに眺めながら、ふと呟く。

「……っていうか、一応護衛なのに、こんな事やってていいのかな」
279ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/22(木)23:25:24 ID:QrN
>>278

 ナギはルゥの感謝の言葉に一つ頷いて答え、一枚カードを捨てる。黄色のスキップ。
レイシィは黄色のドロー2を出してナギに報復しつつ、ルゥの真っ当な疑問を笑い飛ばした。

「大丈夫ですよ!魔の森にゃ野党は近づきませんし、これだけの大所帯なら魔獣も寄ってきません」
「あとは襲ってくるとしたらコンツェルンの奴ら――それもここまで足を伸ばせる空中戦艦か爆撃機ってとこですが……」

『……実際、こういうキャラバンが爆撃されることは多い。同盟の兵站はあちこちズタボロ』

 ナギがカードを引きながら捕捉する。

「そう、だからこそ我々のキャラバンはこんな森の中の道を通ってるわけです」
「それも、どの支道を使うかは出発してから決めてるらしいですからね。我々がここにいることは我々しか知らないと言ってもいいです」
「――まあそもそも、このキャラバンは血眼になって攻撃するような軍需物資は積んでませんしね!」

 そこまで言ってレイシィは何かに思い至ったような顔をして、少し小声になって続けた。

「……といっておいてなんですが。この前の休憩地点で、御者さんたちが面白い話をしてるのをちょっと小耳に挟みまして」
「なんでも、この馬車の二台か三台前の馬車に、どこかの遺跡から発掘された、何かしらのマジカルアイテムが積まれてるらしいです」
「御者さんたちの口ぶりからすると、そこそこ貴重なものらしくて……値段も張るのかな、なんて……」

 下劣な本性が見え隠れする。

「……まあ、とはいえこんな幌馬車隊に戦略的価値があるようなものを運ばせるわけがないですし。攻撃する価値がないことには変わりありませんが」
280ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/23(金)00:59:06 ID:FjR
>>279
「まあ、そうかもしれないけどさ……」

楽にこした事はないかもしれないが、こうも緩んでいるとなんだか雇い主にも申し訳ないような。
罪悪感が胸をよぎるが、必要以上に気を張っていても無駄に疲れるだけなのだからと自分を納得させる事にする。

「……レイシィ……気になるのは分かるけど、さすがにそういうのは、よくないと思う」

ちらちらと悪どさを覗かせるレイシィには容赦のないジト目を向ける。
なにを企んでると思っているのか、完全にその目はゲスの本性を見るそれである。

「ん、ウノ。味方にもそう思わせておいて、実は……なんて、あったりして」

黄色の3を場に出して最後の一枚を伏せる。
現実味のない憶測なのは自覚があるようで、冗談だと付け加えて小さく笑った。
281ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/23(金)21:03:58 ID:xl6
>>280
 レイシィはルゥの憶測を聞くとからから笑った。
ナギがそれをちらりと一瞥する。

「いやだなあ、そんなことあるわけ――」

 そのとき前方で爆発音が響き、馬の嘶きと御者の叫びとともに馬車が急停止した。

「何!?」
『……前だ』

 レイシィとナギはカードを放り捨て、御者の横をすり抜けて地面に降り立った。
――停止した車列の前方、二台前の馬車が炎上している。
周囲の馬車の乗客から悲鳴とどよめきが響く。
暗い森の道が真っ赤に照明された。

 目の前の馬車から御者が転がり出すようにして逃げ出す。
しかし直後、背後から発射された光弾に貫かれ倒れた。
その主――キャラバン隊への襲撃者が、炎上する馬車の陰から姿を現し名乗りを上げる。

〈俺はコンツェルン最強の戦士、ジョーカー=サファイア!〉

 炎を照り返すメタリックブルーのハイテクアーマーはまさしくジョーカー。
彼は馬車から持ち出した細長い木箱を掲げ、高らかに宣言する。

〈この『闇夜の鎌』はいただいていく。我々の勝利と栄光のためにな!〉

 レイシィは心底仰天してルゥとナギのほうを振り返った。

「ジョーカー!?なぜ!?コンツェルンの戦士!?ど、どこから突っ込めば――」
『天山剛掌波!』
〈ぐわあーっ!〉

 ナギはそれを無視し、ジョーカーに突風攻撃を敢行。
ジョーカーはそれをまともに受け、10メートルほど吹っ飛ばされて地面に転がった。

〈おのれ!こんな強い護衛がいたとは想定外だ!〉

 なんとか起き上がったジョーカーはやたら大声で叫びながら、脇に伸びる獣道に駆け込む。――取り落とした木箱をその場に残して。
ナギが抜け目なくそれを確保する一方で、レイシィは拍子抜け顔であった。

「……よ、弱い……あいつあんなに弱かったですか?」
『わからん。――とにかく、二人はあいつを追って』
「わかった、ナギは?」
『陽動のセンもある。私は馬車とこの荷物を守る』

 レイシィはこくりと頷いて、ルゥのほうへ駆け寄る。

「ヴィレット先生、あいつを追いましょう!強盗未遂と殺人容疑で同盟に突き出してやるんです!」
282ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/23(金)22:32:59 ID:FjR
>>281
「っ……あー、ああー……もう!!」

突然の振動に肩を震わせ、前方の爆発と手元のカードを交互に見やる。
いいところでの中断が相当心残りなのか、束の間逡巡に唸るが諦めて最後の一枚を叩きつけて二人の後を追う。
どことなく眉が吊り上がってるあたり、よほど腹に据えかねてるらしい。存外負けず嫌いである。
夜と見紛う森を照らす炎を睨めつけ、照らされる影を認める。

「えっ……!?……えーっと……ううん、あれー……?」

その正体に最初こそレイシィ同様に驚愕を露わにしたが、だんだんと疑念と困惑に変わっていく声色。
ともすればコントに見えなくもない一部始終を呆然と眺めてからようやく我に返る。

「……いや、あんなだったかな……?なんか、変な感じする。
でも、そうだね。一応あれは戻ってきたけど、あの人は捕まえた方がいい」

首を傾げて本心からの疑問、ジョーカーとの何度かの対峙を通して抱いた純粋なものだ。
だがどちらにせよ仕事を請け負っている以上、やるべき事には変わりがない。
レイシィの呼びかけには頷いて応え、鎧の男の後を追うべく走り出す。
283ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/23(金)23:04:17 ID:xl6
>>282

 二人は決意と疑念を抱えたままジョーカーを追って獣道へと走り込む。
ナギは木箱を抱えたままそれを横目に見送った。

 獣道を進むうち炎上する馬車の灯りも遠く、視界は暗くなっていく。
進むことそのものが困難になる直前、道は突然二股に分かれた。

「はあはあ、分かれ道か……足跡とかは……」

 レイシィは地面にジョーカーの痕跡を求めたが、長い間日陰で冷え固まった地面は足跡を残していなかった。

「くそ、ついてない……それにしてもおかしいですよね、ヴィレット先生」
「さっきも言いましたが、このキャラバンの居場所は同盟の人間だって知らないはずなんです。奴はどうしてそれを……」

 彼女はぼやくのをやめて、あらためて二つの道を見やった。
右は下り坂、左は上り坂である。
上り坂の方の行く手は微かに明るくなっているが、下り坂のほうはいよいよ暗い。

「手分けしましょう。右は暗そうですから、私が行きます……私には暗視魔法がありますから」
「奴を見つけたら魔法か通信かでナギか先生を呼びますので、心配ご無用です」
「ヴィレット先生は左の道をお願いします。では!」

 そう言い残して、レイシィは右の道へ姿を消した。
284ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/23(金)23:26:55 ID:FjR
>>283
「……ねえ、前はあり得ないって言ってたけど、やっぱり……」

レイシィの呟きを耳聡く拾って言い淀む。走りながら僅かに顔を伏せた。
いつかの温泉街でのレイシィの様子を思い出す。あの反応はきっと、本気で信頼しているからだ。
だからこそ、再び同じ事を言葉にするのは気が引けた。心なしか足取りが重いのは、森の雰囲気に引きずられたせいではないのだろう。
鬱蒼とした獣道は視界を十全なものにせず、道に沿って進むしか後を追う方法はない。
分かれ道に辿り着いて痕跡のない事に密かに歯噛み。枝の折れ方や土の状態から少しでも手がかりを得ようとするが、こうも薄暗くてはそれも難しい。
結局のところ当てずっぽうに別れるしかなく、レイシィの提案に小さく頷いた。

「ん、わかった。危なくなったら、ちゃんと助けを呼んでね」

見るからに視界の効かなさそうな道を選ぶレイシィには心配そうに念押し。
本当なら自分が代わってやりたかったが、暗闇に対して有効な手段がないのも事実。
帯電を利用して周囲を照らす事も不可能ではないのだが、今はまだ力を温存しておきたかった。
レイシィの背が闇に消えるのを見届けると、ルゥもまた左の光へと駆け出した。
285ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/24(土)00:06:54 ID:vmc
>>284

「いや、『商人ギルド』の人間が漏らしたのかも……」

 どちらにしろ同盟側にジョーカーに通じている人間がいることには違いなく、レイシィの表情は暗い。
それでもルゥの心遣いにサムズアップで答え、果敢に闇の中へ進んでいくのだった。

 さて、ルゥの進んだ上り坂の道だが。
途中まではこれまでと同じような獣道だが、やがて素朴な石段が姿を現す。
苔むした階段を登っていくと、やがてその頂上にテンプルの入口を表すオブジェ――鳥居が見えてくるだろう。
ルゥが知っているかどうかは定かでないが、そこは「神社」に違いなかった。

 それを潜ると、枝葉の傘が途切れ、不気味なほどよく晴れた青空が顔を出す。
石畳が敷かれた広い境内は、多少落ち葉が積もってはいるが、奥の本殿や手水所共々ある程度の清潔さを保っている。
かといって手入れするような人の営みの気配はまるでなく、何かしらの神秘的な加護の存在が窺われた。

 ところが今、その境内の中央には大きな異物が居座っていた。
レーシングカーに似た、一人乗りの垂直離着陸機。
「魔の森」が転移魔法の類を受け付けないことから持ち込まれたというのは容易に推測できることである。
そしてその脇で今にもコックピットに乗り込もうとしていた人影――ジョーカーが、ルゥを見つけてそちらへ向き直った。

〈ルゥ・ヴィレット!わざわざ追いかけてくるとはな……俺をどうするつもりだか知らんが〉
〈おっと、言っておくが、それ以上近づくなよ。幌馬車隊に仕掛けた爆弾は一つじゃない。今起爆してやってもいいんだぞ〉

 ジョーカーは相変わらず、鎧越しのくぐもった声で語る。

〈それで、どうだ?ラ・ボーでは今一つわからなかったんだが、あれから多少は腕を上げたのか?何人倒したかね?〉

 相手の強さに執心なのも相変わらずなようで、真っ先にそれを問うのだった。
286ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/24(土)00:32:38 ID:Gza
>>285
獣によって乱雑に整えられた道を抜け、森に似つかわしくない石の階段を登り、神の住まいを示す鳥居を潜る。
レイシィと別れてからは黙々と、しかし周囲への警戒を怠らずに目指すべき先へとひた走る。
そうして迎えた久方ぶりの日の光に目を細め、そこに追うべき影を見た。

「……そんなこと、あなたに教える必要はないと思うけど」

問いには突き放すような返答、制止の声にはおとなしく立ち止まる。
首をもたげつつある疑念に従うには、今はまだ判断材料が少なすぎた。
じっと、油断なくジョーカーを見据えるエメラルドグリーンに滲むのは、混じり気のない反感だ。

「あなたこそ、随分派手にやられてたけど。まさかと思うけど、あれが本気じゃないよね?」

挑発めいた物言い。つい先程ナギに吹き飛ばされていた時の事を言っているのだろう。
いやいやまさかと言いたげに、肩まで竦めてみせるのだった。
287ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/24(土)01:23:26 ID:vmc
>>296

〈――ハハハ!買いかぶりすぎだな!俺はコンツェルンの尖兵の一人に過ぎん〉

 ルゥの疑念はもっともなものだったが、期待されるような答えは無い。
ジョーカーは嗤う。深読みする者を。あるいは陰謀の中でもがく者を。
もしくは、その区別をつけきれないことそのものを。

〈逆にいえば、コンツェルンには俺以上の人間はいくらでもいるというわけだ〉
〈同盟はどうだ?俺が知る限りでは、フリーランスにも劣るような連中ばかりだがな〉
〈そもそも魔術師や超能力者というもの自体、一匹狼の方が強い傾向にある……不可解なことだが〉

 ジョーカーはルゥに背を向け、キャノピーを開ける。

〈しかし今回は、例外にぶつかったようだ。――あいつは正規の人間だろう。俺でも知っている。有名だ〉
〈倒せなくはないだろうが、てこずっている間に援軍が来たら俺といえどチェックメイトよ〉
〈ライトニング大佐に怒られちまうが、命は惜しい……だからこうして、尻尾を巻いて逃げるというわけだ〉

 そしてついにそのシートへ収まり、シートベルトを締めて、コンソールを何度か操作した。
機体の左右に設けられた垂直方向のジェットエンジンが高いうなりを上げ始める。

〈――ルゥ・ヴィレット!〉

 キャノピーを閉める直前、ジョーカーはルゥに言い残す。

〈『クリムゾン・チェーン』を追うがいい。同盟の欺瞞、コンツェルンの欺瞞が、そこで全て明らかになる。そして俺もその先に居る!〉

 やがてエアクラフトは凄まじい風を巻き起こして離陸した。
そのときまき散らされた落ち葉を払いのけながら、レイシィが石段を登ってくる。

「ヴィレット先生!下の道は外れで……やはりこちらでしたか!戦いになりませんでしたか?お怪我は?」

 レイシィはルゥと、空の彼方に飛び去るエアクラフトを交互に見やる。
288ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/24(土)01:55:12 ID:Gza
>>287
「さあね。同盟もコンツェルンも、わたしの知ったことじゃない……だから、今はそれで納得しておく」

ジョーカーが動じないと見るや、芝居かかった仕草を止めてまた睥睨。
この場から去ろうとするジョーカーを妨害はしない。仕事を重視するならば不本意ではあるが、それよりもリスクが上回った。
ジョーカーの言い分をどう受け取ったのか、そのやや硬い表情から読み取るのは難しい。
少しばかり緊張を解きそうになって、ジョーカーの鋭い呼びかけに獣耳がぴくんと反応した。

「え……待って、それってどういう……!」

言い終える前に轟音を置き去りにして、蒼穹へと消えていく金属の鳥。
思わず駆け寄りそうになった足が強風に止まる。乱れた黒髪をそっと片手で抑え、ただ見送るしかできなかった。
合流したレイシィに反応を示す事もなく、しばらく小さくなっていく空の影を見つめ続ける。

「…………大丈夫。でも、ごめんね。逃しちゃった。向こうが心配だし、戻ろうか」

人の視力で捉えられない程になってようやく、力なくレイシィに笑いかける。
刹那の対峙の詳細を決して語ろうとはせず、ナギの待つ幌馬車隊の下へ帰ろうと促すだろう。
289ナギ・ミスト◆SugTrQ7KgI :2018/03/24(土)02:16:22 ID:vmc
>>288

「ええ?一体何が……?」

 レイシィは首を傾げながらも、ルゥに続いて幌馬車隊に戻る。
気の滅入るような獣道を抜けて林道に戻ると、爆破された馬車がようやく消火されたところであった。
もしルゥが第二の爆弾の危険を訴えたなら即座に点検が行われるだろうが、
爆弾は発見されず、ジョーカーの言うことはハッタリだったことがわかるであろう。
幌馬車隊への危機は去ったのだ。

 レイシィは木箱を抱えたままのナギを見つけ、駆け寄る。

「ナギ!大丈夫だった?」
『問題無い。そっちは?』
「……ごめん、逃げられちゃって……」
『そう……気にすることはないと思うけど』

 ナギは一つあくびをしてから続ける。
 
『……さっき、商人ギルドの代表者と話した。〈闇夜の鎌〉はいったん同盟が押収して、保管するということで合意した』
「押収?確かに安心ではあるけど……業突く張りのギルドがよく納得したなあ……」
『コンツェルンに狙われているんじゃ誰も買いたがらないから、らしい。――さあ、馬車に乗って。怪我人のためにも、早く町に行かなきゃ』

 レイシィはその言葉に従い、護衛用の馬車に飛び乗る。
ナギはそれを見送ったあと、ルゥに声をかける。

『あなたも、お疲れ様』

 そして馬車に乗るように促し、自分もそれに続く。
その表情は相変わらず、ひたすらに眠たげだった。
290ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/24(土)02:43:49 ID:Gza
>>289
日の射しこむ境内から、また陰鬱な森の幌馬車隊へと戻る。
ようやく光に慣れた瞳孔がまた、暗所に適応するべく僅かに拡大した。
辿り着いた先の焼けた幌馬車に一瞬だけ、悼むように視線を向ける。
未だ残る白煙から目を逸らして、ナギに駆け寄るレイシィの後ろからゆっくりと歩く。

「…………そう」

ナギが事の顛末を語る間は口を挟まず、全て聞いてから短く呟く。
そこには歓喜も落胆もない。ただ事実だけを受けとめ、それでも波風すら立たない海原のような。
レイシィに続いて馬車に乗りこもうとし、背後からかけられたナギの声に振り返る。

「うん、お疲れ。うまくいった、とは言えないかもしれないけどね」

言葉に反して反省は見られない。少しだけ、自虐的な笑みを浮かべて今度こそ馬車に乗る。
その語調は、どことなく怒りに近い鋭さを孕んでいた。
291正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/24(土)23:06:29 ID:Fvu
───何故だ。

───何故、私はあの少女を殺さなかったのだろう。
いくら反撃の可能性を見たとは言え、いくら回復を優先したとはいえ、あの場面で出来ることはいくらでもあった筈だ。
私は何故あの時に『この少女を殺すのは惜しい』などと思ってしまったのだろうか。

「…………」

正義、己の身と心は正義に捧げその為に生きてきた。
全ての動作が正義を成すため、どのような犠牲を払ってでも正義の為に愚直に生きた。
その結果がどうであったかは自分自身が一番良くわかっている、しかしそれを悔やむ事自体が己の否定となる事も。
私は私の生きてきた道を否定はしない、それがどれだけ血と肉と禍根に塗れていようと今更それが間違いであったとは言わない。

「……まだ足りない、か」

聖杯は未だ現れず、出現させる為にはまだ数が足りて居ないらしい。
他のサーヴァントにその気が無いのか、それとも聖杯というものの容量がそれ程までに大きいのか…。

【夜の歓楽街、明るい表通りとは真逆の路地裏に一人の女が立っている】
【彼女の両手は赤い鮮血に塗れていて、足元には胸にぽっかりと孔が開いた人間の死体が物を言わず倒れている】
292琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/24(土)23:19:53 ID:rOv
>>291
場所は夜の歓楽街、その路地裏。
『同盟』領魔の森野営地にて暮らす朱音が普段絶対に訪れない様な場所である。
しかし先刻、弓の訓練の最中に視界がぐにゃりと歪んだかと思えば、
元居た場所は昼間の野営地であったにも関わらずこの場に佇んでいた。

――――融合現象。
話には聞いてはいたが体験するのは初めてだった。

この場所が何処なのか勝手も判らず彷徨っていると、
両の手を鮮血で赤く染めた女と胸に孔を開けた人間の死体に遭遇する。

「ひっ……」

思わず引き攣った様な声が出る。
それでもまだ悲鳴を上げなかっただけ自分を褒めるべきだろうか。
この場合果たしてどちらが正解であったかは定かではないが。
293正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/25(日)00:01:05 ID:NKq
>>292
「───………」

気配を感じた、その現れ方は異常で、まるで今まで何もなかったのに突如としてそこに存在を作り出したかのように。
アサシンの気配遮断と似たようなものか、もしかするとこれがこの世界の歪みとなる〝融合現象〟という物なのだろうか。
どちらにせよ、今この瞬間私の目の前に何者かが現れたのは確かで、それは少女の姿をしていた。

【その場に現れた少女を一瞥し、バーサーカーは静かに両手の血を振い落とした】

これが私を殺す気であったなら気取られる前に攻撃を行なっていたはずだ、しかしそれをしないとなればただの馬鹿かその意思が無いということになる。
対峙してしまえば暗殺は出来まい、表情を見るに死体慣れしていないようにも思える。
となれば自身の意思に関係無くこの場に来てしまった者か、ならばなんとも哀れな物だ。

【バーサーカーは一歩踏み出す、少女に向かってほんの少しだけ近寄った】
【それは、この行動に対する反応で少女がどのような人間であるかを見極めようとしているようだ】
294琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/25(日)00:09:32 ID:NFm
>>293
女は両手の血を振るって落とし、一歩こちらへ踏み出す。
その間にも朱音の頭の中を今この場での情報がぐるぐると行きかう。

目の前の死体、女の両手の鮮血、ほぼ間違いなく彼女が殺したのだろう。
だとするならば現場を目撃してしまった自分はどうなる?
そっと確かめる様に背中に担いだ弓がそこに有る事を確かめる。
敵対するつもりは無い、しかし相手が説得できるとも限らない。
どうしよう。どうする。何をするのがこの場の最善か。

「あ、あなたがやったんですか?」

声を震わせながら思わず口にしたのは聞くだけ無意味なそんな質問だった。
295正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/25(日)00:27:26 ID:NKq
>>294
「そうだ、私がやった」

投げ掛けられるのは当然の疑問、今更この場面で聞くほどの事でも無いが、確認してしまうのが性というものだろう。
万が一に人違いだったとしても疑われる方に問題があるレベルだというのに。

「ついでに次に聞きたい事にも答えてやる」
「お前に理由を語る義理はない、だが強いて言うなら……」
「これは、私の為に私がやった事だ」

『誰が』とくれば、次に質問されるのは『どうして』だろう、一々予測できる質問を待つのも面倒だ。
まともな脳を持っているのならそろそろ踵を返す所だが、そうであったなら運の悪い一般人に見られたのだと放っておこう。
───だが。

「───その弓を使うつもりなら覚悟をするべきだな」
「次にそれに指一本でも触れた瞬間、私はお前を敵性存在と見なす」

もし、その背中に担いだ弓を今この場で私に向けようと言うのなら。
それは理由がどうであれまともな人間の思考ではない、だとすれば確率的に考えて私が殺すべき人間の要素を持っていると考えてもいいだろう。
そうでなくとも関係ない、私の前に立つのなら蹴散らすだけだ、今までと同じように。

【バーサーカーは少女が弓を確かめたのを見逃さなかった、しかしすぐに攻撃には映らない】
【少女には決断する為の猶予を与え、自らは軽く拳を握り目の前に立って少女を見つめる、生気の無い暗い眼が少女の一挙手一投足を見逃さんとしていた】
296琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/25(日)00:37:13 ID:NFm
>>295
返って来たのは肯定、それとその理由。
尤も聞いたところで全く理解が及ばなかったが。

そして後に続く言葉にびくりと反応する。
気付かれない様にやったつもりだったが弓に触れたのがバレている。
どんなに練習していると云っても未だ動く目標に当てる自身は無い。
敵対された時点で己が結末は見えている。

「み、のがして下さいって言ったら聞いてくれますか?」

一歩、後ずさる。
恐怖で強張り身体が思う様に動かない。
297正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/25(日)00:59:57 ID:NKq
>>296
恐怖している、当然の反応といえば当然だ、寧ろ健全とも言える。
目の前に殺人鬼にしか見えない得体の知れない存在がいれば人は恐怖して然るべきもの、それに立ち向かうなど何かが外れていなければ出来ない。

「……見られたという程度で逐一殺すのも面倒なんだ」
「それにお前一人逃した所で何になる?誰にこの事を話そうにも解決するとは思えないがな」

故にこの少女は正常(ふつう)で、取り立てて殺すまでもない存在である。
逃してしまった所で何の不都合もない、例え今の一部始終を見られたとしてそれが何の意味があろうか。

「一時の白昼夢とでも思っておけ、そうすれば私からお前にする事は何もない」

【バーサーカーはそう言って少女への警戒心を解く、少女がここから離れようとしても止める事は無いだろう】
【……しかし、何処か不穏な空気が漂っていた、何かが不安定になっているような感覚】

「…………」

【それはバーサーカーも感じ取っているようで、僅かに少女から気がそれていた】
298琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/25(日)01:15:42 ID:NFm
>>297
そう何処までも正常(ふつう)で平凡(ふつう)で人並(ふつう)。
朱音とはそういう少女だ、その様に生きてきた。
相手の言い分は正しい彼女に現場を見られたからといってどうという事はない。

――――筈だった。

それはまだ少女自身に自覚の無い異能(ちから)だ。
それも極々限られた状況下でのみ発現する類の。

しかし今にも逃げようとする明らかな弱者の彼女に対し、
もしかしたら直感にも似た微かな違和感を感じるかもしれない。

事実なんの力も持たない一般人にこの場を見られたからといってどうというものでないのだろう。
しかしその事実は今、久遠に存在する碑(モノ)へと確かに刻まれてしまった。
例え今は何の力も持たずとも永遠の時間を費やせば何かを覆せるのではないかと。
そんな危うさを彼女の何処かから感じ取る事ができるかもしれない。

【少女はバーサーカーの気がそれるのを感じ踵を返そうとするだろう】
299正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/25(日)01:40:30 ID:NKq
>>298
【少女が踵を返したその刹那、空気を裂く音が少女の耳に届くだろう】
【それから少し遅れて風を頬に感じる、それがどのような因果で起きたかは直感で理解出来る】
【何かが少女の頬を掠めながらすり抜けていった───それが何であったかを確認する為に振り向くと、バーサーカーの姿が目に入る】

「……成る程、さっきから感じていた殺気はこれか」
「あの男め中々どうしていい性格をしているじゃないか」

【少女が振り向くと、そこに立っているバーサーカーは右手に赤いナイフを持っていた】
【血液を固めたような紅色のナイフ、それは先程少女の顔を掠め飛んだ物であり、バーサーカーはそれを指先で捕まえていた】

「…先程、お前を殺す暇はないと言ったな」
「前言撤回だ、私はここでお前を殺す事にした」

【そして、持っていたナイフを脇に放り投げたバーサーカーは、少女に向かって構えを取る】

「理由は二つ、今の攻撃は第三者の介入であり、私はその正体を知っている」
「私がここでお前を逃した所で今度は奴に殺されるだろう、ならば私がここで殺してやるのがせめてもの慈悲だ」

「そして二つ目の理由だが───」

「……いや、これは確信ではないな、わざわざ言うべき事でもない」
「どちらにせよ、やはり今ここでお前は死ね」
300琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/25(日)01:56:46 ID:NFm
>>299
女に背を向けるとほぼ同時に頬を掠めていった風。
それが何だったのかは再び振り向くまで常人たる彼女には感知できなかった。

女が右手に持つは血の如き紅色のナイフ。

彼女の言う第三者とは何なのか結局の所わからない。
だがどちらにせよ自分はここで殺されるらしい。

「……嫌だ。」

そう言って背中の得物を構える。
持っている矢の本数は三本。
目の前の相手を退けたとしてまだ新手が居る。
ならば本当にここで殺される方が幾分か救いがあるのかもしれない。

―――でも。

『強く生きろ』と言われた。可能な限りは前に進むと言った。
だから死ねない。
301正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/25(日)20:27:25 ID:fOB
>>300
弓を構え、矢を番える一連の動作を止めはしない。
生きる意志があるというだけで上等だ、無為に死ぬという事は無い。

「───ならば、生きてみせろ」

生きたいと言うのならば、生きてみせろ。
迫り来る死に抗ってみせろ、驚異を払い除けてみせろ、私という正義を否定してみせろ。
それが出来れば生き残る事が出来る、その意思が弱ければそのうち何処かで死ぬだけだ。

「〝ここ〟だ、その矢で私のここを貫く事が出来ればお前は生き残る事が出来る」
「私にも、もう一人にも殺される事なくな」

【バーサーカーは自分の胸を指差し、少女が狙うべき場所を自ら伝えてみせる】
【そうするのは彼女の生きる活力を見定める為か、もしくは少女との力の差を哀れんだのかもしれない】

「だが、私は何処に触れようともお前を殺す事が出来る」
「……先手はくれてやる」

【そう言ってバーサーカーは拳を固く握り締め、徒手の構えを取った】
302琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/25(日)20:57:48 ID:NFm
>>301

『───ならば、生きてみせろ』

その言葉に続けて女は自らの胸の中心を指差し、狙えと言う。

弦を引き絞りながらその狙いの先がぐらぐらと揺らぐ。
生きる為の覚悟は決めた。
だが、人を殺す覚悟はまた別のものだ。
そして其れは朱音にとって未だ足りないものであった。

緊張と恐怖から呼吸が荒くなる。

そして朱音が選んだのは。
相手の足元を狙って機動力を落とすという選択肢だった。

大まかに足元を狙っているが命中精度は限りなく低い。
避けられればそれまでであるし、棒立ちの相手でも身体の何処かに当たれば御の字といった所。

判断が甘い、と相手は怒るだろうが。
普通の少女の限界なぞこんなものだ。
303正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/26(月)01:01:12 ID:Akr
>>302
矢を射った、しかし狙いは心臓では無く足を狙った物。
牽制か、躊躇か、どちらにせよ緊張した手から放たれる矢に不意を突かれる程呆けてはいない。
矢を射ったその瞬間からお前は私の敵となったのだ、手心を加えるのはこれまで。

【バーサーカーの右脚の脛に矢が突き刺さる、痛々しい音がしたが、しかしそれを確認している暇はないだろう】
【何故ならバーサーカーは攻撃を受けたにも関わらず少女に向かって接近を始めたからだ、脚に矢が突き刺さっているのにそれを感じさせないスピードである】

「先手はくれてやった、恨みは聞かんぞ」

【そのまま少女に詰め寄ったバーサーカーは、引いた右手の拳を少女の腹に目掛けて突き出す】
【ただの殴打というには余りにも鋭く重い、空気が弾ける音がまるで弾丸の発射音にも聞こえ、容赦や躊躇いの一切ない真っ直ぐな拳が少女に向かって行くだろう】
【それをまともにくらってしまえばどうなるか、いい例を少女は既に見ている筈だ……胸を貫かれ孔を開けた死体、それはまさか拳によって開けられた孔であった】
304琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/26(月)17:21:37 ID:dFD
>>303
射った矢は幸か不幸か狙い通り相手の脚部に命中する。

「当たっ……!?」

矢が脛に突き刺さっているにも関わらず女は素早い動きで接近をしてきた。
そして撃ち出されるのは弾丸の発射音にも似た鋭い突き。

宛ら走馬燈の様に最初に遭遇した時の光景が脳裏を走る。
鮮血に染まった拳。胸に孔の開いた死体。
これを真面に受ければ死ぬ、そう直感した。

だが其れを避けられる程の身体能力も技能も朱音は持ち合わせていない。
それでも寸前で直撃を免れたのは単なる偶然。
狼狽し足を縺れさせて転倒したのが偶々回避と似た動きになったにすぎない。
そして当然、そんな動きでは完全な回避など出来る筈もない。

弾ける様な音と共に少女の右腕の肘から先が宙を舞う。

「っあああぁぁあぁあぁぁああ!!」

薄暗い路地裏を絶叫が木霊し、周囲に鮮血が飛び散る。
腕をもぎ取られるに留まらず右の肩は脱臼をしている。

至って平凡な人生を送って来た朱音にとって経験したことも無い程の壮絶な痛みが襲い掛かる。
其れを前にしては先刻までのちっぽけな決意も覚悟も大波に攫われる砂の城の如くに脆く容易く崩れ落ちた。

地べたへと転げ落ち、片腕を失ったが為に思う様に起き上がる事も難しい。
両手が無ければ使えない弓矢はこの時点で何の意味も持たない道具となった。

朱音に残された選択肢は唯一つ。這いずる様に女から遠ざかる事。

(嫌だ。嫌だ。死ぬのは嫌だ。逃げ……逃げなきゃ。どこか遠くへ。)

視界を涙で滲ませながら少女はゆっくりと、本人としては全速力で女から遠ざかろうと足掻く。
仮に逃げられたとしてまだ新手が残っている事など最早眼中にない。
目の前の死から逃れるので精一杯だ。

奇跡とは二度は起こらないからこそ奇跡足り得る。
続けて攻撃があればまず間違いなく避ける事は叶わないだろう。
305正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/26(月)23:41:39 ID:4Jj
>>304
感じたのは恐怖、自分の感情ではなく相手が私に対して抱いているそれを感じ取る。
当然の事だ、攻撃が通用しない怪物が牙を剥くのを目の当たりにして恐怖しない人間の方がおかしい。
怖いだろう、恐ろしいだろう、死が目前に迫っているのを感じるか。
だが、恐怖を抱いているだけでは何も救えないし、誰にも救われない。

そうだろう?痛みと恐怖に悲鳴を上げた所で何か状況は好転したか、苦しみは和らいだか?
依然救いの手は訪れず、一撃で死ねなかった分苦しみは長くなる、その状態で逃げようとしてもそれは不可能だ。

「死ぬのは怖いか、怖いだろうな」
「だが違う、人は死を恐れるのでなく死に付随する痛みを恐れる」
「死を恐れるな、正義の糧として死ねる事を喜んで死ね」

本来ならこんな無様に逃げる事などさせる筈ではなかった、一撃で腑を貫いて終わるつもりだった。
偶然にも……いや、私の手元が狂っていた為に無駄な苦痛を与えてしまう、そんな事はあってはならないというのに。

【逃げようと這う少女を冷たく見詰めたバーサーカーは、右手を無造作に伸ばして塀を走る配管を掴む】
【そのままめりめりと力任せに配管を引き剥がし千切ると手頃な杭が出来上がった】

「……すまない、とは言わん」
「だがお前の死は無駄にはならない、安心しろ」

【そして、即席の杭を掲げたバーサーカーは、少女の背中から心臓を貫かんとそれを突き下ろす】
【何一つ躊躇いのない一撃だ、相当当たりどころが悪くなければ即死する事ができる】
306琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/27(火)18:06:47 ID:u5r
>>305

『死ぬのは怖いか』

最早相手の語り掛ける言葉も殆ど録に耳に入っていない。
理性など既に無く只死から、苦痛から逃れる為に足掻いているだけ。

めりめりと金属が軋む音が聞こえた。
振り返らない、きっと見てしまったらもう動けない。
もうきっと背後から迫る死の脅威から逃げ延びる事は叶わないのだろう。

「どう……して?」

女が最初遭った時に先回りして答えた質問だ。
結局訳も分からないままはぐらかされてしまったが。
正義の糧。果たして自分がここで死ぬのは正義の為なのか。
ともするならば自分は悪だとでも言うのか。どうして私なのか。
そんな感情が混ざり合って口に出た今際の短な疑問。

直後背中に何かがぶつかる様な、正確には刺さったのだが。
強い衝撃を受け、瞬時にに少女の意識は遠退いてゆく。
それまで以上の苦痛を感じる程の間も無く、其れは紛れもなく即死だった。

胸の中心を金属の杭に貫かれ地面に縫い留められる様に倒れる琴珠朱音"だった物"。
地面はじわじわと深紅の色に染め上げられていく。
奇しくも不死身の怪物を屠る為の方法で殺されたのはなんたる皮肉だろうか。


/一旦リアクション待ちです
/次レスにて『生々空転』発動します
307正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/27(火)21:39:13 ID:QkV
>>306
肉を貫く感覚、紙切れのそれとまるで変わらない感触を手に、私は───
何かを思うべきか、思ったとしてそれを吐露するべきだろうか、正義の化身となった今の私は目的を果たす為の行動を疑問に思うのを許されているのだろうか。
身動き一つ、呼吸一つしなくなった死体から目を離し、彼方を見遣る。

───アサシンめ、最初から私に殺らせるつもりだったな。
何を考えているのかはわからないがあの男が近くにいるのを感じ取れる、気配を消しても消しきれない殺気が近くにある。

「……これで満足か?」

あの男の手にかかれば、きっとこの少女はこれ異常に苦しみもがいて、自ら死を懇願して死んでいただろう。
彼に目を付けられた時点で不運だった、私が手を下した事を幸運だったとは言わないが。

「…………」

その場に居るはずのアサシンからの返答は無し、ならばいつまでも長居は無用だ。

……だが、私がこの少女に感じた違和感はただの思い違いだったのか、それだけが疑問に残る。
アサシンに渡さないという理由の他に彼女を殺すと決心した理由がそれだ、結果的に彼女に超常の力はなかったのだが、しかしそれを見切れない程私の眼が鈍っていたのか?

【バーサーカーは思考をしつつ、少女が完全に死体となったのを十分な時間で確認してからその場を後にしようとする】
308琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/27(火)21:54:14 ID:u5r
>>307
少女が息絶えてから少し後。
未だバーサーカーが確認を行っている最中か。

【生々空転】

少女の死体も、武器も、衣服も、周囲に散った血糊でさえも。
淡い光の粒子となって消滅し空へと昇って行く。
そして一帯に彼女が居たという痕跡は一つ残らず消え去った。

それは恐らく女が言っていた二つ目の理由に確信を与えるだろう。
今までは兎も角、この世界に於いて彼女は正常(ふつう)では無いのだと。


/バーサーカーさんサイドではこれで〆となります
/お付き合い頂き感謝です。お疲れ様でした
309正偽のバーサーカー◆jwNOIoQSFk :2018/03/27(火)22:16:03 ID:QkV
>>308
「…………」

ただの死体、そう、それは死んだ人間に他ならない。
例え彼女がどんな力を隠し持っていたとしても死んでしまったのならそれは全くの杞憂だ。

だが、それがもし。
〝死んだ後で発動する能力〟であったなら。

「…………!」

迂闊だった、例え自分に自覚が無くとも矢張り彼女は能力をその身に持っていたのだ。
死んだ事がトリガーとなる能力、その真相はわからないが死体が淡く輝きだすのを今目の前で認知している。
どうする───既に死んだ人間を制止させるのにどんな方法がある。

一瞬のうちに巡る思索、しかしそれはそれこそ杞憂に終わる。
輝きだした肉体はそのまま淡い光の粒へと変換され、やがて風に吹かれる砂埃のように散らばって消える。
それが何を意味するかを語る間も無く、私の目の前から消えたのだ。

「…何………だと…?」

そして、私の世界には一抹の静寂が訪れた。
310琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/27(火)22:44:03 ID:u5r
(1/2)
>/>308
急速に薄れゆく意識の中、少女は走馬燈を見る。
嘗ての世界の日常を。この世界に来てからの出来事を。
思えば最初に狼に追いかけられて、助けて貰えなければあの場で死んでいただろう。
だから、私は長生きをした方なのだと諦める様に言い聞かせて。
嗚呼でも、"強く生きろ"って約束は果たせなかったなと悔しそうに。

狼の群れから救ってくれたマサトモさん。
弓の練習を手伝ってくれたルゥさん。
包丁のお使いの時に送ってくれたアーサーさん。
そして野営地のみんな。

こんな最期になってしまったけれどきっと此処に来たのは良い事だったのだと。
けれどやっぱり元の世界に帰って家族に再会したかったなと。


【そこで少女の意識は完全に途絶える】
311琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/03/27(火)22:44:18 ID:u5r
(2/2)
目覚めると何処かで見たような岩の天井があった。
少女は飛び起き、最初に右の腕があることを確認する。
手を握って開いてちゃんと動くのを、神経が通っているのを実感させる。

この場所は知っているこの世界に初めて来たときの場所。
周囲を見回しても洞窟の造りも祭壇の配置なんかも完全に同じ、だと思う。

ともするならば先刻のあれは一体なんだったのか。
夢と言うには余りにも鮮烈に痛みを思い出す事が出来る。

「もしかして時間が巻き戻った……とか?」

確かにこの洞窟の祠は記憶の中の状態と一致する。
祭壇の上に置かれている弓矢とナイフの配置まで正確に。

それを確かめる為に外へ出る前に、今回はちゃんと武器を拾っておいてみる。
記憶が確かならこの外は魔の森の中で、一度出たら戻る事ができない筈だから。

装備を整えて、前みたいに狼の群れなんかに出くわさないよう祈って外へと踏み出す。
―――洞窟を抜けると其処は。

最近ではもう良く見知ってしまった野営地だった。
急いで振り向くが矢張り洞窟の入り口は存在しない。

そして目の前に居たエルフの男の人、
融合現象に巻き込まれる直前まで弓の訓練に付き合ってくれていた人が呆気に取られた様子で。

『シュオンちゃんが戻って来たぞー!』

野営地の他のメンバーにも聞こえる様にそう叫んだ。

彼らの話を纏めると弓の訓練中に融合現象が発生しそれに巻き込まれる自分を見たそうで。
どこへ飛ばされてしまったのかも見当がつかず、
もう会えないものだとばかり思っていた矢先での出来事だったらしい。

どうやら記憶にある世界と今いるこの場所は同じものである様だ。
つまり自分は確かに一度死んで、そして生き返ったということになる。

「どうゆう……こと?」

再会を喜ぶ野営地の人々に囲まれながら朱音の頭の中では疑問が渦巻いていた。


―――その日、琴珠朱音の日常(ふつう)は終わりを告げた。
312サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/27(火)23:39:15 ID:u5r
『同盟』領のとある待町にて。
空はもう日が沈み徐々に夜の闇が深まりつつある黄昏時。
音も立てずにゆらゆらと街への中へと紛れ込む人影が一つ。

全身を裾の擦り切れた黒い外套で覆い。
覗く髪や肌は雪花の如き白、頭巾の奥には紅く煌めく瞳が二つ。

サイスは丁度先刻引き受けた依頼を終え、宿を取るべく町に赴いた。
彼が引き受ける依頼はどれも危険度の高いものが多く、それに比例する様に報酬金額も大きくなる。
こと物欲が薄い為、生活に困っている訳ではないのだが。
まるで死に場所を求める様に次から次と仕事を引き受けている。

このままの脚で町のギルドに依頼達成の証を見せ報酬を貰い、
そして次の依頼を探した後早々に眠りに就く予定でいる。

カラン、と音を立て酒場兼ギルドの集会所の扉を開けた。
313ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/27(火)23:57:25 ID:q0a
>>312
宵の口の酒場とはどこの世界でも、往々にして賑わうものだ。
酔いを楽しむ者、食事をとる者、歓談を求める者。様々な目的を持つ人が最も集まる時間帯と言えよう。
ギルドの組合員だけでなく地域の住民も訪れているせいか、随分と活気づいているように思える。
そんな中、誰と同席するでもなく黙々と食べ続ける小さな影が一つ。
黒いローブに獣耳。幾度か顔を合わせているはずの少女がそこにいた。

「…………ぁ」

入口の開閉音にちらりと目を向け、そこに現れたのが知り合いと気がつくと小さな声を上げる少女。
時間帯からして夕食なのだろう、テーブルには食べかけの肉料理が鎮座している。
少しばかり悩んだ素振りを見せたが、やがて食器類を自分の方に寄せてテーブルに場所を作り始める。
そうして空いたスペースを軽くとんとんと叩き、サイスの方を見て首を傾げた。所謂同席の誘いだ。
314サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/28(水)17:42:42 ID:aze
>>313
賑わう酒場の一角に見知った獣耳の少女の姿があった。
ルゥは食器類を寄せてテーブルに空きを作り、所謂同席の誘いをしてきた。
どの道ここで夕食を済ませる予定であったし、
断る理由も特にないので促されるまま空いた席の下へ向かう。

「君は、確かルゥだったね。お邪魔するよ。」

するりと静かに席に座り店員に声を掛ける。

「豆のスープとホットミルク。」

サイスが手短に伝え、店員は了承し去っていく。
注文した内容はこの酒場のメニューの中でも比較的安価で質素なものだ。

「会うのは確か、ラ・ボーでの任務以来だったかな?」

サントアリオの一件では早々に帰ってしまった為に、
聖櫃に閉じ込められていた生贄が彼女であった事をサイスは知らない。
315ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/28(水)21:15:19 ID:7fX
>>314
頷いて了承の意を示すとサイスが席に着くのを見計らい、食事を再開するルゥ。
ステーキ肉に塩を振って焼いただけのものだが、本人はなかなかご満悦らしい。

「……たりる?」

育ち盛りの少年にしては些か少ないように思える注文に、店員が去ってから心配そうに声をかける。
もしかしたら無理に誘ってしまっただろうかと、表情を変えないままに獣耳がぺたんと倒れた。

「あー……えっと、そうだね、顔を合わせたのはそれ以来かな」

ラ・ボー遺跡の話になれば途端に歯切れが悪く、目を逸らしてどことなく気まずそうで。
なぜかジョッキで運ばれてきていたオレンジジュースに、誤魔化すように口をつけてから続ける。

「あのさ、ジュリアから聞いたんだけど……サントアリオで、助けてもらったって。遅くなったけど、ありがとう」

小さく微笑むが感謝の念というよりは申し訳なさ、情けなさが前面に出ているようでやや視線を落とす。
そのまま既に半分もないステーキを切り分けて、また口に放りこんだ。
316サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/29(木)19:05:20 ID:WMf
>>315

『……たりる?』

「ああ、小食な方なんだ。」

心配そうに声掛けられるが、いつも通りだと、問題無いのだと返答する。
ラ・ボーでの話に関してはどことなく気まずそうな雰囲気だったので追及はやめた。
そもそも自分も紅い宝石を所持したままなので人の事を言えない。

その後サントアリオの司祭の名前が話題に上がり。

「そうか、あの箱に閉じ込められていたのは君か。
 礼は要らないよ。偶々通りがかって興味があったから依頼を受けた。それだけ。
 お互い何も無くて良かった。
 破壊の神とやらの降臨も失敗に終わったみたいだし。」

そんな風に会話を続けていると注文した料理がやってくる。
豆類をシンプルに味付けしたスープと温めたミルク。

確かに育ち盛りが食べる料理としては量も質も乏しく思える。
そしてよく見れば黒い外套で隠された少年の体つきもまた相応に貧相だと。
真白な髪や肌のせいで余計に骸骨の様な印象を受けるかもしれない。
317ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/29(木)20:56:28 ID:icQ
>>316
本人が少食だと言うのだからそうなのだろう、それ以上は人が口を出す事ではない。
少なくとも無理な誘いではなかった事にほっと安堵、ぴこぴこと獣耳が揺れた。

「でも、わたしが捕まらなければ、あんなに大事にはならなかったわけだし……」

サイスに宥められても納得がいかないようで、むうと唇を尖らせる。
あまつさえ自分が事の発端だというのに、更に解決を他人に委ねてしまったのを余程気に病んでいるらしい。
しかしせっかくの食事の場でしんみりするのもよろしくない。軽く首を横に振って笑いかけ、気にしないようにと。
さてサイスの料理が運ばれてくれば、自分の皿と何度か見比べてううんと唸る。
一度は引き下がったものの、いざ量の違いを目の当たりにしてしまうとどうにも落ち着かない。
特に自分の方がよく食べていたから、そこに罪悪感に近い居心地の悪さが上乗せされていた。

「……ん。おいしいよ」

サイスの前に差し出されるフォーク。その先には一口大のステーキ。俗に言うアレである。
ルゥはというと気恥ずかしさなど全く見えない。むしろ不安そうにじっと見つめている。
318サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/30(金)16:20:15 ID:Enf
>>317

ん。という言葉と共に差し出される一口大のステーキ。
遠慮をしているものと思い、気を遣わせてしまったか。
サイスは無碍にするのも悪いと。
賑わう酒場の周りの視線を気にしつつ、ちょっと恥ずかし気にぱくり。
暫しもぐもぐと味わった後に礼を一言。

「ありがとう。美味しかった。」

素っ気なく返してしまう辺りは彼の悪い所だろうか。
一応本心から美味しかったと思ってはいるのだが見た目解りずらい上、態度も淡泊が過ぎる。

本人としては謝意も味の感想も返したので充分だと判断し、
再び自分の手元の豆スープの元へと帰っていく。
319ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/30(金)18:08:18 ID:uwj
>>318
「そっか、よかった」

サイスの口に消えていくステーキを見届け、安心したのか肩をなでおろす。
一見無愛想なサイスの反応であったが、どうやら食べてもらえただけでルゥには嬉しかったらしい。
どちらの見た目も年幼いせいだろう、周囲の大人達の視線も心なしか暖かいものだ。
そんな空気にもまったく気がついていないルゥは微かに微笑んで、不意に神妙な面持ちになる。
サイスが自分の豆スープに戻っても、フォークを持ち上げたまま小首を傾げた。

「……気のせい、かな」

ぼそり、思わず口をついて出てしまったような、対面のサイスにようやく届く程度の呟き。
ほんの少し表情が陰るがそれも一瞬、何事もなかったかのようにルゥもまた食事に戻るのだった。
320サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/30(金)18:23:40 ID:Enf
>>319

『……気のせい、かな』

ふと対面に座る少女からそんな呟きが漏れる。
同時に一瞬だが表情が曇った様な気もした。

少しだけ逡巡する様に沈黙。
そしてどうにも気になったので問うてみる。

「……どうか、した?」

疑問を投げるサイスの表情はいつも通りに無表情に近い。
ちょっと気に掛った程度の質問なので相手が返答を渋る様子なら続けてまでは問わないだろう。
321ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/30(金)18:51:25 ID:uwj
>>320
「えっ……?……ああ、聞こえてた?」

まさか聞かれてたと思っていなかったのか、顔を上げて僅かに目を見開く。
しかし困った風でもなく、すぐに苦笑を浮かべて小さく首を横に振る。

「……たいしたことじゃ、ないんだけどね」

一度言葉を切ってからまた肉を一口。咀嚼の間に沈黙が横たわる。
その顔に感情はなく、答えるのを渋っているようには見えない。ただどう言葉にするべきか、それを考える時間が欲しかった。
飲みくだしてオレンジジュースで喉を潤し、ようやく口を開く。

「昔、誰かによく同じことをしていた気がしたんだ。相手もいつのことだったかも、思い出せないけれど」

それだけだよ、と締め括って最後の一口を頬張る。その瞳はやや伏せていながらも、見えないはずの遠い記憶を見据えていた。
郷愁と一緒に飲みこんで、食後の挨拶とともに両手を合わせる。膨れた腹に満足げに一息をついた。
322サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/30(金)19:06:18 ID:Enf
>>321

『……ああ、聞こえてた?』『……たいしたことじゃ、ないんだけどね』

暫し横たわる沈黙に聞くべきでは無かったのではと思うも、
一度相手が口を開くまで待ってみる。
ルゥがオレンジの果汁を飲み、その後待っていた答えが返って来た。

『昔、誰かによく同じことをしていた気がしたんだ』『―――思い出せないけれど』

"思い出せない"。何気ない返答のその部分が少し引っかかった。

「君は、記憶喪失だったりするのか?」

思えば何度か接点こそあったが余り彼女の事を知らなかったと。
そんな素朴な疑問を投げかけてみる。
323ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/30(金)19:34:02 ID:uwj
>>322
「……多分、そうなんだろうね」

手持ち無沙汰になった両手をジョッキに添えて小さく頷く。
そこに焦燥や悲嘆はない。ただ無感動に淡々と、あるがままの事実を報告するだけだ。

「覚えてないんだ、名前以外は。気がついたら一人になってて、他はなにもわからない」

サイスとは目を合わせず言葉を綴って、オレンジジュースを啜る。少しずつジョッキの底が見えつつあった。
この話について、ルゥが語れる言葉は少ない。言語として形作るための礎が彼方に封じられているからだ。
だから分かっている要点だけを簡潔に伝えるしかできない。それを少しだけ、歯痒く思った。

「でも、わたしは今生きてる。だから、そんなに気にしてない」

相手の反応を窺う前に、先手を打って笑いかける。しっかりと目を合わせたそれはどこまでも本心で、まっすぐなものだ。
次いでサイスに視線を合わせたまま、こちらの手番は終わりとばかりにやや首を傾げる。
ある意味ルゥの語れる境遇は尽きたと言ってもいいタイミング、言外にサイスにも似たような問いを投げかけていた。
324サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/30(金)19:57:03 ID:Enf
>>323

『……多分、そうなんだろうね』

そう答えるルゥに焦燥や悲嘆の様子は無かった。
最後にそんなに気にしてないと締めくくり笑いかける彼女の言葉は本心からのものだと、そう思った。
だからこそ首を傾げる少女へ、今度は自分の事を話すべきだとも。

「僕は記憶はちゃんとある。うん、はっきりと。」

少しサイスの表情が蔭った様に感じるかもしれない。

「元居た世界は"魔神"って云う途方もなく強大で邪悪な存在に滅ぼされる寸前だった。
 僕の故郷だった村は僕一人を残してみんな死んでしまったよ。」

今しがた感じた以上の感情の起伏は見られないだろう。
余りに大きな嘆きに埋もれ全体の感情そのものが希薄になってしまっているのだ。

「そしてそんな仇敵に挑むことも叶わずに此処へと流れ着いた。
 だから、そう。僕には何も無いんだ。帰る場所も。守るべきものも。」

少しだけ沈黙し。

「ごめん。食後の雰囲気を台無しにするつもりじゃなかった。忘れて。」

先程の彼女の様に笑ってではないが、気にしないでくれとそう付け加えた。
325ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/30(金)20:26:53 ID:uwj
>>324
相槌すら打たず、黙ったままサイスの言葉に耳を傾けるルゥ。
小さな表情の変化を認めてもそれは変わらない。下手な慰めは不要だと、身をもって知っていた。
彼が言う記憶は、きっと消したくても消せないものだ。奥底にこびりついて、今でも心を苛むような。
ルゥは全てを喪った空虚を知っている。けれど目の前で奪われる痛みには覚えがない。
無責任な同情や理解をする気はない。それでもこうして相手を知る事ができた。

「……ううん。それより、話してくれてありがとう」

だからこうして礼を述べて、小さく笑いかけてみせるのだ。
たった数回顔を合わせただけの自分に、ここまで話してくれたのが嬉しくないと言ったら嘘だった。
そしてこの礼には、きっと自分の話を聞いてくれた事も含まれている。
こんなにも誰かと深い話をするのは、記憶にある限り久方振りな気がした。
ジョッキの中を一息で空にして、おもむろに立ち上がる。

「それじゃあわたし、そろそろ行くね。宿、探さないといけないから。
また、会えたら……よければもう少し、お話したいな」

テーブルに自分の分の会計を置いて、ふらりと出口へ向かうルゥ。
去り際に振り返るとちょっとだけ手を振って、今度こそ扉の奥へと消えていった。
326ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/03/30(金)20:28:27 ID:uwj
遅くなってすみません、この辺りで〆でどうでしょうかっ
ルゥちゃんの宿探しに付き合う感じでも大丈夫ですので!
327サイス ◆q3pzNvXt82 :2018/03/30(金)20:40:31 ID:Enf
>>325
思えば数回会っただけの相手に対して随分と重い話をしてしまった気がする。
けれども何故かルゥに対してはそれ程抵抗無く心を打ち明けられた様でもある。
記憶を無くした彼女と記憶に苦しむ自分、客観的にはまるで違うのだが、
何処か似た者同士な様に感じられて。

「こちらこそ、ありがとう。」

ほんの僅かに笑ったような、無表情ではあるが明るい雰囲気で応えた。

『そろそろ行くね。宿、探さないといけないから』

「僕は次の依頼を探してから宿を探すよ。それじゃ、さよならだ。また、何処かで。」

そう言って酒場を出ていく彼女を見送った。
"また"か―――。
死に場所を求めて死地を選んでいる身で何故そんな言葉が出たのか。
けれどまた会う時までくらいは生きていても良いか、
そんな思いに耽りながらぬるくなったミルクに口を付けた。
328屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/02(月)21:41:14 ID:Jgh
───血に塗れて、遠く空を見る。

赤く紅く、むせ返るような獣臭を漂わせる血に塗れ、私は青い青い空を見た。
こんなにも広い空を見た記憶は無かった、青々とした草原を照らす透き通る空を見るのは初めてだった。

「……見た目が違っても竜は竜ですね」

身体中にへばり付いた赤を拭う、ゴツゴツとした足元に躓かない様に高度の低い部位まで歩き、地面に降りる。
ふかふかとした草の感触が、とても気持ち良かった。

「……所で、この世界は一体何なんでしょうか」
「私が召喚された場所とは大きく違うようですが……というかこんな物がいる時点でファンタジーにも程がありますね」

【───恐らくそこは、どこかの魔法中心世界が元となった世界】
【融合現象により今や世界同士の垣根は無くなり、〝幻想〟などという言葉の定義は無い】

───サーヴァントとして呼び出された今でも、私の使命は変わっていない。変わらない。
全ての竜を刈り尽くすまで、私は終わる事が出来ない、例えその生が仮初の物だったとしても。

【白いローブを纏う桃色髪の少女、小柄な体躯に比べて大き過ぎる大鎌を手に、振り向いた彼女はそれを見上げた】

【其処には、少女を数十人分は一呑みに出来そうな程に巨大な竜───その骸が、斬り裂かれた喉からまだ暖かい血液を滝の様に流していた】
329ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/02(月)22:02:57 ID:5WX
>>328
遮るものもなく、地平線から地平線までを青々と覆う蒼穹を、常に変わらない太陽だけが横切って通る。
不意にその真ん中、ちょうど竜の真上にぽつりと黒い染みのようなものが現れる。
それは変貌してしまった世界においてはそう珍しいものではない。ともすれば見覚えがあるかもしれない、時空と時空を繋ぐ穴だった。
その穴は人一人が通れる程度まで広がるとなにかを吐き出して、現れた時と同じように突然消えてしまう。

「う、わ……!?」

そして穴から現れた人の形をした何かはというと、竜の屍の上に背中から受け身も取らずに落下。
そのまま間抜けな声をあげながら、横腹を伝って地面に転がり落ちた。
尻餅をついた状態で唸るのは、黒いローブを纏う少女。頭頂部の獣耳が痛ましげにぷるぷる震えている。
近くに佇む白い少女には気がついた様子もなく、座りこんできょろきょろと辺りを見回していた。
330屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/02(月)22:20:57 ID:Jgh
>>329
風が吹いた、何かが訪れる予感を感じさせる風だ。
肌の表面を逆撫でするような感覚がして、歪む空間を観測する、異常現象とも言える空間の穴はこの世界にとっては日常なのだろう。
無論私も同じく空間の穴を通って来た、時折不規則に開く穴は、魔力である程度制御出来るらしい事を他のサーヴァントが語っていた。

「…………」

しかしまあ、何というか、誰しもが同じ事を出来るようではないらしくて。
落とし穴から放り出されたみたいに投下された少女が、足元に滑り降りてくる。

───きっと、アサシンかアーチャー、バーサーカー辺りならその隙を狙っていたかもしれない。
でも私は違う、私はそれが必要な行動だったとしても人に刃を向けたくはない。

【ルゥの存在に気が付いたセイバーは、持っていた純白の大鎌を魔力に変換させて装備を解き、顔の血を拭って歩み寄る】
【そして、ルゥに向かって手を差し伸べた】

「大丈夫ですか?……立てますか?」
331ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/02(月)22:43:33 ID:5WX
>>330
ふと影が落ちて顔を上げ、ようやく自分以外の誰かの存在に気がついた少女。
差し伸べられた手に束の間翠玉の瞳をぱちくりさせたが、ややあってその意図に気がついたのか照れ臭そうに笑う。

「ん、大丈夫……恥ずかしいところ、見られちゃったね」

素直に手を取って立ち上がる。それでも小さな体躯では、どうしてもセイバーを見上げる形になった。
軽くローブを叩いて草きれを払いながらじっと、今度は怪訝そうにセイバーを凝視。視界に入る陽光に目を細めた。
やがてその視線は、やや心配そうなものへと変わる。いくら表面上の赤を拭おうと、染みついたその臭いは隠しきれていなかった。
覚えのある、それも新しいものであるそれにこの場であった戦闘を予想するのは、そう難しい事ではない。

「……怪我、してる?」

首を傾げ、短い問い。それでも少女が平然としているのは、少なくとも今の時点では相手から敵意を感じていないから。
背後の屍体には未だ気がつかず、濃い血の臭いを纏うセイバーを見据えて答えを待った。
332屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/02(月)22:59:07 ID:Jgh
>>331
目の前の少女から敵意や悪意は感じない、巧妙に隠している可能性も無くはないが、そうだとすれば何処かに兆候が見える筈。
それすら無いとなれば本心から私を警戒していないのだろう、余り無駄な厄介ごとが無いのは助かる。

「…いえ、問題ありません、この程度は怪我には入りませんので」

怪我をしているかと問われれば幾らかの打撲と擦り傷、それと火傷を己の身に確認している、先の竜との戦闘で負った傷だ。
しかしこの程度であれば少し休み魔力を回復させれば治癒される、動ける分にはまるで問題の無い怪我だ。

「所で、一つお聞きしたいのですが」
「この辺りの地理についての知識は持っていますか?」

問題があるとすれば、私がこの世界について全くの素人だという事だ。
右も左もわからない、空を飛翔する竜が見えたので反射的に斬りかかっては見たものの───それで何かが良くなったわけでも無い。
333ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/02(月)23:19:03 ID:5WX
>>332
「……そっか、なら、いいんだ」

本人が問題ないと言うならそうなのだろう、それ以上深く言及はしない。
本当に深刻であれば、そもそも助け起こす際になんらかの兆しがあってもいいはずだ。
少なくともそのような仕草は見られなかったからこそ、おとなしく引き下がるのだった。
少女の面持ちは感情を映さなかったが、ほんの少しだけ安堵からか身体を弛緩させた。

「この辺の……?うーん……私も、今来たばかりだから……でも多分、知らない場所、だと思う」

現在地について問われれば辺りを見渡し、覚えてる限りの記憶と照合させようと。
しかし心当たりがなかったのか、その答えはあまり芳しいものではない。申し訳なさからか、ぺたりと獣耳が倒れる。
もっとよく探せばもしかしたら、そんな淡い期待に背後を振り向いて、ようやくその亡骸を見た。

「……うわー……えっ」

見上げんばかりの鱗の山にあげるのは、なんとも気の抜けた声。
予想だにしていなかった事態を認識するのに時間を要したのか、しばらくしてようやく小さな驚愕の呟きを漏らす。
それでも状況を飲みこめず、竜の屍とセイバーを交互に見ては呆然とするのであった。
334屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/02(月)23:32:46 ID:Jgh
>>333
「そうですか、いえ、恐らくそうだとは思っていましたが」

空間の穴から落ちて来た時点で自らこの世界に来たのではないと予想はしていた、きっと何らかの偶然で無作為に落とされたのだと。
そんな人物にここの地理を聞くのは結果が目に見えていたが、勝手に決め付けるのは良くない。

【申し訳なさそうなルゥに対して、セイバーは無表情で頷いた】
【この場の誰も地理に詳しくないとなれば歩いて探索するしか無い、辺りに目印に手掛かりになるものでも無いかとセイバーは周囲を見回す】
【その内に、ルゥが呆然とした表情でこちらを見ているのに気が付いた】

「……あぁ、安心して下さい、その竜はしっかりとトドメを刺しています」
「……死しても蘇る、などという特性を持っていなければの話ですが」

【見つめられる視線に当然である事のように、その亡骸が自分のせいであるとも取れる言葉を返すセイバー】
335ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/02(月)23:50:55 ID:5WX
>>334
「へー……なんていうか、すごいね」

セイバーの返答には曖昧に返す。
どのような経緯、どんな方法でこの屍が拵えられる事になったのか、気にならないと言えば嘘になる。
しかし初対面の相手にそう詮索するのもよろしくないだろう、眼前の結果だけを受け止めた感想を漏らすに留めた。
まさかこの竜を殺めた理由が、所謂本能などとは思いもよらず。
ごほんと、どこか弛緩した空気を締めるように咳払いを一つ。

「えっと、あなたもこの辺りは知らないんだよね。じゃあ早く、人がいるところを探そうか。
ここで夜になるのは……ちょっと、嫌かな」

幸い日はまだ高い。竜の屍に背を向けて少し歩くと、セイバーの方を振り返る。
見渡す限りの草っ原、選んだ方角は見るからに適当であるが、言葉を使わない自然な所作で同行を提案した。
336屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/03(火)00:04:37 ID:g8r
>>335
竜───古来よりその存在は幻想とされながらも、強大な存在であるとされて来た。
この世界の竜が私の知る竜と同じ存在であるとは思えない、違いを挙げれば枚挙に暇が無いが、しかし〝竜〟であるという一点に於いては変わらない。
ならばそれを狩る事こそが私の役割(ロール)なのだろう、全ての世界の竜を狩り、聖杯を呼び出す為に受け皿を作る。

───そうして開かれた聖杯戦争に、私は何の願いを持って挑めば良いのだろうか。

【曖昧な感想を漏らしたルゥを前に、竜の亡骸に焦点を合わせて何かをぼんやりと思考するセイバー】
【一度目を閉じ頭の中を切り替えてから、ルゥの提案に返答する】

「そうですね、血の匂いを嗅ぎつけて野獣の類がやって来るかもしれません」
「少し歩きましょう、街道か川かを見つけられるかもしれません」
337ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/03(火)00:19:58 ID:QvH
>>336
思考の海に沈むセイバーを不思議そうに見ていたが、やがて返事をもらえれば一度だけ小さく頷く。
彼女が空虚な決意を孕んでいるなど窺い知るはずもない。少女は『聖杯』のなんたるかすらも知識にないのだから。

「そうだね。見晴らしはいいから、なにかあればすぐ見つけられそうだけど」

先に立って歩き出そうとして、また軽快に振り返る。腰まで届く濡羽色の髪が緑の中で揺れた。

「わたし、ルゥ。ルゥ・ヴィレット。あなたは?」

行きずりとはいえ、このだだっ広い草原で行動を一緒にする事になったのだから、呼び名が分からないままではいささかやりづらい。
問いと共にセイバーが追いつくのを待ちながら、横に並べばようやく前に歩き出す。たまにちらちらと、その表情を窺いながら。
338屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/03(火)00:47:09 ID:g8r
>>337
【歩き出したルゥの横に並び歩き出すセイバー、ルゥに表情を伺われているのに気が付いているようだが、表情は無表情のまま変わらない】

「私は───」

名前───私が今名乗るべき名は何だろうか。
私には■■■■という真名がある、しかしその名を今ここで出してしまうのは良い事か。
彼女自身にその気が無くても何処から情報が漏れるかわからない、真名が他のサーヴァントに知られる事は弱点を晒すと同義だ。
……だが、他に名乗る渾名も無い、幸いながら彼女とは長く仲を作るつもりもないし…。

「……屠竜のセイバーと、そう呼ばれています」
「他に呼びたい名があるのならそれでどうぞ」

〝屠竜のセイバー〟、それがサーヴァントとしての私の呼び名。
ただひたすらに竜を狩る、竜を屠る為だけに産まれた私の、竜を狩り尽くす事が出来ずに死んだ私の、英霊としての立場。
最も恐れた屠竜の技が杞憂に終わり、後になってからその名前で呼ばれるとは何たる皮肉だろうか。
339ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/03(火)01:15:24 ID:QvH
>>338
「せいばー……?……ああ、サーブルのことか」

馴染みのない単語だったのかたどたどしく復唱して首を傾げるが、やがてなにかに納得したのか表情を変えないまま一人頷く。
暗に真名でない事を言い含んでいたためか、その由縁について問う事はしない。
剣を冠するその呼び名に変わっていると思わないでもないが、偽名などそんなものだ。自分の特徴をぞんざいに象るような。
少女はサーヴァントが真名を明かす事を忌避するのを知らない。しかし気を悪くした様子もなく、それ以上を聞こうとはしなかった。

「じゃあ、えっと……セイバー、でいいのかな。わたしのことも、好きに呼んでいいよ。
あのさ、さっきの……ああいうやつ、他にもこの辺りにいるのかな」

柔らかい土を踏み歩く。見渡す限りの草っ原は絨毯と見紛う程に平坦で、風に揺れて僅かに色相を変えていく。
人の手がほぼ加わっていない自然の様相に、なかなか人が来るような場所ではなさそうだとぼんやり思う。
その原因を手慰みに考えてみて、ぱっと思いつくのは先の竜屍体。
そもそもこの近辺に人がいないという可能性もあったが、あまり考えたくない事だったのですぐに頭から追いやる。
このまま無言というのも緑のさざめきに飲みこまれてしまいそうに思えて、つと疑問を口に出した。
340東雲貫幸◆oPd.5DLlv2 :2018/04/03(火)20:55:48 ID:j5V
輪郭のはっきりとしない半月を薄っすらと千切れ雲が覆う夜の公園。
春の始まりを告げる様に柔らかな暖かい風があちこちに植えられた桜の花びらをゆったりと散らせて行く。

「ふふ、風流じゃのう」

その様を楽しげに眺める影が一つ。
公園に置かれた塗装の剥げかけたベンチに、リラックスするように腰を掛けるのは一人の女の姿。
白を基調とした着物を身に纏い、漆黒の艶髪をふわりと風に靡かせるその様は、桜の花弁が舞い散る中で良く映える。

彼女がご機嫌である事は、漆塗りの草履が鳴らすからんころんと弾んだ音が示していた。

今宵はどんな出会いがあるのだろう。
“ここ”に来てからは、毎日そればっかりが楽しみで仕方がない。
あなたとの出会いはきっと良い思い出になる。
桜の花はこんなに綺麗なのだから…。
341琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/04/03(火)21:12:21 ID:XRM
>>340
夜の公園を出歩いていたのは単なる気紛れでだろうか。
普段なら野営地の自室で眠りに就いている様な時間帯だ。

朧の半月を千切れ雲が覆い、その光が舞い散る桜を浮かび上がらせる。

あの日も夜の、―――融合現象に巻き込まれる前は昼だったのだが。
夜の繁華街での不幸な遭遇で命を落としてまだ一週間も経たないか。
何の因果か自分は一度蘇り、されどもその時の記憶は、痛みはなかなか頭から消えることは無く。
今宵も寝付けぬままこの場へと現れたのであった。

からんころんという弾んだ音に小さく飛び跳ねる朱音。
夜道で人と出会うとどうしてもあの日を思い出す。
それでも話し掛けようと思ったのは相手が上機嫌なように感じたからか。

「こん……ばんは。」

その態度にはまだ若干の怯えが見え隠れしている。
342東雲貫幸◆oPd.5DLlv2 :2018/04/03(火)21:29:59 ID:j5V
>>341
人が近づいてくる気配。
敵意も殺意もない。警戒も必要ないであろうと、無防備なまま舞い散る桜を眺めるついでに顔をその気配のする方へ向けた。

「ふふっ、こんばんはぁ」

少し怯えたような声色の挨拶に対し、屈託のない柔らかな笑顔で挨拶を返す。
はんなりとした、彼女の声色は少女を優しく覆うように、落ち着いたものだった。

「そない怖がらんで良いんじゃぞ?」
「ほれ、近う寄れ。こない暗くちゃ手前の顔がよう見えんのじゃ」

ベンチに一人分の隙間を開けるように腰を浮かせて移動し、着物の袖をひらひらと宙に舞わせながら、少女に対し手招きをする。
座れ。という事なのだろう。特段強制する雰囲気もなく、あくまでも少女を誘うように。
少女との見えない壁を取り払う為の彼女なりの計らいだった。
343屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/03(火)21:40:25 ID:jB6
>>339
空気がとても澄んでいて、足元から伝わる土と草の柔らかさは心地が良い。
痩せて荒れた大地や、作られた美しい庭や、硝煙と血の匂いが漂う空気とは違う。
歩くだけで、風に包まれるだけで心が軽くなる感覚がする。

争いの無い世界とは、こんなにも素晴らしい物なのだろうか。

「……生物というのは完成に近付く事に反比例して個体数が抑えられる傾向にあります」
「私一人に狩られる程度の竜なら、同種の数は相当数存在していると考えてもおかしくは無いでしょう」

【ルゥの問い掛けにセイバーは予測を立て、機械的に答えた】
【その眼はずっと遠くを見たままで、何かに思いを馳せているようだった】

「心配は無用です、既に一度狩っていますので対策はわかりました」
「同種か近縁種の竜であるなら難なく討伐する事ができます」

【しかし何処かズレているようでもある言動だった、いくら竜を殺す事が出来るとは言えセイバーの口振りでは竜を見たら殺す以外の選択肢は無いようにも聞こえる】
344琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/04/03(火)21:43:30 ID:XRM
>>342
はんなりとした優し気な声色に少し気を許した様に。

「ごめんなさい。この間夜道で……」

―――殺されたので、とは言えないか。

「……怖い目に遭ったので。」

着物の袖をひらひら近くに寄る様にとの誘いにゆっくり応じ。
近づくにつれ暗闇から明らかになるその顔立ちは、
取り立てて美形な訳でも醜いでもない、至って普通の少女といった印象。

「失礼します。」

流石に唐突に襲われる様な雰囲気では無いと感じ取ったのか、
手招かれるまま女の隣にそっと座る。
345東雲貫幸◆oPd.5DLlv2 :2018/04/03(火)22:01:36 ID:j5V
>>344
素直に誘いに乗ってくれた少女に対し、また好意的な笑顔を見せる。
誰もが美しいと感じるであろう彼女の笑みは、仄かに刺す月の光の中でも特別輝いていた。

「ほう…。それは気の毒じゃのう」
「兎にも角にも、大事は無かったか?」

少女を気遣うかの如く、浮かない少女の顔を覗き込みながら言葉を返す。
彼女に近づいてから、独特の香りが彼女を周囲を包んでいる事に気がつくだろう。
これは彼女が好んで愛用している白梅の香水の香り。
ふんわりとした優しい甘酸っぱい香りは、きっと少女の気持ちを少しは癒してくれるだろう。

「“ここ”は少し物騒じゃからな。これからは気をつけるんじゃぞ?」

ゆっくりと、少女の頭へ白く細い腕を伸ばす。
少女が拒否の意思を示さなければ、そのまま慰めるかのように2度軽く頭を撫でる。
その手つきはとても穏やかで、ひらりと袖が揺れる度に白梅の香りがふわりと少女の鼻をくすぐるだろう。
346琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/04/03(火)22:21:09 ID:XRM
>>345
仄かな月光の中に一層輝く様な女の笑顔に。
奇麗な人だなぁ……なんて心の中で思いつつ。

『大事は無かったか?』

という言葉に少し言葉を詰まらせた後。

「……はい。こうして今も生きているので。」

そう答える少女に何を感じ取るだろうか。

ふんわりと香る梅の甘酸っぱい香りと、
穏やかに頭を撫でる掌にどこか少女の気持ちも癒された様子で。
そしてふと思ったのだ。

「お姉さんの世界では死んだ人が蘇るのって普通だったりしましたか?」

実はこの世界に於いては死者が生き返るのは割と当たり前の事なのではないのかと。
しかしそれは口に出してしまった後で言うべきでは無かったと直ぐに気付いた。
そんな筈が無いと。それでも何処かでそうであって欲しいと思う心も確かにあった。
347東雲貫幸◆oPd.5DLlv2 :2018/04/03(火)22:34:01 ID:j5V
>>346
「そうか…。なら良い」

少女の口から帰ってきた言葉が彼女の中で少し引っかかった。
けれども、深く追求するのは少女を傷つけかねない、とそれ以上に何かを聞き返すことはしなかった。

「なんや急に、可笑しなことを言うもんじゃのう」

少女が問うてきた言葉の真意がイマイチ掴みかねる。
常識から考えれば彼女の言うように「可笑しなこと」を耳にした彼女は目尻のほんの少し垂れた瞳を丸く見開いた。
口ぶりで言えば、少女の問いに対する彼女の答えはNoである。

「死んだ人間が蘇る…。それが普通なら、素敵な事のようやけど、地獄のようにも思えるもんじゃのう」

親しくしていた亡き人が、元気な姿で目の前に現れたら、何と素晴らしい事だろう。
死んだはずの憎き敵が、五体満足でまたその姿を見せてきたら、何と最悪な事だろう。
だからこそ、彼女はこう答えた。

ただ一つ、思い当たる節はあるのだけれど。
348琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/04/03(火)22:45:44 ID:XRM
>>347

『なんや急に、可笑しなことを言うもんじゃのう』

その返答から察するに矢張り異常な事なのだろう。
あの日、我が身に起こった出来事は。

「そう……ですよね。ごめんなさい変な事聞いてしまって。」

と、女が続けた言葉が心の何処かに突き刺さった。
素敵な事のようだけど、地獄のようにも思える。

その通りだと思った。
あんなことがまだ続くのだとしたら。もしもそれが永遠に続くのだとしたら。
それは紛れもない地獄なのだろう。

少女の不安はどことなく表情からも見て取れるかもしれない。
349東雲貫幸◆oPd.5DLlv2 :2018/04/03(火)23:16:13 ID:j5V
>>348
不安げに言を紡ぐ少女。
“普通”であるならば、想像も出来ない事が彼女の身に起こったのであろう。
先に「大事はない」と言ったのだ。深く詮索する必要もないだろう。

「ふふ、気にするでない。手前の身に何があったかは分からんが…」
「もちっと、気楽になったらどうじゃ?」

先程と変わらない笑顔を向けながら、言葉を重ねる。

「死後の地獄を憂う前に、生きてる今を楽しむんじゃ」
「…まあ、手前次第じゃがの…」

後は少女次第。
少女が地獄を歩む運命なのであれば、自分から出来る事はないのかもしれない。
今は言葉をかけるだけ。これからの答えを見つけるのは、少女がすべき事なのだ。

「そうじゃ、手前の名を聞いてなかったのう」
「名は何と申すのじゃ?」

暗くなりつつある雰囲気を変えるように、明るい口調で少女の名を問うた。
350琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/04/03(火)23:25:39 ID:XRM
>>349

『死後の地獄を憂う前に、生きてる今を楽しむんじゃ』

その言葉に以前己が命を救った者が残した言葉を思い出した。
―――強く生きろ。と、あの人は言っていた。

「そうですね。前へ進むって決めていたはずだったのに。
 いつの間にか弱気になってたみたいです。
 ありがとうございます、ちょっとだけ気が楽になりました。」

と、名を訊ねられ。

「琴珠朱音(ことだま しゅおん)といいます。
 貴女の名前を訊ねても良いでしょうか?」

心持ち明るくなった声色で聞いてみた。
351東雲貫幸◆oPd.5DLlv2 :2018/04/03(火)23:38:06 ID:j5V
>>350
「ふふ、それで良い」
「やはり、おなごは笑うとるのが一番じゃ」

何処か、少女の中で吹っ切れた様子。それを見て、満足したかのように表情を綻ばせる。
きっとこれから少女は自身の言うように「前に向かって」強く生きていくのだろう。

「しゅおん…か。良い名じゃな」
「姓は東雲(しののめ)、名は貫幸(つらゆき)」
「呼びにくかったら、幸(ゆき)とでも呼ぶんじゃな」

東雲貫幸。それが彼女の名だ。
元いた世界であれば、意味のある名前。けれども、この世界では何のことはないただの名前。
幸姫(ゆきひめ)と呼ばれる事もあったが、それは過去の話…。
352ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/03(火)23:41:44 ID:QvH
>>343
過去のない少女には、大草原に広がる平和が当たり前のものなのか、それとも謹んで享受するべきものなのかは分からない。
けれどもどちらにせよ、吹き抜ける爽やかな風はそう悪くないと思うのだ。
流れる黒髪を時折片手で抑える少女は無表情ながら、どこか和やかな雰囲気で。

「んー……やっぱり、他にもいるのかな。出くわさないといいけど。
や、でも、できれば、見つけてもやり過ごしたいかな」

セイバーの言い回しを理解するのに時間を要したのか、暫しきょとんとしていたが最後の言葉だけ拾ってううんと小さく唸る。
続く言葉にはどことなく慌てた声色で、それとなく戦闘を厭う事を示唆。
少女には別段相手が竜だからといって、殺戮に興じる理由はない。
あくまでも生存こそが最優先であって、好んで自分から闘争をふっかけようとは思わないのだ。

「……まあ、これだけ見晴らしがよければ、お互いすぐに見つけられそうだけど」

なんともなしにまだ青い空を見上げる。太陽がちょうど目に入って思わず手の平で覆い隠す。
草原に落とす影は今のところ二人分しかない。ほんの少し、安堵に息を吐いた。
353琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/04/03(火)23:53:13 ID:XRM
>>351

「つらゆきさん……ですね。」

東雲さんと呼ぼうかと思ったが、
幸(ゆき)とでも呼ぶようにとの事との中間を取って名前で呼ぶことにした。
相手を不愉快にさせなければ良いのだが。

名前の造りからすれば朱音の出身世界と似たような土地の人なのだろう。
少女はその名に込められた意味は知らず只一つの名として呼びかける。

少女が空を仰ぐと朧の月は叢雲に隠れようとしている頃合いだった。
もう帰らねばならない時刻か。

「もう少し夜桜を楽しんでいたい所ですが、
 そろそろ帰らないとまた皆に心配かけさせてしまうので。
 私、普段は魔の森の野営地で暮らしてるんです。
 もしまた会う事があったらよろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げ、引き留められぬならこの場を去ろうとするだろう。
その場合何度か振り向いて手を振りながら帰るだろうか。
354東雲貫幸◆oPd.5DLlv2 :2018/04/04(水)00:04:10 ID:gk2
>>353
「ん? もうそない時間か」
「魔の森…暇があったら行ってみるかのう」

あまり聞かない土地だった。
と言うのも、貫幸がこの世界にたどり着いてから時間がそれほど経っていない事が原因だが。
また、元気な姿の少女を見たいのも事実。遊びに行くのも一興だろう。

「ほんなら、気をつけて帰るんじゃぞ〜」

一礼して去り逝く朱音を、ベンチに腰掛けたまま見送る。
彼女の腕の動きに合わせるように、ひらりひらりと掌を振り返す。

今宵も短いながら良い出会いであった。
少女が去り、舞い散る桜を眺めながら、一人染み染みと思い返すのであった
355屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/04(水)21:43:16 ID:3IP
>>352
「……そうですか、いえ、普通ならそうするべきでしょう」

【ルゥの発言に彼女と同じくきょとんとした表情を返すセイバー、しかしそう考えるのが一般的であると思い出したらしい】

「私は竜を狩る使命の元に生まれました」
「竜を狩る事は私の存在意義であり、生まれ持った本能でもあります」

思い浮かぶのは記憶の中の風景、ただひたすらに竜と戦い、竜を殺し、血に塗れてただ刃を振るう。
友も無く家族も無く、一つの機構のように為すべき事を死ぬまで為すだけの日々が、日常だった。

───まさか死してからこんなにも長閑に歩く事になるとは。

「……本来は既にその役目も終えている筈なんですけどね」

【セイバーが静かに呟く、その表情は憂いを帯びた儚げな顔をしていて】
【やがて歩く二人の足元には、草原の草に混ざって疎らな石畳や砂利が混ざってくる】
356ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/04(水)22:34:12 ID:A2t
>>355
「それじゃあ……」

まるで、竜を屠る以外に生きている意味がないみたいだと。
言いかけて口を噤む。それはきっと、他人が容易に言葉にしていい事ではない。
セイバーの顔を盗み見る。盲目的に役割を果たそうとする者には決してないはずの、虚しさにも似た何かをそこに見た気がして。
ただ生そのものしか目的として持ち得ないルゥに、口を出す権利があるとは到底思えなかった。
もしかしたら既に喪われた存在意義が、いつかどこかにあったのかもしれないけれど。

「……だったら、また新しい役目を探せばいい、と思うよ。
こんな世界になっちゃったから……きっと、なにかが見つかるんじゃないかな」

それはささやかな願いなのかもしれない。いまだに生きる理由を未来に見つけられない迷い子の。
漠然とした過去からの想いだけを支えに立つ事の、時折襲う言いようのない不安と恐怖を少女は知っている。
だからこそ、せめて彼女には生に意義を見出してほしいと思うのだろう。
二人分の草を踏みしめる柔らかな足音が、砂利を擦るそれに少しずつ変わっていく。
目についた石ころを軽く蹴って、前を見たまま僅かに微笑んだ。
357屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/04(水)22:55:40 ID:3IP
>>356
ルゥが言いかけて取りやめた言葉の続きを、私は聞かずとも読み取れた。
───そう、私に竜を狩る以外の存在意義は無い、私はその為に生まれたのだから。その為に造られたのだから。
竜を屠る為に技を磨き、しかし屠るべき竜がいない───そんな故事成語を初めて知った時、それはいつかそうなる私なのだと思った。
狩るべき竜がいなくなった時、私が造られた意味は何処へ行き、何がその穴を埋めてくれるのか、それを考えている内に私は───

「……ありがとうございます、ですが…」

新しい役目をこの世界で探す、きっとそれは私が真っ当に生きている状態であったなら素晴らしい提案であっただろう。
でもそうする事は出来ない、私がサーヴァントとして召喚された以上は、聖杯戦争を進行させるという役目を果たさなくてはならない。

その為に沢山の生命を刈り取らなくてはならない、私の場合は偶々それが竜であっただけの事。
役目として狩り慣れている存在であれば、利己的に生命を奪うのにも抵抗が無かったから。

「……もし全てが終わって、私が勝ち残る事が出来たなら、それを願うのもいいかもしれませんね」

【一度口をつぐみ、否定の言葉を飲み込んだセイバーが再び口を開くと、そこからは哀愁を漂わせる声色が流れる】
【何かの為に戦っている、何かの為に竜を狩っている、そう思う事も出来る言葉だった】
358ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/04(水)23:28:04 ID:A2t
>>357
聖杯に喚び出された者が、否応なく背負う使命をルゥは知らない。
けれどその言葉の色に、なにか途轍もなく重たい、足枷のようなものを垣間見た気がした。

「……そうだね。わたしは、応援くらいしかできないけど……」

一瞬だけ目を伏せる。いつの間にか足元は、随分と整備された路になりつつあった。
生きる道筋もこれだけはっきりした一本の線であれば、どれだけ楽だったろう。
目的も意義も見出せず、見渡す限りの草原に放り出された人生など、自由を苦痛で塗り替えただけのものに過ぎないというのに。
だから出来る事ならば、誰かに道を示したいと願うのは傲慢なのだろうか。

「……うん、もしそうなったら、叶うといいね」

彼女が何を為そうとし、何を目指すのかはまだ分からない。
それでもその先は決して簡単な道のりではないのだろうと、その声色から察せられたから。
その願いの託される先が万物の願望機であるなど知る由もなく、ただ聞き届けられる事だけを純粋に祈るのだ。
地平線の近く、道の先に人工的な建物の影が兆した。
359屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/04(水)23:48:09 ID:3IP
>>358
「…………」

この少女は、私に対してどんな感情を抱いたのだろうか。
竜を狩るしかない私に、死してなお目的の為に同じ手段しか取れない私を見て、何を思うのだろう。
───例え何を思われていたとしても、きっとそれは刹那の夢のようなもの。
一期一会、この広大な世界で───広大な世界が無秩序に繋がり合う世界で───同じ人物にもう一度偶然出会う事などそれこそ天文学的な確率だ。
だから、ルゥにどう認識されていようとも構わない、ただ彼女は───利己的に殺されるべきではないと思った。

「ルゥさん」

【街道の遠くに街並みが見えて来た時、ふと立ち止まったセイバーはルゥに声を掛ける】
【その眼は真っ直ぐにルゥの眼を見つめており、張り詰めた空気のまま発言した】

「……もしこの先…これから先、何処かで輝く聖杯の顕現を見たら」
「その時は、すぐにその地点からなるべく遠くに離れてください……きっと、すぐにその場は混沌とした戦場になると思うから」

───もう二度と会わないかもしれない相手、でも、それなら私から何を言ったって構わないだろう。
もしかしたら私の預かり知らないところで巻き込んでしまうかもしれない、あの戦いはきっと多くの不幸を生み出すから。

「……それだけです」

【セイバーがそう締めくくった瞬間、二人の頭上を巨大な影が横切って行く】
【天を舞う巨大な影の主、地上の小者には目もくれない飛龍に、既にセイバーの目線は奪われていた】
360ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/05(木)00:10:22 ID:W6z
>>359
セイバーが立ち止まるのに僅か遅れて、ルゥもまた歩みを止める。数歩分の距離が空いた。
振り向いて視線をまっすぐに受け止める。翠玉の瞳は陽光を受けて煌めくが、そこに感情は映らない。

「せい、はい……?」

覚えのある単語に軽く眉を寄せる。身体がいつかの痛みを訴えたような気がした。
けれどその全容には思い至らず、問い返すのも緊張した空気にどこか憚られて小さく頷くに留めるのみだった。

「……うん、そうする。ありがとう」

その言葉はきっと真摯なものであると、彼女の懸念の実態は分からないが、不思議とそう感じられた。
だから忠告を素直に受け取ろうと思っただけでなく、謝辞までも口をついて出たのだろう。
少し笑って、落ちた影に世界が束の間暗くなる。遥か頭上のはずなのに羽ばたきが大地にまで届いた気がして、靡いた黒髪をそっと抑えた。
交錯する視線から空を見上げたセイバーにつられて、少女もその先を目で追う。
雄大に青の中を舞う竜を認めて怯えるでもなく、目を細めて暫し眺めていた。
361屠竜のセイバー◆jwNOIoQSFk :2018/04/05(木)00:37:05 ID:iwN
>>360
打ち据えられる大気、巻き上げられる地表の空気。
雄大な翼の羽ばたきは大きく気流を作り出して巨体を浮かべる、それは間違いなく先程見たばかりのと同種の飛竜だった。

───竜、私が狩るべき存在。

気が付けば駆け出していた、目の前にいる対象の命を奪う為に、私はその手に得物を握って追い縋っていた。
やはり、私は何処までも竜狩りなのだ、存在意義として、生きる意味として竜を殺し続ける定めなのだ。

【飛び去ろうとする飛竜、しかしセイバーはそれを逃すまいと、ルゥには目もくれずに駆け出した】
【その姿はまさに鬼気迫ると言った風で、恐ろしく冷たい殺気が彼女を包む】
【まるで一切の容赦を斬り捨てた殺戮人形として、セイバーは竜を狩る本能を曝け出してその場を離れた】

───嗚呼。

私の運命は竜と共にある。
362ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/04/05(木)00:54:23 ID:W6z
>>361
風を感じた。上空から降る錯覚ではない。
もっと確かで、それでいて近いものに思わず視線を目の前の彼女に移そうとして。

「ぁ…………」

気がついた時には遅かった。鋭く重たい音が石畳を叩いたと思えば、みるみるうちに遠ざかる姿。
言葉を紡ぐ暇もなく、ただその背中を見送るしかできないまま。
それでも声すらかけられなかったのは、突然のその気迫に気圧されたせいでもあったのかもしれなかった。
視界から動くものが消えて、初めて草原で一人佇む。いつの間にか太陽は大分傾いて、深緑を紅に染め上げる。
長く伸びた一つだけの影をしばらくぼんやりと眺めて、ようやく人の営みを目指す。彼方に見える炊事の煙が夕闇にゆらゆら浮かんだ。
一本道を目で辿る。少しだけ、進むべき道が見えている彼女を羨ましく思った。

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