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『World of Legacies』ロールスレ

1PL3LCLEHis:2018/01/27(土)11:29:53 ID:DuJ()
――それは空前絶後の出来事だった。
次元と時間の壁を越え、あらゆる世界が融合する――。
そして各々の世界を彩りし綺羅星の群れも、生けると死せるとに関わらず一つの舞台に集う。
百万の歴史を一点に束ね、新たなる歴史を紡ぎだすために。
そこに現れるのは戦火か、友情か。
あらゆる世界の遺産を受け継ぎ、今ここに新たなる価値を創造せよ――。

【スレについて】
このスレの舞台は、おーぷんやパー速などの過去のあらゆるなりきり世界が融合した設定の世界です。
そこでは同じ世界の複数の時間軸の融合も起こったため、過去スレのキャラを生死を問わず再登場させることができます。
また、既になくなったものも含め、過去スレのあらゆる建造物や組織・国家などの舞台設定を再登場させることも可能です。
もちろん新規のキャラや設定の使用も可能です。
強めのキャラクターも許容しますが、通常戦闘ではチートや確定描写を控えるなどマナーを守るようにしてください。
キャラクター審査希望の場合はその旨表記して雑談スレに投稿してください。
次スレ建ては>>950を踏んだ方にお願いします。

キャラクターシートテンプレ(必要に応じて改変可)
【名前】
【性別】
【年齢】
【容姿】
【性格】
【能力等】
【概要】

Wiki:http://wikiwiki.jp/w-o-legacies/
2プロローグ◆PL3LCLEHis :2018/01/29(月)23:03:33 ID:72m()
 「――――それで爺さん、伝えたいことってのは?」

若い男が随分と儀礼ぶったような整った声、表情、手の仕草で問いかける。
その相手たる老紳士は、それに応えるように、というよりもほとんど自然体の弱々しさと紙一重の落着きはらった態度で返答する。

「ええ、――でも念のため言っておくと、真面目な話ですよ?
“この辺り”の情勢についてです。」

若い男は仰々しい戯れを解き、その美しい顔を思わず苦笑いに染め、同時に両手を左右に流して参った、とばかりに一息ついてしまう。
成程、見た目はただの老人だが、その人生経験相応の観察眼に自分も見破られているということか、と彼にしては珍しく同性相手に感心してしまう。

彼らが今その身を置いているのは、一件の酒場。
豊かでも貧しくもない、地位としては所謂中流とでも呼ばれる人々の集う、何の変哲もない、しかしそれだけに穏やかな市民の憩いの場だった。
しかし、そこは決して賑やかではなかった。目立った笑い声は数えるほどしか聞こえない。それほど輝度の大きくない照明が、店内に仄暗さを残していた。

「簡単に言うと、この辺りには大きく分けて3つの勢力があります。
一つは『コンツェルン』。あなたもこの街に入って何度か広告を見たでしょう。その資本力と技術力に物を言わせ、この一帯のあらゆる分野の産業を事実上独占している大財閥です。
最早この辺りで豊かな生活は彼らの存在なくしてはありえませんが、一方で単純労働者には奴隷のような労働条件を押し付け、更には上層部には自らの財力を誇り彼らを見下す性悪な連中が多いようですな。
また、企業でありながら私兵集団とも呼べるものを有しており、金の代わりに暴力を用いることも多いのだそうな。

もう一つは『同盟』。これは魔法使い、剣士、エルフ、悪魔、魔法少女、あるいは異能力者――そういった、技術力の乏しい世界の出身だったり、豊かでないながらも特別な力を持つ者らによって構成される組織です。
彼らはこの地に台頭しつつある『コンツェルン』に対抗する者達です。彼らが持つ力こそが、彼らを『コンツェルン』の単なる単純労働者に甘んじさせない強みなのでしょうな。
資本力や技術力は『コンツェルン』に及ばないながらも、魔法をはじめとした不思議な力は決して侮れませぬ。
それに彼らは――特に魔法少女を中心に、『星のかけら』と呼ばれる集めれば願いをかなえるものを集めているようですな。

最後に――これは現実的に最も弱い勢力ではありますが――『共和国』です。“融合現象”以前からこの地を統治していた国家であり、魔法も異能も存在しないごく普通の日常が繰り返されていました。今ここに憩う人々もほとんどはその市民でありましょう。
しかし“融合”以後は異世界からやってきた勢力が元となって『コンツェルン』や『同盟』が生まれ、その抗争により国家は荒廃する一方です。
『共和国』政府は辛うじて存続しながらもその実力と存在感を弱め、戦火から市民を守る力も乏しく、故に市民の支持も失いつつあります。
しかしある時、政府は異世界から齎された謎の黒い物質に目を付けました。それには、一般人を能力者にしたり、通常兵器を未来科学や魔法にも対抗しうる超兵器に変えたりする力があることが判明したのです。そこで政府は、その物質の研究と能力者・超兵器の開発を開始しました。
そのようにして、今はどうにかこうにか戦乱の渦中で国家としての独立を保っているような状況ですな。」
3プロローグ◆PL3LCLEHis :2018/01/29(月)23:03:54 ID:72m()
ポケットに手を入れ、脚を組み、半ば眼を閉じながら分かった、分かったと何度も肯く様な様子で、若い男は老紳士の報告に耳を傾けていた。
その間、老紳士にはとりたててそれをとがめるような様子もなかった。
話が一区切り済んだというところで、若い男は眼を開け、赤黒く真摯な眼差しで老紳士の半透明の顔を貫いた。

 「――へぇ、争いが起こってるのは思った通りだが、超科学に魔法、それに異能と。これは宝石箱なこって。
 しかし、魔法少女と星のかけらも絡んでいるのか……」

「……ふむ、どうやら何か縁があるようですな。
そういえば、これは噂に過ぎませぬが――実は『コンツェルン』も星のかけらに何らかの資源的価値を見出し、それを狙い、そのことも『同盟』との抗争を加熱させる一因になっているとか……」

 「(……そうか。なら、俺も無関係ではいられないか……)」

若い男は、自らのコートの中でぼんやりと光る輝きにちら、と視線を落とし、程なくして老紳士へと向き直った。

 「しかしまぁ、なぜ俺にそこまでの情報を与える?
 いや、邪推しているわけじゃないが、美しいレディでもなければ俺は全面的には信用しない性分でね。」

「……ただ、“物語”を愉しみたい……それだけです。
それが悲劇になるか……喜劇になるかは……分かりませぬ。“あなたたち”自身が脚本家です。
しかし――どちらに転んでも“物語”は愉しい……――」

 「……ああ、そうかい。現状を見るならこれは間違いなく悲劇だろう。
 だが――悲劇の中でこそ英雄は輝けるものだろう?
 爺さんのお眼鏡に適うか分からんが、やってやるよ。戯曲は見るのも演じるのも大好物なんだ。」

「フフ……期待しています――――」

元々弱々しい老紳士の声がほとんど囁くような感じになったかと思えば、若い男の視界の中に既に彼の姿はなかった。
不思議に思いながらも、若い男は真摯な眼差しそのままに窓ごしの外景を眺めていた。
突如として響く地鳴りのような音と、外の地面を次々に覆い尽くしつつある巨大な影。
その場にいる誰よりも敏感に危険を察知した男は、会計も忘れ、足早に店を去って行った。

後に残るのは、飲み逃げを捕まえる余地もなく壊滅してしまった店の瓦礫と、人命が惜しくないかのように都心で抗争を繰り広げる『コンツェルン』の巨大戦車と『同盟』の巨獣部隊だった――――
4ラビム◆PL3LCLEHis :2018/01/30(火)23:52:44 ID:yw2()
“存在”が在った。
“それ”は歩いていた――――
いつぐらいからだろう、創世の昔からか、融合現象の初めからか、ついさっきからか。
始まりも終わりもない時間を彷徨っているのか、それとも――時間すらないのか。

「――――」

言葉はなかった。安易な言葉の標本に堕とし込むことは事実の価値を下げることを知っていたから。
ただ現実と最低限の繋がりを保つ五感が頼りだった。
耳は人々の溜息や欠伸、喧嘩の音を掬い取り、眼はどこまでも続くような汚い路地を映している。
肌は、季節柄の寒さだけではない何かに小刻みな震えを返していた。

「……ふむ。……ふむ。」

ただ肯いてその感覚を反芻するのは、一人の老紳士――らしき人物?。
いや、老人特有の弱々しさを通り越して、“人”と呼ぶことにすら一抹の疑問を投げかけるような虚無感を漂わせる――

「悲惨――それだけではないか。希望はまだ、僅かながら……」

自分の足がここに導かれたのも僅かなそれを期待してのことだったのかもしれない。
貧しくともなお生きるのは、心がまだ死んでいない証拠である。
大分歩いた。いつしかそこは郊外というにも街の外に近い位置になっていた。
誰か、外の者と相見えることができるかもしれない。
5ガルディア◆R7iX.lD3rE :2018/01/31(水)00:42:46 ID:3B1
>>4
虚無を漂わせる老紳士?に一つ。大きな影が落とされる。
彼がそれに気付きそちらに目をやれば、パワードスーツに身を包んだ年端もいかぬ少女が立っているのが確認できるだろう。
少女の背から伸びた巨大な機械腕は高々と挙げられていた。まるで老紳士を見下し威嚇するように。
外骨格に包まれた脚で歩み老紳士に近寄れば、人間離れした鮫のような歯を見せて意地悪げに笑い、そして口を開く。

「よぉ、おじいさん。こんな所を独りで散歩かァ?暇なんだなァ?」

どこか芝居掛かった口調で老紳士に言葉をかける。
この日常の空間には似つかわしくない機械腕は話している間、手持ち無沙汰を潰すように金属音を鳴り響かせながら指を動かしていた。
老紳士の漂わせる虚無感への疑問、人ならざるものなのではという疑問などは別段持ってはいないようで。
老紳士を見る少女の視線は見つめるというよりは睨みつけるに近く、されど口は笑みを崩さずにいた。
6ラビム◆PL3LCLEHis :2018/01/31(水)21:28:08 ID:aTk()
>>5
ふと自らの足元に伸びる影に、老紳士は気づいた。
彼自身は影を作らないから、それは背後にいる誰か他人のものだとすぐさま分かった。
太陽の光は彼を素通りしていく。影もまたそうであった。

「……やはり、来ましたか。」

ゆっくりと体ごと背後に振り返り虚ろな視線を向けた老紳士はしかし、それなりに穏やかともとれる表情をしていた。
まるで自分の庭にでもいるように。とはいえ、そこに訪れた女は庭の草木に遊ぶ雀と同じようでは到底なく、明らかな武装に身を包んだ容姿と今にも獲物を狙うかのような表情に、老紳士は内心気圧されていた。
さながら庭に突如として這い入ってきた熊に驚くように。表情はそのままに、擦るような足の動きが老紳士の身体を僅かに後方へと向かわせた。

「……ええ、いつもこのような感じですよ。
……でも、あなたの性質次第では、退屈が退屈でなくなるかもしれませぬ。
荒事はできませぬが、それに及ばない刺激程度は求める身でしてね――」

最低限の肉体性が本能的な恐怖を惹起するにも関わらず、似合わぬほど穏やかな表情はそのためだった。
予感に似た期待があった。それに応えたのが彼女なのだろう。そう運命の恩寵を噛み締めて――

「――随分、お強そうですね。普段は何を?」

人が普段世間話をするのと全く同じ調子で、そう問いかけた。
睨み付けるような女の視線はしかし、老紳士の虚ろな身体が今にも女の大きな影に呑み込まれそうな印象を受けるだろうか。
7ガルディア◆R7iX.lD3rE :2018/02/01(木)00:49:55 ID:iUM
>>6
荒事はできない___。その言葉に呆れたように息を漏らしそして機嫌を損ねたことを露骨に表情に表した。機械腕も拳を作りそれをぶつかり合わせ轟音を鳴らしている。
ここまで分かりやすく苛立ちを示したがそれを老紳士へぶつけようとはしなかった。

「別に何もしちゃいねェよ。ただ本能のままに欲望を晴らしてるだけだ。誰かに"協力"してもらってな」

少女は気怠そうに問われたことを答えた。少女の言う通り普段していることといえば極めて本能的な、自分の欲を晴らすという事だけ。

今日も手応えのある獲物を探して徘徊していた。しかし今、目の前にいるのはどこか虚ろな老人。少女は彼に対し少し小突けば倒れてしまいそうな印象を受けていた。
そんな者を傷付けても逆に鬱憤が溜まるだけだ。
故に自分の中にある嗜虐心、破壊欲、支配欲は満たされないと考え、柄にでもないが人の話に付き合ったのだ。
8ラビム◆PL3LCLEHis :2018/02/01(木)21:46:56 ID:cnn()
>>7
「(……おやおや。)」

一目で明らかな女の苛立ちを前にして、老紳士はやはり怯えるでもなく、しかしやや意外という風な表情をして、その様子をしげしげと観察する。
自分がこれまで見てきた人なり知的生命は、先ほどまでのような言動をしたからといって怒ることは滅多になかった。つまり、彼女は特異な例である。
その苛立ちの背後には何が横たわっているのだろうか。疑問に思っていると、程なくしてヒントが彼女自身の口から明かされた。

「……欲望、ですか。」

随分わかりやすい答えだ、と思ったのも束の間で、本質的には疑問が氷解していないことに老紳士は気づく。
ようは欲望が満たされないから機嫌が悪いのか。腹を空かせた子どものように。
しかし、私を目の前にしては満たされない欲望とは何か……?
それに、人は不可解なものであり、時には生命に相反する死をも欲望するものだ。なら、何を欲望してもおかしくないわけで、老紳士にはまだそれが分からなかった。

「……私ではその“協力”相手たりえない――そういうわけですね?
では、どのような者ならば貴女の欲を満たしえますか?」

底の見えない深淵の瞳が彼女に問いかける。それもまた“知識欲”という名の欲望だった。
9ガルディア◆R7iX.lD3rE :2018/02/02(金)02:29:17 ID:wH0
>>8
どのような者なら自分の欲を満たし得るのか。
本能で動いていたから、そんな事は一切考えたことがなかった。故に問われてから少女は一考した。
思考するために逸らしていた真紅の瞳を、考えがまとまったのか深淵へと戻す。
その時の表情に苛立ちはなく、再び鮫のような歯を見せて笑っていた。

「そうだなァ。威勢の良い奴、正義感の強い奴とか良いんじゃねェかな?
オレの話を聞いただけで許せないだのなんだの鳴いてきやがる
そんで殺そうとしてきたり更生させようとしてきたり、色んな手を使ってオレに刃向かう
でも最後には無様に命乞いしたり殺してくれーって頼んできたりするんだぜ?それが最高ってんだ
くだらねェ正義感や信念、そんなもん簡単に壊せるんだよ」

口数の多くなった少女はまるで夢を語る子どものように楽しげに話す。
自分の力で誰かを傷付け、壊し、支配したい。それが彼女の欲望。
もはや麻薬のように取り付き、彼女自身もそれに陶酔しきっていた。力を得た少女はそれでしか快感を見出せない。

「人を嬲る時にいつも思うんだ。なんでこんなに楽しいんだってな」

食欲、金欲、様々に欲望があるように自分の中にあるその欲望は当然のものだと、求めるのはおかしくないと少女は考える
喋りすぎたと思ったのか話すのをやめ老紳士の反応を待った。
10ラビム◆PL3LCLEHis :2018/02/02(金)20:18:09 ID:GcS()
>>9
「ほう……」

老紳士に脅威を与えたあの表情のまま、女は自らの“欲望”を語る。
尤も、彼はそのときになると最早同じような感覚は抱いていなかった。ただ、問いという空虚が綺麗に隙間なく満たされていく、その特有の心地よさに魂を浸しているのみ。

「納得ですよ……確かに私には正義なるものは分から“ない”。それに貴女に刃向う力も“ない”。
ただ、その虚無を埋めたいと、知識を求めるのみ。

――今度は……貴女がどう動くかを見せてもらっても構わないですか?
この国では三つの勢力が入り混じって攻防を繰り広げています。

その技術力と資金力を背景に市場を独占し、搾取を繰り返す大財閥『コンツェルン』、
それに抵抗する異能・魔法の持ち主たちによって構成される組織『同盟』、
そして、それらの抗争によって脅かされた市民の安全を守ろうとする『共和国』政府。

皆それぞれ違う理由で戦うでしょう。
貴女のように単に戦いが好きという者もいれば、貴女が望むような強い正義感の持ち主もいるかもしれない。
何にせよ、貴女が戦いを望むのならば私はそれを否定しませぬ――それが貴女の“物語”ゆえに。」

沈潜するような調子でそう結んだ。辺りがごく自然に静まり返る。
今も向こうの都心で進むビル建築工事の音が微かに聞こえる。より近くでは、貧民たちの気持ちばかりの生活音が聞こえる。
ここが――――“物語”の舞台である。
11ガルディア◆R7iX.lD3rE :2018/02/02(金)21:05:25 ID:wH0
>>10
「オレは財閥だの組織だの政府だの興味ねェ。
だがそいつらが闘いをおっぱじめてるってなら話は変わる
ははは……いいねェ、まだまだ楽しめそうだ」

状勢を聞いて少女の胸は恋をしたように高鳴る。
想い焦がれた闘争が、愛すべき蹂躙が、少女の元へと訪れようとしているのだ。
正義に満ちた者、異能を持つ者、同じ欲望を持つ者。
嗚呼、壊したい。支配したい。

感情が漏れ出したか、恍惚の混じった溜息を吐き出す。
そして少し間を置くと踵を返した。

「じゃあな、知りたがりのおじいさん。せいぜい死なないように生きるんだな」

背中を向けながらヒラヒラと手を老紳士へ振り、機械腕もその手と同じような動きをして見せた。
少女が歩みを進めれば、"物語"の舞台に無機質で猛々しい機械音が鳴り響く
破壊と支配を渇望する少女の"物語"は、これからどう紡がれてゆくのだろうか_____。
12ラビム◆PL3LCLEHis :2018/02/02(金)21:22:43 ID:GcS()
>>11
「…………」

無言。無心。目の前の相手を観察するに言葉も心もいらぬ。
ただ空虚な霊魂が老紳士の逆説的な本質ゆえに、女の有様をありのままに受け止める。

不思議、だがごく自然な感覚だった。恋に焦がれる少女ならこの目で何度も見てきた。
それと似ている。表情も息遣いも、語調もだろうか――――
数多くの群像が彼女に重なり、その抽象的で輝かしい本質を、錬金術のように霊魂の前に現前させた。

「ええ……“死”、それも私の興味を引き付けて止みませぬが、まだ早い。
貴女の――あなたがたの運命を見届けましょう。それが“観客”の本分。」

女が去っていく間もずっと彼は立っていて、役者が舞台に立つのを見送っていた。
混じりけのない虚無。事物をそのままに受け止めるにはあまりにも模範的な視線であった。――――
13城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/06(火)19:53:05 ID:7mY()
城。それは白亜の、中世風の。
もっと近くで見てみよう。それは老人の皺のような罅、黒い沁みを、また崩れ落ちた角質のような瓦礫を見せ、幻想を打ち砕く。
長らく打ち棄てられたそれは、風雪に曝され、尚も形を留め、逆説的な力強さを見せつけている。

その敷地内。欄干に囲まれた広々とした高台。見下ろすのは、深く広い堀。
水面は昼過ぎの陽光を複雑に照り返し、さながら大量のダイヤモンドがぎっしりと密集しつつ浮かんでいるかのようだった。
強い寒風が明瞭な音と共に何度も吹き、水面を揺らす。そのたびに勢いよく波が発生し、更に大量のダイヤモンドをばらまいた。

「……――――」

黒いコートの男は、その光景に言葉無く見入っていた。
両腕を欄干にかけ、下半身は脚をクロスさせて片足だけが地面を踏むという彼好みの洒落っ気を持たせた格好で。
寒さは平気だった。しかしあまりに強い冬の風に身が揺られ、思わず両足立ちに姿勢を正してしまった。
そんな自分自身の様子にも「フッ」と感慨の笑みを漏らし、冷え切った顔面に僅かな温もりを取り戻しては、芸術鑑賞を続ける。
一刻、一刻。時が過ぎていった。

//ソロールでも絡み待ちでもいけそうなのを一つ
14ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/07(水)03:05:24 ID:VBg
>>13
フィールドワーク。独自調査。そんな一環で、こんな辺境まで取り留めもなく辿り着いた。
すくざくっ、と、歩みゆくブーツが踏みしめるのは、風化して泥となった微かな粒。ああ無常。
手ごろな石を蹴飛ばすと、水面には、波。


「  穴場スポット、だな。そんでもって──どこにだって、繋がれそうだ」

ああ、こういう濃い遺跡には、たまによくあって、不可避なんだ。
 ──残留思念。
《悲願を果たした革命団長が、アバンギャルドな旗をたかだかと掲げた》

脳裏にそんなビジョンが、

《夢見し世界の果ての果て。救いをもたらす王子様。何の効果をも持たない、無欲の剣デュオス。そして叶わぬ少女革命》

途切れ途切れのテープのように描画された。



西洋の城をとりまく死生観に、輪廻はない。
  ただ一度きりの人生で、如何にして幸せを遂げるか。
限りなく高められた執着は、目には見えない幻想テープとして、ふとした拍子に自動再生される設定で、世界にこびりつく。


「審美眼って眼差しだったな、お前。  何か見えたりしたか?」

深く行こうとすれば、どこまでだって深奥へ行けるし、
何も見ようと思わなければ、生きながら死んでるも同然なくらいの他者になれる。
大事なのは、ちょうど良いバランスをとることだ。


冬の光を砕きゆく銀の瞳は、その虹彩が、雪のような淡い希望で満ちている。
俺はいつもそんな風にして、光との、世界との調和を図っている。


ふきすさぶ、一陣の風。
失われた時を求めるようにして、俺たちはここに居るのか。
今は亡きプルーストが、紅茶を啜り、感嘆をついた。
15城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/07(水)19:23:05 ID:1rW
>>14
「――ああ。見えるさ。
でも何(what)が見えるでもない、ただどうやって(how)世界が移り変わるかだけが見えている。それだけで十分さ。」

どこの誰かも分からないその声に、男はごく自然に応えた。
稲妻の走る空が光で満たされるように、魚が波に乗るように。
それは彼が世界との調和的関係を今、どんなときよりもこの上ないほど享受しているからなのだろう。
彼らの下には同じ風が吹き遊び、その間で声を媒介していた。

「ファウスト……って知ってるか。
風、石、水、土、木、光、雲、精神――
世界に縦横と蠢く諸力、その奥底に何が秘められ、全ての手綱を引いているのか、それが知りたい……と。

あえて求めるものがあるとすれば、それかな。
けどそれはいつも俺の頭の中の偶像に過ぎなくて、ただ変わりゆく風景だけが目に映る。
それでも、不思議と不幸せにはなれない。」

水面にさんざめく複雑な光の数々。それは確かに、この城の今は失われた栄光の時を偲ばせるマドレーヌの香りに他ならないのだろうが。
男は、その栄光のやや向こう側を見ているようだった。そこに何が映るともなしに。人はそれを、"未来"と呼ぶ。
16ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/08(木)21:03:50 ID:QyH
>>15
形而上。
「学問を知り尽くしたファウストは、次に実体験を求めたけど──それにもきっと、終わりはあるんだろうな。
全て体験し尽くしたら、ネクストステージは何だ? 知識、実体験、『ナニカ』、『超ナニカ』──、終わりはない。満ちることはない」


「それでも、"未来"だけは、無条件で美しいと、俺もそう思う。五感は俺たちに『生きろ』と奮いたたせる。それは生物としての本能なのかもしれないけど──」

「Hallo,world of Legacies.Though no where,──Now here」
“おはようを告げた世界。それがもしもどこにもなかったとしても、それでも"わたしたち"は確かにここにあり続ける”



「敢えて具体性を伴わせてしまうのなら、
俺は、ただ心のあるがままに、
──そこから生まれた感情や発想に、決して言葉によるラベリングを施さないで、
感じたそのままの温かさを忘れないよう、胸に手を当てて、ただ、瞳を綴じる」


「だから」

"未来"に、想いを馳せる──。



やがて、鳩が訪れた。欄干上をスキップのように跳ね歩き、オリーブを咥えている。

でも、全く同じ瞬間に、どこかで別の鳩が死んだ。病気で死んだ。肛門と爆竹で死んだ。人間を殺した後に死んだ。料理ベタが砂糖と間違えて死んだ。
ふとした間違えで精神が肉体から乖離して死んだ。


だけど、──この世界のどこかで、──雛が孵った。

オリーブを咥えた鳩が、君に、プレゼントを贈るような丸い眼差しをする。
17ヘレネ◆USPiH/O7pk :2018/02/08(木)22:43:38 ID:GQs
夜になれば昼の住民は寝静まり、それと入れ替わるように闇の住人が活動を始める。密売人、或いはモンスター、そしてこの街においては―――魔法少女。

「あの方は今日も見つからないか…」

街の中でも一際大きい、恐らくそこから見下ろせば街を展望できるであろう建造物の最上から、ほとんど明かりの灯っていない闇夜を見下ろす影が一つ。
よく見ればそれは、少女だと分かる。ブロンドヘアーを伸ばし、透き通るような白い肌、そしてこの闇夜ですら灯せそうな蒼い眼をしている少女だ。その姿はあまりにもこの場に似つかわしくなく、何か神聖なものすらも感じさせる。
そして、何よりも特徴的なのはその街における超お嬢様学校の制服を着ていて、その学校の生徒会の証を身につけている事である。すなわち、黒百合学院生徒会への所属―――魔法少女である事を意味していた。
そう、ここは魔法少女の街。魔法少女の戦場。魔法少女の監獄。魔法少女管理都市―――――瀬平戸市である。そして、彼女こそが全ての魔法少女を統括すべく暗躍する黒百合学院副生徒会長、ヘレネ=ザルヴァートル=ノイスシュタイン。

(あれから生徒会長は行方不明のまま、今は私が代理として生徒会をまとめ上げてはいるが、やはり会長の求心力は凄まじい。彼女が見つからない不安からか士気は以前よりも下がっている…あぁ、全くもって面倒な状況だ)

あの事件からどのくらい経っただろう。生徒会に従わない勢力との戦闘中に、突如辺り一面が光に包まれたのだ。生徒会のメンバーはほぼ全員がそれに巻き込まれた。
気が付いたら全く見知らぬ土地に飛ばされていて、しばらくしてようやく戻ってきたが生徒会長は以前行方不明のまま。
世界が融合した際に生まれた膨大なエネルギーによって生まれた光によって強制的に転移させられたと知ったのは後の事である。
それからは毎日のように会長を捜索してはいるが、未だに手がかりは何も発見されていない。

(とっくに死んでいるなら死んでいるで死体でも見つかれば良いものを!そうすれば皆諦めがついて私が会長の役を引き継ぎ、全ての権力を以て連中を皆殺しにしてやるというのに!
士気が下がっている事を悟られて反生徒会の連中につけあがる隙を与えたら面倒な事になるじゃないか!あのグズめが!)

ヘレネは内心悪態をつく。事実、最近になって反生徒会勢力の抵抗が激しくなっているのだ。
その上、絶対的な求心力を持つ会長が長期に渡り行方不明ともなれば士気が落ちるのは必然。それを相手に悟られれば付け入る隙を与えてしまう事になる。なんとしてでも、会長を見つけ出す必要があるのだ。

「せめて手がかりさえ見つかれば…」

ヘレネは深いため息をつく。答えるものはいない。冬の寒さで白くなった息は、そのまま闇夜に溶けていった。

/導入のソロール的な、絡み待ち的な
18城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/08(木)23:30:58 ID:pH6()
>>16
――――そこで
――――ふと、我と我が身のめぐりを顧みて
――――男は、自他未分離のゆりかごから眼を醒ます。

「……なんだか、不思議な気分だな。でもって、不思議な奴だな、お前。
……ふっ、こういう経験をすると、否が応でも語彙は貧弱になっちまう。この堀の輝きを見てるときもそうだが。」

その体験を表す言葉はないから。本当に美しいものを前にしたときに、言葉は光に呑み込まれる闇に均しい。
だから、“芸術”などという言葉は本当はどうしようもなく空虚なものなのであって――

「今お前が感じていることもそうだ。あんたは言葉から"距離を置いてる"。
でも、言葉を否定しているわけじゃない。それは装身具みたくあんたを美しく飾ってる。」

そう話している内にも、一つの“未来”が確かに訪れた。
皮肉である。オリーヴは平和の象徴であるが、この世界は戦乱の真っ只中である。
こういう出来過ぎた展開があると、ますますこの人生が秀逸な戯曲じみて、にやけ顔で神の手腕を素直に評価したくなる。

「――で、あんたも未来を見つめるとわかった。
どんな“未来”がいい?資本主義の関係網(Konzern)か、失われた幻想の時代の復古集結(alliance)か、それとも名もなき市民たちの共有財産(republic)か。
それとも……――」

3つの分かれ道がある。どれも荒れ果てているが、頑張れば通れないわけではない。
でも、与えられた道をなぞるだけが、やれることなのか?
人ならばそうだ。だが、人は人と超人の間にいる。その間の深淵に投げ渡された綱が、確かにある。
渡るか、どうか。
19琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/09(金)18:20:37 ID:4xq
目覚めると見知らぬ天井があった。いや、それは岩だ。此処は洞窟の中だろうか。

「うーん、……夢?」

頬をつねって返って来たのは確かな痛み。此処は現実ということだろうか。
眠りにつく前の記憶はある。いつも通りの日々を終え、いつも通りに自室のベッドで眠りについた筈。

「まさか誘拐!?」

その割には手足も自由で洞窟の入り口も開け放たれている様子。
改めて周囲を見渡してみると、祭壇の様な祠の様なものがこの空間の中央に存在している。
その上には木製の弓と三本の矢が入った矢筒、そして小さなナイフ。それらが安置されるかの様に置かれていた。

とりあえず誰の物かも分からないそんな物騒な物には手を付けないで外を確認しようと足を運ぶ。
外に出る直前まで逆光に照らされその景色は見る事は叶わなかったが。
――――洞窟を抜けるとそこは異世界だった。

そう、少なくとも私の元居た世界には空高くを飛んで火を吐くドラゴンなんて居なかったのだから。
其処は森の中にある大空を見渡せる拓けた崖の上だった。

「これって所謂異世界モノなのかな?」

一応現代っ子、若干ながらもそういう系の知識は持っていた。

「凄い凄い、こんな事って本当にあるんだ!」

非日常を目の当たりにして最初に心に湧きあがったのは感動で。
そして異世界に来たのなら武器は無いよりはあった方がマシだろうと、さっきの弓矢やらを取りに戻ろうと振り向くと。
其処には洞窟なんて存在しなかった。

武器無し、食料無し、土地勘無し。現在地は森の真っ只中。
無い事尽くしの異世界漂流が今、幕を開けた。


/始動ソロールと絡み待ちを兼ねて、今日は置きになると思いますが明日の午後から動けます
20ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/10(土)02:23:51 ID:I2k
>>18
「個人的には幻想を推すけれど、」
空虚。ただ白だけが横たわっている。カタチのない精神は、溶けて、白い空虚となりやすい。


「でも、それならもう、心に決まってるんだ      ──一旦全部、解体(バラ)したい」


   何か、噴き出す      ──  俺の、記憶。

思い出される感覚に、苦渋をしかめながらも、続ける。
「壊すのとは違う。解体──分解だ。他の何かと繋がりやすいように、接続詞だけは残しておく。」
ネクステージ。

「脱構築……とかいうのかな。
秩序とか、簡潔さとか、普遍さとか……そんな風にして、今現在はくっきりと輪郭を与えられた各勢力が
  アウトラインを溶けさせられて、ひとつとなってしまえばいい。どこかに偏ることなく、均一に」
それだけが"未来"。調和。


「溶けあうことで、各勢力とか、文化とか、そういうものに少しずつ共通性が生じて──そうなってしまえば、みんな同じ生命体だ。戦争なんてくだらなくなる。
好きな小説を語り合える相手っていうのは、嫌いになんてなれやしないんだ」
融け方が、甘い。まだ、表層的な発想のまま生じて
、そのままの世界。産まれたての赤子。心からのそのままの言葉で、思考を与えなければ。
融合現象というほぼ災害に襲われたものなら、俺たち意思によって復興を施さなければ。


「戦争によって、それぞれの勢力は、それぞれ自身の確かさを結果で証明しようとしている──みたいに、いくらバラしたって、確かになりたがるから、
だからどんなにバラしたって、それはいい感じに再構築されるだろうから、


  きっとダイジョーブだ」
21ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/10(土)02:24:04 ID:I2k
      …   …………    ……
         …… ……   ……──!!
          …   ……
「こんな、日常茶判事で“融合現象”に生じられるとさ、不安定に晒された俺たちは、どうもフィクションみたいな人生を送っている感覚に陥りがちだ。  けど    」
「人生を、ひとつの"物語"というスケールで捉えて─未来はだから、可能性だから─ だから今 この瞬間を、何度だって繰り返してやる」
永劫にだって回帰してやる。


 氷       青い     Lハーモニー
       愛        脂      
     親衛隊士    トルストイ2号    絞殺獣
  Mバランス    肉機械   オールド=ゲロ=テクノ           テルリア     ゼロエントロピー
    ドストエフスキー3号   原初の光   こた、えろ!
こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ! こた、えろ!



再構築される、俺。
──……瞳は虚銀を、髪は実存銀色を帯びた。


オリーブ鳩の傍に、ナノマシンの集合体が飛来する。鳩は自らの意思でカラダを差し出す──ナノマシンが全身を喰らい尽くし
          ──再構築。
俺専用の伝書鳩となる。咥えていたオリーブはある文書に再構築されていた

くちばしによって器用に文書は開かれた────
22城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/10(土)19:52:14 ID:KAT
>>20-21
「……」

“それ”は正に“超人”の宣言だった。
力強く、遠大。眼下に口を開ける深淵を前にしてそれを恐れず、綱渡りを厭わない。
“融合世界”という深淵を前にしてぶち上げられた、解体と融合の見事なヴィジョン。
見事過ぎて、あるいはそれは福音にすら聞こえるかもしれない。

——福音?しかしそれは、神なきこの地平において——かつて哲学者が告げたように——最早妥当性を認められないものなのではないか?
純潔な空気の中に、突如として濁りが生じた。男は、「超人」を志す者が得てして陥りがちな、逆説的な運命に思いを至らせ、思わず悲痛そうに表情を曇らせ、視線を目前の男から逸らしてしまう。

「——ダイジョーブ、か。ああ、そうなることを祈ってる……」

大丈夫。ダイジョーブ。No problem. Que cela cela.
言葉は全て空虚だって知っている。でも今となってはそれだけが魂を安らえさせるおまじないだ。
皮肉だな、と思って男は再びやや笑みを取り戻して。

「——それがお前の“再構築”か。
確かに『ダイジョーブ』とでも言い聞かせないとやってられないだけの“危うさ”は感じる。
けど……言い尽くしがたいだけの“面白さ”、“美”はある。
“美”——それだけは、いつまでも忘れてやらないでくれ。」

でないと、人は生きる意味を失ってしまうから。
危ういがしかし刺激的に平衡を保つ感覚のまま、開かれる文書の内容を待った。
23ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/11(日)01:25:23 ID:C22
>>22
◆◇◆◇◆◇◆◇伝書鳩による文書◆◇◆◇◆◇◆◇

  〝雑談スレの>>83の、キャラシート〟、そのもの。それが文書。
   ヘルベティカ体──ぞっとするほど等間隔に美しく並ぶフォントで、綴られていた。
  
◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


キャラシート。俺の朱肉つき。経歴書とか、履歴書とか、自己PRとか、そう呼ばれたりもする。
多文化的な企業とかが、これから行動を共にする新メンバーにあらかじめ書かせたりしている。融合以前にいた世界などの、差異を理解するために。
第三者的な記述。見せられるものしか書かれない。それでも、少し知ってしまうと、だから逆にもっと知りたくなる。


理解を深め終えた。青い機械によって拡張された鳩が、終わりを見計らうと、くちばしを強く擦りあわせ、発火させた。
朱を帯び始めた冬の冷たい光に、微かな燃光を尽かしつつある文書。
役割を果たしたのは文書だけでなく──鳩も。鳩は自壊する。粒子レベルにまで分解されて、散った。青い光を伴って。

灼け去る塵や、光去る青い粒子を虚ろに眺め、
「──  清々しい」


「忘れない。美し過ぎると、なにがなんでも神の所業にように、理想主義になってしまうから──」
神は死んだ。
「泥臭くやる。糞みたいな醜さを、讃えていこう。ダイジョーブさの可能性を、せいぜい高めておく」
24ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/11(日)01:26:44 ID:C22
>>22/続き


神は死んだんだ。それはいいことでも悪いことでなく、人間に対する事実に過ぎない。
自然から乖離しつつあるわたしたちは、わたしたち自身で枠組みをつくっていかなければならないということ。
我々は決して神ではない、決して成れない。でも、人と超人の間でもできることは、想像よりも遥かに多かったりする。
人の未来の、人に祈ろう。




感知。
鳩を再構築したナノマシンは、俺のカラダを巡るらしい青い脂が引き寄せたものらしい。感知できる。青い脂が、第六感の追加をもたらしたから。
〝青覚〟、と呼ぶべきか。
キャラシートにも書かれていた通りに、内宇宙とも呼べるインナースペースに──どうやら獣が棲息しているらしいということも、感知できる。


試しに、ジッパーを開き──覗きだすのは、青黒いスペース。両腕をおしこむと、ぐちゃぐちゃの精神のような、肉のような、抵抗がかえってくる。
探る。〝青覚〟を研ぎ澄まし、──見つけた。
心の底から、引っ張りだす。


ここは、湖面に取り残された、ひとりぼっちの風化城。残留思念は城という単位で結合されて、それはきっと寂しんでいる。どことなく憂いの森に囲まれて。
冬の太陽と空の間、静かに空いた世界に。──憧れてしまったかのように、生まれる────


  青黒い、犬?。人間の二倍のサイズ感。
青い羊水に塗れても、がくがくと慣れない脚を、徐々に立たせる。犬自身も青い脂身を、所々剥き出しにしている。
既に成人している。後はもう、完全に立ちあがるだけ。

「犬が大丈夫になったら、」
ヴィクトル・ペレーヴィン
 「絞殺獣  に、乗って帰ろうと思う。──近くの都市まで送り届けるよ。お前さんも、どうだい?」
夕暮れのような、"美"以外の思想を明るみにしていない、名前も知らない相手に、尋ねる。
25城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/11(日)11:59:27 ID:xzn()
>>23-24
「(――どこかに所属しているのか。この技術からして、『コンツェルン』辺りか?)」

推測を深める。それは紛れもなく深淵であり、泥沼であり、一度足を突っ込んだが最後、最後まで関わりを持ちたいと思うようになる。
いや、融合世界の総てがそうかもしれない。深淵は今ここに、総ての次元と時空を包む大口を開けたのだから――――

「“戦慄”の美というのもある。整いすぎていることは機械みたいでかえって気味が悪いからな。
本当のハーモニーには不協和音もまた必要ってことさ――。」

美と醜の入り混じる深淵では、“あれかこれか”の思考なんて通用しないのだから。
“あれもこれも”。神は絶対たることに執着しすぎて、逆に相対的なるものに殺されてしまった。
整った白皙の顔立ちに不思議と矛盾しない傷と煤だらけの黒コートを寒風に重々しく翻しながら、男は次なる相手の所作を見守った。

「――――フッ」

正に戦慄。人が人自身の規定性を食い破っていくかのような。
解剖学、とは少し違うのかもしれない。あれは所詮、死んだ化石を標本にするだけなのだから。
生きながらにして自らを解剖する、あるいは、その場その場で決断し(entschließen)、生きることそのものが自身の生理学的な開示(Entschlossenheit)である、そういうことなのかもしれない。

ふと、自らの左腕の“悪魔の腕”を両者の目前に擡げる。それが何よりの身分証明だと知っているから。
赤黒い腕の彼方を見つめる赤黒い瞳は、青黒い獣の到来を欠片の揺るぎもなく見届けた。
あるいはそれも、一見静かな彼の内面の一部かもしれぬと思いを馳せながら。

「ああ、助かるぜ。暫くはあの都市が本拠になりそうだからな。
俺は城ヶ崎 廸久(じょうがさき みちひさ)。魔術師だが――とりあえずは傭兵稼業で食っている。
今はこの“戦争”をいい塩梅で終わらせるために――あんたの謂う“脱構築”を果たすために動いてる。
そのためには、どこの勢力も決して圧倒的になっちゃいけない。“差異”が潰されちゃどうしようもないからな。」

獣が準備を整える間を利用して、簡単に述べる。
その表情や仕草に忌憚はなかった。
26ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/11(日)20:54:27 ID:C22
>>25
獣はゲロを吐く。生青い酸液が容赦なく風化砂の地べたにぶちまけられた。
バランスがとれない──後脚を引っ張るように取りつく、異常肥大している脂塊が邪魔だ──!
頭を高々と擡げ、そして上から目線で不愉快の原因に照準を定め、

アタマをぶんさげる。ハンマーのように振りおろされ、脂身に、喰らい尽く──黒い牙によって、容易く削り取られ、

──べちゃっぁ、っと彼方へ吐き出す。


飼い主を認識。同調が行われる──Mバランスが平衡化され、Lハーモニーの調和が完了した。




差し出される腕。
(色のない世界において、お前も黒側"ブラックサイド"の人間か。決して齎される白い光には、英雄には、なれない。けど──)




常態の四足歩行になる、青黒い獣。──眼の前の黒い男を、上から下まで見回す。
<item>

<赤黒い腕──悪魔?。煤と黒コート。黒寄りの、人間性。信頼の蓋然性十分>
</item>

<clear──?>   </allclear>
がらがらの瞳に、生気が真ん中に宿る。やがてふたりに背を向けた。
27ヴァーチ◆UXImUYsv7eVA :2018/02/11(日)20:55:17 ID:C22
>>25/続き
真っ先に飛び乗るヴァーチ。
そして、手を差し出す──

(英雄には到底できやしない、醜くも美しい在り方。そういう、最高密度の黒色だ)

「  виртуальн  ──ヴァーチだ。よろしく」


握手のように。そして、引っ張りあげるように。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄
風化城は、既に限界だったのだろう。出発の途端に、ひとつ崩れ落ちる。立て続けに幾つもいくつも崩れ、湖面へと叩きつけられる。
さらば。

振り返ることもせず、青黒の獣は駆けた。冬に溶けつつある夜の匂いを嗅ぎ分けて、最高速度でつっぱしっていく。
雪の森。山。熊。雪原。星空。北極星。溶けない小川のせせらぎ。

そして──、


開ける、   煌びやかな黒の光──。
州間高速道路、中央自動車道。そういう整備された、道。
静かさのバイクが音もなく背のほうへ通り過ぎていく。
天蓋無き高級車がテールライトの尾鰭を道路上の空に描きながら、遠く後方へと去っていく。
絶え間はあるが、断続的に、マシンの交通が繰り広げられる。
ここは、まだ郊外。近郊産業が流行っている──中央を眺めると、それは



    ──摩天楼。ライトアップビル&タワー。広告挺。
     ──『共和国』の、中枢都市。


まだ、近づく時ではない。強く睥睨すると、もう二度と脇目にもしなくなる。



到着。

「戦争は、一度起こってしまった以上、どう収拾をつけるか。理想を企てるのでなく、極めて現実的に処理していかなくちゃならない。」

郊外の、煩雑な街路。おおよそ、繁華街か。
そこの──デッドスペース。複雑化した都市において、誰の目も届かない、プライバシーの秘境。
おろす。

「表層的なところでは、確実に目標の一致した、同士だ。それなら、またすぐにでも会えるはず」
28城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/11(日)22:51:15 ID:xzn()
>>26-27
「――ああ。」

差し出された手に、城ヶ崎は迷わず左の悪魔の手を返す。
そして取る。普通は、人間のままの右の手でなければ握手には応じないのだが――
しかし、単なる信頼関係とは違う、思想上のベクトルの一致――あえてモダンな言い方をすれば、世界理性が矛盾なく彼我を調和させるようだから――により、ヴァーチを単なる他人と見做さなかったからだ。

引っ張り上げられ、獣の上に乗る。
“失われた時”に別れを告げ、彼らは山野へと赴く。
『共和国』の領土内でありながら、およそ人の手の加えられていないであろうそれを駆け抜け。
そして彼らは、コンクリートと鉄とネオンの森へと辿り着く。
まるで人類の歴史を辿るパノラマのようで。圧巻の速度で繰り広げられたそれに、城ヶ崎は思わず眩惑されたようになった。

「理想主義者ならとっくの昔に卒業している。
いや、理想が現実で肉付けされつつあるというのがいいんだろうな。理想は――決して死んだわけじゃない。」

街の喧騒が耳に入りながらも、光までは完全には届かないような、都市の裏側。
交わす言葉は闇の中を何度となく跳ね返り、決して表には出ない。

「ああ。世界の行く末を見つめていれば――必然同じところに辿り着く。
じゃあな。」

そして闇は完全なる闇となった。
29ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/11(日)23:41:06 ID:hRe
がたん、ごとん、といくつもの荷馬車が列になって山道を行く。
なだらかな坂は左右を青々とした木々に挟まれているが、天頂から降り注ぐ陽の光を不自然に遮ることはない。
鬱蒼とした、というよりは長閑と言った方が相応しいだろう、そんな道だった。

彼らはいわゆる行商隊だ。街から街へと物資を運んで利益を得る、流浪の商人達。
今もまた商売のために、山を越えて次の街へと向かう途中であった。
そして商品を守るために一時の護衛を雇うのもいつものことだった。
特に山道などなにがあるか分かったものではない。野生動物ならまだ可愛いものだが、物資を求める盗賊などに遭遇してはひとたまりもないのだ。
だから彼らは行商において、必ずその間の食事と幾許かの報酬を約束して行きずりの者を何人か雇う。

さて隊列の最後尾、商品を積んだ馬車に後方を向いて座る少女が一人いた。
真っ黒な髪とローブが風に流れるのに合わせるかのように、投げ出した足をぶらぶらと揺らしている。
頭頂部の獣耳がたまにぴくりと震えて葉擦れの音に反応した。
商人達に雇われているのならば、最初の顔合わせで名前くらいは覚えがあるだろう。とはいえまだ互いにそれだけの関係だ。
少女の横顔はどことなく退屈そうで、空を仰いで手のひらを陽光に翳していた。
30城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/12(月)00:12:41 ID:yWh()
>>29
同じく隊列の最後尾。
雇われた護衛の一人である黒いコート、銀のアクセサリー、そして赤黒い左腕の男は、頻りに辺りを見回しながら徒歩で隊列に付いて行っていた。
――――しかし、やがて彼も少女と同じような気持ちを共有しつつあるのだった。
辺りを見回すのは警戒のためという名目だが、こののどかな田園風景、賊や魔物が現れそうな不穏な雰囲気もなく、やがて男の関心は横の馬車に腰掛ける少女に向けられることになる。

そして――――少女が手で陽光を遮るまでもなく、歩み寄ってきた男の影が少女の元に伸びた。

「――――幸い、この辺りは平和そうだね。
これならちょっとしたデート気分でこの任務を終えられる――そうは思わないかい?」

それが第一声だった。
あまり話さなさそうな子だ。どういう反応が返ってくるか、あるいは返ってきたとしても、それが好意的なものであるかどうか。そもそも年齢の差が――――
そういう見通しは、必ずしも良くないとは分かっている。
けど、このまま彩りのない任務を遂行し、冷たい金属でできた丸く薄い小さな板を貰うだけだというぐらいなら――――そして彼は一介の傭兵たることをやめ、一人の“男”としてそこにあった。
彼の表情は、ただ機械的に辺りを見回していたときよりは幾分と生気に満ち、愁いを帯びながらもそれだけに明るすぎない優しさに溢れていた。
31ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/12(月)00:51:27 ID:QAu
>>30
手のひらで太陽を隠しても指から溢れる光に目を細める。少しの後悔が眉間に浮かんだが、すぐに別の影に遮られた。
男の声には顔だけをそちらに向けると、声をかけられたのが意外だったのかやや首を傾げる。
光を掴もうとした手はまた所在なさげに荷馬車の縁に添えられた。

「デートにしては、少し退屈すぎるんじゃないかな」

少女はなにを考えているのか悟らせない、あるいはなにも考えていなさそうな表情で返す。
とはいえその声色から、男に対する警戒心や敵意は感じられないだろうが。
やはり同様に何事もなく目的地に辿り着けると考えているのだろう、少女は束の間の暇潰しに付き合う事を決めたらしい。
ふと少し顔を上げて道端を覆う深緑を見やる。また風が葉を揺らした。
かれこれ数時間は同じ景色だ。ここまで順調な道のりに、周りの空気もどこか弛緩しつつある。
でもまあ、とエメラルドグリーンの視線を男に戻す。少女の方が見上げる形だった。

「楽にこしたことはない、と思う」

誰だって楽をして利益を得たい。国が違おうと世界を隔てようと、誰もがそうありたいと願うだろう。
社会に浸かる人間ならば誰しもが考える、ある種普遍的な理想の形。
ただそれを口にするのが、まだ自分の身で稼ぐには些か幼いであろう少女なのだが。
32城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/12(月)22:45:12 ID:yWh()
>>31
概ね予想通りの反応だと思い、しかし表情は変えなかった。
だからこそ、というべきなのか――彼には元々ナンパを成功させようなんて魂胆はなく、ただ無機質な時間をどうにか変えたいと思ってのことだった。
反応が返ってきただけで御の字というものである。彼の内心は、今非常に落ち着いており、余裕がある。

「僕もそう思うよ。だからこそ、こうして話がしたかった。」

しかしどうも相手の内心は読みづらい。読めない。
それでも、話に応じてくれただけ敵意はないに相違ない。
ついさっき知り合ったばかりの男から、急に恋人扱いするような言葉を受けて、どぎまぎするでもなく、冷静にそういう表情と口調で返せるということは、見た目に似合わずその手の経験には慣れているのか。
それとも、恋愛を自分には関係ないと思うまでにそういう感情が欠落しているのか。
周囲の深緑に目を落ち着かせながらする様々な想像が男の脳裏を駆け巡り、彼のロマン的精神に滋養を与える。

「ああ――そうだね。人に余裕を与えるような状況が続くというのは、大事なことだ。
生きるために必要だと、忙しない気持ちに心を満たしてあれこれと周りに気を揉むようなことが続けば、結局心は死んでしまう。」

声に対し、傭兵としての殺伐とした日々に倦んだ瞳を癒すようにぼんやりと緑を眺めながら、男は応えた。
ここで相手へと視線を合わせると、相手が見た目は年端もいかない少女であることを改めて確認し、少し話の方向性を修正しようとの気持ちに駆られる。

「――――と、このままでは随分と退屈な話になりそうだ。
君ぐらいの女の子なら、どういうことになら興味があるかな……」

そう考えてはみるものの、これといった事柄は浮かびはせず……
33ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/12(月)23:41:16 ID:QAu
>>32
表情にこそ浮かんでいないが、少女の男に対する印象は変わっているの一言に尽きた。
退屈なのは分かる。誰だって延々と続く代わり映えのない緑並木には飽き飽きするだろう。
無為な時間から脱したいというのも理解できる。何事もないのが一番なのだが、こうも刺激がないと時を無駄遣いしている気になる。
しかし、だ。そこで自分を話し相手に選んだ事が少女にとっては不可解であった。
雇われの護衛はなにも二人だけではない。年の近いだろう同性も何人かいたはずだ。彼らの方が話も弾むだろうに、少女にはそれが不思議に思えた。
無論少女は恋愛の何たるかを知らないわけではない。男が女に声をかける意味に気がつかないほど鈍感ではないのだが、今回に関してはそう考えていなかった。
そういう対象として捉えるには互いの、少なくとも外見年齢に些か差があるからだ。男にそういった嗜好があるというなら話は別なのだが。

「……うん。これもきっと、大切な時間」

小さく頷く。まるでかつてそうであったような男の言葉に深く立ち入る事はない。
彼に過去なにがあったのか少女は知らない。知ろうとも思わなかった。
今はまだ相手の領域に踏みこもうとはしない。たった一つの依頼でたまたま交差しただけの、瞬きに過ぎない邂逅なのだから。
どこかで鳥が羽ばたいた。彼らの描いてきた軌跡など知るはずもなく、一瞬だけ影を落としてどこかへと飛び去っていく。

「えっと……どういう……?」

不意に男に問われて、初めて少女が感情を顔に映した。大きな起伏ではないが、明らかな困り顔だった。
ううんと少しばかり唸る。答えを探すまでの間、視線は男から外れてあちこちを彷徨っていた。

「……なんだろう。生きることしか考えてこなかったから、あんまり分からない」

結局のところ明確な答えは見つからなかったらしい。悩んでしばらく、返すのは曖昧な言葉。
少女も男が求めるような返答ではないことに気がついているようで、どことなく申し訳なさそうな声色だ。
心なしか獣耳も、しょんぼりと前に倒れているようだった。
34城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/13(火)21:11:44 ID:cak()
>>33
多分、理由なんてない。
男が数ある仲間たちの中から特に少女を選んで話しかけたのにも、彼らがこの護衛の仕事に集ったのにも、緑がここに生い茂っていることにも、また、そもそも我々が存在していることにも……

――だからこそ、我々は敢えて何らかの“縁”を探す。
白紙のキャンバスを七色に塗り分ける。濃淡を付ける。自由な線描によって自在に対象を繋ぎ合わせる。

それは関係と言うにはあまりにも軽薄な関係と言わざるを得ない。
だが、人生が彩りや濃淡、明暗を奪われた全くの無地の画用紙と同じであったならば、我々はそれに耐えられるのか。
男と少女は影を重ね合わせたにすぎない。軽い、ほんの刹那的な影。肉の身体を持った男女が睦み合うにはあまりにも程遠い、この世の彼方の淡い幻影。

そして絵を描くように、しかし明確なヴィジョンはなく、男は話題を探っていたのだった。
その言葉は少女への問いだが、同時に男の自問とも言えるものである。
結果は、両者とも答えがでないという歯切れの悪いものだった。
だがそれは言葉の上の話である。少女の顔面に立ち昇ってきた、初めてのと言っていい表情らしい表情を、男は見逃さなかった。

「……ふふ、それならそれでいいさ。世の中には分からないことが多すぎる。
でも……少しずつ知ることならできると思う。君も知っているだろうけど、世界は色々なところに“繋がった”。
本の中の存在だと思っていた魔法のランプに本当に出くわしたり、教科書でしか知らない昔の偉大な王をこの目で見かけたりするかもしれない。
それは――実に素晴らしい可能性だと思わないかい?」

人が感情によって最もよく動くのならば、少女が無表情から解放された時点で、最初のドミノは倒されたことになる。
彼女の獣耳がよくその感情を表している、と男は思った。彼はその表情と耳の様子を同時に見据え、彼女の反応を待つ。
35ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/13(火)22:49:56 ID:Jhr
>>34
きっと長い一生と比べてしまえば、ほんの刹那に過ぎない出会いなのだろう。
けれどだからこそ、一時だけ言葉の応酬に戯れようと思ったのかもしれない。
それくらいの関係が少女には楽だった。他者と深く関わるよりはこの方がいい。

「ん、そうだね。そういう知らないものには、興味があるのかな」

かすかに微笑んで、どことなく他人事のような物言い。けれどそれは感情の欠落故ではない。
彼女には生まれ育った故郷の記憶がない。だからどんな世界に至ろうと、それは全て未知で不可思議なものだ。
常に受動的だったせいだろうか、自分がそういった類に少なからず関心を向けていた事を忘れかけていた。
しかしだからといって進んで未知の探求に勤しもうとするほど、少女に積極性はない。根幹にはそれ以上に生への執着がある。
それでもないよりはある方がいい。これはそんな胸に秘めた、ささやかな子供心だ。
ふと、目を伏せる。向こうへと流れていく砂利道を見送る表情は、また心を覆い隠してしまった。

「でも、繋がっていい事ばかりじゃない」

融合によって光が生じるならば、そこには必ず影もある。
最も色濃く現れているのはおそらく勢力間の紛争であろう。彼らの諍いは部外者であろうと嫌でも目につく。
どれだけの人が苦しみ、犠牲になっているのか。煩雑な情勢からその全てを窺い知るのは難しいが、少なくない数であろう事は容易に想像できる。
可哀想だ、と憐れむ資格はないかもしれない。それでも束の間、見知らぬ誰かを悼むように瞼を閉じた。

「……下手な勢力争いには、巻き込まれたくないけどね」

また目を開いて男を見上げる。少し重たい話だったかもしれない。今度は少しばかり苦い笑みだった。
そのまま僅かに首を傾げる。その仕草は言外に同じ問いを投げかけていた。
すなわち融合したこの世界で、彼はどんな可能性を求めるのだろうかと。
36城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/14(水)22:11:04 ID:9Tk
>>35
「(……?)」

少女の様子を観察し反応を待っていた男は、その他人事のような物言いに違和感を抱いた。
まるで親が子に関して言うような。変わった子だとは思っていたが、いよいよ彼は疑念を深めた。
しかしそれは肯定的な感情だと同時に彼は思う。ヴェールに包まれた彼女の過去と意味深な微笑みが、獣の要素が入ったその外見をミステリアスに彩る。
容易に到達できぬその本性がかえってそれを前にした男にある種の崇敬の念を抱かせる。

そんな男にとって“啓示”とも言える時は終わりを告げてしまった。
闇が彼女の心の面を覆い尽くしてしまう。いやそればかりか、地の表全てが暗く閉ざされているかのような……
彼女の言っていることはまぎれもない真実である。この広大なばかりの世界の中で人々は真理に暗く、行く末を見失い、ただ猜疑心と儘ならぬ激情のままに紛争に明け暮れる。
神が最初に“光あれ”と言ったことが、正に単なる神話でしかないことを確信させるような状況。

「——それもそうだね。
可能性に溢れているということは、悪い可能性もあるということさ。」

程なくしてまた少女に表情が訪れた。
それは話の雰囲気に似つかわしいものであり、存外に繊細な感情も持ち合わせているとの印象を男に与えた。
紛争の現実は融合した世界にいる全ての者にとって避け難く存在する。今度は男が自分の所感を述べるべき番だと悟り、

「ああ……今でこそこうして話ができるほどにのんびりした時を過ごせているけど、結局そんな僕たちもいつ抗争に巻き込まれるかわからない。
いや、現に僕は既に巻き込まれていると言ってもいい状況だが……そのことは置いておこう。

確かに紛争は受け止めるべき現実だけど、反面、それは異なる世界観を持っていた者達同士が接触し、何らかの調和を図る契機にもなる。
誰だって戦いは嫌だからね、いずれは人も冷静になり、互いが互いの個性を尊重し合う時が訪れる。
でも……そのとき尊重すべきものがこの戦いで失われては何の意味もない。
だから今やるべきことは、どの勢力も圧倒的になることがなく、でもどの勢力にも存在が許されるような、そんな状況を作り出すことだと思う。」

男の傷と煤だらけのコートが、田園風景に似つかわしくなく小さく、しかし重々しく揺れる。
その整った顔付きはこの刹那だけ軽薄な色を引っ込め、鋭い眼差しが豊穣な自然の向こう側に横たわる不毛の荒野を冷徹に見据えているかのようだった。♦♦♣
37ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/14(水)23:41:23 ID:jrJ
>>36
男がどんな印象を抱いているのか少女は知るはずもなく、じっと目を逸らさず返答を待つ。
しばらく真剣な眼差しで聞いていたが、男が既に争乱に片足を突っ込んでいると知った時だけ一瞬物憂げに目を伏せた。
やはり争いは好きになれない。いつなにが喪われてしまうか分かったものではない。
それが別段親しいわけでもない、この場限りの相手でも不思議とそう思えてしまう。
否、だからこそだろう。無差別な戦乱の波紋がいかに無慈悲か、否が応でも一層際立って見えてしまうのだ。

「それは……」

理想だ、と言いかけて口を噤む。僅かに目が泳いだ。射竦められてか、獣耳がぴんと緊張する。
手の届くはずがない幻想だ、絵空事だと否定するのは容易い。言葉にしてしまえばいいだけだ。
けれど今では誰もが知っている。世界は繋がって個々の価値観は限りなく無意味なものになった。
自分の常識が隣人の非常識かもしれないし、一つ隣の街に赴けば物語でしかあり得なかった空間が当たり前のように広がっている。
全てがそう変貌してしまった世界で、一人の夢を現実になり得るはずがないと否定するなど誰ができようか。
だから喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、小さく笑ってみせるのだ。

「……うん、そうなるといいね」

揺れたコートを目で追う。これまでの彼の苦難を物語るそれは、きっとこれからの道のりをも暗示しているのだろう。
男の目つきから痛々しいほどに伝わる。その先に待つものが分かっていても尚、彼は進もうとしているのだと。

「だから、応援くらいはしてあげるよ」

少女は止めない。今はまだ、そこまでの義理があるわけではない。
けれどせめて彼がいつか折れてしまわないように、夢を捨ててしまわないようにと。
どこかで祈るくらいなら、構わないだろうと思うのだ。
また男を見上げる。相変わらず青空は憎らしいほどに眩しくて、僅かに目を細めて微笑んだ。

38城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/15(木)21:44:15 ID:rMY()
>>37
「……ありがとう。」

同じく、ささやかな笑みで返す。
それは愛想笑いではなく、真に心の底から滲み出てきた感情である。
この状況で満面の笑みを浮かべたとしても作り笑いにしか見えまい。それだけに、より彼の感情が誠実だと見る者に確信させるだろう。

「そうだ――これもささやかながら僕の努力なんだが、さっき言った僕の目標にも共感してくれる、ある男のことを教えるよ。
つい最近知り合ったばかりなんだけどね。彼は『ヴァーチ』と呼ばれている。ガスマスクを付けていて、青黒い犬のような獣を操る男だ。
彼も恐らく、僕と同じように動くだろう――この広い空の下、もし彼に会うことがあったのなら、僕の名前を出すといい。きっと君のことも信用してくれるはずだ。

僕は『城ヶ崎 廸久』(じょうがさき みちひさ)。魔術師で、傭兵稼業をしている。」

ただでさえなだらかだった傾斜が消えかかり、山道も峠に差し掛かる頃だろうか。
木々のヴェールは一旦取り除かれ、満天の青空がいっそ清々しさを感じさせる。
そして同時に、この隊商が目指すべき次の街が既に眼下に広がっている。
39ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/15(木)22:56:56 ID:8sB
>>38
お礼を言われると擽ったさそうに肩を揺らしてどういたしましてと返す。
人から好意や感謝の意を向けられる事に慣れていないような、照れ隠しを思わせる仕草。
理想を否定しない事にほんの少しの罪悪感が胸を締めたが、表には出さず内に秘めて閉じこめた。

「ん、分かった。覚えておくね」

情報は重要だ。それこそ命と同等になり得る事も多々ある。
勢力の入り乱れて混迷したこの情勢では特に、知る知らないの違いだけで容易く身の破滅を呼ぶ可能性だってある。
そして少なくとも敵対関係にはならないだろう人物の情報は、有益にこそなれど不利益をもたらすとは考えにくい。
だからこうして素直に頷くのだが、それは多少なりとも男を信用しているという意思の表れでもあった。
向こうから名乗られるとちょっとの間きょとんとしていたが、まだ互いに名前も知らなかった事に今更ながら気がついたらしい。
ああ、と気を抜けた声を出しながら誤魔化すように片手で流れる黒髪を弄んだ。

「ミチヒサ、だね。うん、覚えた。
ルゥ・ヴィレット。今はもうなにもない、ただの旅人だよ」

ちょうど山道を登りつめると、それまでの見飽きた景色が下に消えて視界が一気に開けていく。
遮るものが途切れたせいか、先程までより空がより広くなったようにも思える。
少女が行く手を見ようと振り返って荷馬車の上で膝立ちになる。目的地まではそう時間はかからないだろう。
二人がいるのは隊列の最後尾だから先頭までの流れがよく見える。先頭は大分街へと近づいていて、おそらくはこの下り坂の間もまた平和な時間の繰り返しだ。
ふう、と安心したのか少女が小さく息を吐く。きっと、別れの時ももうすぐだ。
なにか言っておくべき事はないだろうか、見下ろす街並みから言葉を探す。

「……また、会えるかな」

じっと、行く末から目を逸らさずに。
穏やかな風が吹いて鳴らす葉擦れに紛れてしまいそうな、そんな呟きだった。
40城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/15(木)23:51:17 ID:rMY()
>>39
「よろしく、ルゥちゃん。
(今は何もない、か――――)」

ささやかな笑みはそのままに相手の名前を呼び友好の証とするも、ルゥのちょっとした自己紹介の言葉が城ヶ崎の気にかかっていた。
人はそもそも歴史的存在である。それはその個人の来歴だったり、個人を取り巻く社会や世界そのものの歴史だったりする。
その積み重ねが人を創るのであれば、誰一人として虚無であるとは言えない。
だが、にもかかわらず時として人は自分が空虚であるという自覚に囚われることがある。精神とは豊饒なもので、この融合世界と同じくあらゆる可能性を有し、したがって虚無への可能性も孕んでいる。
そこで彼は、もう一人の知り合いである老紳士のことを思い浮かべた。どこから来たでもなく、どこへ行くでもなく、ただ彼自身ではなく外界をのみ語る謎に満ちた彼の存在は、最後に会った『共和国』の酒場以降も時々城ヶ崎の心を捉えることがあった。

「(――それでも、人には“今”がある。)」

「……ああ、会えるさ。君のような“美しい”子の存在を僕は忘れはしない。」

余裕が生れた表情で、そのように言ってみせる。その表情は朗らかであれ、軽薄という態ではない。
ルゥぐらいの外見年齢の子にはどちらかといえば“可愛い”のほうが相応しいかもしれない。でも不思議と、今回ばかりは“美しい”という言葉を使いたかった。

何もないと言うこの少女に、何かを得よと急に強いることはない。
だが、契機だけは作っておきたかった。二人の出会い、また一人の友人に関する情報がそれになるだろう。
少女の眼前にも広がる諸々の遺産の世界<World of Legacies>。過去に向き合う心を持つために、街までの残り少ない時間を、彼らは“今”を紡ぎだすのに使うのである――――

//私からはこれで〆で
41ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/16(金)01:16:42 ID:UTp
>>40
半ば独り言だった言葉を聞かれていた、と恥じらうような真似はしない。もしかしたら心の奥底では聞いて欲しかったのかもしれなかった。
どちらにせよ、未来に希望的な可能性を見出す返答に安堵を覚えたという事実は変わらない。
描く理想に制限がないように、広がる先にはどんなものであろうとそこに存在し得るのだから。

「……むぅ」

突然の賛辞には僅かに口を尖らせて唸る。困ったような戸惑っているような、そんな表情。
それはもう片方の形容詞を用いたとしても同じだったろう、逃げるように道沿いに目をやる。
真摯な言葉だと分かっているからこその反応だった。やはりどうにも、こういった時の対応というものは分からない。
ルゥが乗っていた御者が二人に声をかけてくる。街が近づいてきたために、報酬などについて先んじて確認したいようだ。
束の間の休息は終わりを告げ、手短な別れを済ませる。それからまたしばらくは、互いの道を往くのだろう。

「……次も、こうして話ができるといいね」

再会がいつになるのか、そもそもそんな時が訪れるのかなど、運命の神でさえも与り知らぬところかもしれない。
けれどもしもそれが叶うのであれば、いつ襲うとも知れぬ戦乱の最中などではなくせめて今みたいに平和な時間であればと、そう思うのだ。
例え過去がなくとも未来に願いを託すくらいは、きっと許されるのだろうから。

//それではこれで〆ますね、ありがとうございましたー
42琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)17:44:29 ID:Uct
【現在地:『同盟』領付近の深い森の中】

目につく木の枝を折ったりして目印を作りながら迷わないようにと進んできたが、
未だ視界に映るものは只管に鬱蒼とした樹木だけである。

一度改めて現在の持ち物を確認してみよう。

衣服は学校の制服だ。目覚める前はパジャマ姿で眠りに就いた筈だったのだが。
ポケットにはスマートフォンが入っていた。無論圏外。
カメラやライト等の機能は使えそうだが充電する手段が無いのでバッテリーが切れればそれまで。

「あれ、これ詰みなんじゃ……」

せめて食料が少しでもあれば僅かな希望も抱けたのだが現実とは非情である。
このまま行けば森を彷徨い飢えて死ぬ。

「誰か助けて下さーい!」

そんな嘆きが静かな森に木霊した。


【それから数刻後】


「はあっ、はあッ……」

朱音は未だ森の中。そして何かに追われていた。
遠吠えを響かせながら幾つかの足音が追随してくる。
其れ等は五頭からなる飢えた狼の群れだ。
狼と言っても朱音の元居た世界の其れと比べると二回り程サイズが大きい。
一頭だけでも華奢な少女の体をバラバラに喰い千切るのは容易いだろう。

不運にも森を彷徨う最中でエンカウントしてしまった。

(うそ……私こんな所で死ぬの?)

状況は最悪だ。仮にあの洞窟から武器を持ってきていたとしてもとても生き残れるとは思えない。
ここまで全力で逃げ続けてきたがそれももう限界が近い。
死の足音は刻一刻と直ぐ後ろにまで迫ってきている。

「嫌だっ……だってなにもしてない! ここに来て誰かに会ってすらいないのにっ……」

武器も持たず、戦闘技能も異能力も持たない一般人の末路など知れている。
運良く何者かが援けに入ってくれるだろうか。それとも更なる不運が姿を現すか。
或いはこのまま……。
43マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)20:01:06 ID:RNS()
>>42
無風。森と自然の優しさを思わせる木々のざわめきは一つとして聞こえぬ。
そこはただ少女の怯える声と、獣の唸り声と足音が彩る、死と生の過酷な境界線。

――――そこに、一つの赤い影が闖入する。
高速で迫ってきたそれは狼の群れを次々に蹴散らすと、鬱蒼とした森の中を文字通りの炎の光で赫々と照らした。
やがて速度を緩めたそれは纏う炎を収め、停止し、限られた木漏れ日の中でその全貌を顕にする。
赤毛の大きな馬と、騎手。ゆっくりと馬から降りたその男は狩衣、烏帽子と公家じみた格好をしているが、腰には武士さながらに太刀を帯びている、奇妙な取り合わせだ。

「……ほう、この大きさ、恐らく物の怪の類と見た。
よい“式神”になりそうなものだ。ここで捕えおくとするか――――。」

男の視線は少女ではなく、ひたすら化け物じみた体躯の狼の群れに向けられていた。
先程蹴散らされたそれらは衝撃と体毛に付いた火で暫くもがき苦しんでいたが、黒煙を上げながら皆やがて体勢を整えた。
怒り交じりの視線と共に、新たな「獲物」を見据えながら――――

男は腰の太刀を抜き、狼の群れに向かっていった。
そこには毫も恐れる様子がなく、むしろその表情には狂気じみた笑みが浮かんでいた……
44琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)20:26:38 ID:Uct
>>43
現れたのは高速の炎の塊。やがて静止した其れは狩衣、烏帽子に太刀を帯びた男であった。

「平安時代のお侍さん?」

先刻見たドラゴンの姿からファンタジー的世界観を想像していた為に、
旧和風なその出で立ちに若干の困惑を見せる少女。
彼女はまだ此処が混沌極まる世界であることを知らない。

そしてどうにも見ている感じ、援けに入ってくれたという風でもない。
男の関心は寧ろ狼達に向いている。

この場をどうするのが正解なのかを思案しながら暫し佇む。

――――――――――――――――――――――――――――――

狼の群は突如として出現した敵に対し迎撃の姿勢を取る。
通常の獣であれば炎を恐れ逃げ去ったのだろうが、
森の帯びる魔力によって魔物にも近しい存在へと成長を遂げていたものと見える。

群れの長と思しき個体が遠吠えを上げると残りの四頭が連携する様に同時に男へと飛び掛かった。
45マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)20:52:01 ID:RNS()
>>44
抜刀した男の全身は青紫色のオーラに包まれ、烏帽子から伸びる長い髪が激しく揺れる。
狂気を孕んだ表情が迫り来る獣性を真っ向から見据え、速すぎず遅すぎず、足捌きを巧みに調整しながら彼我の距離を測る。
そして身を屈め、一頭目の爪を難なく躱す。間断なく迫る二頭目、三頭目。
男の逃げ道を塞ぐように挟撃するそれらだが、彼はまず右手の一頭の噛み付きを太刀で止め、更にそれに体重をかける形で宙に浮かび、身体ごと振り回すような回し蹴りでもう一頭を蹴飛ばす。
ついでに太刀をかけていたほうの狼の口を引きの動作で斬り裂く。
続く4頭目。頭上から飛び掛かるように襲い掛かるそれだが、鋭い爪を紙一重のところで躱し、反撃とばかりにより鋭い横薙ぎの斬撃を喰らわせる。
そしてその狼を完全に仕留めたか否かを確かめる暇もなく、その脇を駆け抜ける。
狙うは奥にて指揮を執っていると思しき最後の一頭である。真っ直ぐに駆ける中で男は太刀を横に引きながら磨くように視線を刃に滑らせる。
男を包む気が薄くなる代わりに、気の多くが太刀に集中した。

「――ふんっ!!」

そして、振り抜いた。だが、未だ刃が標的に届く距離ではない……
いや、しかし確かにその殺気は狼の長に向けられ、そして獣ながらに感じるその気に獰猛な魔物じみた存在といえど微かな恐れが生まれつつあるようだ。
――そう、それは宙を駆け行く気の刃。振り抜かれる動作と共に太刀を離れたそれは通常の斬撃を上回る鋭さを以って狼の長に襲いかかる。
46琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)21:09:50 ID:Uct
>>45
初撃は難なく躱され、続く三頭の攻撃も軽くあしらわれる。
内二頭は太刀に斬り裂かれ絶命。
最初の一頭と蹴り飛ばされたもう一頭は再度立ち直る。

そして狼の長へ向けられるのは間合いの外からの一閃。
常識的には刃が届くはずの無い距離。

しかし向けられた殺気への恐れと野生の直感からその場に留まってはならぬと判断する。
そして其れは正しく、跳ね退く様に躱した跡には真一文字の刀傷が出来ていた。

狼の長は獣でありながら極めて人間的な思考で次の手段に出る。
響く遠吠え、指示を受けたのは先の二頭。

次なる狙いは先程の獲物の少女。
其れが人質として通用するのかどうかを試そうというのだ。

仮に其方へ注意が向く様なら長の狼自らが背後に飛び掛かるべく機を狙う。


「え、うそ。こっちに来る!」
「お名前存じませんがそこの方! お願いします助けて下さい!」

少女は半ばパニックに陥りながら男へと請願する。
47マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)21:42:24 ID:RNS()
>>46
「ほう――
(見た目よりも賢しらな獣よの)。」

恐らく長は飛ぶ刃を見てから飛び退いたわけではなかった、ということを男は見抜く。
まさにそれは、鍛え上げられた武士がするような、敵の殺気を読んだうえで次なる行動へと移るということ。
やはり群れを従えているだけあって先程の4頭ほどは簡単ではないと、男の眼つきがやや真剣みを増した、その時だった。

「――!?」

声がした。今まで大した注意を向けていなかったながらも、男がその存在に気づいてはいたという程度の少女。
声からしてそれは少女のものだということが瞬時に察せられた。やや視線をそちらに向けるが――――

「!!」

その隙を狼の長の抜身の刃の如き目線は見逃さなかった。
長は全身の毛を鋭く逆立たせながら、まさに一つの刃の如く跳んだ、肉薄した。
隙を衝かれたせいでやや対応が遅れて、男は太刀ではなく左腕でその両爪を受け止めた。

気に包まれてその身は鎧に守られたようになっているとはいえ、狼の攻撃は決して生半可なものではなく、爪が少し男の腕に食い込むと共に、その勢いに押されてやや後ずさりする。
そんな中でも体勢を整えて右手の太刀を添え、その力を加える。漸く押しとどめ、両者鍔迫り合う形になる。

「……ふむ……ならば……――火馬(ひうま)!!」

男の怒号と共に、先程彼が乗っていた赤毛の馬が嘶き、走り出した。
脅威的な加速と共にそれは文字通りの炎を全身に纏い、薄暗い森の中に紅蓮の軌跡を描く。
そしてそれは主人を助けるべく、狼の長へと突撃する――――のではなく、今にも少女に襲いかかりそうな二頭の狼を跳ね飛ばしたのだった。二頭は全身を炎に焼き尽くされ、原型を留めないまでになった。

これには流石の長も動揺をきたしたようだ。獣に似合わず人間的な思考をしているのだから、なおさらである。

「(狙いが当たったな。精々策に溺れるがよい――)」

明らかに鍔迫り合いの勢いが相手側で減退したのを見て、一気に押し切らんと右足での蹴りを放つ。
48琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)21:59:14 ID:Uct
>>47
少女の請願に男の視線が流れるのを見計らっての攻撃。
見事太刀を浴びずに肉薄するに成功する。
鍔迫り合う形で両者の動きが止まった。

これで娘の方へ向かわせた二頭に男への攻撃を命じれば、そう長が考えて居た時にであった。
赤毛の馬の事は失念していた。いや、戦力であるとは考えていなかった。

炎を纏った馬は二頭の配下を跳ね飛ばし、焼き尽くした。

そして其処への動揺を突かれ右脚からの蹴りを真面に受ける。
数メートル吹き飛び、よろめきながらも態勢を整える。

流石に勝ち目が無いと覚ったのか早々にこの場を去るべく向きを変え駆けだす。
49マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)22:16:12 ID:RNS()
>>48
目付きが、

「――――」

変わった。“修羅”のそれへと。
狩る側が狩られる側へと転ずるということ。その皮肉を、如何に知能の高い魔狼といえ理解できるかどうかは分からぬが。
凪の一つもなかった森の中に突如巻き上がる突風。巻き上がる砂埃。その向こう側にある青紫の影が、不気味なまでの光を正面の狼の身体へと揺曳させている。

「――――逃がさぬよ。」

そう、男は気で強化された身体を猛スピードで駆け、逃げる狼に回り込んだのである。

「……だが安心せよ。亡き者にはせぬ。
亡き者には……な。――――」

狼が踵を返さんとしたその時である。

一閃。紫電一閃。
正に稲光のような一瞬の出来事の後に、狼は綺麗に意識を刈り取られ、倒れ伏した。
だが、その身体には一つの紙人形が添えられていた。斬り抜けたままの姿勢の男は、そのまま何事か呪文を呟く。
すると狼の全身が光り、紙人形へと吸い込まれた。たちまち人型から狼型に姿を変えた紙人形を、男は拾う。

「うむ……群れの長を務めるほどのものだ。使えよう。
さて……――」

男はゆっくりと太刀を納め、すっかり静まり返った森を歩き出す。
その延長線上には男の式神の一つである火馬がいるが、同時にそれは少女のいる方向でもある。
50琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/16(金)22:27:50 ID:Uct
>>49
“修羅”を前に逃げ切る事は叶わず。
猛スピードで回り込まれ紫電一閃、意識を刈られ紙人形へと吸い込まれる狼。

そんな様子をぽかんと眺めていた少女は。
此方へ、正確には赤毛の馬へだろうか。向かって来る男に気が付き。

「助けて頂きありがとうございました。」

深くお辞儀をしてみせた。
相手は見た目和風なのでこれで気持ちは伝わるだろうか。
51マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/16(金)23:00:52 ID:RNS()
>>50
「……む?」

式神火馬に乗りこんで足早に森を去らんとしたところに聞こえた声、そしてその仕草。
文化的な同質性から、男にはこれが謝意であることが難なく察せられ、ふと足を止めた。

「助けた……?――ふむ、一先ずはそういうことにしておこう。」

彼の目的は最初から少女の救出ではなく、魔狼の式神化捕獲であった。
確かに戦闘中にも火馬を使って結果的に少女を助けたが、それは長狼の動揺を誘うためであり、やはり少女のためではなかった。
だが、その真意を明確に述べてまで少女の謝意を拒絶する必要もないと考えた。

「童よ、見たところそなたは我の居た土地の者ではないな。
かといって“西”の者でもない。より進んだ時代の者だ。

我もそなたぐらいの時代には関心があるのでな、暫く付いてやっていてもよいぞ。」

言葉からして、彼はこの世界に様々な時代背景が融合したことを知っているようだった。
それゆえに、彼女の制服姿からその大体の時代状況を見抜いた。
彼は火馬に向かって手を掲げると、それを馬型の紙人形に変え、懐にしまうのだった。
52琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)14:11:01 ID:gGE
>>51
男の口振りでは如何やら訳知りの様子で。
故に右も左も知れぬ少女は問い掛ける。

「重ねて申し訳ありません……宜しかったらこの世界について教えて頂けませんか?

 私は元々貴方の使っていた魔法? みたいな力も無くて、
 さっき襲われた大きな狼なんかも居ない世界で暮らしていたのですが。
 何故か此処へ迷い込んでしまったみたいで……

 すみません、貴方は何かご存知の様だったので……」

此処に来て初めて会った人間で、今この状況を知る為の鍵になるやもしれなくて。
それ故相手の失礼に当たらない様にと、たどたどしく言葉遣いを選びながらの問い。

一先ずの命の危機からは脱したものの未だ怯えの抜けきらぬ少女に男は何と返すだろうか。
53マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)16:22:13 ID:Op5()
>>52
「ふむ……ふむ……。」

自身の真っ白な顎を撫でながら、男は少女の声に耳を傾ける。
相も変わらず無風の森の中で、しかも立ち止まっているにも関わらず、烏帽子から流れる長髪がゆらゆらと揺れている。
その様は、戦闘が終わった今でさえ男から発せられる超常的な雰囲気を否が応でも少女に印象付けるだろう。

「――この森を抜けるには“あちら”へ進めばよい。
歩きついでに語れることは語ろうではないか。」

そう言ってある方向を指差し、まもなくその方向へと歩き出す。
この男が少女にとって完全に安全であるとまだ決まったわけではない。それでも、今は彼が唯一の道しるべとなるだろうか。
54琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)16:40:11 ID:gGE
>>53
無風にも関わらずゆらゆらと揺らぐ男の長髪などの雰囲気、気配から、
矢張り彼は彼女の元居た世界の常識の外に居る者なのだという事を印象付けられる。

『――この森を抜けるには“あちら”へ進めばよい。』

示された方向へと歩み出す男のやや後ろを追いかける様に少女も動く。
仮にこの男が彼女に対し何らかの敵意、害意を隠していたのだとしても。
今は他に縋る相手も居ない。
故に少女は男から何か動きがあるまで押し黙ったまま付いて行くだろう
55マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)16:54:56 ID:Op5()
>>54
地面を踏み抜く音がもう一つ、背後から聞こえるのを確認すると、
男は口を開きだすのだった。

「この状況を簡単に言うならば、世界の“融合”よ。
様々な世界が融合し、地続きとなった。恐らくそなたも、そのせいでここに迷いんだのであろうな。」

融合した世界は無数であり、したがってあらゆる世界観・文化に出会う可能性がある。

「その中でもこの一帯は、複数の世界が出会う土地。
ゆえに、今の物の怪の如きもののみならず、別の場所に行けば「動く鉄の箱」であるとか、「天を摩するような高い建物」なんぞも見ることができる。」
56琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)17:07:27 ID:gGE
>>55

「世界の、“融合”……」

まだはっきりと実感は出来ないが詰まりは此処は色々な世界がごちゃ混ぜになった場所だという事か。
男の話の中に出て来た「動く鉄の箱」とか「天を摩するような高い建物」というのは、自動車やビルの事かもしれない。
其処に行けば文化的には元の世界と同じ暮らしができるだろうか。
しかし、少女の心にある願望は一つで。

「私、出来ることなら元の世界に帰りたい……です。
 そういう“戻ることが出来る”可能性はありますか?」

どうかあって欲しいと切望するようにそう問い掛ける。
57マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)17:22:49 ID:Op5()
>>56
「ふむ……」

男はひっそりと目を閉じ、またもや顎を撫で、少し思案するような仕草を見せる。
やがてゆっくりと眼を見開き。

「世界が地続きになったのなら、当然元の世界に戻る可能性はあろう。
しかし何分“融合”は何処で起きるかが分からぬ。一つの道を往って、望み通りの目的地に着くとは限らぬ。
正にこの樹海を彷徨う様に、永遠に融合した世界を彷徨い続けることもありえよう。
ちなみに我は、“融合”が起こって以来一度も元の世界に戻ったことはない。」

低く、重々しい声で告げられたのは、希望と絶望が綯交ぜになったような展望だった。
58琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)17:34:47 ID:gGE
>>57
男は語った。可能性は0では無いと。
しかしそれは何時出られるかも知れぬ迷宮を行く様なものだと。
希望と絶望を綯交ぜて重々しくもそう告げられた。――――でも。

「可能性が0じゃないなら諦めたくないです。
 私、武器も持ってないし真面に戦うことも出来ない。
 きっとさっきの狼みたいなものにまた出会ってしまったら次は絶対生き残れない。
 けれどもしかしたら元の世界に戻れるかもしれないのだったら……

 私は前に進みます。」

そんなものは虚勢だ。現実は冷たく非情なものだと先刻も痛感したばかりではないか。
しかし絶望を前にしても芯の部分では折れない強かさを垣間見せる少女であった。
59マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)17:55:16 ID:Op5()
>>58
「ほう……」

そのとき、男の足が止まった。それは突然のことなので、少女もそれに合わせて止まるとしても、彼我の距離は確実に縮まるだろう。
振り向いて、少女の表情・姿勢を観察する。
確かに言葉は強いが、もしそれが虚勢であるなら、立ち姿であるとか雰囲気であるとかは、それに見合っているとは言えないのであろう。

「童ながらにそのような意志を持ち合わせているとはな……
ふむ、そういう足掻くということは我も嫌いではない。
力有る者が絶望するよりも、力無き者が希望を持つほうが可能性はある、ということか……」

そしてまた、彼は歩み出す。
彼に弱者の気持ちは完全には理解できなくても、しかしかつて自分がかの「強大な存在」を敵に回したことを思えば、圧倒的な困難に直面したときの人間の気持ちは理解できる。
重く垂れこめるような息をつき、それを彼なりの感心の証とする。
60琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)18:07:32 ID:gGE
>>59
突然男の足が止まる。少女も合わせて止まったが数歩分空けてあった距離は縮まった。
振り向き、此方を観察する様に見つめる男。

少女の立ち振る舞いは超常の気配を纏う男と比べ凡庸そのもの。
おまけに未だ怯えは抜けきっていないのか急に男が振り向いた瞬間には小さくびくついていた。
しかし眼は、眼だけは死んでおらず男の視線に見つめ返している。

言葉を零し、再び歩み出した男。その背に向かって少女も呟く。

「……ありがとうございます。」

彼なりの激励であると受け取ったのだろう。
或いは男の耳に届かないかもしれない程小さな返礼ではあったが。

さて、そろそろ森も拓ける頃合いだろうか。
61マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)18:33:08 ID:Op5()
>>60
「……」

その返礼が男に届いたかどうか、分からない。
あるいは、その超常の雰囲気の奥底に真意を秘めているのか。

やがて光が満ちてきた。それと同時に、二人の足音以外の音も聞こえてきた。
それは人の話し声であるとか、足音であるとか、道具を使う音であるとかが雑多に混じった、いわゆる生活音。
また、薄暗い森に慣れた二人の目には眩しくてすぐには視認できないかもしれないが、複数のテントから構成される野営地らしき場所が見えてくる。

「……ここでは『同盟』という一勢力が、この森の調査のために出張ってきておる。
どうやらこの森には「星のかけら」なるものの影響で不思議な力が漂っており、あの物の怪もそのせいで生まれたようだ。

我も行動の都合からこの『同盟』に味方しておる。
力を持たぬ者でも働き手は募っておろう、必要だと思うならばここの者に声をかけるとよい。」

少女はおそらくここで通用する金銭や寝泊りの場所は持っていないであろう、そう配慮した上での言葉だった。
同時に、彼はなぜ童一人にここまで世話を焼くのだと、心中で自問する。
しかし、こうすることと自らの目的は、不思議と矛盾することではないと感じられたのだった。
62琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)22:09:07 ID:gGE
>>61
徐々に視界に光が満ち始める。
木々の騒めき一つない魔の森の気配は遠のき人々の活きる音が聞こえ出す。

森を抜けて直ぐには目が眩んで視認できなかったが、
幾つかのテントで構成された野営地らしきものが目の前にあった。

『同盟』『星のかけら』

どれも何となくの意味合いは解るがこの世界に於いてその言葉以上の意味を持つものなのだろう。
ここからがスタートライン、まだまだ覚えるべき事象は多い。

男に此処での働き口を紹介して貰ってようやく気付く。
彼の名を知らず自らもまた名乗っていない事を。

「ごめんなさい。命まで救って貰っておきながら、ちゃんとした挨拶もしていませんでした。
 琴珠朱音(ことだま しゅおん)と言います。
 本当に色々お世話になりました。ありがとうございます。」

彼にとっては救ったつもりもないのかもしれないが少女にとってはそうでない。
再度深くお辞儀をし感謝の意を示す。
63マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/17(土)22:55:22 ID:Op5()
>>62
「無理もなかろう。
名とは魂。信用した相手にでなければ魂を預けられぬのは道理よ。」

男も名乗るといえば自称の称号のみを人に名乗ってきたのであり、本名を告げることは滅多になかった。
それは彼の出身文化の発想である。名とは即ち人の言霊であり、単なる記号以上の意味をもち、それを知る知らないは親密さの度合いに関する有力な指標である。

「“修羅”、あるいは“はぐれミカド”――我は普通そのように名乗っているが……
『マサトモ』、それが我が名よ。姓はとうに捨てた。国と共にな。」

こうして二人は本名を交換しあった。
会って間もない見知らぬ少女とここまでの縁になるとは奇妙なことだ、と思いつつも、不快感はなかった。
彼は深く頷き、朱音の謝意をじっと受け止めた。その冷静な表情にも綻びはない。それはいかにも“威厳”あるべきとされる者の態度だった。

「――“生き”よ、強くな。我が望む“国”の姿とは、民がそのようである国のことだ。」

そう言うと彼は懐から馬型の紙人形を取り出し、そこから式神火馬を具現化させ、乗る。
自らはひとまず役目を終えた、とばかりにマサトモは静かに森の方向へと進路を取ると、瞬く間にその魔の領域へと戻ってゆくのだった。
64琴珠朱音 ◆q3pzNvXt82 :2018/02/17(土)23:08:28 ID:gGE
>>63
名とは魂。そう言った上で名乗り返してくれたのが、
この世界に於いてまだ何者でもない少女にとっては誇らしかった。

「さようなら、マサトモさん。」

紙人形から炎の馬を呼び出し其れに跨り去りゆく彼を手を振り見送った。

『“生き”よ』

恐らく彼のその言葉は善意からのものであったのだろう。
しかし今はまだ少女自身も知らないのだ。
其れが彼女にとってどれ程の意味の呪いの言葉であったのかを。


//これで〆で宜しいでしょうか
//お相手頂きありがとうございました!
65ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/17(土)23:09:08 ID:x25
どこかで悲鳴が響いた。また別の場所から怒号、さらに銃声が続く。
『共和国』に属しているここは、つい先程まではありふれた平和を享受している街だった。
ただ運が悪かったとすれば、『同盟』と『コンツェルン』の抗争の舞台として選ばれてしまった事だろうか。
『同盟』の巨体と怪力を誇るオークが手の棍棒を振るえばコンクリート造りの建物は豆腐のごとく砕かれる。
『コンツェルン』の二足歩行型の無人戦闘機が熱線銃を放てばたまたま射線上にいた人が呆気なく倒れる。
まさしく戦場に生きる者にとってはありふれた、しかし民間人には地獄としか言いようのない光景が広がっていた。

そんな戦場の只中を、息を切らして駆ける影が一つ。
黒いローブにフードを被った、体格からすればまだ子供とも呼べる人物が、人気の少ない路地を走っていた。
曲がり角の度に人影を探り、安全を第一にある一定の方向へとひたすらに進む。
街の地理に明るければその先が街の外である事は容易に察せられるだろう。
そしてやや広い路地に出た瞬間、不幸は起こった。
ちょうどオークと戦闘機が接敵していたのだろう、オークが振るった棍棒が戦闘機に直撃し、勢いよく吹き飛ばす。
メキッと嫌な音を立てて戦闘機が吹き飛んだ先は、まさにフードの人物が立っている場所であった。

「わっ……!?」

咄嗟の事に体が反応できていないのか、その場から動けず立ち竦むフードの人物。
金属の塊であるそれが見た目相応の重量を誇るだろう事は、想像に難くない。
避ける事も叶わず、ぎゅっと目を瞑って迫り来る衝撃を待った。
66ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/17(土)23:34:48 ID:0rG
>>65

 戦闘機がフードの人物を押し潰さんとした瞬間。
その無慈悲な鉄塊の影となっていた空間が、びしりと「割れた」。
裂け目に覗くのは光。スパーク。
やがてその中に浮かび上がる一つの人影。

「!」

 降り立った青の戦士は落下物に気づき、さっとそちらに向き直った。

『CALL:HERO』

 電子音声とともに彼は光に包まれる。
やがて現れ出た青銅の英雄が、墜落する無人戦闘機を受け止めた。
驚くべきことに、その体は少しも揺るがない。
赤いマフラーが波打ったきりだ。

「フンッ……!」

 そして僅かな掛け声とともにそれを無造作に放り投げた。
地面にずしん、という衝撃が走る。

「……やれやれ、この世界はベースキャンプにするには少し物騒――む?」

 ジョーカーはようやくフードの人物の存在に気づき、そちらをじっと見た。
ゴーグル型ガジェットのランプが小さく点滅する。
背後では立て続けに爆発が起こっていたが、彼はそれが耳に入らないかのように平然とした態度である。

(どうやらこいつ、『只者』ではないらしい……さて、ここで『狩っ』てもいいが、しかし……)

 ジョーカーは鎧の奥で僅かに目を細め、フードの人物に尋ねた。

「おい、お前。『生きたい』か?」
67ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/17(土)23:52:41 ID:x25
>>66
「…………?」

ああ、これは駄目かもしれないと覚悟を決めてしかし、予測していた衝撃はいつまで経っても訪れない。
おそるおそる目を開けて、ようやく自分が助けられたという事実に気がついた。

「あ…その、ありがとう」

戸惑いがちではあるが少なくともこの場では敵対者ではないと判断したのか、爆音にかき消されない程度に声を張って礼を述べる。
向き合ってその容貌を見れば、まだ年端もいかない少女である事が分かるはずだ。
唐突な問いには怪訝そうに眉を顰め、しかし返答は早かった。そんな答えはとうの昔に出ている。

「生きたいよ。生きないと、いけないんだ」

じっと、鎧に隔てられた目を見透すかのようなエメラルドグリーンの視線。無表情のようで、眼差しだけは真剣を思わせる鋭さを宿していた。
しかし次の瞬間、ぱっと少女が目を見開く。明らかな焦りの表情だ。

「後ろっ……!」

先程戦闘機を吹き飛ばしたオークが、ジョーカーへと接近していたのだ。ずしん、ずしんと重たい足音からそれを察知するのは容易であろうが。
どうやらSFめいたジョーカーの鎧を『コンツェルン』の勢力である証と見てとったらしい。つまりはオークの殲滅対象だ。
その身長は2mをやや越える程度だろうか、不気味に大きな影を落とす破壊者は敵を叩き潰さんと棍棒を振り上げた。
68ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/18(日)00:08:16 ID:B8y
>>67

「そうか。生きたいか」

 少女の断固とした答えに、ジョーカーは無感動に応じる。
そしてゆっくりと振り返った。
露骨な脅威、棍棒を振りかざすオークが迫る。
ジョーカーはぱっと銃を抜き、照準した。

『SOLAR-SHOOTER』

 電子音声とともに、ジョーカーは猛然と銃を連射。
怒涛の勢いで吐き出されれた光弾が次々と飛翔、炸裂し、オークを打ち倒さんとする。

『CALL:JOKER』

 ついで、ジョーカーは元の姿に戻る。
光弾の炎がメタリックブルーの装甲に照り返して輝く。

「行くぞ」

 青の戦士はぶっきらぼうに言い放つと、少女を先導する形で歩き始めた。
ひとまず目指す避難先は郊外。
障害が現れればその手の銃、あるいは剣で排除していく心積もりである。
69ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/18(日)00:30:39 ID:qim
>>68
図体こそ大きいがそれが災いしてか、彼の種族の動きは言ってしまえは緩慢に過ぎた。
これまでの相手ならばそのまま力に任せて殴殺できただろうが、今回ばかりは相手が悪かったと言わざるを得ない。
棍棒を振り下ろす事も叶わないまま、放たれた光弾はがら空きの胴体に吸い込まれて確実にオークの体を蝕んでいく。
ややあって、ついに衝撃に耐えきれなくなったオークの巨体は後ろに倒れ、ずしんと音を響かせてアスファルトに打ち付けられるだろう。
光弾のダメージか倒れた時の打ち所が悪かったのか、オークはそのまま沈黙した。
一連の流れの間、少女は呆けたように目をぱちくりさせていたが、声をかけられてようやく我に返ったらしい。

「ぁ……う、うん」

躊躇いがちではあるがその意図を汲み取ったのか、男が歩き出せば慌てて数歩後ろをついていく。
完全に信用した、とは言い難いがこの街から脱出するための確実性に軍配が上がったと言ったところか。
それでも警戒は怠っていないのか、道中の少女の視線は敵影を探したり男を観察したりと忙しないものであったが。

しばらく道を行けば不意に、無残な姿を晒していた建物群が途切れるだろう。しつこかった怒号も死臭も、いつの間にか気にならない程度になっていた。
郊外に辿り着いたのだ。途中戦闘に出くわさなかったのは男にとっては僥倖と捉えられるだろうか。
少なくとも少女には幸運以外の何物でもなかったらしく、ほっと息をついた。

「……えっと、さっきはありがとう」
70ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/18(日)00:53:08 ID:B8y
>>69

 ひとまず安全地帯に辿り着いたジョーカーは、いまだ熱を持つ銃をホルスターにしまった。
彼のしたことは善行と言えたかもしれないが、少女の礼に対する反応は冷淡なものだった。

「勘違いしないでもらおう。お前を助けたのは親切心からではない……むしろ、無責任な善意は俺のもっとも憎むものだ」

 ジョーカーは道端の「止まれ」の標識にもたれかかった。

「貴様がただの人間でないことはわかっている。何かしら並々ならぬ『チカラ』を持っているだろうということも」
「しかも、その歳からいって……お前にはまだ伸びしろがあるんじゃないかと思ったんだ。それが助けたワケだ」

 彼はひたすら淡々と語る。

「生きて生きて生き抜いて、強くなるような気迫も、まあ、感じられないことはなかったからな」
「もし無ければ、あの場でお前を殺していたが」
71ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/18(日)01:12:19 ID:qim
>>70
びくり、と僅かに肩が震えた。だが怯えを示すような仕草はそれだけだ。
まっすぐに男から目を逸らさない様は、虚勢のようにも自信のようにも見える。

「……そう」

男が語り終えれば、おもむろにフードを取る。確かに男の洞察通り、少女は人間ではなかった。頭頂部に存在する獣耳がそのなによりの証だ。
そもそもこれを隠していたのはあの戦場において『同盟』の者だと勘繰られないようにするためだったから、今ではもう必要ない。
窮屈そうな黒髪をローブの外へ流す。血生臭い風がさらさらと揺らしていった。

「一つ、聞いていいかな。
もしわたしが強くなって、またあなたと会ったらどうするつもりなの?」

伸びしろ。男はそう言った。
であればそれが主たる目的であると考えつくのは簡単だ。しかしその意図がどうにも掴めなかった。
ただ漠然と、よくない予感がした。そしてそれを見て見ぬふりできるほど少女は楽天家ではない。
一字一句、一挙動を見逃さじと問う少女に先程見せた安堵は既になく、無表情で答えを待った。
72ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/18(日)01:38:26 ID:B8y
>>71

 毅然とした獣耳の少女の問いかけを聞くと、ジョーカーは僅かに肩を揺すった。

「ふふふ……俺がいつもしてきたようにするだけだ」

 彼は標識から体を起こし、歩き始める。

『CALL:HERO』

 一歩歩くと、電子音声とともにジョーカーの姿が変わる。
青銅の鎧に赤いマフラーの姿。

「俺はいくつもの世界を巡ってきた。ファンタジーじみた世界。超高度科学の世界。超能力者の支配する世界」

『CALL:TYRANT』

 二歩。今度は金色の鎧、黒いオーラを纏った姿。

「いくつもの景色があり、いくつもの価値観があった。しかしただ一つ、ただ一つの真理だけは変わらん」

『CALL:NINJA』

 三歩。艶消しの黒の鎧。

「――『力』だ。力のある者が全てを手に入れる……それだけは不変だ」

『CALL:JOKER』

 四歩歩き、少女とすれ違うとともに、ジョーカーは青い鎧の姿に戻った。

「どうするつもりか、だったな。俺はその真理に従うだけだ」
「力は何物にも勝る。俺は力を得るために、殺して、奪う!」

 彼は少女に背中越しに語り掛ける。その声色は僅かに上ずっていた。
73ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/18(日)02:00:29 ID:qim
>>72
ああ、やはり得てして嫌な予感とは当たるものだ。
黙ったまま次々と変わりゆく男の姿を眺めながら、内心で小さく溜息をつく。
すれ違いざま、少女の体は僅かに強張る。けれども男の言葉が終わるまで動きはしなかった。
束の間の沈黙。やや興奮した様子の男に対して少女は目を瞑り、静かに佇んでいた。

「……わたしは」

ややあって口を開く。
噛みしめるように、自分に言い聞かせるように。

「これからも生きてくんだと思う。いや、絶対に生きていく。
もしかしたらその間に、今より強くなるかもしれない」

そこまで語って振り返る。
その翠玉の瞳を覗き見れば、そこには確かな決意が映るだろう。

「でもそれは、あなたに奪われるためじゃない。わたしは、わたしのために強くなる」

背中に向けるそれは明らかな宣戦布告だ。顔には感情を見せないものの、どことなく語調が強い。
子供の戯言かもしれない。それでも確かに、彼女は本気だった。
例えそれがどれだけ未来の話だろうと、自分はきっと死んではいけないのだから。
74ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/18(日)02:13:40 ID:B8y
>>73

 少女の決意を聞くと、ジョーカーは一瞬黙り込んだ。
しかしやがてくつくつ笑い出す。

「そうだ、その意気だ……」

 そう言って一人ごちた後、彼は虚空に手をかざす。
すると何の前触れもなく空間が「割れ」、再び空間の裂け目が生まれた。

 ジョーカーは首だけで少女の方を振り返る。

「俺の名はジョーカー。ジョーカー=サファイアだ」
「また会える時を楽しみにしているぞ……」

 やがて、彼は裂け目の奥へと姿を消す。
直後、その裂け目も消滅してしまうだろう。
死を告げる幻影のごとく、青の狂人は現れ、去る……
75ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/18(日)02:37:50 ID:qim
>>74
「っ……!」

顔を見なくても分かる。男から伝わる狂気に後退りそうになるが踏み止まった。
ここで逃げては負けだと、不思議とそう思えたからだ。

「……ルゥ・ヴィレット。その時も、わたしは絶対に生き抜くから」

異界へと繋がる穴を潜る男の背に投げかける。本来ならわざわざ名乗り返さなくてもいいのかもしれない。
それでももし次があるのなら。彼に負けないくらい強くなったと言えるように、その言葉を引き出せるように。
その時、互いに呼ぶ名がなくては困るような気がするのだ。
裂け目と男の姿が幻だったと錯覚させるほどに呆気なく消えるまで、じっと油断なく見据える。
いつの間にか街の騒乱もある程度収まったようで、後に残るのは静寂だけだった。

「……はぁ……」

一気に緊張が解けたのか、ぺたんと地べたに座りこむ。心なしか背中が嫌に汗ばんでいるように感じる。
とんでもない事を口走ってしまったとは思う。けれど後悔はしていない。ルゥは決して嘘を騙ってはいないのだから。
立ち上がって街道を歩き出す。今はただ強さよりも、生き残る事だけを求めて。

//それではこの辺で〆でしょうか、ありがとうございましたー
76マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)00:09:01 ID:6b4()
――“強さ”。
それは常に彼の気にかかっていた。
混沌たる世界の中、力は金銭の如く価値を持ち、ゆえに強い者こそが権力を握るのである。

「……新たな式神も手に入った。
だが、この程度の力では『ミカド』を殺すにはつゆ足らぬ。
“力”……“チカラ”……フッ、呟くは容易なれど、求めては言葉は幻影の如く我を欺くのみか……」

――――そしてあるとき、
彼(つわもの)は導かれた――――

 「――集え、“力”求める者らよ。」

幻聴ならぬその声に従い、幻影ならぬ大地を踏みしめた。


――――『バトルガーデン』、荒野。
一面の茶色い大地には、所々に岩や乏しい雑草が点在するのみ。
公家姿の彼は佩刀した剣の柄に手をかけながら待った。志を同じくする者が来ることを。

なお、この空間に来る者たちは皆一様に、ここが現実とはある程度かけ離れた世界であり、ここにおける死傷は現実世界には何ら影響を及ぼさないことを何らかの力により“確信”させられている。
77マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)00:12:34 ID:6b4()
//『パワーガーデン』です。誤字すいません
78ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/20(火)00:32:54 ID:M2f
>>76
あるモノを『求める』事と『必要とする』事は、似ているようで根本的に違う。
少女にとって力とは後者であった。叶うならば力がなくとも平穏に過ごせるような日常を、と願うのももう幾度とも知れない。
けれども記憶もなく、故郷も血族も全てが闇の彼方に隠された子供が一人で安穏と生きていけるほど、数多が融合した世界は甘くない。
だから仕方なく、せめて理不尽な死を迎えまいと。そのためだったはずなのに。

乾いた風が駆け抜けた荒涼の地で、文字通り空間が割れた。
吐き出されたのは黒の少女。ローブをはためかせて荒野に降り立つと、まずエメラルドグリーンの瞳で辺りを睥睨する。
ややあって事情を把握したのか、続いて少しばかり距離の空いている男を見やる。頭頂部の獣耳が警戒を示すようにぴんと立っていた。

「……えっと、よろしく、って言った方がいいのかな」
79マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)17:44:44 ID:2iw
>>78
空間に裂け目が生じたとき、いよいよ男は柄頭に触れていただけの右手で柄を握った。
その影は人型。彼が待ち望んだときが訪れたのである。

「うむ……だが言葉は既に不要よ。
この空間のことは風の噂で耳にしていた。ここで力ある者同士が出会うということの意味、主も既に分かっていよう。」

そして彼は太刀を抜いた。静かながら鋭い金属の擦れ音がその場を一層の緊張感で彩る。
それと同時に男の全身は青紫色のオーラに包まれ、風の有無に関わらず常に揺らめいていた髪がより激しく揺れる。
戦うための“気”が彼を覆ったのである。陰陽道は自然界を循環する気を操り、自らの力とする。
彼という収束・発散点を得た気は、彼の殺気に応じて空間そのものを殺気で満たす。そこは既に戦場の空気となった。

「——始めようぞ。」
80ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/20(火)19:01:16 ID:M2f
>>79
「…………」

男の言葉にはこくりと頷くだけに留める。彼の言う通り、ここから先の会話など野暮というものだ。
この世界で求められるのはただ一つ、命を種火とした闘争のみなのだから。
刀の擦れる音が皮切りとなって場を支配していた空気が変わる。紛うことなき戦場のそれにしかし、幼い少女は臆さない。
ぎゅっと両の拳を握って男を睨めつける。ふわり、黒髪が風とはまた違う何らかの力を受けて舞い上がった。
その瞳が向けるのは荒ぶる殺気とは対照的な、静かな殺意だ。宛ら気配を押し殺して獲物を狙う獣のような。

戦場独特の緊張感が痛い程に身を刺す、暫しの膠着を先に打ち破ったのは少女の方だった。
地を蹴って男へと駆ける。言ってしまえば余りに愚直な突進だ。ただその速度が異常である事を除けば。
見た目相応どころか、おそらくは大の大人でも簡単には追い縋れないであろう速さをもって相手への急接近を狙う。
もし叶うのであれば体格の差を利用して、そのまま懐へと潜りこもうとするだろう。
81マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)21:45:47 ID:2iw
>>80
油断なく相手を見据えているうちに、その静かな殺気を感じる。
それは確かに、気を操る陰陽師にも直接介入しえない領域である。人の気はあくまでもその者にしか支配できない。
そうして両者の殺気が伯仲したのを、男は確かな手応えとして受け止めた。

「(来るか——!)」

そして充血せんばかりに目を見開いて、弾丸の如く迫り来る小さな身体を見た、いや、感じた。
既に視覚で捉えきるには力不足なほどの速さに敵が迫っていることはわかっていた。故に、それは武士として鍛え上げられた戦場感覚によって、半ば第六感的に感じ取るしかない。

「——フッ!」

彼は反応した。懐に潜り込もうとして肉薄する少女の身体を、刀の平地の部分で、自身から見て右側へと受け流すのである。
ただし、刃でない部分での動作のため、その受け流し自体に殺傷力はない。
そして受け流した後の少女の身体をしっかと見据え、自身から見て右上から左下の袈裟斬りを繰り出す。刀もやはり、使い手自身同様に青紫の気に包まれている。
82ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/20(火)22:39:15 ID:M2f
>>81
急速な接近に反応されても驚きはない。相手の所作、居住まいから只者ではないのだろうと踏んでの事だった。
そもそも無手と太刀では届く範囲があまりにも違う。故に至近距離に迫る事でその差を埋めようとするが、さすがにそれが許される程に甘くはない。

「っ……!」

受け流さんとする刀の刃がこちらに立てられていないのを認めると、無理には止まろうとせず男の狙い通りに少女にとっての左方へと弾かれる。
やや体勢を崩すが、ここで動きを止めれば追撃が来るのは明白。
疾駆の勢いと受け流された際の力を利用して左足を軸に体を回転、男の横に回りこむようにして袈裟斬りを避ける。
そのまま軸足を素早く入れ替えると姿勢を低くし、蹴りをもって片足を払わんと。
83マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/20(火)23:52:53 ID:2iw
>>82
「(ほう——)」

敵の姿を見据えて繰り出した斬撃は、彼女の巧みな力のコントロールと体捌きによって空を切る結果となった。
最初の殺気の応酬の時点で敵の力の程は読めていた。
しかしここに来て、この敵は少女の姿をしながら、戦闘の技量に関しても侮れないものを持っていると男は実感した。

「——!?」

そこから流れるような調子で敵の足払いが繰り出された。
その動きはやはり速く、しかも敵の体格が小さいこともあってまるで高速で動き回る点を捉えるごとき動体視力が要求される、と男は直感した。
彼が即座にやや後方に跳びのき、足払いを辛くも避けることができたのは、偏に敵の姿勢の低下からの足元への攻撃を警戒する本能が彼に染み付いていたからに他ならない。
もし敵の動作がその予想を上回っていたならば、彼は容易く一本を取られたに違いない。

回避の影響でやや距離が開いたのを利用し、リーチの差を生かそうと、名一杯右腕を伸ばす形で自身から見て右から左の横一閃を繰り出す。
84ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/21(水)00:58:56 ID:Ggk
>>83
繰り出した蹴りがあえなく空振って、こちらの動きが読まれた事を知る。
やはり一筋縄ではいかない相手のようで、内心で歯噛みしつつ素早く体を起こして飛び退った男を目だけで追う。
距離を取られるのは厄介だ。ただでさえ得物の差がある上に、少女の特性上長期戦となるのは上手くないからだ。
リーチの不利を埋める異能は、今はまだその鱗片を見せない。己の細胞を酷使するに留めるだけだった。

「わわっ……!」

横に走る一閃を身を屈めてやり過ごし、さらに一歩。後退の二文字はない。勝利は進んだ者にしか掴めないのだから。
踏みこみの勢いに任せて鋭い蹴り上げ、伸びきった右腕を狙う。
85マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/21(水)19:22:06 ID:nkM()
>>84
「(これは……)」

やや慌てたような声色ながらも、此方の攻撃を掻い潜り突き進む敵の姿。
そんな戦場における刹那の遣り取りから、男は少女の“前進”という確かな意志を感じ取るのだった。
自らの怯えすら敵と同様の敵とみなし、それを押し殺し、勝つために必要なことをする意志は並大抵のものではない。故に――

「(――一筋縄ではいかんか。)」

右腕を伸ばしきったまま次なる連撃に移ろうとしたところ、やはり素早い動きで反撃の蹴りが飛んできた。
狙いは右腕。体術の中では比較的リーチのある足技であり、なおかつ最も少女に近い男の部位が攻撃のために伸ばした右腕であったからであろう。
蹴りは少女の狙い通りの的に命中した。男はたかが攻撃を中断されるだけであろうと考えていたが、その存外な鋭さに青紫の気ごしに十分な痛痒を覚え、思わず刀を放り投げてしまった。
暫く宙を舞った刃は男の大きく後方の地面に突き刺さった。

「……やるな。」

獲物を奪われた彼は、これで一挙に不利な状況に追い込まれる。
だが長年の戦闘経験が彼をして冷静さを失わせず、おそらく敵が自分の右腕に気を取られているであろう隙に、ごく自然な素振りでそっと左手を自らの背後に忍ばせる。

「(――――)」

そして、男は少女を、いやそれどころかその向こうまで見据えるような鋭い目つきを以って向き直り、構えた左拳で敵の顔面を狙った殴打を繰り出す。
その一撃は腰が入っているながらも大振りで、よもや獲物を失くして慌てているのやもと見る者に思わせるような様子だった――――
86ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/21(水)20:41:29 ID:Ggk
>>85
確かな手応え。しかし想定していた以上に頑強な的に眉を顰めずにはいられなかった。
やはりと言うべきか、あの纏っている青紫の気には鎧のような性質があるらしい。
そう推察する間は刹那だったかもしれない。それでも腕の立つ者にとっては十分過ぎる時間だ。
男の賛辞には強い眼差しで返す。言葉にするだけの余裕も油断も存在しなかった。
迫る拳。蹴り上げで崩れた体勢と直後の短い硬直で、回避は間に合わない。
だがしかし、少女は反応してみせた。

「こ、のっ……!!」

がつん、と打撃音が響く。殴打に合わせて繰り出された頭突きが拳とかち合った音だ。
まだ誰の目も死んでいなかった。それだけが、まだ何かが来ると確信させるに至らせた。
それはある種の信頼と呼べるものだ。彼は得物を手放そうとも、そこで終わりはしないだろうと。
命を奪い合う相手に抱く感情としては似つかわしくないかもしれない。けれどそのやりとりで育めるものは確かに存在し得るのだ。

「っ……ぅ……!」

少女の小さな体躯は容易く後方へ弾かれる。受け止めた額からは僅かに血が滲んだ。
どうにか体のバランスを崩さずしっかりと立ってはいるが、立て直すまでは隙だらけだろう。
痛みに顔を歪め、微かに肩を上下させていようとも戦意は未だ失われてはいない。
とはいえ少女もただで受けたわけではない。両者の接触の瞬間、額を帯電させていたのだ。
触れていた時間は短いだろうが、殴り抜いた拳を伝って強い電流がその体を流れるはずだ。
87マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/21(水)21:06:17 ID:nkM()
>>86
「ぬぅ……!!」

拳が敵の身体を打ち据えた感覚は確かにあった。しかし、それは人体の中でも固い部分だった。
知的生命体の要たる脳は頭蓋骨によって強固に守られ、それは頭突きという攻撃があるように、攻めにすら応用できるほどの頑丈さである。
蹴りが右腕を打ち据えたのと劣らぬ痛みが拳を通じて沁み渡る。

高い身体能力を持つ双方の打撃が衝突した衝撃は並大抵でなく、男も少女ほどでないにしても吸収しきれぬそれによっていくらか後退する。
――――だがそれだけではなかった。

「――――グッ……!!!!」

痺れ。それは物理的衝撃による痛みと似ているようで異なる。
身体が内側から焦がされていくような感覚を覚える。雷の類の術を受けたときと同じ感覚だと、男は悟った。
その電流量は、気の鎧がそのいくらかを遮りつつも男にその場に膝を付かせるぐらいにはあった。

「……ッフ……だが……甘いぞ……っっ!!」

――男が不穏な笑みを浮かべるのと時を同じくして、
少女は背後に、小気味よく高速で打ち鳴らされる足音を聞くはずである。

そう、それは男が召喚した式神、火馬。
式神は彼が持つ紙人形から具現させるものだが、殴打の瞬間、袖に仕込まれていた紙人形がその勢いで宙を舞い、少女の遥か後方で具現化したのである。
つまり、彼が攻撃の直前に左手を背後に潜ませたのも、単に腰を据えるだけの目的ではない。式神召喚のために紙人形を仕込むことが最大の目玉だった。

火馬は既に十分な速度を得、その全身に名前に違わぬ業火を纏っていた。
高速の巨大な火の球同然の赤き式神が、少女を背後から襲う。
88ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/21(水)21:53:06 ID:Ggk
>>87
「いっ……つう……」

痛みがじくじくと額から全身へと伝って蝕むが、まだそこに気を取られるわけにはいかない。
膝をついた男にしかし、その喜びに浸るにはまだ早かった。
背後に降り立つ音を聞いて獣耳がぴくりと反応する。いつの間に、だとかどうやって、などと考える暇なんてあるはずもなく。
ただ迫る灼熱に振り返らず、遮二無二横に転がって必死の回避。ローブの端が僅かに焦げた。

「ぐぅ……!」

注視していれば見えるだろう、回避運動を取る少女の黒髪が小さな電を帯びたのが。
ばちり、弾けるような音が鳴る。次の瞬間、それは一斉に火を纏う馬を襲う。
その正体は少女の髪を発生源とした放電だ。これを狙うがために背を向けたままだったのだ。
放たれた雷光が当たる当たらないに関わらず、少女はやや不恰好に一時の難を逃れるだろう。

「…………!」

しかし躱した先でぺたりとへたりこんだまま、少女は動こうとしない。手を地面について、ぜえぜえと息を切らす。
長い黒髪も重力に任せてはらりと地に流れている。先までの威容はもうどこにもない。
いわば充電切れだった。火馬への雷撃で、蓄めこんでいた全てを出し切っていたのだ。
それでもやはり、瞳に諦めは寸分もない。ただ年相応のような、悔しさを滲ませてじっと男を見据えるのみだ。
89マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/21(水)22:27:07 ID:nkM()
>>88
その外見通りの獣の如き敵の反応力に感嘆を漏らす暇も無く、男は敵の真横を通過した火馬を自らも回避するために、痺れの切れぬ体を押して跳躍せねばならなかった。

「(――――流石に、鋭いな。)」

身体が宙にいる間、ようやく思考を整理する刹那を得る。
同時に敵の様子を観察する。獣の如き耳。あれこそが少女をして火馬に対応せしめたほどの感覚を与えているのだろう。
野生の感覚というのは武士のそれにも劣らぬほど鋭敏であり、近頃森で狼と戦ったことのある男にはそのことが再び生き生きとした実感として蘇ってきた。
また、彼女の髪からの発光、そして放電の音を認める。
直後に放たれた電流は如何に高速の火馬といえども逃げ切れぬほどの速度であり、瞬く間にその赤く逞しい体躯を黒い塊に変貌せしめた。

「(――――されど……っっ!!)」

火馬はただの紙人形に戻り、暫くの具現化が封じられる。
しかし、いかに式神を失おうと、式神は所詮式神である。それは陰陽師の道具であって、彼が目的を達成するために如何様にも使うべきものだ。
万物に魂は宿る。それが彼の出身の国の教えである。だが、一時は国を乗っ取ろうとしたまでに支配意志に溢れる彼は、万物の気の力を借りながらも、それをあくまでも自己のために利用する冷徹さを持ち合わせていた。

男の跳躍が最高点に達し、自由落下が始まる。
そのとき、地面に刺さっていた太刀が宙を舞い、男の右手にしっかと収まった。
なぜか。電撃が直撃する寸前に、火馬がその足を以って弾き飛ばしたのである。太刀が男の後方、すなわち火馬が向かっていった方向であったことが功を奏した。

「……!!我の本気を見よぉぉ……!!!!」


腹から絞り出すような声で叫ぶ。全ての気合いが柄を握る両手に、ひいては刃先に込められた。

「―――― 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!!!!!」

九字。彼の国に伝わる護りの言葉。ひいては、己にあだなす敵を粉砕せんがための呪。
気という気が脈打つ。男のそれだけではない。彼の周囲の荒野の、岩や草や土や空気。あらゆるものの気が脈打ち、力を一点に終極させる。
男の全身を覆う青紫の気も全てが剥がれ、刃先へと集中した。急速な気の移動の影響により、その媒介となった身体は負担を帯び、朽ち果てるように痛んでいく。

本気の、そして捨て身の縦一文字斬りが、少女に脳天から襲い掛かる。
力を出しきった相手にそれは過大な攻撃やもしれぬ。しかし、自らも力を使い切る攻撃をすることで、強者(とも)への敬意を表す、それが戦う者の礼儀である――――
90ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/21(水)23:09:18 ID:Ggk
>>89
体が軋む。普段以上の力で酷使したツケが遅まきながらやってくる。
現在進行形で生み出される電力量では再び四肢を強化するには程遠い。
手足というものはこれ程までに重かっただろうか、持ち上げるのですらひどく億劫だ。
それでも未だ、その意思は折れてなどいない。

「まだ、まだ……!」

二本の足で立つという事の難しさを再認識する。だが少女はやり遂げた。
最早異能も役目を果たさず見た目相応の少女でしかないそれはしかし、その場において獣であった。
宙空の男をしっかと目で捉え、集う殺気にも怯えず真っ向から立ち向かう。
ただ偏に、生への執着だけをその力の源として。

「っ……ぁ……!!」

必殺の刃が打ち下ろされるその瞬間、少女の体が揺らいだ。
半ば倒れこむように、当たれば即死は免れぬだろう頭部を刀の軌道から逸らす。
それでも完全な回避には至らない。鋭き斬撃は少女の肩口を容易く裂き、胴と左腕を寸断する。
少女はそのまま尻餅をつくと痛みに顔を顰めるが、決して苦悶を口にはしない。
ただ残った右の拳を堪えるように強く握り、ほんの少しだけ笑みを浮かべて呟くだけだった。

「っ……強い、ね。まいったな」
91マサトモ◆PL3LCLEHis :2018/02/21(水)23:34:17 ID:nkM()
>>90
紫電一閃。多大な力が集ったその刃を振り下ろすだけで、周囲は光のような一瞬の何色かに染まった。
そして視界が晴れた。斬撃は急所を外れ、敵の肩口から身体を斬り裂いたことを攻撃の主は認める。
同時に彼自身も崩れ落ちる。辛うじて刀を地に突き立て杖としたが、最早自力で自身を支える力を持たない身体に容赦なく重力の重みが伝わってくる。

「……フッ、当然よ……我はいずれ“ミカド”を殺さねばならぬのだ……!!
一度奴に屈辱を味わわされた事実は一度として我が脳裏を去っておらん……我は……我こそが……!!

――――帝王<ミカド>と……相成るのだ……!!」

力を使い果たした今、執念が彼の意識と活動を繋ぎ止めている。
枯れ木のように痛んだ顔面も、ただ不穏な笑みを崩すことがない。

「貴様も……その力も、存在も……復讐のために我が力を増すためにある……
恐らく貴様とて同じことだろう……貴様も目的があって戦い、我と相見えた……
だがよい……少なくとも自ら力を求める者は……嫌いではない……――」

故の敬意。故の全力。
そして、むざむざ急所を攻撃の猛威に曝すことなく、できるだけの回避を心がけた敵の行動にも同様の感情を抱く。
もし敵の技量が上回っていれば、そのまま自分は無防備な状態を晒し、結果は逆になっていたかもしれない。
だがやはり今回は、胴と左腕の寸断という事実が大きいだろうか。寸断までいけば大量出血は免れぬであろうし、それは程なく生命体にとっての終焉に繋がる。

空間が歪んでいく。あたかもそこが、勝敗を見極める意思でも持つかのように。
力を持つ者同士の本気の果し合い。普通では成し得ぬその体験は、目的は違えど強さを求める双方にとって大きな意義を有したに相違ない。
92ルゥ・ヴィレット ◆P4301E8CFs :2018/02/22(木)00:10:46 ID:4OL
>>91
じっと、独白のような男の言葉を黙って聞く。その妄執とも呼べる野望が良いものなのか悪いものなのか、彼女には推し量れない。
けれど一つの目標に邁進するその姿は、きっと今の少女にはまだ真似る事はできないのだろう。
だからただ、そっかと頷くに留めた。潜めようと努めてはいるが、その息はまだ荒い。

「ん……そう、だね。……手合わせ、ありがとうって言っておくね。
っ……わたしは、好きで強くなろうとしてるわけじゃっ……!」

言いかけて口を噤む。力は求めるものではない、必要なものだ。
いくらそう強く思おうとも、傍からすれば同じ事だ。そこに如何な理由があったとしても強くあらんとしている事に変わりはない。
だから言い淀んだ。どう言葉を選ぼうと、この地に招かれた以上はそうあろうとする心が一片でも存在していたという事なのだから。
零れる鮮血が乾いた大地を赤く染める。ああ、左腕があった断面が憎らしい程に痛い。何かを失った痛みはあの時以来だ。

「…………っ?」

ふと、疑問を覚えた。割れた額とはまた違う、頭の奥がどこか痛みを訴えた気がした。
その訳を深く考える間もなく空間が揺らぐ。直感的に終わりの時が来たと悟った。おそらくここに来る前へと、全てが戻るのだろうと。

「ルゥ……ルゥ・ヴィレット。次は、勝つから……!」

だから名前を置いていく。少女なりの男に対する、精一杯の敬意の表れだった。
ここで得たものは決して零ではない。普段ならば使わないだろう、いつもより少しだけ強い言葉がその証左だ。
もしかしたら自分から追い求める事も決して悪くはないのかもしれないと、消えゆく世界で微かに思った。

//それではこの辺りで〆でしょうか、ありがとうございましたー
93序章 :2018/02/22(木)00:24:21 ID:n5f
───聖杯戦争。
現代に召喚された7騎の英霊を用いて戦い、勝ち残った1組だけが願望を叶える権利を得る。
私が知り得た知識はそこまでだった、矛盾しか存在しない、恐らく〝正しい〟聖杯戦争の知識。

この地において互いに争う7騎は無く、英霊を従える者は無く、願望を叶える聖杯すら存在しない。
そこにあるのはただ一つの目的の為の行動───理由という目的を一つ与えられただけの7騎の戦鬼。
目的の為の手段は何一つ問われない、好きな形で、好きなやり方で。辿り着くところさえ同じであれば良い。

混ざり合った世界はそれぞれの世界の歪みすらも融合させてしまった、捻れ曲がった因果と悪意が偶々一つの聖杯に注がれ汚したというだけの話。
それを拾い上げたのは誰か、それを使ったのは誰か、世界に歪みを広げようとするのは誰か。
それを知る者は混沌とした世界の波に飲み込まれた、残るは英雄として祭り上げられてしまった7騎のみ。
則ち───

屠竜のセイバー。戦闘姫のアーチャー。機人のランサー。星海のライダー。学園都市のアサシン。不運のキャスター。正偽のバーサーカー。

其れ等は決して英雄と呼ばれるものではなく、何処かであった話の中で人知れずに生きていただけの一人に過ぎない。
夜空に輝く幾多の綺羅星が如く、誰の記憶にも残らず、何処の記録にも残らずただ消えた一介の登場人物達。
拾い上げられ鍍金を吹かれて再利用される、本来あり得ないサーヴァント。

───私も、そのうちの一人。

英雄を目指し、英雄を知り、英雄に成れず、英雄を騙り、英雄を汚して死んで行った。
それを語る者はいない、それを思い出す者はいない、人々の記憶に何一つ残らなかった───筈、なのに。
今私は英霊として拾い上げられここにいる、〝正偽のバーサーカー〟などと皮肉めいた呼び名と共に。

その理由を知りたいとも思わない、どうだっていい。
考える事は一つだけ、この世界でこの立場で、今度こそ果たす事が出来なかった事に身を捧げる。
正義の為に、何を犠牲にしてでも───
94ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/22(木)21:36:57 ID:77X

 その都市は「同盟」の勢力圏に存在した。
屋台が立ち並ぶ通りは、夜闇の中に灯りと喧噪をまき散らす。
人間と亜人の入り混じった人混みが、その中を血液じみて流れていく。
その賑わいは、どこかで繰り広げられている戦いを忘れているかのようであった。

 ジョーカーはメインストリートの脇、教会めいた建物の尖った屋根の上にいた。
眼下は少し過剰なほど明るく、屋台の店主が張り上げる大声と、ごちゃまぜになった音楽で溢れている。
しかし彼はそれらにあまり関心を示さず、つまらなそうに一瞥しただけだった。

 彼は目元のガジェットに手をやり、何やら操作を始める。
探しているのだ。彼の求める者を。
刃を交え、その力を奪うに足る強者を……
95城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/22(木)21:56:46 ID:7xA()
>>94
所狭しと屋台が連なり、人と物が行き交う通り。
その光と、音と、匂い。優美ではないにしても豊かな内容を持ったこの光景を、時々は見にきたくなる。

一人の男が通りを歩く。一通り今日の品揃えや人の顔ぶれの見物を終え、その終点たる教会付近に差し掛かった頃だった。

「――?」

彼は違和感を覚えた。
散策の締めくくりの地点として彼が最も好むのが、その壮麗な様相を月光の下に白く晒す、正に凍れる音楽の形容が相応しいゴシック教会の光景だった。
だがどうだろう。今回に限って感じるのは、整然たる音楽に闖入して壊乱を生ぜしめる不協和音。
その正体が、教会の尖った屋根の上にいる人影であると男は悟った。
彼は魔術を発動し、手元に愛用の大剣『大魔砲剣=翳夜』を召喚する。

「――『魔嵐』。」

続いて風の魔術を発動し、大剣の排気口から黒い風を発し上空への推進力とし、屋根へと一挙に飛び上がる。
すたり、と軽々とした動作で怪しげな男と同じ地平に着地した彼は、あくまでもごく自然な素振りを見せて彼の隣へと位置どる。

「……美しいよな。この光景は僕も好きなんだ。」

それは確かに彼の本音ではあったが、共感してもらおうという意図はさらさらなかった。
反応を待つ。不穏な雰囲気を放つこの男の正体をぜひとも確かめるために。
96ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/22(木)22:15:47 ID:77X
>>95

 ジョーカーは屋根に据えられた彫刻のごとく無感動に通りを見下ろしていたが、
大剣を持った男が飛び上がってくると、ぴくりと反応して「眼」を向けた。

「……なるほど」

 兜の内側でひそかにつぶやく。
そしてさりげなく、右手で銃の感触を確かめた。
ジョーカーは知っている。自分に恨みを持つ人々は多いと。
もしやこの男も?

 しかしその疑いと裏腹に、男は――少なくとも表面上は――平和的な問いを投げかけてくる。
ジョーカーは首だけでそちらを見た。

「そんなに美しいか」

 一切の感情を覆い隠すフルフェイスのバイザーに、街の灯りが照り返す。

「この世界は物騒だ。少し雑多ではあるが、このように賑わっている町は希少なことは確かだ」

 ジョーカーは視線を眼下に転じた。
光の具合が変わり、彼の顔を闇が呑む。

「だが無意味だ」

 やにわ銃を抜く。
SFめいてはいるが明らかに凶器をわかるそれを、メインストリートへと向ける。

「これはすべて幻想だ。力を持たぬ虚像。俺が引き金を引けば、雲散霧消する」
「真に美しいのは――真の価値とは、力なのだ」

 そしてさっと振り返る。銃口が男の方を向く。
賑やかなバックライトに照らされた屋根の上で、二人の男が相対した。

「さて……貴様の価値はどれほどか」
97城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/22(木)22:41:17 ID:7xA()
>>96
これが本当の意味で平和的な会話だったならば、男はその美を共有せんがために自らも視線を街の光景に固定したままだっただろう。
しかし現実には彼は横目ながらに、会話の相手を観察していた。兜の奥底で発せられた呟きは聞こえなかった。右手が銃に触れる動作も、癖の一種かと思い完全な戦意の証とは見なかった。

「(――見えないな。)」

故に読みにくい。素顔を晒した相手ならば、まるで名画から意味を汲み取るように感情の読み取りも容易なのだが。
バイザーに照り返された街の灯りは機械的な分析の下に本来の光の暖か味を失っているかのように見えて、やや戦慄するような感情を覚えた。
やがて鉄兜の奥底から人の言葉が聞こえた。だが間もなく闇に覆われた相手の顔に、不吉な予感がし。

「――――!?

……なるほど、それが君の真意かい。存外に分かりやすくて安心したよ。
だけど共感はしないさ……たとえ剣を振るう腕力がなくても筆を振るって美しい絵を描くことはできるわけだからね。」

皮肉だった。彼自身もまた剣を握っているからである。
そもそも最初から相手を警戒していたからこそ、屋上に着地したのちにも武器をしまうことがなかった。
だが男は笑っていた。はにかむとまではいかなくても、余裕はあるという内心は伝わるような表情。
彼には表情があった。素直な人間としての感情を表現していた。敵意を感じとり眼差しは鋭くなったが、やはり表情全体の印象は変わらず。

「――――舞おうか。」

男は大剣の砲身を相手の足元に向け、魔法弾を発射。
その反動で彼自身は大きく吹っ飛んだ後、通りとは反対方向の、比較的人の少ない地面に着地する。
98ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/22(木)23:05:12 ID:77X
>>97

 皮肉じみた、しかしジョーカーよりはいくらか建設的な城ケ崎の言葉。

「ハッ」

 ジョーカーはそれを耳にすると、メット越しでもわかるほど露骨に嘲笑した。

「いい話だ。子どもにでも語って聞かせてやるといい……だがその子どもも、やがて知るだろうよ」
「強大な者にかかれば、どんなに心を込めた絵でもたやすく引き裂かれてしまうということをな」

 眼下の通りで、父親から焼き菓子を買い与えられた兄弟が笑い合った。
教会の二人もまた、ともに笑っていた。
――しかしこちらは、未来永劫相容れないことは明らかだ。魔法弾が飛来する!

「だが剣を握るならば――力があれば」

『SHUFFLE-SWORD』

 電子音声とともに銃が変形し、現れる光の剣。

「守ることもできる!」

 ジョーカーはそれを水平に一閃させ、魔法弾を切り払う。

「何をするにしても力!力!力なのだ!」

『CALL:HERO』

 ジョーカーの姿が変わる。肉厚な青銅色の鎧に赤いマフラーの「ヒーロー」。
ついでおもむろに屋根の頂上へ飛び上がり、そこにある十字架のモニュメントの根本を両手で掴み、力を籠める――破壊音。

「友愛を説くこの教会でさえ、司教の威光と騎士団の武力なければ築かれまい!」

 2、3メートルはあろうかというその十字架を、城ケ崎めがけ屋根の上から投げ落とす!
99城ヶ崎 廸久◆PL3LCLEHis :2018/02/22(木)23:29:39 ID:7xA()
>>98
敵の分厚い鉄仮面ごしに聞こえる笑い、いや――嗤い。
同じ笑いでも随分と違うと、嘲笑を受け止めた城ヶ崎は実感した。

「(――奴には“こころ”がない。)」

着地した後、そう脳裏で評してみた。無論、あの鉄人形の中に人間が入っている以上は彼とても心を持つ存在であることは確かだろう。
だが、それはあまりに冷たい心だと城ヶ崎は感じた。まるで人間であることに倦み、人間をやめたような……

「“力”……それが時に美しさに繋がることも否定はしないさ。
闘争の中に美を見出した文豪もいた。でも……彼でさえも秩序を否定し、混沌を賛美するばかりではなかった。」

そう言葉に出しつつ、『魔塵』の力を発動。
大剣の刀身に増し加わった、土属性に相当する魔塵属性の元素によって、大剣はその外見に相応しいほどの重量を得る。
そして一振り。投げ落とされた黄金の十字架は城ヶ崎の目前で粉々に砕かれ、月に照らされる闇夜を煌びやかに彩った。

「力――それは秩序そのものさ。
秩序なくして人は生きられない。ならば僕は、秩序を守るために戦うさ……!!」

屋上のジョーカーに向けて砲口を構える。同時に水属性に相当する魔泥属性を発動。
その力により、毒混じりの泥の球を放つ。泥は十字架の黄金の破片を含み、殺傷力を以って迫る。
その毒には衰弱効果があり、皮膚に触れれば30秒間だけ効果がある。だが、装甲を纏った相手に通用するか否か。
100ジョーカー=サファイア◆SugTrQ7KgI :2018/02/22(木)23:54:54 ID:77X
>>99

 十字架を粉砕する城ケ崎。
ジョーカーはその力量を推測し、密かに目を細めた。

「お前は思い違いをしている。秩序など、弱者が寄り集まったはりぼての城を維持するためのお題目に過ぎん」
「秩序が真に人を支えるのなら、『悲しみ』という言葉などありはしない。『怒り』という言葉などありはしない!」

 やがて、殺傷力を含んだ泥球が襲い掛かる。
「ヒーロー」は敏捷性に欠け、回避は不可能。

「バカめ!」

 ジョーカーは逆に、左手で叩き落しにいった。
泥球が弾け、鎧を汚す。黄金の破片が鎧の表面に無数の引っ掻き傷を作る。
しかし耐久性に優れる「ヒーロー」は、城ケ崎の想定した衰弱効果を受け付けない!

『SOLAR-SHOOTER』

 ジョーカーは銃を抜き、反撃に移る。
今度はいくつもの爆発する光弾が降り注ぎ、城ケ崎を襲う!

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